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Institute of Natural Medicine Museum of Materia Medica News Letter 資料館内部の展示品の紹介 その5 富山大学和漢医薬学総合研究所 民族薬物資料館 館長 伏見 裕利 2014年1月 2014年1月 ★ ★ 第6号 第6号 漢方医学には陰陽虚実や気血水という独特の考 症候の経過が陽病期にあり、体力があり、生体の免 え方があります。陰陽虚実や気血水に基づ いて、 疫力にまだ余力のある状態です。概して若くて体 様々な症状、訴え等を総合して患者の「証」が決定さ 力があり、活発な人に用いられます。その中間に位 れます。証は処方名で表されることが多く、 これによ 置する陽実証の場合には、桂枝茯苓丸が用いられ り治療方針が定まります。今回は漢方処方がどのよ ます。 また陽虚証タイプの場合には、加味逍遥散と うに決定されるかを、血の滞りを除く、駆瘀血剤の いう処方が用いられます。 処方を例にしてご紹介いたします。 このように、漢方医学では、同じ病態でも陰陽虚 下の写真は、陰陽、虚実の考え方を横軸と縦軸の 実に基づき、 また体質や症状に応じて証(処方)を 座標軸とともに表しています。例えば、写真の左下 選択します。そして偏りのない中心に向かうように にある当帰芍薬散という処方は、陰虚証タイプの人 (緑の矢印) していきます。漢方医学では「証に随っ に用いられます。陰虚証とは、症候の病性が陰病期 て治す」 ことを随証療法といいます。 にあり、体力がなく、生体の免疫力に乏しい状態で ● 資料館内部の展示品の紹介 その5 す。概して細身で青白い顔をしているような女性に ● 生薬紹介第4弾「甘草」 用いられることが多く、 この場合、当帰芍薬散の証と ● 一般公開ニュース いいます。一方、右上にある桃核承気湯という処方 ● イベントニュース は、陽実証タイプの人に用いられます。陽実証とは、 く お け つ したが 実 桂枝茯苓丸 桃核承気湯 陰 陽 当帰芍薬散 加味逍遥散 虚 生薬紹介第4弾 消費量No.1! 生薬の国老「甘草」 これがないと困ります! 甘い草と書いて甘草。 その名の通り、砂糖の約 100 倍甘いとされるマメ科(Leguminosae )のウラル カンゾウ( Glycyrrhiza uralensis Fisch. )またはナンキンカンゾウ( G. glabra L. )の根およびストロ ン(走出茎)に由来します。現在日本市場で流通している漢方製剤の実に約7割に配合されている生薬 で、緩和、鎮痛、鎮咳、去痰、解毒薬として用いられます。 そのほか、甘味料として醤油やスナック類などに も用いられています。 その重要性から、中国では古くから生薬の「国老(皇帝の師)」とも呼ばれます。現 在、甘草のほとんどは中国から輸入しています。今後は資源の問題から、日本を含めた世界各地で、甘 草をはじめとする各種薬用植物の栽培化が行われていくものと思われます。 20 年前の市場品 (TMPW No. 11178) 長さ 105.5cm、最大径 25mm の甘草。 ゴボウみたいです!カン ゾウは乾燥地帯に生育し、地下 水脈などの地中深い場所の水分 を求めて生長するため、下へ下 へと根を長く伸ばします。 この長 さに、懸命に生き延びようとする カンゾウの生命力が感じられま す。 現在の市場品 長さ 17cm、最大径 9mm の甘草。最近はこのよ うに直径 1cm 程度の細い甘草が主として流通し ています。第 16 改正日本薬局方には、含有成分と して 「グリチルリチン酸を 2.5% 以上含む」 と規定 されています。栽培した甘草では、 グリチルリチン 酸含量が 2.5% に満たない場合もあり、いろいろ な栽培方法が検討されています。甘草一つをとっ ても、資源の大切さがわかります。 (TMPW No. 25400) 伝説の巨大カンゾウ 20 年前に新疆ウイグル自治区の市場で入手し 。長 さ は た シ ン キョウカ ン ゾ ウ( G. inflata ) この種の 68cm、最大径は 210mm にも及びます。 カンゾウは日本薬局方には規定されていないので、 漢方方剤の原料としては用いられません。一方で、 甘草の主要成分であるグリチルリチンを高い濃度 で含有しているため、グリチルリチンの抽出原料と して用いられています。 (TMPW No. 13029) 年に一度の公開増 座 年に一度の公開講 加 今年のテーマは「チベット医 学 」 民族薬物資料館の第22回一般公開が10月27日 とても身近に感じられたようです。講義の後には小 (日)に開催されました(来館者63名)。秋の一般公 川先生を囲んでの談笑がしばらく続きました。小川 開では、公開講座を実施しています。今回は、薬剤 先生はその後の展示室見学でもタンカの実物を前 師であり、 日本で唯一のチベット医でもある小川康 に解説を加えられました。 先生をお招きして「チベット医学絵解き」を開催し 以下、来館者の方々の感想です。 「また小川さんの講座があったら参加したい。」 ました。4枚の医学タンカついて、そこに描かれたチ ・ 「チベットの文化に興味を持っていたが、今回の講 ベット医学の物語をユーモアたっぷりにお話しい ・ ただきました。大変気さくな人柄に、富山県出身と 演を聞き、 さらに興味が深まった。」 「身近な薬草の効能を知りたい!と思いました。」 いうことも相まって、受講者の皆さんは小川先生を ・ 10 月 2 日 (水)、大学間学術交流協定を締結しているインド ネシアのハサヌディン大学より、ワユディン薬学部長をはじめ 9名の方が来館され、展示室を見学されました。漢方方剤の 成り立ちについて、興味深く解説を聞いていらっしゃいました。 また、インドネシアでも日常的に使用される JAHE(ショウガ) や民間薬 JAMU のお話で盛り上がりました。 漢方方剤の成り立ちについて 10 月 24 日 (木)には、和漢医薬学総合研究所(以下、和漢研) 創設 50 周年記念式典に先立ち、文部科学省学術機関課の3 名の方が資料館を見学されました。 インドに滞在されたことも あるという瀬戸学術研究調整官は、インドに産出する生薬を 前に、当時を思い出しながら感慨深げに現地の生薬にまつわ るお話をされました。柴原和漢研所長は、陰陽虚実理論につい て、和漢診療科における診療の実際を踏まえて解説されまし た。 陰陽虚実理論について イベントニュース 富山市民大学(11/1開催)& 県民カレッジ(11/8開催) 富山市市民学習センターが主催する富山市民大 学「生活医学薬学を学ぶ」 コースの現地学習が民族 薬物資料館で実施されました。 今年は63名の方が参加され、和漢医薬学総合研 究所生薬資源科学分野の小松かつ子教授と朱姝助 教によって展示室で生薬の解説を行いました。3階 会議室では、伏見裕利館長が桂枝湯に含まれる生薬 等について解説を加えながら紹介しました。普段の 生活の中では生薬に触れる機会が少ないことと思 いますが、意外と身近なところに生薬が使われてい ることに気づいていただけたと思います。 市民大学講座の様子① また、富山県民生涯学習カレッジ主催の「ふるさと 文化探究講座 -とやまの近代化を学ぶ-」の一環で、 資料館で現地学習( 「和漢薬にふれる」 )が行われ、35 名の方が受講されました。館長による民族薬物や富 山の薬の歴史に関する講義の後、展示室を見学しま した。 どちらの講座の受講生も大変熱心にメモを取って いらっしゃいました。 このように民族薬物に熱い眼差 しを向ける人が、幅広い世代で増えてくれることを願 っています。生活の中に活かせる知識をお土産とし て少しでもお持ち帰りいただければと思います。 市民大学講座の様子② 県民カレッジの様子 アクセス バ ス タクシー 自家用車 富山大学 和漢医薬学総合研究所 民族薬物資料館 Address E-mail TEL/FAX U R L 〒930-0194 富山県富山市杉谷2630 [email protected] 076 - 434 -7150 http://www.inm.u-toyama.ac.jp/mmmw/index-j.html