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公立高等学校における コミュニティ・スクール導入の意図と その成果
公立高等学校における コミュニティ・スクール導入の意図と その成果について ~コミュニティ・スクールを導入した高校の実践分析から~ 【要旨】 全国のコミュニティ・スクールのほとんどは小中学校であり、地域との連携が少ないと される高校では 9 校が導入している。この 9 校は、なぜコミュニティ・スクールを導入し たのか。また、どのような取組を行い、どのような成果があるのか。 本研究では、こうした課題意識をもとに、コミュニティ・スクールを導入している公立 高校 9 校全てに訪問し、各校の背景や意図、実践内容などについて明らかにするとともに、 実践分析を行った。これにより、学校の存続と地域の活性化について成果があるタイプと、 特色ある教育内容の充実に成果があるタイプに分類することができた。そして、どちらの タイプであっても、生徒のコミュニケーション能力や表現力の育成ついて成果があること や、実際の教育活動に即した学校評価につながることが明らかとなった。 この結果をもとに、今後、公立高等学校におけるコミュニティ・スクールの導入を検討 している教育委員会に対し、「生徒の減少により高校の統廃合が想定される中で、地域住民 からの存続要請がある場合や、教育委員会の施策として特色ある学校を設置する場合は、 コミュニティ・スクールの導入を促進し、そのための研修会等を行い、導入意欲を喚起す る」、高校に対しては「導入の意図を明確に位置づけておく」、 「長期的な視野で取り組む」 という政策提言を行った。 2014 年 2 月 政策研究大学院大学 MJE13707 教育政策プログラム 湯浅 勝史 目次 1.序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1 研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1.1 学校と地域社会に係る政策について・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1.2 コミュニティ・スクールの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1.1.3 高等学校の教育改革と地域連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1.2 研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 1.3 先行研究及び先行調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2.コミュニティ・スクールを導入した公立高等学校の概要と実践内容・・・・・・・11 2.1 調査の目的と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2.2 各校の概要と実践内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2.2.1 高知県立大方高等学校 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.2.2 三重県立紀南高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2.2.3 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校・・・・・・・・・・・・・26 2.2.4 岡山市立岡山後楽館高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2.2.5 千葉県立多古高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2.2.6 千葉県立長狭高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 2.2.7 北海道別海高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 2.2.8 横浜市立横浜南高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 2.2.9 三重県立白山高等学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 3.コミュニティ・スクールを導入した公立高校の比較分析・・・・・・・・・・・・63 3.1 導入の背景や意図による比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 3.1.1 学校の存続が重視されているタイプ・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 3.1.2 特色ある教育内容の充実が重視されているタイプ・・・・・・・・・・・・63 3.1.3 タイプごとの成果と評価に関する分析・・・・・・・・・・・・・・・・・64 3.2 高等学校のコミュニティ・スクールの独自性 ・・・・・・・・・・・・・・・65 4.政策提言と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 4.1 政策提言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 4.1.1 教育委員会への提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 4.1.2 公立高等学校への提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 4.2 研究の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 4.3 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 参考文献・資料等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 第1章 序章 1.1 研究の背景 1.1.1 学校と地域社会に係る政策について 高度経済成長期以降の日本では、少子高齢化や都市化が進展し、人口の流出入が激しく なる中で、地域におけるコミュニケーション(付き合い)は次第に疎遠になった。このよ うな状況のもとで、地域と学校の関係については、 「都市部を中心とした地域の連帯意識は 希薄になり、教師の職住分離も著しくなると、学校は地域社会からしだいに遊離する傾向 を強めると同時に、地域の学校に対する関心も弱まっていった1」といわれる状況になった。 このような社会の変容の中で、 「都市化や核家族化など子供たちを取り巻く教育環境は厳 しさを増し、非行や校内暴力、いじめや登校拒否など『教育荒廃』と言われる状況に対し て、学校教育が画一的・硬直的で十分対応できていない2」ということが問題視され、様々 な方策が継続的に議論されている。 1984(昭和 59) 年に、内閣総理大臣の諮問機関として発足した臨時教育審議会は 4 次 にわたる「教育改革に関する答申」において、「戦後教育改革も大局的に見ると明治以降の 追い付き型教育の延長線上にあり、画一的・硬直的・閉鎖的で各人の個性を伸ばしていく という面に欠けており、その弊害としていじめ、登校拒否、校内暴力、青少年非行などの 教育荒廃の現象が現れてきたことなど、様々な問題点や限界を指摘3 」し、個性重視の原則 や、国際化・情報化などの変化への対応とともに、生涯学習体系の中で家庭・学校・地域 など教育の各分野の役割や責任を明確にするとともに、相互の連携を図ることが必要であ るとした4。 こうした流れを受けて 1987(昭和 62)年の第 3 次答申では生涯学習の視点から「開かれ た学校」が提言された。 また、1996(平成 8)年の生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策 について」では、学校は「地域社会と良好な連携・協力関係を維持し、地域社会とともに 発展するように努める必要がある5」として地域社会に根ざした小・中・高校による地域社 会の教育力の活用や地域社会への貢献が示された。 さらに、1996(平成 8)年の中央教育審議会第一次答申「21 世紀を展望した我が国の教 育の在り方について」の中で、 「生きる力6」を育むために「家庭や地域社会に対して積極的 1 2 3 4 5 佐藤晴雄(2001) 「戦後の学校と家庭・地域の関係史」 『学校と地域でつくる学びの未来』ぎょうせい, p.5 文部科学省(2012) 『平成 24 年度文部科学白書』 ,p.5 同上,p5 臨時教育審議会(1987) 「教育改革に関する第 2 次答申」 『臨教審答申総集編』ぎょうせい 生涯学習審議会答申(1996) 「地域における生涯学習機会の充実方策について(平成 8 年 4 月 24 日) 」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_gakushu_index/toushin/1315169.htm 1 に働きかけを行い、家庭や地域社会とともに子供たちを育てていくという視点に立った学 校運営を心がけることは極めて重要なこと7」として取り上げられた。 こうした動きとともに、 「各学校が地域や学校、生徒の実態等に応じ、横断的・総合的な 学習など創意工夫を生かした教育活動を行う8」ことを目的とした「総合的な学習の時間9」 が創設された。また、 「学校、家庭、地域社会の役割を明確にし、それぞれが協力して豊か な社会体験や自然体験などの様々な活動の機会を子どもたちに提供し、自ら学び自ら考え る力や豊かな人間性などの『生きる力』をはぐくむ10」ことをねらいとした「学校週 5 日制 11」が導入され、学校・家庭・地域の連携の必要性が説かれた。 しかし、 「これほど『関係』が重視されてきたにもかかわらず、期待通りの実効を上げら れない傾向12」にあった。また、 「 『開かれた学校』の必要性が説かれて久しいにもかかわら ず、現実は一部の試行の例外を除くなら、はかばかしく前へ進んではいない13」といわれる ような状況であった。また、教育委員会や学校で「開かれた学校」はよく使用されるキー ワードとなったが、実際の取組は不十分であり、それゆえに将来の実現を目指すスローガ ンになっただけで、継続すべき目標または、あたりまえのこととなっている学校は多くは なかった。 このような状況から、21 世紀の日本を担う創造性の高い人材の育成を目指し、教育の基 本に遡って幅広く今後の教育のあり方について検討するため、2000(平成 12 )年 3 月に、 内閣総理大臣の下で教育改革国民会議が発足し、同年 12 月の報告では、「学校が孤立して 存在するのではなく、親や地域とともにある存在にならねばならない。良い学校になるか どうかはコミュニティ次第である。コミュニティが学校をつくり、学校がコミュニティを つくるという視点が必要である14」と述べ、「教育を変える 17 の提案」の中で、新しい時 代にふさわしい学校づくりとして「新しいタイプの学校(“コミュニティ・スクール等”) の設置を促進する」という具体的な提案が出された。 6 中央教育審議会(1996) 「第 1 部[2](3) 今後における教育の在り方の基本的な方向」 『21 世紀を展望した 我が国の教育の在り方について(第一次答申) 』では、 「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、 主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を 思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力などであり、こう した資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称する」としている。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuuou/toushin/960701e.htm 7 中央教育審議会(1996) 「第 1 部[2](3) (3) 今後における教育の在り方の基本的な方向」 『21 世紀を展望 した我が国の教育の在り方について(第一次答申) 』 、同上ホームページ 8 文部科学省(2009) 「高等学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編」 ,p.3 9 高等学校では、平成 11 年の高等学校学習指導要領の改訂により創設された。 10 文部科学省ホームページ「学校週5日制のめざすものは・・・」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/week/index_c.htm 11 平成 4 年 9 月から月 1 回、平成 7 年 4 月からは月 2 回という形で段階的に実施し、平成 14 年度からは 完全学校週 5 日制を実施。 12 佐藤晴雄(2001)前掲書,p.12 13 永井聖二(1999) 「『開かれた学校』を阻む力は何か -新たなモデルの必要性-」 『学校と地域のきずな 地域教育をひらく』教育出版,p.9 14 教育改革国民会議(2000) 「教育改革国民会議報告-教育を変える 17 の提案(平成 12 年 12 月 22 日) 」 http://www.kantei.go.jp/jp/kyouiku/houkoku/1222report.html 2 これをもとに、内閣府に設置された総合規制改革会議の答申や、それを受けた「規制改革 推進 3 か年計画」、 「地方公共団体等による構造改革特区への提案」等でコミュニティ・ス クールの実践研究及び制度化が推進された。2003(平成 15)年には、総合規制改革会議か ら平成 17 年 4 月の開校に向けて法制化を求めた第 3 次答申が閣議決定された。そして、中 央教育審議会「今後の学校の管理運営の在り方について」(平成 16 年 3 月 4 日)の答申にお いて地域が参画する新しいタイプの公立学校の形が示された。同年 6 月には、「地方教育行 政の組織及び運営に関する法律」が改正され(以降は「改正地教行法」と表記する)、コミュ ニティ・スクール15が制度化された。 この改正地教行法第 47 条の 5 では、以下のことが定められている16。 ① 教育委員会は、その所管に属する学校のうちその指定する学校(以下この条にお いて「指定学校」という。 )の運営に関して協議する機関として、学校運営協議会を 置くことができる。 ② 学校運営協議会の委員は、地域の住民、保護者その他教育委員会が必要と認める 者について、教育委員会が任命する。 ③ 指定学校の校長は、教育課程の編成などについての学校運営の基本的な方針を作 成し、学校運営協議会の承認を得なければならない。 ④ 学校運営協議会は、学校の運営について、教育委員会や校長に対して、意見を述 べることができる。 ⑤ 学校運営協議会は、学校の教職員の採用などについて、任命権を持つ教育委員会 に対して意見を述べることができる。 ⑥ 教育委員会は、⑤の事項によって述べられた意見を尊重する。 ⑦ 学校の運営に大きな問題が生じている場合には、その指定を取り消さなければな らない。 ⑧ 学校の指定や指定の取消しの手続など、指定の期間、学校運営協議会の運営に関 して必要な事項については、教育委員会が規則で定める。 これにより、従来の学校評議員制度17とは異なり、学校運営協議会は、学校の運営につい て、一定範囲で法的な効果を持つ意思決定を行う合議制の機関という位置付けになってい 15 16 17 「コミュニティ・スクール」という名称については、 「学校運営協議会を設置する学校について、法律上の 名称は定められていない。各教育委員会の判断で「地域運営学校」、「コミュニティ・スクール」等と、適 宜名称を付することも可能」と解説されており、定まった名称はない。 初等中等教育企画課教育制度改革室(2004.10)「解説『地方教育行政の組織及び運営に関する法律』 (第 47 条の 5 ) 条文解説」『教育委員会月報』57,p.23 本稿では、学校運営協議会を設置する学校を「コミュニティ・スクール」と表記する。 文部科学省(2013b)『コミュニティ・スクール パンフレット(平成 25 年度) 』 学校評議員制度は、平成 12 年 1 月 21 日の学校教育法施行規則の改正により制度化され、同年 4 月 1 日から施行されたものである。校長の求めに応じて、個人としての立場で、学校運営に関する意見 を述べるものであり、校長や教育委員会の学校運営に関して直接関与したり、拘束力のある決定を 行ったりするものではない。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/index.htm 3 る18。また、具体的な手続きは、各教育委員会規則によって定められ、各学校において会則 が定められる。 この制度について、コミュニティ・スクールの提案者でもある金子(2008)は、 「地域連 携のイノベーションを進めるひとつの有力な選択肢としてコミュニティスクール(原文ま ま)はこれまでの学校の制度にない特徴を持っている19」と述べている。また、 「制度的に、 アメリカのチャータースクールともイギリスの公立学校とも異なる、日本型の『穏やかな』 ものになっている。それでも、日本のこれまでの『全国一律』『教育委員会にお任せ』の公 立学校制度に対して、大きなイノベーションであることは間違いない20」と述べている。 1.1.2 コミュニティ・スクールの概要 コミュニティ・スクールは、前項で述べた制度により、図 1-1 のような形で、保護者や地 域の住民が一定の権限と責任を持って学校運営に参画することにより、そのニーズを迅速 かつ的確に学校運営に反映させ、学校・家庭・地域社会が一体となってよりよい教育の実 現に取り組むことを目的としている。また、地域の創意工夫を活かした特色ある学校づく りを進めることで、地域全体の活性化にもつなげることも期待できる21。そして、現在の様々 な教育課題に地域ぐるみで対応できる仕組みの 1 つとして注目されるようになった。 図 1-1 コミュニティ・スクールのイメージ 出典:文部科学省『コミュニティ・スクール パンフレット(平成 25 年度)』 18 19 20 21 文部科学省ホームページ「コミュニティ・スクール設置の手引き:2.コミュニティ・スクールをめぐ る 20 の Q&A」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/school/detail/1311353.htm#q3 金子郁容(2008) 『日本で「一番いい」学校 -地域連携のイノベーション-』岩波書店,p.265 同上、前掲書,p.273 文部科学省ホームページ「コミュニティ・スクールについて」 、前掲ホームページ 4 2013(平成 25)年 4 月 1 日現在では、全国で 1570 校(幼稚園 62、小学校 1028、中学 校 463、高校 9、特別支援学校 8)が指定され22、その数は徐々に増加している(図 1-2 参 照) 。文部科学省では、平成 24~28 年度の 5 年間でコミュニティ・スクールの数を公立小 中学校の 1 割(約 3000 校)に拡大するとの推進目標を掲げ、普及の取組を行っている。 図 1-2 コミュニティ・スクールの指定状況 出典:文部科学省『コミュニティ・スクール パンフレット(平成 25 年度)』 1.1.3 高等学校の教育改革と地域連携 現在の日本の公立中等教育学校を含む公立高等学校23(以下、高校と略す)の沿革は様々 で、江戸時代の藩校や寺院の学寮、戦前の旧制中学校、高等女学校、実業学校などを起源 とする学校、戦後の人口増加と進学率の上昇に対応するために設置された学校、地域の要 望によって設置された学校、近年では統廃合によって新たに設置・改編された学校などが ある。そして、それぞれの学校が、それぞれの地域と共に歩んできた歴史がある。 その一方で、学校、特に高校は「受験体制のもとで、知識中心の系統学習に関心の主軸 を移していった。地域性よりも全国に通じる画一性が求められ、その結果、身近な地域社 会に関心を向けなくなった24」といわれるようになった。 高等学校への進学率は、昭和 49 年に 90%を超えて以来、上昇を続けており、平成 24 年 には 98.3%になっており25、生徒の能力・適性、進路、興味・関心は多様化している。 こうした状況において 1991(平成 3)年の中央教育審議会答申では、受験競争の激化や 不本意入学・中途退学の増加を問題視し、高校は、量的拡大への対応から、個々の生徒の 特性にきめ細かく対応することができるよう、教育条件の充実も含め、その質的充実を目 22 23 24 25 文部科学省ホームページ「コミュニティ・スクールの指定状況(平成 25 年 4 月 1 日現在) 」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/school/detail/1335832.htm 文部科学省(2013a) 「学校基本調査」 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm 佐藤晴雄(2001)前掲書,p.5 平成 25 年 5 月 1 日現在、3675 校 文部科学省「平成 25 年度学校基本調査(確定値)について」 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1342607.htm 5 指すことが大切であると述べている。そして、 「それぞれの個性を最大限に伸長させるため 選択の幅の広い教育を推進していく26」とする基本的な考え方に基づき、総合学科の創設や 学校関の連携、学校外学修の単位認定制度などが提言された。 さらに、1996(平成 8)年の中央教育審議会答申では、 「学校や地域の実態に応じて、創 意工夫が十分発揮できるよう、教育課程の一層の弾力化を図る。特に高等学校教育の個性 化・多様化は大きな課題であり、各学校が、それぞれに一層努力するとともに、教育委員 会は、こうした各学校の努力を積極的に支援していく必要がある27」と示し、1997(平成 9) 年の中央教育審議会答申では、 「子どもたち自身、あるいはその保護者が、主体的に選択す る範囲を拡大していくことが必要となる28」と述べ、この提言を受けて、中高一貫教育制度 の導入や、学校外学修の単位認定の拡大が進められた。 1999(平成 11)年の中央教育審議会答申では、高等学校教育段階における教育目標とし て、 「生徒が自らの在り方生き方を深く考え、将来の進路を選択し、決定する能力や態度を 身に付けるとともに、各自の興味・関心、能力・適性、進路等に応じて選択した分野の学 習を深める」と示し、 「総合的な学習の時間」などを生かすことなどにより、様々な体験を 通して大学の求める「課題探求能力」の基礎となる、学び方やものの考え方、問題解決能 力などを身に付けさせることが必要である29とされている。 2013(平成 25)年の中央教育審議会「第 2 期教育振興基本計画について(答申) 」では、 中学校卒業後のほぼ全ての者が学ぶ教育機関としてふさわしい、高校として教育の質の保 証を図る必要があるとしている。また、高校生としての基礎的・基本的な学力を確実に身 に付けさせるため、生徒の学習の到達度を把握するための新たなテストの導入や、技能検 定の活用等を促進し、客観的な把握に基づく評価の充実を図るとしている。そして、高等 学校教育を通じて身に付けるべき資質・能力を多面的に評価する手法についての調査研究 を進める30としている。 また、2013(平成 25)年の中央教育審議会「初等中等教育分科会高等学校教育部会の審 議の経過について~高校教育の質保証に向けた学習状況の評価等に関する考え方~」では、 全ての生徒に共通に身に付けさせる資質・能力(「コア」)について検討されているが、そ の「コア」の要素を含む資質・能力の重要な柱として「社会・職業への円滑な移行に必要 な力や市民性(市民社会に関する知識理解、社会の一員として参画し貢献する意識など) 26 27 28 29 30 中央教育審議会(1991) 「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について(答申) 」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/1309574.htm 中央教育審議会(1996) 『21 世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申) 』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuuou/toushin/960701h.htm 中央教育審議会(1997) 『21 世紀を展望したわが国の教育の在り方について(第二次答申) 』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuuou/toushin/970606.htm 中央教育審議会(1999) 『初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申) 』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuuou/toushin/991201.htm 中央教育審議会(2013a) 『第 2 期教育振興基本計画について(答申) 』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo9/sonota/1334511.htm 6 が挙げられている31。 このように、近年の高校の教育改革では、高等学校における教育の質の保証に関する議 論が中心となっている。 これに対して、高校における地域連携については、2006(平成 18) 年に改正された教 育基本法において、学校・家庭・地域住民等の相互の連携協力に関する規定が盛り込まれ たことや、教育振興基本計画により、学校と地域の連携施策を推進し、「地域ぐるみで学校 を支援し子どもたちをはぐくむ活動の推進」や、 「家庭・地域と一体になった学校の活性化」 等を目指すことを示したものが挙げられる。また、2009(平成 21)年に改訂された高等学 校学習指導要領の総則では、 「学校がその目標を達成するため、地域や学校の実態等に応じ 家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること32」と述べられ、 小中学校だけでなく高校においても地域連携がこれまで以上に必要であるとしている。ま た、2011(平成 23)年の中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の 在り方について(答申) 」では、生徒のキャリア教育・職業教育において、地域や産業界、 大学、家庭等との連携が必要であると述べている33。 しかし、高校の教育改革の中で、高校における地域連携については、小中学校に比べ、 主要な政策にはなっていない。 高校における地域連携に関する研究について、鈴木(1999)34は、教育段階で見ると、小・ 中学校段階が多く、高校の研究例は数が少ない状況であり、高校で行われている実践も、 その多くは、専門高校であると述べている。また、小仲(2012)35は、高校でも様々な連携 が見られるとしながらも、単発的・限定的な関わりが多いことを指摘している。 1.2 研究の目的 前節で述べたように、高校における地域連携については、施策面や研究・調査面であま り注目されていない。実際に、コミュニティ・スクールの導入の対象としては、地域との つながりが特に深い小学校や中学校が中心になっている。 そのような状況の中、小中学校に比べて地域との交流が少なくなるとされる高校におい ても、従来の地域連携から一歩踏み込み、学校運営協議会を設置してコミュニティ・スク 31 32 33 34 35 中央教育審議会(2013b) 『初等中等教育分科会高等学校教育部会の審議の経過について~高校教育の質 保証に向けた学習状況の評価等に関する考え方~』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2013/0 3/13/1331803_01.pdf 文部科学省「高等学校学習指導要領」 (平成 21 年 3 月改訂) 中央教育審議会(2011) 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申) 」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301877.htm 鈴木昭彦(1999) 「地域に開かれた学校教育の研究 -高等学校と地域社会の連携を図るためには-」 『東京大学大学院教育学研究科教育行政学研究紀要』18 号,p.90 小仲一輝(2012) 「高等学校における地域連携に関する一考察 ―事例の検討からみる現状と課題―」 『京都教育大学教育実践研究紀要』第 13 号,pp.271-280 7 ールを導入36した 9 つの高校がある(公立高校全体の 0.24%)。 この 9 校は、なぜコミュニティ・スクールを導入したのだろうか。どのような背景や意 図があったのだろうか。また、高校におけるコミュニティ・スクールでは、どのような取 組を行い、学校運営をはじめ、生徒、教職員、保護者、地域には、どのような成果や変化 があるのだろうか。従来の連携との違いや、小中学校との違いはあるのだろうか。高校の 運営改善と地域の活性化は結びつくのか。地域の教育力というものは、高校にも活用でき るのだろうか。この他、コミュニティ・スクールは、「生きる力」や「コア」で示されたよ うな社会性やコミュニケーション能力などの社会的・職業的自立に必要な基盤となる能力 や態度の育成に繋がるのだろうか。そして、全国の他の公立高校でも有益な施策になり得 るのだろうか。 本研究は、こうした課題意識をもとに、コミュニティ・スクールを導入している公立高 校 9 校全てに訪問し、各校の実践についての聞き取り調査を行うとともに、学校の資料や ホームページ、学校評価、自治体の議会・教育委員会等での議事録・報告書などを通して、 上記の疑問を明らかにするとともに、客観的な実証分析を行うことを目的としている。 1.3 先行研究及び先行調査 コミュニティ・スクールについての研究や調査は、その制度や成果、学校運営協議会の 運営などについて、小中学校を対象としたものが多い。 学校運営協議会の運営に関するものとしては、伊藤(2006)37は、学校運営協議会制度の 概要をまとめ、 「この制度が目的とする趣旨を確実に発展させていくためには、導入初期の 現段階で適切な評価と支援を行い、その活動をフォローしていくことが重要」であると述 べている。また、関(2012)38は、中学校の学校運営協議会におけるプロセスについて分析 し、学校運営協議会の決定の正当性を得るために、委員に積極的な発言や参加を求めるこ とで熟議を目指す一方で、保護者枠委員の意見は、校長や地域枠委員に比べて「個人的で ある」として排除されやすいと指摘している。 大林(2011)39は、学校運営協議会では、「学校と保護者・地域住民との連携」の組織と いう考え方と、理事会のような「評価や査定」の組織という考え方があり、学校と委員が 協働で活動することで理事会的な考え方は解消し、学校長がイニシアチブを持つ「学校と 保護者・地域住民との連携」の組織がつくられたと述べている。 36 37 38 39 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」 (第 47 条の 5)では、 「教育委員会からの指定を受けた 学校『指定学校』 」と表記され、公立高等学校は「指定」を受ける立場であるが、本稿では公立高 等学校からの目線として述べる場合には「導入」と表記している。 伊藤りさ(2006) 「学校運営協議会制度における評価と支援のあり方を巡って -ニュージーランドの制 度を参考に-」 『レファレンス No.662(2006 年 3 月) 』国立国会図書館,pp84-98 関芽(2012) 「学校運営協議会の意思決定の正当性に関する一考察」 『駒沢女子大学 研究紀要第 19 号』 , p.264 大林正史(2011) 「学校運営協議会の導入による学校教育の改善過程」 『日本教育行政学会年報 No.37』 日本教育行政学会,pp.66 -82 8 文部科学省では、平成 14 年度からモデル校による実践研究が始まり、「コミュニティ・ スクールの推進への取組」に係る委託事業を行いながら、コミュニティ・スクールの導入 促進に関する調査研究や、充実・改善に関する実践研究を進めている。 平成 23 年度文部科学省委託研究調査において佐藤(2012)40 は、コミュニティ・スク ールの成果を明らかにしようとする際には、 「単に学校運営協議会の協議機能の発揮による 成果のみに注目するのではなく、その協議会を核にした学校・家庭・地域のつながりによ って創出され、あるいは深化する教育活動等や地域活動にも目を向ける必要がある」とし ている。そして、コミュニティ・スクールという仕組みと学校運営協議会の機能によって、 保護者・地域による学校支援活動や教職員・児童生徒の地域参加など地域との関係性が一 層強まり、学力の向上や苦情減少、教職員の意識改革などの効果が強化される傾向がある と述べている。 同調査において柴田(2012)41は、校長がコミュニティ・スクールでの勤務経験がある場 合は指定を受けることに前向きであり、勤務経験が無い場合は指定に消極的であるという 傾向を示すと指摘している。 平成 24 年度文部科学省委託調査研究報告書では、全国の自治体によって大きな差異(多 様性)があるので、この差を考慮しつつ、各自治体のコミュニティ・スクール導入校とそ うでない学校とを地域内で比較し、アンケート項目ごとに分析している42。 この中で、佐藤(2013)43は、学校運営協議会に関与する教職員は、学校の変容認識が高 いことに注目し、地域住民と関わることで、学校全体の教育活動について客観視できるよ うになっていると述べている。 同調査において春日(2013)44は、コミュニティ・スクールを肯定(否定)する場合の大 きな要因として「学力」に関する認識が大きいと述べている。 黒光(2009)45は、高校と地域の連携の事例調査により、学校教育現場における効果と、 40 41 42 43 44 45 佐藤晴雄(2012) 「第Ⅲ部第 2 章 学校運営協議会の機能とコミュニティ・スクールの成果」 『コミュニ ティ・スクールの推進に関する教育委員会及び学校における取組の成果検証に係る調査研究報告書』 コミュニティ・スクール研究会,pp211-223 柴田彩千子(2012) 「第Ⅲ部第 8 章 未指定校における条件と学校環境に関する分析」 『コミュニティ・ スクールの推進に関する教育委員会及び学校における取組の成果検証に係る調査研究報告書』コミ ュニティ・スクール研究会,pp264-270 三鷹教育・子育て研究所 コミュニティ・スクール研究会(2013) 『地域とともにある学校づくり、学 校からのまちづくりの推進に関する調査研究 コミュニティ・スクールによる効果と自治体の教育 施策推進に関する調査研究』三鷹教育・子育て研究所 コミュニティ・スクール研究会,pp.3-160 佐藤晴雄(2013) 「第 2 部第 2 章 学校運営協議会への関わり方から見た教職員の学校変容認識-指定 校データ-」 『地域とともにある学校づくり、学校からのまちづくりの推進に関する調査研究 コ ミュニティ・スクールによる効果と自治体の教育施策推進に関する調査研究』三鷹教育・子育て研 究所 コミュニティ・スクール研究会,pp198-205 春日清孝(2013) 「第 2 部第 5 章 保護者・地域から見たコミュニティ・スクール」 『地域とともにあ る学 校づくり、学校からのまちづくりの推進に関する調査研究 コミュニティ・スクールによる 効果と自治体の教育施策推進に関する調査研究』三鷹教育・子育て研究所 コミュニティ・スクー ル研究会,pp238-280 黒光貴峰(2009) 「高等学校における地域との連携に関する研究その 3 ―実践事例からみた連携の効 果―」 『鹿児島大学教育学部研究紀要 教育科学編』Vol.59,pp.93-106 9 地域社会における効果の両方が期待できるが、連携を継続して行える体制づくりや情報収 集が課題であるとしている。 コミュニティ・スクールの成果を検証するものや学校運営協議会の在り方について考察 したものや、高校と地域の連携に関するもの等に対する研究や調査は少なくない。 一方で、高校とコミュニティ・スクールの組合せについては、あまり注目されておらず、 これまで、ほとんど論じられていない。さらに、コミュニティ・スクールを導入した公立 高校 9 校の背景や意図、実践、成果を明らかにし、その内容の分析を論じたものについて は、筆者の知る限り存在しない。 高校の教育改革で、主に教育の質の保証が議論される中、これまであまり議論されてい ない公立高校におけるコミュニティ・スクールに焦点を当てて、その成果・変化・影響等 を実証分析し、今後の研究や政策論議を喚起できるものとしたい。 10 第2章 2.1 コミュニティ・スクールを導入した公立高等学校の概要と実践内容 調査の方法 本研究の目的である、コミュニティ・スクールを導入した公立高校 9 校の背景や意図、 実践、その後の成果・変化等に関する事項を明らかにするため、学校の資料、ホームペー ジ、学校評価、自治体の議会・教育委員会等での議事録・報告書などを調査するとともに、 9 校全てで聞き取り調査を実施した。聞き取り調査の対象は、該当 9 校の管理職、学校運営 協議会委員、コミュニティ・スクール担当者などである。今回の調査における各高校の対 応者の概要を以下の表 2-1 に記載する。 表 2-1 調査対応者の概要 学校名 実施時期 職 横浜市立横浜南高等学校 2013.10.29 副校長 高知県立大方高等学校 2013.10.31 教頭(昼間部) 備考 教頭(夜間部) 学校運営協議会委員 2013.11.1 副校長 北海道別海高等学校 2013.11.6 教頭 千葉県立多古高等学校 2013.11.11 教頭 三重県立紀南高等学校 2013.11.12 教頭 横浜市立横浜サイエンス 黒潮町教育委員会 フロンティア高等学校 教諭 コミュニティ・スクール担当・同窓会 岡山市立岡山後楽館 2013.11.13 教頭 2013.11.19 教頭 高等学校 千葉県立長狭高等学校 教諭 コミュニティ・スクール事務局 三重県立白山高等学校 2.2 2013.12.12 教頭 各校の概要と実践内容 本節では、前節で述べた調査の実施によって得られた事実を述べる。 なお、コミュニティ・スクールを導入した順に並べて記述している。また、千葉県の多 古高校と長狭高校は同時に指定を受けているので、50 音順で記述している。 11 2.2.1 高知県立大方高等学校 (1) 学校概要 表 2-2 高知県立大方高等学校の概要 校 所 在 名 高知県立大方高等学校 地 高知県幡多郡黒潮町入野 5507 沿革の概要 昭和 23 年 高知県立中村女子高等学校大方分校(定時制)として開校 昭和 40 年 高知県立大方商業高等学校(全日制)として独立 平成 17 年 高知県立大方高等学校として開校 (通信制を併設した多部制単位制普通科高校) コミュニティ・ 平成 18 年 4 月 1 日、指定の期間は 3 年で、再指定が可能46。 スクール指定年 (H18.4.1~H21.3.31、H21.4.1~H24.3.31、 H24.4.1~H27.3.31) 月日と指定期間 教 育 方 針 ○ 日本国憲法と教育基本法の精神に基づき、国家・社会に有為な人 材としての資質を高め、豊かな教養を培うとともに、心身ともに健 康で自主的精神に充ちた人間を育成する。 目指す学校像 ○ 多部制単位制高校のシステムを活用して、多くの生徒に門戸を開 き、多様な生徒のニーズに応える柔軟な学びのシステムをもつ学校 となる。 教 育 目 標 ○ 生徒一人ひとりの夢の実現のために、6つの教育目標を掲げてい る。 ・基本的生活習慣の確立 ・基礎学力の定着と学力の向上 ・キャリア教育の実践と進路保障 ・豊かな心をはぐくむ教育の推進 ・保護者や地域と連携した開かれた学校づくりの推進 ・教育環境の整備 生 備 徒 数 昼間部 130 名、夜間部 27 名、通信制 88 名(平成 25 年 4 月 1 日現在) 考 ○ 幡多郡黒潮町で唯一の高等学校である。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、黒潮町が約 4 割、隣接する四万 十市などが約 6 割である。 出典:高知県立大方高等学校『学校要覧平成 25 年度』より筆者作成 46「高知県立学校における学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 6 号) 」第 3 条.3 から 12 18 年 3 月 15 日教育委員会規則第 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 高知県では、中学校卒業者数の急激な減少、生徒の多様化、不登校や中途退学等の教育 課題の深刻化など、県立高等学校を取り巻く状況はますます厳しさを増しており、全県的 な高等学校再編は避けられない状況にあることから、県立高等学校の質的向上を図り、生 徒により良い教育環境を提供するため、県立高等学校再編計画を平成 15 年 11 月に策定し た47。そして、「第1次実施計画」のもと、高知県南西部の幡多地域においては、これまで の高知県立大方商業高等学校を廃校し、その施設設備を受け継ぐ形で、「個々のライフス タイルに応じた学び方ができ、地域とともに伸びる学校」を目指し、多部制(昼間部、夜 間部、通信制による定時制課程)・単位制普通科高校として、高知県立大方高等学校(以 下、大方高校)を開校することが計画された48。 こうした動きに対し、地域住民の反応は様々で、校友会・PTA・地域の中には反対する 活動を展開した住民もいた。その一方で、当時、大方町49の PTA 連合会の会長をしていた 大方町職員は、「高校の廃校により、地域に最大の『空き家』が生まれ、地域が疲弊する ことを懸念する一方で、新しい高校として生まれ変わることで地域活性化の拠点になるこ とに期待を寄せていた50」と述べている。そこで、平成 15 年末に、地域住民・保護者・教 育関係者からなる「学校の未来を語る会」が発足し、新しい学校の学校像・教育課程・学 校システムなどについて地域の声を入れながら議論を重ねた。この議論の中で、「学校運 営協議会」の活用についても検討され、開校を迎えた平成 17 年度に文部科学省のコミュニ ティ・スクール推進事業の委嘱を受け、研究を進めるに至った。このように、学校の再編 に対し、地域からの熱意ある働きかけが行われたことよって、コミュニティ・スクールの 導入が進められた背景がある。当時、コミュニティ・スクールを導入していた高等学校は 無く、全国でも先駆けとなる取組であった。 こうして、大方高校では「学校の未来を語る会」の意見をもとにしながら、「生徒には 夢を 保護者には希望を 地域には信頼を!」をスローガンとし、地域参画型の学校として、 新しい学びのシステムの構築に取り組んだ。そして、学校運営の改善を図るとともに、黒 潮町唯一の高校として、地域再生計画に基づく「知」のネットワークの中心としての役割 を果たすことや、生徒の自尊感情の醸成やリーダーシップ、プレゼンテーション能力の育 成を目指し51、コミュニティ・スクールの導入について研究した。 そして、平成 18 年 4 月に、高知県教育委員会によって学校運営協議会を設置する学校と 47 48 49 50 51 高知県教育委員会(2003b) 「県立高等学校再編計画骨子」 http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/21514.pdf 高知県教育委員会(2003a) 「県立高等学校再編計画第1次実施計画(平成 15 年 11 月 5 日) 」 http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/21513.pdf 大方町は 2006 年 3 月 20 日に佐賀町と合併して黒潮町となる 総務省(2013) 『地域活性化拠点として学校を活用した地域づくり事例調査』総務省地域創造グループ 地域自立応援課,p.85 高知県教育委員会(2012) 「高知県立学校における学校運営協議会を設置する学校の指定に関する議案 (資料) 」http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/72043.pdf 13 して 3 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 大方高校は、先述の意図のもとで教育方針や目指す学校像をまとめ、「個々のライフス タイルに応じた学び方ができ、地域とともに伸びる学校」として、進学や就職に力を入れ るとともに、不登校等の課題を持った生徒への対応52に取り組んでいる。また、大方高校が 立志自立できる場となることを目指し、全ての生徒に働く意欲と力をつけることや、全て の生徒が卒業時には進路が決定していること53を目指している。 ① 学校運営協議会に関すること 大方高校の学校運営協議会は、積極的に学校の教育目標、理念等の策定に関わっており、 以下に述べる実践をはじめ、学校運営全体にも関与し、意見を述べる体制がつくられてい る。そして、PDCA サイクルのチェックや、プランづくり、取組の見直しなどに関与し、 学校運営協議会を活かしていくことや、学校・保護者・地域・有識者などの関係者で作り 上げた目標に向けて、学校、家庭及び地域社会がそれぞれの役割分担を明確にすることに 努めている。また、地域や大学関係者及び保護者との意見交換を重ねることにより、幅広 い視点を学校運営に取り入れながら、学校経営ビジョンや学校改善プランの充実に取り組 んでいる。このようにして、具体的な活動の実現に向けた協働態勢を組める組織とするこ とや、自律創造型課題解決学習のために、地域の課題、教材、人材等の迅速な情報提供を 得られるように工夫している。学校運営協議会委員も「学校運営協議会は、応援団ではな く、同じマウンドに立ってプレーするプレーヤーとして、同じ責任をともなっていると考 えています54」と述べている。 学校関係者評価にも携わり、学校評価(自己評価)の説明を受け、委員は、それぞれの 視点から学校の点検・評価を行っており、様々な意見を述べている。また、平成 25 年度は 「開校 10 周年にむけて学校経営の総括」、平成 26 年度は「開校 10 周年にあたり今後の学 校経営の長期プラン作成」を年次目標にあげている55。この他、特色ある活動の継続性を持 たせるために、学校運営協議会や教職員が開校の理念の継承に努めることや、校内人事と して企画研修担当の配置を行っている。教職員は 4 月の第一回学校運営協議会に全員参加 し、コミュニティ・スクールの意図や取組について確認し、共通理解を図っている。 さらに、教育情報のオープン化・学校の説明責任など開かれた学校づくりを推進し、で きるだけ多くの学校行事や活動に委員や地域住民が関わる機会を増やすため、学校運営協 52 53 54 55 高知県教育委員会(2003a) ,前掲ホームページ 高知県教育委員会(2012) 「高知県立学校における学校運営協議会を設置する学校の指定に関する議案 (資料) 」http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/72043.pdf 高知県立大方高等学校ホームページ「平成 23 年度 大方高等学校 第 2 回学校運営協議会 議事録」 http://www.kochinet.ed.jp/ogata-h/community/com2302.pdf 高知県教育委員会(2012) ,前掲ホームページ 14 議会委員や地域住民に案内を行っている。ちなみに、主な連携対象としては、黒潮町の住 民や NPO 組織、企業などを想定している。 ② 教育課程に関すること 地域の特性を生かした科目を設定してはどうかという学校運営協議会の意見から、「砂 浜美術館」や「潮風のキルト」という学校設定科目を設定している。黒潮町では、「美術 館はないが、一見価値のないように見えるものであっても、発想の転換で価値を生み出す ことができ、地域資源として活かすことができる56」という構想で NPO 砂浜美術館57がつ くられ、4km の砂浜を美術館に見立て、様々な活動に取り組んでいる。この活動に学校運 営協議会も協力し、高校生が「砂浜美術館」、「潮風のキルト」などの授業や、ボランテ ィアなど多くの機会を設けて参加できるようにしている。 この他、税理士や公認会計士を目指している生徒向けに、高度な資格取得への挑戦に取 り組んでいる。この取組では、日商簿記検定や全商ワープロ検定などの合格者を出してお り、高等学校簿記コンクール高知県予選会では優秀な成績を収め、全国大会への出場権を 獲得している。また、高知県高等学校技術競技大会商業の部では、平成 24 年度には簿記の 部で、団体優勝し 6 連覇を達成するなど、優秀な成績を収めている。これに関連して、開 放講座として「初心者のための簿記講座」、「実践簿記」、「実用ワープロ」、「日商簿 記 2 級講座」など初心者向けから上級者向けまで地域住民に向けて幅広く募集し、開講し ており、中には定員いっぱいの 30 名が受講した講座もある。 ③「自律創造型課題解決学習プログラム(総合的な学習の時間)」に関すること 「総合的な学習の時間」では、生徒の発想力やコミュニケーション・プレゼンテーショ ン能力の育成や地域理解、勤労観の育成などを図ると共に、学校及び地域活性化を目指し た取組として、大方高校と高知大学とで共同開発した「自律創造型課題解決学習プログラ ム」を実施している。2 年次には黒潮町の協力のもと、黒潮町の企業や NPO、町役場の人々 から提案された地元に関する課題「ミッション」を選択し、提案者や高知大学の学生のア ドバイスを受けながら、現地調査や様々な人や組織との交渉などを重ねて、解決策を検討 し、最終的には発表を行っている。また、それぞれの「ミッション」ごとに教員を配置し、 教員も一緒に考え、地域理解や連携を深めている。こうして検討され、生み出された解決 策や提案の中で、優秀なものについては、高知県高大連携教育実行委員会(高知大学、高 知県教育委員会事務局高等学校課、高知市教育委員会)が主催する「高校生プレゼンフェ 56 57 高知県地域づくり支援課(2010)「高知県の特区・地域再生認定状況」 http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/8877.pdf 2003 年当時大方町では、砂浜美術館、大方町遊漁船主会、大方町公園管理協会、大方町観光協会とい う 4 つの任意団体があり、この 4 団体を NPO 法人化して 1 つにまとめて、町を元気にしていこう ということが決定し、砂浜美術館は、NPO 砂浜美術館として新たなスタートをきる。 (NPO 砂浜 美術館ホームページ(http://www.sunabi.com/about/history/) )より 15 スタ」に出場し発表を行っている。この活動は基本的に学校予算で行われているが、素材 の提供や費用は実質的に共同で活動する地域の組織・団体が負担している。このような支 援を受けながら、「ミッション」に取り組んだ結果、地域の特産品の商品化や防災対策の 改善、地域イベントの開催などが実現している。 その例として、平成 22 年度高知県地場産業大賞次世代賞を受賞した「かつおタタキバー ガー」が生まれ、メディア等でも多数取り上げられ、地元の店舗で特産品として販売され ている。23 年度には「かつおタタキバーガーを銀座で売ろう!」という「ミッション」に 取り組んだグループがあった。この「ミッション」を達成するために、生徒達は地域での 販売や、黒潮町のPRをするということで黒潮町から、黒潮町ふるさとキャラバン隊に任 命してもらうことなどに取り組んだ。その結果、必要な資金を準備することができ、実際 に銀座にある高知県のアンテナショップでの販売を行い、「ミッション」を達成すること ができた。この「ミッション」に取り組んだ生徒は平成 23 年度「高知県高等学校生徒商業 研究・意見体験発表会」で優秀賞、同大会四国地区では奨励賞を受賞し、「全国産業教育 フェア」の商業部門の高知県代表となった。さらに、平成 25 年度は「四国 B 級グルメフェ スタ」において「カツオたたきバーガー第 2 弾」として新製品の販売を行っている。この 他にも、特産の天日塩に地元の海藻を炊きこんだ「黒潮町の黒潮」や地元建具店のミッシ ョンに応えた「流木を活用したベンチ」、地元観光マップとして「入野松原ウォーキング マップ」などが実際に活用されている58。 ④ 学校全体での実践に関する実践こと 学校全体では、生徒が将来に向けての意欲やチャレンジ精神を高めていくための取組と して、県内外の各界で活躍している人を講師とした講座を毎年度 4 回行う「おおがたソピ ア塾」を実施している。 中学校の高校説明会には、出身生徒と生徒会が参加し、発表を行っている。生徒を直接 見てもらうように工夫をしており、中学生に説明することは、大方高校の生徒にとっても、 良い経験になっている59。また、大方中央保育所、入野小学校、大方中学校と合同で大津波 警報発令を想定した避難訓練を実施しており、非難時における高校生としての役割を体験 させている。 授業外でも生徒が主体となり、地域・保護者・全校生徒が協働し、入野の浜の清掃活動 を実施したり、漂流物を分別・分析してデータをまとめ、国内外の様々な組織に送信する など環境保護に取り組んだりするなどのクリエコ(クリーンエコ)活動を実施している。 この他、協力祭(愛校作業)として校舎周辺の清掃活動を休日に実施しており、この活動 でも生徒や教職員を始め多くの保護者が参加している。 58 59 総務省(2013)前掲書,p.87 高知県立大方高等学校ホームページ「平成 23 年度 大方高等学校 第 1 回学校運営協議会 議事録」 http://www.kochinet.ed.jp/ogata-h/community/com2301.pdf 16 ⑤ 進路指導に関すること 生徒の就業支援については、市町村により実施されることが多いが、就業後の早期離職 が問題になっていることから、高校と市町村との連携が 1 つのキーポイントになる60といわ れる中で、大方高校夜間部では、若者自立支援対策として平成 20 年に開設された黒潮町に ある高知黒潮若者サポートステーション61との情報交換を密にし、連携による体験活動や地 域行事へ参加するとともに、卒業生や地域の青少年の就業支援を実施している。 また、進学や就職の面接なども考慮して制服の変更が提案され、生徒総会、制服検討委 員会を通して新しい制服が決まった。 大方高校の約 6 割の生徒が利用している黒潮鉄道との連携にも取り組んでおり、生徒は ボランティアとして土佐入野駅や中村駅でのイベントに協力したり、列車の飾り付けを行 ったりしている。 (4)成果と評価 平成 18 年度コミュニティ・スクール推進フォーラム事例発表(高知県立大方高等学校) では、「まだはじまったばかり。実践の成果を実感できるところまでにはいたっていない。 しかし、周りの人々からは『大方高校は変わった!』・『生徒の活躍が見え始めた』と一定の 成果を聞く声は多い62」と捉えている。 平成 21 年度の学校評価における外部評価では「学校全体に落ち着きが見られる、あいさ つがよくできるようになっている、地域との連携も進化している63」と捉え、平成 23 年度 には「開校以前から約 9 年にわたり、黒潮町の企業主や行政関係者、教育関係者、高知大 学関係者および保護者代表が学校にかかわってくれることで、教職員・生徒に力強い支援 体制が組まれ落ち着いた環境で教育活動ができるようになった。特に、生徒たちは教職員 以外の地域の大人との交流により、大きく成長していく様子が顕著に見られ、この活動の 成果となっている64」というように、生徒の変化が見られている。 また、「自律創造型課題解決学習プログラム」を通して、「生徒が地域を学び、地域へ の愛着を深める効果が見られる65」というものや、「生徒たちは、各種の取組を通して、確 実に自信を回復し、夢に向かって努力する姿勢が芽生えようとしているし、利益の双方向 60 61 62 63 64 65 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(2012) 『平成 23 年度 若者の就労支援に資する地域の 教育活動等の総合的な展開に関する調査研究報告書』文部科学省,p.67 平成 20 年 7 月に黒潮町に開所され、高知県が NPO 法人青少年自律支援センターに事業委託を行い運 営しており、4 つのサテライトを持ち、高知市以外の県内全域をエリアとして活動している。 文部科学省(2006)「平成 18 年度コミュニティ・スクール推進フォーラム事例発表(高知県立大方高等 学校) 」 『コミュニティ・スクールについて』 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/suishin/detail/1312781.htm 高知県立大方高等学校ホームページ「平成 21 年度学校評価」 http://www.kochinet.ed.jp/ogata-h/pdf/edu21.pdf 文部科学省・厚生労働省放課後子どもプラン連携推進室「全国の取組 表彰事例」 http://manabi-mirai.mext.go.jp/assets/files/pdf_H23daizinhyosyo/33/kuroshio.pdf 総務省(2013)前掲書,p87 17 性をめざした新しい連携の形が、確実に地域の信頼が回復の方向に向かっているという手 応えを感じている66」というものもあり、「教職員が教育的効果を実感しており、継続のイ ンセンティブとなっている67」という評価に影響している。その一方で、基礎学力の定着や 生徒の進路実現が、不十分であるという評価68もあり、改善への取組が求められている。 学校運営協議会では、『学校の未来を語る会』から引き続いて 3 名が委員になっており、 校長や教職員の異動がある中で、開校の理念の継承に努めながら、さらなる改善を図るこ とができている。 地域の中学生が減少する中で、1 日体験入学に多くの中学生が参加し、少子化が進む(高 知県では中学校の生徒数は平成 9 年度から 17 年連続して減少している69)中で、入学者数 の大きな減少はない70。 平成 23 年には大方高校の学校運営協議会が「優れた『地域による学校支援活動』推進に より文部科学大臣表彰」を受賞しており、その活動が認められている。 平成 24 年度からの再指定申請では、課題として「大方高校から地域へ返せるものが少な い71」と述べており、地域に貢献できる学校づくりを行い、様々な取組みを通して、生徒の 自主性や自尊感情を高める学校、入学希望者が増えるような魅力ある学校づくりを目指す としている。 平成 25 年度は、コミュニティ・スクールを導入して 8 年目になり、これまでの学校の取 組の積み重ねによって、地域による学校・生徒・教職員への理解と協力が深まってきてい ると捉えられている。 66 67 68 69 70 71 文部科学省(2006),前掲ホームページ 総務省(2013)前掲書,p88 高知県立大方高等学校ホームページ「平成 21 年度学校評価」,前掲ホームページ 高知県教育委員会(2013)「平成 25 年度 学校基本調査(速報)―高知県分―」 http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/100641.pdf 高知県立大方高等学校『学校要覧平成 25 年度』 高知県教育委員会(2012),前掲ホームページ 18 2.2.2 三重県立紀南高等学校 (1) 学校概要 表 2-3 三重県立紀南高等学校の概要 校 所 在 名 三重県立紀南高等学校 地 三重県南南牟婁郡御浜町阿田和 1960 沿革の概要 昭和 37 年 三重県立紀南高等学校設置。 平成 24 年 創立 50 周年 コミュニティ・ 平成 19 年 6 月 1 日、指定の期間は 2 年で、再指定が可能72。 スクール指定年 (H19.6.1~H21.5.31、H21.6.1~H23.5.31、 H23.6.1~H25.5.31、 月日と指定期間 教 育 方 針 H25.6.1~H27.5.31) ○ あらゆる教科・領域及び学校行事を通して、教育基本法並びに学 校教育法に示された教育目標の実現に努め、学習者起点の一人ひと りを大切にする個別教育・少人数教育を推進する学校、生徒の自己 実現に取り組む学校を目指し、次の基本理念を掲げ、その実現を図 る。 ・学力の向上 ・自律的生活態度の育成 ・健康の増進と環境の整備・美化 ・人権・同和教育の推進 ・進路指導の充実 ○ このような教育目標を達成できるように、次のような生徒の育成 を心掛ける。 ・健康的で明るい生徒 ・目的意識をしっかり持てる生徒 ・初心を貫き通す意思の強い生徒 ・特技を持てる生徒 ・部活動、生徒会、ボランティア活動などに興味・関心がある生徒 目指す学校像 ○ 生 数 全日制普通科 329 名(平成 25 年 4 月 1 日現在) 考 ○ 東紀州地区南部には紀南高校と木本高校(熊野市)がある。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、御浜町・紀宝町が約 7 割、隣接 備 徒 生徒には希望を 保護者には夢を 地域には信頼を』 する熊野市などが約 3 割である。 出典:三重県立紀南高等学校『学校要覧平成 25 年度』より筆者作成 72 「三重県立学校における学校運営協議会の設置に関する規則(平成 19 年 4 月 1 日教育委員会規則第 4 号) 」第 3 条.3 から 19 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 紀南高校は、三重県南牟婁郡 4 ヶ町村の強い要望によって昭和 37 年に設立され、この地 域の唯一の高校として 50 年以上の歴史を積み重ねている。平成 12 年度からは単位制を取 り入れ、自分の進路希望に沿った科目を選択して学習できるようにしている。しかし、近 年の急激な過疎化・少子化に加え、私学や隣接県への進学希望者の分散により、平成 16 年 度当時には 3 クラスの募集定員が満たされず、学校の存続が危ぶまれる状況になった。 このような状況の中で、三重県は、全ての県立高等学校で地域社会とともに学校の特色 化・魅力化を進めることを目指して、今後、行おうとする具体的な実施内容をあらかじめ 示す「県立高等学校再編活性化第二次計画」を平成 16 年 12 月に策定した73。これを受けて、 紀南高校は、同じ紀南地域である熊野市に立地する三重県立木本高等学校とともに、学識 経験者、教育関係者、地域関係者及び保護者等 16 名の委員からなる「紀南地域高等学校再 編活性化推進協議会」を設置した74。そして、「県立高等学校再編活性化第二次計画」を踏 まえつつ、様々な視点から 2 年間にわたって議論がなされた。 この議論を通して、 「紀南高校が担う役割についてもう一度見直し、地域とともに生徒の 生きる力を育む高校教育を推進する学校、『地域の学校』として再生75」することを図り、 平成 17 年度から文部科学省のコミュニティ・スクール推進事業の指定を受け、研究を進め るに至った。 このように、学校の存続が危ぶまれていることに対し、地域とともに歩み、地域に信頼 される「地域の学校」となるための施策として、コミュニティ・スクールの導入が進めら れた背景がある。 2006(平成 18)年 3 月には「紀南地域高等学校再編活性化推進協議会」による「最終ま とめ」が報告され、紀南高校は、 「地域性を考慮し、多様なニーズに対応するとともに、地 域に開かれ、地域と一体となった高等学校として整備する76」ことが示された。 こうして、 「地域との連携・住民参画の学校づくり」の方策として研究を進めていたコミ ュニティ・スクールの導入の準備に取り組んだ。その際に、学校の教育方針をもとに、目 指す学校像を地域の方々にも共有しやすいように分かりやすくシンプルな、「生徒には希 望を 保護者には夢を 地域には信頼を」に変更した。そして、地域に開かれた学校づく りに取り組み、学校の活性化と生徒や地域にとって魅力のある学校をつくることを意図と し、これらの具体的な実践のための方策として、コミュニティ・スクールの導入を申請し た。そして、平成 19 年 5 月に、三重県教育委員会によって学校運営協議会を設置する学校 として 2 年間の指定が承認された。 73 74 75 三重県教育委員会(2004) 「県立高等学校再編活性化第二次計画」 三重県立紀南高等学校(2011) 『学校運営協議会報告 コミュニティ・スクールのあゆみ』 ,p2 三重県立紀南高等学校ホームページ「コミュニティ・スクールとは?」 http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/contents/kyogikai/shikumi.pdf 76 紀南地域高等学校再編活性化推進協議会(2006) 「紀南地域高等学校の再編活性化に向けて(最終まと め) 」 20 (3) 実践内容 ① 学校運営協議会に関すること 紀南高校の学校運営協議会は、有識者 2 名、地域住民 8 名、保護者 2 名、校長・教職員 の 14 名で構成されている。年度ごとに 6 回開催し、学校運営の基本方針の協議・承認や学 校自己点検・自己評価の結果等について、どのように学校が取り組むのかを説明し、協議 会の了承を得るとともに、学校の状況や生徒の様子などの情報交換をしている77。 平成 20 年度からは「学校運営協議会」を協議会委員と教職員で構成する 3 つの専門部 会(地域連携部会、進路支援部会、企画広報部会)に分け、すべての教職員が、支援員と していずれかの部会に所属し、活動計画の検討や、その活動の実践サポートを行っている。 そして、この 3 部会を中心に様々な提案が出され、学校運営の改善に努めている。 例えば、学校配布の文書等が保護者まで届かないという保護者の意見から、学校運営協 議会において協議し、学校の取組みや行事、校則、健康管理、教育相談、人権教育などの 事項をまとめた保護者手帳を作成している。この保護者手帳は単なる連絡・確認用ではな く、学校と保護者・地域をむすぶコミュニケーションのツールになるように、メモ欄を設 け、学校に対して意見や質問を提示できるようにしている。これまでも、学校配布の文書 等が保護者まで届かないという意見は多くあったが、学校運営協議会を通すことで、素早 くかつ前向きな対応がとられている。 また、学校関係者評価委員会を毎年 9 月と 1 月に行い、教職員も参加する中で意見交換 が活発に行われている。 平成 23 年には、今後の活動改善に向けて、これまでの取組や実践活動をまとめた『学校 運営協議会報告 コミュニティ・スクールのあゆみ』をまとめている。 この他、学校運営協議会に PTA や同窓会も加わり、グラウンド証明設備設置やエアコン の設置、廊下やクラブハウスの塗装作業、車いす用の机の製作などを行っている。 ②地域連携部会に関すること 小中高合同清掃活動や土手の草刈り等の清掃活動、警察と連携した交通安全運動の啓発 キャンペーンへの参加、地域の文化や伝統を学ぶ「東紀州学」の実施、地域住民からの授 業聴講生の募集、図書館の開放などに取り組んでいる。 交通安全運動の啓発キャンペーンでは、多数のクラブと生徒会から約 100 名が参加して 交通安全を呼びかけている。このキャンペーンには、季節ごとに毎回参加しており、地域 では馴染みある光景となっている78。また、出動式では吹奏楽部による演奏も行っている。 生徒会では、防犯ボランティア活動にも取り組み、紀宝警察署から感謝状を受けている。 学校設定科目として新設した「東紀州学」では、御浜町教育委員会と連携しながら地域 77 78 三重県立紀南高等学校(2011)前掲書,p4 三重県立紀南高等学校ホームページ「平成 26 年度聴講生の募集について」 http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/contents/bosyuu/tyoukousei.pdf 21 の歴史や文化財についての授業に取り組み、フィールドワークを行いながらその調査結果 をまとめ、発表している。この他、地域住民を講師とした学校設定教科「手話コミュニケ ーション」や、御浜町食生活改善推進協議会と連携して地域食文化の伝承を目的とした授 業(実習指導)を実施している。 聴講生の募集については、学習の機会を提供することで本校の教育力を地域に役立てる とともに、生徒と聴講生との異世代間交流や担当者の授業研究の活性化など、授業の教育 的効果を様々な形で向上させることを目的とし79、生徒と共に授業を受けるものである。平 成 26 年度は、数学演習、音楽Ⅲ、美術Ⅲ、書道Ⅲ、商業技術(それぞれ 2 単位)の授業に おいて募集している。ワープロ部主催のパソコン講座では 8 名が参加し、年末には年賀状 作成講座を実施している80。 授業支援では、よりよい「学び」の場としての授業づくりを推進すること81を目的として 教育ボランティア(1 年間)を募集し、英語や数学等での協力を受けている。 この他にも、生徒会や部活動等で地域の活動に様々な形で積極的に参加している。 ③ 進路支援部会に関すること 紀南高校では、地域での活動を通して、地域社会に関する知識理解や、社会の一員とし て参画し貢献する意識などを育成することを目指した活動を、検討し、実施している。イ ンターンシップの支援や、小学生と保護者を対象にした「きなん高校夏休み親子たいけん」 の実施、地域の就職情報の提供、地域のサークル活動を高校生に紹介するなど、生徒と地 域の人間関係が広がるように工夫している。 特に、紀南高校では 3 年間を通じたキャリア教育を重視しており、2 年次には、選択科 目として「就労体験学習(インターンシップ)」(学校設定科目、6 単位)を設定してい る。地元の養護施設や保育所・スーパー・製造会社など様々な職場で、1 年間にわたって、 1 週間に 1 日(年間では 25~26 日)、就労体験を実施している。この体験は職業意識や異 世代とのコミュニケーション能力の向上を図ることを目的としている。 また、地元医師会の支援の下で、ホームヘルパー2 級の資格取得に取り組み、地元の園芸 療法専門家からは「社会福祉援助技術」の授業協力を受けている。 小学校との交流授業では、福祉専門科目の選択生が阿田和小学校において、授業で学ん だ知識を生かし、ユニバーサルデザインに関するクイズや車いす・アイマスクなどを用い た疑似体験の指導を行っている。 また、地域の陸上競技部では、高校のグラウンドに設置されたオールウェザートラック (全天候型陸上走路)を利用して、小中高合同陸上競技講習会を開催し、高校生が小中学 79 80 81 三重県立紀南高等学校ホームページ「平成 26 年度聴講生の募集について」 、前掲ホームページ 三重県立紀南高等学校ホームページ「学校生活の様子」 http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/contents/oshirase.htm 三重県立紀南高等学校ホームページ「平成 26 年度教育ボランティアの募集について」 http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/contents/bosyuu/volunteer.pdf 22 生に指導したり、お互いに学びあったりしている。なお、このオールウェザートラックは、 同窓会の寄付金をもとにして設定されている。そして、この走路を活用した地域貢献活動 につながっている。 この他、近隣の小中学校 4 校とともに、「各学校段階を通じた系統的なキャリア教育の 実践研究」に取り組み、キャリア教育の視点から各校の行事や校種間連携活動の目標を定 める「キャリア発達支援プログラム」を 5 校協働で作成している。 ④ 企画広報部会に関する実践こと コミュニティ・スクールとしての紀南高校の取組内容を、より多くの地域住民に知って もらえるように、「紀南の風(コミュニティ通信)」を学期に 1 度発行し、生徒だけでな く、紀宝町・御浜町・紀和町の全家庭、及び周辺地域の中学校教職員にも配布している。 また、熊野市・紀宝町・御浜町・紀和町内の中学校へは、各教室掲示用のものも配布して いる(この範囲が紀南高校が想定する主な地域となる)。 ⑤ その他 新しい視点としては、コミュニティ・スクールを活かし、防災をテーマにした地域との連 携が挙げられる。2011 年 9 月 4 日に発生した台風 12 号の大雨によって三重県南牟婁郡 は広域にわたり大きな水害を受けた。御浜町にある紀南高等学校も、学校近くの河川堤防 決壊による被害を受け、学校施設がこれまでにない多大な被害を受けた。高校の復旧には 地域住民も数多く協力した経緯があり、 「地域とともにある学校づくり」について、東日本 大震災の経験などを踏まえ、災害に対して安全・安心な地域社会を創造していくための有効 な枠組みの一つである82と捉えている。 紀南高校では、学校内の公務分掌として、コミュニティ・スクール推進委員会を設置し、 学校運営協議会で「地域と学校の連携計画」を提案している。また、三重県立紀南高等学 校学校運営協議会会則で、 「人事に関する意見の申し出については、個人の人事に関するも のではなく、学校全体の教育向上を図るための意見とする83」と定めていることは特徴的で ある。 (4)成果と評価 紀南高校では、教職員による自己評価と満足度アンケート、学校運営協議会による学校 関係者評価、生徒の意識調査、地域の小中学校からのイメージ調査を中心に評価活動を行 っている。これをもとに、学校運営協議会で教職員も参加してさらに協議されている。こ うした場で、地域からの期待や批判を直接感じることができ、委員や教職員は学校の存在 82 83 勢力稔(2013) 「台風 12 号による被害と紀南高校の対応-災害安全の効果的な推進のために-」三重 県立紀南高等学校,pp7-10 三重県立紀南高等学校(2011)前掲書,p36 23 意義を意識するようになっている。また、学校の活動に対しての評価(評判)が、学校の 外からすぐに入ってくるようになり、教職員はやりがいを感じている。そして、教職員か らの新しい提案も積極的になされている。 紀南高校がまとめた『学校運営協議会報告 コミュニティ・スクールのあゆみ』では、 次のことを成果として挙げている84。 ①保護者や地域の意見・要望を把握する取組が進展した。 ②地域住民や保護者による学校行事等への参画の機会が増加した。 ③地元の小中学校との交流が活発化した。 ④生徒の学習環境が改善した。 ⑤授業に地域住民が参加したことで、生徒の授業に取組む姿勢が向上した。 ⑥地域行事へ生徒が参加するようになった。 ⑦生活・学習の両面で、生徒の姿が良くなったと評価されるようになった。 ⑧地域に密着した広報活動ができている。 ⑨母校を誇りに思う心が育成されている。(学校や生徒会等の活動が、地元や県内・全 国から注目され、表彰される機会が増えたため、学校に誇りを持つ生徒が増加して いるため) ⑩教職員がコンプライアンスやアカウンタビリティへの意識を高めている。 また、学校の活動と改革方針や行動計画に関して、目指す学校像実現に向けての活動と なるのかについて、フルアセスメントを実施するため、校内担当者のセルフアセッサー資 格取得も行っている85。 少子化が進む中で、紀南高校への進学者数は安定しており、平成 25 年度の入学者数は安 定的に推移しており、定員をほぼ満たしている。しかし、今後さらに少子化が進む現状に 対し、近隣の木本高校とともに、東紀州紀南地域での高校のあり方についての検討が進め られている。 また、紀南高校を卒業する生徒の約 3 割は地元に残り、同窓生の多くは地元を支える人 材として活躍しており、同窓会活動も活発である。 この他、 「地域」とともに歩むコミュニティ・スクールとして、近隣の小中学校や地域と 連携した様々な交流活動に積極的に取組む姿勢は三重県からも認められ、平成 20 年度率先 実行大賞発表会では「ベストエール賞」を受賞している86。また、平成 20 年度「キャリア 教育優良学校文部科学大臣表彰」を受けている87。 84 85 86 87 三重県立紀南高等学校(2011)前掲書,pp6-8 三重県立紀南高等学校ホームページ「平成 24 年度学校評価報告書」 http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/contents/keihin/H24hyoka.pdf 三重県総務部ホームページ「平成 20 年度 率先実行大賞発表会~不断の改善、創造への挑戦!~」 http://www.pref.mie.lg.jp/GYOUKAKU/HP/keihin/20taisyou/index.htm 文部科学省ホームページ「キャリア教育大臣表彰一覧」 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/11/attach/1312466.htm 24 課題としては、コミュニティ・スクールの取組が地域全体に理解されているとはいえな いことや、保護者や地域の評価や要望を把握する方法がアンケートを中心としたものであ り、未確立であること、全体的に取組が評価されてきた分、その維持に力点が置かれたた めマンネリ化し、次の一歩が踏み出せないことなどを挙げている。 このような取組の実践と評価・改善を積み重ねながら、 「地域とともに歩む学校」から「地 域になくてはならない学校」へのステップアップを目指している。 25 2.2.3 横浜市立サイエンスフロンティア高等学校 (1) 学校概要 表 2-4 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の概要 校 所 在 名 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校(YSFH) 地 横浜市鶴見区小野町 6 番地 沿革の概要 平成 21 年 神奈川県内初の理数科高校として開校 平成 22 年度 文部科学省より SSH(スーパーサイエンスハイスクー ル)の指定(5 年間) 平成 24 年度 コア SSH(3 年間指定)の採択校に決定 コミュニティ・ 平成 21 年 6 月 1 日、指定の期間は 3 年で、再指定が可能88。 スクール指定年 (H21.6.1~H24.3.31、H24.4.1~H27.3.31) 月日と指定期間 教 育 理 念 ○ 学問を広く深く学ぼうとする精神と態度を培いながら、生徒一人 ひとりが持つ潜在的な独創性を引き出し、日本の将来を支える理論 的な思考力と鋭敏な感性をはぐくみ、先端的な科学の知識・技術、 技能を活用して、世界で幅広く活躍する人間を育成する。 教 育 目 標 ○ 広い視野、高い視点、多面的な見方を身につけさせ、ものごとに 対する柔軟な思考力・解析力を培い、論理的頭脳を養う。 ○ 旺盛な探求力、豊かな創造力、世界に通じるコミュニケーション 能力、自立力を培うことによって、よりよく生きる知恵を養う。 ○ 社会における己の使命を自覚し、積極的に社会に貢献しようとす る志を養う。 ○ 人格を陶冶し、有為な社会の形成者としての品格を養う。 ○ 幅広い知識と教養を身につけ、豊かな情操と道徳心を培うととも に、健やかな心身を養う。 教 育 方 針 ○ 生 数 711 名(平成 25 年 4 月 1 日現在) 考 ○ 備 徒 驚きと感動による知の探求 出身中学校別の生徒数の割合は、横浜市内が約 6 割、その他が約 4 割である89。 ・男女比はおよそ 3:1 出典:横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校『学校案内 2014』より筆者作成 88「横浜市立学校における学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 89 17 年 4 月 1 日教育委員会規則第 15 号) 」第 3 条.3 から 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校ホームページ「出身中学校別人数」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/sfh/examinee/pdf/h25chugakubetuninzu u.pdf 26 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 横浜市教育委員会では、2005(平成 17)年に「横浜市立科学技術高等学校(仮称)基本計 画」を策定した。その中で、「横浜は、活力豊かな市民が多く集うとともに、新産業の創 出や新たな魅力ある都市の創造により、市民がいきいきと暮らすことができる都市であり 続けることを目標としています。横浜の未来を支える人材の育成に向けて、科学技術先端 都市の形成の一翼を担い、産学との連携による人づくりを進めるとともに、小・中・高・ 大を貫く教育改革のパイオニアとして、新たな科学技術高校(仮称)を設置します90」とい う方針を掲げた。 この方針のもと、先端科学技術をもって幅広く活躍する人材を育成するための教育理念 や教育目標及び、以下の図 2-1 のような学校のコンセプトがつくられた。 図 2-1「横浜サイエンスフロンティア高等学校が目指す教育」 出典:横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校『学校案内 2014』より転載 90 横浜市教育委員会(2005)「横浜市立科学技術高等学校(仮称)基本計画」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/kagiko/pdf/kihonkeikaku.pdf 27 まず、立地場所には、バイオテクノロジーや情報などの先端科学技術分野における企業 や、理化学研究所横浜研究所、横浜市立大学連携大学院をはじめとする研究機関など、新 たな「知」が集積している横浜サイエンスフロンティア地区(鶴見区末広町地区)が選定 された。この地区は、横浜市が国際競争力のある産業拠点とすることを目指した地区であ る。また、市内に多数立地している企業・大学等の研究機関とゆるやかな連携をもちなが ら、市民生活のニーズと新たな技術のシーズとを結びつける 「ネットワーク型の国際研究 開発拠点」の形成を推進している地区91である。 次に、連携協力のために、先端科学技術分野の研究者や研究機関、大学、企業などと、 「横 浜サイエンスフロンティア高校の教育等における連携・協力に関する協定」を締結した。 そして、横浜開港 150 周年にあたる平成 21 年の 4 月に開校した。横浜市教育委員会は、 横浜サイエンスフロンティア高校を全ての市立学校における教育改革のパイオニア校に位 置づけ92、様々な取組を実践している。 その中で、学識者や研究者、大学、企業など様々な人と高校が連携することもあり、学 校に関係する人たちが学校運営に濃密に関わり、学校運営計画を協働で策定するという仕 組みを採り入れていくため、また、鶴見地区のニーズも反映できるように担保する必要が ある93としている。このように、教育改革のパイオニアとしての位置づけや、多様な関係者 との連携、そして地域住民への説明責任を果たすことなどが背景となって、コミュニティ・ スクールを導入した。そして、平成 21 年 5 月に、横浜市教育委員会によって学校運営協議 会を設置する学校として 3 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 ① 学校運営協議会に関すること 横浜サイエンスフロンティア高校の学校運営協議会は、地域の企業や保護者に加え、ス ーパーアドバイザー・特別科学技術顧問を含む学識経験者、学校関係者で構成されている。 横浜サイエンスフロンティア高校では、大学教授や先端科学技術分野における優れた功 績を有する学識者、研究機関、大学、企業などが、スーパーアドバイザーや技術顧問とし て参画し、先端科学技術に対応した教育内容や施設・設備のあり方について指導助言を受 けるとともに、技術顧問と連携した講座等も開講している。 91 92 93 横浜市経済局ホームページ「横浜サイエンスフロンティアの目指すこと」 http://www.city.yokohama.lg.jp/keizai/sogyo/life/ysf/ysf01.html 横浜市教育委員会(2007)「横浜教育ビジョン横浜市立高等学校改革推進プログラム~平成 18 年度から平 成 22 までの 5 か年計画~」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/program/pdf/program.pdf 横浜市教育委員会(2009a)「臨時会会議録(平成 21 年 5 月 25 日) 」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/21/0525.pdf 28 表 2-5 YSFH への支援者・支援団体 スーパーアドバイザー 大学教授、ノーベル化学賞受賞者など 常任アドバイザー1 名を含めた 5 名 科学技術顧問(研究機関) 理系各分野の研究機関の研究者など 7 名 科学技術顧問(大学) 大学教授など 10 大学 26 名 科学技術顧問(企業) 29 企業 29 名 教育連携協定先 大学、研究機関、企業など 協力企業 多数 11 組織 出典:横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校『学校案内 2014』より筆者作成 ② 教育課程に関すること 教育課程では、研究者、技術者から学習指導を受けることができる課題探究授業「サイ エンスリテラシー(1 年次 2 単位、2 年次 2 単位、3 年次は選択で 2 単位) 」を実施し、生 命科学やナノテクノロジーなど、先端科学技術分野の「ほんもの体験」を通し、理数科目 を重点とした学習を充実させるとともに、高いコミュニケーション能力も育成している94。 この授業では、1 年次から、週 1 回、95 分授業において、科学技術顧問でもある大学の 教員や研究所の研究者、企業関係者から、講義や実験の指導を直接受けることができる。 さらに、2 年次の 10 月には、全員参加の海外研修を行い、研修先のマレーシアにおいて、 課題研究の成果を英語でプレゼンテーションするなど、国際交流を含めた体験的な学習を 行っている。 3 年次にも課題研究を選択し、研究を深めることができる。また、「横浜市立大学チャレ ンジプログラム」として、横浜市立大学国際総合科学学部への特別枠入学にも挑戦できる ようになっている。合格した生徒に対しては、横浜市立大学教員及び高校教員が、横浜市 立大学講義の聴講を含む各種入学前教育を通じて継続的に指導を行う。この入学前教育は、 横浜市立大学大学院修士課程までを 5 年で終わることのできる「YCU( Yokohama City University)型高大院一貫科学者養成プログラム」に含まれている95。 平成 24 年度は、「第 6 回国際地学オリンピック・アルゼンチン大会」で金メダルを受賞 するなど、多くの生徒が活躍し、表彰されている。 ③ 学校全体に関する実践内容 横浜サイエンスフロンティア高校は、平成 22 年度に、文部科学省より SSH(スーパーサ イエンスハイスクール)の指定(5 年間)を受けた。また、平成 24 年度からはコア SSH(3 94 95 横浜市教育委員会ホームページ「横浜サイエンスフロンティア高等学校」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/ 横浜市立大学ホームページ「YCU 型高大院一貫科学者養成プログラム」 http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/20524.html 29 年間指定)の採択校に指定されている。 コア SSH では、 「次世代の世界を担う人材育成」のため、小学生高学年から中学生・高 校生向けのサイエンスプログラムを国内の高校や大学・研究機関等と協力して開発し、海 外の理数系教育機関や学校と連携して展開することで、地域における小・中・高・大の連 続した理数系教育の先導となる「サイエンスセンター」のあり方を研究している96。 横浜サイエンスフロンティア高校では、「YSFH サイエンスセンタープログラム」とし て、小中学生と共に学ぶ取組を行い、平成 24 年度は次のような活動を実施している97。 (ア) 真鶴海岸フィールド実習:高校生と小中学生がチームをつくりバスでの事前学習、 現地では全体の指導者のもと、静物観察調査活動を行なった。発見や不思議に感じた ことをまとめ、ディスカッションを通じて発表・報告内容をまとめ、最後にチームご との発表及び全体での総括まで行なった。 (イ) プラネタリウム教室:横浜モバイルプラネタリウム代表者を講師に、横浜サイエン スフロンティア高校生がサポートとして、高校ホールで移動式プラネタリウムを用い て実施した。 (ウ) つるみ・キッズエコフェスタ:鶴見区役所で行われた「つるみ・キッズエコフェス タ 2012」へ参加し、電子顕微鏡での生物観察や「ウーパールーパー」などの説明を実 施した。 (エ) 小学校との連携事業「神奈川の自然発見!~丹沢中川フィールド活動~」 :高校生、 教員を含めて 33 名が参加し、高校生 2 名と小学生 2~3 名でのチームをつくり、川の 自然観察を実施した。 (オ) 鶴見川の生き物発見!鶴見川清掃活動・生物観察会:小中学生 70 名、高校生、教 員 35 名が参加し、高校生 2 名と小中学生 5~6 名でのグループをつくり、清掃活動及 び生き物観察を実施。 (カ) 独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)・独立行政法人産業技術総合研究所 (AIST)の見学:小中学生 40 名、高校生、教員 13 名が参加し、高校生と小中学生が チームを作り、施設見学を行った。 (キ) 体験!化石の教室:小中学生 40 名、高校生、教員 19 名が参加し、高校生による「化 石に関する説明」を行った。その後、高校生と小中学生がチームを組んで「化石レプ リカ」を作成した。 (ク) 天文教室:小中学生 25 名、高校生、教員 19 名が参加し、高校生による「宇宙の起 源に関するプレゼンテーション」 「プラネタリウム上映」 、その後、グループごとに「星 座早見盤の作成」 「天体観測」を実施。 (ケ) プログラミングロボット教室:小中学生 20 名、高校生、教員 15 名が参加し、高校 96 97 文部科学省ホームページ「スーパーサイエンスハイスクール(平成 24 年度コア SSH 採択校)研究開発課 題 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/03/__icsFiles/afieldfile/2012/03/28/1318980_4.pdf 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校ホームページ「YSFH サイエンスセンタープログラム」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/sfh/universal/24sc.html 30 生による「プログラミングに関する説明」を行い、高校生と小中学生がチームを組ん で「レゴロボットのプログラミング」を実施。 その他、授業以外の面でも、常任スーパーアドバイザーが毎週来校し、課題研究に協力 している。また、1 年次の生徒 20 人ずつ全 12 回にわたり、放課後に自由な議論を行って いる。さらに、毎月1回土曜日に科学技術顧問の先生が直接実験を指導する「サタデーサ イエンス」を開催しており、特別講演の他、実験やフィールドワークにより先端科学を体 験することができる。その一方で、生徒の学力や進路に応じた教育も進められており、土 曜講習・夏季講習・冬季講習等の特別講習も行っている。 地域においては、吹奏楽部が地域の祭りに参加するというような形で、委員会や部活動 ごとに地域行事やボランティア活動に取組んでいる。また、文化祭を公開し、H25 年度は 5000 人以上が来校し、学校に対する保護者や地域の関心は高さが伺われる。 広報活動にも力を入れ、海外の大学や研究機関にも PR していくため、英語版の HP を作 成した。 このような取り組みの中で、コミュニティ・スクールは、産学の連携や教育目標(表 2-4 参照)に掲げられたような生徒の育成のための 1 つの方策として活用されている。 (4) 影響・評価 学校運営協議会は、普段から学校に訪れ、学校の教育方針や生徒の様子をよく理解して いる委員が多いので、建設的な意見が出やすい状況であり、学校運営や教育内容について の助言や支援、パソコンや実験機器の維持・更新のための予算の確保、教員の勤務継続要 求、学校評価などが主な議題となり、学校運営の改善にとって意義のある提案がなされて いる。 生徒の学習の成果としては、平成 24 年度は「第 6 回国際地学オリンピック・アルゼンチ ン大会」での金メダル獲得や「第 2 回高校生バイオサミット」農林水産省受賞、 「平成 24 年度 SSH 生徒研究発表」独立行政法人化学技術振興機構理事長賞受賞などがある。 平成 25 年度は、国家資格「基本情報処理技術者試験」取得 1 名、日本地球惑星科学連合 会 2013 年大会「高校生によるポスター発表」奨励賞 2 名、Supercomputing Contest2013 (夏の電脳甲子園)8 位入賞、 「シンガポールブレインキャンプ 2013」優秀論文賞 4 名、 「第 9 回全国物理コンテスト」銅賞、 「第 3 回高校生バイオサミット」環境大臣賞受賞、 「日本生 物学オリンピック 2013」銅賞などがある98。このように、先端科学技術などの研究面で、 国内だけなく、国際的に活躍している。 進学対策も充実されたので、希望進路の実現による進学実績もあげることができている。 また、小中学生との連携学習では、児童の学習に貢献するとともに、普段の学習や研究 98 横浜サイエンスフロンティア高等学校ホームページ「科学系オリンピック結果」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/sfh/olympic/ 31 から離れて、観察したり発見することの楽しさを改めて感じたり、分かりやすく説明する にはどのように工夫すればよいかを高校生自身も考える機会になっている。 横浜市教育委員会が依頼した平成 24 年度横浜市立高等学校第三者評価結果では、「地域 や近隣の小中学校との連携について、一定の実績をあげているが、さらに連携可能な内容 を探ってほしい」、 「サイエンスに関わる活動で連携を深めているが、地域との一層の交流 を行い、まちの学校としての存在を築いてもらいたい」というような意見があり99、高校で は、学校周辺地域へのアンケート調査や清掃活動やグランド開放など、地域との幅広い連 携について検討している。 平成 23 年度横浜市立高等学校自己評価書によると教職員は、研究指導や進学指導による 生徒の成長を感じ、やりがいを感じている。かなり多忙な状況にあるが、教職員間で情報 を共有し、チーム力で対応している。しかし、教員の後継者の養成が追いつかない状況も ある100として、分掌間での調整を前提に、全職員が情報の共有を常に心がけ、研修の機会 も多く設けたいとしている。 99 横浜市教育委員会(2012a)「平成 24 年度横浜市立高等学校第三者評価結果」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/shingikai/koukouhyoka/hyoukasho24.pdf 100 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校ホームページ「平成 23 年度横浜市立高等学校自己評価 書 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/sfh/gaiyo/pdf/2011selfevaluation.pdf 32 2.2.4 岡山市立岡山後楽館高等学校 (1) 学校概要 表 2-6 岡山市立岡山後楽館高等学校の概要 校 所 在 名 岡山市立岡山後楽館高等学校 地 岡山県岡山市北区南方一丁目 3 番 15 号 沿革の概要 平成 11 年 岡山市立岡山後楽館高等学校 設置。 (併設型中高一貫教育校) 平成 13 年 旧・内山下小学校跡地を校舎の一部として利用を開始 平成 24 年 本校舎を旧・南方小学校跡地(現在の所在地)へ移転 指定年月日と 平成 22 年 4 月 1 日~ 指定期間 指定の期間に関する規定はない101。 教 育 方 針 ○ 基本的な考え方は「自主・自律」の精神を尊重する「自分で創る 学校生活」である。 ○ 主体的な教科・科目選択を重視する中高一貫教育を行うことによ り、ゆとりと意欲的な学校生活を実現し、個性や創造性の伸長を図 るとともに、豊かな人間性や自律心の育成を目指す。 校 訓 ○ 愛と創造 ・かけがえのない自己の尊厳を自覚し、他者への思いやりと自然へ の畏敬の念を持った心豊かな人間たれ ・瑞々しい感性と旺盛な向上心をもって知性と品性を磨き、新たな 文化を創造する、社会や世界平和に貢献できる有為な人間たれ 生 徒 数 定時制課程(3 年以上)総合学科単位制 全日制課程 総合学科単位制 合計 476 名(平成 25 年 5 月 1 日現在) 備 考 ○ 中高一貫教育校であり、半数は中等部から無試験で進学、半数は 高等部の入試を経て進学 ○ 高等部からの入学者は全県から募集 出典:岡山市立岡山後楽館高等学校ホームページ102及び『学校案内平成 25 年度』より筆者作成 101 「岡山市地域協働学校運営協議会の設置等に関する規則 (平成 17 年 4 月 1 日教育委員会規則第 11 号) 」 102 岡山市立岡山後楽館高等学校ホームページ「岡山後楽館」 http://www.city-okayama.ed.jp/~korakukan/main/main2.htm 33 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 岡山市では、岡山市立高等学校検討委員会が 1990(平成 2)年に「岡山市立高等学校の 将来の在り方について」の報告を行い、1997(平成 9)年には、岡山市立高等学校将来構 想策定委員会が「岡山市立高等学校の将来構想策定について」の答申を行った。これを受 けて、岡山市が設置していた定時制高等学校 2 校を発展的に統廃合し、新しいタイプの単 位制による総合学科高等学校に改編するとともに、これに岡山市全域を学区とする中学校 を併設することが検討された。 そして、1999(平成 11)年 4 月に併設型中高一貫教育校として開校し103、市町村立とし ては全国初の中高一貫教育校となった。当初は、岡山市天神町の旧中国四国農政局庁舎を 暫定校舎として授業を行い、後に、 旧岡山市立内山下小学校を内山下校舎として使用した。 その後、旧・南方小学校跡地(現在の所在地)に幅広い用途で使用できる 7 階建ての校舎 が建設され、2012(平成 24)年に移転している。 岡山市では、学校運営協議会を「地域協働学校運営協議会」とし、これを設置した学校 を「地域協働学校」と規定して104、「新しいタイプの学校運営に関する実践研究」に取り 組んだ。そして、中学校区を単位として、地域や保護者、各学校園が連携・協働すること を目指した岡山型のコミュニティ・スクールが考案された。その後、「岡山っ子育成条例 (H19.4.1 施行)」を定め、子どもたちが愛されていると実感できる家庭、学校園、地域 社会を実現し、市民協働による「自立する子ども」の育成を推進するために、岡山型コミ ュニティ・スクールを推進している。そのため、準備の整った中学校区から順次指定し、 平成 37 年度までに全ての中学校区を指定する105としている。 岡山後楽館高校・中学校は、多数の美術館や博物館、後楽園などの文教施設に近いとい う環境を生かし、シティキャンパス構想による体験を重視した学習を展開している。この 構想は、地域社会に開かれた学校として、「街全体を学びの場」とするものである106。 そして、高校の教育方針のもと、個性や創造性の伸長を図るとともに、豊かな人間性や 自律心の育成を目指すため、また、身近な町内会から岡山市内全域まで幅広く連携を持っ て、学校運営を活性化するとともに、家庭や地域社会の教育力向上を図るシステムを作る ために、保護者や地域住民が学校運営に参画することができる「地域協働学校運営協議会」 を導入した。このように、岡山市の「地域協働学校」の推進政策や「街全体を学びの場」 とする学校の方針を背景としてコミュニティ・スクールの導入に至った。 岡山市では、地域協働学校では原則として、中学校の通学区域内のすべての幼稚園・小 中学校を同時に指定すると定めているが、岡山後楽館中学校の通学区域は岡山市内全域と 103 岡山市立岡山後楽館高等学校、前掲ホームページ 104「岡山市地域協働学校運営協議会の設置等に関する規則」 105 106 岡山市教育委員会ホームページ「岡山市地域協働学校(岡山市版コミュニティ・スクール)について」 http://www.city.okayama.jp/contents/000123256.pdf 岡山市立岡山後楽館高等学校、前掲ホームページ 34 している107ことや、高等学校もあることから、中学校区によらず、より広い範囲での連携 も可能となっている。 (3) 実践内容 ① 学校全体に関すること 岡山後楽館高校では、国際文化、情報科学、健康福祉、工業技術の 4 系列からなる教科・ 科目群から、生徒の興味・関心や進路目標、就学条件等に応じて学習したい教科・科目を 選択し、自分で時間割を作って学習している108。「自分で創る学校生活」として、約 130 種の科目が開設されており、1 講座当たり平均 20 人前後の少人数講座を実施している。ま た、先述したシティキャンパス構想により、通常の科目の学習活動や総合的な学習の時間 において、周辺の自然環境や文教施設等を学習フィールドとした校外学習や経験豊富な市 民との交流などを通し、学習内容をより深めたり、社会性や豊かな人間性の育成に努めて いる。 一方で開放講座もあり、生涯学習を支援すると同時に、地域の浸透を図っている。この講 座は、市民が生徒とともに授業を受ける「公開講座」の形で、開設されている。 総合学科は、「産業社会と人間」の授業を全員履修することになっており、この授業の 中で、地域の福祉団体や保育園、専門学校などから講師を招き、地域理解や職業について の学習会が実施されている。また、後楽館の隣にある施設には、NPO 法人や障がい者セン ターなどがあり、施設見学や福祉の体験学習を実施している。 国際交流にも取り組んでおり、国際理解・コミュニケーションについての講演を実施し たり、英語だけでなく中国語やハングルの講座も選択できるようになっている。また、様々 な留学機関による 1 年間の留学で 30 単位を上限として単位認定している。 中高一貫教育校の活動としては、入学式、文化祭、体育祭、芸術鑑賞会、避難訓練など の行事を中高合同の行事として行うなど、異年齢集団の間でのコミュニケーションをはか りながら活動している。こうした行事では、中学生と高校生が共に、それぞれの発達段階 に応じた特徴や特性を充分に発揮しながら合同行事を企画し、生徒が楽しく積極的に参加 でき、相互に交流や連携ができるようにするため、中高合同の実行委員会を設置している109。 そして、協力できる内容や場面設定について工夫されている。 また、高校では、シャッフル班別討論会も実施され、公平・公正な討議ができるような 方法により、生徒相互の考えや意見を尊重するなど、多様な人間関係の形成を目指してい る。 107「岡山市立小学校、中学校の就学に関する規則(平成 108 109 25 年 2 月 23 日市教育委員会規則第 9 号) 」 岡山市立岡山後楽館ホームページ、前掲ホームページ 同上 35 ② 地域連携に関すること 地域との連携については、体育館に併設されたコミュニティハウス及びグラウンドを活 用し、町内会の寄り合いやカルチャースクール、盆踊り大会、もちつき大会など、地域住 民が集まる場所として利用している。 現在の学校所在地である南方地区との交流も始まり、南方地区連合町内会・西川上流緑 道公園愛護委員会主催の西川クリーン作戦には、後楽館中学・高校あわせて 260 名、教職 員もあわせると、300 名以上参加している。また、地域の協議会に教員が参加したりして、 地域とのつながりを深めている。岡山中央地区のふれあいまつりでは、吹奏楽部が演奏を 行い、PTA による出店も行われている。この他、移転前の学校所在地であった天神地区の 小学校や町内会との交流も引き続き行われている。 (4) 成果と評価 岡山後楽館高校は、開校以来、地域や文教施設等と連携した学習に取組んでおり、地域 の教育力が生かされている。また、生徒のボランティア活動も活発である。 平成 22 年度に学校が移転したので、学校所在地域との連携については、まだ始まったば かりである。また、自主・自律の精神を尊重する「自分で創る学校生活」が建学の精神であ り、個性や創造性の伸長を図ることができるような学習環境としている。そのため、細か な規制を設けず、「校則は社会のルールとマナー」、「自由服」、「授業の始業・終業を告 げるチャイムなし」などとしている110。この学校の特色は、他の一般的な高校とは違うの で、地域にその特色を理解してもらうことも課題となっている。こうした中で、ボランテ ィア活動や学校の施設開放は、生徒の様子を理解してもらう良い機会となっている。今後、 広報活動の充実や、地域アンケート等の実施が検討されている。 地域との連携や校外での活動については、コミュニティ・スクール指定以前から、既に 様々な取組が実施されている。また、開校以来、総合学科や中高一貫教育校としての特色 ある活動が進められている。コミュニティ・スクール指定と同時に立ち上げられた地域協 働学校運営協議会は、学校のこれからの取組や運営について分析を行い、指導助言をする ことにより、発展的に後押しをする役割を担っている。こうしたことにより、様々な取組 がより充実したものとなっている。 連携対象の地域としては、岡山後楽館高等学校が岡山市立で唯一の高校であるとともに、 岡山後楽館中学校・高校そのものが 1 つの中学校区として位置づけられているため、特定 の連携地域を持っていない。よって、実際に連携している地域は、学校所在地周辺を中心 に、岡山市全域となっている。 このような環境の中で、同校は、学校教育力と社会教育力を融合させ、地域で育て、地 域で学ぶことを通じ、「生きる力」を養うとともに、「グローバルスタンダードの学力」 の育成を目指している。 110 岡山市立岡山後楽館高等学校、前掲ホームページ 36 2.2.5 千葉県立多古高等学校 (1) 学校概要 表 2-7 千葉県立多古高等学校の概要 校 所 在 名 千葉県立多古高等学校 地 千葉県香取郡多古町多古 3236 番地 沿革の概要 明治 40 年 多古町立多古農学校 開校 昭和 24 年 千葉県立多古高等学校と改称 平成 19 年 創立 100 周年 コミュニティ・ 平成 24 年 4 月 1 日、指定の期間は 3 年で、再指定が可能111。 スクール指定年 (H24.4.1~H27.3.31) 月日と指定期間 校 訓 学 校 目 標 学校経営方針 至誠勤労 質実剛健 協同自治 ○ 基礎学力を身につけ、生涯にわたり学び続ける人材の育成 ○ 心身ともに健康で、徳の高い人間性豊かな人材の育成 ○ 地域とともに歩む、信頼される学校づくりの推進 ○ 生きる力をはぐくむ教育 ・基礎学力の定着を図り、進路実績の向上を目指す学校 ・部活動の充実を図り、規範意識の高い学校 ○ 地域とともに歩む学校 ・生徒が誇りの持てる学校 ・地域から愛される学校 ○ 教育力の高い学校 重 点 目 標 ○ 地域おこしで町おこし (H25 年度 ) ○ 道徳心の向上 ○ 部活動のさらなる活性化 ○ 授業力アップで「わかる授業」の展開 ○ 高潔で、チーム力のある教師集団 生 備 徒 463 名(平成 25 年 5 月 1 日現在) 数 全日制普通科・生産流通科 考 ○ 多古町には、小学校が4校、中学校が1校、高校が1校ある。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、多古町が約 3 割、隣接する香取 市・成田市・匝瑳市などが約 7 割である。 出典:千葉県立多古高等学校『平成 25 年度学校要覧』より筆者作成 111 「千葉県教育委員会規則第1号 第 3 条.3・4 から 学校運営協議会の設置及び運営に関する規則(平成 24 年 1 月 31 日) 」 37 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 多古高校は、香取郡多古町を中心とする地域の伝統校として多くの人材を輩出してきた。 こうした歴史のもとで、単なる県立の教育施設というよりも、町の教育・文化・産業の活 性化の一端を担う存在であり、非常に存在感のある大事な施設である112。 しかし、町の過疎化や少子化に伴い、生徒数が減少し、学校においては募集定員の確保 が、町においては、地域の活性化が課題となった。こうした中で、多古町では、次代を担 う子どもたちを町民みんなで育てようとする地域性を基盤として、小中高校や地域が協力 し「多古の子 町の子 みんなの子」というスローガンのもとで教育活動がなされた113。 平成 16 年度からは、文部科学省の「キャリア教育推進地域指定事業」の研究を通して、 小中高の連携を充実させ、その取組みの成果を発展させる形で、産・学・官による「多古 町キャリア教育推進連絡協議会」を立ち上げてキャリア教育を進めている。平成 18 年度に は、キャリア教育優良学校等文部科学大臣表彰を受けた。 このような取組みをもとに、平成 21・22 年度には、文部科学省の「コミュニティ・スク ール推進事」の研究指定を受けた。そして、コミュニティ・スクールを導入することによ り、多古町や多古町教育委員会、町内の小中学校等との連携をより一層強化し、保護者や 地域住民が地域の教育に関わる体制をつくり、学校運営の改善と地域全体の教育力の向上 をはかることを目指した。 また、多古高校において「ミニ集会」を開催し、保護者や地域のニーズに合わせてテー マを設定し、幅広い参加者から学校運営への声や期待を聞き、活発な意見交換を重ねた。 ※「ミニ集会 」は千葉県教育委員会が、子どもの教育に協力し合う環境づくりと地域 に開かれた学校づくりを進め、教育を核とした地域コミュニティを構築することを 目的として実施されており、平成 12 年度から毎年、県内の全ての公立学校を会場と して開催することを推進している。この「ミニ集会」では、各学校が保護者や地域 のニーズに合わせて、テーマを設定し、幅広い参加者から学校運営への声や期待を 聞くことができるものになっている。また、学校運営に関する内容以外にも参加者 が自由に意見交換をし、学校からも情報を発信することもできるものである114。 多古高校では、以上のような背景のもとで研究を進めながら、コミュニティ・スクール についての理解を深め、教育的効果や地域連携の深化、学校の生徒や職員の活性化、地域 の活性化等を目指した。 112 113 114 千葉県教育委員会(2012)「第 2 回香取地区地域協議会」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/kaikaku/miryoku/saihen/suisin-plan/documents/2190kiro ku.pdf 千葉県教育委員会(2009)「第 3 回魅力ある高等学校づくり検討委員会 資料 2 当面の課題Ⅱ」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/kaikaku/miryoku/saihen/suisin-plan/documents/3110data .pdf 千葉県教育庁教育振興部生涯学習課(2009)「学校を核とした県内 1000 か所ミニ集会について」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/seisaku/keikaku/senryaku/documents/minna21104.pdf 38 このように、地域で学校を活性化し、そして地域を活性化させたいという地域住民の意 志と、学校を地域とともに活性化したいという意志が一致したことが背景となり、コミュ ニティ・スクールの導入に至った。そして、平成 24 年 3 月に、県教育委員会により、学校 運営協議会を設置する学校として 3 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 ① 学校運営協議会に関すること 学校運営協議会では、学校運営協議会を年度ごとに 5 回開催し、学校運営の基本方針の 承認等を行っている。また、地域の教育課題を検討し、「ミニ集会」のテーマをどのよう に設定するかも議論されている。 具体的な取組については、3 つの部会(進路・学習指導、生徒指導、小・中・高・地域連 携)によって協議されている。 ② 進路・学習指導に関すること 学校運営の議論の前に、委員が学校を知るということから、教員の取組状況や授業の現 状や生徒の実態を見てもらえるように、毎月公開授業を実施している。 大学との連携では、2 年生が千葉科学大学を訪問し、見学や体験講義、学食体験が行われ、 約 160 名の生徒が体験講義を受講した。 コミュニティ・スクール導入以前から実施しているキャリア教育にも継続して取り組ん でおり、2 年次にはインターンシップを実施している。 ③ 生徒指導に関すること 学校運営協議会委員等を中心とした登校時のあいさつ運動を毎日実施し、はじめは、委 員のみで始めた取組であったが、生徒や教員、地域住民も参加するようになった。 ④ 小・中・高・地域連携に関すること 小・中・高連携については、町内の小学校において種や苗、花の植え方を高校生が児童 に指導するなどの交流学習を行っている。また、高校教員による多古中学校への出前授業 (国・数・英・理・社・体・農)や、部活動の中高合同練習を実施している。部活動交流 では、中高の顧問の交流も進んでいる。その他、1日体験入学や中学 3 年生を対象にした 国語、社会、数学、英語の特別講習も実施している115。 地域連携については、平成 25 年度の重点目標で「地域おこしで町おこし」としているよ うに、積極的に活動しており、多古町でおこなわれている「なのはな祭り(4 月)」「あじ さい祭り(6 月)」、「コスモス祭り(9 月)」等の地域行事への生徒がスタッフとして参 115 千葉県教育委員会ホームページ「平成 25 年度取組状況-コミュニティ・スクール」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/shougaku/renkei/chiba-community/h25torikumi.html 39 加しており、商店街での販売コーナーでは、授業で育成した野菜や草花の苗の販売も行っ ている。 この他、多古高校で栽培した米や落花生を県内施設へ提供し、多古高校産として使用さ れている。多古町と JAF 千葉支部は協定を結んでいることから、高校と JAF 千葉支部との 連携企画も生まれ、県内のホテルで高校生が栽培・収穫した野菜を使ったランチが提供さ れた116。 JAF 千葉支部との連携では、バイク通学生 105 名を対象とした交通事故防止と安全意識 の高揚を図るための講習会への協力も得ている117。 その他、学校開放講座として、農業生産講座を実施している。この講座では、生産流通 科の生徒と一緒に実習を行う。全部で 10 回あり、野菜づくりやそば打ちなど生徒とともに 学習できるものである。 広報については、町の広報誌を活用し、コミュニティ・スクールの内容や学校の取組を 地域住民に周知している。また、コミュニティ・スクールについて、地域・保護者の理解 を深めていくために、有識者による講演会を開催している。その他、テレビドラマの舞台 として撮影に使用してもらうなど、高校のアピールに努めている。 ⑤ その他 町議会でも、町の活性化につながるものとして多古高校への支援が協議され118、平成 25 年度には、多古高校を支援する予算が計上された119。 多古高校の印象や中学校生徒の意識について考えるため、平成 24 年度に、生徒・保護者 や地域住民、町内小中学の保護者・教職員、中学 3 年生を対象としたアンケートを実施し た。このアンケートでは 1800 名を超える回答を得ており、学校運営協議会における重要な 資料となっている。そして、学校の自己評価をもとに、学校関係者評価を実施し、次年度 の学校運営計画に反映させている。また、その結果を速やかに情報発信するなど、よりス ピード感のある学校改革につなげている。 (4) 成果と評価 平成 25 年度取組状況(平成 25 年 10 月 31 日現在)の報告では、多古高校の取組により、 「生徒が町の行事に自主的に参加するようになっている」、「生徒が校内だけでなく、街 中でも地域住民とあいさつを交わすようになっている」とし、「生徒の生活態度が落ち着 いてきた」と捉えている120。また「学校開放講座は、地域住民に好評であり、参加者が集 まっている」、「小学校との連携では、高校生と楽しく接することができており、小学生 116 117 118 119 120 千葉県立多古高等学校ホームページ「多古高校の情報」 、http://cms2.chiba-c.ed.jp/tako-h/ 同上 多古町(2012)『議会だより vol66』 ,pp.2-8 多古町(2013)『広報たこ 5 月号』 ,pp.2-3 千葉県教育委員会「平成 25 年度取組状況-コミュニティ・スクール」 、前掲ホームページ 40 に好評である」、「中高の教職員の交流が進んでいる」と捉え、「生徒の様子を地域に知 られる場面が増え、地域からの支援を得る機会が多くなった」としている。また、町ぐる みで、多古高校が魅力あふれる学校とするための方策について考えられ、生徒が自己肯定 感を高められる教育活動について多方面から連携・支援の声を得られているとしている。 学校運営協議会でも、同じように捉え、地元中学校保護者の授業参観が増えていること も指摘している121。広報活動などにより、多古高校が注目されていることが分かる。その 一方で、中学生は、偏差値で高校を選んでいるのでは、という意見もあり、基礎・基本の 学力の充実を図るとともに、町内の進学塾と連携した取組も検討されている。 また、国際空港が近隣にあり、そういった職場では英語ができる生徒が求められている という意見もあり、英語学習の強化も図られている。 教員の意識にも変化が見られ、毎月行われる公開授業等での意見交換も多くなり、新し い取組みの提案や改善案についての議論が自然に行われている。 今後の課題として、生産流通科を生かした普通科の特色づくりや、部活動の推進、中高 人事交流が挙げられている。また、多古町の児童生徒がこの学校に来たいと思われるよう な魅力のある学校づくりのため、地元自治体と協議する場を設けるなど、更なる取組みを 検討するなど、学力の向上や生徒指導など基本的なところから実績を積み重ねることによ って、地域から信頼される学校にしていくことが協議されている。 121 千葉県立多古高等学校ホームページ「第 3 回学校運営協議会議事録」 http://cms2.chiba-c.ed.jp/tako-h/cs/?action=common_download_main&upload_id=255 41 2.2.6 千葉県立長狭高等学校 (1) 学校概要 表 2-8 千葉県立長狭高等学校の概要 校 所 在 名 千葉県立長狭高等学校 地 千葉県鴨川市横渚 100 番地 沿革の概要 大正 11 年 長狭地方 10 ヵ町村の組合立として長狭中学 開校 昭和 3 年 千葉県立長狭中学校と改称 昭和 23 年 千葉県立長狭高等学校と改称 平成 24 年 創立 90 周年 コミュニティ・ 平成 24 年 4 月 1 日、指定の期間は 3 年で、再指定が可能122。 スクール指定年 (H24.4.1~H27.3.31) 月日と指定期間 三 大 綱 領 誠実 勤倹 高潔 学校教育目標 ○ 多様な社会の変化に対応し、自ら未来を切り拓く確かな学力を身 につけ、個性や創造性に富む人間を育成する。 ○ 責任とモラルを重んじ、人を思いやる心豊かな人間を育成する。 ○ 健康や体力の増進に積極的に取り組み、高い志を持ち、失敗を恐 れず挑戦することのできる活力ある人間を育成する。 重 点 目 標 (H25 年度 ) ○ わかる授業、質の高い授業を提供することで、学習習慣を確立さ せ、基礎学力の定着を図る。 ○ 3 年間を見通した進路指導計画に基づき、各学年の進路関係行事を 充実させ、個々の生徒の進路実現を図る。 ○ 部活動やさまざまな体験活動を通して、心身共に健全な生徒の育 成を図る。 ○ コミュニティ・スクールとして地域連携を一層推進するとともに、 医療・福祉コースの円滑な導入に向けて準備を進める。 生 備 徒 数 全日制普通科 479 名、 定時制 20 名(平成 25 年 5 月 1 日現在) 考 ○ 鴨川市には長狭高校と私立高校がある。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、鴨川市内が約 5 割、隣接する南 房総市・勝浦市が約 4 割、その他市町が 1 割である。 出典:千葉県立長狭高等学校ホームページ123及び『平成 25 年度長狭高等学校案内』より筆者作成 122「千葉県教育委員会規則第1号 123 学校運営協議会の設置及び運営に関する規則(平成 24 年 1 月 31 日) 」 第 3 条.3・4 から 千葉県立長狭高等学校ホームページ、http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/ 42 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 学校所在地である鴨川市は、先進的な小中連携を進めている。また、大学や医療大学が あり、大学のセミナーハウス誘致にも取り組み、地域文化の向上を図り、生涯学習の推進 に努めている124。 その鴨川市にある長狭高校は、長狭地方 10 ヵ町村の組合立として開校して以来、90 年以 上地域とともに歩んできた伝統校である。しかし、南房総地域の過疎化や少子化に伴い、 生徒数が減少し、学校規模が縮小した。こうした中で、生徒や保護者、地域にとって魅力 ある学校づくりが議論され、教育活動や地域連携の充実が課題として挙げられた。 そこで、平成 21・22 年度に、文部科学省の「コミュニティ・スクール推進事」の研究指 定を受け、鴨川市や鴨川市教育委員会と協力し、地域のニーズに応えることができる高校 を核とした地域ネットワークづくりと、地域に密着し地元に愛着を持ってもらえるような 学校の運営についての研究を行った。長狭高校では、コミュニティ・スクール推進委員会 (開かれた学校づくり委員会)を中心にして議論され、併せて委員以外の保護者や地域声 を反映させるため「ミニ集会」での協議も行った。 こうした背景と意図のもとで研究を進めながら、コミュニティ・スクールについての理 解を深め、教育的効果や地域連携の深化、学校の生徒や職員の活性化、地域の活性化等に 期待できると判断した。 このように、自治体や市内の各教育機関との連携を深め、学校及び地域の活性化を目指 したことが背景となって、コミュニティ・スクールの導入に至ったのである。そして、平 成 24 年 3 月に、県教育委員会により、学校運営協議会を設置する学校として 3 年間の指定 が承認された。 (3) 実践内容 長狭高校では、平成 25 年度重点目標の中で、基礎学力の定着や進路実現とともに、「コ ミュニティ・スクールとして地域連携を一層推進する」ことを明記し、実際に様々な取組 を行っている。 ① 学校運営協議会に関すること 学校運営協議会では、学校の運営や活動についての意見を出している。また、学校運営 協議会の後、長狭高校「ミニ集会」も開催している。この会では、地域住民や教育関係者 も加わり 50 名が集まった。そして、国立教育政策研究所教育政策・評価研究部から講師を 迎え、 「コミュニティ・スクールの意義について~その成果と課題~」についての講演と意 見交換を行っている。意見交換では、多数の質問や意見が出され、学校運営協議会委員に とっても、研修する機会になっている。 また、学校運営協議会では、平成 26 年度から開設される医療・福祉コースについての質 124 鴨川市ホームページ「大学等交流事業の概要」 http://www.city.kamogawa.lg.jp/JP/0001/0122/00001651_1_122.html 43 問が多く、生徒にとってよりよい教育課程になるように議論されている。 ② 学校全体に関する実践内容 まず、学校の情報公開では、学校の取組や生徒の様子を紹介する「コミュニティ通信」 を作成し、市内小中学校への配布及び駅前掲示板での掲示を行い、情報発信に努めている。 また、学校ホームページを一新し、それ以降も継続的な更新を行っている。 生徒に対しては、地域情報紙の「カモジン」を生徒全員に配付し、地域の情報を伝える ことにも努めている。 授業公開も行い、学校の教育活動を保護者、地域住民に知ってもらうようにしており、 平成 25 年 10 月には、安房地域の塾にも案内を行っている。また、土曜日に実施し、午後 には、進路講演会、PTA 総会、クラス別懇談会も行っている。その他、授業公開による教 職員研修も併せて行っている。 このように、学校の様子を見てもらうとともに、学校全体で地域に目を向ける取組を進 めており、鴨川市や市内の小中学校、大学などとの連携を検討し、強化を図っている。 具体的には、鴨川市ごみゼロ運動にボランティア参加したり、鴨川市・大学交流事業と して小学生を対象にしている「おもしろ科学教室」に、化学部が協力している。また、鴨 川市文化祭に美術部・写真部・書道部が出展し、鴨川市民音楽祭には、吹奏楽部と合唱部 が出演した。青年会議所主催のイベントには、書道部が参加し、書道パフォーマンスを実 施している。 ③ 小中学校・大学との連携 大学との連携では、市内の大学生が高校の文化祭に出展したり、大学で行われた国際交 流祭で、書道部や写真部が作品を出展するとともに、外国人留学生との交流を行ったりし ている。また、1 学年の学習合宿も大学の施設を会場にして行っている。この他、PTA 主 催による留学生との食文化交流会には、保護者・生徒が 51 名、大学の留学生 25 名が参加 している。長狭高校では、平成 26 年度から医療・福祉コースが開設されることになってお り、市内にある医療大学との学習に関する連携も進めている。 長狭高校の「強歩大会」では、コミュニティ・スクール活動の一環として地域住民や大 学生が協力し、交通安全指導係・応援係として支援を受けている。この行事は、昭和 50 年 代後半から行われており、生徒が長狭街道から嶺岡林道を歩く姿は、地域住民にとっても 季節の風物詩になっている125。 中学校との連携では、剣道部が、合同稽古会を開催している。平成 24 年度は 8 中学校 89 名が参加した。吹奏楽部は、安房地区の中学校 8 校とのジョイントコンサートを開催し、 チャリティコンサートとして募金活動も実施した。 125 長狭高等学校ホームページ「第 1 学年強歩大会を実施(平成 25 年 11 月 15 日) 」 http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/ 44 夏季休暇中には、市内の中学校 3 年生を対象に、大学等を会場として行われる「鴨川市 高校受験対策講座」において、長狭高校教員による指導を行っている。平成 25 年度は、高 校 3 年生も補助役として参加している。 小学校との連携では、市内の小学校支援ボランティアに生徒 5 名が参加し、算数を中心 に児童のサポート役として活動した。 このようなつながりの中で、中学生、高校生、大学生、県教育庁職員等が集い、意見交 換を行う「平成 24 年度南房総地域『中学生・高校生との交流会』」が、長狭高校で行われ た126。この取組は県内各地でも行われ、教育問題や青少年の課題が主なテーマになってい るが、長狭高校では、 「鴨川市に住み続けるには、どうしたらいいか」というテーマを設定 し、中学生だけでなく大学生も参加して、地域の活性化に関する議論が行われたことが特 徴的である。 ④ 地域との連携 地域との連携では、学校の地域貢献活動の一環として、市から提供されたゴミ袋を使用 し、通学路清掃を実施している。 その他、合唱部は、市内の病院で地域の合唱団と共演しており、美術部は、市内の病院 でアートインホスピタルに協力し、絵画作品を展示している。また、大学が行っている商 店街のシャッターアートプロジェクトにも協力している。 定時制では、夜間の授業に生徒とともに一般の方が学習できる講座として「世界史 A」 (週 3 単位)を開設した。 また、定時制の課程では、鴨川青年会議所との連携事業で、鴨川市の在来種で幻の枝豆 といわれる「鴨川七里」の栽培を始め、鴨川市、鴨川青年会議所、商工会、貝渚営農組合 や旅館組合との連携・協力を拡大し、収穫・販売まで取り組んだ。 (4) 成果と評価 コミュニティ・スクールになり、学校のホームページには、1 ヶ月平均で 6000 件を超え るアクセスがあり127、注目の高さが伺われる。また、長狭高校の学校運営協議会では、 「コ ミュニティ・スクールの活動によって、地域の中でも話題になることが多くなった。色々 な取り組みが、地域の方々に浸透してきているというイメージを持っている。学校評価を 見ても、徐々に改善してきているということが分かる128。」という意見があり、情報の発信 の強化や、地域での活動を積極的に行い、地域に認められるようになってきている。平成 126 127 128 千葉県教育委員会ホームページ「平成 24 年度中学生・高校生との交流会開催結果」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/seisaku/kouryuukai/h24kekka/nagasa.html 千葉県教育委員会ホームページ「平成 24 年度取組状況-コミュニティ・スクール」 http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/shougaku/renkei/chiba-community/h24torikumi.html 長狭高等学校ホームページ「平成 24 年度 第 4 回学校運営協議会 会議録」 http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/?action=common_download_main&upload_i d=4958 45 25 年度の保護者アンケートでも、学校に対する満足度や、生徒指導、進路指導、生徒の行 事参加など、全体的に良好な評価がなされている129。また、授業への満足度については、 「本 校は、分かり易い授業を目指し、心がけて、授業に取り組んでいる」 「本校は、生徒の特性 や進路希望を十分に考慮し、その実現を目指した満足度の高い進路指導に取り組んでいる」 などの項目で、昨年度より向上している。 平成 25 年度取組状況(平成 25 年 10 月 31 日現在)の報告では、長狭高校の地域での活 動は好評であるとしている130。 また、生徒は、地域との様々な連携を通して、異年齢の相手とのコミュニケーションを とったり、行事等で活躍することで、地域の人から認めてもらうという体験を得ることが できている。保護者もこうした点には満足度が高い。授業改善や学力の向上については、 他の項目と比べると満足度はそれほど高くない。学校運営協議会でもこのことに触れ、今 後も、授業公開や研究授業、生徒による授業評価等、これまでの取組における課題を精査 し、生徒それぞれの進路実現に向けた学力の保障に努力する必要があるとしている。 長狭高校では、平成 25 年度の入学者選抜(全日制)において、定員を上回る受験者数と なっており131、今後も継続できる取組と、それを支える組織づくりが求められている。 129 130 131 千葉県立長狭高等学校ホームページ「学校評価」 http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/?page_id=47 千葉県教育委員会「平成 25 年度取組状況-コミュニティ・スクール」 、前掲ホームページ 千葉県立長狭高等学校ホームページ「過去の入学者選抜(全日制の課程) 」 http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/?page_id=32 46 2.2.7 北海道別海高等学校 (1) 学校概要 表 2-9 北海道別海高等学校の概要 校 所 在 名 北海道別海高等学校 地 北海道野付郡別海町別海緑町 70 番地の 1 沿革の概要 昭和 25 年 北海道中標津高等学校西別分校 開校 昭和 51 年 北海道別海高等学校と改称 昭和 53 年 道立移管 平成 22 年 創立 60 周年 指定年月日と指 平成 24 年 5 月 9 日、指定の期間は 2 年で、再指定が可能132。 定期間 校 訓 教 育 目 標 日日是新 ○地域の発展を目指し、郷土の将来を担う前途有為な人間を育成する。 (全日制課程) ・自ら学ぶ人 (英知) ・互いに助け合う人(誠意) ・逞しく生きる人 (実践) 重 点 目 標 経 営 方 針 ○ 一人ひとりの生徒を尊重し学ぶ意欲を引き出し、自ら学ぶ姿勢を育てる。 ○ 基礎・基本を重視した授業改善に努め、確かな学力の定着を促す。 ○ 実験・実習等の実際的・体験的な学習を通して、問題解決能力を養う。 ○ 学年別進路指導の充実を図り進路意識を高め、進路実現に向けて努力させる。 ○ 生命を尊び、豊かな心と自らの健康を育み、心身を逞しく鍛える基礎を培う。 ○『地域に開かれた活気ある学校を創造する』~地域と共に歩む学校づくり~ ・学科の特色を生かした創意・工夫ある教育活動を展開し、学校の活性化を図る。 ・生徒・家庭・地域との相互理解により、信頼に応える教育活動を推進する。 ・学校課題を明確にし、課題解決に向けて組織的・計画的な実践的取組を行う。 ・地域に開かれ、信頼される学校づくりを推進する。 ・入学生徒の確保に努める。 ・教職員の健康増進と事故防止に努め、充実した職場づくりを推進する。 生 徒 数 全日制 普通科・酪農経営科 314 名、農業特別専攻科 14 名 (平成 25 年 5 月 1 日現在) 備 考 ○ 別海町内では唯一の高校である。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、別海町内が約 9 割以上。 出典:北海道別海高等学校『平成 25 年度 北海道別海高等学校要覧』より筆者作成 132 「北海道立学校における学校運営協議会の設置等に関する教育委員会規則第(平成 24 年 3 月 19 日)」 第 3 条.3 から 47 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 北海道教育委員会は、 平成 12 年 6 月に策定した「公立高等学校配置の基本指針と見通し」 の考え方に基づき、毎年度、 「公立高等学校適正配置計画」を策定している。また、中学校 卒業者数の増減に見合った収容定員の調整や学校の再編等を行うとともに、特色ある高校 づくりを進めてきた。そして、高校教育の一層の充実に向けて基本的な考え方を構築する 必要があることから、2004(平成 16)年 12 月に有識者で構成する「高校教育推進検討会 議」を設置し、2006(平成 18)年 8 月に「新たな高校教育に関する指針」を策定した。 その中で、 「地域に開かれ、信頼される学校づくりを一層推進するため、新しいタイプの 公立学校である地域運営学校(コミュニティ・スクール)を道立高校にモデル的に導入し ます133」と示し、導入に当たっての配慮事項として「地域と密接な連携を図ることができ、 地元中学校からの進学率が高く、中長期にわたり安定した学校運営や教育活動が展開でき る高校に導入します134」とした。 別海高校では、定時制酪農科が「別海町酪農後継者を育てる会」(平成 11 年 3 月設立) から支援を受けながら教育活動を行っていた。しかし、定時制酪農科から全日制への再編 により、これまで以上に実習教育の連携強化が必要であり、普通科においても、学校外で の体験が必要であるとして、地域ぐるみの教育実践や、地域に信頼される学校づくりを検 討した。このような中で、別海町長や別海町教育長への協力依頼が行われた。そして、平 成 19 年度文部科学省のコミュニティ・スクール推進事業委嘱を受け、コミュニティ・スク ール導入に向けての研究に取り組んだ。平成 21 年度には、北海道コミュニティ・スクール 推進事業を受け、継続して導入に向けた調査・研究を行った。 このように、北海道教育委員会の推進事業としての側面と、地域産業の後継者となる人 材育成が期待されているという側面が背景となって、コミュニティ・スクールの導入に至 ったのである。そして、平成 24 年に北海道教育委員会へ導入を申請し、学校運営協議会を 設置する学校として 2 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 別海高校では、学校運営協議会を「みんなで拓く学校づくり運営協議会」として、様々 な取組を提案している。そして、学校目標である「地域の発展を目指し、郷土の将来を担 う前途有為な人間を育成する」ために様々な取組が行われている。 ① 学校運営協議会に関すること 運営協議会には、内容に応じて地域の様々な関係者が参画できる下部組織がつくられて おり、多くの地域住民の意見を聞くことや、学校への具体的な支援ができるようにしてい 133 134 北海道教育委員会(2006)「新たな高校教育に関する指針 第 5 章教育に対する信頼に応えるための学 校運営の改善」http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/akd/hc/sisin5.pdf 同上 48 ることは特徴的である。そして、そこでの意見は学校運営協議会で反映し、議論できるよ うにしている。 図 2-2 北海道別海高等学校学校運営協議会組織図 出典:北海道別海高等学校学校ホームページ「北海道コミュニティ・スクール推進事業」より筆者作成 http://www.bekkai.hokkaido-c.ed.jp/07tokushoku-aru-katudou/CS-kousouzu.pdf この下部組織にあたる部会は、学習部会、生活部会、進路部会、健康教育部会、農業教 育部会があり、学校の教育活動に対して支援を行っている。また、部会ごとの協議や実践 も複数回にわたって行われている。 学習部会では、様々な職業についての理解を深めるために、 「もっと知りたい○○のこと」 を企画し、地域で働く人からの説明を受ける機会を設けている。 生活部会では、安全な環境づくりのため、町内の薄暗い箇所のマップを作成し、街灯の 増設を町へ要請する取組を行った。また、交通安全該当啓発活動に生徒が牛乳を配布し、 交通安全を呼びかけている。 進路部会では、インターンシップ受け入れ先の拡充を目指して、地域の企業や農家等に 広く呼びかけている。また、進路に関する講演会を企画し、地域の企業から資金援助を受 49 けて大学教授等の学識者を招聘している。この他、生徒の模擬面接で、地域の大人から指 導や助言を受けている。 健康教育部会では、健康ランチセミナーを開催している。また、保健師や中・高の養護 教諭の連携による懇談会を開催した。 農業教育部会では、JA やホクレン、農業普及センター、農業試験場等の関係機関と連携 を取り、地域ぐるみで酪農科経営を支援している。また、別海町酪農研修牧場の協力を受 けて生徒の実習が行われている。 ② 小中学校・地域との連携に関すること 小・中学校等との連携では、酪農経営科の園芸班、加工班がそれぞれ、農業体験やアイ スやクッキーの作製など、保育園児や小学生と様々な場面で交流会を行っている。また、 風蓮湖流入河川連絡協議会主催の「どんぐり教室」に参加し、別海保育園の園児たちと酪 農経営科 1 年生が「小さな手で、大きな森を」をキャッチフレーズに苗の床がえ作業を実 施している。この他、花苗・野菜苗の即売会や、園芸講座を実施している。 普通科では、3 学年が総合的な学習の時間で、町内の小学生と「模擬授業」や「レクレー ション」を通した交流会を行っている。 「模擬授業」では高校生が先生となって 1 年生に「図 工 プラ板作り」 、3 年生に「理科 シャボン玉」 、5 年生に「国語 漢字パズル」をテーマ に授業を行っている。 教員間の交流では、 「別海中央地区小中高一貫教育交流会」が毎年行われており、小中高 の教員が一堂に会して研修や情報交換を行っている。別海高校からは 80 名の教員が参加し ている135。 中学生 1 日体験入学では、高校で作成したクリアファイルを配布している他、地元の JA や漁協が昼食を提供して学校の生徒募集に貢献している。 その他の活動では、地元企業や別海町教育委員会などの支援を受け、別海高校の案内看 板を設置した。 このように、「地域のこどもは、地域で育む」という考え方のもと、別海町や地域から、 多くの人的支援や経済的支援を受けながら、地域ぐるみで生徒の育成が図られている。 一方で、地域への協力では、 「別海町産業祭」に酪農経営科と農業特別専攻科が、乳製品 や肉製品の試食や調理に協力したり、アトラクションへの参加や、学校生産物の販売を行 っている。また、 「別海町植樹祭」や「別海町共進会」にも参加している。 (4) 成果と評価 コミュニティ・スクール導入以前から、地域の教育支援は行われていたが、研究指定を 受けた後は、学校運営協議会の働きかけもあり、より多くの支援が得られている。 135 北海道別海高校ホームページ「平成 25 年度(後期)TOPICS」 http://www.bekkai.hokkaido-c.ed.jp/H24topics(H24-kouki)%20.html 50 また、学校運営協議会では、地域の要望を学校運営協議会で議論し、町(地域)へ要望 するという形もとられており、学校運営協議会を通して、学校運営の改善とともに、地域 の見直しにも役立っている。また、協力的な関係が築かれており、高校からの要望も出し やすくなっている。その一方で、保護者や地域の要望の収集や、運営協議会からの情報発 信については不十分であるとしている136。また、地域への貢献や、普通科の特色をどのよ うに出していくのかが課題とされている。 136 北海道別海高等学校「平成 24 年度学校自己評価および学校関係者評価の報告について 」 http://www.bekkai.hokkaido-c.ed.jp/PDF/h25hyouka.pdf 51 2.2.8 横浜市立南高等学校 (1) 学校概要 表 2-10 横浜市立南高等学校の学校概要 校 所 在 名 横浜市立南高等学校 地 横浜市港区東永谷 2-1-1 沿革の概要 昭和 29 年 横浜市港高等学校 開校 昭和 29 年 横浜市立南高等学校と改称 平成 24 年 横浜市立南等々学校附属中学校 開校 (併設型の中高一貫校) 平成 25 年 創立 60 周年 指定年月日と 平成 24 年 7 月 1 日、指定の期間は 3 年で、再指定が可能137。 指定期間 (H24.7.1~H27.3.31) 教育理念 知性・自主自立・創造 教育目標 ○ 学びへの飽くなき探求心の育成 ○ 自ら考え、自ら行動する力の育成 ○ 未来を切りひらく力の育成 ○ 「自主自立の精神を培い、調和のとれた人間の育成を図る」 高校指導目標 (H25 年度ま ・基礎学力の充実と主体的に学ぶ態度の育成 で) ・人権を尊重した、他人への思いやりと豊かな心の育成 ・健康な身体と逞しく生きる力の育成 ・将来のリーダーとなる素養の育成 生 徒 数 普通科 713 名、(平成 25 年 5 月 1 日現在) 平成 25 年度入学者から単位制を学年制に変更 備 考 高校・附属中学校のクラス編成は以下のようになっている。 表 2-11 南高校・附属中学校の学級数 出展:横浜市立南高等学校附属中学校ホームページ より筆者作成 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/jhs/gakkoukibo.html 出典: 『横浜市立南高等学校要覧 2013 年度』より筆者作成 137 「横浜市立学校における学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 17 年 4 月 1 日教育委員会規則第 15 号) 」第 3 条.3 から 52 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 横浜市立横浜南高校は、昭和 29 年横浜市港高等学校として創立し、横浜市南区民代表者 の要請により、横浜市港高等学校の名称を廃止し、横浜市立南高等学校に改称(昭和 29 年 5 月 1 日)して。この日を開校記念日としている138。このように、創立以来、市民の思いを 受けながら教育活動を行っている。 こうした中で、平成 21 年 4 月 28 日の横浜市教育委員会臨時会において、南高校におけ る中高一貫教育の導入について議論がされた。このことを受け、地元からは、「横浜市立南 高等学校を地域に根ざした高校として存続させることを求める要望書」 (平成 21 年 5 月 19 日受理)や、 「要望書(横浜市立南高等学校を中等教育学校にしないことについて)」 (平成 21 年 5 月 25 日受理) 、 「要望書(横浜市立南高等学校の存続について)」(平成 21 年 5 月 26 日受理) 、 「横浜市立高等学校の中等教育学校への改変に反対する請願」 (平成 21 年 6 月 1 日受理)などが教育委員会へ提出された139。 また、横浜市教育委員会の会議録に記載されている「横浜市立南高等学校を中高一貫校 にする計画の白紙撤回を求める要望書(平成 21 年 6 月 22 日受理) 」から、横浜南高校への 地域住民の思いの一端を見ることができる。 「 『南高校は中学生にとって憧れであり、学校に関わる人々や地域では評価の高い学校 です。この度、新聞各紙で南校に中高一貫校を設置するという提案を知り、ただただ 驚いています。事前に適切な話し合いや検討の機会もなく、学校関係者や市民も意見 が出せず、市民無視も甚だしいとの怒りの声も上がっています。南高校は土地所有者、 PTA、近隣の有志の方々の労苦の賜物であり、これまで学校関係者や地域が一緒に なって盛り立ててきたと思います。南高校が中等教育学校になれば小学生が受験をし、 これまでの部活動や学校生活はどのように存続できるのでしょうか。中高一貫校が超 難関校になり批判が出ていたり、制度導入から 10 年で文部科学省が検証を始めようと している実験途上の教育制度に、評価の高い伝統ある高校を変えていく必要がどこに あるのでしょうか。南高校を大切に思い、子どもたちや地域の高校として存続してほ しいと強く願います。 』というものです。要望項目は、『横浜市立南高等学校を中高一 貫校にする計画を白紙撤回してください』というものです。賛同署名 16,565 筆ととも に提出され、追加分として 3,309 筆が昨日届きました140。 」 その後、横浜市教育委員会は、説明会等を繰り返し行い、保護者や地域住民の理解を得 ている。平成 22 年度には合計 22 回実施し、説明会で実施したアンケートの結果等から、 138 139 140 横浜市立南高等学校『学校要覧 2013 年度』 横浜市教育委員会(2009b)「臨時会会議録(平成 21 年 6 月 23 日) 」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/21/0623.pdf 横浜市教育委員会(2009c)「臨時会会議録(平成 21 年 7 月 14 日) 」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/21/0714.pdf 53 6 年間の一貫した教育に対して高い期待が寄せられていると判断している141。 また、施設の改修や名称を配慮するなどの準備を経て、平成 24 年度に併設型の中高一貫 教育校として、南高校に南高校附属中学校が設置された。 そして、中高一貫校として、6 年間の安定した環境の中で、計画的・継続的な教育活動を 展開し、横浜はもとより国際社会で活躍する志の高いリーダーとなる人材の育成を目指す 142としている。そのために、教育内容への助言や支援、及び学校評価・授業評価による学 校経営の改善を行い、中高一貫教育の充実・発展につなげていくこと143を目指した。 このように、地域からの信頼が篤い南高校を中高一貫教育校にすることへの不安や反対 活動に対して、地域の理解を得ることや、新たな学校運営に、地域の声を反映させながら 教育内容の充実を図るという方針が背景となって、コミュニティ・スクールの導入に至っ た。そして、横浜市立南高等学校附属中学校開校後の平成 24 年 6 月に、学校運営協議会を 設置する学校として 3 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 南高校と附属中学は一体となって学校運営協議会を設置している。ここで、想定される 地域は、附属中の入学者の割合から見ると中学校区であり、高校では市内全域であり、歴 史から見るとこれまで学校を支えてきた地域である。よって、学校全体で想定する地域は 多様なものになっている。 ① 学校運営協議会の実践内容 学校運営協議会は、平成 24 年度は、7 月に指定を受けたので全 3 回行われ、平成 25 年 度は 4 回予定されており、副校長、教務主任が事務局となっている。委員は、地域住民 3 名、保護者 2 名、学識経験者 7 名、学校関係者 3 名の合計 15 名で構成され、市教育委員会 へ教職員の中高の兼務に関する要望を行っている。また、学校評価の分析を行いながら、 学校の課題とその改善について協議し、学校関係者評価を行っている。 ② 教育課程に関する実践内容 教育内容については、中高一貫校として、よりよい教育課程の検討を進めており、中高 の職員で複数の検討部会を組織している。 附属中学校では、総合的な学習の時間(愛称 EGG:Explor,Grasp,Grow)において、次 の 3 つを柱として活動している144。 141 142 143 144 横浜市教育委員会(2011) 『横浜市立高等学校 教育振興プログラム』 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/shinkou/pdf/hs-program.pdf 横浜市教育委員会(2010) 『横浜市立中高一貫教育校基本計画』 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/kyoiku-info/shisaku12000/kihonplan.pdf 横浜市教育委員会(2012b)「臨時会会議録(平成 24 年 6 月 22 日) 」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/24/0622.pdf 横浜市立横浜南高等学校附属中学校ホームページ「EGG とは」 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/jhs/h25egg.pdf 54 まず、「EGG 体験」では、豊かなコミュニケーション能力を育成する交流体験や研修を 行っている。自然体験や運動を通した人間関係作りなどの体験型の活動や、夏季英語研修・ イングリッシュキャンプ、カナダ修学旅行などの語学及びコミュニケーション学習などが ある。カナダのセカンダリースクールと姉妹校提携しており、学生の交流が続いている。 次に、「EGG ゼミ」では、課題発見・解決能力や論理的思考力を育成する多様な言語活 動、調査・研究、発表活動を行っている。1 年次には調査や研究・発表のための基礎的スキ ルを身につけ、2 年次にはテーマ研究を行い、3 年次には卒業レポートを作成する取組であ る。 最後に「EGG 講座」では、幅広い教養と社会性を育成し、将来の進路への興味・関心を 引き出すための講座が開催される。生徒は複数ある選択講座から、自分の興味・関心に応 じて選択することができる。必修講座は、(ア)消防士による防災講座、(イ)弁護士による法 教育講座、(ウ)K-DEC 開発教育講座、(エ)大学国際理解講座、(オ)JAXA 宇宙開発講座と なっている。選択講座には、(カ)JAXA 相模原キャンパス講座、(キ)JAXA 筑波宇宙センタ ー講座、(ク)海中ロボット講座、(ケ)医学部体験、(コ)動物園バックヤード体験、(サ)車両基 地訪問、(シ)パソコン分解講座、(ス)NCN(米国大学機構)海外留学講座、(セ)企業訪問、 (ソ)JICA 横浜国際協力講座、(タ)ファイナンス・パーク(生活設計体験)、(チ)CATCH YOUR DREAM(夢実現講座)、(ツ)テレビ局職業体験(テレビドラマづくり講座)、(テ)出張ス タジオ(ニュース番組づくり講座)、(ト)家づくり講座などがある。 このような取組を附属中学校で行い、高校へ進級することになる。そして、高校では、 こうした学習をさらに発展させ、6 年間を通した「総合的な学習の時間」となるように、検 討している。(平成 25 年度は、中学 1・2 年生が在籍し、この活動に取り組んでいる) そこで、高校では、「TRY&ACT」として、「国際社会とコミュニケーション」、「自 己探求」、「セミナー」を 3 つの柱とする活動を企画している145。そして、この活動を恒 常的・継続的に運営・改善するための組織編制や、土日の活用に関する計画作づくりが行 われている。 ③ 進路指導に関する実践内容 進路指導では、高校 2・3 年生を対象とした大学説明会を開催したり、進路掲示板の充実 やセンター試験対策にも取り組んでいる。また、教職員を対象とした学力や学習時間、セ ンター入試についての研修も行われている。この他、中高 PTA と共同して保護者対象の大 学見学バスツアーも実施されており、保護者への進学啓発にも取り組んでいる146。平成 26 年度の教育課程においても、センター試験の受験に対応できる教育課程にすることなどが、 学校運営協議会で承認されている。 145 146 横浜市立横浜南高等学校附属中学校ホームページ「EGG とは」 、前掲ホームページ 横浜市立南高等学校ホームページ「南高校 校長室通信 第 13 号」 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/education/kocho_tushin/251030_13.pdf 55 ④その他 広報活動については、教育内容を広く社会に伝えるとともに、付属中の生徒に対しても 高校の魅力を伝えるように努めている。また、平成 27 年度の入学者については、1 クラス の募集となるので、高校に進学する生徒が 比較的多い区の中学校への説明や、現在中学 2 年生への説明会が実施された147。 南校祭(展示の部)では、PTA や同窓会による発表・展示も併せて行われており、多数 の保護者や同窓生が参加している。その他、近隣の小学生に高校を訪問してもらい、高校 の施設内の探検を実施したり、吹奏楽部が地域の祭りに参加している。 南校祭(体育祭の部、舞台の部、展示の部、後夜祭の部)では、中学生と高校生が協力 して活動している。また、高校教員が中学生の学習指導や部活動指導に協力している。 (4) 成果と評価 横浜南高校に附属中学校が併設された後、学校運営協議会が設置されており、コミュニ ティ・スクールとしての活動期間は約 1 年半である。また、中高一貫教育としての取組が 始まったばかりである。来年度には、中学 1 年生から高校 3 年生まで初めて揃うことにな る。(表 2-11 参照)そして、附属中学校へ入学してきた生徒が卒業するのは、平成 30 年 3 月である。このように、学校全体の形が完成していない中で、コミュニティ・スクールと しての影響や成果についても、まだまだ見えない状況である。 設置の初年度は、学校も学校運営協議会も試行錯誤が多く、要望等にもすぐに対応でき なかった。しかし、何回か会を開くことで、学校の取り組みや課題、生徒の様子なども理 解してもらうようになり、昨年度から検討し、準備していたことが徐々に実現している。 また、もともと、同窓会や後援会、PTA 等が協力的であり、今後、さらなる連携体制がつ くられようとしている。そして、責任を伴った意見を得られるコミュニティ・スクールは、 魅力ある学校づくりや、施設整備のための予算要求、高校の教職員の意識(授業改善、教 員間の連携など)を変えることなどに対して、一つの手段になっており、「学校改革への 推進力」として捉えている。 学校関係者評価委員による学校評価も委員と同一メンバーで行われており、「平成 24 年 度学校評価」では、教育活動の状況や、学校経営の状況、保護者・地域等と連携協力の状 況などについての意見も多くあり148、より具体的で明確な評価につながっている。 課題としては、これまで学校を支えてきた地域との連携が少ないことや、教職員の中で、 コミュニティ・スクールであるという意識があまり高くないことが挙げられ、連携活動の 工夫や情報交換が必要とされている。 147 148 横浜市立南高等学校ホームページ「南高校 校長室通信 第 6 号」 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/education/kocho_tushin/250624_6.pdf 横浜市立南高等学校ホームページ「平成 24 年度学校評価アンケートのまとめ」 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/hyo-ka/g_hyo-ka/h24_hyouka.pdf 56 2.2.9 三重県立白山高等学校 (1) 学校概要 表 2-12 三重県立白山高等学校の概要 校 所 在 名 三重県立白山高等学校 地 三重県津市白山町南家城 678 番地 沿革の概要 昭和 23 年 三重県久居高等学校家城分校 開校 昭和 34 年 家城分校 廃止 昭和 34 年 三重県立白山高等学校 創立 平成 20 年 創立 50 周年 コミュニティ・ 平成 25 年 4 月 1 日、指定の期間は 2 年で、再指定が可能149。 スクール指定年 (H25.4.1~H27.3.31) 月日と指定期間 校 訓 目指す学校像 「努力」「誠実」「強健」 ○ 地域を愛し、地域を活性化できる生徒の育成を目指す ○ 確かな学力と規範意識の育成 (基本理念) 中長期的な 重点目標 ・学習指導・生活指導・進路指導の一層の充実を図り、生徒が社会 生活を営む上で必要な学力や規範意識を育成する ○ 地域とともにある学校づくりの推進 ・地域とともに歩み、地域とともに生徒を育てる学校として、地域 連携によるキャリア教育、連携型中高一貫教育の取組成果を踏まえ、 地域の声を生徒育成および学校づくりに生かす ○ 生徒のための教職員組織づくりの推進 ・生徒の多様なニーズにきめ細かく対応し、主体的に提案し実践で きる教職員の組織づくりを推進するとともに、校内研修(OJT)等 を活用した人材育成や業務改善に取り組む 生 備 徒 数 普通科・情報コミュニケーション科 293 名(平成 25 年 5 月 1 日現在) 考 ○ 白山中学校・美杉中学校と連携型中高一貫教育を行っている。 ○ 出身中学校別の生徒数の割合は、白山・美杉中が約 2 割、その他 津市内が 3 割、松阪市内・その他が約 5 割である。 出典:三重県立白山高等学校『学校要覧平成 25 年度』より筆者作成 149 「三重県立学校における学校運営協議会の設置に関する規則(平成 19 年 4 月 1 日教育委員会規則 第 4 号) 」第 3 条.3 から 57 (2) コミュニティ・スクール導入の背景と意図 白山高校は、白山・美杉地域の生徒が通学できる高校が必要であるとして地域の要望か ら、開校した歴史がある。また、地元の生徒が多く在籍していたことから、地域との連携 を教育目標の一つに掲げていた歴史がある。しかし、近年では、地元生徒の進学率が減少 し、生徒の流出が課題となっている。 こうした中で、特色ある学校づくりの一環として、平成 8 年度から 3 年間、旧文部省の 「勤労体験学習総合推進校」の指定を受け、地元の事業所と連携を行い、職場体験学習に 取り組んだ。また、平成 19 年度から文部科学省の「高等学校におけるキャリア教育の在り 方に関する調査研究における推進校」の指定を 3 年間受け、インターンシップ等のキャリ ア教育の充実に取り組んだ。このような取組により、「地域連携を基盤とした系統的なキャ リア教育」は、現在の教育活動の柱の一つとなっている。 また、平成 13 年度からは、近隣の白山中学校、美杉中学校との間で、連携型中高一貫教 育に取り組み、地域との連携による行事や教育フォーラムの開催等、地域の教育力を活用 した取組を継続してきた。 この他、生徒・保護者・教師で策定した「生徒と教師による成長の 21 条」を掲げ、この 21 条を構成している 5 つの要素( 「目的意識」 「社会力」 「コミュニケーション力」 「読・書・ 算」 「協調性」 )を意識した授業の推進や、授業研究に関する校内研修の推進を図り、生徒・ 保護者・地域本意、職員重視の考え方に基づく取組を生徒と教師が一丸となって進めてい る150。 このような背景の中で、平成 23 年度には、文部科学省の「コミュニティ・スクールの導 入に関する調査研究」の指定を受け、学校運営協議会制度の導入についての研究を始めた。 そして、コミュニティ・スクールの導入は、学校運営に保護者や地域の視点が取り入れら れるなど、学校の活性化に有効な手段であると判断した151。そこで、系統的なキャリア教 育や中高一貫教育で培った成果を取り入れながら、地域との連携をより深めるため、平成 25 年度より学校運営協議会を設置し、地域に開かれた学校づくりを進めていくことを目指 した。 このように、以前から取り組んでいる連携型中高一貫教育について、地域全体で議論す ることや、生徒・保護者・地域本意、職員重視の考え方を重視することなどから、コミュ ニティ・スクールの導入に至った。そして、平成 25 年 4 月に、三重県教育委員会によって 学校運営協議会を設置する学校として 2 年間の指定が承認された。 (3) 実践内容 学校運営協議会に関すること 150 151 三重県立白山高等学校ホームページ「生徒と教師による成長の 21 条」 http://www.mie-c.ed.jp/hhakus/manage/index.html#21 三重県教育委員会(2013)「教育委員会会議録(平成 25 年 3 月 14 日) 」 58 白山高校学校運営協議会の委員には、中高一貫教育推進会議の委員やインターンシップ の受入企業主等、これまでの取組に深くかかわってきた人も多く含まれている152。こうし た委員の構成やこれまでの高校の取組から、学校経営に関係者の声をより一層反映するこ とによって、地域から信頼される生徒育成や学校づくりを推進している。 ② 連携型中高一貫教育に関すること 連携型中高一貫教育については、高校生活入門講座を開催し、白山中学校 3 年生 103 名・ 美杉中学校 3 年生 16 名が参加した。そして、8 つの班に分かれ、学校紹介と施設・部活動 見学と授業体験を行っている。 授業体験では、英語・数学・国語・社会・理科・家庭・商 業・福祉の授業を経験し、高校生活の体験ができる機会となっている。 また、白山・美杉地域連携型中高一貫教育推進会議を開催し、活動報告や今後の計画等 についての協議が行われている。 この他、 「第 9 回白山・美杉地域教育フォーラム」を開催し、連携各校職員の他、地域関 係者も含め 61 名が参加した。また、この会では、同県の紀南高校学校運営協議会の委員に よる講演も行われ、学校運営について話し合いや教育目標の承認、予算の承認、人事の承 認、その他様々な取組についての説明を受けている153。 ③ キャリア教育・地域連携に関すること 白山高校では、 「地域と連携したキャリア教育の充実」のため、7 年前から学校全体の取 り組みとし、2 学年の夏にインターンシップ(5 日間)を実施しており、平成 25 年度は、 津・松阪・伊賀など 26 店舗の事業所の協力を得て、実施した154。就職希望者は、学校プロ デュース型、セルフプロデュース型に分かれ、津・松阪を中心に、約 25 か所の事業所の協 力を得て実施し、進学希望者は、学習意欲を高めていくために、県内外の学校のオープン キャンパスに参加し、模擬授業やクラブ活動を体験した。 地域への貢献としては、通学路や地区内の駅・バス停などの清掃活動を通じて、自分た ちの日頃の生活や周囲の人々への感謝を形にしようということで、学校所在地である家城 地区内の清掃(クリーン作戦)に参加している。 (4) 成果と評価 白山高等学校は連携型中高一貫教育に取り組んでいるが、連携中学校からの進学率が低 く、制度の趣旨を十分に生かせていない現状がある155ことから、今後の連携の在り方につ 152 153 154 155 同上 三重県立白山高等学校ホームページ「平成 25 年度 第 9 回 白山・美杉教育フォーラム」 http://www.mie-c.ed.jp/hhakus/chuko/index.html 三重県立白山高等学校ホームページ「インターシップについて」 http://www.mie-c.ed.jp/hhakus/career/index.html#careerplan 三重県教育委員会(2012)「三重県教育改革推進会議 平成 24 年度第 2 部会」 http://www.pref.mie.lg.jp/KYOKAI/HP/kaigi/dai3kaidai2bukaikeikakuann.pdf 59 いて議論されている。 また、業務全般において教職員個人の力量に負うところが多く、学校経営の改革方針を 意識した組織的な業務改善への取組が検討されている。 コミュニティ・スクールとして 1 年目であり、地域を愛し、地域を活性化できる生徒を 育成する取組については、これからの検討事項となっている。 第 2 章の最後に、コミュニティ・スクールを導入した背景や意図、実践内容、成果と評 価、について整理した表(表 2-13、表 2-14)を掲載する。 60 表 2-13 「コミュニティ・スクールを導入した背景や意図、実践内容、成果と評価①」 校 名 大 方 高 校 紀 南 高 校 Y S F H 岡 山 後 楽 館 高 導入の背景 意図 実践内容 ・高校の再編に対 し、地域住民・保 護者・教育関係者 からなる 「学校の 未来を語る会」 が 発足した。そし て、新しい学校の 学校像・教育課 程・学校システム などについて地 域の声を入れな がら議論を重ね るなど、 地域から の熱意ある働き かけが行われた ことが導入の背 景となった ・地域参画型の学 校として、新しい 学びのシステムの 構築に取り組む ・学校運営の改善 を図るとともに、 黒潮町唯一の高校 として、地域再生 計画に基づく「知」 のネットワークの 中心としての役割 を果たすことや、 生徒の自尊感情の 醸成やリーダーシ ップ、プレゼンテ ーション能力の育 成を目指す ・教育情報をオープン化 し、説明責任を果たす ・地域の特性を活かした学 校設定科目を実施 ・高度な資格取得への挑戦 ・生涯学習の拠点としての 公開講座、聴講生制度の導 入 ・町をプロデュース「15 のミッション」に挑戦、 ・地域や大学との連携によ る「自律創造型地域課題解 決学習プログラム」の実践 ・地域住民や保護者との協 働による清掃活動 ・募集定員が満た されず、 学校の存 続が危ぶまれて いることに対し、 学識経験者、教育 関係者、 地域関係 者及び保護者等 の委員からなる 「紀南地域高等 学校再編活性化 推進協議会」で議 論されたことが 導入の背景とな った ・地域とともに生 徒の生きる力を育 む高校教育を推進 する学校、 『地域の 学校』としての再 生を目指す ・地域に開かれた 学校づくりに取り 組み、学校の活性 化と生徒や地域に とって魅力のある 学校をつくること ・小中高合同清掃活動や交 通安全運動の実施 ・地域の歴史や文化を学習 する科目を設定 ・1 週間に 1 日(年間では 25~26 日) 、就労体験を実 施 ・コミュニティ通信を発行 し、生徒だけでなく、紀宝 町・御浜町・紀和町の全家 庭、及び周辺地域の中学校 教職員にも配布 ・入学者数はほぼ定員を満たしている ・保護者や地域の意見・要望を把握す る取組が進展した ・地域住民や保護者による学校行事等 への参画の機会が増加 ・生徒の学習環境が改善 ・授業に地域住民が参加したことで、 生徒の授業に取組む姿勢が向上した ・地域行事へ生徒が参加するようにな った ・生活・学習の両面で、生徒の姿が良 くなったと評価されるようになった ・教職員がコンプライアンスやアカウ ンタビリティへの意識を高めている ・横浜市の教育改 革のパイオニア としての位置づ けや、多様な関係 者との連携、そし て地域住民への 説明責任を果た すことの必要性 などが導入の背 景となった ・科学技術先端都 市の形成の一翼を 担い、産学との連 携による人づくり を進める ・小・中・高・大 を貫く教育改革の パイオニアとして の実践を進める ・大学教授や先端科学技術 分野における優れた功績 を有する学識者、研究機 関、大学、企業などが、ス ーパーアドバイザーや技 術顧問として参画 ・先端科学技術に対応した 教育内容や施設・設備のあ り方について指導助言を 受けるとともに、技術顧問 と連携した講座等も開講 ・小中学生と共に学ぶ取組 を実施 ・パソコンや実験機器の維持・更新の ための予算の確保、教員の勤務継続を 市教育委員会へ要求できる手段になる ・先端科学技術などの研究面で、国内 だけなく、国際的にも表彰される ・希望進路の実現による進学の実績を 上げている ・地域や近隣の小中学校との連携につ いて一定の実績をあげているが、さら に連携可能な内容の検討が求められ る。 ・教員は研究指導や進学指導による生 徒の成長を感じ、やりがいを感じる ・岡山市の条例に より、岡山型コミ ュニティ・スクー ルが推進されて いたことや、シテ ィキャンパス構 想による体験を 重視した学習を 展開していたこ とが導入の背景 となった ・個性や創造性の 伸長を図るととも に、豊かな人間性 や自律心の育成を 目指す ・身近な町内会か ら岡山市内全域ま で幅広く連携を持 って、学校運営を 活性化するととも に、家庭や地域社 会の教育力向上を 図るシステムを作 る ・通常の科目や総合的な学 習の時間等において、周辺 の自然環境や文教施設等 を学習フィールドとした 校外学習を実施 ・市民が生徒とともに授業 を受ける形の「公開講座」 を開設 ・体育館に併設されたコミ ュニティハウス及びグラ ウンドを活用し、地域住民 が集まる場所として利用 している ・地域や文教施設等と連携した学習に 取組んでおり、地域の教育力が生かさ れている ・生徒のボランティア活動が活発 ・学校施設が、地域住民が集まる場所 として利用されている ・学校の特色は、他の一般的な高校と は違うので、地域にその特色を理解し てもらうことが課題 ・学校のこれらの取組や運営について 分析を行い、指導助言することにより、 発展的に後押しをする役割を担ってお り、これにより様々な取組がより充実 したものとなっている 校 筆者作成 61 成果と評価 ・地域の中学生が減少する中で、1 日 体験入学に多くの中学生が参加し、入 学者数の大きな減少はない ・生徒が地域を学び、地域への愛着を 深めている ・生徒たちは、各種の取組を通して、 確実に自信を回復し、夢に向かって努 力する姿勢が芽生えようとしている ・利益の双方向性をめざした新しい連 携の形が、確実に地域の信頼を回復に 向かっているという手応えを感じてい る ・「教職員が教育的効果を実感してお り、継続のインセンティブとなってい る 」 ・基礎学力の定着や生徒の進路実現が、 不十分である ・校長や教職員の異動がある中で、開 校の理念の継承に努めながら、さらな る改善を図ることができている 表 2-14 「コミュニティ・スクールを導入した背景や意図、実践内容、成果と評価②」 多 古 高 校 長 狭 高 校 別 海 高 校 横 浜 南 高 校 白 山 高 校 導入の背景 意図 実践内容 成果と評価 ・高校は、町の教 育・文化・産業の 活性化の一端を 担う存在であり、 非常に存在感の ある大事な施設 となっているこ とや、学校におい て募集定員の確 保が課題となっ たこと、 町におい ては、地域の活性 化が課題となっ たことなどが背 景となった ・多古町や多古町 教育委員会、町内 の小中学校等との 連携をより一層強 化し、保護者や地 域住民が地域の教 育に関わる体制を つくり、学校運営 の改善と地域全体 の教育力の向上を はかることを目指 す ・毎月公開授業を実施 ・学校運営協議会委員等を 中心とした登校時のあい さつ運動を毎日実施 ・小学校との交流学習や、 中学校への出前授業、部活 動合同練習などを実施 ・祭りなどの地域行事に生 徒がスタッフとして参加 ・学校開放講座として、農 業生産講座を実施 ・町の広報誌を活用し、コ ミュニティ・スクールの内 容や学校の取組を地域住 民に周知 ・町議会で、町の活性化につながるも のとして多古高校への支援が協議さ れ 、平成 25 年度には、多古高校を支 援する予算が計上された ・生徒が町の行事に自主的に参加 ・生徒が校内だけでなく、街中でも地 域住民とあいさつを交わすようになっ ている ・生徒の生活態度が落ち着いてきた ・学校開放講座は、地域住民に好評で あり、参加者が集まっている ・中高の教職員の交流が進んでいる ・中学生保護者の授業参観が増加 ・普通科における特色づくりや、進学 指導のさらなる充実が求められている ・南房総地域の過 疎化や少子化に 伴い、生徒数が減 少し、学校規模が 縮小したことや、 鴨川市が地域文 化の向上を図り、 生涯学習の推進 に努めているこ となどが導入の 背景となった ・鴨川市や鴨川市 教育委員会と協力 し、地域のニーズ に応えることがで きる高校を核とし た地域ネットワー クづくりを目指す ・地域に密着し地 元に愛着を持って もらえるような学 校の運営を目指す ・学校に対する満足度や、生徒指導、 進路指導、生徒の行事参加など、全体 的に良好な評価を得る ・学校のホームページには、1 ヶ月平 均で 6000 件を超えるアクセスがある ・平成 25 年度の入学者選抜(全日制) において、定員を上回る受験者数とな った ・地域の人から認めてもらうという体 験を得ることができており、保護者も こうした点では満足度が高く、授業改 善や学力の向上については、満足度は それほど高くない ・北海道教育委員 会の推進事業と して条件に適し た高校であった ことや、 地域産業 の後継者となる 人材育成が期待 されているとい うことが導入の 背景となった ・地域の発展を目 指し、郷土の将来 を担う前途有為な 人間を育成するこ とや、地域ぐるみ の教育実践、地域 に信頼される学校 づくりを目指す ・「コミュニティ通信」を 作成し、市内小中学校への 配布及び駅前での掲示 ・市内の小中学校との連携 活動を実施 ・高校主催、大学主催、市 主催、民間企業・団体主催 などの多様な活動に参加 ・市、青年会議所、商工会、 貝渚営農組合や旅館組合 と連携し、在来種の枝豆 「鴨川七里」の栽培・収 穫・販売を実施 ・内容に応じて地域の様々 な関係者が参画できる学 校運営協議会下部組織を 設置 ・地域で働く人による職業 についての懇談会や、模擬 面接などを実施 ・小中学校との交流会や連 携学習や、教員間の交流会 も実施 ・産業祭に酪農経営科と農 業特別専攻科が、乳製品な どの試食や調理に協力 ・南高校における 中高一貫教育の 導入について、 地 域や同窓会の理 解と協力を得る ことや、 新たな学 校運営に、地域の 声を反映させな がら教育内容の 充実を図ること が背景となった ・教育内容への助 言や支援、及び学 校評価・授業評価 による学校経営の 改善を行い、中高 一貫教育の充実・ 発展を目指す ・附属中学校の学習を、高 校でさらに発展させるた め、6 年間を通した「総合 的な学習の時間」について の活動を企画 ・生徒対象の進学試験対策 や教職員対象の学力や学 習時間、センター入試につ いての研修を実施 ・中高 PTA と共同して保 護者対象の大学見学を実 施 ・連携中学校生徒に対し、 高校生活入門講座を開催 ・連携型中高一貫教育推進 会議や域教育フォーラムを 実施 ・通学路や地区内の駅・バ ス停などの清掃活動を実施 ・就職希望者は、学校プロ デュース型とセルフプロデ ュース型に分かれてインタ ーンシップを実施 ・学校の取り組みや課題、生徒の様子 などについて、学校運営協議会委員の 理解が深まっている ・当初は戸惑いがあったが、昨年度か ら検討し、準備していた取組が徐々に 実現している ・高校の教職員の意識(授業改善、教 員間の連携など)を変えることなどに 対しての一つの手段になる ・市教育委員会への予算要求や教職員 の中高の兼務などの要望を出せる ・地域との連携は多くない ・地元中学校から の進学率が低く ・地域と連携したキ なっていること ャリア教育や中高 や、地域連携を基 一貫教育で培った 盤としたキャリ 成果を取り入れな ア教育を実施し がら、地域との連携 ていること、連携 をより深め、地域か 型中高一貫教育 ら信頼される学校 に取り組んでい づくりを目指す ることなどが背 景となった 筆者作成 62 ・自治体や地域から、多くの人的支援 や経済的支援を受けながら、地域ぐる みで生徒の育成がなされている ・地域の要望を学校運営協議会で議論 し、町(地域)へ要望するという形も とられており、学校運営協議会を通し て、学校運営の改善とともに、地域の 見直しにも役立っている ・護者や地域の要望の収集や、運営協 議会からの情報発信については不十分 ・地域への貢献や、普通科の特色をど のように出していくのかが課題 ・コミュニティ・スクールとして 1 年 目であり、今後の実践内容を検討中 ・連携型中高一貫教育の在り方につい ての議論が中心 ・業務全般において教職員個人の力量 に負うところが多く、学校経営の改革 方針を意識した組織的な業務改善への 取組を検討 第3章 3.1 コミュニティ・スクールを導入した公立高校の比較分析 導入の背景や意図による比較分析 公立高校におけるコミュニティ・スクール 9 校について、背景や導入の意図を比較分析 すると 2 つのタイプに分けられる。1 つ目は地域の期待を受け、学校の存続が重視されてい るタイプである。2 つ目は、教育委員会や保護者・地域から、特色ある教育内容の充実が重 視されているタイプである。ただし、前者が特色ある教育内容の充実をおろそかにしてい るというわけではない。また、後者が地域の期待を受けていないということでもない。何 が最も重視されているかというものである。従って、この 2 つのタイプの取組や成果等に ついては共通するものもある。 3.1.1 学校の存続と地域の活性化が重視されているタイプ 少子化・過疎化が進み、学校の統廃合が行なわれる中で、学校の存続に対して、強い危 機感を持っている学校所在地の地域は、 「わが町の高校」として高校に対する期待も大きい。 特に、市町の中に 1 つの高校という場合、地元の自治体や市区町教育委員会の協力を得ら れやすい。 1 つ目のタイプは、学校の存続が問われる中で、コミュニティ・スクールを導入した高校 である。9 校のうち、大方高校・紀南高校・多古高校・長狭高校・白山高校が挙げられる。 このタイプの高校では、学校運営協議会で、学校が存続していくために何が必要なのか を議論し、その手段として、地域の信頼が得られ、地域の子どもが進学を希望するような 魅力ある高校づくりに取り組んでいる。そのためには、地域の理解と協力を得ながら、地 域と協働していく体制が必要である。そして、その体制づくりの方策の 1 つとなっている のがコミュニティ・スクールである。これまでも、学校評議員制度や学校関係者評価など、 地域の声を反映し、学校運営の改善を図る方策も実施されているが、コミュニティ・スク ールは、評価や意見を得るだけでなく、地域住民との協働をより可能にするものとして活 用されている。そして、学校運営協議会を通して、高校のために何か協力したいという人 や組織と、学校での問題解決のために地域の教育力を生かしたいという高校が繋がること ができている。学校運営協議会に、このような繋ぎ役となる委員がいる場合は、特に連携 活動が活発である。 また、このタイプの高校では、教育目標や目指す学校像が「地域とともに発展する」と いうような明確なものであり、地域は高校の教育活動に協力的である。そして、地域を活 性化する取組や、地域に貢献する取組の充実に努めている。生徒は、地域での活動を通し て、市民社会に関する知識理解や、社会の一員として参画し貢献する意識などを育んでお り、将来どこに住むかは分からないが、それぞれの地域を支える力になり得る。教職員も こうした生徒の変化を感じており、仕事量は増えるものの、地域との連携に対して積極的 である。 63 3.1.2 特色ある教育内容の充実が重視されているタイプ 2 つ目のタイプは、教育委員会や保護者・地域から特色ある教育内容の充実が重視されて いるタイプである。9 校のうち、横浜サイエンスフロンティア高校、岡山後楽館高校、北海 道別海高校、横浜南高校が挙げられる。北海道別海高校については、少子化の影響を受け ているものの、入学者のほとんどが地元中学生であり、地域からは後継者育成のための教 育内容の充実が期待されており、学校の存続については、導入時点では大きな問題になっ ていないので、こちらのタイプに分類した。 このタイプの高校では、それぞれが特色ある教育内容の充実をはかり、様々な取組を実 施する中で、地域や研究機関などとの連携により、一層の充実を図るため、コミュニティ・ スクールを導入している。導入については、教育委員会の施策による一面もあり、学校や 地域からの要請は強くない。 このタイプの特徴は、コミュニティ・スクールとして、地域と連携し地域を活性化させ るというような活動より、その高校がもともと有している特色(SSH、中高一貫教育、酪 農経営など)が目立っていることが挙げられる。聞き取り調査においても、学校運営協議 会としての独自の活動は、あまり見られず、学校の組織運営の改善や予算等に関する議論 が多くなっており、教育活動を発展的に後押しする役割を担っている。 生徒は、高校の特色のもとで、それぞれの生徒の興味・関心や専門性を高めながら、将 来の進路を選択し、決定する能力や態度を育んでいる。生徒の活動として地域でのボラン ティア活動も実施しているが、地域としては、協力しながら、基本的にその活動を温かく 見守るという様子である。教職員は、教科や担当によって意識が大きく違い、コミュニテ ィ・スクールであるという意識は全体的には高くない傾向がある。 3.1.3 タイプごとの成果と評価に関する分析 次に、先ほど分類したタイプごとの成果と評価について分析する。 学校の存続と地域の活性化が重視されているタイプで多く見られた成果と評価は、地域 の歴史や文化を学習する学校設定科目を新たに設け、生徒の地域理解が深まっていることや、 地域行事へ参加する生徒が増えていること、地域行事や産業の活性化に貢献できたことが挙げら れる。また、地域が学校の活動に協力的になっていることや、教職員が地域連携に積極的になっ たこと、高校説明会への参加者が増加したことなどが挙げられる。このように、地域との連携に ついての実践を通した成果が上がっている。募集定員も概ね満たされており、地域からの評判が 変化し、高校に対する信頼や期待が高まっていることが伺える。一方で、進学指導に対する取組 の強化が求められており、課題となっている。 特色ある教育内容の充実が重視されているタイプでは、学習面での支援、進路指導面で の支援などについての成果が多く見られる。また、それぞれの高校の特色を伸ばしていく ための学校運営改善に役立つと捉えている。学校の特色に応じて、地域や学識者の専門的 な力が活かされており、生徒の学習支援につながっている。一方で、地域との連携につい 64 ては、活動の回数も多くはなく、更なる強化が求められている。 以上のように、タイプ別で、成果や評価は異なるが、共通するものも多くある。 9 校に共通する成果と評価は、小中学校や大学との連携による活動が増加したことや、生徒 が進路について考える機会が増加したことなどが挙げられる。こうした取組により、様々な連携 を通して生徒のコミュニケーション能力や表現力が向上したことや、社会性が身につくことにつ いても成果があると捉えている。また、高校の活動への理解と協力が得られやすくなったことや、 より実際の教育活動に即した学校評価につながっていることが挙げられる。一方で、学校運営協 議会が要望した予算や教員配置が実現したという学校は少ない。この他、災害時の避難・救援活 動につながるという意見も少数ながらあった。一方で、教員の人事に関することや、予算の要求 については、教育委員会へ説明責任を求めることができるが、要求の実現は難しいようである。 このように、タイプ別にかかわらず、成果があると評価している事柄も多くあり、高校におけ るコミュニティ・スクール導入に関して、どちらのタイプであっても成果があると捉えることが できる。 現在、コミュニティ・スクールを導入している 9 校はいずれかのタイプに分類できたが、こ の分類の他に、都市部の一般的な普通科高校が挙げられる。こうした高校では、コミュニティ・ スクールを導入した例がなく、今回の実践分析の範囲外となるので、全国の高校にとって一律に 有益であるとは判断できなかった。 3.2 公立高等学校におけるコミュニティ・スクールの独自性 ここでは、公立高等学校におけるコミュニティ・スクールの独自性について考察する。 公立高校におけるコミュニティ・スクールの独自性は、2 つ挙げられる。 1 つはコミュニティ・スクールを導入した小中学校との違いである。高校は、生徒の通学 範囲が広範であり、学校所在地の出身ではない生徒が通学している場合が多い。ゆえに、 学校所在地域では、地域外からの生徒と捉えることも多く、生徒・保護者は、場合によっ ては縁のない場所と捉える。このようなことがあり、何もしなければ、連携は進まない。 また、もともと交流が少ないので、印象で判断してしまう。このことは、地域と高校が連 携を持ちにくい理由の 1 つになっている。また、高校生の教科学習に対し、保護者や地域 は支援をしにくいことや、高校は授業時間の確保で精一杯ということが挙げられる。 このような状況において、コミュニティ・スクールが導入されることで、学校運営協議 会により、目指す学校像に応じた取組を議論することになる。学校によって取組は様々で あるが、学校内外での活動が行われる。はじめは強制性を帯びていたとしても、地域や小 中学校・大学、研究機関等の人との連携により、次第に相互理解も深まる。こうした活動 が継続されることで、高校生は社会参画を意識でき、地域社会に貢献できる人材になり得 る。 2 つ目は、従来の地域連携との違いである。従来の地域連携では、個別の教員や個別の関 係者による連携が行われ、高校全体としての取組に発展しにくい。また、活動に対する評 65 価や改善が行われない場合が多い。そこで、コミュニティ・スクールを導入することで、 組織的な活動について地域の声をふまえながら議論でき、また、その活動について地域の 協力が得やすくなる。そして、学習の実態に即した評価と改善を行いながら継続・発展さ せることができる。 こうしたことから、公立高校におけるコミュニティ・スクールでは、これまで地域との 隔たりがあった高校に地域の声が反映され、ニーズに応じた取組を実施することで、地域 からの信頼が深まり、地域との協働関係を築くことができる。そして、地域をはじめとす る様々な人との関わりを通して、生徒が社会に参画し、自立して生きていく能力が養われ る機会が増える。卒業後、進学や就職などにより、社会に出て行く生徒に対し、社会的・ 職業的自立や、地域に貢献する意識などの市民性を育成することにつながる。高校におけ るコミュニティ・スクールはこうした能力を育成する機会を増やす 1 つの方策になり得る。 66 第4章 4.1 政策提言と課題 政策提言 本研究では、コミュニティ・スクールを導入した高校における導入の背景や意図、実践 内容、及び成果と評価を明らかにし、それをもとに分析を行った。各校とも、それぞれ学 校や地域の特性に応じて実践しており、それぞれに課題もある。今後の改善についても議 論されている。そこで、これまでの分析を踏まえて、今後、公立高校においてコミュニテ ィ・スクールの導入を選択肢の 1 つとして視野に入れている教育委員会及び公立高校に対 して政策提言を行う。 4.1.1 (1) 教育委員会への提言 生徒の減少により高校の統廃合が想定される中で、地域住民からの存続要請がある 場合、コミュニティ・スクールの導入を促進し、そのための研修会等を行い、導入意 欲を喚起する。ただし、これが最後の手段というわけではなく、あくまで、学校運営 の改善を促すための 1 つの方策である。 学校の存続に対して、強い危機感を持っている地元地域は、 「わが町の高校」として 高校に対する期待が大きく、高校への関心も高くなる。そこで、コミュニティ・スク ールを導入することで、高校は、地元地域のニーズを把握し、地域の積極的な支援を 受けながら、地域との協働体制を構築することができる。そして、学校が活性化し、 地域からの信頼感が得られるようになると、生徒も集まりやすくなる。高校と地域が ともに活性化できる方策となる。 高校のコミュニティ・スクールの制度や実践内容、成果については、あまり知られ ていない。よく分からないままでは、導入に対するインセンティブが生じにくいので、 学校や地域に対して研修会等を通した説明が必要となる。 (2) 教育委員会の施策として特色ある学校(中高一貫教育や理数科学校など)を設置す る場合、同時にコミュニティ・スクールの導入を促進する。 特色ある学校づくりにおいて、学校外の専門家や地域住民の協力は不可欠である。 そして、コミュニティ・スクールは、学校外の専門家や地域住民との協働を可能にし、 その学校の特色を支え、発展させる方策の 1 つとなり得る。コミュニティ・スクール を導入しなくても、その学校の特色に応じた活動は見られるであろうが、コミュニテ ィ・スクールを導入し、外部の専門家や地域の意見を学校運営全体に反映させること は、教育委員会が目指す特色ある学校づくりに役立つものになる。 67 4.1.2 (1) 高等学校への提言 コミュニティ・スクールの導入に際して、当初から教育方針や目指す学校像などの 意図を明確に位置づけておく。 コミュニティ・スクール導入時に目指す学校像のように明確で具体的な意図がある と、学校運営協議会も動きやすく、具体的な取組についての議論ができる。導入後、 委員の意見によって変わっていくかもしれないが、曖昧な目標のままでは、具体的な 活動を行うことができずに、ただの「寄り合い」になってしまう恐れがある。 学校の目標はそれぞれ違いがあるが、地域に貢献することについての目標設定が重 要である。地域や保護者のニーズを把握し、地域の教育力を得るだけでなく、地域に 貢献できる取組の内容や手段を検討し、学校・家庭・地域が一体となった協働関係を 構築することで、継続的な活動が可能になる。 (2) 長期的な視野でコミュニティ・スクールに取り組む。 コミュニティ・スクールの導入による学校や生徒、地域等の成果・変化はすぐには 現れない。長期的な視野で、目指す学校像に向けて地道に取り組んでいくことで、少 しずつ、生徒の前向きな変化が現れ、地域の理解と信頼が得られる。特に、導入当初 は、教員の多忙感が大きくなるが、持続可能な無理のない活動の積み重ねが大切であ る。持続的に取り組むことで成果や変化を目の当たりにして教員のインセンティブも 向上する。 4.2 研究の課題 本研究では、コミュニティ・スクールを導入した公立高校への聞き取り調査や資料等に より、9 校の導入の背景や意図、実践内容、及び成果と評価を明らかにした。また、それを もとにした分析を行った。しかし、学校運営協議会委員や生徒、保護者や地域住民への聞 き取りは行っておらず、あくまで高校からの視点による実証である。そのため、より詳細 な取組みの様子や成果・変化についての総合的な分析を論述はできていない。今後、その ような調査を行うことで、より客観的な分析を行うことが可能になるであろう。 4.3 おわりに 本研究を進める中で、様々な情報を提供していただいた。その 1 つとして、公立高校に おけるコミュニティ・スクールに関連した奈良県の取組を紹介する。 奈良県では、学校コミュニティ(奈良モデル)として、学校の校務分掌に「コミュニテ ィ部」と、地域との窓口「学校コミュニティ協議会」を設置し、地域と熟議を行う仕組み づくりを推進している156。平成 25 年度には、公立小中学校の 86.7%が学校コミュニティ協 156 奈良県教育委員会ホームページ「平成 25 年度まなびの支援」 http://www.pref.nara.jp/secure/27148/manabih25p2.pdf 68 議会を設置する学校コミュニティを導入し、県立学校でも 7 校(高校 6 校、特別支援学校 1 校)が県立モデルとして導入している157。この、学校コミュニティは「地域とともにある 学校づくり」として取り組んでおり、各校の特色を生み出し、継承・発展させることを目 的としている。組織体制の形については、各学校の状況に応じて柔軟な形で運用できると している。また、教頭が部長となり、人事を中心議題としないこととしている。平成 26 年 度には、この奈良モデルによる取組を、全ての県立学校で実施するという方針である。 このように、公立高校においても、政策としてコミュニティ・スクールまたは、そのよ うな仕組みを持った学校運営が広がっているので、ここに紹介した。高校におけるコミュ ニティ・スクールに対して、教育委員会が肯定的にとらえようとしている反応の一つであ り、かつ今後さらに広がっていく可能性を示唆していると考える。 本研究では、高校におけるコミュニティ・スクールについて、従来の地域連携から一歩 踏み込んだ 9 校から、貴重な資料等をいただいた。また、背景や意図、取組事例等につい て長時間にわたりを聞かせていただくことができた。こうした情報提供なしでは、本研究 を行うことはできなかった。ここに感謝申し上げる次第である。 最後に、この研究を進めるにあたり、1 年間御指導いただいた今野雅裕先生、永井順國先 生をはじめ、政策研究大学院大学教育政策プログラムの先生方に、心より御礼申し上げま す。また、今回このような機会を与えてくださいました、愛媛県教育委員会の皆様に感謝 いたします。その他、聞き取り調査に御協力いただいた教育委員会、学校の皆様のおかげ で研究を完成させることができました。ありがとうございました。 なお、本論文は筆者の個人的見解を示すものであり、本論文における見解および内容に 関する誤りは、すべて筆者の責任であること申し添えます。 157 奈良県教育委員会ホームページ「県立モデル校プロジェクト会議」 http://www.pref.nara.jp/secure/101008/kenritsumodel.pdf 69 参考文献 ・伊藤りさ(2006) 「学校運営協議会制度における評価と支援のあり方を巡って -ニュー ジーランドの制度を参考に-」 『レファレンス No.662(2006 年 3 月)』国立国会図 書館,pp.84-98。 ・大林正史(2011)「学校運営協議会の導入による学校教育の改善過程」『日本教育行政学 会年報 No.37』pp.66 -82。 ・金子郁容(2008) 『日本で「一番いい」学校-地域連携のイノベーション-』岩波書店 ・黒光貴峰(2009) 「高等学校における地域との連携に関する研究その 3 ―実践事例から みた連携の効果―」 『鹿児島大学教育学部研究紀要 教育科学編』Vol.59, pp.93-106。 ・小仲一輝(2012) 「高等学校における地域連携に関する一考察 ―事例の検討からみる現 状と課題―」 『京都教育大学教育実践研究紀要』第 13 号,pp.271-280。 ・佐藤晴雄(2001) 「戦後の学校と家庭・地域の関係史」 『学校と地域でつくる学びの未来』 ぎょうせい,pp.4-13。 ・鈴木昭彦(1999) 「地域に開かれた学校教育の研究 -高等学校と地域社会の連携を図る ためには-」 『東京大学大学院教育学研究科教育行政学研究紀要』18 号, pp.89-112。 ・関芽(2012) 「学校運営協議会の意思決定の正当性に関する一考察」 『駒沢女子大学 研究 紀要』第 19 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http://www.pref.kochi.lg.jp/uploaded/attachment/8877.pdf ・国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(2012) 『平成 23 年度 若者の就労支援 に資する地域の教育活動等の総合的な展開に関する調査研究報告書』 ・佐藤晴雄(2012) 「第Ⅲ部第 2 章 学校運営協議会の機能とコミュニティ・スクールの成 果」 『コミュニティ・スクールの推進に関する教育委員会及び学校における取組の成 果検証に係る調査研究報告書』コミュニティ・スクール研究会,pp211-223。 ・佐藤晴雄(2013) 「第 2 部第 2 章 学校運営協議会への関わり方から見た教職員の学校変 容認識-指定校データ-」 『地域とともにある学校づくり、学校からのまちづくりの 推進に関する調査研究 コミュニティ・スクールによる効果と自治体の教育施策推 進に関する調査研究』三鷹ネットワーク大学推進機構、三鷹教育・子育て研究所 コ ミュニティ・スクール研究会,pp198-205。 ・柴田彩千子(2012) 「第Ⅲ部第 8 章 未指定校における条件と学校環境に関する分析」 『コ ミュニティ・スクールの推進に関する教育委員会及び学校における取組の成果検証 に係る調査研究報告書』コミュニティ・スクール研究会,pp264-270。 ・生涯学習審議会答申(1996) 「地域における生涯学習機会の充実方策について(平成 8 年 4 月 24 日)」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_gakushu_index/toushin/13 15169.htm ・勢力稔(2013) 「台風 12 号による被害と紀南高校の対応-災害安全の効果的な推進のた めに-」 http://www.pref.mie.lg.jp/KYOIKU/HP/bosai/kyozai/kinankoukou.pdf ・総務省(2013) 『地域活性化拠点として学校を活用した地域づくり事例調査』総務省地域 創造グループ地域自立応援課,pp.83-92。 ・多古町(2012) 『議会だより vol66』 ・多古町(2013) 『広報たこ 5 月号』 ・千葉県教育委員会(2009) 「第 3 回魅力ある高等学校づくり検討委員会 資料 2 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http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/21/0623.pdf ・横浜市教育委員会(2009c) 「臨時会会議録(平成 21 年 7 月 14 日)」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/21/0714.pdf ・横浜市教育委員会(2010) 『横浜市立中高一貫教育校基本計画』 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/kyoiku-info/shisaku12000/kihonplan.pdf ・横浜市教育委員会(2011) 『横浜市立高等学校 教育振興プログラム』 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/shinkou/pdf/hs-program.p df 73 ・横浜市教育委員会(2012a) 「平成 24 年度横浜市立高等学校第三者評価結果」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/shingikai/koukouhyoka/hyoukasho24.pdf ・横浜市教育委員会(2012b) 「臨時会会議録(平成 24 年 6 月 22 日)」 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soshiki/kaigiroku/24/0622.pdf ・横浜市経済局「横浜サイエンスフロンティアの目指すこと」 http://www.city.yokohama.lg.jp/keizai/sogyo/life/ysf/ysf01.html ・臨時教育審議会(1987) 「教育改革に関する第 2 次答申」『臨教審答申総集編』ぎょうせ い 学校案内・学校要覧 ・岡山市立後楽館高等学校『学校案内平成 25 年度』 ・高知県立大方高等学校『学校要覧平成 25 年度』 ・千葉県立多古高等学校『平成 25 年度学校要覧』 ・千葉県立長狭高等学校『平成 25 年度長狭高等学校案内』 ・北海道別海高等学校『平成 25 年度 北海道別海高等学校要覧』 ・三重県立紀南高等学校『学校要覧平成 25 年度』 ・三重県立白山高等学校『学校要覧平成 25 年度』 ・横浜市立南高等学校『学校要覧 2013 年度』 ・横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校『学校案内 2014』 法令・規則 ・「岡山市地域協働学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 17 年 4 月 1 日教育委員会 規則第 11 号) 」 ・ 「岡山市立小学校、中学校の就学に関する規則(平成 25 年 2 月 23 日市教育委員会規則第 9 号) 」 ・ 「高知県立学校における学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 18 年 3 月 15 日教育 委員会規則第 6 号) 」 ・「千葉県教育委員会規則第1号 学校運営協議会の設置及び運営に関する規則(平成 24 年 1 月 31 日) 」 ・ 「北海道立学校における学校運営協議会の設置等に関する教育委員会規則第(平成 24 年 3 月 19 日) 」 ・ 「三重県立学校における学校運営協議会の設置に関する規則(平成 19 年 4 月 1 日教育委 員会規則第 4 号) 」 ・ 「横浜市立学校における学校運営協議会の設置等に関する規則(平成 17 年 4 月 1 日教育 委員会規則第 15 号) 」 74 参考ホームページ ・岡山市教育委員会ホームページ http://www.city.okayama.jp/kyouiku/kyouikusoumuka/kyouikusoumuka_00065.html ・岡山市立岡山後楽館高等学校ホームページ http://www.city-okayama.ed.jp/~korakukan/New_koutoubu/ ・鴨川市ホームページ http://www.city.kamogawa.lg.jp/JP/ ・高知県教育委員会ホームページ http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/310000/ ・高知県立大方高等学校ホームページ http://www.kochinet.ed.jp/ogata-h/ ・千葉県教育委員会ホームページ http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/ ・千葉県立多古高等学校ホームページ http://cms2.chiba-c.ed.jp/tako-h/ ・千葉県立長狭高等学校ホームページ http://saas01.netcommons.net/nagasakou/htdocs/ ・奈良県教育委員会ホームページ http://www.pref.nara.jp/kyoiku/ ・北海道教育委員会ホームページ http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/ ・北海道別海高等学校学校ホームページ http://www.bekkai.hokkaido-c.ed.jp/ ・三重県教育委員会ホームページ http://www.pref.mie.lg.jp/kyoiku/hp/ ・三重県紀南高等学校ホームページ http://www.mie-c.ed.jp/hkinan/ ・三重県立白山高等学校ホームページ http://www.mie-c.ed.jp/hhakus/ ・文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/ ・横浜市教育委員会ホームページ http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/ ・横浜市立大学ホームページ http://www.yokohama-cu.ac.jp/ 75 ・横浜市立南高等学校 http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/ ・横浜市立南高等学校附属中学校ホームページ http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/hs/minami/jhs/index.html ・横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校ホームページ http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/sidou2/koukou/sfh/ ・NPO 砂浜美術館ホームページ http://www.sunabi.com/about/history/ 76