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資料室 > レポート/研究
欧州特許庁抗告廷決定 T 0998/99 (ロレアル)について
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2003年9月15日、欧州特許庁抗告廷は、同じ優先権を、 同じ発明に関する複数の欧州出願で主張することは、欧州特許
条約87(1)条に基づき不可能であるとの判断を下した。
本決定の重要ポイントとコメントは次の通り。
1. 本決定に至るまでの状況
化粧品会社ロレアルは皮膚代用物、皮膚への化粧品効果を研究するための立体的構造を持った代用物、に関する多数の特
許を持っている。
a.
同社は1987年3月26日フランス出願FR8704205を行った。
この出願が日付の異なる二つの欧州特許出願において優先権として使用された。
一つ目の出願は1988年3月2日に行われEP285471として公開された。本決定ではこの出願を57aと呼んでいる。
二つ目の出願は1日遅れの1988年3月3日に行われ、EP285474として公開され特許交付された。本決定ではこの特許が
最終的に取り消された。
b. 取り消された出願も57aに相当する出願も明細書の説明部分が全く同じで、どちらの出願も製品、この場合皮膚
代用物サンプル、をクレームしているところが本決定解釈にあたってのキーポイントである。
二つの出願の唯一の違いは製品のクレームの書き方にあった。57a出願においては、取り消されたほうの出願のように製
品の純粋の構造的特徴に基礎をおかず、どちらかと言えば製法的に製品をクレームしていた。抗告廷は、明細書説明部分
の内容が全く同じであるところから、クレームの書き方が異なるにせよ、二つの出願は全く“同じ発明”に関するものであ
ると、判断した。
2. 抗告廷決定について
抗告廷は次のように判断した。
− 欧州特許条約は、同じ国に同じ発明に関する複数の出願をするに際し同じ優先権を何度も主張できるかどうかについ
ての規定を有していない、
− この問題は例外規定に該当すると思慮されるところからパリ条約が厳格に適用されるべきである、
従って本件に関しては、出願57aだけが優先権の日付1987年3月26日を享受できる。またその結果57aは、欧州特許条約
54(3)条に基づき一日遅れの同じ発明に関する出願の新規性を喪失させることになり、後者は取り消されるのが妥当であ
る。
3. 本決定に関するコメント
a.
優先権主張について、欧州特許庁は非常に厳しい態度を長年とり続けている。
たとえば大抗告廷判決G3/93では、優先権出願がA+Bを開示していて1年後になされた欧州出願がA+B+Cであったとす
る。そして優先権出願A+Bがその間に公開されてしまったとする。と、その欧州出願A+B+Cは優先権を主張できない。
その結果、欧州出願は、公開された先の出願A+Bを使用して進歩性に関する攻撃を受け得る。A+Bを有効に出願した出
願人は、実際にはA+Bの公開という事実に対して“免疫力”を持っていないのである、としている。また大抗告廷判決
G2/98*1では、優先権出願で開示されているのと全く同じものに対してだけ欧州出願は優先権を持つ。追加された技術的
特徴は(たとえそれがクレームを制限するものであっても)それらが優先権書類で明示的に明確に説明されていなければ
優先権を主張することはできない、としている。
従って将来も、今回の決定のように、“ひとつの優先権をもとに同じ発明について複数の欧州特許出願をすることはでき
ない”、との決定が欧州特許庁で繰り返される可能性は考えられる。ひとつの、あるいは複数の優先権を繰り返し主張し
て複数の欧州特許出願をすることに慣れている米国や日本企業にとっては注意が必要であろう。
b.
しかし、本件はあくまで明細書説明部分が全く同一、同じカテゴリーのクレームを持つ二つの出願、というどちら
かといえば例外的なケースを取り扱っているので、本決定のみで欧州特許庁の最終的態度が決まった、とみなすのは時期
尚早であるかもしれない。
たとえば次のような場合が想定されるとき欧州特許庁がどのような判断を下すかは明らかではない、と思われるからであ
る:
-
同じ基礎出願について優先権を主張する二つの欧州出願が同一日に出願された場合、そして/あるいは
二つの欧州出願が同じ基礎出願の異なる部分をもとに優先権を主張した場合はどうなるか*2。たとえばひとつの
欧州出願は製法をクレームし、もうひとつは製品をクレームしているとき。または、優先権出願がカバーしている異なる
実施例ごとに別々の欧州出願がなされたとき(発明の単一性に基づく拒絶が出ることが出願前に明らかであるとき、出願
前に発明の主題ごとに別々に出願することが考えられる)
*1 弊事務所HPにG2/93に関する記事を掲載
*2 ひとつの優先権出願の異なる部分を別々の欧州出願として出願する必要が実質的には多いと思われる。二重特許の問
題は、しかしながらT0998/98では明示的に扱われていない。
© CABINET BEAU DE LOMENIE/2004年5月 翻訳 渡辺恵子
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Tél : +33 (0) 1 44 18 89 00 - Fax : +33 (0) 1 44 18 04 23
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