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将来のクリーンエネルギー源の一つとして注目されている色素増感太陽電池

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将来のクリーンエネルギー源の一つとして注目されている色素増感太陽電池
(酸化チタン材料の光・電子物性の解明とその応用に関する研究)
本研究グループでは、代表的な機能性酸化物である酸化チタンの光・電子物性に着目し、
下記のテーマに沿った体系的な研究を進めています。
I. 液体ゲート型電界効果トランジスタ構造による新規電子移動度評価法の開発
将 来の クリ ー ンエ ネル ギ ー源 の一 つ とし て注 目 され てい る 色素 増感 太 陽電 池
(Dye-Sensitized Solar Cell: DSSC)は、色
素で修飾された多孔質状の酸化チタン
(TiO2)薄膜と電解液、透明電極から成る
電気化学的な構造を持ちます。軽量かつ安
価な製造コストという利点に加え、近年で
はエネルギー変換効率が 10% を超え、実
用化に目処が立つといわれる 15 % へ向
けての更なる効率向上を目指して、激しい
図 1. 色素増感太陽電池における動作機構の模式図.
研究・開発競争が繰り広げられています。一般的な DSSC では、可視光照射によって
励起された色素で電子・正孔対が形成され、電子は TiO2 薄膜の伝導帯へと高速に移動
し、透明電極へと到達します。一方、正孔は、TiO2 薄膜と電解液との界面でヨウ化物イ
オンの酸化反応(3I-+2h+ →I3-)に寄与し、他方の対極では、三ヨウ化物イオンの還元
反応(I3-+2e →3I-)が生じます。可視光照射によってこの過程が繰り返されることで、
電気エネルギーが取り出され、電池として働くことになります。
このDSSC のエネルギー変換効率を決める要因の一つとして、電子輸送層であるTiO2
薄膜の電子移動度(μe)が挙げられます。
μeが大きくなると、(i) 薄膜中の電子移動
が高速になる、 (ii) 薄膜から電解液中へ漏れ出す電子と、電解液中の三ヨウ化物イオ
ンとの反応が抑制される、という効果が生じ、透明電極への電子輸送が効率的になる結
果、エネルギー変換効率の向上につながると期待されます。従って、DSSCの素子内に
おける TiO2 薄膜の電子輸送特性の指標となる μeの定量的評価とその結果に基づいた
高移動度TiO2 薄膜の作製が大変重要となるわけです。しかし、DSSC 内部では、多孔質
酸化チタン薄膜内を電解液が浸透し、多孔質状のTiO2 薄膜と電解液が混在した状態とな
るため、その電気伝導機構も「TiO2 内の電子伝導」と「電解液中のイオン伝導」の両者
が共存した複雑なものとなってしまいます。こうした背景もあり、電解液中でのTiO2
薄膜の電子移動度の測定手法の開発はきわめて重要な研究課題となっています。
そこで、当研究グループでは、液体ゲート電極を有する電界効果トランジスタ(Field
Effect Transistor : FET)に着目し、微小ギャップが形成されたITO透明導電膜をソース・
ドレイン電極、電解液に参照電極を浸したものをゲート電極として、TiO2 のアナターゼ
型ナノ結晶から成る薄膜 FET を作製し、その評価を行っています。これらの実験を通
じて、色素増感太陽電池のエネルギー変換効率向上に貢献する知見を得ることを目的と
した研究が進行しています。
(連絡先)
野田、上田
II. 気相分子による光触媒反応を用いた高速水素発生機構の解明と新規水素発生源への応
用
省エネルギー/環境調和に基づく次世代の循環型社会を
実現するための基盤技術として効率の良いクリーンエネル
石英窓
紫外光
四重極
質量分析計
気相水または
アルコール
ギー源の開発が急務となっています。その中で、光触媒活性
を利用した太陽光(紫外光及び可視光)エネルギー変換によ
る水素生成が燃料電池用のエネルギー源の一つとして注目
を集め、光触媒反応による水やアルコールの直接光分解によ
る水素発生が盛んに研究されています。
光触媒試料
しかし、光触媒による水素発生については、光触媒材料
と金属触媒を混合させたものを液体(水、アルコール)
ガス補集管
ガス導入
ノズル
ヒーター付き
試料ホルダー
図 1. 高真空下での光触媒反応分析
に浸して行われるのが一般的です。この場合、液中で発
装置(光触媒反応チャンバー)
生した水素ガスが気泡となる過程が不可避であり、大気
の模式図.
中に水素を取り出す時の速度に限界が生じるため、それ
が産業応用へ向けての致命的な欠点となることが懸念されます。将来、高速運転の必要な
機械(例. 自動車など)の駆動を行うためには、高速発生が可能な新しい水素生成手法を
開発する必要となるでしょう。
この背景の下、当研究グループでは、極微量の気相水
/アルコールを用いた、高真空下での光触媒反応による
水素生成に着目し、その反応過程で発生する気体を分析
するための高真空チャンバーを独自に開発致しました。
(以下、光触媒反応チャンバーと呼ぶ。)この装置を用
いて、高真空下(10-7 Torr 程度)での白金担持アナター
ゼ型酸化チタン
(Pt/TiO2)薄膜表面において、気相ア
ルコール/水の直接光分解による水素発生を、高感度か
つ実時間で検出することに、世界に先駆けて成功致しま
した。(図 2 参照)本測定系は、光触媒反応過程での
表面状態を評価する上で有力な新手法となり得ます。ま
た、気相光分解反応による水素発生は、液体中での水素
図 2. 気相メタノールの光分解に
よる水素発生の実時間検出.
発生の欠点を克服した、新しい高速水素生成手法を開拓する上での足がかりになると期待
されます。
現在、「高真空下での光触媒反応」という新しい着想に基づいて、その反応機構の解明、
並びに新規水素発生源へ応用するための基盤技術の開発を目標に、研究を行っております。
(連絡先)野田
III. 紫外線照射下における光触媒表面の構造・電子物性変化の直接観測
紫外線照射中の酸化チタン光触媒表面では電子・正孔対(励起子)の生成・分離、表面
原子空孔(酸素欠陥)の生成、表面水酸基やラジカルの生成など、複雑な現象が絡み合っ
ています。そのため、光触媒反応メカニズムと、それに関連した紫外線照射下での表面状
態の詳細については、未だに疑問が数多く残っています。
そこで、当研究グループでは、以下の測定手法を用いた、紫外線照射下での構造・電子
物性変化の直接観測を試みています。
・ 全反射 X 線面内回折計を用いた、光触媒試料の極表面での格子変化の検出。
・ 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)の発展型であるケルビンプローブ原子
間力顕微鏡(Kelvin Probe Force Microscope: KPFM)による、光触媒表面のナノスケール
電位分布測定。
・ 直流微小電流や交流インピーダンス法による、光触媒表面の電気特性の測定。
(連絡先)野田
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