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心・技・体 - 関西電力HPへ

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心・技・体 - 関西電力HPへ
R&D
R&D NEWS KANSAI
2012 JULY
Vol.469
7
巻頭言
「心・技・体」三位一体となった
物づくり新時代へ
研究紹介
高圧配電線路における
効果的な耐雷対策の検討 他
R&D
R&D N EWS KANSAI
2 012 JU LY
Vol.469
7
Contents
巻 頭 言
1
「心・技・体」三位一体となった物づくり新時代へ
研 究 紹 介
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
電力システム技術センター 地中送電グループ
154kV大サイズ・大異径用RBJの特性評価
研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)
土壌熱抵抗の簡易測定手法の検討
電力流通事業本部 ネットワーク技術運用グループ
高圧配電線路における効果的な耐雷対策の検討
経営改革・IT本部 通信技術グループ
センサを活用した通信設備保全データの取得について
土木建築室 建築設備エネルギーグループ
蓄熱システム自動制御の合理化による、汎用蓄熱コントローラーの開発研究
研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター
高圧条件下でのアミン溶液へのCO 2 吸収特性解析研究
研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室(プロジェクト)
大型放射光施設“SPring-8”を用いたCO2化学吸収液の構造解析
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
集合住宅向けヒートポンプ式床下冷暖房システムの評価研究
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
空調機器のシミュレーション技術の紹介について
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
SOFCの電極微構造とセル性能の関係について
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
木質系バイオマスからのバイオエタノール製造技術の基礎研究(その2)
トピックス
光合成微生物による炭酸ガスからの生分解性プラスチック生産技術に関する研究成果が、
24
Bioresource Technologyに掲載
25
「日本高圧力技術協会平成 24 年度貢献賞」受賞
ミニ 解 説
26 バイオマスエネルギーと太陽熱利用
社 内 案 内
27 オランダ・Twente大学理工学部のS. V. Aragoの研究所訪問について
巻 頭 言
「心・技・体」三位一体となった
物づくり新時代へ
早稲田大学 理工学術院
教授 齋 藤 潔
御社とはエアコンを中心にヒートポンプの年間運
文化面では漫画、ファッションをはじめとして特
転性能を向上させるための研究・開発に取り組んで
異な日本文化が世界を席巻している。特異であるこ
いる。ヒートポンプはここ数年大きく性能向上を果
とは必要なことである。ガラパゴス化と混同すべき
たしてきた。このため、従来の延長線上での要素・
ではない。例えば、世界を席巻している“iPhone”
は、
サイクル技術だけではこれ以上性能を向上させるこ
さわり心地、画面スクロールの微妙な動きにこだ
とは困難となっている。ヒートポンプにはすでにや
わった特異な製品である。日本人が考える高性能な
ることがないなどと安易に考える技術者・学者がい
製品ではない。
るが、例えば目には見えない制御技術が大きく遅れ
をとっている。機器の制御性改善が急務である。
この際、従来から行われている要素やサイクルの
日本のスポーツ界、とりわけ相撲や合気道では、
「心・技・体」なる言葉がよく使われる。精神、技術、
体力の三位一体となることが必要とのことである。
性能を発揮させるのに必要となる制御設計ではな
技術にも同様なことがいえるのではないか?“心=
く、制御がしやすい要素・サイクル技術開発は?と
使う側の気持ち”、
“技=技術力”、
“体=芸術性”と考
の逆転の発想をもてば機器開発にはやるべきことは
えてみよう。日本は“技”が世界一であることはい
まだいくらでもある。このような発想の転換には、
うまでもない。しかし、日本の製品には“心”と“体”
要素技術、サイクル技術、制御技術をベースとして
に十分な配慮がないことが多い。日本がもつ世界に
ばらばらに行われてきた一貫性のない従来型の研
類をみない独特で高度な精神世界と芸術性を取り入
究・開発体制を
「ぶっこわす」
必要がある。
エネルギー
れた新しい設計思想を模索すべきである。
システムの要素研究からシステム化技術まですべて
設計思想を変えることができれば、「心・技・体」
を一体となって行える日本にはない新しい研究体制
三位一体となった日本独特の新しい物づくりが必ず
の構築のため、
日々悪戦苦闘しているところである。
見えてくる。エアコンはいずれ中国や韓国に完敗す
ところで、日本のエアコンメーカーは年間性能を
ると考えられている方が多いが、発想を変えればこ
表す指標である APF の良い高性能な製品開発にし
れらの国々に負けない製品開発ができると確信して
のぎを削っているが、本当に正しい方向なのか(私
いる。
も APF 競争に夢中になっている学者の一人である
が)? 日本はこれまで技術力で成功してきたことも
あり、高性能な製品を作ることこそがすべてと考え
ている節がある。世界最高レベルの技術力を有しな
がら、日本以外では全く普及していない携帯電話や
パソコン、カーナビの特異性を表すのに「ガラパゴ
ス化」なる言葉がよく使われる。エアコンも日本製
の高性能機は非常に高い効率を有することは誰もが
認めるところであるが、外観、使い勝手は量販機と
ほとんど違いがない。軽自動車のボディーにF 1 の
エンジンを積んでいるようなものである。いずれガ
ラパゴス化の象徴とならなければよいが・・・。
日本的物づくり新時代へ。従来型の思想にとらわ
れない若い方々の奮起にも期待したい。
略 歴
1992 年早稲田大学理工学部機械工学科卒業
1998 年工学博士(早稲田大学)
1999 年工業技術院研究員
2008 年~現在:早稲田大学理工学術院教授
2011 年フィリピン大学客員教授
日本冷凍空調学会常務理事
国際冷凍学会 E2 部門(Heat pumps, Energy recovery)副部門長
日本機械学会環境工学部門第 4 技術委員会委員長
NEDO 技術委員
経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員
「給湯機器の測定方法等検討事業検討委員会」委員長
ルームエアコン JIS 検討特別委員会委員
1
研究紹介
電力システム技術センター 地中送電グループ
154kV 大サイズ・大異径用 RBJ の特性評価
CV ケーブルの中間接続箱は、従来のテープ巻式接続箱(TJ)やプレハブ式接続箱(PJ)に替わりゴムブ
ロック型接続箱(RBJ)が主流となってきています。国内では 66 ~ 154kV 系統までの実線路において
主に導体サイズ 2,000mm2 以下のケーブルに適用されていますが、今回、さらなる適用拡大を図るため、
154kV 用大サイズ大異径 RBJ の性能評価を行いましたので、その概要を報告します。
1.
背景および目的
CV ケーブルの中間接続箱は、
第1図に示すようなプレモール
ド絶縁体の収縮力によりケーブ
ル絶縁体との界面に面圧を形成
し、絶縁性能を確保するゴムブ
ロック型接続箱(RBJ:Rubber
Block Joint)が主流となってき
て い ま す。RBJ は、 部 品 点 数 が
第1図 RBJ 接続箱構造図
2.
試験条件
①に対しては商用周波破壊試験、
試料②に対しては雷インパルス
(1)
試験条件
少なく、施工方法も容易である
今回の検証では、高負荷線路
ことが特徴であり、従来の TJ や
に適用した際の性能評価を行う
PJ に比べ施工時間の短縮や施工
ため、あらかじめ加熱により 30
費用の低減が図れています。
年相当の熱履歴を与えたゴムブ
現 在、RBJ は 国 内 で は 66 ~
ロ ッ ク を 用 い て 実 施 し ま し た。
(2)
オ フセット形状およびオフ
セット伸縮量
長期課通電試験実施時の線路概
154kV 系統までの実線路におい
供 試 品 は 2試 料 と し、JEC-
要を第2図に、オフセット寸法を
て、主に導体サイズ 2,000mm
2
3408 に準拠した電気試験を実施
第1表に示します。接続箱は長さ
以下のケーブルに適用されてい
後、残存性能試験として、試料
8mの人孔に収容されることを前
ますが、「大容量送電のための大
8,000 mm
サイズケーブルの適用」や「既設
L=3,175 mm
の小サイズケーブルとの接続に
1,650 mm
可動架台
L=3,175 mm
オフセット部
オフセット部
伴う大異径接続」、
「発電所引出送
H
H
断面
電線など高負荷線路への適用」と
RBJ
いった用途拡大が期待されてい
ます。
可動架台
しかし、上記のような適用拡
W
大を図る上で、界面における面
平面
W
2500mm2側
1000mm2側
圧の低下などによる絶縁性能へ
第2図 長期課通電試験時のオフセット形状
の影響や、熱挙動に対する性能
第1表 オフセット寸法およびオフセット伸縮条件
2,500mm2 側
評価が必要となります。そこで、
1,000mm2 側
3,175mm
今 回、154kV CV 2,500mm2 対
オフセット長:L
1,000mm2(各絶縁厚 17mm)用
オフセット幅
361mm
806mm
水平:W
300mm
400mm
垂直:H
200mm
700mm
RBJ の 性 能 評 価 を 目 的 に JEC3408 に準拠した1ヶ月長期課通
電試験、雷インパルス耐電圧試
験およびその残存性能試験を実
施しました。
2
破壊試験を実施しました。
オフセット伸縮量※1
備考
年間:197mm
日間:27mm
-
※1:通電 8 時間で年間伸縮量に到達し、16 時間後に戻る 1 サイクル/
日とし、365 回/日の日間伸縮を重畳させました。
第2表 電気試験結果
項目
要求性能
試料①
試料②
良好
良好
良好
良好
AC680kV・1 時間(常温)
Imp.-1,435kV(常温)
未破壊、打ち切り※2
2 回目絶縁破壊※3
AC 145kV 課電日数:30 日
導体温度 90℃:25 日
長期課通電試験
導体温度 105℃:5 日
8 時間 ON/16 時間 OFF
雷インパルス
Imp.±1,035kV(常温)
耐電圧試験
印加回数:各 3 回
残存性能試験
-
※2:規格値(AC295kV)に対し、2 倍以上の裕度を確認できたため、試験を打ち切りました。
※3:Imp.-1,035kV から 20kV ずつ昇圧し、-1,415kV(3 回)まで良好でした。
提とし、オフセット幅は RBJ に
1212
10
10
加わる軸力差がより大きくなる条
変化に伴う年間および日間のオフ
セット伸縮は 2,500mm2側のみ
に加えることとしました。
500
500
44
400
400
22
00
変位量(mm)
加わるようにするため、導体温度
オフセット伸縮変位量
300
300
試験装置の都合
により、一時中断
-2-2
200
200
-4-4
変位量(mm)
また、接続箱により厳しい軸力が
ケーブル軸力差
66
荷重(kN)
2,500mm2が最小幅としました。
88
ケーブル軸力(kN)
件 と し て 1,000mm2が 最 大 幅、
600
600
2500mm2側ケーブル軸力
-6-6
-8-8
100
100
-10-10
-12-12
0
0
0 1 2 3 4 55 6 7 8 910
10 11 12 13 1415
15 16 17 18 19 20
20 21 22 23 24
30 31 32 33 3435
35 36 37 38 39
2525 26 27 28 2930
4040 41
試験日数
試験日数(日)
3.
試験結果
第2表に電気試験の結果を示し
ます。長期課通電試験および雷イ
第3図 ケーブル軸力および伸縮量測定結果
4.
今後の計画
ここ数年、大サイズケーブル
ンパルス試験を実施し、要求性能
今 回、RBJ の 大 サ イ ズ、 大 異
や大異径接続の適用が増加して
を満足することが確認できまし
径 接 続 の 評 価 を 目 的 に、154kV
きています。従来はこのような
た。また、引き続き実施した残存
CV 2,500mm 対 1,000mm
2
場合、ケーブル接続には PJ を用
性能試験の結果より、JEC-3408
(各絶縁厚 17mm)用 RBJ を供試
いていましたが、今回の評価結
の形式試験(AC 295kV・1時間、
試料として、熱機械挙動を加え
果を踏まえ 154kV 大サイズ・大
Imp ± 1,035kV・3回)に対し裕
た長期課通電試験および残存性
異径用 RBJ の適用により一層の
度を有していることが確認できま
能試験を実施しました。その結
工事費用の低減を図っていく予
した。
果、良好な性能を有しているこ
定です。
ま た、RBJ に 加 わ る 軸 力 差 お
2
とが確認できました。
よびオフセット伸縮量を第3図
に示します。オフセット伸縮を
加 え た 2,500mm2で 約 5kN の
ケ ー ブ ル 軸 力 が 発 生 し、RBJ に
加わる軸力差は最大で約2kN で
執筆者
執 筆 者:谷川内 実
所
属:電 力システム技術センター 地中送電グループ
主な業務:地中送電線の技術業務に従事
したが、この軸力差によるゴム
ユニットの移動や変形などはな
く、熱機械的に安定しているこ
とが確認されました。
研究に携わった人
総合企画本部 地域エネルギー部門 地域エネルギー開発グループ
小森 充朗
3
研究紹介
研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)
土壌熱抵抗の簡易測定手法の検討
地中送電線路設計において適切なケーブルサイズを選定するために、土壌熱抵抗は重要なパラメータの一
つです。土壌熱抵抗の測定は、対象箇所に発熱体と熱電対を埋設し計測することが一般的ですが、費用が
高く時間がかかる問題があります。そこで本研究では、土壌の物性と土壌熱抵抗との関係の解明を行い、
土壌熱抵抗の簡易測定手法を検討しましたので、紹介します。
3.
測定方法の検討
1.
はじめに
壌試料について室内試験を行いま
地中送電線路設計の送電容量計
した。第1図に飽和度を変化させ
算において、土壌熱抵抗(以後、
ながら測定した熱抵抗と比抵抗と
験(紹介省略)より熱抵抗の測定
熱抵抗)は重要なパラメータであ
の関係を示します。図から分かる
手法を検討しました。その結果、
り、
必要に応じて実測しています。
ように、これらの間には正の相関
土質区分は、S波速度に加えて数
熱抵抗の既存測定法である過渡探
が得られ、次の累乗近似式を導出
針法は、対象箇所に発熱体と熱電
しました。
と時間を要します。
そこで、既存法に変わる簡易な
測定法として大地の発する物理現
1,000
ここで、g は熱抵抗、ρは比抵抗、
a・n は土壌の種類に依存する定
数を表しています。
象の反応を測定する物理探査法に
以上より、比抵抗と土壌の種類
着目しました。熱抵抗と物理探査
が分かれば、熱抵抗を求められる
法で測定できる土壌比抵抗
(以後、
ことが分かりました。
10
抵抗と測定値との関係を明らかに
と間隙率、粒径との関係解明を行
し、物理探査法を活用した簡易測
うため、サンプルホルダーを使用
定手法を検討しました。
し、10 種類の土壌試料について
2.
土 壌試料を用いた室内
試験
(1)熱抵抗と土壌比抵抗
熱抵抗と比抵抗との関係を解明
室内試験を行いました。
飽和度 0%
飽和度 20%
第2図に飽和度0%と 20%に
おけるS波速度と間隙率の関係を
ホルダーを使用し、10 種類の土
と 50%粒径の関係を示します。
150
40
隙を表し、土質に関係しています。
第3図に同様に測定したS波速度
200
100
示します。間隙率とは、土中の間
するため、写真1に示すサンプル
100,000
250
S波速度[m/s]
弾性波の一つであるS波の速度
1,000
比抵抗 [Ωm]
第1図 熱抵抗と比抵抗との関係
(2)
弾性波速度と土質
化します。本研究では、これら熱
100
10
比抵抗)
・弾性波速度は、いずれ
も水分飽和度・間隙率に応じて変
再生砂
洗い砂
3号珪砂
5号珪砂
8号珪砂
豊浦砂
ローム
シルト
粘土
DLクレー
g = a ρ ・・・ (1)
n
熱抵抗 [℃cm/W]
対を埋設し計測を行うため、費用
室内試験、模擬土壌での測定実
50
60
間隙率[%]
70
第2図 S波速度と間隙率との関係
250
ẚ᢬ᢠ⏝㟁ᴟ
表的な粒子径です。図から分かる
ように、S波速度と間隙率との間
には負の相関、50%粒径との間に
は正の相関があることが分かりま
S波速度[m/s]
50%粒径とは、対象土壌中の代
150
飽和度 0%
した。したがって、S波速度より、
㉸㡢Ἴ᣺ືᏊ
おおよその土質区分が推定できる
⇕ఏᑟ⋡ィ䝥䝻䞊䝤
写真1 サンプルホルダー
4
可能性が示されました。
飽和度 20%
50
0.001
0.1
50%粒径 [mm]
10
第3図 S波速度と 50%粒径との関係
箇所で土壌を採取し、情報を組み
して、西区は砂礫や粘性土が混
今後は、現場採用に向けて、さ
合わせることで推定精度を向上さ
在した盛土層を測定対象とした
らに測定実験を行い、測定条件等
せ、式(1)の定数 a,n を決定す
ため、結果が平均化されたと考
の検討を行う予定です。
ることにしました。その上で、比
えられます。
抵抗を測定し、比抵抗値と定数 a,
n を式(1)に適用することで、熱
抵抗を求めることとしました。
4.
実 現場における測定実
験
開発手法の有効性を確認するた
め、測定実験を堺市北区および西
なお、本研究は(一財)電力中
央研究所への委託研究で実施し、
5.
まとめ
本報告は、電力中央研究所報告
「物
理探査法による地中送電線路周辺
本研究では、物理探査法を活用
した熱抵抗の測定手法について検
の固有熱抵抗の評価(その1~3)
討を行いました。また、実現場に
[ N 0 9 0 1 9 ]、[ N 1 0 0 3 4 ]、
おいて測定実験を行い、一部の土
[N11022]」より一部引用しまし
た。
層を除き、本手法の有効性を確認
しました。
区で行いました。そのうち、北区
での測定結果について紹介しま
す。
S波速度は、写真2の受振セン
サーを地表面に1m間隔で配置
し、木槌等で人工的に起振させ測
定します。第4図(a)にS波速度
分布を示します。速度分布より土
質区分を上部と下部とに大まかに
写真2 受振センサー
写真3 電極棒
区分しました。さらに、6箇所で
し、電極棒に電圧を印加すること
で、電極棒間の電位差から算出し
ます。第4図(b)に比抵抗分布を
示します。
比抵抗と定数 a、n を式(1)に
適用し、熱抵抗分布を求めた結
果を第4図(c)に示します。提
案手法により求めた平均熱抵抗
深さ [m]
d ep th ( m)
(b)
00
00
上部 (盛土 層)
5
10
15
20
距離 [m]
dista nce (m)
土壌採取 箇所
25
25
30
35
40
45
50
50
2 .3 5
2 .3
2 .2 5
2 .2
2 .1 5
2 .1
2 .0 5
2
1 .9 5
S波速度[m/s]
-5-5
1 .9
1 .8 5
1 .8
1 .7 5
1 .7
1 .6 5
1 .6
-7 .5
1 .5 5
1 .5
1 .4 5
1 .4
1 .3 5
-1 0
-10
00
380
2 .4
-2 .5
dep th (m)
地表面に1m間隔で電極を打設
深さ [m]
比抵抗は写真3に示すように、
(a)
100
1 .3
1 .2 5
1 .2
下部 (洪積 層)
00
5
10
15
20
距離 [m]
d istan ce (m)
25
30
25
158
2 .4
35
40
45
50
50
2 .35
2 .3
2 .25
2 .2
2 .15
2 .1
2 .05
2
1 .95
1 .9
比抵抗[Ωm]
-2
1 .85
1 .8
1 .75
-4-4
1 .7
1 .65
1 .6
1 .55
1 .5
1 .45
1 .4
1 .35
1
110
1 .3
1 .25
(c)
1 .2
depth (m)
定しました。
深さ [m]
土壌採取を行い、定数 a,n を決
00
0
0
距離 [m]
distance
(m)
5
10
15
20
25
25
2 .4
30
35
40
45
50
50
2 .3 5
2 .3
2 .2 5
2 .2
2 .1 5
2 .1
2 .0 5
2
-2
1 .9 5
1 .9
1 .8 5
-4
1 .7
熱抵抗[℃cm/W]
1 .8
1 .7 5
-4
1 .6 5
1 .6
1 .5 5
1 .5
1 .4 5
1 .4
1 .3 5
1 .3
30
1 .2 5
1 .2
値 は 49.2 ℃cm/ W、 採 取 試 料
第4図 実現場(堺市北区)における測定結果(a)S波速度、
(b)比抵抗、
(c)熱抵抗
より求めた平均熱抵抗値は
58.0 ℃cm/W、 平 均 誤 差 率 は
15%となりました。
なお、西区では、提案手法に
より求めた平均熱抵抗値は
54.5 ℃ cm/W、 採 取 試 料 よ り
執筆者
執 筆 者:山本 隆喜
所
属:研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)
主な業務:地中送電技術、設備に関する研究に従事
求 め た 平 均 熱 抵 抗 値 は、
86.4 ℃ cm/W、 平 均 誤 差 率 は
37%となりました。北区に比べ
て、西区の誤差率が高い原因と
5
研究紹介
電力流通事業本部 ネットワーク技術運用グループ
高圧配電線路における効果的な耐雷対策の検討
本研究では、高圧配電線の供給信頼度の向上を図るため、避雷器や架空地線などの耐雷機材の効果を実験
およびシミュレーションにより定量的に評価し、合理的かつ効果的な耐雷対策の検討を行いました。検討
の結果、さらなる事故件数の低減のためには直撃雷に対する対策が必要であり、対策の方向性としては、
接地抵抗値にかかわらず耐雷機材を密に施設することが重要であることがわかりました。本研究の成果を
活用するために、今後は接地管理が不要な避雷装置の開発を進めていく予定です。
1. 背景および目的
え、
耐雷対策の効果を定量評価し、
て 70 年代以降、避雷器(Ar)と架
こととしました。
空地線(GW)という耐雷機材を増
設してきた結果、施設率に応じて
雷事故件数は減少したものの、近
年ではほぼ横ばいとなっておりま
Ar
新たな対策について検討を進める
GWとAr併用
激雷相当
2. シ ミュレーションによ
る評価
当社の耐雷性能を評価するため
耐雷機材施設間隔(GW接地間隔、Ar接地間隔)
当社は、誘導雷保護を目的とし
GW
Arのみ
多雷相当
す。そこで、さらなる雷事故件数
に、
(財)電力中央研究所(電中研)
の減少に向けて、発生した雷事故
の「 配 電 線 雷 ス パ ー ク オ ー バ
の分析を行った結果、約 90%は
(S.O.)発生率算定プログラム」を
事故点が Ar の保護範囲(150 m)
用いて解析を行いました。800 m
内にあり、そのうち約 73%が接
四方のエリア内に、直線的に三相
地抵抗値が施設基準値である 30
水平配列の高圧配電線を施設した
Ω以下であることから、現行の耐
モデルに対し、Ar・GW の有無、
雷対策基準どおりに耐雷機材が施
および施設(接地)間隔を変化さ
設されていても雷事故が発生して
せて、1,000 回の落雷をランダム
耐雷機材の施設パターン別の2相
いることがわかりました。
に発生させて配電線事故となる2
S.O. 発生率を規格化した結果を
相 S.O. 発生率を算出しました。
第2図に示します。
ゆえに、さらなる雷事故を抑制
するために新たな耐雷対策基準を
耐雷機材を施設しない場合の2
検討することが必要であると考
相 S.O. 発 生 率 を 100 % と し て、
Ar施設個数(個/km)
GW施設率(%)
第2図 シミュレーション結果
これにより、当社の多雷、激雷
地域相当の対策を実施すれば、雷
雷事故件数/全事故件数(%)
150%
30
25
100%
20
15
10
5
0%
0
73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
年度
第1図 雷事故発生状況と耐雷設備の施設率
6
個
/
km
)
50%
Ar施設個数(
雷事故比率 %( )
GW施設率 %( ・雷
%)
) 事故件数/全事故件数(
1973年度を100%としたときの雷事故比率(%)
GWのみ
事故は誘導雷では発生せず、直撃
雷でのみ発生することが判明しま
した。さらに、直撃雷による雷事
20
Ar の施設間隔が短くなるにつれ
減少しており、GW を架線し Ar
を 80 m 間 隔 で 施 設 し た 場 合 に
は、耐雷機材が無い場合に比べて
約1/5まで減少しました。
22
最小2相S.O.電流値 [kA]
故 件 数 も 接 地 抵 抗 値 に よ ら ず、
推定値 は30 kA
以上
今回の試験(18
kA)では
S.O.は発生しない
ARR
の接地抵抗
Arの接地抵抗値
推定値
推定値
30 Ω以下で施設するよう規定さ
試験限界値
試験限界値
れています。また、当社管内の大
コン柱
接地なし
100 Ω
30 Ω
18
地抵抗率は高く、接地抵抗値を
16
14
30 Ω以下とするには、多大な費
12
10
8
用が必要です。
最小印加電流
で2相S.O.
一方、一部の電力会社では、機
6
4
器保護用として、接地管理が不要
2
0
2,5,8 3,5,7,9 3,6,9
2,4,6,
8,10
全柱
2,5,8 3,5,7,9 3,6,9
柱頭印加
ARR
施設柱
Ar施設柱
3.
実験による評価検討
Ar を密に施設することが直撃
た。しかし、Ar は前述のとおり
*
24
2,4,6,
8,10
本線内相印加
第4図 高圧線のみでの実験結果
(GW:なし、雷電流波頭長:0.5 μ s)
全柱
な避雷装置が施設されておりま
す。そこで、当社もこのような避
雷装置を導入し、接地抵抗値を低
減するのに必要な費用を抑制し、
その費用で避雷装置を各柱に施設
雷対策として有効であることを確
認するために、電中研塩原実験場
生じず、配電線事故は発生しない
すれば、より合理的に雷事故を抑
にて実験を行いました。実験回路
ことがわかりました。
制できると思われます。今後はよ
は第3図に示すように、高圧三相
以上の結果から、接地抵抗値に
り費用対効果の高い耐雷対策に向
水平配列で配電線を 10 径間(亘
関わらず Ar が密に施設されてい
けて避雷装置の開発検討を進めて
長 430 m )施 設 し、 6号 柱 に
れば、直撃雷に対しても耐雷効果
参ります。
12MV 衝撃電圧発生装置を接続
が十分期待できることが実験的に
し、雷撃を印加しました。また、
も確認されました。
反射による影響を排除するため、
1999 ~ 2008 年 ま で の 10 年
5.
謝辞
本研究を実施するにあたり、ご
末端を 400 Ωの無誘導巻線抵抗
間の雷観測結果では、当社管内に
協力いただきました財団法人電力
で終端しました。
おける落雷の約 73%は波高値が
中央研究所浅川上席研究員、石本
第4図は、2相 S.O. が発生する
20kA 以下であったことから、耐
研究員、並びに実験設備の構築に
電流の最小値を示しており、この
雷機材を各柱に施設すれば、約7
ご協力をいただきました大阪北、
電流値が大きいほど耐雷性能が良
割の雷に対して直撃雷であっても
大阪南、京都、神戸の各ネットワー
いことを示します。
この結果から、
事故抑制が期待できることがわか
クエンジニアリングセンターの皆
Ar の施設が密になるほど、最小
りました。
様を始め、当社ネットワーク技術
2相 S.O. 雷 電 流 は 大 き く な り、
Ar が各柱に施設された場合には、
接地がなくても試験限界値レベル
の雷電流
(18kA)
では2相 S.O. は
4.
今後の対策
部門の方々に厚く御礼申し上げま
す。
本研究により、さらなる事故件
数の減少のためには直撃雷に対す
る対策が必要であり、対策の方向
(42m) N0.6
N0.5
(42m)
性としては、接地抵抗値にかかわ
N0.7
らず耐雷機材を密に施設すること
<外観>
(42m)
(42m)
12MV
12MV
I.G
雷発生装置
N0.4
が重要であることがわかりまし
N0.8
(40m)
(40m)
高圧配電線
N0.9
N0.3
(40m)
(40m)
N0.11
整合抵抗
:400Ω
(54m)
執筆者
執 筆 者:北村 時宏
所
属:電 力流通事業本部 ネットワーク技術運用グループ
主な業務:配電用品の開発・運用に従事
N0.10
N0.2
(48m)
整 合 抵 抗 :400Ω
N0.1
第3図 実験回路構成
7
研究紹介
経営改革・IT 本部 通信技術グループ
センサを活用した通信設備保全データの取得について
無線中継所などに設置されている通信設備の巡視・点検など保全業務の効率化を目的として、有線センサ
や画像解析センサなど各種センサと社内 IP ネットワークを使用して、遠隔から情報収集可能となるセンサ
システムの導入を検討しています。
今回はセンサシステムを使用して、実環境において通信設備のデータ取得検証と、設備障害発生率の高い
空調装置の監視制御に関する検証を行い、保全業務などへの適用評価を実施した結果について紹介します。
1.
はじめに
各種メータの計測値をデジタル化
します。
多重無線装置や光端局装置に代
表される電力保安通信設備は、電
有線センサやシリアルセンサを
力の安定供給に必要不可欠な情報
設置するためには、一部、既設の
を伝送していることから、定期的
測定対象設備(メータなど)を取り
に巡視・点検を実施して、設備保
替える必要も発生することから、
全を行っています。
これらセンサの補完的な位置付け
しかしながら、これら電力保安
で画像解析センサを使用すること
通信設備が設置されている一部の
を想定し、検証対象としました。
無線中継所や通信機械室は、遠隔
3.
データ取得検証
地や冬季における積雪など自然環
境条件が厳しい場所にあることか
ら、巡視・点検業務に多大な労力
第1図 センサシステム構成
データ取得の検証方法として
は、各種センサを使用して保守支
社 内 IP ネ ッ ト ワ ー ク を 介 し て、
援サーバより取得したデータと、
これらのことから、センサシス
各支店に設置された保守支援サー
評価用に現地にてデータを取得し
テムと社内 IP ネットワークを活
バに送信します。取得されたデー
たもの(メータの目視値や気象情
用した設備の情報収集が可能とな
タは保守支援サーバに一定期間保
報などについては気象庁のデータ
れば、設備の遠隔保全による省力
存され、閲覧端末からいつでも確
を参考)を比較し、各データの取
化が可能になると同時に、設備状
認可能となります。
得精度を比較しました。
が費やされている状況です。
態のトレンド監視による劣化状況
の早期検知も期待できます。
2.
センサシステムの概要
(1)システム全般
今回、センサシステムによる
今回の評価を行うにあたり、使
有線センサ、シリアルセンサに
ついては、評価用データと大きな
の3つの種類に分類されます。
誤差なく、またデータ取得の失敗
a.有線センサ
も皆無であり、安定してデータを
データ取得精度の検証を行うにあ
たり、保全拠点から距離が比較的
電流・電圧・電力・振動などを計
離れている、名塩無線中継所(神
測します。
戸支店管内)および日光寺無線中
b.シリアルセンサ
継所(姫路支店管内)の2箇所を
代表的なものとして、気象セン
選定し、データ取得検証を進める
サがあり、中継所室内の温湿度を
ことにしました。
計測することができます。また、
社内検証用のセンサシステムの
室外の温度・湿度・風向・風速・
構成を第1図に示します。中継所
雨量などを一括して計測可能です。
の通信設備の電流・電圧・電力量・
c.画像解析センサ
一括してセンサ情報 GW に集め、
(1)
有線センサ、シリアルセンサ
用したセンサを大別すると、以下
有線で接続を行い温度・湿度・
温湿度などの情報を各センサより
8
(2)
使用したセンサ
カメラ画像(web カメラなど)
を入力として画像認識技術により
取得できており、十分使用可能で
あることが確認できました。
代表例として有線センサ
(温度)
設置状況と多重無線装置電源温度
データを写真1および第2図に示
します。
(2)画像解析センサ
画 像 解 析 セ ン サ は、WH メ ー
タやドラム式レベルメータ、シリ
カゲルの劣化状況など幅広い対象
物に対して、活用でき、識別成功
写真1 温度センサ設置状況
第2図 多重無線装置電源温度データ
5.
まとめ
率が高い(目視値などと全く遜色
グを自然光の影響を受けない時間
ない)一方で、屋外に設置したセ
帯にするとともに、現地設置時に
ンサでは、メータケースなどから
おける固定方法を改善することに
活用し、通信設備の設備情報を有
の自然光反射による誤判定や測定
より、比較的容易に解決できるも
効に収集できるのと同時に、一部
対象のメータをカメラが固定され
のであり、現地において、調整を
センサについては屋外に設置して
た状態で正面から捉えていない
要するものの、実際の使用にあ
いましたが、冬季の検証期間中
と、指示値を0で識別するなど、
たっては、大きな問題とならない
(12 月~3月)の過酷な気象条件
識別成功率が著しく低下すること
ことも併せて確認しました。
が判明しました。
代表例として WH メータの画
像解析状況(識別成功時および失
4.
空調装置の自動制御
今回の結果より、各種センサを
でも壊れることなく、正常に動作
しており、センサの耐久性面でも
一定の品質を確保可能であること
今回、評価を実施したセンサシ
が確認できました。また、これら
ステムは通信設備のデータ取得の
データ収集だけにとどまらず、空
これら画像解析センサの課題に
みに留まらず、制御対応の空調制
調装置制御への適用など様々な用
ついては、データの取得タイミン
御装置と併せて活用することによ
途への活用について方向性を出す
り、空調装置のスケジュール切り
ことができました。これらのこと
替えを支店側に設置した保守支援
から、センサシステムの実用性に
サーバから自動的に実施すること
ついて一定の評価ができました。
敗時)を写真2~4に示します。
が可能となります。
写真2 画像解析センサ設置状況
今後、セキュリティや通信設備
これにより、空調装置の起動・
への影響を考慮し、実環境の検証
停止や運転状況の確認も可能とな
では使用できなかった、利便性の
り、空調障害時の現地出動の機会
高いワイヤレスセンサなどの使用
を減らせるのと同時に、温度セン
も視野に入れると同時に、取得し
サ な ど と 組 み 合 わ せ た、 ス ケ
たデータによる各設備の劣化傾向
ジュール運転により、一定の節電
把握の精度向上について、さらに
効果も期待でき、今回の検証では
検討を進め、順次導入していく予
冬期の条件で約3~5kWh の節
定です。
電効果が確認できました。
写真3 画像解析識別成功時
執筆者
執 筆 者:松本 健二
所
属:経営改革・IT本部 通信技術グループ
主な業務:通信設備の計画・技術管理に従事
写真4 画像解析識別失敗時
9
研究紹介
土木建築室 建築設備エネルギーグループ
蓄熱システム自動制御の合理化による、汎用蓄熱コントローラーの
開発研究
蓄熱システムは負荷平準化や安価な夜間電力の活用などのメリットがある反面、非蓄熱システムに対して
自動制御の構築が複雑・高価となりがちで、普及の妨げになる恐れがあります。また、適切な蓄放熱制御
を行うには、実運用データの検証と設定値の変更が必要となりますが、いずれもメーカーのエンジニア協
力が必要となるため、選任の建物管理者のいない建物では適正運転出来ていない事例が多く見受けられま
す。本研究では蓄熱制御の合理化を目的に、必要機能を再選定した低コストな汎用蓄熱コントローラーの
開発、並びに実建物へ導入により適正運転へと導いた事例を報告します。
1.
既 往の蓄熱コントロー
ラー
第1表に 複 数 社 の 蓄 熱コント
自動でローカル記録する「運転見
熱量制御としました(第3図)
。こ
える 化 」機 能、操 作 用 PC の OS
こで熱量制御とは、現在残蓄熱量
機能を活用した「遠隔監視・制御」
が各時刻に設定した目標残蓄熱量
ローラーの有する機能の一部を示
機能、制御設定画面には簡易な
の上下限偏差を超えた際、熱源発
します。各社とも概ね蓄熱制御の
I/F を用意しました。なお、第1図
停信号が出力される目標残蓄熱量
汎用化へのアプローチとして、多
は実際の PC 画面ハードコピーで
制御方式となります。
種システム対応、多機能化を目指
あり、安価・簡易でありながらも
なお、満 蓄 判定に用いる槽内
した事から、蓄熱制御の設定が複
運転状況の逐次把握が可能です。
サーモや熱源機の運転スケジュー
雑となりブラックボックス化して
ルは、全槽を用いた満蓄制御が望
います。また、単一物件では同時
ま し く な い 場 合 な ど を 想 定 し、
使用しない機能まで同梱したパッ
ユーザーにて任意決定できる仕様
ケージとなっている事も初期費用
としました。
の増要因です。
蓄熱運転
100
状態監視
ローカルデータ記録
外部インターフェース
残蓄熱量演算
(2-1)
蓄熱制御
必須機能
蓄熱発停制御
追掛発停制御
(2)
水蓄熱
システム
残業対応制御
連動制御
(2-2)
追加
機能
(3)氷蓄熱
システム
熱負荷予測
電力デマンド制御
熱源機入口水温制御
2槽式蓄熱制御
ここで、選任管理者不在建物に
10
下限線
予測線
第1図 想定最大熱源システム
日スケ
ジュール
中央監視
追掛運転
追掛
運転
蓄熱運転
0
22:00
8:00
蓄熱運転
追掛運転
13:00
16:00
18:00
22:00
蓄熱時間帯
時間
蓄熱時間帯
追従時間帯
追従時間帯
ピークカット
残業時間帯
第3図 採用した蓄熱制御方式
LonWorksなど
I/F
操作
表示
表示、監視
記録
蓄熱コントローラ
冷暖モード切替
LAN
発停
計測
PC
操作
表示
3.
フィールド検証の概要
前述の検討を踏まえ、
コントロー
i/o
切換操作盤
2.
1 必要機能の絞込み
槽内サーモに
よる温度制御
:熱源運転
省略
2.
合 理化コントローラー
の開発
空調終了
追掛運転可能 ▼
上限線
蓄熱量
(%)
切換弁
ラー開発機を製作し、H22 年夏期
動力盤
機器盤
機器
機器
に実フィールドへ導入する事で合
機
器
第2図 外部入出力概要
2.
2 採用した蓄熱制御方式
求められる蓄熱制御は多機能化で
日スケジュールには、蓄熱・追
なく簡易化であるとし、第1表に
従・ピークカット・残業の4時間
おける(1)
,
(2-1)の機能に絞りま
帯を採用しました。熱源機の発停
した。熱源機は3台を上限と想定
制御として、蓄熱時間帯の満蓄判
し、ポンプや2次側などはローカ
定と残業時間帯の熱源機発停は槽
ル制御に任せ、蓄放熱に伴う熱源
内サーモ1点を用いた温度制御と
機の制御だけに機能を絞りました
し、追従時間帯の熱源機発停は槽
(第1,
2図)
。逆に、運転データを
内サーモ全点温度により得られる
理化の有用性検証を行いました。
フィールド検証の対象は羽曳野
市に建つ延床面積約 3,000㎡の事
務所用途建物です。本建物の空調
システムを第4図に示します。
FM-1 T-7
T-8
R-1
FM-2 T-9
T-10
R-2
T-11
T-12 FM-3
AHU-1
T-13
P-2
T-14 FM-4
AHU-2
P-1
P-4
P-3
T-1
T-2
T-3
T-4
T-5
T-6
WL
500 500
(1)基本機能
(蓄熱システム共通)
年間カレンダー
日スケジュール
冷暖モード
運転・停止
警報・故障
管内温度・流量
槽内温度
運転状況モニタリング
BAC-net,Lon-Worksなど
満蓄判定
目標熱量判定
①運転順位、台数
②順次起動、再起動防止
③機器ローテーション
上記①~③
ピークカット・シフト
緊急運転
-
主機+補機連動
落水防止
最適運転制御
-
三方弁,インバータ
排熱回収機
追掛運転可能
槽内各水温と水量より
残蓄熱量制御
細目
1800
1300~1500 500
スケジュール制御
ピークカット
槽内サーモに
よる満蓄制御
第1表 既往コントローラーの保有機能
制御項目
空調開始
▼ 追掛運転可能
1
(始端槽)
2
3
WST
4
5
6
7
8
9
10
第4図 空調システム概要
11
12
(終端槽)
本建物は開発機導入前より完全
ら、空調終了時に残蓄熱量が最小
で低減しました。結果、第7図の
連結混合型の水蓄熱式空調システ
となるよう、各時刻の目標算蓄熱
通 り 熱 源 機(R-1)の COP を 約
ムが採用され、空気熱源ヒートポ
量他を調整しました。その結果、
10%向上する事が出来ました(低
ンプチラー(R-1,2)により冷暖房
冷房時の夜間移行率を約5%拡
外気温側で比較)
。
期間共に夜間蓄熱を行う空調シス
大、平日の熱源システム電力消費
ここで、空調終了時の蓄熱槽平
テムでした。既設のコントロー
量を約 13%低減する事が出来ま
均温度が依然として高く、さらに
ラーでは、蓄熱・追従制御共に各
した(第6図)
(同等の日平均外気
低い温水温度での暖房も可能と考
温ベースで比較)
。
え、1日置きに夜間蓄熱運転を行
1点の槽内サーモによる温度制御
う隔日蓄熱運転を行いました。結
のみが行われており、本研究にて
また、暖房時は空調負荷が小さ
採用した目標残蓄熱量制御は行わ
く、夜間蓄熱のみで昼間を賄える
果、1回の蓄熱時間は増えたもの
れていません。
事が判明した為、前節の対策にて
の、蓄熱槽利用温度差が5→8℃
冬期昼間の全時間にて追従運転を
に拡大し、放熱時の槽平均温度も
合理化の有用性を、開発機の有
禁止しました。その結果、暖房時の
さらに低減する事ができた事か
夜間移行率は100%となりました。
ら、さらなる熱ロス低減と COP
する機能や制御方式を用いた対策
80%
を講じる事で、高効率な蓄放熱運
60%
4.
1 発停スケジュールの見直し
導入前は、冷暖房期間共に 22
夜間移行率[%]
転へと導けた事例として示します。
40%
で、
「運転見える化」機能により夜
間蓄熱運転の必要時間を確認し、
空調開始直前に満蓄となるスケ
ジュールに変 更しました( 第5
図)
。また、冷房時にピークカッ
ト時間を設定し、導入前はしばし
ば見られた昼間の追従運転が無く
し た 事 で、 約 110kW の 確 実 な
電力量[KWh]
ピークカットを行いました。
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
電力量[KWh]
0
4
8
12
時刻
16
20
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
4
2009年度
熱源機の夜間移行率は
約5%改善
20%
10%
0%
16
18
20
22
24
26
28
日平均外気温度[℃]
30
32
熱源出口設定38℃(R-1)
熱源出口設定41℃(R-2)
熱源出口設定38℃(R-2)
1
-4
1400
約13%削減
(平日)
1200
2009年度(平日)
1000
600
-2
0
2
4
外気温度[℃]
6
8
10
第7図 冬期熱源 COP の向上
約20%削減
(休日)
800
200
熱源出口設定41℃(R-1)
2
34
1600
400
COP向上
約10%
3
30%
熱源機器システム電力消費量
[kWh]
自然放熱ロスがありました。そこ
向上に寄与出来ました。
2010年度
50%
時からの蓄熱スケジュールとなっ
ており、満蓄以降は蓄熱槽からの
2009年度
2010年度
70%
COP[-]
4.
合理化の有用性検証
2009年度(平日)
2009年度(休日)
2010年度(平日)
2010年度(休日)
0
16
21
26
外気温度[℃]
2009年度(休日)
2010年度(平日)
2010年度(休日)
31
5.
おわりに
本報では低コスト・簡易・見え
36
第6図 昼間追従制御の適正化効果
る化を目的とした汎用蓄熱コント
ローラーの開発を行い、採用した
4.
3 暖房時の蓄熱温度の緩和
機能と制御方式にて、適切な蓄放
前述の通り、暖房時の空調負荷
熱制御とシステムの高効率運用が
は外気処理程度と極めて小さく、
可能である事を示しました。なお、
併せて改善前の蓄熱制御では、空
前述の各検討と対策は、最小限の
調終了時の残蓄熱量が大きく、蓄
現場対応を除いて「遠隔監視・制御」
熱容量が過大な事から、対策が必
機能により遠隔地より実施されて
要である事が分かりました。そこ
います。また、導入時の更新機器
で、熱源機の温水出口温度を徐々
は開発蓄熱コントローラーのみで、
に低下させる事で、熱源機の COP
計装機器等は流用しています。こ
の向 上を図りました。改 善 前は
のことから、ミニマムな投資であっ
45℃であった温水出口温度を、二
ても、
蓄熱の
「見える化」
を行う事で、
次側負荷と槽内温度分布を確認し
省エネルギーかつ適正な蓄熱運転
ながら段階的に引き下げ、38℃ま
制御が行える事が分かりました。
執筆者
0
4
8
12
時刻
16
20
第5図 見直し前後比較(R-1 の例)
執 筆 者:田口 雄一郎
所
属:土木建築室 建築設備エネルギーグループ
主な業務:建 築設備に関する研究・保全に従事
4.
2 昼間追従制御の適正化
「運転見える化」機能により、蓄
熱槽内の温度プロフィルや残蓄熱
量の経時変化が計測できる事か
11
研究紹介
研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター
高圧条件下でのアミン溶液への CO2 吸収特性解析研究
火力発電所の排ガスからの二酸化炭素(CO2)吸収技術については、ボイラ排ガスなどのほぼ大気圧のガ
スを対象とした研究は従来から行っていますが、今回は高圧条件での化学吸収法による CO2 回収に関して、
CO2 のアミン液への吸収速度と吸収量について検討しました。
1.
はじめに
異相反応の速度については理論面
当社では火力発電設備からの
で様々な報告があるため、試験に
常圧用吸収液の反応速度試験の
CO2 回収技術として、常圧の燃
先立って調べてみました。CO2
場合は反応容器に CO2 ガスを通
焼排ガスからの化学吸収法を研究
がガスで存在する気相と、吸収液
過させながら吸収させますが、高
してきています。
の液相との境界となる界面付近で
圧ではこの方法が容易でないた
一方、将来は従来発電方式の高
の物質移動に関しては第1図のよ
め、第2図のような密閉できる装
効率化とともに石炭ガス化複合発
うな二重境膜モデルが一般に知ら
置を製作しました。この中で気相
電(IGCC)方式の普及も予想さ
れています。これは気液界面の両
の CO2 が液相に吸収されていく
れ、IGCC か ら の CO2 回 収 部 位
側に薄い膜状の領域を仮定し、こ
と気相 CO2 の赤外線吸収が減る
にはガスタービン排ガスのほかに
の中では気相・液相全体に比べて
ので、その経時変化を測定するも
燃焼前の高圧ガスも考えられま
物質移動が遅いとするものです。
のです。
b.吸収速度試験
CO2 のアミン液への吸収では、
す。
IGCC の燃焼前ガスは排ガスよ
りも CO2 の濃度および分圧が高
この装置は大気圧以下の低分圧
ガス境膜よりも物質移動が遅いと
における測定データが CO2 ガス
される液境膜内を考えます。
を通過させる従来法と概ね一致し
いため、燃焼後とは CO2 回収条
気相からの CO2 が液相中のア
件が異なります。高圧条件下での
ミンに吸収される時に、CO2 と
化学吸収法の吸収液で重要な特性
アミンが出会ってからの反応が速
第2図の装置で常圧での吸収速
にいくつかあるうち、CO2 吸収
くても液境膜内での物質移動(拡
度が比較的速い吸収液(A液)と
速度や吸収量を解析しました。
散)が遅ければ、本来の反応速度
遅 い 吸 収 液( B 液 )に つ い て、
2.
研究の概要
を反映するほど速い CO2 吸収が
CO2 分圧が大気圧以下の低圧か
起こり続けません。反応と拡散の
ら約 1MPa の高圧までの CO2 吸
どちらか遅い方が吸収速度に影響
収速度を測った結果が第3図で
a.吸収速度の理論
することになります。
す。
(1)高圧での CO2 吸収速度
ましたので、この方法でも従来法
と同様に測定可能としました。
低圧の領域ではA液の吸収速度
ガスが気相から液相に溶け込む
がB液に比べて速いですが、高圧
になるとA液の吸収速度の増大が
Ẽᾮ⏺㠃
Ẽ┦
䜺䝇ቃ⭷
ᾮቃ⭷
CO2
CO2
CO2
CO2
䠄ᣑᩓ䠅
䜰䝭䞁
䠄ᣑᩓ䠅
䜰䝭䞁
䜰䝭䞁
䠄཯ᛂ䠅
཯ᛂ
⏕ᡂ≀
㉥እ⥺
Ẽ┦
CO2
CO2྾཰Ἴ㛗䛾
㏱㐣ᗘ䜢ほᐹ
䜺䝷䝇❆
䜰䝭䞁
第1図 気液界面の二重境膜モデル
12
䜺䝇ᑒධ
䜰䝭䞁
CO2 䜰䝭䞁
CO2
では直線的に増大し、1MPa ほど
䜰䝭䞁
䜰䝭䞁
CO2
CO2
頭打ち傾向になるのに対してB液
ᾮ┦
䜰䝭䞁ᾮ
ᾮ┦
第2図 吸収速度試験装置の概要
྾཰㏿ᗘ䠄×107 kmol䡡s-1䡡m-2䠅
40℃線(実線)の右端点(高圧)
300
㻭ᾮ
と 120℃線(破線)の左端点(低
㻮ᾮ
圧)の上下差が大きい吸収液は高
圧ガスから多くの CO2 を回収で
200
きる可能性があります。
圧力・温度とも上下させる条件
で見ると、高圧での酸性ガス吸収
100
液で知られる MDEA(N-メチル
ジエタノールアミン)は特性が良
く、このほかにG液の特性も良い
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
と考えられます。
1
これだけで吸収液の総合的な優
CO2ศᅽ䠄MPa䠅
劣は言えませんが、高圧 CO2 回
第3図 CO2 分圧ごとの吸収速度
収に有望な吸収液がある可能性が
示されました。
の分圧ではA液の方が吸収が速い
吸収量測定も常圧での CO2 ガス
と言えなくなっています。
を通過させる方法でなく、密閉容
3.
おわりに
これは、高圧で CO2 分圧が上
器で CO2 を吸収させて吸収前後
がると界面の CO2濃度も上がっ
の試料容器の重量差を測るなどに
ど、これまでの研究で得られた知
て境膜内の反応は速くなります
より高圧での吸収量を算出しまし
見は今後の吸収液開発に活かして
が、A液では反応に比べてアミン
た。
いく予定です。
気液界面の反応速度論の検討な
の拡散供給が追いつかず、反応の
速さが吸収速度に十分に活かされ
1.5
(2)高圧での CO2 吸収量
CO2 が吸収液に溶ける量は温
度が低いほど増え、圧力は高いほ
ど増えますが、その度合いは吸収
液によって異なります。
低温・高圧で CO2 を吸収した
吸収液から CO2 を分離するには
減圧するか、または減圧に昇温を
加え、この吸収と分離の工程を繰
CO2྾཰㔞(molCO2/mol䜰䝭䞁䠅
ていないためと考えられます。
㻯ᾮ, 40䉝
㻯ᾮ, 120䉝
㻰ᾮ, 40䉝
㻰ᾮ, 120䉝
㻱ᾮ, 40䉝
㻱ᾮ, 120䉝
㻲ᾮ, 40䉝
㻲ᾮ, 120䉝
㻳ᾮ, 40䉝
㻳ᾮ, 120䉝
MDEA, 40䉝
MDEA, 120䉝
1.0
0.5
0.0
0.0
り返して CO2 を回収する方法が
0.5
1.0
1.5
2.0
CO2ศᅽ䠄MPa)
実機では考えられます。高圧・低
第4図 アミン液の CO2 吸収量
温条件下での CO2 吸収量と、低
圧・高温条件下での CO2 吸収量
の差が大きい液が良いと言えま
す。
第 4図 は、CO2 吸 収 時 を 想 定
執筆者
執 筆 者:野条 貴司
所
属:研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター
主な業務:排ガスCO2回収研究業務に従事
する 40℃と高温分離時を想定す
る 120 ℃ の 2つ の 温 度 条 件 で、
低圧から 2MPa 付近までの CO2
研究に携わった人
電力技術研究所 環境技術研究センター 辰巳 雅彦、鈴木 朝大
吸収量を試験した結果です。CO2
13
研究紹介
研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室(プロジェクト)
大型放射光施設“SPring-8”を用いた CO2 化学吸収液の構造解析
火力発電所排ガスから CO2 を吸収する化学吸収液の構造解析を、世界最大の放射光施設“SPring-8”を
用いて行い、吸収された CO2 の構造およびその周囲の水分子の存在を直接観察することに世界で初めて
成功しました。本稿では、その概要について紹介いたします。
1.
背景・ねらい
火力発電所排ガスから CO2 を
䠴⥺᳨ฟჾ
分離・回収する「化学吸収法」の
研究が活発に行われています。化
ᩓ஘ゅ
䠴⥺
学吸収法では、排ガスを CO2 吸
収液に接触させることにより
CO2 を吸収液に吸収させ、その
ヨᩱ⁐ᾮ
後吸収液を加熱することにより
CO2 を脱離・回収します。この
方式における大きな課題の1つは
吸収液の開発にあります。一般に
吸収液としてアルカノールアミン
写真1 SPring-8でのX線散乱測定の様子(ビームライン BL16XU)
水溶液が用いられますが、これま
X線を発生する「巨大X線発生装
定します。純水を試料としたとき
での吸収液開発は主として実験を
置」です。試料溶液に照射された
に測定された散乱X線強度分布を
繰り返すことで性能の高いアミン
X線は、試料溶液でいろんな方向
第1図に示します。この強度分布
を見出すもので、試行錯誤的な面
に散乱されます。この散乱X線の
に対して、規格化、構造に関係し
がありました。しかしながら、こ
強度分布に試料溶液の構造に関す
ない強度成分の除去などを実施
の方法では開発に多くの時間、コ
る情報が含まれているため、測定
し、フーリエ変換を行うと、第2
ストがかかります。
では散乱X線の強度分布を測定し
図のような動径分布関数が得られ
このような背景のもと、吸収液
ます。写真1に測定の様子を示し
ます。動径分布関数の横軸は原子
と CO2 との反応機構に立ち返り、
ます。左奥から来たX線は中央付
間距離を表し、ある原子間距離を
コンピューター計算により論理的
近の専用セルに充填した試料溶液
有する原子のペアが存在するとそ
に性能の高いアミンを予測するこ
で散乱されます。この散乱X線の
の距離にピークが現れます。純水
とを目指した研究を実施していま
散乱角に対する強度分布を、少し
の場合、水分子内の O-H 原子間
す。このようなアプローチを実現
ずつX線検出器を動かしながら測
距離は約 1Å、隣り合う水分子間
するには、吸収された CO2 の構
造やその周囲に存在する水分子の
2.5
る必要があります。そのため私た
ちは三菱重工業(株)
、山形大学
と共同で、世界最大の放射光施設
“SPring-8”を活用し、吸収液の
構造解析に取り組んでいます。
2.
測定方法
SPring-8 は一言で言えば、明
るく、波長可変で、指向性の高い
14
散乱X線強度
強度 /a.u.
状態を分子レベルで正しく理解す
試料:H2O
2
1.5
1
0.5
0
0
10
20
30
40
散乱角 /deg
散乱角(°)
第1図 測定された散乱X線強度分布(試料:純水)
50
5
ศᏊෆO-H
ศᏊ㛫O...O
2
動径分布関数
g (r )
ືᚄศᕸ㛵ᩘ
2.5
1.5
1
0.5
O
H
0
H
-0.5
0
1
2
3
4
5
C−O O…O
4
3
2
1
0
-1
6
7
8
9 10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
原子間距離(Å)
r /䊅
ཎᏊ㛫㊥㞳䠄䊅䠅
第3図 CO2 吸収前後の差分により得られた MEA 水溶液の動径分布関数
第2図 純水の動径分布関数
の O-O 原子間距離は約 2.8Åで
間距離 1.2Å付近と 2.2Å付近に
Engineering Chemistry
あり、実際に第2図でその位置に
鋭いピークが観察されます。理論
Research”および“International
ピークを確認することができま
的に予想される水溶液中の CO2
Journal of Greenhouse Gas
す。このように、
X線散乱法では、
の構造と比較したところ、これら
Control”に掲載されました。
溶液を構成する分子構造を動径分
の原子間距離はそれぞれ吸収され
布関数という形で得ることができ
た CO2 のCとO、OとOの原子
ます。
間距離であることが判明し、吸収
実験では、典型的な CO2 吸収
4.
まとめ
SPring-8 を利用したX線散乱
された CO2 の構造を観察できて
法により、これまで実験的に観察
液であるモノエタノールアミン
いることがわかりました。さらに、
されていなかった吸収液中の
(MEA)水溶液を試料とし、それに
第3図の動径分布関数では 3.5Å
CO2 の状態が明らかになってき
CO2 を吸収させたものと吸収させ
付近にやや幅の広いピークが見ら
ました。今後、他のアミン種およ
て い な い も の を 測 定 し ま し た。
れますが、詳しい解析の結果、こ
び2種以上のアミンを混合した吸
MEA は 化 学 式 NH2CH2CH2OH
のピークは吸収された CO2 の周
収液についても実験を行い、新規
で表され、アンモニア分子(NH3)
囲に存在している水分子を表すこ
CO2 吸収液の開発に寄与してい
の1つの水 素 原子が CH2CH2OH
とがわかりました。これは、吸収
きたいと考えています。
に置き換わったものです。
された CO2 のO原子がやや負の
3.
結果
電荷を帯びており、これと水分子
の水素原子が水素結合を形成した
謝辞
X線散乱測定は、
(財)高輝度光
ものと考えられます。このように、
科学研究センターの承認のもと、
の量は少ないので、そのまま解析
吸収液に吸収された CO2 の構造
ビ ー ム ラ イ ン BL16XU お よ び
を進めると、水分子や MEA 分子
およびその周囲の水分子の存在を
BL04B2 で実施しました(課題番
の情報に埋もれて、CO2 の構造
直接観察したのは世界で初めての
号 2008B5050、2009B1299、
がうまく得られないことがわかり
ことであり、これらの成果は国際
2009B5050、2010B5050)
。
ました。そこで、解析方法を一歩
的に著名な学会誌“Industrial &
MEA 水溶液に吸収された CO2
前進させて、CO2 吸収前後で散
乱X線強度の差分をとり、それに
基づいて動径分布関数を求めまし
た。差分をとることで、CO2 に関
与しない原子ペアの情報がキャン
執筆者
執 筆 者:出口 博史
所
属:研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室(プロジェクト)
主な業務:X線による材料構造解析関連研究に従事
セルされ、吸収された CO2 の原
子を含むペアのみの情報が残りま
す。このようにして求めた動径分
布関数を第3図に示します。原子
研究に携わった人
研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室(プロジェクト)
古川 博敏、窪田 善之、八木 靖幸、今井 義博
15
研究紹介
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
集合住宅向けヒートポンプ式床下冷暖房システムの評価研究
一般に、エアコン冷暖房の課題としては「気流感や暖房時の足元の冷え・デフロスト運転による室温低下」
が、床暖房の課題としては「室温立ち上がりに時間を要すること」などが知られています。当研究室では、
これらの課題解決を目指して、
二重床空間をチャンバーとして利用した「集合住宅向けの簡易な構造のヒー
トポンプ式床下冷暖房システム」の試作と評価試験を実施しましたので、その概要について紹介します。
1.
研究のねらい
床下吹出ダクト
エアコンによる冷暖房では「対
流」
、床暖房では「ふく射」により
温熱環境を形成しています。これ
対流
K(6.7畳)
らを組み合せた
「対流」
と
「ふく射」
ふく射
による快適な空間を実現するに
は、それぞれの機器を手配する必
要があり非効率的です。そこで、
二重床の集合住宅を対象としてエ
L
(6.8畳)
室内機
N
D(6.8畳)
対流
対流+ふく射の効果として、垂直
成し、快適な室内空間を実現すべ
く実証試験と諸特性の評価を実施
するものです。
2.
研究の概要
(1)簡易なシステム構成
本実験環境は、集合住宅で採用
されている二重床空間にエアコン
室内機吹き出し空気をダクト1箇
所で接続して床下空間を通風路と
して使い床表面から「ふく射」で
熱を放出し、床に設置した4箇所
の開口部から「対流」で優しく吹
写真1 設置状況
第1図 実験空間
アコン1台で簡易なシステムを構
方向の温度分布が均一化され、足
フローリング
元の冷えが防止できることが分か
りました。
通風路
図は省略しますが、暖房時の水
断熱材
平方向、冷房運転時の垂直・水平
写真2 二重床空間
方向の挙動比較でも、居室の温度
分布が小さく良好な温度環境を得
実施した場合とのキッチン垂直方
ることが分かりました。
向温度比較を第2図に示します。
b.空間温度と床表面温度
設定温度はいずれも 23℃で床表
面~ 1.7 mの温度分布です。
これから、実験システムによる
さらに、設定温度 23℃におけ
る床上 0.6 mポイントの空間温度
と床表面温度の関係を第3図に示
き出すものです(第1図、写真1、
写 真 2参 照 )
。第1図において、
Kはキッチン、Dはダイニング、
Lはリビングを示します。また、
室内機(定格能力 4kW)は本来、
廊下天井裏に収納して筐体を露見
させませんが、実験では点検・改
良を容易に行うため、意図的に居
第2図 暖房運転時の垂直分布温度比較例
室空間上部に設置しました。
(2)訴求ポイント
a.垂直・水平方向の温度分布
一般に発売されている能力が同
じハウジングエアコンを壁掛け設
置し、対流方式による暖房運転を
16
第3図 室温と床表面温度の関係
建築側でダクトの接続位置、吹き
出し口の分散化、バッフル板の位
置などを配慮して設計する必要が
あります。
4.
まとめと今後の取組み
(1)
集合住宅向けの簡易な床下冷
暖房システムは、対流とふく射の
第4図 デフロスト運転時の室温低下状況
します。
効果により「エアコン単体」
「床暖
となる事実は否めません。
房単体」運転時の課題を解決でき
これから、実験システムによる
また、設置制約のある天井裏に
対流+ふく射の効果として比較的
エアコン室内機を収納する行為
低い設定温度で快適域に到達する
は、
熱交換器の最適配置が難しく、
(2)
本システムの普及は壁掛けエ
ことが分かりました。これから、
効率を向上させる最適設計に関し
アコンのようにメーカだけでは対
暖房運転時のリモコン設定温度の
て、試行錯誤とノウハウが必要と
応できません。住宅を設計・施工
引下げによる COP 向上が大いに
なります。
する側とエアコンメーカの協業で
期待されます。
c.デフロスト運転時の挙動
る魅力あるシステムであることが
分かりました。
成立するシステムであり、これら
(2)
床表面温度分布
を取りまとめるプロデューサーの
さらに、デフロスト運転時のリ
今回のような簡易なシステムで
ビング中央 0.6 m地点の温度比較
は、二重床空間に壁などの障害物
(3)当研究室では、「お客さまと
を第4図に示します。
があれば、空気の流れやすいゾー
社会のお役に立つ」という使命を
ンと流れにくいゾーンが生じて、
肝に銘じて、今後も省エネ且つ快
ロスト運転時に居室温度の低下が
床表面分布に温度差が生じる場合
適性に優れた新しいシステムの提
大きいのですが、実験システムに
があります。
案や検証に取り組んでまいりま
対流による方式だけでは、デフ
よる対流+ふく射の効果として床
これらの課題に対応するため、
出現がキーとなります。
す。
表面温度が高い値を維持し続ける
ため、室温低下の影響が軽微であ
り、快適性を維持できることが分
かりました。
d.被験者体感実験
健康な成人男女による、冷房設
定温度 27℃、暖房設定温度 20℃
写真3 試験状況(左から夏季椅子座・冬季椅子座)
における冷暖房の被験者実験結果
部屋許容度
を写真3、第5図に示します。
部屋許容度
100
100
80
暖房時の強制対流に対する床暖
80
60
60
40
気流
室温
20
房方式の快適感優位性は良く知ら
0
椅子座
まあまあ
超える快適性を示しており、床冷
湿度
房システムの普及が期待されま
3.
課題
(1)エアコンの基本性能
一般のルームエアコンと違い風
室温
20
0
れた事実ですが、床冷房はこれを
す。
40
気流
床温
椅子座
まあまあ
湿度
床温
第5図 被験者結果(左から夏季椅子座・冬季椅子座)
執筆者
執 筆 者:水谷 圭一
所
属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
主な業務:家庭用電化機器の評価業務に従事
路がダクトで構成されたシステム
は風路圧損が大きいため、送風機
の動力が大きく、効率が若干低め
17
研究紹介
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
空調機器のシミュレーション技術の紹介について
近年、日本国内ではビルの高層化による空調対象面積の増加により、空調機の大容量化が進んでいます。
一方ではテナントビルに代表されるように、各部屋で用途や運転時間が異なる運用がなされており、多様
性や省エネ性の観点から個別に制御する方式が好まれる傾向があります。そのため、これらの条件を満足
する個別分散式空調機が普及しております。このような背景から、私どもは当該機器のシミュレーション
モデルを構築し、運転の挙動解析や能力評価を行ってきました。本稿では、CFD(Computational Fluid
Dynamics)と呼ばれる流体解析ソフトを用いた解析結果の紹介を行います。
1.
冷 凍サイクルシステム
の解析
す。そこで、個々の構成要素を「モ
析するモデルとなりますが、一般
ジュール」として、システムを構
的に機械的に制御された、温度の
近年、空調機はもとより、
「エ
成して解析する方法によりモデル
空気を吹出し口から噴出すること
コキュート」と呼ばれる給湯器の
を構築しました。詳細は、2011
により、より快適な空間を創造し
登場により、ヒートポンプ技術の
年1月号をご覧ください。
ております。しかし一方で、室内
開発が進んでおります。気体と液
体の性質をうまく利用することに
より、熱をくみ上げるということ
から「ヒート(熱)+ポンプ(UP)
」
第1図に Ph 線図上に解析結果
の一例を示します。
2.
CFD モデル
環境は家具等の設置の状況が個々
の部屋により異なることや、部屋
の大きさ・形状が異なることから、
気流の状況が大きく異なるため、
計算機器の開発が進み、単位時
室内環境にあった空調運転方法は
救世主とも呼ばれております。私
間当たりの計算性能の向上も相
異なることが想定されます。そこ
どもは、夏場の電力ピーク上昇の
まって、シミュレーション技術も
で私どもはまずは、最初のステッ
要因となる空調機について、特に
ここ数年で向上してきました。特
プとして、両モデルを連成して計
業務用の空調機に焦点を当てて、
に複雑な流体の流れを可視化する
算機による解析を行うことにしま
性能評価を始めとした研究を進め
CFD(Computational Fluid
した。
てまいりました。各メーカーの仕
Dynamics)と呼ばれる、技術の
なお、技術の進展に伴い商用の
様により、大きさや構成要素に差
進展はめまぐるしいものがありま
CFD ソフトを初めとして多くの
異はありますが、圧縮機や、熱交
す。
種類があるのですが、私どもは
と呼ばれるこの技術は、省エネの
換器といった、基本となる構成要
先の冷凍サイクルモデルは、空
“OpenFOAM”と 呼 ば れ る ソ フ
素は似通った仕様となっておりま
調機内部の機械的な動作状況を解
トを採用することにしました。特
徴としては下記の点が挙げられま
す。
・元 々は OpenCFD 社で開発さ
れた商用ソフトであったが、現
在は無料で利用することができ
る。現在も SGI 社内において
開発が続けられている。
・ソ ースコードが公開されてお
り、ユーザーが自由に改良する
ことも可能である。
・ソースコードはオブジェクト指
向言語 C++ で書かれており、
Enthalpy:kJ/kg
第1図 冷凍サイクル解析モデルの解析結果
18
拡張性が非常に優れている。
・非構造格子に対応しており、曲
切断面
第3図 実験室モデルの構築
第2図 OpenFOAM の解析例
面などの複雑な形状もモデル化
第4図 温度分布解析結果
することができる。
・並列計算に対応しており、計算
果と計算結果の比較が容易である
することができましたが、熱容量
時間の大幅な短縮を図れる。
ことから、モデルの構築に至りま
を考慮できるモデルの必要性を認
した。
識しており、より精度を高めるた
・第2図に当該ソフトを用いて解
析した結果の一例を示します。
CFD を用いた解析では、気流
めにも、研究機関等が公開してい
分布や温度、湿度の分布を時系列
るデータをもとにベンチマークテ
でビジュアルに把握することがで
ストを実施し妥当性の検証を行っ
きますが、試作モデルにおいて、
ていく予定です。また、現在のモ
室内の代表点の温度と計算結果を
デルでは、計算時間が非常に長く
比較したところ簡易的に熱容量を
かかるため、プログラム等の改良
考慮したモデルにおいて傾向が一
による計算の並列化により計算時
簡易なモデルにおいては、物理
致していることが確認できまし
間の短縮化に取り組んでいく予定
的な条件により、解析結果の妥当
た。第4図に温度分布の解析結果
です。
性を検証することが可能となりま
を示します。
(解析条件)
・天井面に吹出口(17℃10.8m 3/
min)と吸込口を設置
・床面に発熱面(100℃)を設置
3.
実験室モデルの構築
すが、複雑なモデルについては、
解析結果の妥当性の評価が困難と
なる場合があります。
そこで、私どもは、環境試験室
を模擬して、モデルの構築を行い
ました。
(第3図)
環境試験室は、主に空調機の評
価等を行うための試験設備であ
り、断熱性に優れており、外部の
影響を受けにくい。また、熱電対
4.
今 年度の取組みと今後
の展開
試作モデルでは温度分布を再現
長期的には、モデルの妥当性が
確認できれば、室内環境を考慮し
た空調機の制御への応用等を視野
に入れていきたいと考えておりま
す。
執筆者
執 筆 者:松本 邦康
前 所 属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品評価研究室
現 所 属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 商品開発研究室
主な業務:業務用空調機他の性能評価に従事
を初めとした温度センサーや測定
機器類が設置されており、実験結
19
研究紹介
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
SOFC の電極微構造とセル性能の関係について
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の種々の電圧低下率のセルについて集束イオンビーム(FIB)- 走査型電
子顕微鏡(SEM)という装置を用い、それらの燃料極微構造の分析を実施しました。その結果、燃料極
材料のニッケル(Ni)の凝集に伴う粗大化が性能劣化の要因であることが分かるとともに、電圧低下率と
FIB-SEM 装置による分析から得られた燃料極の三相界面(TPB)密度の間には定量的な相関関係があるこ
とが分かり、FIB-SEM 装置が SOFC の電極微構造評価のツールとして有用であることが分かりました。
1.
はじめに
3.
SOFC 燃料極について
するという手法により、観察対象
我々が開発している SOFC セル
の三次元構造が直接的に分かると
最高の発電効率が期待できること
では、燃料極として、Ni とガドリ
ともに、その観察結果の分析によ
から、魅力的な発電デバイスとし
ニアドープセリア
(Ce0.7Gd0.3O2-δ
り前述の TPB 密度も算出できる
て 期 待 さ れ て い ま す。SOFC の
;GDC)の 複 合 体 を 用いており、
という点です。
発電性能はその電極微構造の影響
その構造は多孔質な形状となって
を強く受けると考えられています
います。Ni は燃料極反応を活性化
が、
それらの相関関係については、
するとともに電子(e )をよく通
これまで明らかになっていませ
す、GDC は O
をよく通すとと
サーメット、電解質にランタン
ん。このため SOFC の電極微構
もに電子も通す、多孔質部分の空
ガレート系電解質の1種である
造とセル性能の関係を詳しく評価
隙は燃料である水素や燃料極反応
La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.05O3-δ
するために本研究を実施しまし
により生成する水蒸気が電極内を
(LSGMC)、 空 気 極 に Sm0.5Sr0.5
た。
スムーズに行き来する、というよ
CoO3-δ
(SSC)をそれぞれ使用し、
2.
SOFC 発電について
うに各々の役割を果たしています。
燃料極、空気極の各電極の直径
これら Ni、GDC、空隙の三相が
を 120mm と し た Ni-GDC │
接する場で式2に示す燃料極反応
LSGMC │ SSC セ ル を 作 製 し、
により生成した酸化物イオン
が効率良く進むため、これら三相
これを今回の実験に用いました。
)が電解質内を通って燃料
の界面(TPB)の単位体積あたりの
本セルを 46 枚用いることにより
極側に移動し、水素燃料下で燃料
長 さ( μ m / μ m )
、すなわち
構成された 1kW 級のシステムに
極反応(式2)を起こすことによ
TPB 密度の評価は SOFC セル性
おいて、40 回の起動停止試験を
り発電します。全体としては(式
能を検討する上で大変重要です。
行うことにより、種々の電圧低下
SOFC は、 燃 料 電 池 の 中 で も
SOFC は空気極での反応
(式1)
(O
2-
3)に示すような水素と酸素から
水が生成する反応で発電する仕組
5. 実験内容
燃料極に前述のとおり Ni-GDC
-
2-
3
率のセルが得られました。この中
4.
FIB-SEM 装置について
から代表的な電圧低下率のセル3
SOFC の電極微構造の評価ツー
枚ならびに起動停止試験を実施し
いる SOFC セルでは、長期耐久
ル と し て、FIB-SEM 装 置 を 用 い
ていない、つまり電圧低下率が
試験や起動停止試験等を実施する
ました。この装置の特長は、FIB
0%と見なせるセル1枚の計4枚
ことにより燃料極由来の劣化が大
からガリウムイオンを照射しサン
を測定対象として選択しました
きくなることが示唆されていま
プルを削っては、SEM 像を観察
( 第 1表 )。 こ れ ら の セ ル の Ni-
みとなっています。我々が扱って
す。このことから式2に示す燃料
第1表 FIB-SEM 装置による分析を実施した SOFC セル
極の反応が効率良く進むようにす
る事が重要であると考えられま
セルの種類
#1セル
#2セル
#3セル
#4セル
電圧低下率(%)
0.00
1.31
3.87
15.18
す。
1/2O2 + 2e-→ O2 -
20
(式1)
H2 + O2 -→ H2O + 2e- (式2)
#1セル:起動停止運転を実施してないセル
H2 + 1/2O2 → H2O
#2セル~#4セル:起動停止運転を実施したセル
(式3)
の 関 係 を 示 し ま す。 こ れ よ り、
(b)
(a)
TPB 密度が低下すると、急激に
セルの電圧低下率が大きくなる傾
向 に あ る こ と が 分 か り、SOFC
の燃料極微構造とセル性能の間に
は大きな相関関係があることが分
第1図 起動停止運転を実施していない#1セルの燃料極の FIB-SEM 装置による観察結果
(a)SEM の一例,
(b)三次元化したもの.緑:Ni,黄色:GDC
7.
今後の予定
今後は、他の構造の SOFC 燃
(b)
(a)
かりました。
料極についても、FIB-SEM 分析
評 価 を 進 め、SOFC の 電 極 微 構
造とセル性能の関係についてより
深く検討していくこととしていま
す。
第2図 起動停止運転実施後に大きく劣化#4セルの燃料極の FIB-SEM 装置による観察結果
(a)SEM の一例,
(b)三次元化したもの.緑:Ni,黄色:GDC
8. 謝辞
本研究の一部は、新エネルギー・
GDC 燃 料 極 に つ い て、 前 述 の
な要因となっていることが分かり
産業技術総合開発機構(NEDO)
FIB-SEM 装置を用いた電極微構
ました。次に起動停止運転を実施
の「固体酸化物形燃料電池システ
造評価を行いました。
した#2セル、#3セルについて
ム要素技術開発」事業のもと、京
も同様に三次元構築を行い、それ
都大学大学院工学研究科物質エネ
らの結果から#1セル~#4セル
ルギー化学専攻江口研究室と共同
の TPB 密度を算出しました。そ
で実施したものです。関係各位に
第1図に起動停止運転を実施し
の結果として第3図に、各セルの
感謝いたします。
ていない#1セル、第2図に起動
燃料極の TPB 密度と電圧低下率
6.
FIB-SEM 装置による分
析結果
停止運転を実施し最も電圧低下率
20
電圧低下率 (%)
の大きかった#4セル、それぞれ
の FIB-SEM 装置による分析結果
を示します。それぞれの図におい
て、
(a)の SEM 画像の一例が FIB
により削る方向に何枚も存在し、
それらを積み重ね、三次元的に構
10
15
20
μm3)
第3図 SOFC 燃料極の TPB 密度と電圧低下率の関係
よび第2図(b)を比較しますと、
図(b)の Ni の 粒 径 よ り 大 き く
5
TPB密度 (μm /
ます。三次元化した第1図(b)お
は、#1セルのそれにあたる第1
5
0
に配色したものが(b)の図になり
にあたる第2図(b)の Ni の粒径
10
0
築 し、Ni を 緑 色 に GDC を 黄 色
大きく劣化した#4セルの燃料極
15
執筆者
執 筆 者:川野 光伸
所
属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
主な業務:SOFC要素技術開発に従事
なっていることが分かります。こ
れより、今回用いた SOFC セル
では、燃料極における Ni の凝集
に伴う粗大化が劣化の一つの大き
研究に携わった人
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室 稲垣 亨チーフリサーチャー
21
研究紹介
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
木質系バイオマスからのバイオエタノール製造技術の基礎研究
(その2)
食糧と競合しない木材等のセルロース系原料からバイオエタノールを製造する過程で使用するセルロース
分解酵素(セルラーゼ)を、きのこ廃菌床に蔓延するカビの一種であるトリコデルマ菌を利用したバイオ
エタノール製造技術の開発に福井工業高等専門学校と共同で取り組んでいます。今回は、前回報告以降の
成果を紹介します。
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ス分解酵素(セルラーゼ)が使用
されていますが、非常に高価であ
参考:セルロース系バイオマスの酵素糖化法によるバイオエタノール製造プロセス(例)
るため実用化への妨げの一つに
なっています。一方、自然界に存
ラーゼ活性を評価して菌株を選抜
ラーゼ生産能を持つトリコデルマ
在するカビの1種である「トリコ
し、 セ ル ラ ー ゼ 生 産 標 準 菌 株
菌 KFA-2 株を写真1に示します。
デルマ菌」は、きのこ栽培に害を
QM9414(以下、
「QM9414」とい
また、セルラーゼ生産能を持つ
およぼす害菌として問題視されて
う)と同等のセルラーゼ生産能を
他の糸状菌株(アスペルギルス
(黒
いますが、高いセルラーゼ生産能
目標に培養条件、糖化条件の試験
麹)属等)も廃菌床から同じよう
を持つことでも知られています。
検討等を進めました。しかしなが
に分離・培養することができまし
このトリコデルマ菌をきのこ廃菌
ら、選抜菌株のセルラーゼ生産能
たので、これら糸状菌株もトリコ
床に培養して
「トリコデルマ菌床」
は、ろ紙をセルロース資材として
デルマ菌株と同様に適切に維持・
を作製しセルラーゼ生産体として
糖化実験を行い、生成した糖化液
保存しています。
糖化効率の向上、さらには木質系
のグルコース濃度を QM9414と
バイオマスからのバイオエタノー
比較した結果、50%程度と低い数
(3)
最適な培養条件、糖化条件に
ル製造に大きな割合を占める酵素
値となりました。引き続き、セル
よる単独菌株のろ紙糖化試験
コストの低減が可能になるものと
ラーゼ生産能向上を目指し、以下
選抜菌株毎に最適な培養条件、
期待されています。
の項目について取り組みました。
2.
研究の概要
糖化条件を第1表、第2表に示し
(2)
選抜したトリコデルマ菌株等
その後も、きのこ生産現場から
(1)前回報告の概要
(2010 年1月号 No.454
80 個ほどの廃菌床を採取し、ト
2010 年1月 15 日発行)
リコデルマ菌の分離・培養および
きのこ生産現場から採取した約
各種セルラーゼ活性の評価試験を
100 個の廃菌床からトリコデルマ
行い、あらたに3菌株を選抜しま
菌を分離・培養した後、各種セル
した。選抜菌株の中で高いセル
第1表 セルラーゼ活性の高い培養条件
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KFA-2⳦ᰴ
T8-5⳦ᰴ
CN1-3-2⳦ᰴ
QM9414ᶆ‽⳦ᰴ
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KFA-2⳦ᰴ
⦆⾪ᾮ䛾✀㢮䛸䡌H
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写真1 選抜されたトリコデルマ菌
KFA-2 株
第2表 グルコース濃度の高い糖化条件
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22
含含含 水 エ タ ノ ー ル
含
ません。この糖化工程にセルロー
⸆ရ➼
⵨␃
無無無 ↓水 Ỉエ 䜶
無
タ 䝍ノ 䝜ー 䞊ル 䝹
よる糖化の工程を経なければなり
๓ฎ⌮
✄䜟䜙➼
グ ル
䜾コ
䝹ー
䝁ス
䞊 䝇
造するには、セルロースの分解に
Ⓨ㓝
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䢈䢛䢔䢙䡼䡬⏝⣬
ྂ⣬➼
セ䝉
ル䝹
ロ䝻
ーー 䞊
ー
ス䝇
非食物系系系
セルロースからエタノールを製
含ྵ水Ỉエ䜶タ䝍ノ䝜ー䞊ル䝹
含含含
1.
研究の背景、ねらい
T8-5⳦ᰴ
CN1-3-2⳦ᰴ
䜽䜶䞁㓟⦆⾪ᾮ 䡌H䠐䠊䠔
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䠑䠌䉝
QM9414ᶆ‽⳦ᰴ
よび緩衝液の種類・pH、攪拌方
法などの糖化条件を整え、ろ紙を
用いて糖化試験を行った結果、第
1図に示すようにグルコース濃度
を QM9414 の 約 70 % ま で 上 昇
3.0
3.0
2.5
2.5
┠ᶆ㐩ᡂ
2.0
䜾䝹䝁䞊䝇⃰ᗘ䠄䠂䠅
度、培地の pH などの培養条件お
䜾䝹䝁䞊䝇⃰ᗘ䠄䠂䠅
ます。KFA-2 株に最適な培養温
1.5
1.0
0.5
0.0
1
3
2
4
๓ᅇ್
5
6
๓ᅇ್
T8-5
KFA-2
7
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
第1図 糖化条件組み合わせによる
グルコース濃度
KFA-2(pH 7)
+KT-10(pH 6)
KFA-2(pH 7)
+KKS(pH 6)
QM9414
KFA-2(pH 6)
+KT-10(pH 6)
QM 9414
第2図 他の糸状菌組み合わせによるグルコース濃度
させることができました。しかし
単独菌株だけでは、これ以上、条
第3表 エタノール発酵試験
件を検討、整備してもグルコース
濃 度 の 上 昇 は 望 め な い と 考 え、
KFA-2 株のセルラーゼ活性を補
うために、保存しているアスペル
ギルス菌など他の糸状菌と組み合
䝃䞁䝥䝹
䜾䝹䝁䞊䝇⃰ᗘ䠄䠂䠅
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䜶䝍䝜䞊䝹཰⋡䠄䠂䠅
FA-2䠄䡌H7.0)
䠎䠊䠎
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FA-2䠄䡌H7.0)䠇KKS䠄䡌H6.0)
䠎䠊䠒
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䠔䠓䠊䠏
FA-2䠄䡌H7.0)䠇T-10䠄䡌H6.0)
䠎䠊䠓
䠍䠍䠊䠐
䠔䠎䠊䠒
QM9414䠄䡌H6.0)
䠎䠊䠓
䠍䠑䠊䠓
䠍䠍䠏䠊䠔
わせ、セルラーゼ活性を高めるこ
とによってグルコース濃度の上昇
がみられるか、その可能性を検討
することとしました。
(5)
エタノール発酵試験
糖化試験により得られた糖化液
3.
今後の取り組み
きのこ生産現場のきのこ廃菌床
は、共同研究先の福井工業高等専
から高セルラーゼ生産トリコデル
門学校で酵母によるエタノール発
マ菌やアスペルギルス菌など他の
(4)トリコデルマ菌と他の糸状菌
酵試験を実施し、糖化液のグル
糸状菌も選抜することができまし
との組み合わせによる、ろ紙
コース濃度と生成したエタノール
た。また、これら選抜菌株を組み
糖化試験
濃度から収率を求めて評価しまし
合わせることで、グルコース濃度
まずはじめに、トリコデルマ菌
た。その結果、第3表に示すよう
の上昇がさらに期待できることが
KFA-2 株による、ろ紙糖化試験
に 収 率 は 理 論 収 率 100 % を 上
確認できました。今後は、これら
(1段階目)を行った後、次にア
回っているものが見られますが、
の選抜菌株が古紙、稲わら等廃セ
スペルギルス属の選抜菌 KT-10
これらは糖化液中に含まれるトリ
ルロース資材への適用が可能かを
株や標準菌 KKS 株 など他の糸状
コデルマ菌由来の酵素と酵母によ
評価するため、前処理方法、糖化
菌を加えた、ろ紙糖化試験(2段
る並行複発酵が生じていたものと
試験方法の最適化、高効率化を探
階目)を行うという2段階での、
推察されます。また、収率が低い
究し、さらに低コスト化、省エネ
ろ紙糖化試験を行いました。その
要因としては、糖化液の保存時に
ルギー化に取り組み、木質系バイ
結果、第2図に示すように、選抜
雑菌等により糖化液を消費したた
オマスからのバイオエタノール製
菌株を組み合わせて糖化する2段
めグルコース濃度が低下していた
造プロセスの実用化技術の成立性
階糖化法により QM9414 とほぼ
ものと考えられます。
評価へと研究を進めていく考えで
同等のグルコース濃度を得ること
*理論収率 100%とは、グルコース 1g
からエタノール 0.51g を生成した場
合
す。
*
ができ、所期の目標を達成するこ
*
とができました。ただ、糖化時間
が通常の倍の 144 時間を要する
など、課題も残されています。
* KKS:アスペルギルス属ニガー種(黒
麹カビ)の1種で、セルラーゼ活性
の中でも、特にβ-グルコシダーゼ
活性が高い菌株として、一般的に用
いられている
執筆者
執 筆 者:原園 顕
所
属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 総合エネルギー研究室
主な業務:バイオマス関連技術の研究に従事
研究に携わった人
研究開発室 エネルギー利用技術研究所 青山 順
23
トピックス
研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター
光合成微生物による炭酸ガスからの生分解性プラスチック生産技術
に関する研究成果が、Bioresource Technology に掲載
炭酸ガスを光合成微生物に吸収させ、さらに吸収された炭酸ガスを遺伝子操作技
術により有用物質(生分解性プラスチック)に変える研究の成果が、生物資源利
用技術に関する学術誌 Bioresource Technology に掲載されました。
タイトル:
“
Antibiotics-free stable polyhydroxyalkanoate (PHA) production from carbon dioxide
by recombinant cyanobacteria”
執 筆 者:宮坂均、奥畑博史、田中聡(いずれも関電)、秋山英雄、鬼塚拓男、平野雅彦(いずれも東レリサー
チセンター)、佐々木健(広島国際学院大)
掲 載 誌:Bioresource Technology 2011 年 102 巻 11039-11042 ページ
植物は太陽エネルギーを利用して、水と炭酸ガスか
子組換え技術ではごく一般的な方法です。しかし、シ
ら炭水化物を合成し、同時に酸素を発生します。これ
アノバクテリアを大量に培養して、大量の炭酸ガスを
を酸素発生型光合成といいます(一般に「光合成」と言
固定・有効利用するために、抗生物質を使用するのは
われているものです)
。光合成を行うのは植物だけで
コストの面から現実的ではありません。そこで、抗生
はなく、大型藻類(コンブやワカメなど)
、微細藻類(植
物質を添加しなくても、シアノバクテリアが PHA を
物プランクトン)
、今回の研究対象のシアノバクテリ
合成するための遺伝子を安定に保持する方法を開発し
ア(別名ラン藻)なども光合成を行います。シアノバ
たのが、今回の研究成果です。このような技術は、バ
クテリアは約 25 億年前から地球上に存在する非常に
クテリア(大腸菌など)では従来から知られていまし
原始的な光合成を行う微生物(大きさ:1 μ m から 5
たが、光合成微生物のシアノバクテリアでは世界で初
μ m)で、植物に比べて増殖が速く、遺伝子操作がや
の例です。写真1は PHA を生産させた遺伝子組換え
りやすいという利点があります。
シアノバクテリアの電子顕微鏡写真です。白いかたま
当社ではシアノバクテリアに火力発電所から回収し
りが、細胞内に蓄積した PHA です。
た炭酸ガスを吸収させ、吸収した炭酸ガスを単なる炭
水化物(デンプンなど)ではなく、遺伝子操作技術を
利用してより高機能な有用物質に変える研究を実施し
てきました(東レリサーチセンターとの共同研究)。
シアノバクテリアに生産させる有用物質としては、あ
る種の微生物が作るポリヒドロキシアルカン酸
(PHA)という生体ポリマーを選びました。PHA はプ
ラスチックのように可塑性があり、しかも自然界で微
生物による分解を受けるいわゆる「生分解性プラス
写真1 PHA を蓄積したシアノバクテリア
チック」の一種です。
これまでの研究成果で、PHA を合成するための遺
今回開発した抗生物質を必要としない培養方法の詳
伝子をシアノバクテリアに導入し、実際に PHA を作
細はここでは説明しませんが、この方法は PHA 生産
らせることに成功していましたが、導入した遺伝子を
だけではなく、遺伝子組換えシアノバクテリアによる
シアノバクテリアの細胞内で安定に保持させるため
物質生産に広く応用できる汎用性が高い方法であり、
に、高価な抗生物質を培養液に添加する必要がありま
今後さまざまな応用が期待されます。
した。微生物は自身の生命活動に不必要な遺伝子を排
除する性質があり、導入した遺伝子を微生物内で安定
に保持させるために、抗生物質を利用するのは、遺伝
24
執筆者名:宮坂 均
トピックス
研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(発電)
「日本高圧力技術協会平成 24 年度貢献賞」受賞
受 賞 者:研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(発電) 香川チーフリサーチャー
電力技術研究所の香川チーフリサーチャー(CR)が、
日本高圧力技術協会(HPI)平成 24 年度貢献賞を受賞
しました。貢献賞は、HPI の活動に多大な貢献をした
個人を対象として、毎年3名程度に授与されます。香
川 CR は、HPI 圧力設備維持規格分科会において約
10 年間に亘り副主査を務め、この間に「圧力設備の
き裂状欠陥評価方法-第1段階評価」と「同-第2段
階評価」の2つの民間規格の発行に尽力した功績が認
められたものです。
5月 24 日に東京で行われた HPI 総会において、貢
献章受賞者3名のほか、科学技術賞受賞者1グループ
と科学技術振興賞受賞者1名および科学技術奨励賞受
写真2 懇親会で受賞の挨拶を述べる香川 CR
賞者3名に、酒井会長(東京大学)より賞状と記念の
メダルが贈呈されました。また閉会後、受賞者が会長
<分科会が発行した規格の説明>
を囲み、記念撮影が行われました。総会の後懇親会が
圧力設備維持規格分科会が発行した規格は、圧力設
行われ、受賞者一人一人から受賞の挨拶が述べられま
備にき裂状欠陥が検出された場合に、継続運転の可否
した。懇親会は、大学関係者やさまざまな業種の企業
を判定するための評価方法を提供するもので、検出さ
関係者が参加して大いに盛り上がり、盛会のうちに終
れた欠陥の寸法と材料のシャルピー吸収エネルギーか
了しました。
ら簡易的に評価する第1段階評価と、2パラメータ法
を用いて破壊力学に基づいて詳細評価を行う第2段階
評価が準備されています。第2段階評価は、第1段階
評価で継続運転不可と判定された設備を再評価する場
合や、第1段階評価が適用できない場合(例えば欠陥
が応力集中部にある場合、熱応力など内圧以外の応力
が作用する場合など)にも適用することができます。
これまでに発行した2つの規格は、適用温度範囲が
クリープ温度域以下に限定されていました。圧力設備
維持規格分科会では、今後クリープ温度域でのき裂状
欠陥評価方法の規格化に向けた活動を実施する予定で
あり、香川 CR は平成 24 年度以降分科会の主査に就
任することが内定しています。
写真1 酒井会長(前列中央)を囲んで記念撮影する受賞者
(前列右から2人目が香川 CR)
25
ミニ解説
研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(発電)
バイオマスエネルギーと太陽熱利用
1.
はじめに
第1表 バイオマスの種類
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故、
未利用資源
林地残材
間伐材
未利用樹
製材残材
建築廃材
その他木質バイオマス(剪定枝など)
製紙系
古紙
バイオマス
製紙汚泥
黒液
農業残さ
稲作残さ
稲わら
もみ殻
麦わら
バガス
その他農業残さ
家畜糞尿・汚泥
家畜糞尿
牛糞尿
豚糞尿
鶏糞尿
その他家畜糞尿
下水汚泥
し尿・浄化槽汚泥
食品系
食品加工廃棄物
バイオマス
食品販売廃
卸売り市場廃棄物
棄物
食品小売廃棄物
厨芥類
家庭系厨芥
事業系厨芥
廃食用油
その他
埋立地ガス
繊維廃棄物
生産資源
木質系バイオマス
短間期伐採木材
草木系
牧草
バイオマス
水草
海草
その他
糖・でんぷん
植物油
パーム油
菜種油
(出展) バイオマスエネルギー導入ガイドブック(第3版) 2010 年1 月 NEDO
地球温暖化問題および化石燃料の枯渇問題などの観点
から、新エネルギーが注目されています。
筆者は、新エネルギーの内、バイオマスエネルギー
と太陽熱利用について文献調査を行って来ましたの
で、ここに文献調査結果の概要について解説します。
2.
バイオマスエネルギー
2.
1.バイオマスエネルギーとは
バイオマス(BioMass)とは、もともとは生物(bio)
の量(mass)という意味ですが、今では、エネルギー
源や原材料として使うことができる、再生可能な生物
由来の動植物資源(化石燃料は除く)の総称として用
いられています。
バイオマスエネルギーとは、バイオマスを源とした
エネルギーのことであり、カーボンニュートラル(排
出した CO2 と同量の CO2 を分解する)であり、薪や
炭、藁など、古くから身近に利用されています。今日
木質系
バイオマス
森林バイオ
マス
では地球温暖化防止や循環型社会の構築に向けて、新
で低下しました。しかし、近年の地球温暖化問題や原
たな各種技術による活用が可能になり、原子力や化石
油の高騰から、今再び、太陽熱利用が注目を集めるよ
燃料に代わる新たなエネルギー源として期待されてい
うになりました。
ます。
資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会需給部
会の「2030 年のエネルギー需給展望」による太陽熱利
2.
2.バイオマスエネルギーの種類
バイオマス資源は未利用資源系と生産資源系に大別
でき、
各々に分類される資源の例を第1表に示します。
なお、我が国で利用可能なバイオマス資源はほとん
策ケース):90 万 kl、2030 年度(新エネルギー進展
ケース):112 万 kl と予想されています。
太陽熱利用の種類としては、以下のものがあります。
どが未利用資源系であり、海外諸国の一部ではエネル
(1)太陽熱温水器(自然循環式)
ギー利用を前提としたバイオマス資源の生産が行われ
(2)ソーラーシステム(強制循環式)
ています。
(3)太陽熱発電
3.
太陽熱利用
4.
おわりに
張り、太陽熱で温まった「日向水」を行水などに利用
さが予測され、バイオマスエネルギーや太陽熱利用な
する習慣がありました。また、オリンピックの聖火へ
どの新エネルギーが重要さを増すと考えられますの
の点火には、太陽熱が利用されています。
で、今後も、バイオマスエネルギーや太陽熱利用と言っ
太陽熱利用は古くからあり、日本ではたらいに水を
昭和 48 年の第一次石油危機の時に太陽熱利用につ
いて多くの研究が行われましたが、円高や石油価格の
安定化から、太陽熱利用の普及は、ピーク時の半分ま
26
用の導入量見通しは、原油換算で、2010 年度(追加対
原子力発電の将来性の見通しには、厳しさと不透明
た新エネルギーについてウオッチングして行きたいと
考えています。
(西村勇作)
社内案内
オランダ・Twente 大学理工学部の S. V. Arago の研究所訪問につ
いて
分子動力学計算を用いた CO2 吸収液に関する取組みなどを紹介しました。
1.
S. V. Arago
を理解して的確に質問をしていることが印象的でした。
S. V. Arago(Studievereniging voor Technische
Natuurkunde Arago)は、Twente 大学理工学部応
用物理学科の学生の団体です。
‘Arago’は、19 世紀の
フランスで活躍した科学者で政治
家のフランソワ・アラゴにちなん
だものです。大学当局の支援を受
けているものの、学生による委員
会が運営しています。
http://www.arago.utwente.nl/
2.
Shoshin Study Tour 2012
S. V. Arago の 学 生 24 人 と 指 導 教 官 2人 が、
‘Shoshin(初心)Study Tour 2012’と称して4月 20
日から約一か
月間日本を訪
問し、東京大
学、大阪電気
通信大学、産
そのうち、プロジェクト研究室からは、CO2 分離
業技術総合研
回収研究開発に関して、分子動力学計算を用いて最も
究所、宇宙航空研究開発機構、スーパーカミオカンデ
代表的な CO2 吸収液である2-アミノエタノールと
と企業の研究所などを訪問しました。
二酸化炭素の反応性について自由エネルギーの観点か
3.
関西電力の研究所の訪問
ら調べていることを紹介しました。
今までに、反応生成物であるカーバメートとプロト
関西電力の研究所には、2月に、初心委員会の渉外
ネートの溶媒和自由エネルギーが、反応性に大きく寄
担当である Bob de Ronde 君から、直接、見学の申
与していることがわかりました。しかし、溶液中の自
込がありました。
由エネルギーの計算値と実験値とが一致しないので、
真空中の反応種の分子軸の回転を考慮した自由エネル
ギー計算の改良に取り組んでいます。
5月9日の訪問は、2時間という短時間の訪問でした
が、ダム洪水吐水理模型実験、津波実験、二次電池、
CO2 分離回収、分子動力学、ガスタービン高温部品の6
件を紹介しました。専門外であるのにも関わらず、内容
27
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2012年7月号 vol.469 (2012年7月13日発行)
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