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4K映像の品質評価技術

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4K映像の品質評価技術
4K
4K・8Kサービスを実現する超高臨場感映像技術
QoE
評 価
4K映像の品質評価技術
次世代映像サービスとして,4K・8K映像サービスが注目されています.
4K・8K映像サービスは,高品質で臨場感あふれる映像をユーザに届ける
ことができるサービスとして期待されています.魅力的な4K映像を提供す
るためには,ユーザが体感する品質(QoE: Quality of Experience)に基づ
いたサービス設計・監視を実施することが重要です.本稿では,4K映像の
QoEを評価する技術,および国際標準化動向を紹介します.
4K映像のQoE評価の重要性
4K映像のQoE
かわしま
き
み
こ
川嶋 喜美子
おかもと
じゅん
/岡本 淳
NTTネットワーク基盤技術研究所
るITU(International Telecommunication
Union)では,再現性のある品質評価
近年,次世代映像サービスとして
4K映 像 は, 従 来 の フ ルHD(High
結果を得ることを目的として,観視環
4K ・ 8K 映像サービスが注目されてお
Definition) 映像と比べて,解像度が
境や観視条件を規定し,映像の主観品
り,すでに,電機メーカ各社からさ
4 倍となるため,高画質な映像を視聴
質評価にかかわる方法論を勧告化して
まざまな4KTVが発売されています.
することができます.さらに,ビット
います.4K映像の主観評価法に関し
ま た, 総 務 省 で は 次 世 代 放 送 推 進
深度も 8 ビット以上,フレームレート
て は, 映 像 品 質 専 門 家 グ ル ー プ
フォーラム(NexTV–F: Next Generation
が 2 ~ 4 倍に変更されることが想定
(VQEG*: Video Quality Experts
Television&Broadcasting–Promotion
されており,従来のHDTVよりも高い
Group) に お い て,Ultra-HD(4K)
Forum)を設立し,4K映像の送信 ・
臨場感や奥行き感,力量感を感じられ
プロジェクトが立ち上がり,4K映像
受信に関する規定や仕様の検討を開始
ることが期待されています.
そのため,
の品質評価に向けた検討が開始されま
しました.本フォーラムでは,ブラジ
QoE要因としては,従来より評価対象
した.本プロジェクトでは,4K映像
ルワールドカップが開催される2014
としてきた画質だけではなく,臨場感
の主観品質評価法の検討や,4K映像
年に4K試験放送の開始,そしてリオ
や奥行き感,力量感等の評価が必要で
信号の物理的な特徴量等から主観評価
(1)
デジャネイロオリンピックが開催され
す .本稿では,これらのQoE要因の
で得られるQoEを推定する客観評価
る2016年に,8K試験放送の開始,さ
中で,4K映像の画質を評価する手法
法の検討をターゲットとしています.
らに東京オリンピックが開催される
を紹介します.
主観品質評価法に関しては,基本的に
2020年には,高品質で臨場感あふれ
る映像を各家庭で楽しめる環境が整う
4K映像の品質評価法
は,従来のフルHDの主観品質評価法
を踏襲する方針となっています.
映像通信サービスのQoEを評価する
次に,従来のフルHDの主観品質評
魅力的な4K映像を提供するために
もっとも基本的な手法が「主観品質評
価法で規定されている条件の一部を紹
は, ユ ー ザ が 体 感 す る 品 質(QoE:
価法」です.主観品質評価法は,人間
介します.例えば,主観品質評価実験
Quality of Experience)に 基 づ い た
が映像の刺激を受けて,個々人の主観
を 行 う 際 の 観 視 条 件 は,ITU-R
サービス設計 ・ 監視を実施することが
的判断に基づいて品質評価を行う視覚
BT.710(2)やBT.1129(3)などで規定され
重要です.そのためには,4K映像の
心理実験であり,評価映像の提示方法
ており,その中では,視距離やモニタ
QoEを評価する方法論の確立が必要
や適切な評価尺度の選択,観視環境の
のピーク輝度,評価ブース内の照明な
不 可 欠 で す. 本 稿 で は,4K映 像 の
調整などの実験計画立案 ・ 実施におい
QoE評価に向けた取り組みを紹介し
て,専門知識や評価設備が必要となり
ます.
ます.このため,国際標準化機関であ
こと目指しています.
68
NTT技術ジャーナル 2014.2
*VQEG:ITU-TおよびITU-Rで取り扱う映像品質
評価に関する技術検討を,セクタ横断的に実施
する専門家グループ.
特
集
どが細かく規定されています.また,
評価者に関しての規定もあります.同
じ映像を観視した場合でも,個々人が
体感する品質(主観品質)はさまざま
(a)フルHD映像の場合
(b) 4 K映像の場合
モニタ
モニタ
1.5H
1.5H
3H
3H
です.評価結果のばらつきを少なくす
るために,ITU-R勧告BT.500(4)では,
評価者は15名以上の非専門家(日常業
務としてTV映像の画質にかかわる業
務に従事しておらず,評価経験が豊富
でない人)とすることが規定されてい
ます.
:評価者観視位置
4K映像の主観品質評価法に関して
H:モニタ画面の高さ
は,従来のフルHDの主観品質評価法
図 1 視距離
を踏襲する方針となっているため,こ
れらの基準の4K映像の主観評価への
適用可能性を検討した結果を以下に示
します.
10秒
10秒
10秒
10秒
10秒
10秒
10秒
10秒
3秒
3秒
3秒
において,視距離は3H(H:モニタ画
面の高さ)とすることが規定されてい
ます(図 1 )
.この視距離は,視力1.0
の人が走査線構造の粗が見えない距離
5 ∼11秒
3秒
3秒
3秒
評価
1 評価単位
︸
映像B
︸
映像A
︸
映像B
︸
映像A
︸
映像B
︸
映像A
︸
フ ルHD映 像 で は,ITU-R BT.710
映像B
︸
■視距離に関する検討
映像A
時間
5 ∼11秒
評価
1 評価単位
図 2 DSCQS評価の流れ
に一致しています(5).ここで,4K映
像は高解像度であるため,より近づい
質評価検討では,視距離を1.5Hとし
てみても走査線構造の影響は受けませ
たものが主流となっています.
ん.具体的には,4K映像の水平画素
■画質の評価尺度に関する検討
数が3840であることと,視覚の分解
映像A
映像B
非常に良い(excellent)
放 送 サ ー ビ ス の 画 質 評 価 は,
D S C Q S 法(D o u b l e - S t i m u l u s
を考慮すると,画角は約64°となりま
Continuous Quality-Scale)を用いて
す.これは,視距離1.5Hで見たとき
実施しています.ITU-R勧告BT.500
の観視画角(61°
)とほぼ一致します.
で規定されるDSCQS法では,図 2 に
実際,4K映像を1.5Hの視距離で近づ
示すように,基準映像と符号化等の何
いてみても精細感を感じることがで
らかの処理が施された評価映像を対に
き,高画質性が保たれています.その
して 2 回提示し, 2 回目の提示時に両
ため,4K映像の主観評価実験では,
映像に対する評価を行います.一対で
従来のフルHD映像の主観評価よりも
提示する映像のどちらが基準映像であ
モニタに近い視距離である1.5Hとし
るかは評価者に教えずに,実験実施者
ゴリに基づき,両映像に対する品質評
て実施することが想定されます(図
がランダムに変えます.評価者は,図
価値を連続尺度上に横棒で印をつけま
1)
.すでに行われている4K映像の品
3 に示すように 5 つに分類されたカテ
す.評価尺度を 0 ~ 100に正規化し
(尺
良い(good)
普通(fair)
画質差
能が画角 1 °当り約60画素であること
悪い(poor)
非常に悪い(bad)
図 3 DSCQSの評価カテゴリ
NTT技術ジャーナル 2014.2
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4K・8Kサービスを実現する超高臨場感映像技術
(a)フルHD映像の場合
(b) 4 K映像の場合
評価映像
評価映像
高品質
高品質
基準
基準
⋮
⋮
高品質領域
のみ
Y
高品質から
低品質まで
⋮
X
低品質
低品質
基準
評価映像X
基準
?
?
?
違いが
分かる!
評価映像Y
違いが
分からない!
図 4 4 K映像評価にDSCQS法を用いる際の課題
度の最大値が100,最小値が 0 )
,条
符号化をしても基準映像に近い品質と
価条件の95%信頼区間の平均値)と,
件ごとに得られた一対(基準映像と評
なるため,一般の評価者が基準映像と
同 一 の 評 価 者 が 視 距 離 を3Hと し,
価映像)の映像に対し,両映像の評価
評価映像の違いを安定的に評価できな
DSCQS法によりフルHD映像の品質
値の差(基準映像の評価値から評価映
いという懸念があります(図 4 )
.そ
を評価した場合の主観評価のばらつき
像の評価値を差し引いた値)を計算し
こで私たちは,4K映像の基準映像に
を図 5 に示します.エラーバーは95%
ます.この「画質差」を評価者で平均
近い高品質な評価映像のみで評価を実
信頼区間を示しています.図 5 より,
した値がDSCQS値です.DSCQS値
施した場合と,従来のフルHDの品質
4K映像評価の場合のばらつきとフル
は画質の差により導出された値である
評価検討と同様に低い品質から高い品
HD映像評価のばらつきは,同程度と
ため,値が小さいほど品質が良く(基
質まで,幅広い品質の評価映像で評価
なっていることが分かります.これよ
準映像に近い品質)
,値が大きいほど
を実施した場合の評価結果の検証を実
り,基準映像に近い高品質な4K評価
品 質 が 悪 い こ と を 示 し て い ま す.
施しました.視力1.0以上,20歳以上
映像のみで評価を実施した場合でも,
DSCQS法では,基準映像と比べた評
の 評 価 者36名 が 視 距 離 を1.5Hと し,
一般の評価者は,従来のフルHDの品
価映像の品質差を評価しますが,4K
DSCQS法により4K映像の品質を評価
質評価検討と同様に,基準映像と評価
映像の場合,符号化レート次第では,
した場合の主観評価のばらつき(各評
映像の違いを十分に評価できているこ
70
NTT技術ジャーナル 2014.2
特
集
大きい
4K ・ 8K映像サービスの提供に貢献し
1.6
ていきます.
■参考文献
(1) 江本 ・ 正岡 ・ 菅原 ・ 野尻:“広視野静止画像
による臨場感の提示視角依存性と評価指標間
の関係,” 映像情報メディア学会誌,Vol.60,
No.8, pp.1288-1295, 2006.
(2) ITU-R Recommendation BT.710: “Subjective
assessment methods for image quality in highdefinition television,” Nov. 1998.
(3) ITU-R Recommendation BT.1129: “Subjective
assessment of standard definition digital
television (SDTV) systems,” Feb. 1998.
(4) ITU-R Recommendation BT.500: “Methodology
for the subjective assessment of the quality
of television pictures,” Jan. 2012.
(5) 成田 ・ 金澤 ・ 岡野:“超高精細 ・ 大画面映像
の鑑賞に適した画面サイズと観視距離に関す
る考察,” 映像情報メディア学会誌,Vol.55,
No.5, pp.773-780, 2001.
1.2
主観評価のばらつき
0.8
0.4
小さい
0.0
フルHD映像
4 K映像
評価者:36名(視力1.0以上.20歳代男女)
視距離:1.5H( 4 K映像)
, 3 H(フルHD映像)
評価映像数: 4
評価条件数: 4(原画,符号化条件 3 条件)
エラーバー:95%信頼区間
図 5 4 K映像とフルHD映像の主観評価のばらつき
とが分かりました.そのため,4K映
選択し,視聴することが可能なインタ
像の品質評価尺度は,従来と同様に,
ラクティブ映像配信サービスのように
DSCQS法を採用することが可能と考
活用領域が広がっています.
そのため,
えています.
お客さまに満足いただける品質を担保
今後の展開
するためには,今回紹介した画質の評
価だけではなく,サービス利用時に
本稿では,4K映像のQoE要因の中
ユーザが感じるあたかも面と向かって
で,画質を評価するための主観評価技
コミュニケーションを取っているかの
術について紹介しました. 本技術を
ような感覚や,提示された4K映像空
用いて,想定される4K映像サービス
間に入り込んだような臨場感や没入
の配信符号化レートで符号化された
感,快適感といった感覚を評価するこ
4K映像サービスの品質を評価するこ
とも重要です.特に,今後提供される
とで,お客さまに満足いただける画質
8K映像サービスでは,さらに大画面
を実現可能な符号化レートを設定する
なモニタでの映像視聴が想定されるこ
ことが可能となります.
とから,これらの感覚を評価する技術
4K映像サービスは,映像を放送す
るだけではなく,4K映像を利用した
が求められます.
今後は,従来の主観評価では対象と
遠隔コミュニケーションサービスや,
していない臨場感等の感覚を評価する
ユーザが自分の見たいところを自由に
検討を進め,高品質で臨場感の高い
(左から)
岡本 淳/ 川嶋 喜美子
ユーザが感じる品質に基づいてサービス
を設計 ・ 監視するための基盤技術を確立し,
ユーザに魅力的な4K映像配信サービスを提
供する仕組みを実現したいと考えています.
◆問い合わせ先
NTTネットワーク基盤技術研究所
通信トラヒック品質プロジェクト
TEL 0422-59-6936
FAX 0422-59-3724
E-mail kawashima.kimiko lab.ntt.co.jp
NTT技術ジャーナル 2014.2
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