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太陽電池アレイの発電効率向上と熱利用に関する研究(PDF:222KB)
研究成果報告書 研 究 題 目 太陽電池アレイの発電効率向上と熱利用に関する 実 施 年 度 研究 平成21年度 所属 大島商船高等専門学校 氏名 藤井雅之 電子機械工学科 代表研究者 印 1. 研究の目的・背景 夏季になると強い日差しを受けて,太陽電池はより多くの電力を発電すると思われがちである。 しかし,実際には太陽電池が高温になることによって,温度上昇に伴う発電効率の低下が起こり, 期待したほど発電していないことがある。これまでの実験的な研究において,夏季に太陽電池を 水冷することにより,発電効率の低下を抑制できることが分かっている。また,水冷に用いた冷 却水にはかなりの温度上昇が認められるため,熱利用の可能性についても検討している。 本研究では,温度上昇した太陽電池を水冷して発電効率の低下を抑制すると共に,冷却水の温 度上昇による熱利用に関する試験的な研究を行ったので報告する。図 1 に実験設備の概略を示す。 実験には多結晶 Si 型 2 枚の太陽電池モジュールを用いた。1 枚は一般的な状態で設置し,別の 1 枚は太陽電池の背面に冷却水 20ℓを溜めることができるように加工した。水冷する前の発電特性 を比較した場合,水冷用の太陽電池Aのほうが,太陽電池Bよりも発電特性が若干劣っているこ とを確認した。 実験方法は,冷却水が 40℃を超えたら冷却水を排水し,一般家庭用のバスポンプを使って新た な冷却水を給水するようにし た。電圧と電流の測定にはデジ タル・ハイテスタを用い,バッ テリーを充電する電力を算出 した。太陽電池の表面温度の測 定には温度ロガーを用いた。冷 却水の温度測定には熱電対を 用い,モバイルデータロガーで 測定データを記録した。熱量に ついては,回収された温水の量 および冷却水の給水前と排水 後の温度差から算出した。 図 1 実験設備の概略 2.研究成果及び考察(申請時の計画に対する達成度合を織込む) 図 2 は水冷した太陽電池Aと水冷しなかった太陽電池Bの発電特性を比較したものである(平 成 21 年 9 月 16 日測定)。冷却水を 9 時に給水し,11 時過ぎに 1 回目の交換,13 時頃に 2 回目の 交換,15 時頃に 3 回目の交換,17 時に排水して終了した。太陽電池Aの表面温度は,冷却水を 給水した直後に急激に低下し,その後,冷却水とともに温度上昇している。冷却水の給排水を 40℃ に設定したことにより,水冷した太陽電池Aの表面温度は,水冷しなかった太陽電池Bの表面温 度をほぼ全ての時間帯で下回っていることが分かる。 太陽電池の発電特性については,水冷した太陽電池Aの発生電力が一般的な状態で設置した太 陽電池Bの発生電力をほぼ全ての時間帯で上回る結果となり,水冷の効果を確認することができ た。ただし,給排水には約 7 分 を要することから,その僅かな 時間帯は,太陽電池Aにも温度 上昇に伴う発電効率の低下が 観測されている。 冷却水の水温は給水前に 24℃であったが,給水直後に上 昇し,約 2 時間ごとに 40℃に 達していることが分かる。1 日 を通して,太陽電池モジュール 1 枚あたりで 40℃の温水が約 60 ℓ得られた。 図 2 水冷が発電特性に及ぼす影響と冷却水の温度上昇 図 2 の発生電力から算出した積算電力量と冷却水の温度差から求めた熱量を表 1 に示す。積算 電力量は水冷した太陽電池Aのほうが,一般的な状態で設置した太陽電池Bよりも約 3%上回って いる。また,水冷による温度上昇からは,予想していたよりも大きな熱量が得られることが分か った。 表 1 太陽電池の積算電力量と冷却水が得た熱量 太陽電池を水冷し,冷却水を適宜交換す ることにより,バスポンプの消費電力を最 小限にしながら,ほぼ全ての時間帯で発電 効率の向上を確認できた。また,冷却水の 温度上昇から,熱利用も可能であるという 見通しが得られた。 太陽電池A (冷却水あり) 太陽電池B (冷却水なし) 積算電力量 熱量 [W・h] [W・h] 451.47 1190 438.49 ‐ 3.経費の使用状況(申請時の計画に対する実績を記述) 多結晶 Si 型太陽電池モジュール 4 枚を購入し,発電特性の近いもの 2 枚を水冷の実験に使用 した。多結晶 Si 型太陽電池であっても,単結晶 Si 型太陽電池と同様の水冷効果が得られること を確認した。別の 2 枚の太陽電池モジュールは,背面にペルチェ素子を貼り付けた熱電効果の実 験および,背面にヒートシンクを貼り付けた空冷の実験に使用した。 発電状況の監視にはワットメーター&パワーアナライザーを用い,発生した電力は直流のまま バッテリーに蓄電した。また,過充電・過放電を防ぐために,ソーラー充電コントローラーを使 用した。冷却水を溜めておく貯水タンクと水冷後の温水を溜めておく貯水タンクをそれぞれ 1 個 ずつ使用した。 太陽電池背面にペルチェ素子を貼り付け,太陽電池背面と気温の温度差によって起電力を得よ うとしたが,本実験においては特筆すべき結果は得られなかった。また,太陽電池背面にヒート シンクを貼り付けた空冷の実験についても同様に,特筆すべき結果は得られなかった。 参考となる書籍の購入,実験データをプリントしてまとめておくためのクリアフォルダ,電気 学会中国支部研究発表会の参加費などは,当初の計画には計上していなかったが,研究の遂行お よび成果の報告の上で必要であったため経費から支出した。 4.将来展望(今後の発展性、実用化の見込み等について記述) 国内においては,太陽光と太陽熱を併用した太陽熱温水器が市販されている。これは,ポンプ を駆動して水道水を汲み上げるために太陽電池が電源として利用されており,商用周波数の電源 を必要としないことが特徴であると考えられる。基本的には太陽熱温水器であることから,太陽 熱の利用が主な目的で,太陽光の利用が補助的な役割となっている。これに対し,本研究の目指 す太陽光と太陽熱の利用は,太陽電池による発電量の向上および冷却水回収後の熱利用であるこ とから,太陽光の利用が主な目的で,太陽熱の利用が補助的な役割となっている。 海外においては,砂漠地域を利用した数万~百万 kW 級の超大型太陽光発電システム:VLS-PV (Very Large Scale Photovoltaic Power Generation)のようなアイデアがある。砂漠地域の面 積は地球の陸地部分のおおよそ 3 分の 1 と言われている。その砂漠地域の半分に太陽電池を敷き 詰め,降り注ぐ太陽エネルギーを電力に変換すると,その発電量は世界で 1 年間に消費される一 次エネルギーの約 16 倍に相当すると試算されている。砂漠のように日中は高温となる環境下に おいて,筆者らが検討している太陽電池の水冷と水冷後の熱利用は有効であると考えられる。ま た,ヒートポンプとの組み合わせなどが応用技術として活用できるのではないかと考えている。 本研究では,太陽電池を水冷する冷却水が 40℃を超えたら手動で排水し,一般家庭用のバスポ ンプを使って冷却水をリフレッシュした。今後は冷却水の温度上昇を検知し,冷却水の給排水を 自動で制御するシステムが必要になる。実用化を検討する上で,その自動制御システムについて, 考案しなくてはならないと考えている。 5.成果の発表(学会での発表、学術誌への投稿等を記載。予定を含む) (1) 玉木隆宏,柳原秀信,藤井雅之: 「太陽電池の水冷と熱利用に関する研究」 ,平成 21 年度 電 気・情報関連学会中国支部第 60 回連合大会,講演論文集p. 661,2009年 10 月 17 日 (2) 藤井雅之: 「太陽光発電の応用技術」 ,第 4 回 産学公ニーズ・シーズのマッチング会,2009 年 10 月 15 日,岩国市民会館 (3) 藤井雅之: 「太陽光発電の応用技術」 ,津山-徳山高専 環境エネルギープロジェクト 第 2 回 会議(新エネルギーに関する講演を中心として),2010年 1 月 16 日,津山国際ホテル (4) 玉木隆宏,柳原秀信,藤井雅之: 「太陽電池の水冷による発電効率の向上と熱利用に関する 研究」,平成 21 年度電気学会中国支部 第 2 回高専研究発表会,講演論文集 p.5,2010 年 3 月5日 (5) 柳原秀信,玉木隆宏,藤井雅之: 「太陽電池の水冷による発電効率の向上と熱利用に関する 研究」,平成 21 年度日本機械学会中国四国学生会 第 40 回学生員卒業研究発表講演会,講 演前刷集 p.332,2010 年 3 月 5 日 (6) 玉木隆宏,柳原秀信,藤井雅之: 「太陽電池の水冷による発電効率の向上と熱利用の研究」, 平成 21 年度山口県高等専門学校専攻科 特別研究合同中間発表会,講演論文集 p.161,2010 年 3 月 10 日 (7) 藤井雅之: 「中国地区 8 高専の研究成果発表」,平成 22 年度 産学官連携推進会議 科学・技 術フェスタ in 京都,2010 年 6 月 5 日,国立京都国際会館