...

ひだまりのようなやさしいパンを届ける 街のパン屋 さん

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

ひだまりのようなやさしいパンを届ける 街のパン屋 さん
「社会を変える」社会起業家インタビュー第 4 回
ひだまりのようなやさしいパンを届ける 街のパン屋 さん
社会福祉法人 萌 ひだまり 所長
山口健一さん
社会福祉法人 萌 ひだまり 所長 山口健一さん
近鉄生駒駅南口前から ぴっくり通り商店街 を抜けた先に、「パ
ン工房 ひだまり」というパン屋さんがあります。白と木目を基調とした
清潔感あふれる店内には、どれを選ぼうか迷ってしまうほど、美味しそ
うなパンがずらり。調理パン・菓子パンは全品 120 円(店頭価格・2013
年 7 月現在)と、リーズナブルな価格も魅力です。もちもちとしたパン
生地とシャキシャキした粒コーンの食感が楽しい「コーンパン」、ごろ
りと大きな黒豆とほんのり甘いパン生地が絶妙なバランスの「黒豆きな
こ」など、数々の人気商品は、老若男女を問わず、地元生駒の パン党
たちに愛されてきました。
「パン工房 ひだまり」は、2012 年 5 月、社会福祉法人 萌(も
え)が運営する「指定障害福祉サービス事業所 ひだまり」の製パン事業
としてスタートしました。この事業では、精神障がいによって通常の事
業所で働くことが困難な人々に、パンの製造、店舗での販売、得意先へ
の配達など、多種多様な仕事を提供。それぞれの強みや生活のペースに
合わせながら、個性豊かな仲間たちとともに活き活きと働き、地域や社
会とつながることのできる場になっています。
しかし、「パン工房 ひだまり」では、自らが指定障害福祉サービ
ス事業所であることを積極的にうたっていません。この理由について、
現所長の山口健一さんは、「メンバー全員で徹底的に議論し合った結
果、『 福祉作業所 としてではなく、 パン屋 として、お客さまによろ
こんでもらえる美味しいパンを売ろう』と決めたからです。」と答えて
くれました。
山口健一(やまぐち けんいち): 大学卒
業後「ヒトとかかわる仕事がしたい」と
の思いから、精神障がい者福祉の分野に
進む。事業所・法人開設時から従事。仕
事のかたわら、通信制プログラムを修了
し、専門資格も取得。2012 年、社会福
祉法人 萌 ひだまり 所長に着任
パン工房 ひだまり:2012 年 5 月オー
プン。パンはすべて手作り・無添加。生
駒駅南口から徒歩 5 分
所在地: 生駒市本町 7 番 14 号 ブルーム
ビル 1 階
電話番号: 0743-85-4196
営業時間: 10:00∼17:00(土・日・祝日
休)
URL:
http://www.moe.or.jp/offices/actualwork/ikoma/hidamari/bakery.html
「ひだまりのパンは、すべて無添加かつ手作り。子
どもさんから年配の方まで、誰でも安心して美味しく食べ
てもらえる自信があります。 美味しいパンをリーズナブ
ルな価格で提供し、地域の方々に喜んでもらえる店 であ
りたいと思っています。」と山口さんは言います。手作り
ゆえ、大量生産はできないけれど、その分、じっくり時間
をかけて丁寧に作られていることは、食べてもらえばきっ
と伝わるはず。スピードや効率ばかりが重視されるこの時
代、真心のこもった接客や丁寧なやりとりにこそ、ヒトを
優しい気持ちにさせる温かさがあるはず̶。このように、
「パン工房 ひだまり」では、ともすると弱点にもなりうる
この店の特徴をポジティブに捉え、自らの 付加価値 へと
昇華させています。
とはいえ、様々な障がいを持つ人々が集まる職場を
マネジメントし、事業を継続的に運営していくことは、並
大抵のことではありません。「パン工房 ひだまり」では、
精密な計量が得意な人は小麦粉の計量、丸めるのが上手な
人はパン生地の成形、他人とのコミュニケーションが好き
な人は店舗での接客といったように、メンバーそれぞれの
「できること」に着目し、それらを作業レベルで組み合わ
せ、業務プロセス全体を遂行する ワークシェアリング を
導入しています。得意なこと、できることを一つひとつ積
み上げることでメンバーそれぞれの自信につなげながら、
「パン工房 ひだまり」としての日常業務を運営しているの
です。
また、「パン工房 ひだまり」では、 産官学福との
連携 をテーマに掲げ、地域コミュニティの一員として、
地元の企業・行政・教育機関・福祉施設とつながりなが
ら、活動の幅を広げようとしています。すでに、生駒市役
所への出張販売を実施しているほか、地元・生駒駅前商店
街の活動にも積極的にかかわり始めました。地元商店との
コラボレーションによる新商品の開発、ベーカリーレスト
ランへの展開など、夢はどんどん広がります。「できるこ
とは、まだまだたくさんあります。より多くの人々に喜ん
でもらえるよう、まずは、一つひとつ積み重ねていくこと
からですね。」と、山口さんは決意を新たにしています。
ひだまり とは、日当りがよく、温かい場所のこ
と。「パン工房 ひだまり」は、その名が示すとおり、地元
の人々に美味しいパンを届け、障がいを持つ人々に働く場
所を提供することによって、地域社会全体に、やわらかく
温かい光を照らし続けています。
(インタビュー・文:松岡由希子)
Fly UP