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3-2 緑化施策 3-2-1 緑化全般 3-2-1
3-2 緑化施策 3-2-1 緑化全般 3-2-1-1 屋上緑化・屋根緑化 1)概要 都市のヒートアイランド対策や景観維持を目的として、都市の緑化を推進すべく、法や 条例により各地で緑化の義務付け・推奨が進められている。その中でも、ビルの屋上の緑 化について、平成 13 年の東京都(適用は平成 14 年)を皮切りに、兵庫県を含む各地の自 治体で一定規模以上の新築ビルについて義務付けられたのを契機に、色々なタイプの緑化 が提案されており、実施例も増えてきている。 屋上緑化・屋根緑化には、以下の効果が期待されている。 a 都市全体として ・ ヒートアイランド現象緩和 ・ 都市景観向上 ・ 雨水の流出抑制による豪雨時の水害抑制(防災) ・ 都市の生物多様性向上 b 個々の建物にとっても、 ・ 室内、特に屋上直下のフロアの温上昇抑制 ・ 新たな憩いの空間創成 ・ 建物外装材料(コンクリートなど)の保護 などの効果がある。 屋上緑化・屋根緑化にも、植物の種類、栽培基盤、規模など緑化方法により色々なタイ プがある。 ①植物の種類: ・芝系 ・セダム系(乾燥に強い) ・苔類(乾燥に強い) ・ヘデラ類 ・低木、果実をともなう木 ・花卉・野菜類(葉菜、果菜、根菜) ・その他 なお、一般の屋上緑化では重量の制限や風の問題もあり、大きな樹木は適していない。 3-36 ② 栽培基盤 屋上・屋根に設置することから軽量であることが求められる。 ・土耕・特殊基盤 軽量で保水性、保肥性、維持管理などを 考慮した各種の特殊土・材料、中には廃 棄樹皮や、剪定材・繊維廃棄物などのリ サイクル材料を利用したものも提 図3-2-1 栽培基盤 剪定リサイクルを利用基盤とその上に芝を生や した例 (出典:テクノ宝塚㈲カタログ) 案されている。 ・水耕(養液の種類・潅水法など各種製品の提案あり) 水耕の場合、葉からの蒸散の多い植物の適用で、より一層周囲の空気を冷やしたり、 適当な湿気を供給することができる。その結果、植種や生育条件にもよるが、芝(発 育状況良好)の 2 倍から 4 倍以上の蒸発潜熱となり、葉裏では、気温より低い状況を 作り出すことが期待できる(図3-2-2参照)。 蒸散する水の量も、芝(良好な発育状況)のケースと比較して 2 倍から 4 倍にな るが、実水消費は植物の取り入れ分以外はほとんどなく(流出分が少なく)、使用 効率は高い。 [水耕型緑化基盤の蒸散特性] (出典:山田(宏)委員提供資料) 図3-2-2は、平成 18 年8月 20 日に和歌山大学システム工学部屋上で観測し た、様々な種類の緑化基盤からの蒸発潜熱を比較したものである。24 時間分の蒸発 散量から蒸発潜熱を計算してグラフを作成した。テラスライム(A)からサフィニ ア(B)までの4種類は水耕栽培方式の植栽基盤に植栽してあり、芝は一般的な土 耕型である。また、水耕型緑化基盤はAタイプとBタイプの2種類を使っており、 Bタイプの方が水を吸い上げやすい構造になっている。 最も蒸発散量の大きいテラスライムでは、Aタイプ基盤の場合で芝生面の2倍、 Bタイプでは4倍以上の蒸発散量を示し、冷却効果に優れていることが分かる。こ の時の蒸発散量は水面からの蒸発量よりもはるかに大きく、水面を作るよりも、こ れらの植物で覆った方がヒートアイランド軽減効果は高くなる。 表3-2-1 水耕栽培 水蒸散量 (図3-2-2に対応した結果) 適用 水蒸発量 テラスライム(A) テラスライム(B) 9.4 18.6 サフィニア(A) サフィニア(B) 芝 水面 6.3 8.4 4.5 7.0 (ℓ/m ) 2 3-37 48.8 50 蒸発潜熱(MJ/㎡) 40 30 22.8 22.1 20 17.0 15.4 10.9 10 0 テラスライム(A) テラスライム(B) サフィニア(A) サフィニア(B) 芝 水面 図3-2-2 水耕緑化基盤の蒸発潜熱(芝、水面との比較) [日射をうける屋上面温度の緑化による効果](出典:山田(宏)委員提供資料) 図3-2-3は日中熱せられたときの、屋上面の温度が緑化によりどの程度変わ るかを気温との差で示したもの。右から三つ目がコンクリート面で、気温より 13℃ 高くなったとき、右の二つ(セダム・芝)はプラス 3.5℃、左から二つ目のテラス ライムで気温より低くなっていることを示す。 15.0 12.9 12.9 10.0 表面温度-気温(℃) 縦軸: 表面温度 -気温(℃) 4.5 5.0 3.6 3.5 3.5 0.9 0.6 0.0 Petunia hybrida Ipomoea batatas -0.3 Verbena×hybrida Hesperozygis Myrtoides x H. Dimidiata コンクリート面 ツルマンネングサ コウライシバ -5.0 気温との表面温度差 図3-2-3 気温と表面温度差グラフ 左から、サフィニア、テラスライム、タピアン、ミンティア、コンクリート、 ツルマンネングサ(セダム)、芝 ③ 規模 単に植栽を配置するものから、全体としてビオトープなども含めた大掛かりな配置とす るものまである。 3-38 [具体例] a 土耕等の例 a-1草屋根: 「彫刻家の家」(兵庫県、 前田由利氏設計) (出典:HOUSECO「建築家と出会う場所」 HP/前田由利氏提供) すべての屋根を草屋根とし、庭の 樹木と組み合わせで、夏には「森」 のような気持ちのよい場所になるこ とを期待している。 図3-2-4 草屋根: 「彫刻家の家」 図3-2-5 セダム系屋上緑化: イオン豊中緑丘 SC 図3-2-6 セダム屋根:尼崎市個人医院 a-2. セダム系メキシコマンネングサに よる屋上緑化: イオン豊中緑丘SC (出典:ブルー・ジー・プロ㈱資料) メンテが手軽で、水道蛇口の設置 のみで維持可能な緑化である。 a-3.セダム屋根:個人医院(尼崎市) (出典:勝谷医院HP) セダムは秋から冬にかけては、茶 色になるが、春には緑の絨毯となり 花も咲く。 医院や店舗などの緑化はまちなか でランドマーク的な建物として存在 感を示す。 3-39 a-4.スナゴケによる屋根緑化:平成 20 年7月開催の洞爺湖サミットにて建設されたゼロエ ミッションハウス(留寿都)(サミット終了後茨城県古河市の「ゼロエミッションセンター」内 に移設し、 「茨城県次世代エネルギーパーク」に て公開中)(出典:積水ハウス㈱資料) 乾燥に強く手入れがほとんど不要なス ナゴケを屋根面に設置し、屋根表面温度 上昇を抑える。 建物自身も含め様々なエコ技術が組み 込まれた設計になっており、屋根の南面 には太陽電池が設置され、北面にはコケ 緑化が実施されている。 図3-2-7 スナゴケによる屋根緑化: ゼロエミッションハウス b. 水耕 b-1. サツマイモによる緑化 泉北高速鉄道和泉中央駅ビル屋上(大阪府都市開発㈱による 試験施工、一部は土耕のセダム)(出典:写真とも、大阪府都市開発㈱HP) ヒートアイランド現象緩和と、建物自体 への断熱効果を期待して、平成 17 年度に 蒸散効果の高いサツマイモを用いた水耕 による屋上緑化を試行し、屋上の温度が低 減する効果を確認している。 平成 18 年度からは、緑化面積を 約 1,000m2 に拡大し、サツマイモに加え、 セダムも植え、年間を通じて緑が確保でき るようにした。 図3-2-8 サツマイモによる緑化: 泉北高速鉄道和泉中央駅ビル屋上 b-2. ヘデラによる緑化: 東京ミッドタウン (出典:サントリー㈱資料) 常緑ヘデラを、軽量の新開発人工培土を用 い、自動潅水システム付きで運用している。 景観上自在に植物種を変更することがで きる。 図 3 - 図3-2-9 3-40 ヘデラによる緑化: 東京ミッドタウン 2)神戸市の水道施設における屋上緑化事例 ①市街地の配水池 市街地の配水池では、躯体への影響や周辺へ の照り返しなどを勘案して、従来から屋上部に 張芝を行っている。 図3-2-10 灘中層配水池 (神戸市灘区)の屋上部 ② 神戸市水道局西部センター(神戸市須磨区) グリーン庁舎の主旨に基づき、敷地内緑化お よびエネルギー負荷の抑制を図るため、屋上を マツバギクやシバザクラにより緑化している。 また、周辺環境への配慮として、景観や屋上 面からの反射光抑制なども考慮している。 図3-2-11 神戸市水道局西部センター屋上 ③ 本山浄水場膜ろ過施設棟(神戸市東灘区)(建設中) 平成 20 年度から 21 年度にかけて建設する 屋上部 本山浄水場膜ろ過施設棟は住宅街に位置す るため、周辺への景観配慮が必要とされる建 物である。当該建築物では屋上および壁面を 緑化する計画となっている。 図3-2-12 本山浄水場膜ろ過施設棟イメージ図 3-41 3)定量的効果検討例 屋上緑化の効果は、表3(p.3-1)に示したような広い範囲に及ぶが、代表的なものを以 下に示す。 ① 日射の遮熱効果・水の蒸散による屋上面の温度低減効果 遮熱効果・蒸散効果は、植栽の基盤の種類や厚さ、植物の種類により様々であるが、こ こでは後者(蒸散による冷却効果)の大きい水耕栽培の例を示す。 夏の日中の日射が強いとき、屋上のコンクリート面は気温より高い温度まで上昇する。 下記(a.および b.)に示す実測例ではいずれも気温が 33℃程度に対しコンクリート表面は 55℃程度まで上昇が認められるが、水耕による緑化を実施した場合、最大 27℃低い 28℃ 程度に抑えられたことが確認されたと報告されている(図3-2-13 および 15) 。水耕の 場合は、通常の緑化以上に水の蒸散効果がより多く期待できることにより、気温より低い 温度に保たれていることがわかる。 a. 和歌山大学・サントリー㈱の共同研究結果 (出典:山田(宏)委員・サントリー㈱提供資料) 植物の表面温度も気温程度に抑えられている。水耕でない芝やツルマンネングサ=セダ ムでも、効果はあるが、図3-2-3で示したように、水耕の場合さらに3~5℃低い。 55.0 気温 コンクリート表面 ポリスチレンボード下 テラスライム下 芝生下 50.0 温度(℃) 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 2006年8月27日 図3-2-13 屋上コンクリート面温度比較-緑化による効果 横軸:時刻(中央が正午) 3-42 図3-2-14 芝・テラスライム 実験用植栽 b. サツマイモによる水耕栽培についての計測結果例 (出典:NTTファシリティーズ㈱資料) a と同様、屋上(屋根)面を緑化(サツマイモによる水耕栽培)した場合の、屋上(屋根) 面温度低下効果を計測した例を示す(図3-2-15)。 葉からの蒸散作用によりまわりの空気を冷却するが、この効果は日中の正味放射量の約 80%を吸収することに相当している(図3-2-16 参照)。 屋根表面温度の変化 夜間に温度が急激に 60 下がる→夜間熱放出 55 「熱 50 屋根表面温度の 45 緑化していない区域 差は27℃! 温度(℃) の温度変化は、 40 27℃ 35 30 サツマイモ緑化区域 25 の温度変化は、 外気温より低い 20 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 屋根表面温度(無処理区) 図3-2-15 12:00 14:00 16:00 屋根表面温度(緑化区) 18:00 20:00 22:00 わずか3℃ 外気温度(百葉箱) サツマイモ水耕栽培についての計測結果例-屋根表面温度の比較 3-43 熱収支凡例: 正味放射量(+) 潜熱 顕熱(+) 屋上面 熱収支 伝導熱(+) ヒートアイランド 700 600 の要因 500 80% 400 熱 量 (W/㎡ ) 伝導熱 100% 300 顕熱 60% 200 100 40% 約90%が 顕熱(+) 正味放射 0 20% -100 -200 伝導熱 顕熱 正味放射量 0% -300 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 エネルギー 正味放射エネルギー 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 時刻 緑化していない区域 熱 量 (W/㎡ ) 【緑化していない区域】 700 600 500 400 300 伝導熱 100% 200 100 0 -100 -200 -300 伝導熱 0:00 2:00 4:00 6:00 潜熱 顕熱 ヒートアイランド 80% を緩和 60% 約80%を 40% 正味放射 20% エネルギー 潜熱 蒸散作用に 顕熱 より吸収す 0% 正味放射量 正味放射エネルギー サツマイモ緑化区 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 時刻 【サツマイモ緑化区域】 図3-2-16 サツマイモ水耕栽培についての計測結果例-熱収支の比較 ② エアコン熱交換機吸気温度低下による省エネ効果 図を含めた出典:京大吉田治典教授研究室による「屋上緑化による冷房機効率改善」 水気耕栽培屋上緑化を利用した冷房熱源の効率向上に関する研究(その1) (その 2) (山下道子・吉田治典・王福林、空気調和・衛生工学会近畿支部学術発表会論 文集 2008.3.19)他による) 水耕栽培により冷却された空気を取 り込み、エアコン室外機の熱交換を行 うことによるエアコンの効率向上、省 エネについて研究されている。 サツマイモを使った水耕栽培で、日 射の強い 10 時~16 時の間では、冷却 温度差が約 1.3℃(散水すれば 3.0℃) であることを実測で確認している。 標準年の気象データと標準的な建物 図3-2-17 3-44 エアコン熱交換器吸気温度低下 による省エネ効果 仕様の場合について、シミュレーションによ り冷却温度からエアコンの効率向上を予測 した結果、日本の夏場では地域による差はあ まりなく、6~8.5%程度(効率向上率が機種 によって異なるため)の省エネ率が達成でき ると報告されている。 図3-2-18 エアコン熱交換器吸気温度低下に よる省エネ効果; 省エネルギー率と頻度 図3-2-19 では、蒸散量の実測結 果(左二つ、各平均と最大)を他の植物 の既存資料と比較した結果を示す。 水耕が、単木(一番右)相当の蒸散量で あることを確認している。 縦軸は日積算蒸散数量(kg/m2) 棒グラフは左から、水耕(期間平均)、 水耕(期間最大)、セダム(潅水あり)、 セダム(潅水なし)、芝(散水あり)、 芝(散水なし)、森林、単木 図3-2-19 植物の蒸散率の比較 ③ 階下の部屋における省エネ効果の試算例 屋上緑化による建物内エアコンのエネルギー節約効果については、建物の断熱仕様により 差が出る。快適性や省エネを重視するわが国においては、標準的な建物断熱仕様が年々改善 される傾向にあるが、 ・断熱性能が低い工場や倉庫などでは、上記屋上面の温度降下による影響が内部にも反映さ れるため、緑化による省エネ効果は当然ながら大きい。 ・通常の建物でも、建築年数を経ている断熱性能が低いものには、相当の効果が期待できる 場合がある。 このように、建物の断熱性能に留意が必要であるが、以下に報告や試算例を示す。 3-45 表3-2-2 a. 環境影響評価マニュアル- 地球温暖化編- 平成 15 年 9月 神戸市環境局 屋上緑化による負荷低減 率(芝生あるいはフジ棚): 事務所など:16%、集合住 宅:31% b. 実物大建築物実験結果の解析例(出典:山田(宏)委員提供資料) 4-3 5)①(p.4-16~17)に記載する高保水性 6000 5445 外装建材による省エネルギー効果の実物大建物実験を イシバの場合で省エネ効果が 26.3~36.0%であるこ とが示されている。 電力量(Wh/day) 主眼とした研究であるが、比較対象としたヒメコウラ 5000 4615 4000 (100.0%) 3485 3200 3000 (84.8%) (64.0%) 2000 (58.8%) 1000 0 (実験に使用された建物は鉄筋コンクリート造り 対照区 反射塗料区 芝生区 保冷パネル区 2007年8月13日 図3-2-20 屋上状態の違いによる階下の エアコン電力消費データ比較 3 階建てで、竣工後約 40 年経過した企業の 研修施設として使用されているもの) 左から、無対策の対象区、反射塗料区、芝生区、保水材 料区。 芝生による緑化で 1.96kWh のエアコン電力削 減を確認(図4-3-4の部分再掲図) 。 [潅水に用いる水道水のCO2排出量との比較] この例で節約したエアコンエネルギー相当の CO2 排出量は 0.662kgCO2 である。 一方、芝緑化に要する日潅水量は(20ℓ/m2 x 区画面積 30.25m2=)605ℓである。 神戸市の水道(阪神水道から取水の場合)の浄水・配水に要する電気エネルギーが 約 0.963kWh/m3 であることから、相当する CO2 排出量は 0.197kg CO2 となる。 従って、本例の屋上緑化の場合、水に要するエネルギー分を考慮しても、エネルギー節約、 CO2 排出量削減となっている。(水道の給水に要するエネルギー相当の 3 倍以上の CO2 排 出削減が期待できる。) さらに、水の消費効率の高い水耕栽培で考えると、 ・冷却効果は芝のとき以上に高い ・水消費は約半分で済む(蒸散に結びつかず有効でない水がほとんど無くなるため) ことから、CO2 の削減効果はさらに大きく、水道水給水に要するエネルギー相当をベース にすると、7 倍程度の効果があると期待される。 (ここで用いた電力の CO2 排出原単位は 0.338kgCO2/kWh=平成 18 年度関西電力 3-46 換算係数) 3-2-1-2 壁面緑化・緑のカーテン 1)概要 前項の屋上緑化と同様、主にヒートアイランド現象緩和や、室内環境の改善など夏季の環 境改善を目的としている。また、緑化による都市景観形成や建物(コンクリートなど)を熱 射から守るなどの効果も期待して、壁面や窓の外面を緑で覆う実証試験や事業が各地で実施 されている。 ① 緑化方法・植物の種類 緑化方法により色々なタイプがあるが、屋上緑化の場合と同様の部分は省略して、壁面 緑化・緑化カーテンに特有の部分についてのみ述べる。 緑化面を垂直に形成する必要があり、下記(図3-2-21)のようなタイプがある。 a.上に這い上がるタイプ(直接登坂型・巻きつき登坂型) 直接登坂型 巻きつき登坂型 b.上から下垂するタイプ(下垂型) c.プランター・ユニット(パネル)型 プランター型 ユニット(パネル)型 図3-2-21 壁面緑化のタイプ (出典:ユニット型:甲子園ララポート、金地委員提供資料、 その他:東京都緑化ガイドライン概要版) 栽培基盤が、屋上から下垂する場合や、ベランダにおかれる場合は屋上緑化と似た状況 3-47 (防水、防根の必要性に加え、重量の制限などの要求)にある。 窓際におかれる緑のカーテンとしては、ゴーヤなどの一年草で夏季の日射を遮る(冬季 は妨げなく日射を受ける)タイプが多い。 [トピック:壁面緑化のアイデア提案](出典:明治大学大学院辻永岳史氏のアイデア募集応募資料) 「サイフォンと毛細管現象を利用した節水型壁面緑化システム」 今回の検討事業の一環として、企業・研 究者より水の有効利用についてのアイデア 募集を実施したが、その中で優秀提案とし て表彰した案件の一つである。 パネル型壁面緑化における、灌漑必要水 量が多く、基盤上下面間の水分差により均 一な生育が困難であるという問題を解決す るシステムとして提案された。 植生のむらをなくし、3 割の節水を確認したと報告されている。 図3-2-22 壁面緑化の アイデア:システム概要 図3-2-23 壁面緑化のアイデア: 本システムの利点と優位性 3-48 ② 神戸市の水道施設における壁面緑化 a. 本山浄水場膜ろ過施設棟(建設中) 本山浄水場膜ろ過施設棟の壁面部については、前述(3-2-1-1)の屋上緑化と同様の位置 づけとしており、つる性植物登坂による壁面緑化の実施を計画している。 b. 灘中層配水池壁面 神戸市水道局では、市域における緑化普及の一翼 を担うことを目的とし、平成 20 年度に灘中層配水池 の壁面緑化の実施を計画している。当施設は、水道 施設緑化のモデル施設として、水耕栽培による緑化 と下垂型の緑化を併用し、実験的な位置づけによる 階段下 緑化を採用する。また、道路沿いに位置し人目につ 東側壁面 きやすいため、緑化促進 PR 用の施設として利用し ていく予定である。 図3-2-24 灘中層配水池壁面 図3-2-25 灘中層配水池 階段下 (水耕による巻きつき登坂型) 図3-2-26 同東側壁面 (ヘデラ=下垂型) ③ 定量的効果の検討例 a 大阪府の実証試験例 以下のように報告されている: ・平成 19 年度実施 ・幼稚園・学校・企業(事業所・工場)などで実施 ・ゴーヤ・アサガオ・ヘチマ・ミニトマト・きゅうりなど ・壁面温度平均で約 5℃低い結果(最大では 10℃の差) 図3-2-27 堺市立神石小学校みどりのカーテン(写真 3 枚:生育状況順に 示す。各設置後 6 週間後、2 ヵ月後、3 ヵ月後) 3-49 (提供:協和㈱) 下記の解析例で、緑のカーテンにより、正午前後の 5 時間で、窓から侵入する熱を 6 割抑え、省エネに貢献していることがわかったと報告されている。 (出典:大阪府環境農林水 産部 HP。図3-2-28~30 の掲載事例は昭和電機における実証試験のもの) 図3-2-28 図3-2-29 みどりのカーテン効果 みどりのカーテン効果 調査状況 図3-2-30 3-50 みどりのカーテン効果 サーモグラフィ b 兵庫県立西宮南高校の実施例 アサガオを植えて覆われた部分と覆われない部分の室温比較を行い、最大で 3.6℃の温度 差を観測した。葉に十分に覆われない4階では効果が確認できなかったが、葉に覆われた 1 階部分はコンスタントに 1~2℃低下している。 図3-2-31 西宮南高校 みどりのカーテン温度調査比較グラフ(1 階部分) c. 和歌山大学における緑のカーテンの施工事例と調査(出典:山田(宏)委員提供資料) 和歌山大学では平成 20 年に校内環境整備の一環として、和歌山大学環境管理委員会が緑 のカーテンの試験設置を行った。施工はシステム工学部学生が卒業研究の一環として実施 し、植物の成長に伴う建物内外の熱環境改善効果の測定調査を実施した。 午前中から正午にかけては、ほとんど差が無いが、西日の影響が出始める午後から徐々 に緑のカーテンを設置した部屋のエアコン負荷が減少し、直接西日が窓から入る 16 時台に は、消費電力量は 37%削減された。 4000 3500 103室(対照区) 104室(緑のカーテン有) 3462.3 3333.3 3014.3 2842.7 3000 2913 2948.3 3138.7 2995.7 3210.3 3023.3 2980 2622.7 電力量(Wh) 2500 2344.7 2000 1884 1500 1000 500 0 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 図3-2-32 和歌山大学における緑のカーテン実験 室内エアコン電力比較 (平成 20 年9月 14 日) 3-51 (サーモグラフィ:色は赤が高温、紫青が低音方向) 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物外側 のサーモグラフィ画像 西日に当たった外壁 は 50℃近い高温にな っているが、植物で覆 われた面は 30~35℃ 程度である。 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物内側 のサーモグラフィ画 像(緑のカーテン無 し) 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物内側 のサーモグラフィ画像 (緑のカーテン有り) 緑のカーテンで覆わ れることによって、ガ ラス面の発熱が抑えら れている。直射日光の 遮へい効果と発熱抑制 によって、屋内の温熱 環境は大幅に改善され る。 図3-2-33 和歌山大学における緑のカーテン実験:サーモグラフィ写真 3-52 3-2-1-3 その他の都市緑化 その他の都市緑化として、駐車場、校庭、道路、空き地、建物周辺(生垣を含む)などにお ける緑化が検討され実施されている。以下、それらの例をいくつか示す。 1)駐車場緑化 ①概要 目的:都市部のヒートアイランド現象緩和、景観性向上 a. 神戸空港の例: 神戸空港は、環境対策のみならず、環境創造するた めに「エコアップエアポート」として整備されている。 その施策のひとつとして、グリーンパーキングが旅客 ターミナル駐車場に導入されている。 b. 兵庫県 グリーンパーキング推進: 図3-2-34 神戸空港駐車場 ・平成 17 年度より、 「グラスパーキング」(芝生化駐車場)の普及促進をめざし、これらの 効果と耐久性や管理面などの課題を検証し、今後の技術改善や普及促進に資するため、 大学や民間企業などと協働して実証実験を行っている。 ・気温低減効果、芝の生育状況、景観性に関して評価が高いことを確認。 ・産官学民の誰もが自由に参画できる「ひょうごGPフォーラム」を設置。 ・グラスパーキング(芝生化駐車場)普及ガイドライン第 1 次(案)を全国に先駆けて 策定した。 ②効果 (出典:兵庫県グラスパーキングフォーラム HP) 兵庫県福祉センターにて行われた実証実験(平成 18 年 7 月)結果によると、アスファルト 舗装部との平均表面温度差が、12 時で最大 25℃、21 時で 10℃という結果が得られたと報告 されている。 駐車場ではタイヤ圧に耐えようにするため、気温低減効果には多少マイナスでも補強材を 使用する構造を選ぶ必要がある場合がある。 また、環境効果以外に街並みの景観に役立つ効果もある。 図3-2-35 兵庫県グリーンパーキング推進実証試験 3-53 アスファルトとの平均表面温度差 図3-2-36 兵庫県グリーンパーキング推進実証試験 2)道路緑化 ①概要 街路樹や中央分離帯の緑化が、美観、騒音緩和、空気浄化などの目的で一般的に実施され ている。 東京の首都高速で、夏季の温度上昇緩和、景観改善などの目的で、保水材料を基盤にした 緑化が試行されている。 図3-2-37&38: 保水性緑化基盤材料の 使用例 (出典:日本ナチュロック ㈱資料) 図3-2-37 首都高速道路側壁 による試行(開始直後) 図3-2-38 首都高速道路 代々木パーキングエリアの緑化 変わった例としては、ストラスブール市(フランス)、フライブルグ市(ドイツ) 、鹿児 島市などで路面電車走行路を緑化した例がある。区域の明示を兼ねた美観維持、保水効果、 ヒートアイランド現象緩和が期待できる。 図3-2-39 図3-2-40 鹿児島市 路面電車走行路面 フライブルグ(ドイツ)路面電車走行路面 ②効果 ヒートアイランド現象緩和を含めた夏季の温度低減効果、都市景観を形成する美観維持、 保水効果などが期待できる。 3-54 3)校庭芝生化 目的:温暖化抑制、砂塵防止・水はけ改善、安全性向上、 景観、地域コミュニティ形成、子供の精神面の効果 ① 神戸市 ・平成 13 年、桜の宮小学校の校庭芝生化(約 2400 ㎡) ・平成 18 年、港島小学校の校庭芝生化(約 6000 ㎡) 図3-2-41 神戸市立港島小学校 校庭芝生化 ② 大阪府「校庭にみどりのじゅうたんを!」モデル事業 ・平成 16 年度モデル事業(幼稚園、小学校)、平成 17 年度効果調査 ・小学校や幼稚園の校庭を芝生化し、その効果調査を実施。 ・みどり豊かな街づくりの府民運動の推進や、都市におけるクールスポットの創出によるヒ ートアイランド現象緩和などを狙いとする。 ・芝生化面と土面の表面温度を比較すると 10℃以上の差を確認。 ・熱中症の抑止にも役立つことを確認。 図3-2-42 大阪府北条小学校校庭 表面温度の分布(平成 17 年 8 月 8 日 11:50) (提供:山田(宏)委員) ③ 東京都 ・平成 17 年度モデル事業実施(公立学校校庭の芝生化などをモデル的に実施)、 ・平成 19 年度よりモデル事業実績を踏まえ、ヒートアイランド現象緩和・緑化対策に加え、 子供たちへの教育効果、地域コミュニケーションの形成を促すため、本格的に推進。 ・表面温度はダスト校庭より 8.3℃低く抑えられた計測例あり。 3-55 4)空き地、建物周辺などの緑化 (生垣を含む) 図3-2-43 はショッピングモールの境界壁を緑化した例である。この例では以下のよう に紹介・報告されている (図3-2-44&45 を含む出典:金地委員提供資料)。 ・枯れ芝を植栽基盤にして、植物を横方向に植える試みを実施した。 ・多くの種類の植物に適用可能で、その配置をアレンジ することで、美観に富んだ緑化が可能である。 ・また、この方法により、緑化面(植物)から 15cm 離 れた地点でも 5℃程度の温度低下が報告されている (図3-2-45 参照)。 図3-2-44 枯れ芝緑化植種 アレンジバラェティー 図3-2-43 甲子園ララポート 図3-2-45 枯れ芝緑化温度測定結果 3-56 5)公園・ビオトープなど ・植物による動植物にやさしい空間を取り戻し、人も心の癒しを得る。 ・都市内に設置のビオトープ:公園型、下水処理場などとの併設型のほか、ビルの屋上に設 置しているものなどもある。 憩いの場であると同時に、子供たちの教育用、セラピー(治療)用などにも用いられる。 [都市の屋上ガーデン、ビオトープの例] (図3-2-46&47:㈱アクアフォレスト提供) 図3-2-46 ビオトープ 大阪寝屋川企業ビル屋上 図3-2-47 ビオトープ 東京老人ホーム屋上 3-57