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電磁雑音対策技術分野における新市場創造に関する研究
平成18月3月修了 修士(学術)学位論文 電磁雑音対策技術分野における 新市場創造に関する研究 A study on new market creation: a case of electro magnetic compatibility countermeasure technology for IT security market 平成17年12月16日 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 起業家コース 学籍番号:1085604 植草 祐則 Hironori Uekusa 論文要旨 本研究は、情報セキュリティ市場に対して、 「電磁波による情報漏洩」と言うキーワー ドで新たな市場を創造する過程と、そこで生まれた超低放射雑音 PC の開発背景、偶然 発生した本来の EMC1業界としてのニーズに対するビジネス構築を通じて、当初予定し たマーケットとの整合やプロジェクト運営、経営的判断の方向を検証する事で、その発 生要件と活用方法を見出そうというものである。 ともすれば都市伝説的扱いであった「電磁波による情報漏洩」を「電磁波セキュリテ ィ」というキーワードで可視化、市場化し、既存の EMC 業界だけでなく、個々に散在 していた素材メーカーや機器メーカーを含めた市場構築は起業という観点から注目す るべき内容であると考えた。 ここでは日本国内での関心がほとんど無い状況からスタートして一定の規模まで構築 しており、この手法の分析、そこに投入した製品の素性と応用手法、結果の分析から「市 場に製品を合わせるか、製品が受け入れられる市場を構築するか」という大きな判断と、 そもそも軍事技術に端を発する課題であるが故の情報の少なさを如何にして補い構築 出来たのかという要因を分析する。 次に、構築した電磁波セキュリティ市場に投入するべく開発を開始した超低放射雑音 PC について、当初の開発目的と市場の反応から偶然産まれた用途、市場と、客観的に 見た技術の向上による元の市場への回帰現象についてピーター・ドラッガー氏のイノベ ーション論などによる分析を行い、今後のアプローチを検討するとともに、このような 場合において適用される市場構築のモデルを提案する。 1 Electro Magnetic Compatibility :電磁環境両立性、主に電子機器類の電気的放射雑音対策や、外部から の雑音による機器への影響の対策を主とする。日本では VCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会) が自主基準として定めている -1- 目次 論文要旨............................................................................ 1 第1章 序論 .................................................................... 5 1-1 背景 .............................................................................................................. 5 1-2 目的 .............................................................................................................. 5 1-3 本論文の流れ(フロー)............................................................................... 6 第2章 今までの先行研究 ............................................... 7 2-1 マーケティング論 ....................................................................................... 7 2-2 イノベーション ........................................................................................... 9 2-3 キャズム.................................................................................................... 13 第3章 市場創造 ........................................................... 17 3-1 背景........................................................................................................... 17 3-1-1 既存の市場...................................................................................... 17 3-1-2 今まで無かった市場の創造............................................................. 18 3-2 歴史的経緯 ................................................................................................ 21 3-3 技術の転用 ................................................................................................ 22 3-3-1 企業の素質...................................................................................... 22 3-3-2 人脈からの技術............................................................................... 23 3-4 製品開発.................................................................................................... 26 3-4-1 オリジナル製品............................................................................... 26 3-4-2 OEM 等による補完......................................................................... 26 3-4-3 両者の技術を用いた製品開発 ......................................................... 27 3-5 実施された手法 ......................................................................................... 28 3-5-1 セグメントの選定 ........................................................................... 28 3-5-2 広告、啓発戦略............................................................................... 29 3-5-3 メガマーケティング........................................................................ 33 3-5-4 アライアンス .................................................................................. 36 3-6 ロードマップ............................................................................................. 38 3-7 結果........................................................................................................... 39 -2- 第4章 創造した市場への取り組みと応用..................... 41 4-1 当初目標とした製品とそのターゲット...................................................... 41 4-1-1 ターゲットの設定 ........................................................................... 42 4-1-2 従来の対策の限界と問題点............................................................. 44 4-1-3 マーケティング課題........................................................................ 45 4-1-4 ターゲットの分析・分類、対象の検討 ........................................... 45 4-2 製品の開発 ................................................................................................ 46 4-2-1 バリューチェーン ........................................................................... 47 4-2-2 製品のポジショニング、ポテンシャルエリア................................. 48 4-2-3 コスト、性能、販売方法のベンチマーク........................................ 48 4-3 市場分析、リサーチ結果........................................................................... 50 4-3-1 ギャップの分析............................................................................... 50 4-4 思わぬ市場からの要望 .............................................................................. 51 4-4-1 新たな製品のポジショニング、ポテンシャルエリア ...................... 52 4-4-2 見込む将来性 .................................................................................. 54 第5章 応用製品の展開と波及効果 ............................... 56 5-1 ブランド、シリーズ商品展開戦略............................................................. 56 5-2 アプローチ ................................................................................................ 56 第6章 企業としての波及効果 ...................................... 58 6-1 技術の方向性............................................................................................. 58 6-2 副次的な効果(イメージ戦略) ................................................................ 59 6-3 製品開発の方向とマーケット戦略............................................................. 60 第7章 モデルの提案 .................................................... 62 7-1 新市場開拓のためのモデル ....................................................................... 62 7-2 破壊的イノベーションのためのセレンディピティ発見モデル................... 66 第8章 結論 .................................................................. 69 謝辞................................................................................. 72 -3- 参考文献.......................................................................... 73 (書籍).................................................................................................................. 73 (新聞、報道、雑誌、学会誌等)........................................................................... 74 (web ページ) ........................................................................................................... 76 (表) ..................................................................................................................... 77 (図) ..................................................................................................................... 77 本文中の引用文献.................................................................................................... 79 -4- 第1章 序論 1-1背景 コンピューター、ネットワークの発達、普及に伴い、それ自身の市場が成長してきた ことは誰の目にも明らかであるが、これに付随して悪意の利用・侵入や情報搾取を防御 する技術と市場はここ10年間で急速に発達してきた。 当初のコンピューターによる情報処理でのセキュリティは、閉じられた、あるいは単 独での処理のために物理的にある程度確保されていれば保つことが出来た。 しかし、ネットワーク化し、分散処理が行われることで入り口が増え、更に多くの個 人情報や重要な情報が電子記録としてコンピューター及びネットワーク上に置かれる に至り、様々なセキュリティ侵害の脅威が着目されている。 今回取り上げる電磁波セキュリティは、上記の流れからネットワークセキュリティや 暗号化と言った部分に注視してしまっていた市場に対し、半ば物理的セキュリティとも 言える市場の構築を試みたものであり、目新しい部分と、古くからの経緯を持つ技術を どのように適用して市場を開拓するのかに注目し、マーケティング論からの分析を行う。 特に、情報関連のベンチャーとしては参入する者もリタイアする者も多いセキュリテ ィをキーワードとする事業ドメインの中で、自社の位置付けを確保しながら開拓して行 くための戦略と、その結果培ったリレーションシップ、技術や開発力、セールスフォー スから生まれたとも言える偶然の市場について、イノベーションとしての分析、その発 生要因としての組織論について分析を行うものである。 1-2目的 技術の面から見た起業や市場創造は、 「新製品として市場に受け入れられる為の技術」 が主眼となりがちだが、今回は「製品を受け入れる新市場を創る為の技術」を中心に分 析する。自分の業務として6年間行っていたこの分野の市場開拓は、そもそも情報セキ ュリティとは縁の無かった各大手企業 OB を抱える、人脈をベースとしたベンチャー企 業のスタッフとしての立場から行っており、これらのリソースや経験から来る経営戦略 や判断、成功事例や思わぬ展開に対する対応が、これから新たな市場開拓に挑戦する際 の参考となれば幸いである。 -5- 1-3本論文の流れ(フロー) 第1章:序論 第2章:先行研究 第4章:創造した市場への 取り組みと応用 第3章:市場創造 第5章:応用製品の 展開と波及効果 第6章:企業としての 波及効果 第7章:モデルの提案 第8章:結論 図 1 論文構成(フロー) 第1章では、本論文の目的と課題を定義し、第2章で分析に用いる各理論の先行研究 をまとめる。 第3章から第5章は事例を時系列に取り上げているが、ゼロからの意図的な市場創造 と、セレンディピティティによる偶然の市場発見という2つのサブジェクトに分かれる。 第6章で、このような手法から今後企業としてどのような展開、副次的効果が得られ るかを検討、整理し、第7章では市場創造に必要な要素、セレンディピティに関するモ デルを提案する。 -6- 第2章 今までの先行研究 2-1 マーケティング論 フィリップ・コトラー氏のマーケティング論から、今回の事例について参考とするべ きセンテンスを抽出する。 ・競合他社 今回の事例では、市場創造という取り組みではあるが、全く競合他社がないと言うこ とではない。また、創造される市場そのものに反発する現象も含めて周囲の観察と適応 は必須条件である。 現在では単独企業同士の直接的な競争よりも、ネットワーク化された企業体としての 活動が市場に大きな影響を与える。この場合の関係は、バリューチェーンの一環の場合 もあれば、業界団体やコンソーシアムのような市場では競合するが目的を同じくする企 業の集合体である場合もある。自社のみの観点を離れて、広く市場の拡大まで考えれば、 いずれにしても複数のプレーヤーが存在し、競争と進歩が存在することは消費者へのコ スト、技術の進歩などで大きなアピールである。 また、コトラーは競争に打ち勝ち、相手に致命傷を与える競争はルールそのものを変 えようとする小さな企業からもたらされると推測している。[1] ・創造性 コトラーは、創造性を高める技法として以下の8点を上げている。[2] ・修正点解析 ・属性リストアップ ・強制的関連づけ ・形態素解析 ・製品問題解析 ・ディシジョンツリー ・ブレーンストーミング ・シネクティクス(創造工学) これらは、既存の固定観念を離れて発想を行うためのツールとして提案されている。今 までの品質と価格で勝利を収めてきた単純な市場競争から、付加価値、独創性が重要な 要素と変化している現在では重要な項目である。 -7- ・顧客の分類 今回の事例のように、今まで存在しなかった概念を基に市場開拓する場合、顧客の分 類は特性毎の適切な対応と効率的な展開のために重要である。 特に、新しい事象や製品に興味を持つユーザーへの適切な訴求を行い、ファンとして 固定化しそれぞれが宣伝広告の役目を負ってくれるための戦略が重要である。 消費者市場細分化の手順として、地理、デモグラフィックス、サイコグラフィックス、 行動、ジオクラスタリングが挙げられている。[3] 今回の事例では、消費者市場は市場創造の一連の流れのうち、個人に脅威と危機を理 解させ世論を形成するためにその規模とは別に重視しなければならない項目である。 ・集中とニッチ コトラーは、ニッチの中に富があると主張している。[4] これは、マージンが高くともその価値を認めて購入する顧客が存在する限りは効率の 良い事業が運営できるからである。 また、ニッチである限りは他社が体力を消耗してまで参入してくる恐れが少ない事も 挙げられている。 このような状況から次に企業が取るべき道はマス市場に進出することではなく、ニッ チの市場に対して多くのメニューを提供し市場を創造した先行者のメリットを維持し て行くこと、ニッチの中での潜在顧客、隣接顧客を掘り起こして、需要の頭打ちや市場 の枯渇を防ぐこと、他のニッチを探して複数市場での活動を行うことによるリスクの分 散がある。[5] ・インターネットとEビジネス 現在ではほとんどの製品をインターネット上で検索して情報を得たり、購入したりす ることができる。 少人数のベンチャー企業では、販売チャネルとしての利用もさることながら、コラボ レーション、国際協業のツールとしても有効な手段である。 市場に新たな話題を投下する時、ハニーポットとも言うべきその受け口として Web ページが存在する効果は大きく、メディアの利用とこれらの手法の組み合わせは大きな 効果をもたらす。 -8- ・市場の選択 選択の方補として、単一セグメントへの集中、選択的専門化、製品専門化、市場専門 化と市場のフルカバレッジが挙げられる。 単一セグメントへの集中は進出する際に最も容易であるが、そのセグメント自体が競 争に曝されてうまみが無くなった時に企業が変革し、或いは他のセグメントに移らなけ ればならないという高いリスクを伴う。 選択的専門化は、企業のコンピタンスを利用して効果的に分散しつつ利益を得る面か ら有効である。 製品、市場に特化する場合は、破壊的イノベーションによってその製品自体が取って 代わられる、或いは時代や制度、景気や流行などで市場や予算が衰退、縮小する可能性 を持っている。 集中とニッチの項でも挙げたように、複数セグメントでも特に活用可能な類似性を持 つスーパーセグメントへの事業展開を目指すことは事業拡大を考える上で重要である。 また、コトラーは守りの堅い市場への参入手法としてメガマーケティングも示してい る。単独で市場を構築するのではなく、経済的スキル、心理的スキル、政治的スキル、 パブリックリレーションズスキルを統合的に調整、実施することである。[6] 今回の事例でも技術と着眼点だけではなく、創業者やスタッフの人脈をベースにした メガマーケティングが行われている。 ・将来予測 端的に将来の予測は困難である。予測は外れることによってリスクにも変わる。 目の前の現実を基に最小限の予測を行い、残りは自ら将来を創り出す事がもっとも確 実な予測方法であると述べられている。[7] 2-2 イノベーション 「生産的諸力の結合の変更」によって新たな局面を生み出すことであり、シュンペー ターによると以下の5点に分けられる。 1. 新しい財貨、或いは新しい品質の財貨の生産 2. 新しい生産方法の導入 3. 新しい販路の開拓 4. 原料ないし半製品の新しい供給源の獲得 5. 新しい組織の実現 -9- ここで言う新しい組織とは内部構造にとどまらず、トラストの形成や独占の打破と言 った外部に対しての組織的行動も含む。[8] ドラッカーは、 1. 資源の創造 ここで言う資源とは、物理的な資源、製品や技術だけでなく、購買力や市場と言っ た社会経済的な資源も含む。 2. 富の創出能力の増大 既存の資源から得られる富の創出能力を増大、最大化することもイノベーションで ある。 3. 社会的イノベーション 社会、文化、経済に与える革新もイノベーションである。 と述べており、概ねシュンペーターの述べている内容とも一致する。[9] そして、イノベーションが発生する機会として 1. 予期せぬ成功、予期せぬ失敗など、予期せぬ事の生起。どちらも機会である。 2. 現在あるものと、かくあるべきものとのギャップの存在 3. ニーズの存在 4. 産業構造の変化 5. 人口構造の変化 6. 認識の変化 7. 新しい知識の出現 を挙げている。 この中で、新しい知識や技術によるイノベーションというものは注目を浴びやすいが、 イノベーションとしての信頼性と確実性は他に比べて低く、成果が予想しづらいと述 べている。 また、これらを生み出すために、するべき事とするべきではない事について以下のよ うに述べている。[10] するべき事 1. 市場をよく見ること。これは世の中の動向も含めて多面的に見つめ、チャンスを 発見するために重要である。 2. 人の意見や情報を得ること。これは、前項にも通じる。 3. 単純なものを無視してはならない。従来通り複雑なプロセスを経た結果や、複雑 なプロセスだけがイノベーションとは限らない。 -10- 4. 小さなイノベーションから始めて大きくするべきである。 5. リーダーシップが重要である。 してはならないこと 1. 利口になろうとすること 2. 集中力を途切れさせてしまうこと 3. 遠くのイノベーションを追いかけること(身近にあるイノベーションを狙うべき) また、その後に陥りやすい罠[11]としては下記のように述べられている。 1. 成功の拒否 ・ 想定していないところで起こる成功に対して、起業家自身が自分を強く信 じるがあまりにそれを受け入れられず、機会を逃すこと。 2. 利益志向 ・ 財務や経理に暗いため、利益のみを重視し始めることで企業の血液として 循環が必要なキャッシュフローを忘れてしまうこと。 3. マネージメントチームの欠如 ・ 創業時の体制にとらわれずに成長、拡大を見越したマネージメントチーム の育成と委譲を行わなければ、動き出した企業にふさわしい組織とマネジ メントは不可能となる。 4. 自らの役割の喪失 ・ 事業が成功し軌道に乗り始めても創業者が創業時の意識と役割のままでは、 次々に訪れる変化の曲面に必要な行動を取ることが出来なくなる。常にそ の段階に応じて何が必要かを考え、役割を変えて行かねばならない。 ドラッカーは著書の中で米国ではイノベーションとは研究開発、技術だと思うことが 多く、起業家精神とはアイデアであると考えているが、実際には技術よりも経済に関わ る部分が多く、日本や韓国ではより体系的なイノベーションを実践していると述べてい る。 製品やサービスから見たイノベーションとしては、以下のように分類することができ る。[12] -11- 1. インクリメンタルイノベーション ・ 既存の技術や製品コンセプトの延長線上で性能向上や改良を積み重ねる。 2. ラディカルイノベーション ・ 技術(シーズ)と市場(ニーズ)の創造や革新が同時に行われる。全く新 規の製品やサービス、生産・物流に関わるものであり、世界市場に向かっ てのプロダクトやビジネスコンセプトの提案、創出に繋がる。 3. アプリケーションイノベーション ・ 製品を構成する部品からなるシステムの再構築に関するもの。 4. テクニカルイノベーション ・ 技術的には革新性が高いものの、市場ニーズからは付加価値が小さい、プ ロダクトアウト的イノベーション。 ・破壊的イノベーション クリステンセンによれば、「技術向上の速度が市場の要求する性能上昇速度を上回り、 製品の性能と価格がハイエンド化して顧客の実際の要求と活用能力から大幅に乖離す ると、新たな参入者がコストや製法、販売方法などで革新的技術を使い、大多数の顧客 から見れば必要十分な性能を持つ低価格の商品を提供することで市場を席巻する機会 を与えてしまう」[13]として破壊的イノベーションが定義されている。 これは正確に言うとローエンド型破壊であり、必要十分な性能によって市場を置き換 えるのが新規参入企業と言うことになっている。しかし、破壊技術の定義からすればコ ストはその要因の一部であり、元は「新たなコンセプトによって既存のビジネスと技術 を破壊するもの」である。 三次元的に見た破壊的イノベーションモデルでは、無消費に対しての市場創造によっ て既存の性能-時間の尺度とは違う次元への適用が起きる。 ・セレンディピティ もともとは「セレンディップの3人の王子の冒険」と言う物語の中で、偶然にも行く 道を見つけて行くという現象から使われている。 イノベーションの要因ともなるセレンディピティとは、今までの努力と追求の意志に 加えて偶然と洞察力によって意図していなかった新たな発見を導き出すことである。 つまり、何も素地のないところにある日突然新しい技術や市場が訪れることではない。 -12- また、目的としていた市場や製品に対しての新たな発見は正確には、これに含まれな い。必要なことは観察力に基づいた好奇心と、理解、応用の柔軟性であり、本来の目的 として行っている研究分野に対しての十分な勉強が前提とされる。 主に医薬品の業界などでは他への適用という判定が分かり易いためによく起こるとさ れており、ペニシリンなどの例は有名である。 セレンディピティは、本来の「全く予期していなかった用途」に発生するものと、 「追 い求めていた道を偶然に発見する」疑セレンディピティ(pseudo-serendipity)に分けら れるという見方がある。[14] 偶然という要素から、研究開発マネジメントに関する論文等で取り上げられている例 は比較的少ないが、積極的に発生確率を高める方法と、セレンディピティを回避するこ とで正確に狙った市場にマッチする製品を開発するという2つの面からの検討がある。 前者では主にシーズ主導で徹底した投資戦略を行い、オリジナリティによって技術を 高めることにより発生要件を満たすオリジン追求型と呼ばれるものであり、後者はある 程度確立できた技術を基に市場のニーズやそこから推察されるニッチを狙ってフィー ドバックして行くことで、ともすれば初期の方向とは全く違う結果となるセレンディピ ティを回避して目的を達成するオリジン活用型と呼ばれる。 2-3 キャズム Geoffrey A. Moore が著書 [15] でも述べているように、テクノロジーライフサイクル には以下の5つの段階による受け入れ層があり、それぞれの段階の間にギャップがある。 · Innovators [16] テクノロジーマニアとも呼ばれ、技術そのものの価値を認め、真っ先に購入す る。製品は未完成でも技術に多大な興味を示して利用することから、初期のフ ィードバックを得るためには重要な役割を果たす。マーケット規模や大規模予 算につながることは少ないが、成功すれば支持者となる、最初の関門と言える ユーザー層である。IT の世界では Heat Seeker(熱戦追尾ミサイルの意)で 呼ばれる人々もこの領域であろう。 · Early Adopters [17] ビジョナリーとも呼ばれ、自組織と新たなテクノロジーのマッチングを洞察し、 有益と見ればリスクを背負って導入に結びつけようとする。Innovators と違 う点は、企業・組織からの視点を持つこと、時として大規模な予算をも持つ立 -13- 場である。また、テクノロジーマニアが自信の満足が主眼であることに対し、 テクノロジーを利用した企業としての成功やそれを選考事例として紹介され ることを歓迎する。故に、初期の資金供給源となるとともに、存在を知らしめ る役目を果たす。 しかし、要求のレベルは比較的高く、費やしてもらえる期間については制限が ある。 · Early Majority [18] 実利主義者とも呼ばれ、技術が安定している(Stable)であることと、実現可能 で目に見えるメリットがあることが大きな条件である。また、以降の技術を見 越したインテグレーションも含めた提供を求める。このために、ベンダー同士 の競争を求め、技術だけでなくサービスやコストも含めた品質を要求する。 これ以降は前の二者とは違い、個人の資質や特性による行動ではなく、企業と しての動きとも考えられる。 · Late Majority [19] 保守派の名の通り、基本的に不連続なイノベーションを受け入れない層であり、 既存の実績のある技術との互換性を重視する。必要がなければ極力新たなテク ノロジーを導入したくないと言う特性を持つ。しかし、パッケージ化されて過 去との相関を考えずに済む低価格の製品を好む。 このため、十分にデバッグが終わり、開発コストの消却も終わった技術を再パ ッケージすることで、経済的にメリットが見いだせる市場と考えることもでき る。 · Laggards [20] 懐疑派とも呼ばれる。通常は、ハイテクが「ハイテク」である間には市場に登 場しない層である。通常は、彼らの否定的な意見を市場への影響としないよう に留意するのだが、見方を変えればもっとも敏感にネガティブ面についてのフ ィードバックを提供してくれる層でもある。 それぞれを、ソフトウエアの開発段階に照らすと、アルファ版のテスターを喜んで引 き受けるのが Innovators、ベータ版からリリース時のメリットを見込んで参画するの が Early Adopters、リリース版で確実かつ広範囲に導入するユーザーが Early Majority、 次のバージョンが出る頃に「枯れた、確実な技術として」ようやく受け入れる Late Majority と、そのようなソフトウエアは製品化表面からは見えなくなっていつの間に -14- か利用したことになる Laggards という喩えになるだろう。 それぞれの層の間には図2のようにギャップがある。 その中でも市場の初期と成長・安定化する段階、Early Adopters と Early Majority の 間にある溝を「キャズム」と呼んでいる。 テクノロジーライフサイクル Early Adopters (ビジョナリー :先駆者) 市場 Innovators (ハイテクオタク :革新者:マニア) Early Majority Late Majority (実利主義者) (保守派) Laggards 時間 キャズム 図 2 テクノロジーライフサイクルとキャズムの位置 これは、技術や製品が本当の意味での「商品」になる前に経験するものであり、過去 の例からも如何にすばらしい技術や商品であっても、この溝を越えられずに停滞、ある いは消滅してしまうものが多く見られる。 Geoffrey A. Moore の著書「キャズム」では、Innovators と Early Adopters の間に落 ちている例としてデスクトップビデオ会議が挙げられている。[21] しかし通信に関わる業務に携わった観点から見ると、少なくとも既存の代替手段とし て受け入れられた英会話や学校の授業、遠隔医療などがあり、IT 技術の進歩による国 際協業の進展に伴うコミュニケーションの需要に引っ張られる形でこの溝は越えつつ あるように見える。 しかし、サービスを提供する側に「電信から電話の次は、映像というイノベーション」 という思い込みがあり、技術者と通信事業者のマーケティングの近視眼故に今後キャズ ムに落ち込む可能性の高い例とも考えられる。実際のエンドユーザー動向は、電話から 記録として扱いやすい文字をベースとした e-mail や web でのコミュニケーションへと 次のステップを踏み出してしまった。つまり、技術的には革新的でも普及層のユーザー がコスト以外にも実利のある用途を発見できない好例である。 この場合、ポケベルや i-mode の普及のようなキラーアプリケーションというセレン -15- ディピティや、破壊的イノベーションを待つ必要がある。 更に、当時 ISDN というコンシューマーレベルでのアナログ通信からデジタル通信へ のイノベーションも期待されており、その象徴的なアプリケーションだったが、後述の ように共倒れとなってしまった。 現在、携帯電話にも TV 電話機能が搭載されているもののキラーアプリケーションと なる使い方は見つからず、各社啓発を行っている状況である。 ISDN はインターネットでキャズムを越えてようやく日の目を見たものの、アナログ から N-ISDN、次に B-ISDN という目論みは完全に崩され、短い寿命となった。やは りインターネットの普及とそれに伴う網自体の IP 系への対応、広帯域化が急速に進ん だために既存の回線交換という視点からのサービスは取り残されてしまっている。 映像配信サービス系も、技術は既に出来ているが法関係から放送がとりこめず、実利 という面からメリットを得られないため、やはりキャズムに落ちている。 -16- 第3章 市場創造 3-1 背景 3-1-1 既存の市場 EMCと呼ばれる業界は、主に対策用部品と計測のための設備産業の2つに分類する ことが出来る。元来、電気・電子製品(VCCI2に関しては情報処理装置)がテレビジョ ン受像器、ラジオ、無線通信機器などに障害を与えないようにする事を発端としており、 装置から放射、或いは伝導される電気的雑音を基準値以内に抑えるための手段と、その 測定設備の産業である。 最近では機器間の相互作用や外部からの電気的雑音による誤動作も着目されてきてい ることから、EU ではイミュニティと呼ばれる電気的雑音耐性3も基準に加えられている。 いずれもキャパシティとしてはほぼ一定であり、維持継続と、世界標準・業界標準・ 規制などの変化による更新需要や増加分を望むといった外部要因への依存が大きい。 また、この分野での主なプレーヤーは供給側として電気・電子部品と素材メーカーで あり、需要側としては電機、電子機器メーカーとなる。 近年では、プラズマディスプレイ用の EMC 対策による市場や無線通信装置が様々な 機器に組み込まれるための対策というトピックスがあるが、全体的な傾向としては小型 化された装置への対応、機器の高クロック化による対策周波数の上昇への対応などが外 部要因としてこの業界の方向を緩やかに動かしている。 ポートフォリオで言うところの下半分のエリアとなり比較的安定しているが、新たな プレーヤーの参入はメリットの薄い領域である。 高 高 勝者 勝者 問題児 問題児 花形製品 市場 成長率 勝者 平均的事業 敗者 利益創出者 敗者 敗者 市場 魅力度 金の成る木 負け犬 低 高 マーケットシェア 低 低 高 内部能力、競争上のポジション 低 図 3 左:BCG 型ポートフォリオ 右:ビジネスポートフォリオマトリックスGE型[22] VCCI:情報処理装置等電波障害自主規制協議会 http://www.vcci.or.jp/ EN 規格と呼ばれる。この他、米国では FCC 規格があり、基本的には CISPR(国際無線障害特別委員会: IEC(国際電気標準会議)の特別委員会)の標準を基としている。 http://www.tele.soumu.go.jp/j/inter/cispr/ 2 3 -17- 他業種で言えば、自動販売機などが特性としては近いと思われる。 市場としてはパイが決まっており、通常はその中でのシェアの変動と僅かな増分を巡 る競争があるが、ベースは定期的なリースアップなどによる安定した置き換え需要であ る。これに加えて、新札発行や法規制などにより臨時の需要が不定期に発生するのであ る。絶対数、マーケットの増大はあくまでも対策するべき製品(最終製品やサービス) の増加にかかっており、自身のトリガによる増加は容易ではない。 また、マスユーザーという領域では ADSL の普及による電気的雑音が通信に及ぼす影 響や、PC をはじめとする情報機器の普及による雷害の顕在化によりエンドユーザーも 広く認識するところとなっているが、直近の危機や脅威としての認知までは至っておら ず、工業製品向けの EMC 対策部品などのような安定したマーケット構築には至ってい ない。 同様に、電子機器、情報処理装置メーカー以外では自身に及ぶ影響が具現化しない限 り新たなマーケットとなり得ないのが実情である。 3-1-2 今まで無かった市場の創造 近年 PC などの情報端末機器が個人レベルまで普及し、その機能、利便性と情報セキ ュリティの意味が認知されるとともに、住基ネットをはじめ重要な個人情報などがデジ タルデータとしてコンピューターに蓄積されることとなり、様々な情報セキュリティに ついての関心が高まっている。 本論文のテーマは、その中でも「電磁波セキュリティ」と呼ばれる、放射ノイズ/イ ミュニティ4に関する話題である。 大別すると、TEMPEST と呼ばれる漏洩する放射ノイズに含まれる情報を再生する技 術およびその脅威と、核爆発や e-bomb に代表される意図的な高出力電磁波照射や印加 (HEMP5等)を使った端末の誤動作誘発、破壊がある。どちらも、古くから軍事技術 としての研究がなされていたが、日本国内で一般的になったのはここ数年である。 TEMPEST は理論的にはさほど難しいことではなく、シリアル信号として情報端末内 で扱われる信号が電気的ノイズとして空中に放射されたり、各種のケーブルに伝導した りすることを利用し、それを受信、検波、復号化することで実現される。現在よく知ら れているターゲットは画面の描画情報、キーボードの入力情報、プリンタの印字情報な 4外部からの電気的雑音に対して機能障害、破壊などがどれだけ起こりにくいかという耐性 5High Altitude Electromagnetic Pulse -18- どである。 再生された画面 ディスプレイ画面情報 観測される波形 観測される波形 再生された入力情報 パスワード入力文字列など 図 4 TEMPEST のターゲットと解析例 この脅威が一般のネットワークセキュリティと異なるのは、TEMPEST で取得する情 報は、暗号化を行うとその役目を果たせない画面やキーボードなどのユーザーインター フェースから得る。このため、通常オペレーションされることの無いサーバー機や、 PC 内部で保存している HDD、メモリからこの技術で取得できる情報は少ないと考え られる。 本題とは離れるが、電磁波セキュリティという観点から見ればケーブルやコネクタへ の対策は、高出力電磁波による攻撃への対策にも効果的であり、この場合はサーバー等 への対策も意味を持つ。この攻撃方法は、空間を介した照射では距離が離れると端末を 使用不能/破壊するほどの電界強度を与えることが困難になるが、ケーブル類を介して の入力であれば効率もよく、巨大なアンテナや高出力は不要になるためである。[23] つまり、電磁波セキュリティというキーワードで端末、サーバーを問わず既存の情報 処理設備や通信設備のほとんどを対象とすることが可能となり、ニッチな目的ではあっ てもその分母は非常に巨大なものとなった。 今回のプロジェクトがコトヴェール社で始まった 1998 年以前は、この脅威に対して EMC やワイヤレスをよく知る技術者でも「理屈はわかるが、現実的ではない」という 反応が一般的であった。 -19- これに対して、デスバレーに落ち込み、限られた軍事用途でしか利用していなかった 新たな EMC 対策フィルタ製品の技術移転とライセンスを米国 TRW 社(現 Northrop Grumman 社)から受けたコトヴェール社は、TRW 社同様の軍事用の制御・通信機器 対象という非常にニッチなマーケットだけでは付加価値こそ高いが予算や機会、代替品 の脅威に常にさらされ、事業の中核とするには不安定であると考えていた。 この時に防衛庁での意見に TEMPEST 対策として利用できないかという問があり、 これをヒントとしての市場開拓が始まったのである。 図 5 コトヴェール社の EMC 対策フィルタ製品 (Micro Disc Flex Filter) このヒントはブレーンストーミングと強制的な関連づけにより、一つの目的と複数の ターゲットを設定するに至った。 製品の特徴はコネクタ部分に後からでも取り付けられる EMC 対策であり、その構造 は TRW 社の特許によって広く保護されていた。このために、当面は競合他社の発生や 参入を危惧せずに必要な情報伝達と戦略を実行することに注力できたのである。 ここで生まれた目的はネットワーク・情報セキュリティという主に通信や暗号化など の技術革新が激しく、競合の多い分野と、物理的セキュリティという人的要素かつ比較 的安定した構成の事業分野の中間にあるニッチなエリアでの需要喚起とそこでのリー ダーシップ奪取である。 そしてターゲットは、広く一般ユーザーの認知を促し、企業経営としてもベースライ ンの商流を確保するためのエンドユーザー向け家電量販店と、その意味を理解して大量 導入を行う企業・官公庁ユーザーの2点に絞られた。 当初は効率と数量を考えて PC などのメーカーについてもマーケティング段階で多数 -20- 接触を行ったが、既に価格競争が過当になっている状態での付加対策は難しく、今まで 販売した製品に対する自己否定にも繋がりかねない新たな脅威と対策には困惑するば かりで、後の研究団体発足までは積極的なアクションが望めなかった。 このため、各メーカーとの距離を保ちつつユーザーの意志として導入を促進する方法 を選択したが、結果として単なるサプライヤーとしてバリューチェーンの隅に組み込ま れることが避けられて、価格を維持しつつも各省庁での仕様化などの成果を生むことと なった。この時の判断は、当時のリソース及びコンピタンスの一つである人脈を、信念 を持って適用した創業者の意志によるものである。 一方で、本来の目的である制御機器、通信機器への高付加価値な製品として提案を続 けた結果、現在では一般的な EMC 対策として各メーカーへの販路も広がりつつある。 ネットワーク ・情報セキュリティ (デジタルデータ) 暗号化等 認知・ 電磁波セキュリティ 物理セキュリティ (人間・物理的) アクセスコントロール (物理的要因、コンピュータ上 の情報) 普及度 EMC的対策 ソフトウエア ターゲット・手段 ハードウエア 図 6 電磁波セキュリティの位置付け 3-2 歴史的経緯 古くは米国などで 1950 年代に始まり、1960 年代から本格的に研究されている。[24] しかし、軍事技術として機密扱いであったために、民間ではその実体やレベル、実現性 及び対策の基準を具体的かつ正確に知ることは困難であった。 一方、日本では防衛庁や警察庁、郵政省(当時)が 1980 年代から研究と一部発表を 行っているが、表1を見ても分かるとおり、1999 年以前に具体的な対策の指針を示し た数は極端に少ない。このため、情報を得たエンジニアでも実現性については実感でき なかったのである。 しかし、1990 年代から冷戦終結に伴う米国などの軍事予算縮小、情報公開による技術 -21- の流出6や、民生品で入手できる TEMPEST に応用可能な製品と技術が格段に進歩した ことで、より具体的な脅威として浮かび上がった。 言い換えると、始まりは古く技術は蓄積されていたが、現代になって表面化した「古 くて新しい問題」といえる。 1988.11 「微弱な漏えい電波で極秘データ盗める。注目のテンペストを確認」 (朝雲新聞) 1991.8 「パソコンに盗聴の危険、漏えい電波で容易に画像再現」 (日本経済新聞) 1994.10 「パソコンの情報、電波放射で漏れ、郵政省が非公開報告書」 (日本経済新聞) 1994.11 「パソコンの電波漏れ、盗視防ぐ新技術開発、防衛庁-試作品や規格作り」 (日本経済新聞) 1995.12 「パソコンから情報漏れてた、市販機器で盗聴可能、郵政の検証試験で判明」 (日刊工業新聞) 1995.8 「情報システム安全対策基準」 (通産省告示第518号) 通産省 1999.1 「金融機関等におけるセキュリティポリシー策定のための手引」 (財)金融情報システムセンター) 1999.7 「行政情報システムの安全対策指針」 総務庁 1999.11 「情報システム安全対策指針 (情報セキュリティポリシーに関するガイドライン)」 警察庁 2000.3 「地方公共団体のためのCPセキュリティに関する調査研究報告書」 地方公共団体のためのセキュリティ対策基準のあり方検討委員会 2000.12 「情報セキュリティポリシー」 警察庁 2000.12 「情報通信ネットワーク安全・信頼性基準」 (郵政省告示第73号) 郵政省 2000.12 「電磁波盗聴を防げ」 NHKニュースで放映 2001.2 「パソコン漏れ注意、本体・コードからの電磁波で画面やパスワード盗まれます」(朝日新聞) 2001.3 「情報通信ネットワーク安全・信頼性基準~危機管理計画策定のための指針を追加~」 (告示第188号) 総務省 2001.4~ 2001.11 各県警のPC入札仕様書に順次記載 「サイバー犯罪条約署名、日米欧など30ヶ国」~不正アクセスやデータの不正傍受など禁止~ (サイバー犯罪国際会議にて) 表 1 TEMPEST に関する日本国内での報道と対応(~2001 年) 3-3 技術の転用 本研究では、軍事技術から民生への製品展開と、EMC という市場から情報セキュリ ティという市場への展開という2つの大きな技術の転用、応用が行われている。 ここでは、そのダイナミックな展開を可能とした要因を分析する。 3-3-1 企業の素質 コトヴェール社は、創業者が証券会社時代に広く官民に培った人脈を資源とし、コン サルティング、コーディネートから環境関連製品事業へ進出するべく 1993 年に創業さ れた。 6 文末の Web ページ The Complete, Unofficial TEMPEST Information Page および -22- Cryptome 参照 この人脈は、市場創造の際に必要となる各種の人的ハードルに的確かつ最短で辿り着 くためには重要な要素である。 また、ベンチャー企業がその存在を維持するための資金調達という面からも大きな役 割を果たしていた。創業当初からその人脈を通じてなるべく顔の見える個人投資家を募 り、出資だけでなく製品、概念を理解してもらって株主も企業価値向上と収益のための 活動に参加してもらう方針である。 これは、今でこそベンチャーキャピタルや金融機関の起業支援で普通に行われつつあ るが、創業から電磁波セキュリティ市場立ち上げの不景気な当時では珍しいことであっ た。 特に、EMC と電磁波セキュリティの業態に移行した際には取引先の倒産という不運 に見舞われ、財務的にも苦しんだ経験からなるべく債務を持たず経営して行く上でもフ ァンとなってくれる株主を見つけ出すことは重要であった。 このような環境では、スタッフに対するストックオプションのような制度も本来の目 的を十分に理解されると思われる。 これに関しての創業者のアドバイスは、まずはそれぞれの企業、事業で一人でも良い から核となりそうな人を見つけ出し、名前を覚えておく(覚えてもらう)事である。 その時すぐに役立つことが無くても、 10年20年のスパンで見れば自分が起業する、 或いは企業の中で重要な位置に立つ時期には相手も同じ立場になっている可能性があ り、必ず新たな関係が出来るというのである。 一見当たり前の言葉ではあるが、技術者として、自分の分野に関連する人は覚えてい ても、全くの異業種、異分野の人まではなかなか積極的に接触して関係を維持すること は難しいと考えていたために身につまされる教訓である。 3-3-2 人脈からの技術 1997 年までは環境関連の事業とコンサルティングを生業として 10 名程度のスタッフ で運営されていたが、1997 年に創業者の人脈から米国 TRW 社 (現 Northrop Grumman 社)からの EMC 対策技術の民間移転というチャンスを掴み、EMC 分野での新規市場 開拓をミッションとして第二創業した。 この時にも人脈を活用し、市場の把握、製造や実用化のために三菱電機グループや NTT グループとの協力関係を構築し、人的交流とビジネスの両方をより深く確実にし ている。 言い換えると、本来のエンジニアが一人もいない状況で人材と協力体制の構築を同時 -23- に行っていたのである。 驚くべき事に元々技術者ではない創業者がこれらを説得し、具体的アクションに結び つけた要因としてトップダウンが挙げられる。これは、今時時代遅れと考える向きもあ るが、官僚化・硬直化してしまった大企業を新たな舞台に引き出すためには効果的であ るという好例と思われる。「エンジニアとして知っているから出来ないこと」が当時話 を聞いて怪訝な反応をした技術者であり、「知らないで飛び込むからこそ出来たこと」 が当時の創業者である。 この対比はリスクの管理という面からも特異な事例であり、通常は経営者の独断で失 敗事例となる可能性を大いに持っているのだが、それを補うだけの人脈とそれによる企 業としての体力維持によって可能となったと考えられる。 また、後に述べる脅威の啓発に必要な測定技術についても、偶然日本の官公庁や NTT にデモンストレーションを行った米国メーカーを発見し、すぐにデモンストレーション 用の機材の発注や独占代理店契約を締結するなど、タイミングの良い経営判断がなされ ている。これは、今まで日本で得られる情報があまりにも少なく、存在するのは各官公 庁が個別に得てきたものばかりであり、実際の製品や測定装置という技術的な詳細は海 外から全くと言って良いほど入っていなかった事から、チャンスとしての判断がなされ たのである。 この「矛」についても相手方の経営者やスタッフ構成がコトヴェール社と同じく企業、 研究、軍などをリタイアした OB で構成されていることなどから官公庁へのビジネスの 展開速度やその手法について相互理解が早く、迅速に協力体制を構築することが出来た ためにその後の技術蓄積に大きなアドバンテージを与えた。 -24- 図 7 高性能測定・解析装置 このシステムは既存の EMC 測定に用いるスペクトラムアナライザや EMI レシーバー という観点を離れて受信後の信号処理に重点を置いていること、用いているレシーバー の S/N 比やノイズフロアといった基本性能も通常の測定では不要と思われていたレベ ルまで高めてあることで、今までの基準を満たすかどうかさえ判定できれば良く、基準 値近辺での精度を重要視していた EMC 測定機器では検出困難だった TEMPEST の実 態を容易に可視化することができる。 もちろんシステムは輸出規制などで保護されており一般の入手は困難であるが、いち 早く日本の代理店として協力体制を構築し、日本国内での最高性能を誇るシステムとし て政府機関向けのデモンストレーションや製品の検証用に導入することができた。 また、無線、EMC、コンピューターのハードウエア、ソフトウエアと言った広範囲の 技術を持つエンジニアとその後方支援体制を相手が信用するレベルで迅速に構築でき たのも人脈が大きな役割を果たしている。 これによって、今までの EMC 測定から見た測定限界を超える受信感度と再生方法を 手に入れ、機密として敬遠されてきた軍事レベルから日本への導入とブレークダウンに 成功し、合法的な技術/情報入手ルートの構築が完成したのである。 -25- 3-4 製品開発 3-4-1 オリジナル製品 自社のブランドとして販売するオリジナル製品は、EMC 対策フィルタとして米国 TRW 社(現 Northrop Grumman 社)から技術移転を受けた製品を国産化、量産化す るというミッションから始まっている。 当時 TRW 社では半ばハンドメイドでの生産が行われていた。これは、軍事用途のた めに少量生産であり、付加価値が十分に高いことと、その少量故に量産化のためのライ ン構築が困難だったためである。このために、技術移転ではその製造方法までは詳細に 移転されず、日本での量産方法を模索することとなった。 エンジニアであれば必ず一度は直面するが、手作りならば簡単に出来る製品が、工業 製品になった途端に生産方法と品質というものは全く異質になる。多少の心得があった とは言え、やはり仕様書を書いてメーカーに依頼することで業務が完結していた自分に とっても未知の領域であった。このために要した時間は2年近い。 コトヴェール社は自社での製造工場を持たず、空洞化していた各大手メーカーのグル ープ企業に両者にメリットがある形で協力体制を築くアウトソーシングを方針として いた。ここでも、無数のグループ企業と呼ばれる会社が存在する中で的確な協業先を見 つけることが出来たのは人脈による効果である。 製品、業種によっては Made in Japan にメリットは無くなったという考え方が主流だ が、元々少量多品種に近いものや、先端製品或いは量産初期の場合は国内のリソースは コミュニケーション、レスポンスなどから見た場合非常に魅力的である。 コスト面からも、手直しの手間や輸送コスト・期間から見た場合に有利に働く。 ベンチャーとして製品を開発、生産する場合のテストベッドとして国内のリソースは まだ有効に活用できる要素があると考えられる。これは、上記のような明示的な理由だ けでなく、経営者や技術者の製品に対する感情も含めて共有が容易であるという理由も 含まれる。これが無ければ、技術移転後の量産化は更に困難を極めたと言える。 3-4-2 OEM 等による補完 コトヴェール社では、EMC 対策製品としては後発であること、部品としてのビジネ スはほぼコスト競争になっていることから参入のメリットが少ないことから、直接エン ドユーザーを狙った後付け可能な製品をコアコンピタンスとしている。 このため、協業している NTT グループが持つノイズ対策製品もラインアップとして -26- 取り扱うことで、一般のユーザーが必要とする電源、ネットワークなどへの対策製品も 補完することが出来た。 今でこそ NTT ブランドで家電量販店の店頭にも様々な製品が置かれるようになった が、当時は NTT ユーザーにトラブルが起きた時に修理に行った社員が取り付けるとい う対処療法的な使用が主であり、その商品を販売しているグループ会社の主な客先は NTT 本体であると言った状態であった。このため、コトヴェール社の開拓した販路の 利用と電磁波セキュリティという新たな意味づけ、市場開拓は NTT 側にも新規事業創 出の機会と、OEM 製品やロイヤリティによる技術へのインセンティブというモチベー ションを与えた。 3-4-3 両者の技術を用いた製品開発 エンドユーザー向けの製品を開発するにあたり、TRW 社(現 Northrop Grumman 社) 同様にデスバレーに落ちている技術や新たな目的を付加することで転用可能な技術が あり、そこからの製品化も行われている。技術的には TRW 社の製品がコンデンサを使 ってノイズを「落とす」ものであり、NTT で持っている技術はインダクタでノイズを 「止める」ものが比較的多かった。 このため、両者を組み合わせて製品化し、目的を付加することで、材料としての販売 のみで一般ユーザーからは縁遠かった製品をユーザーが自ら使用できるノイズ対策製 品として発売した。 図 8 米国 TRW 社(現 Northrop Grumman 社)と NTT の技術を取り込んだ製品 また、今まで電話機や宅内の通信機器に利用するために2極コンセントにしか対応し なかった電源用フィルタ製品を3極化することでOA機器、オフィスでの用途を拡大し、 今回の目的に適合させたものなどがある。 -27- 図 9 電源用フィルタの例(左:従来製品 右:3極コンセント対応製品、大容量化製品) このような協業に関しては、技術の裏付けとしての信頼という面からも重要である。 市場展開当初は、相方企業の名前を見て導入や販売を行うユーザーも多く、初期の市場 拡大は両者にメリットがあった。 3-5 実施された手法 3-5-1 セグメントの選定 ここでは、一般ユーザーから企業や官公庁まで幅広く対象となり得るが、コトヴェー ル社の持つリソースと、先に官公庁などでの導入及び仕様化が先行すれば波及効果で普 及するという考えから、官公庁及び自治体へのPR活動を先行した。 一つの理由は継続性である。現在の企業や官公庁における PC などの調達はリースに よるものも多く、定期的なリプレースが発生する。つまり一度仕様に載れば継続した販 売が見込めるためである。 もう一点はリスクの低減である。ノイズ対策製品類は、場合によって本来の動作に影 響を与えたり効果が薄れてしまったりすることもある。これに対しての検証・確認を 個々の組み合わせに行うことは事実上不可能である。ある程度の数量で同じ仕様をまと めて購入するユーザーは、数量に対してその手間とコストを最小限に抑えることができ、 リソースが限られているベンチャーの立場からは好都合であった。 このため、当面の新たなマーケット規模の期待値は最大で下記の通りとなる。 =公的機関の PC 導入台数×対策コスト この場合、コストは他のウイルス対策やセキュリティに費やすコストから突出するこ とは出来ないが、台数が大きいために十分なマーケットとなり得る。 -28- 製品戦略としても、後に発売されるフラッグシップの対策 PC 以外は概ねこの範囲で 収まる価格帯でのラインナップを重視した。 3-5-2 広告、啓発戦略 ・マッチとポンプ セキュリティに関する対策と予算投下の速度は、通常どれだけ具体的な事例が発生し たかによって決まる。しかし、TEMPEST に関して今現在国内で報告された事例はな い。これは、電波を受信されたことを漏らしてしまった端末側で知る手段がないためで ある。 欧米では、数件の実例が紹介されているが、いずれも事件の犯人が供述して初めてそ の技術が使われたことを知るのみである。 故に、日本国内での啓発活動では製品である対策の紹介と脅威を対で行うか、脅威の 現実性を先行して認知してもらう必要があった。 このために3-3-2で述べた測定技術についても同時に研究・開発を行い、デモン ストレーションを行うことで市場を創造したのである。 当初は測定装置にコストがかかる上に、自作自演とも取られかねない危惧があったが、 各官公庁や企業との協力を後ろ盾に数年間に渡る地道な報道対応、官公庁へのデモンス トレーションによって信頼を得ることに成功した。 結果として日本における最高性能の測定装置とそのノウハウで製品開発を行う企業と しての認知もなされることとなった。 ・「不安ビジネス」モデル 不安ビジネスとは言っても、全く現実性がない事象に対しては保険的市場でさえも発 生しづらい。このため、より現実的に起きえる可能性を追求し、説明する必要がある。 マズローの欲求階層から見ても、自身に不安を与えるものは脅威であり、人間のより 原始的な欲求に不満をもたらす。 -29- 自己超越 創造的、応用的 知的 自己実現 (創造的活動) 自我の欲求 (認知欲求) 親和の欲求 (集団帰属) 安全の欲求 (安定志向) 生理的欲求 (衣食住など、生きる上での必要事項) 原始的、基本的 本能的 図 10 マズローの欲求階層 今回のプロジェクトでは、現代における情報機器そのものの存在のような生理的欲求 とするまでの必要性を訴えることは難しいが、具体的に現象を目で見ることで理性的な 部分で判断している情報セキュリティと言う枠から出て、より原始的な安全の欲求の部 分に訴え掛けている。 今まで目にしなかった、想像していなかった事象は、理性で「事実ではない、或いは 自分には影響がない」と判断して回避するか、安全の欲求に不満をもたらすかである。 このために、より現実的なデモンストレーションと説明が必要であった。 このプロジェクトが始まる前は、米国、或いは防衛庁や官公庁が行った実験が報道を 介して伝わる程度であり、映画やドラマの世界に近い位置付けであった。 明らかに非現実的な脅威は理性が排除できるが、今回のような事例で具体的に普通の 民間企業がデモンストレーションを行うという状況は、現実的な脅威として認知される。 加えて、自分の財産、安全、存在に関わる情報が電子化されてこれらの対象になるコ ンピューター上に置かれていることがより鮮明となった 2000 年前後からは非常に一般 的なレベルでの理解と対策の必要性が広まった。 分かりやすい例で言えば、ハッカーという人種はほんの10年前までは映画の中の登 場人物であった。しかし、現在では中学生でもネットワークとソフトウエアの知識を自 習して企業などに侵入することが可能になっている。 不安モデルも「愉快犯、政治・思想的犯罪」から「自己の利益のため」へ変化してき ており、ウイルスも DoS 攻撃や破壊だけでなく、spam 配布や情報を盗み出す方向へと 変化している。 TEMPEST に関しては下記のように述べられている。[25] 「脅威としての評価をする場合、 「盗る側」のコストが実現性の尺度とされる場合があ る。実際のコストは数十万円から億単位まで距離と鮮明さ、解像度のレベルによって変 -30- わる。日本で入手可能な装置でも、100m 離れた地点で XGA7以上の画像が十分判読で きるレベルで再現できる。しかし、日本のオフィス環境や実際の使われ方を想像すると、 必ずしも空中で 100m 離れて取得できる必要はない。たとえばテナントビルの隣の部屋 は、石膏ボードと密度の低い格子状の鉄チャネルで仕切られているだけで空間としても 距離は短いし、各種のインターフェースや電源ケーブルを使用して S/N の良い信号を 得る事ができれば、安価な装置でも十分脅威になるのである。 」 現在では IST(新情報セキュリティ技術研究会)や情報通信研究機構(NICT)のデ モンストレーションでも安価な装置によるデモンストレーションを見ることができる。 これとは別に、全くの個人として製作が可能であるかという実証も行った。 インターネット8やコトヴェール社のデモンストレーションで紹介している情報から 個人レベルでどこまで電磁波盗聴が可能であるかというトライアルである。 啓発活動の中で、不可能であることを殊更に不安として煽ったり事実ではないメッセ ージを伝えたりしては、市場の構築には至らない。 TEMPEST の例で言えば、コンピューター内部のハードディスクに保存されている情 報や CPU・内部バスの処理信号を直接再現することは困難であること、スパイ映画の ように、いきなり現地でアンテナをターゲットの方向に向けて情報を取得することは難 しいが、ある程度の事前情報でそれが補えることなどである。それらを、実践を通じて 証明し、より身近なレベルでの実現性を基にした説得のためにこのような研究を行った。 ここでは、数m先の PC の画面が十数万円のコストの装置で解析できている。製作に 要した期間は業務時間外の個人的な作業で三ヶ月程度であり、現在はデジタル化と画像 処理の段階に進んでいる。 7 8 1024x768 ドット表示、現在ノート PC などでは一般的な表示解像度 文末の各 Web ページ参照 -31- 装置外観 実験状況: 手前右がアンテナ 赤丸がターゲット 取得画面 図 11 個人による安価な自作装置を用いた実験 このような技術蓄積と、最先端・最高性能での解析技術の両面を実証することで、よ り現実的な脅威としてどのような場面が想定されるかというノウハウを蓄積し、啓発す る際にユーザーが抱く様々な疑問にも応える事が可能となった。 また、前項にもあるように自然法則から見ても自分が放射してしまった電波が誰に受 信されたのかを知ることは不可能であり、痕跡がないと言う点からもこの脅威に関する 情報を受け取った側での不安度は大きい。 前述の通り、コトヴェール社では測定するために測定・再現技術も蓄積していたが、 自社から必要以上に公開することは倫理上、或いは提携先の守秘問題からも避けており、 対策の必要性を強調すると共に、公的機関への積極的な研究と公開を促したのである。 これにより、対策の必要性と、後発企業としてエンドユーザーに近い製品を提供して いたコトヴェール社の優位が築かれたと言える。 同様にして、EMC という業界と今までのマーケットの中だけで考える枠では市場の 拡大は困難だが、より広い視点から財産や安全に対しての危機との結合を見いだすこと で、新たな需要が喚起される可能性を持っている。 例えば、パチンコなどでの電波や静電気を使用した不正も EMC 的課題である。しか し、これはメーカーの製品に対する信頼性という問題だけではなく、ホールにとっては 財産・収益と信頼を脅かす事態であり、正規のユーザーも間接的にその被害を受ける。 効果的な対策はそれぞれのプレーヤーにメリットをもたらすはずである。 -32- 3-5-3 メガマーケティング 今回は、新規市場開拓、参入にあたりメガマーケティングに近い手法が採られている。 フィリップ・コトラーが述べていた要素に分類すると下記のようになり、様々なスキ ルとその対象からのアプローチを実施した。 経済的スキル デファクトスタンダードを狙い、現実にデモンストレーションが可能となる前から情 報漏洩対策製品としてエンドユーザー向け EMC 対策製品を市場投入し、先行者として その地歩を築いた。無論、このための先行投資と会社としての維持存続に要する財務的 努力は大変なものであった。 また、前に述べたように対策技術と信頼の裏付けともなる測定・解析技術の戦略的投 資による取得と利用、アライアンス構築も行った。 心理的スキル 脅威を現実として認識させるべくデモンストレーションを中心とした広報戦略を官公 庁・報道機関へ行う一方で、より広義な情報セキュリティとの整合性をアピールするた めの製品群構築を行った。 また、情報セキュリティの業界の常である「対策としての完全性は常に保証できない」 ことと、既に知ってしまったことへの無防備は企業・組織としてコンプライアンスやリ スクマネジメント面から問題となる恐れがあることなどを織り交ぜた説得と啓発をト ップダウンで行い、基本的なセキュリティ対策事項としてのインプリメントを促すこと で、担当者からトップまでがそれぞれ対策を導入する理由が構築され、迅速な普及を促 すこととなった。 政治的スキル 特に戦略的な官公庁、自治体への啓発や広報活動を実施、情報セキュリティの知識と して広めると共に、各調達仕様書の項目追加、情報セキュリティに関するガイドライン 類への項目記載などを推進した。 また、コトヴェール社から情報通信研究機構(NICT)及び NTT アドバンステクノロジ 社それぞれの長所を有効活用した研究とフィードバックのプロジェクトを提案し、測定 装置の導入や調査受託を通じて研究の立ち上げサポートを行った。 -33- このプロジェクトでは、2000 年当時は日本国内に於いて公開された TEMPEST 対策 基準が無い状況から、三者の間での研究と、その成果の民間(市場)へのフィードバッ クが目的であったが、市場、企業からのフィードバックとより広い広報活動という目的 から後の IST(新情報セキュリティ技術研究会)発足へと繋がった。 情報通信研究機構(NICT) 漏洩電磁波測定装置 情報漏洩解析装置として 電磁環境測定 通信関連の研究での利用 ハードウエア納入 運用サポート ノウハウ支援 コンサルティング 調査報告 •漏洩電磁波の検出による情報再生の可能性と、その危険度評価 •TEMPESTを始めとする、EMCに関連するセキュリティーの、日本 および諸外国における現状調査 •対策方法・指針の立案、評価 コトヴェール 測定/調査受託 「民間で利用可能な」 対策指針の策定、 成果の公開 •オペレーション •現状調査 業務提携 •EMCにかかわる分野での規 則、動向との整合性確認/反映 コンタクト、 情報収集 論理的整合性 CISPR /VCCI等 民間へ成果を フィードバック ITUへの提案 図 12 当初の調査研究スキーム この後、コトヴェール社は民間の任意団体としての IST(新情報セキュリティ技術研 究会)の設立と運営に携わり、SI、メーカー、官公庁などが一体となった研究と検証の バックアップを行うことで、客観的な脅威の評価と民間への情報公開を促進すると共に、 単に1社が不安を煽っているのではないと言う信頼を構築し、また個別に細々と行われ ていたこのような脅威への対策市場をまとめることにも繋がった。これは今で言うと NPO 活動に近いが、立ち上がりの段階では敢えて緩やかな枠組みの任意団体とするこ とで特定の省庁やスポンサーに偏ることなく中立の立場を維持することと、それによっ てより多くの会員と関心を集めることに成功したと言える。 現在では IST(新情報セキュリティ技術研究会)から民間向けのガイドライン発表[26]、 ITUT-SG5 へのコントリビュートなどがこの研究をトリガとして発生しており、話題の 定着と一般化に大きな役割を果たしたと言える。 パブリックリレーションスキル 技術の裏付け、両者にメリットのあるブランド利用としてのアライアンス構築や相互 補完を積極的に行い、前述の TRW 社(現 Northrop Grumman 社)や NTT グループ -34- の他にもウイルス対策製品メーカーとの協業、セキュリティという幅広いキーワードで 構成される IST メンバー各社との協調体制を維持し、 また、デモンストレーションを各官公庁や自治体などへの新しいセキュリティに関す る講習会と位置付け、両者でのメリット(教育効果・動機付け/商品の刷り込み)を維 持した結果、中央省庁・各自治体のセキュリティポリシーに漏洩電磁波対策が記載され るようになり、確実に市場が拡大して行くこととなった。 結果、図 3 のポートフォリオでは下側に位置していた EMC 対策製品というジャンル において、花形(左上)と「金のなる木」(左下)の中間に位置するマーケットを構築 することが出来た。しかし、ポートフォリオの限界でも述べられている[27]ように今ま での EMC 業界という次元でのポートフォリオの位置付けであり、情報セキュリティと いう非常に巨大な市場のポートフォリオから見れば、市場占有率、収益率共に低い位置 になる可能性がある。今回のプロジェクトの意義は、その違う次元の事象を結びつけた ことにある。 偶然にも脅威というキーワードから SWOT マトリックスを使って考えると、市場開 拓する側はニッチなジャンルの製品をいち早く確保したこと、人脈、メガマーケティン グスキルなどの「Strength 強み」による「Opportunities 機会」を増やす戦略を採った。 市場のユーザーは「Threats 脅威」を実感してそれを避けるため、今まで対策を講じ ていないと言った「Weakness 弱み」を克服するために対策を急ぐこととなったのであ る。 内部要因 Strength (S) 強みのリスト Weakness (W) 弱みのリスト 外部要因 Opportunities (O) 機会のリスト SO戦略 機会を生かす ための強み WO戦略 機会を利用して 弱みを克服 Threats (T) 脅威のリスト SO戦略 脅威を避ける ための強み WT戦略 弱みを最小化 脅威を避ける 図 13 -35- SWOT マトリックス 3-5-4 アライアンス 元々コアとなる技術を持って事業を開始しているのではなく、製品に新たな意味づけ を行い、デスバレーに落ちている製品を適用して優位を築くという戦略であるため、ア ライアンスは必須である。 技術を保有している側は知的財産や今までの投資を少しでも実用化、回収したいと考 え、それを発掘する側は、いかに初期の開発コストを抑えて特徴のある魅力的な製品へ と変貌させることが出来る技術かを見極めるお見合いのようなものである。 これは、お互いに当初の目的を達成して終了するのではなく、次から次へと両者が事 業や製品を拡大する方向に作用することがベストと言える。 コトヴェール社の場合もそれぞれオーバーラップする内容を持つ協業相手を複数持つ ことで、有機的な繋がりを維持し、常に新しい製品や技術を探し出している。ここで気 を付けなければならないのは目利きであり、中には落ちるべくしてデスバレーに落ちた ものも相当数含まれていると言うことである。人脈と信頼関係は、その「ハズレ」を引 く確率を多少下げてくれることはあっても、絶対に当たりだけを導き出すと言うことは ない。 もう1点は、 「簡単に売れる商品に変貌するならば既に誰かが実施していたはずではな いか」という冷静な再検討である。通常、大手の企業が相当のコストを掛けて開発した 技術に全く勝算が無かったという例は少ないだろう。失敗や停滞の理由を知ることは重 要である。ネガティブな考え方だけで否定しては新たな事業は創出できないが、冷静な 面を常に持つことによって、採用する場合でも次に直面する困難を予測できる。 ここで、TRW 社のような大企業とコトヴェール社のようなベンチャーがアライアン スを構築することは有意かどうかと言うテーマでの研究もある。 大企業同士やベンチャー・中小同士ではなかなか成立しなかったり、すぐに意味をな さなくなったりする事例も多い。 対等である場合には、対等であるとする技術や顧客のシェアと言った部分の評価につ いて両者主観的になってしまうことも考えられるし、均衡していれば水も電流も流れな いように当事者意識が薄れてしまう可能性がある。 今回の場合、特にデスバレーという位置に落ちていた技術からのアライアンス構築の ため、取得する側が積極的に技術というノウハウから「商品」を創り、市場創造を行う ことで提供する側に小回りの利く小企業のメリットと、彼らが気付かなかったビジネス 構築を認識させてモチベーションを高め、維持することができた。 -36- この結果一つの技術提携だけでは終わらず、継続して新たな製品や技術の発掘を行う ことが可能となっている。 -37- 3-6 ロードマップ 今回のプロジェクトの経緯を下図に示す。 2000年 製品開発 2001年 周辺の 対策製品 2002年 2003年 超低放射雑音 PCの開発開始 2004年 8月:セキュリティ 4月:ノイズ測定用 対策として 補助機器として LEP-770T発売 LEP-770E発売 ベースモデルの選定 対策技術の開発 製品化 技術開発 市場開発 (周辺環境) 測定装置、 技術導入 国内にて屋外で 低価格・簡易な 初の100m再現 装置による 実験成功 脅威の実証 官公庁、民間へのデモンストレーション・啓発活動 デモンストレー ション、マスコミ IST設立 通信総合研究所 電磁波セキュリ (現NICT)に 測定装置導入、 ティガイドライン 作成をアナウンス 研究開始 2005年 ・・・・・・・・ 簡易装置の 機能高度化 プレスリリース、海外展開 電磁波セキュリ ティガイドライン 第1版を公表 図 14 市場開拓、製品開発の経緯 この中で、実際に TEMPEST 対策製品の市場が確立したのは 2002 年頃からである。 やはり、市場創造には相応の時間を必要とする。1997 年にトリガとなる技術を導入し てから実に5年、具体的アクションの要素となった測定技術への投資・導入から2年を 要している。 しかし、何か一つでも事件の手段として TEMPEST が使用されたと具体的に発覚す れば、急速に市場が拡大することは過去の他のセキュリティ対策の事例からも明らかで ある。[28] 今後の展開として、次章以降で述べる超低放射雑音 PC の市場投入による自社の位置 付けの確立と、海外への民生・政府向け TEMPEST 対策としての展開、マルチレイヤ セキュリティと言う概念からこの電磁波セキュリティ以外のジャンルと組み合わせた マルチセグメント化などが挙げられる。 -38- 3-7 結果 TEMPEST に関する市場動向として、この当時米国は軍事関連での市場が立ち上がっ た後に冷戦構造の崩壊やコスト削減により市場が衰退しつつあった。コンドラチェフの 50年周期にはマッチしないものの、技術の発生から市場の衰退までのサイクルを見た 場合には終盤であった。この時に日本では、全く無かった脅威として同じ時期に別のト リガから波を「起こす」事に成功したのである 図 15 市場規模予測[29] 図 15 では市場予測が示されており、急速な伸びを予想している。しかし、解説中にも 電磁波セキュリティの位置付けとして「ネットワーク、無線 LAN 等現在でも問題を持 っている課題の解決後に本格的に着目されるであろう。 」と述べられると同時に「外部 での対策は PC 本体での対策技術が後から発達してくることで、頭打ちになる可能性が ある」ことを指摘している。このため、次章以降の対策 PC の開発は避けることが出来 ない命題であった。 電磁波セキュリティという新たな市場創造の中で行われた取り組みと成果は、パブリッ クコメントへの提言と反映[30]、官庁、地方公共団体のセキュリティポリシーへの取り -39- 込み、FISC など業界団体への反映[31]など多岐に渡る。 「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」 平成13年3月30日 策定 平成15年3月18日 一部改定 「地方公共団体における情報セキュリティ対策に関する調査研究報告書」 平成14年2月 <地方公共団体における情報セキュリティ対策に関する調査研究会> 「地域公共ネットワークに係る標準仕様」 平成14年10月 策定 総務省 情報通信政策局 「情報セキュリティ監査制度の運用開始について」(経済産業省) (別添2)個別管理基準(監査項目)策定ガイドライン (別添3)電子政府情報セキュリティ管理基準モデル 「住民基本台帳ネットワークシステムの概要」 (電磁波漏えい対策は、「個人情報保護のための施策」に記載) 表 2 電磁波セキュリティに関しての記載が行われたガイドライン、仕様等(2001 年~) 直近では、政府の情報セキュリティ政策会議によって決定された「政府機関の情報セ キュリティ対策のための統一基準」[32]にも漏洩電磁波による情報漏洩への対策が強化 遵守事項として掲載され、政府機関での対策が事実上標準となった。 これは 2005 年項目限定版として、早急に実施するべき施策のみを示しており、その 重要性が分かる。 また、以前よりこのような現象に対して最も専門的に研究していた防衛庁に於いても、 2003 年に NDS-C13 として規格化を行い、その成果の一部を反映・公開している。[33] その他にも参考文献 17~27 のように官民問わずこの話題を取り上げ、発表する件数 が大幅に増えた。 このように、民間主導での電磁波セキュリティ市場創造は、軍事という製品、市場に 特化して革新の機会を逃し、停滞してしまった米国での軍事先行かつ主導の市場構造の ように、順調な時は高い利益と独占が得られるメリットこそ少ないが、より広い対象を 分母とした、言い換えればより安定したニッチ市場を創造し、官民協調体制での技術革 新の機会を創造したと言える。 -40- 第4章 創造した市場への取り組みと応用 4-1 当初目標とした製品とそのターゲット 前章の市場予測[34]でも解説されていたように、PC 自体への対策は避けて通ることの 出来ない課題であった。 技術的にも、周辺の対策でより遠くに伝導、放射の原因となるケーブルに対処したか らといって、筐体自体から放射される電気的雑音の強度が問題となるような距離にまで 接近されてしまう状況ではやはり対策が必要となる。これは、エンドユーザーが抱く疑 問であり、ニーズでもあった。 一方で、話題の陳腐化、関心の低下を防止するためにも EMC 対策製品を応用した対 策だけではなく、ユーザー側の選択肢を広げて市場規模の維持と拡大を行う必要があっ た。このため、マーケットリーダーとしての地位確立、フラッグシップ製品としての対 策 PC 開発は必須だったのである。 このため、市場が立ち上がると同時に超低放射雑音 PC を電磁波セキュリティ/情報 漏洩対策として発売するべく開発を開始した。 この開発が、創造した市場をより強固にすると共に軍事技術-EMC 市場-情報セキ ュリティ市場を跨る大きなフィードバックを形成することとなった。 ②別目的(意義)への転用 ①民生への転用 軍事技術 A)情報セキュリティ市場 対象:メーカー~エンドユーザー B)EMC技術・市場 競合:多 シェア:大 付加価値:大 対象:メーカーなど 競合:多 シェア:低 付加価値:少 過去或いは米国などでは既に他のプレー *ユーザーニーズによりPC そのものの開発を決断、 高性能が付加価値を高めた ③フィードバック ヤーがおり、政治的要素などからも参入が 出来ない。 これを研究・開発及び市場の両面から民生 に転換するのがミッション。 図 16 本章における技術/市場/商品の転用とフィードバック -41- マーケットドリブン 4-1-1 ターゲットの設定 (1).ユーザーからの要望、特に PC 本体という基本に回帰 電磁波セキュリティ、TEMPEST という脅威と対策を啓発する中で、何故 PC 本体に 対策を施せないのか、そのような製品が存在しないのかは、ユーザーが抱く大きな疑問 であり、ケーブルやコネクタ部分の対策が先決であるという説得は常に後手の印象を与 えてしまう。 顧客の特性を考えた場合、このような疑問を持つ顧客は説明された脅威を認識した上 で前向きな反応の結果として疑問に思う傾向が強く、これに対する答を用意することは 以後の展開に於いて宣伝役となってくれる可能性を持つ事に気付いた。 また、この時期に策定を進めていた民間でのガイドラインの検討、顧客から受ける相 談等の傾向からフィードバックと、今まで培った測定技術との整合性を持った開発が可 能であるという強みを生かして対策 PC の製品開発に着手した。 ネットワークケーブルへの対策 (LAN・外部への通信回線など) :主にコモンモードチョークコイル 万全を期すためには PC本体への TEMPEST対策も必要 電源ケーブルの対策 :接地状態に依存しない コモンモードチョークコイル マウス/キーボードケーブルへの対策 :L/C或いは組み合わせて、回路に 直接挿入するフィルタ プリンタ、 スキャナ、 ストレージ等 図 17 周辺機器用ケーブルへの対策 :L/C或いは組み合わせて、回 路に直接挿入するフィルタ PC 周辺での対策 (2).製品の位置付け 前章で述べたとおり市場創造は行ったが、市場が拡大すれば大小様々な企業の参入は 避けられない。このニッチな市場において先駆者である自社の位置付けを確立し、それ らを迎え撃つためには常に先端技術や製品をリリースし、顧客の興味や疑問に応える必 要がある。また、この製品を開発することで、脅威に対して電気的ノイズの発生源から -42- 対策するというストーリーが一通り完成し、様々なセキュリティレベルと対策を求める ユーザーへの対応が可能となる。 図 17 では PC 周辺のインターフェースへの対策を示しているが、 筐体自体から輻射さ れるノイズに対しても対策が必要となる場合がある。具体的には、至近距離まで安全な 領域が確保できない状況で重要な情報を扱うユーザーなどである。 この製品は、価格とその意味合いからもフラッグシップモデルと位置付けられる。 通常であれば、類似製品とのベンチマークを行うのだが、他の製品は次項で述べると おり日本での入手が事実上困難であること、国内で入手可能な製品は電磁波セキュリテ ィに対しての対策を施したものがないことから、具体的なベンチマークは困難であった。 LEP-770T PCとしての 性能 米国 対策PC 国内 耐環境PC 電磁波セキュリティ 対策としての性能 コスト 図 18 ポジション比較 (3).市場 当初想定した市場は以下の2セグメントである。 1.数は少ないが継続性と利益の多いターゲット 防衛庁、警察関係、中央官庁など 2.分母は大きいが、それぞれ導入台数やニーズが少ない 地方公共団体 一般企業、金融機関、通信事業者など これは、製品の位置付けであるフラッグシップというプレミアム性からも初期ターゲ ットとしては妥当と考えられる。 いずれにしても高度なセキュリティを求めるユーザーが対象であった。 -43- 4-1-2 従来の対策の限界と問題点 電磁波セキュリティに対応した PC は製品として日本に存在しなかった。 米国や NATO 諸国には存在するが入手不可、国内メーカーの開発は困難と言う状況で あった。 図 18 にもあるように、既存の TEMPEST 対策 PC は、PC としての性能が低かった。 実際には日本国内に持ち込むことは困難だが、米国での市場と製品を調査した結果、こ れらの製品は市販の PC をベースに製作されているものの、筐体の大部分をカスタムメ イドで作成しており、日進月歩で向上する PC の中身に追いついていない。市場を調べ ると、CPU で2~3世代前の製品である。 技術的にもカスタムメイドで EMC 対策を行う場合は中身が変われば最初から作り直 しになる事、それによるコスト吸収が困難な小規模の企業が多いことが直接の原因であ るが、根本的な原因は、前章で述べたように政府主導の需要であるために一度その仕様 を満たせば当分改良の必要が無く、リストに掲載されているだけで自動的にいくらかの 注文が入るというシステムのため、技術の発達と市場の変化に追いつけなくなった例と も言える。 機密に近い技術と市場にされてしまったことから、広く応用できる技術、市場として の魅力が無く、大手メーカーの参入などによる競争も起きなかった。 同様に国内での製品を調査したが、PC 自体の性能としても概ね市場に受け入れられ る耐環境 PC は存在したものの電磁波セキュリティとしての対策を施した製品は存在し なかった。 これは、技術面では対策製品を開発するために必要な測定技術と、何を基準にしたら よいのかという経験が他のメーカーに無かった事、市場から見た場合にそのターゲット とニーズ、規模が見えておらず、もはや消耗戦に入っていた PC メーカーとして参入の 判断は難しかったことが挙げられる。 これ以前は、防衛庁などが研究していたが、脅威が一般化しておらず、ここから市場 を見いだすのは困難だったと言える。 また、先進的なユーザーにおいても、その製品の評価や検証方法、実際の効果を確認 する手法が欠如しており、脅威に対する適正な対策コストであるか確認することが困難 であった。このために、ある程度妥協した対策や、建物、部屋全体のシールドなどコス トのかかる対策を選択する例が多かった。 -44- このような状況の中で開発を開始したが、アドバンテージである測定技術や経験はい ずれ他社も獲得する可能性はある。現状では後に分析するようにニーズを通り越した性 能とも言うべき最先端の性能であり、参入障壁は初期段階で他社に高いが、一般化して 量産され、市場のニーズがコスト重視に大きく傾いた場合、ローエンド型破壊というイ ノベーションを起こされる可能性がある。 4-1-3 マーケティング課題 しかし、4-1-5でも述べるように、製品の価格は高く、サイズや重量は大きく重 くなった。一般には「PC の価格は安くなるもの」であり、 「軽くて小さくなって行くも の」が常識である。 しかし、コンシューマー市場を離れた場合、IPC(Industrial PC) というジャンルもあ り、そこでは安定性と耐久性が重視されている。 最近では Panasonic ブランドの Tough Book シリーズなど、工業用だけでなくビジネ ス(企業)向けに耐環境性能をセールスポイントとする製品も登場している。 この製品の企画開発段階において、差別化を図るだけではなく先述のようなマーケテ ィングの近視眼に陥らないよう、製品の特徴と適用先を組み合わせて考える必要があっ た。 ・高度な電磁波セキュリティ対策を施した唯一の製品である ・耐環境性にも優れており、産業や軍事のような場面でも十分使用できる などから、一般の個人ユーザーへの訴求を無理に行わず、当初の市場への販売を考え ることで、コストや重量に気を取られてその特徴が発揮できない製品となることを避け た。 4-1-4 ターゲットの分析・分類、対象の検討 この製品は、技術力の実証、会社のブランドイメージを高めると言う目的も持ってお り、4-1-1のように、プレミアム性のある初期ターゲットを設定した。 ターゲットとした官公庁や自治体等では市場創造の結果、電磁波セキュリティ対策を 行うことが必要となってきていたため、この製品が発売されてその対策のストーリーが 完成することでのシナジー効果による、元の周辺対策製品の販売増も考えることが出来 る。 例えば懐疑的なユーザーであれば、最終的には PC の筐体そのものから情報を含んだ -45- 電気的雑音が漏れているから意味がないと言った反応がある。これに対して最高レベル のセキュリティも選択肢として提供することで、反駁の理由が無くなるのである。 また、この製品の発売を機に既存の周辺用電磁波セキュリティ対策製品も、EMC 対 策製品という側面が強かったパッケージからセキュリティへの衣替えを行い、エンドユ ーザー向け市場に流通させることでの浸透を図った。 4-2 製品の開発 製品の開発において、将来に渡ってある程度安定供しなければならないターゲットに 販売する PC をゼロから製造することは非常にリスクが高い。現在の PC 市場ではその 中心となる CPU やチップセットの供給が終わればモデルチェンジを余儀なくされる。 1社で全てを設計・開発・製造することは困難な時代になっており、大手メーカーの PC でさえも内部は OEM で台湾や中国などに集約されていることがある。 少人数で運営しているベンチャー企業でこの状況を無視して全てを賄えば、リソース の問題やイニシャルコストの負担から4-1-2で述べた米国での状況に陥る可能性 が高い。 このため、ベースとなる製品を探し出して自社の培った技術と融合させる必要があっ た。当初は国内や海外の OEM 製品も含めてリサーチしたが、いくつかの偶然により最 適なベース PC を発見することが出来た。飛行機の中の雑誌に掲載されていた耐環境 PC を当時の CTO が見つけ、そのメーカーを見た自分が偶然にも米国の測定装置メー カーで同じ名前を見たために問い合わせたところ、取り扱いがあり入手できたのである。 元々耐環境性能を売りにした製品であり米軍などでも使用していたが、その耐環境性 能を実現するために密閉度が高く、EMC という技術から見た場合にも非常に魅力的で あった。 開発は国内製品と、この PC の2本立てでスタートした。どちらかに技術的或いは生 産から販売までのプロセス構築において致命的な問題が起きた時のリスク回避が主な 目的であったが、結果として両方について深く分析と試行を繰り返すことで後の販売に 際しての比較分析に非常に役立つこととなった。 当初はコストや保守体制などから国内製品を第一候補としていたが、対策性能の問題 から現在の製品を選択することとなり、リスク回避としては正解となった。 このベース PC は、耐環境 PC として販売されていたが、日本においては製品のコス トと日本語対応などの問題からごく一部で使用されるにとどまっており、既存の「埋も れた」製品となっていた。市場ではコスト面などからは国内メーカーの耐環境 PC が寡 -46- 占状態にあり、メーカー側も製品の価格に対して数量と目的が見えないためにローカラ イズなどを躊躇していた。 このため、コトヴェール社が考えた市場は新たな価値と市場創造となり、既存製品に 対するローカライズのコストなど最小限の投資で両者の協業が実現できたのである。 もう一つの要素技術として、画面に使用するスクリーンフィルタの開発も材料メーカ ーと協力して行われた。ラップトップ型の PC では EMC という観点から最大の開口面 となる画面を対策しなければ製品として意味が無いためである。 当時、スクリーン用フィルタの市場としてはプラズマディスプレイや計測器などの用 途で立ち上がりつつあったが、それぞれに特許や業界による制約があり、数社との検討 及び試作を繰り返した。 また、製造や保守に関しても国内のリソースで外部委託を行い、オーバーヘッド機能 に徹している。 このように、ベースの調達から製品化までそれぞれがアウトソーシングや追加工のた め、メーカーとの関係構築や機密保持は重要である。 今回はそれぞれ日本の電磁波セキュリティという市場とは直接縁の無かった国内企業 を中心にバリューチェーンに巻き込んだため、結果として大手メーカーへの情報流出、 先行参入防止と言う効果が得られた。 4-2-1 バリューチェーン 今回の事例では、ベースモデルの PC からエンドユーザーまでの全体を見ればコトヴ ェール社の行っている部分は流通やサービスに近く、元の耐環境 PC という用途に対し ては付加価値部分であり、新たな目的・市場への投入と言える。 しかし、そのために日本国内で製造という行程を持っており、この中でそれぞれがメ リットを持てるような協業体制が必要である。 コトヴェール社から見れば材料となるスクリーンフィルタも PDP や高周波加熱装置 などでは付加価値のあまり高くないポジショニングだが、今回のような用途では数量や 価格的にも付加価値は大きいと考えられる。 また、今回のような事例での利用は量産化とコンシューマー市場に受け入れられるた めの品質向上へのトリガとなる。 -47- 4-2-2 製品のポジショニング、ポテンシャルエリア この製品は約 150 万円という価格と、MIL 規格に適合する耐環境性能から、構築した 電磁波セキュリティ市場では象徴的なフラッグシップ製品であり、コストよりもセキュ リティに比重を置くユーザーをターゲットとした。 また、当初はコスト面からもオフィスでの一般業務における使用よりも、重要な情報 を扱うシステムの中のクライアントとしてのニーズを想定していた。 これはニッチなマーケットの中でも更に製品、市場共に特化したターゲットといえる。 具体的には防衛関係など官公庁を中心としていたために、先行研究でも述べたように 予算や年次計画の壁に当たってしまったのである。 4-2-3 コスト、性能、販売方法のベンチマーク 図 18 にベースモデルのポジションを追加したものが図 19 となる。 LEP -770T PCとしての 性能 ベース モデル 国内 耐環境PC 米国 対策PC 電磁波セキュリティ 対策としての性能 コスト 図 19 性能、コストの比較 図 19 では軸に含まれていないが、本来の耐環境 PC としてみた場合はベースモデルと 国内製品は競合関係にある。この時の比較パラメーターは耐環境性能とコストである。 国内製品はコストパフォーマンスに優れ、ビジネスモデルとしての実績を国内外で持 っている。ベースモデルはコストが高いが耐環境性能では1ランク上の規格をクリアし ており、米軍を始め海外での実績は豊富である。 また、図 20 のように耐環境 PC という尺度で見れば、簡易に耐環境性能を付加した製 品もあり、この場合は最新の性能の PC にすぐ適用できること、コストが安いことなど が挙げられるが、本来の耐環境 PC がターゲットとしている屋外や工場などのハードな 環境に耐えるものではなく、一般向けの PC の中の変種、店頭での競争の差別化要素と いう位置付けである。 -48- PCとしての 性能 ベース モデル 簡易 耐環境PC 国内 耐環境PC 耐環境性能 コスト 図 20 耐環境 PC としての比較 今回の開発では、EMC 的な面から通常の PC とほとんど差が無く、開発期間やコス ト面及び、フラッグシップとしての対策効果といった面から候補にはならなかった。 販売方法については、簡易耐環境 PC は一般のユーザーに対しての落下や水による故 障を減らし TCO 削減と繋がるという付加価値で店頭での販売も行われている。国内耐 環境 PC の場合、ビジネス PC と位置付けられ、主に代理店や直販でのチャネルが形成 されている。 ベースモデルとなった PC の製造元は、 元々OEM 専業に近い事業形態を取っており、 販売体制としてはシステムへの採用を受け身で待つという状態であった。このために、 新たな付加価値を与えて商品として定常的に存在する今回の製品開発は、その存在をア ピールするという面からも魅力的であったといえる。 既に存在した製品としては米国や NATO 諸国で販売されていた TEMPEST 対策 PC となるが、輸出規制などによる入手困難、日本語対応の問題からコトヴェール社がター ゲットとした国内市場に入ってくる可能性はほぼゼロである。また、性能とコストから 見ても問題とはならなかった。9 しかし、これらが存在したためにコストとしての上限が客観的に認知され、今回の製 品が決して非現実的な価格ではないという傍証として役立つこととなった。 9米国国家安全保障局 http://www.nsa.gov/ia/industry/tempest.cfm -49- 4-3 市場分析、リサーチ結果 本製品の開発に平行して、市場創造の経緯から形成された官公庁等への人脈や情報交 換を通じてプレマーケティングを行った。 しかし、元の狙いである電磁波セキュリティについて、企画段階で予測していた立ち 上がりを得ることは難しい結果となった。 4-3-1 ギャップの分析 最初の LEP-770T を 2004/10 に発売、プレスリリースなども行ったが、官民共に反応 は鈍かった。ターゲットは開拓した電磁波セキュリティ市場であったが、Innovators とも言える一部の研究機関や企業が導入したものの、次のステップは見えない状態であ った。ここでのギャップとして、以下の点が考えられた。 ・見えない性能 TEMPEST の説明、市場形成でも困難であった性能の証明はここでも問題となった。 情報が取得できてしまうことは、1つの周波数や条件でも再生できれば証明となる。し かし、「取得できないこと」は全ての帯域、条件において試験が必要な上、使用する機 材やオペレーターのスキルにも依存し、簡単にデモンストレーションなどで証明できな いのである。また、EMI 測定を行っても測定できない程ノイズが少ないため、一般の お客様が見て理解できる性能評価や比較データを示すことが困難だった。 製品のコストと目的から、相当の期間と手間を掛けて電波暗室での測定も行ったが、 結果は図 21 のように抽象的にしか表現できないのである。 図 21 TEMPEST 対策性能の例と LEP-770T -50- ・独自規格(非公開)のカベ 当初のプレミアムユーザーとして考えていた防衛庁の場合、2003 年に NDS-C13 とし て規格化[35]が行われたものの、詳細な数値は非公開であり、この製品がどのレベルに 適合するのかを具体的に知ることは困難であった。 ・ゼロではないが、時間がかかりすぎる 製品の価格と目的から、それを受け止められるシステム更改などの契機がタイミング 良く発見できなかったのである。 これは、市場や製品に特化した場合のリスクの典型とも言える。 ・地方公共団体、一般企業:コスト合わず そもそも分母が大きいので、全てを置き換えるのではなくセキュリティレベルの高い 場所や人を対象に考えていたが、性能を最優先で製品化したためにそのコストに対する 前述のような具体的な性能と必要性を説得することは困難であった。 4-4 思わぬ市場からの要望 このような状況の中、新たな市場とそこからの反応を発見することが出来た。このト リガは製品の試験を行うために EMC サイト(電波暗室)で測定していた時の、オペレ ーターの感想である。 放射ノイズを測定していた際に「これだけノイズが少ない PC があれば、普段の測定 も楽になる」という言葉から EMC サイトにおけるノイズ測定時の補助機材としての用 途が発生した。 従来は、PC などで使用する周辺機器を製造する場合、VCCI 等の EMI 測定を行い、 基準を満たす必要があり、 「通常使用状態(動作状態) 」での測定が原則であった。つま り、測定対象ではないにもかかわらず PC も接続して電波暗室で測定しなければならな かったのである。 しかし、PC 自体からの放射ノイズが大きい場合、正確な測定ができないばかりか、 基準を満たすことも難しくなる。このため、製品の測定の前に「素性の良い」PC を選 別する測定に多大な時間がかかり、コスト増になっていた。 -51- これに対して、通常の EMI 測定用計測器ではノイズフロア10以下となって測定できな いほどの性能は、上記の可能性を大幅に減らし、正確な測定と作業の効率化に繋がると いうのである。これを受けて、EMC 計測市場のために LEP-770E というモデル名での 販売企画と改良を始めることとなった。 電磁波セキュリティでは効率の良い対策を目指し、そのノイズに情報が含まれないこ とを確認してあった電源部分も含めた性能向上を行い、LEP-770T の発売から半年後の 2005/04 に発売となった。 発売までにもベースの LEP-770T がこの用途に適当であると見出したユーザーへの納 入とそこからのフィードバックがあり、電磁波セキュリティ分野に投入した時のシーズ 主導とは異なる動きを見せた。 これは、開発段階では予想していなかった事であり、電磁波セキュリティ市場ではノ イズレベルのグラフを示しても理解と納得が得られなかったユーザーとは明らかに異 質の対象である。 この例は、電磁波セキュリティ対策として技術を蓄積し、性能を高めた結果セレンデ ィピティが発生し、発見された新たなマーケットをユーザーが自ら発見・拡大して行く 事となり、今までの無消費に対しての需要を創造する「破壊的イノベーション」を起こ したと言える。 また、結果として EMC 技術を元に電磁波セキュリティという新市場に向けて開発し ていた製品が、EMC 計測市場という原点へ回帰していくという図 16 のようなフィー ドバックを形成している。 4-4-1 新たな製品のポジショニング、ポテンシャルエリア この製品の特徴は放射雑音が通常の設備では測定不能なぐらい高性能な事である。 電磁波セキュリティという市場創造に利用し製品開発を行うために、コトヴェール社 では通常の測定限界を超える測定技術と設備を導入したが、この技術によって通常の測 定機器では測定不可能な EMI 性能の PC を開発、実証することができた。 製品のポジションは、今まで「チャンピオンマシン」 「Golden PC」と称してそれぞれ のメーカーや EMC 測定サイトが手作りや改造で調達していた PC に対して、製品とし て購入でき、安定した性能を発揮できると言う意味で唯一の製品である。 また、コスト面からも今までの電磁波セキュリティ市場のように一般の PC とまで比 10受信機自体の熱雑音・セットノイズや電波暗室の暗雑音などによる受信感度の限界 -52- 較されてしまう市場ではなく、計測器や補助機材が数百万円~千万単位の価格帯である ことから、これだけ目的とメリットが明確な場合に理解を得ることは比較的容易である。 特に、直接的な出費は少ないがエンジニアが何日も掛けて試行錯誤を繰り返して Golden PC を製作すると言うことは、 エンジニアのコストから見ても有益とは言えず、 2週間も掛けるようであれば製品として購入した方が後の対応やメンテナンスも含め てのメリットが大きい。 また、厳密な意味での測定の場合、測定に用いた補助機材としての PC も製品でなけ ればならないといった規則を持つ会社などもあり、それ以外の場合は PC 自体の測定な ど必要以上の手間を要していた。これに対して製品であることは大きなメリットとなる。 ノイズ測定時の補助機器として…見える性能 電磁波セキュリティでは、理解しやすい形での性能の証明は難しいと述べたが、この 用途の場合、基準に基づいた EMI 測定データを示すことで性能は簡単に理解される。 図 22 の右側のグラフでは、測定限界である青/紫のラインから飛び出した部分が全 くなく、計測不能であることを示している。この状態では電波暗室内に動作状態で設置 してあっても測定結果に全く影響を与えないと言うことになる。 図 22 LEP-770E の性能比較 これによって、今までは「高価だがセキュリティ(漏洩電磁波対策)性能が高い。し かし、日本ではそれ以外の用途が見つからず必要とされていなかった」製品に対して新 たな市場を創造することになった。 -53- 4-4-2 見込む将来性 今回発見した EMC 測定に関する市場の場合、2004 年度では日本国内だけで 4,000 ヶ 所もの EMC 測定サイトが VCCI11に登録されている。この登録サイトはそこで測定し た結果を持って申請が可能であるという意味であり、各企業が予備測定用や研究開発に おける EMC 測定に使用している未登録サイトも含めると、1.5 倍~2 倍の数と思われ る。 4500 4000 3500 3000 2500 サイト数 2000 1500 1000 500 0 2000 2001 2002 2003 年度 登録済み サイト数 2000年度 2263 2001年度 2619 2002年度 3107 2003年度 3568 2004年度 4012 2004 年度 図 23 VCCI登録サイト数(VCCIアニュアルレポート2004年版http://www.vcci.or.jp/member/kats udo/publish/2005annualj.pdf より数値抜粋) 利用方法から考えれば、最低限サイトに1台あれば良い上に他の測定装置、電波暗室 自体の設備コストからすると本体販売価格約 150 万円は決して高価ではない。 つまり、150 万円×4,000 ヶ所=60 億円以上の可能性を持つことになる。 導入する側の目的は大きく二つに分けることができ、そのメリットは電磁波セキュリ ティの「脅威への対策」という抽象的な尺度ではなく、コストとしての表現が可能であ ることも特徴である。 一つは4-4-1で述べた、製品の開発に伴って発生する自社所有設備での EMC 測 定の効率化や高精度化である。この場合の費用対効果は電波暗室占有時間(=測定時間) の短縮や、測定環境構築、PC 選別に要するエンジニアのコストとなる。 もう一つは、電波暗室などを測定サービスとして提供する側の企業の場合、通常は日 毎あるいは時間貸しでの提供を行って対価を得ているが、この際に EMC サイトがオプ 11VCCI:情報処理装置等電波障害自主規制協議会 http://www.vcci.or.jp/ -54- ションとしてこの PC をレンタルすることで、エンドユーザーは費やす時間とサイトレ ンタル費用を削減することが可能になる。 短期的にはこのようなサービスを行わずに長時間使わせた方が収入となるが、長期的 には、それがあるサイトでは測定が効率よくできると言うことで安定した顧客を獲得す ることが可能になると考えられる。 コストとしても、サイトレンタル料金は20万円~50万円/日であり、数万円での レンタルならばユーザーにも購入するほどの負担ではないこと、測定時間短縮によるコ スト削減効果が十分に大きいことからメリットとなるし、サイト側も数十件のレンタル で費用が回収できる。 現在では PC 周辺機器市場は急速に拡大し、製品は次々と世に送り出されている。こ のための EMC 測定も同様に件数が増加しており、ほぼ予約が埋まっているサイトも多 く見られる。 更にキャッシュフローを増やして収益を増大するのであれば、基本料金ほど高く取る ことの出来ない延長料金でスケジュールを埋めてしまうよりも、ある程度ユーザーの効 率化もサポートすることで別の顧客が利用できる状況を作り、回転率を上げるという手 段が効率的である。 つまり、既存の EMC サイトレンタル設備での「富の創出能力の増大」である。 ここで登場するコトヴェール社、EMC レンタルサイト、ユーザー共にメリットの生 じる方法であり、イノベーションがもたらす「Win-Win-Win」のビジネスモデルと言 える。 それぞれのメリットを整理すると、ユーザーは余計な時間を掛けずに測定できる直接 的なコストメリット、サービスを提供するサイトは、 「あそこならすぐに測定が終わる」 という間接的な顧客増と、回転率向上による収益向上、そしてコトヴェール社は販売に よる利益を得ることができる。 企業内の試験サイトでも利用効率の向上と、ユーザーとして利用する開発部門の立場 での時間短縮というメリットは同様である。 しかし、普及するに伴ってサービスを提供する EMC サイトは差別化が難しくなる。 市場飽和間近の場合、「これを入れないと他にユーザーが流れてしまう」と言う危機感 からの導入が進む可能性も考えられ、この場合の Early Majority / Late Majority を掴 むトリガはデファクトスタンダードと言える。 -55- 第5章 応用製品の展開と波及効果 5-1 ブランド、シリーズ商品展開戦略 前章では、電磁波セキュリティ対策として開発、製品化した PC の EMC 測定補助機 材としての応用を取り上げたが、それによって目に見えない脅威とそれに対する性能だ けではなく、目に見える性能が評価される機会を得た。 この事実を有効に活用して進める方向は以下の2点である。 1. 近接市場への水平展開 2. 本来の電磁波セキュリティ市場に対する技術的裏付けとして利用し、当初目的の 市場への拡販 当初の製品である LEP-770T から見て、 今回取ったシリーズ展開は以下のようになる。 1. LEP-770T から LEP-770E(ノイズ測定用補助機材)へ応用。 2. LEP-770U10:米国向けとして、上記製品の開発販売で構築した新たな流通経路 と、元々のユーザー層である政府関連への米国 TRW 社(現 Northrop Grumman 社)のルートを活用し、コスト面からも競争力を高めた。 3. LEP-770NT:見えない性能に対する裏付けとして、本格的に TEMPEST 試験を 受け、NATO 市場へ投入を検討。 セレンディピティとして発生した 1.を除くと、2.と 3.は LEP-770T の本来の目的から 見た近接市場である。何れにおいても電磁波セキュリティ対策という分野の製品群をユ ーザーへアピールするとともに、性能の証明と実績構築によって Early Majority に訴 えかける材料となる。 5-2 アプローチ LEP-770E(ノイズ測定用補助機材)の、今後の拡大に向けてのアプローチとして考 えられる手法は下記のように分類できる。 1. デファクトスタンダード(短期間:安価:任意) 2. 標準化(コスト高:長期間:信頼性・強制力有り) しかし、現段階で標準化に掛かる時間やコストに対する市場のパイと、他が参入して いない状況を考えれば、各メーカーへのプロモーション、比較的狭い業界での効率の良 -56- い代理店施策、口コミの仕掛けなどを活用してのデファクトスタンダード化が優位と言 える。 しかし、ニッチな市場の中で Late Majority までも確実に掴みポジションを維持する 為にはグローバルスタンダードへの挑戦は有効な方法となる。 EMC 業界でも新たな対象物や方式が発生した場合にはその手法を確立し、測定方法 や対策方法を実用化したメーカーが寡占になる例が多い。これは、ある基準を満たすか どうかを確実に測定・判定し、対策することが業務である EMC という特性を考えれば、 Early Adopters およびそれ以前の層がほとんど存在し得ないことから感覚的にも理解 できるだろう。 EMC における標準化の手順はいくつか考えられるが、日本も含めて概ね世界各国の 基準は CISPR の標準を基に作られており、ここでの測定手順の標準化に持ち込むこと ができればマーケットとしては米国や欧州だけでなくそれらに製品を供給している台 湾や中国、東南アジア各国の EMC 測定サイトとなり、それぞれ日本と同数かそれ以上 の市場が範疇となる。 次に、元々のターゲットである電磁波セキュリティ用途として考えた場合、欧州での TMEPEST 規格12クリアと販売実績は、Early Adopters とも言える防衛関連のユーザ ーのみならず、Early Majority の可能性を持つその他の政府機関へのアピールには効果 的と考えられる。 欧州でのユーザーも軍関連が多いと見られるが、コストダウンに向けた数量の増加を 図る目的からも、相応のコストでの導入を可能とする Early Adopters のパイを国外に も広げる意味がある。 このように、それぞれニッチだが独立事象のマーケットを確保し、図 16 の A)と B) の市場の間で技術と裏付けのフィードバックを形成することで、それぞれ段階の違う層 からのメリットを享受し、事業の安全と経済的効果の両面を目的とすることが可能とな る。 12Cryptome 2005/11/13 確認 http://cryptome.org/nsa-tempest.htm -57- 第6章 企業としての波及効果 EMC 分野における新市場開拓というミッションは、電磁波セキュリティというキー ワードとともに進み、企業の方向性をセキュリティという言葉を軸に形作った。 6-1 技術の方向性 EMC 対策技術でライセンスを受けた米国 TRW 社 (現 Northrop Grumman 社)とは、 この実績をベースに指紋認証技術の移転を受けての商品化、さらには国内での統合警備 システムの販売窓口となり、指紋認証システムとの統合を共同で開発するなど、より密 接な関係を構築するに至った。 高性能測定装置で協業を行っているメーカーとは、電波に関する測定技術とセキュリ ティというキーワードが一致し、高セキュリティを維持する必要のあるエリア内での不 審電波発射を検知するシステムを商品として得ることができた。 また、これらの一見個別の特性、マーケットと思われる製品は、マルチレイヤセキュ リティという概念で束ねることができ、営業サイドでのワンストップサービスという動 きにも繋げることができる。 性能 潜在的、内部 コスト 意図しない電波による情報漏洩 (電磁波セキュリティ/TEMPEST) LEP-770他 対策製品群 意図的な電波を用いた 情報漏洩 不審電波 監視システム 指紋 /入退室管理 システム 建物、部屋レベルの 物理的セキュリティ 最外周の物理的警備 統合警備システム 明示的、外部 図 24 マルチレイヤセキュリティの概念と製品、マーケットのイメージ それぞれの商品のポジショニングは下図のように比較的ニッチで、コストよりもその -58- 性能や技術事態が特徴的であり、テクノロジーライフサイクルから見ると何れも Early Majority 以前の段階であるが、独立したレイヤとしての市場に対して立体的な論理構 築をすることで、最初に構築した電磁波セキュリティという市場から裾野を無理なく拡 大する戦略を採ることができる。 これは製品の技術的、論理的整合性だけではなく、Early Majority の求める将来への 連続的なサービス提供、確かなバックグラウンドの提示や Late Majority が必要とする 一貫したソリューションパッケージとしての提供の基礎ともなる考え方であり、当初の ミッションで構築した顧客との関係を維持拡大する話題と製品の供給という役割を果 たす。 6-2 副次的な効果(イメージ戦略) 電磁波セキュリティという市場創造が立ち上がり、それに伴う製品の充実によって単 純な「不安ビジネス」というモデルを画策する名もない EMC 対策製品メーカーから、 EMC とセキュリティ技術をコアコンピタンスとして誇れる会社への脱皮を可能にし、 偶然発生したニーズに対応することで元々のコアコンピタンスである EMC 業界内での 位置付けを確立した。 当初の技術分野マップは下図のうち EMC かつエンドユーザー側に寄った(左上方向) が主であったが、フラッグシップとしての超邸放射雑音 PC を中心に置くと、周辺には それぞれ相関する技術が取り囲み、会社としての方向性を明確に表している。 エンドユーザー EMC メーカー/法人/特殊用途 Micro DISC 他コトヴェール社 オリジナル製品 その他EMC対策 製品 PC用 Micro DISC EMC測定システム/機器 LEP-770 アンテナ特性 測定システム ワイヤレス ・測定 TEMPEST測定システム 不審電波監視システム 指紋照合装置 入退室管理システム 統合警備システム セキュリティ 図 25 自社製品の技術分野・ターゲットによる位置付け -59- このような方向性を明確にすることで、電磁波セキュリティ市場で得た顧客にも高度 なセキュリティ、新しい概念を提供する会社としてのイメージを持たせることが可能と なり、技術から製品になるまでの熱心なファンとなる Innovators と、製品から商品へ のステップアップに必要な需要と資金を提供する Early Adopters の確保が可能となっ た。 実際には、技術分野が大幅に違う製品の統合であり、老舗として単一技術分野での展 開を行っていた企業ではそれぞれを等価の位置付けで技術マップを構築することは困 難であるが、コトヴェール社では起業から間もなかったこと、経営者は技術者ではなく ビジネスフォーメーションと人脈の構築に注力できた事などが要因として挙げられる。 また、技術を引き出したり発掘したりするだけでなく、必要となる受け入れ側の技術 者や企業間のアライアンスを人脈ベースでプロジェクト毎に Attach/Detach 可能なモ ジュールのように構成できている点でも身軽な動きを可能にしている。 特に人脈による信頼と目利きから構築されている関係の為、設計や製造を外部委託と してスキームを構築する際にも必要以上の知的財産・ノウハウ流出というリスクが軽減 できる点は、ビジネスに与えるインパクトと管理の煩雑さを考えれば少人数のベンチャ ー企業にとって非常にメリットがある。 この構造は企業経営から見ればオーバーヘッド部門と事業会社のような関係となり、 後の展開を考える上でも事業やマーケット単位でグループ企業としての分離、拡大とい う選択肢をもたらす。 6-3 製品開発の方向とマーケット戦略 今後の製品開発の方向とマーケット戦略として、図 25 の右側に位置する高度な EMC や電波測定技術を中心とする技術的な高付加価値製品の拡販、コンサルティングや受託 業務などを通じたビジネス構築のために、今までに構築した各官公庁との関係の維持拡 大、先端の測定技術とシステムとしての製品開発および維持という技術面から見た専門 化がある。 もう一方では6-1で述べたセキュリティという分野での事業領域の拡大が挙げられ る。実行するに当たっての人的資産として、エンジニアがそれぞれのジャンル毎に必要 であるという致命的な要素は現在見つかっていない。そもそも基礎的な技術を他所から 発掘し、製品化して市場に提供、あるいは市場を構築するという業態であり、個々につ いて狭く深いエンジニアよりもインテグレーションまで見渡すことのできるゼネラリ ストに近い特性を重視して人材を確保している為である。 -60- 経営者の方針としても「一人2役は当然、一人3役」である。それぞれニッチにター ゲットを絞って一つの分野では必要以上に手を広げず、複数のレイヤを重ねるという手 法とマッチしている。 もちろん、個々人という観点ではそれぞれの専門分野を持っており、少人数故に相互 の補完を日常的に行うことができるというメリットもある。 -61- 第7章 モデルの提案 今回の事例では、電磁波セキュリティという新規市場創造と、そのための PC から派 生した EMC 計測市場の2点を取り上げたが、 それぞれに当てはまるモデルを検討した。 一つは新市場開拓の際に行ったメガマーケティングに対してどのような具体的手法が あり、それぞれの相関関係がどのような位置にあるかを示すものである。 二つ目は消費側にとって意識がなかった市場構築であるために、キャズムの存在と対 処についても検討する必要があり、これとマーケティング手法との相関である。 三つ目は、今回売り手側の予想しなかった市場の発見というセレンディピティを経験 したが、これを積極的に発見する方法のイメージである。 7-1 新市場開拓のためのモデル 今回、技術に対して新たな目的を与え、市場構築を行う際にメガマーケティングを行 ったが、それぞれの要素はすべてが同時に同じ目的で必要とされる訳ではなく、効果的 な使用順序、位置関係、それぞれの間の遷移に必要な行動があると考えた。 時代・話題・制度の変化 より広範囲から富 製品・技術 無消費への 破壊的 イノベーション 政治的スキル 今回の 目標 暗黙的、潜在的 欲求(不安) マーケット 心理的スキル どちらがどの手法に 「比較的」向いて いるかと言えば 制度化・ NPO/社会貢献活動 事例・脅威の 具体化 抽象的、 非現実的、 都市伝説 顕在的、明示的 理性・同意 パブリックリレー ションズスキル 総論先行 宣伝広告 業界団体・標準化 啓発・広告活動 保険的ビジネス 経済的スキル ローエンド型 破壊 より大きな富 競合の脅威 図 26 メガマーケティングの要素から見た手法の相関 -62- これらの要素である心理的/政治的/経済的/パブリックリレーションの4つのスキ ルは図 26 のような相関関係にあると考えられる。 · 心理的スキル 暗黙/潜在的な心理への訴求。広範囲に影響を与えるが市場の構築には隔た りがある。Innovators / Technology Mania のような敏感な層が反応。抽象 的であり、非現実的という拒否反応に晒される可能性がある。 実際には不安だけでなく、新技術が持つ将来性を感じさせるインパクトや所 有欲と言った部分も含まれる。 · 政治的スキル 規則、強制力を持つほか、根拠や背景としての力を持つ。より広範囲からの 富を集める可能性を持つが、情勢や制度の変化によって市場が縮小、収束す る可能性を持つ。 · 経済的スキル より大きな市場や富を生み出す可能性を持つが、競合の登場、競争の激化に よる市場の成熟を招く可能性も持つ。 · パブリックリレーションズスキル 他のスキルに比べて、明示的な意義を持ち、同意のもとに市場を拡大する可 能性を持つが、初期は総論先行となり効果が得られない可能性もある。 これらの要素を図式化すると、それぞれ対極に配置されるスキルは、直接次の手段と して移行する可能性が少ないことが判る。 心理的スキルによるプレッシャーだけで突然明示的な同意とともにパブリックリレー ションが発生することは希有であるし、実効性は弱い。また、政治的スキルから発生す る制度や強制力から経済的スキルによる市場の変化が起きることも新技術や新市場と いう要素から自然な遷移とは言い難い。 このため、多くの場合は図 26 の矢印のように隣り合う要素を結合する手法を用いて 回り道をすることが自然と考えられる。 新市場創造の場合、多くは無消費に対するイノベーションであり、既存の市場に代替 として直接挑むローエンド型破壊とは入り口が異なる。 最終的な目標として、第一象限か第四象限に持ち込むことで最低限キャズムを越えて Late Majority までのカバーを可能とするが、多くの場合は図 26 の政治的スキルやパ ブリックリレーションズスキルを含めたエリアの要素を考慮する必要があるだろう。 -63- 今回の市場創造を当てはめると、入り口として用いたのは心理的スキルであり、 Innovators への先端技術の裏返しとも言える脅威についての提示を先行した。 ここから政治的スキルを活用するために脅威の具体化、可視化を行うと同時に NPO ではないが各省庁の後援を得た民間研究会の設立を行うことで、新規市場の拡大と定着 を図った。 現在は Early Majority の拡大のために、政治的スキルからの政府でのガイドライン化、 仕様化を経てパブリックリレーションである研究会の活動を経由した民間へのガイド ライン提示と、啓発活動による両面からビジネス展開を図っている。 標準化という手法は、キャズムを越えて Early Majority に受け入れられるための手段 の一つでもあり[36]、信頼性と将来性への一定の判断基準になる。 この事から、新市場創造の場合の心理的スキルと経済的スキルの間にある手法は、テ クノロジーライフサイクルを進めてゆくための側面的サポートにはなるものの、それだ けで Late Majority までスムーズに推し進める中心とはなりにくいとも考えられる。 また、キャズムと前述の手法を考慮した場合、どの段階でどのスキルをどのような力 点で使用するべきか、そこに必要なイノベーションはどのようなタイプかを纏めたもの が図 27 となる。 Early Adopters (ビジョナリー :先駆者) テクノロジー ライフ サイクル Innovators (ハイテクオタク :革新者:マニア) Early Majority Late Majority (実利主義者) (保守派) Laggards 経済的スキル マーケ ティング 手法 イノベーション (技術または マーケティング 手法) 政治的スキル 心理的スキル パブリックリレー ションズスキル 先端・初期 テクニカル 破壊的 ラディカル 連続的 アプリケーション 図 27 テクノロジーライフサイクルとマーケティング手法 -64- インクリメンタル ここで着目する点は、キャズムの前後からはシーケンシャルではなく同時に複数の要素 が必要となることである。 キャズム以前は主に心理的スキルだけでも注目を集め、製品の質を高めることができ るが、キャズムを越えるためには信頼、前例の構築、適正なコストの提示、標準化など を平行して行う必要がある。 経済的スキルによるコスト低下や拡販のための施策、技術の安定化はキャズムを越え るために早い段階で注力するべきであり、以後は普及に伴って自動的に加速するため、 後半では大きな比重を占める必要が薄れる。 逆に、政治的スキルは慎重である Late Majority に対して新技術や製品を利用するた めの理由として後半での比重が高まる。 パブリックリレーションズスキルはもっとも広範囲に必要と言える。キャズムを越え る以前から多数派を形成するために必要となり、後半では政治的スキルとともに市場全 体へ普及した技術として消費者に捉えてもらうための要素にもなる。 しかし、それぞれの配分は事情によって若干異なる。図 27 に示したモデルは、比較 的政治的な参入障壁が低く、市場の特性も隣接した市場から消費者、企業ともに理解が 比較的容易な場合である。今回の事例では、現象そのものが理解し難かった事、主なユ ーザーは政府機関や地方自治体などを当初から見込んでいたため、制度化、仕様化とい った政治的スキルの比重はキャズムを超える前から高かった。この他、政治情勢や国民 の感情などから参入が難しい場合[37]も同様の蛍光になると考えられる。 また、それぞれの段階で効果的なイノベーションも変化してゆく。 当初はテクニカルイノベーションだけでも受け入れられるが、キャズムを越えるため には、技術あるいはマーケティング手法やターゲットの選定にラディカルなイノベーシ ョンが有効である。以後は、ローエンド型破壊で別の段階のサイクルに遷移しない限り は連続的なイノベーションである事が、Early / Late 両方の Majority に対して重要と なる。この段階でラディカルなイノベーションが起きた場合、別のテクノロジーライフ サイクルとして捉えターゲットの段階を見直し、図 27 のサイクルをやり直す事を考え るべきだろう。 これは、イノベーションの落とし穴である成功の拒否ではなく、客観的にそのイノベ ーションの質と段階を再評価するべきだという意味である。 今回の事例でも、セレンディピティによって発見された市場は本来の市場と隣接して いるが、その市場での段階も電磁波セキュリティと同じようにキャズムを越えていると いう判断をしていたら、製品の改良や市場への取り組みの再検討がなされず、新市場と -65- しての受け入れは困難だったといえる。 また、Geoffrey A. Moore の著書「キャズム」[38]では、図 28 のように各段階での主 なターゲットの種類・特性と、それぞれが価値として重視する項目を分類したチャート が示されている。 支持派 企業 製品 ビジョナリー ャズ ム を 越 え る テクノロジーマニア テクノロジー メインストリーム市場の成長 初期市場の成長 スペシャリスト キ 保守派 ジェネラリスト 実利主義者 市場 慎重派 図 28 競争力を高めるポジショニング[39] ここでは、視点が違うが各遷移段階での顧客の特性と要求の変化を知ることができる。 これに対して図 26/図 27 のモデルから必要なスキルと手法の連続性や相関を考慮す る事で、キャズムを越えテクノロジーライフサイクルを全うするための指針が導き出さ れる。 7-2 破壊的イノベーションのためのセレンディピティ発見モデル 4章で述べたように情報セキュリティという目的で性能を高めた PC が EMC 業界と いう自らの足下に破壊的イノベーションを発生させた。これは、開発している当事者よ りもそれを見た周囲が思いついたことであるが、ある製品の新たな用途という意味では セレンディピティといえる。 セレンディピティは2章でも述べたように意識して発生させることができない故にセ レンディピティと呼ばれる。このために発生を高める手法は提示されているが、漏らさ -66- ず積極的に発見する考え方が必要である。 発見する事が適えば、破壊的イノベーションへ結びつける事が可能となる。 新市場 ①レーダー型サーチ ②渦巻き型 (塗りつぶし型) サーチ 既存技術 獲得した 技術・製品 用途/意義 発見するべき 適用エリアの例 技術-想定できる市場の2次元だけでなく、 別のテクノロジーサイクルや今回の事例の ように全く関連しない別分野というもう1軸 あると3次元スキャン。 より効率の良い方法が必要。 既存市場 新技術 ある技術や製品を中心軸に、 セレンディピティに当たるまでは どちらが早いのか? それぞれの長所/短所、 向き/不向きがあるのでは? 図 29 セレンディピティを発見するための視点 図 28 では、①のレーダー型サーチと②の渦巻き型(塗りつぶし型)サーチを提示し ている。このモデルでは、本来目的の市場と同じ尺度の市場や技術という2次元平面で 表現しているが、実際には地域やユーザー層、目的と言った要素によって複数の平面が 構成され、立体的なサーチとなる可能性もある。 両者の速度、つまり要する時間と労力(=能力)は①の半径方向の直線速度と②の円 周方向の移動速度が等しいとすると、①は短時間でより遠くのインパクトが大きいセレ ンディピティを見つける可能性を持ち、②は少しずつ角度を変えるためにミクロなフィ ードバックと結果の予測が成立しやすいこと、始点近くでは短期間で何回も回るため、 前の周回時からのフィードバック効果が得られやすく、比較的近くでのセレンディピテ ィを効果的に発見できるが、等速度のため外周に行くほど遅くなると考えられる。 円をペン(ペンの移動速度は一定)で塗りつぶす行為を想像することで、上記は理解 しやすくなる。13 この手法の選択はベースとなる技術の特性と、それが存在する原点となる市場に依存 する。 実例として取り上げられやすい医薬品の例[40]では、効果の確認方法が確立されてい 13数学的には半径が同じで線幅が0ならば、すべてを塗りつぶす時間はどちらも積分すると等しくなるが、 ここでは主に目的の点に到達するまでの所要時間の違いとして例に挙げている。 -67- るために、図 28 の①のような方法でも半径方向の往復に要する時間と労力は短いと考 えられ、本来の目的から遠距離に順番に目を向ける事で効率よく劇的な新用途の発見に つながる可能性を高める事ができるだろう。 これに対して、今回の応用市場発見では、技術や市場は表裏とも言えるほどの比較的 隣接した位置に存在した。 この場合、①の方法ではその方位に向くまでの労力と時間は1度ステップで慎重に行 えば最悪の場合 359 度回転するだけ必要となってしまう。より確実に自分の身の回り からセレンディピティを発見する場合は、②のように自身の市場の近くから徐々に視点 を広げつつ回転させることで、周辺の様々な方位の特性を早期に習得する効果と、それ ぞれの市場からの反応をより具体的に受け止める事が可能となる。 -68- 第8章 結論 今回の事例では、起業するためにシーズ先行で「無」のマーケットに置くべき点を探 し出し、第一の市場創造によって太平洋に陸地を創るがごとく基盤を構築した。 3章で述べたとおり、技術やコストだけにとらわれずバランスを取ったメガマーケテ ィングを行い、ひたすら自己のマーケット範囲と利益を追求するだけではなく、企業が 存在するべき理念にも通じる社会への還元を行った結果、新規市場が立ち上がりベンチ ャー企業ながらも確実なポジションを得る事に成功した。 4章で投入された超低放射雑音 PC では、当初の市場が確実ながらも面積はニッチで あり定義しがたい点であったものに対し、セレンディピティによる違う象限での「点」 を定義することでこの会社が特徴として表現できる「長さ」という存在を持たせること が出来た。また、この事例では製品自体のノウハウをブラックボックス化するとともに、 開発と製品化に必要な測定技術をノウハウとして確保した。バリューチェーンから見た 場合、製造(改造)や検査にノウハウがあり、付加価値が低くても、外部に出す事がで きない事例であり、実際はフラクタルのように細分化すればその中にも価値が出てくる とも言える。 5章では、近接市場への水平展開と組み合わせる事で相互の信頼性を確保し、製品を 通じて企業としての位置付けをより確実にする戦略を企画した。 6章で述べたとおり、企業としては、更に「面」へと展開し、その絶対値を増加させ て行くと共に、市場や環境の変化に対応してその位置を動かす、あるいは移動してゆく ことが使命である。 然るに、今後この分野での発展を続けるための第3の点をどこに定義するかがベンチ ャー企業としての安定と、創造した市場全体の方向付けという両面からも重要になって くる。 一般に、安定している企業、あるいはセオリーであれば3点目は中間であったり、隣 接するカテゴリーであったりするが、今回の研究ではシーズ先行で市場をリードすると いう手法から、あたかもオセロのように挟み撃ちにする戦略が採られている。 本論文でテーマとした情報セキュリティ分野という大枠の中でも、中心であり皆がフ ォーカスしているネットワーク、暗号化と言ったセキュリティに対して、電磁波という 新たなレイヤからのセキュリティで基盤を築き、その構築に至るまでのアライアンス等 -69- の資産から産まれた指紋によるアクセスコントロールや物理的警備と言った別のレイ ヤとの両面からアプローチを行い、今日に至っている。無論、それぞれ相関性が弱まる ために技術の実用化、製品化には単純な応用や転用は効かず、相当の投資と努力を要す るが、事業ドメインの拡大と同業他社の参入から常にリードするためには有効な戦略と 言える。 一方で、4章で取り上げた応用前の分野への市場回帰も別の方向への展開能力が醸成 されていれば、辿ってきた技術のベクトルが同じなので、前述よりも短期的な展開や拡 大には有効な手段となるであろう。 いずれの方策を採るにせよ、3点目以降の点を打つ事は、技術的側面からの不可能と いう結論は少ない。その点によって拡大されるドメインをどのような形状にし、重複、 隣接して補強するべきエリアをどこに設定するかがまさに経営方針である。 企業としての拡大、第2創業による再生、発展的分裂など、総量ではなく、内包する エントロピーは人間が社会活動をする上で常に増加してゆく事を考えれば、一見埋め尽 くされてしまった事業領域でさえも3次元的に、あるいは組み合わせとして考え動機付 けをすることで常に新しい市場とそれに伴う事業は創造されるのである。 このためには、人的要因、企業間アライアンスの要素が大きな位置を占めると言える。 しかし、起業の初期段階では技術もマーケットも方向性が見えず、人材・人脈があっ ても効果的なアクションが難しい。これを乗り越えるためには将来を予測するだけでは なく、もっとも確実な「人的要因や企業の強みを生かして将来を創造する」意志と、自 社技術を愛する目から見てフラットな組織、ブレーンストーミングを通じて積極的に利 用するスタッフの確保、養成も重要ではないかと考える。 7章で提示した市場開拓のモデルは、テクノロジーライフサイクルから見たそれぞれ の段階での必要な戦略と要素を示しており、限られたリソースの中での配分を最適化す る事で、効率的な市場創造と拡大を可能にする。また、セレンディピティの発見モデル では、これもイノベーションの要素と考えれば、2-2で述べたように市場をよく観察 すると共に様々な意見や感想を求める中に重要なヒントが含まれていると考えられる。 企画・開発する段階では、まず「それはあったら自分も欲しいと思う製品か?」とい う自問自答があり、通常であれば自分ですら欲しくない製品を開発することは抵抗を感 じるが、より広く意見を聞くことで違う用途や市場でのニーズがあることに気付かされ るだろう。これは、市場や技術のマップがほとんど埋め尽くされている現代においてイ ノベーションとするためには必要な条件とも考えられる。 今回のセレンディピティの要因としてはローエンド型破壊的イノベーションの基とな -70- る可能性があるほどの先端技術と性能を追い求めた結果であり、タイプとしてはオリジ ン追求型である。 つまり、市場創造や新規技術の適用の場合、必ずしもローエンド破壊のような要素を恐 れる必要はないと考えられる。 -71- 謝辞 本研究の機会を与え、ご指導・サポートして下さった方々に心から感謝の意を表します。 本論文執筆にあたり、主担当教官である高知工科大学大学院起業家コースの冨澤 治教 授、阿部教授には基礎から逐一ご指導頂き、方向性を明快にして頂きました。 本論文のテーマとなった事業を立ち上げた株式会社コトヴェールの岡野 義昭社長、 様々な経験と機会を与えて頂き、多数の貴重な資料と情報をご提供頂いた株主の皆様、 社員の皆様に深く感謝いたします。 また、起業工学という分野に自分を導き、このような論文を執筆するきっかけを頂いた 高知工科大学起業家コースの加納剛太教授をはじめ、講師、教授陣の皆様、適切なアド バイス、情報交換をして下さった先輩、高知、大阪、東京教室の同期生、様々な手続き やスケジューリングをして下さった秘書室の皆様に心から感謝の意を表します。 最後に、本論文のテーマとなった仕事に没頭している自分を長期に渡って支え、更に起 業工学を学ぶ意志を陰から支えてくれた妻の真砂子、週末の朝に毎回授業へ気持ちよく 送り出してくれた息子の祐紀、樹生に深く感謝します。 -72- 参考文献 (書籍) 1. フィリップ・コトラー (著)、恩藏 直人、月谷 真紀 (翻訳) コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編 出版社: ピアソン・エデュケーション ; ISBN: 4894716585 ; 1 巻 (2002/10/05) 2. フィリップ・コトラー (著)、恩藏 直人、大川 修二 (翻訳) コトラーのマーケティング・コンセプト 出版社: 東洋経済新報社 ; ISBN: 4492554769 ; (2003/05/02) 3. 藤本 隆宏 能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか 中公新書 出版社: 中央公論新社 ; ISBN: 4121017005 ; (2003/06/24) 4. マイケル・E. ポーター 競争戦略論〈1〉 出版社: ダイヤモンド社 ; ISBN: 4478200505 ; 1 巻 (1999/06) 5. 野中 郁次郎 知識創造企業 出版社: 東洋経済新報社 ; ISBN: 4492520813 ; (1996/03) 6. 榊原 清則 経営学入門 上 日経文庫 853 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532108535 ; 上 巻 (2002/04) 7. 榊原 清則 経営学入門 下 日経文庫 854 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532108543 ; 下 巻 (2002/04) 8. 野中 郁次郎 企業進化論―情報創造のマネジメント 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532191114 ; (2002/02) 9. P・F・ドラッカー ネクストソサエティー 出版社:ダイヤモンド社 ;ISBN:4478190453;(2002/05) 10. 池島 政広 戦略と研究開発の統合メカニズム 出版社:白桃書房;ISBN:4561263055;(1999/02) -73- 11. P・F・ドラッカー(著) 、上田惇生 (翻訳) 新訳 イノベーションと起業家精神(上) 出版社:ダイヤモンド社;ISBN:4478320853;(1997/11) 12. P・F・ドラッカー(著) 、上田惇生 (翻訳) 新訳 イノベーションと起業家精神(下) 出版社:ダイヤモンド社;ISBN:4478320861;(1997/11) 13. 山之内 昭夫 新・技術経営論 出版社:日本経済新聞社;ISBN: 4532130158 ; (1992/03) 14. Geoffrey A. Moore(著)、川又政治(翻訳) キャズム 出版社:翔泳社;ISBN: 4798101524 ; (2002/01) 15. クレイトン・クリステンセン (著)、玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 翔泳社 ; ISBN: 4798100234 ; 増補改訂版 版 (2001/07) (新聞、報道、雑誌、学会誌等) 16. 日本経済新聞:1994/10/24 パソコンの情報「電波放射」で漏れ 17. NHK:2000/12/25 「電磁波盗聴」を防げ ニュース 10 18. 朝日新聞:2001/02/18 パソコン「漏れ」注意 朝刊 19. 日本経済新聞:2001/03/18 IT 時代の見えない脅威「電磁波から情報が漏れる」 20. 日本サイバーセキュリティ研究所 Cyber Security Management 2001/08 P7-11 「情報を盗み見るテンペスト(前編) 」 21. 日 本 サ イ バ ー セ キ ュ リ テ ィ 研 究 所 P14-18 「情報を盗み見るテンペスト(後編) 」 Cyber Security Management 2001/09 22. 植草祐則 月刊 EMC 2004/07 株式会社ミマツ 「電磁波セキュリティの現状とその対策、応用例」 23. 新情報セキュリティ技術研究会 2004/10/08 「電磁波セキュリティガイドライン 」 24. 瀬戸信二 月刊 EMC 2004/11 株式会社ミマツ 「電磁波に関する情報セキュリティ問題の概説」 -74- 25. 内山一雄 防衛技術ジャーナル 2005/02,2005/03 「漏洩電磁波による情報漏洩とその評価について」 (前・後編) 26. 野村総研 IT 市場ナビゲーター2005 年版 東洋経済新報社 P284-285 「電磁波問題対策市場」 27. 山中幸夫 大野浩之 服部光男 電子情報通信学会 2005/01/21 「情報通信装置から発生する電磁波による情報再現性について」 28. 宮坂肇 月刊 LASDEC 2005/05 「電磁波に対するセキュリティ対策」 (財)地方自治情報センター 29. 馬杉正夫 富永哲欣 ITU ジャーナル Vol35 No.8(2005.08) 「ITU-T SG5(EMC 技術)第2回全体会合報告」 30. 朝日新聞:2005/09/17 朝刊 「政府の多目的衛星マル秘の壁」 情報収集衛星の写真利用に関わるセキュリティ -75- (web ページ) 1. セキュリティアカデメイア 2005/11/13 確認 http://akademeia.info/ http://akademeia.info/main/lecture1/tokubetu_tempest.htm 2. オンライン・コンピューター用語辞書 2005/11/13 確認 http://www2.nsknet.or.jp/~azuma/menu.htm http://www2.nsknet.or.jp/~azuma/t/t0089.htm 3. 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NSA(米国国家安全保障局) 2005/11/13 確認 http://www.nsa.gov/ http://www.nsa.gov/ia/industry/tempest.cfm -76- 2005/11/13 確認 (表) 表 1 TEMPEST に関する日本国内での報道と対応(~2001 年)...................... 22 表 2 電磁波セキュリティに関しての記載が行われたガイドライン、仕様等(2001 年~) ............................................................................................................. 40 (図) 図 1 論文構成(フロー) .................................................................................... 6 図 2 テクノロジーライフサイクルとキャズムの位置........................................ 15 図 3 左:BCG 型ポートフォリオ 右:ビジネスポートフォリオマトリックスG E型............................................................................................................... 17 図 4 TEMPEST のターゲットと解析例............................................................ 19 図 5 コトヴェール社の EMC 対策フィルタ製品 (Micro Disc Flex Filter). 20 図 6 電磁波セキュリティの位置付け ................................................................ 21 図 7 高性能測定・解析装置 .............................................................................. 25 図 8 米国 TRW 社(現 Northrop Grumman 社)と NTT の技術を取り込んだ製品.. 27 図 9 電源用フィルタの例(左:従来製品 右:3極コンセント対応製品、大容量 化製品)........................................................................................................ 28 図 10 マズローの欲求階層 ................................................................................ 30 図 11 個人による安価な自作装置を用いた実験 ................................................ 32 図 12 当初の調査研究スキーム......................................................................... 34 図 13 SWOT マトリックス............................................................................... 35 -77- 図 14 市場開拓、製品開発の経緯 ..................................................................... 38 図 15 市場規模予測........................................................................................... 39 図 16 本章における技術/市場/商品の転用とフィードバック........................ 41 図 17 PC 周辺での対策..................................................................................... 42 図 18 ポジション比較 ....................................................................................... 43 図 19 性能、コストの比較 ................................................................................ 48 図 20 耐環境 PC としての比較 ......................................................................... 49 図 21 TEMPEST 対策性能の例と LEP-770T................................................... 50 図 22 LEP-770E の性能比較 ............................................................................ 53 図 23 VCCI 登録サイト数(VCCI アニュアルレポート 2004 年版 http://www.vcci.or.jp/member/katsudo/publish/2005annualj.pdf より数値抜粋) ...... 54 図 24 マルチレイヤセキュリティの概念と製品、マーケットのイメージ ........... 58 図 25 自社製品の技術分野・ターゲットによる位置付け .................................... 59 図 26 メガマーケティングの要素から見た手法の相関 ....................................... 62 図 27 テクノロジーライフサイクルとマーケティング手法 ................................ 64 図 28 競争力を高めるポジショニング ................................................................ 66 図 29 セレンディピティを発見するための視点 .................................................. 67 図 4,5,7,8,9,17,21,22 提供:株式会社コトヴェール -78- 本文中の引用文献 [1] フィリップ・コトラー (著)、恩藏 直人、大川 修二 (翻訳)「コトラーのマーケティ ング・コンセプト」 P44 [2] 前掲書 P48 [3] フィリップ・コトラー (著)、恩藏 直人、月谷 真紀 (翻訳)「コトラーのマーケティ ング・マネジメント 基本編」 P181 [4] 前掲書「コトラーのマーケティング・コンセプト」 P91 [5] 前掲書「コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編」 P172 [6] 前掲書 P194 [7] 前掲書「コトラーのマーケティング・コンセプト」 P96 [8] 馬場敬三「高知工科大学 平成 16 年度 企業論テキスト」 より [9] P・F・ドラッカー(著)「新訳 イノベーションと起業家精神(上) 」 P44 [10] 前掲書「高知工科大学 平成 16 年度 企業論テキスト」 より [11] P・F・ドラッカー(著)「ネクストソサエティー」 P154 [12] 山之内昭夫(著)「新・技術経営論」 日本経済新聞社 1992 [13] クレイトン・クリステンセン (著)「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大 企業を滅ぼすとき」翔泳社 より要約 [14] 池島政広(著)「戦略と研究開発の統合メカニズム」 白桃書房 P149-158 [15] Geoffrey A. Moore(著)、川又政治(翻訳) 「キャズム」翔泳社 [16] 前掲書「キャズム」P45 [17] 前掲書「キャズム」P51 [18] 前掲書「キャズム」P65 [19] 前掲書「キャズム」P72 [20] 前掲書「キャズム」P86 [21] 前掲書「キャズム」P25 [22] 野中 郁次郎(著)「企業進化論―情報創造のマネジメント」 日本経済新聞社 P70,P81 -79- [23] 植草祐則 月刊 EMC 2004/07 「電磁波セキュリティの現状とその対策、応用例」 [24] 瀬戸信二 月刊 EMC 2004/11 「電磁波に関する情報セキュリティ問題の概説」 [25] 前掲書 月刊 EMC 2004/07 「電磁波セキュリティの現状とその対策、応用例」 [26] 新情報セキュリティ技術研究会「電磁波セキュリティガイドライン」 2004/10/08 [27] 企業進化論―情報創造のマネジメント 野中 郁次郎 日本経済新聞社 P73 [28] 野村総研「IT 市場ナビゲーター2005 年版」東洋経済新報社 P288 電磁波問題 対策市場 [29] 前掲書「IT 市場ナビゲーター2005 年版」P284-285 電磁波問題対策市場 [30] 「情報通信ネットワーク安全・信頼性基準」 (郵政省告示第 73 号) 2000.12 郵政省 [31]「金融機関等におけるセキュリティポリシー策定のための手引」金融情報システム センター]1999.1 [32] 情報セキュリティ政策会議決定(案)2005.9.15 [33] 内山一雄「防衛技術ジャーナル」2005.02,2005.03 [34] 前掲書 対策市場」 IT 市場ナビゲーター2005 年版 東洋経済新報社 P288 [35] 前掲書「防衛技術ジャーナル」2005.02,2005.03 [36] 前掲書「キャズム」P67 [37] 前掲書「コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編」P194 [38] 前掲書「キャズム」P226 [39] 前掲書「キャズム」P226 [40] 前掲書「戦略と研究開発の統合メカニズム」 P149-158 -80- 「電磁波問題