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免疫染色の基礎的検討

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免疫染色の基礎的検討
免疫染色の基礎的検討
JA愛知豊田厚生病院
黒木 雅子
免疫染色の検出法の種類
● ABC法(avidin-biotinylated peroxidase complex)
一次抗体を反応した後にビオチン標識二次抗体を作用させ、引き続き標識酵素を反応さ
せる3ステップ法。
直接法に比べて感度が高いが、LSABやポリマー法には敵わない。
注意) 熱による抗原賦活化処理で内因性ビオチンの非特異的反応が起こる
●LSAB法(labeled streptavidin biotinyated antibody)
基本的にはABC法と同様であるが、ビオチンと酵素標識ストレプトアビジンの両者
はきわめて親和性が高く非可逆的な結合性を示し、更なる高感度が得られる。キッ
ト商品も多数市販されている。
注意) ABC法同様、熱による抗原賦活化処理で内因性ビオチンの非特異的反応
が起こる
● 高分子ポリマー法
従来の間接法と比較して著しく高感度で汎用性が高い。2ステップ法なので短時間に反応
が終了できる。アビジンビオチン反応とは無関係なので内因性ビオチンによる非特異的反
応がない。しかしポリマー試薬の分子量が大きいため、組織・細胞内への浸透性が悪く、
感度がむしろ低下する現象もみうけられる。
ポリマー法
LSAB 法
ABC法
固定について
生体から採取した細胞・組織を可能な限り本来の状態で維持
するための処理
一般的には8~48時間
過固定
・抗原決定基の立体構造が変化して抗原性が失われる
・ タンパク間に形成された架橋により抗原決定基がマスクさ
れる
固定不足
・組織および細胞が壊れて抗原が流出し染色性が低下
・固定不良による染色ムラを生じやすい
固定不足による染色結果への
影響 HER2
固定不足
良好な固定
●モノクローナル抗体
対象抗原の一つの抗原決定基に特異的に反応する1種類の抗体。抗体を産
生する1個の融合細胞を培養して増やす。品質が安定しており、ロット差がない。
非特異反応が少ない利点を有しているが、マウス血清に由来するその他の免
疫グロブリン成分が混在している。
●ポリクローナル抗体
抗原分子上に存在する多数の抗原決定基に対する抗体が混在しているととも
に、単一の抗原決定基に対しても親和性が異なる複数の抗体が認められる。
一つの分子上に他分子と構造が類似する抗原決定基も含まれる場合は、ポリ
クローナル抗体の特異性が問題となる。強い染色強度が得られるが、免疫動
物の状態や精製度によりロット間差が生じることがある。
モノクローナル抗体
由来
免疫されたマウス、ラット、ウサギ
ないしニワトリの正常抗体産生細
胞と骨髄腫細胞とのハイブリドーマ
クラス
サブクラス
均一
特異性
抗原分子上に存在する一つの
抗原決定基にのみ反応する
親和性
均一であるが、弱いものが少なくない
再現性
永久に同一の抗体が得られる
安定性
凍結融解操作や室温放置により、
失活しやすい。
ポリクローナル抗体
異種動物(ウサギ、ヤギ、ヒツジな
いしモルモット)に抗原を免疫して
得られた抗血清
異なる抗体が混在
抗原分子上に存在する複数の
抗原決定基に反応する
異なる抗体が混在
免疫動物ごとに多少の差(ロット差)
が生ずる
モノクロナールより安定してい
る
CD3モノクロナール・ポリクロナールの比較
モノクロナール×100
ポリクロナール×100
内因性ペルオキシダーゼのブロッキング法
ペルオキシダーゼは,過酸化水素を水素受容体として種々の酸化を触媒する酵素
H2O2+AH2→2H2O+A
*生物種や臓器によりAH2が異なり,性格も変わってくる.
ペルオキシダーゼ活性
ヘモグロビン(赤血球) ミオグロビン
チトクローム
●3%過酸化水素水
●0.3%過酸化水素加メタノール
●ブロッキング試薬
内因性ペルオキシダーゼ除去 3%過酸化水素 DAKO
CD3(リンパ節)
一次抗体後
一次抗体前
CD3ブロッキング試薬による比較
リンパ節
ブロッキングなし
3%過酸化水素水
0.3%過酸化水素
加メタノール
DAKOブロッキング
試薬
内因性ペルオキシダーゼ除去 3%過酸化水素 DAKO
CD3(マルク)
一次抗体後
一次抗体前
CD3内因性ペルオキシダーゼ除去 3%過酸化水素水
マルク
ブロッキングなし
一次抗体前
一次抗体後
内因性ペルオキシダーゼ除去
CD4(リンパ節)
ブロッキングなし
DAKO
3%過酸化水素
CD4ブロッキング試薬による比較 一次抗体前
皮膚 菌状息肉腫
ブロッキングなし
0.3%過酸化水
素加メタノール
3%過酸化水素水
DAKOブロッキング
試薬
CD4ブロッキング試薬による比較 一次抗体後
皮膚 菌状息肉腫
ブロッキングなし
0.3%過酸化水素加
メタノール
3%過酸化水素水
DAKOブロッキング
試薬
CD3ポリクロナール抗体希釈濃度の変化
DAKO
×400
×200
×100
×50
CD3モノクロナール抗体希釈濃度の変化
DAKO
×100
×200
×400
DAB発色時間の違い
発色時間3分
発色時間10分
CD4による使用期限の比較
期限切れ
期限内
2003.9
2010.6
自動免疫染色装置
染色原理
● 滴下式
抗体をプローブやチップに吸い上げ滴下。攪拌機能はないので染色ムラを
起こしやすい
●オイルカバースリップ方式
試薬を滴下後オイルを上乗せし風を送り、対流により攪拌させる
●毛細管現象方式
スライドガラスとカバータイルにわずかな隙間をつくり、そこに試薬を吸入させ
切片と反応させる
各機種の特徴
機種名
ベンチマークXT
Autostainer(Plus)
Bond Max
販売元
ベンタナ
DAKO
三菱化学メディエンス
染色原理
オイルカバースリップ
滴下式
毛細管現象方式
脱パラフィン
可能
不可
可能
抗原賦活
加熱処理○
酵素処理(加温)
加熱処理×
酵素処理(室温)
加熱処理○
酵素処理(加温)
最大染色枚数
30
48
30
バーコード
試薬○ スライド○
試薬× スライド○
試薬○ スライド○
一次抗体
専用試薬(汎用も可)
汎用試薬
汎用試薬
検出試薬
専用試薬
専用試薬
汎用試薬
CD3ポリクロナール抗体希釈濃度の変化
ベンタナ
×400
×200
×100
×50
CD3ポリクロナール抗体希釈濃度の変化
DAKO
×400
×200
×100
×50
内因性ペルオキシダーゼ除去 3%過酸化水素 ベンタナ
一次抗体後
一次抗体前
免疫染色手順
1.組織のホルマリン固定・パラフィン包埋
固定時間の違い
2.薄切
3.脱パラ・親水化
4.前処理 (抗原賦活処理)
薄切の厚さの違い
熱処理 酵素処理の温度・種類・時間の違い
5.内因性酵素ブロッキング
6.一次抗体反応
抗体の種類・温度・時間の違い
7.二次抗体反応
二次抗体の種類・温度・時間の違い
8.発色
発色試薬の種類・時間・温度の違い
9.後染色
10.脱水・透徹・封入
染色結果について
● 発色が弱い場合
抗体の希釈のしすぎ
抗体の失活
抗原の失活(過固定・固定不足)
切り置き切片による抗原性の減弱
アジ化ナトリウムがペルオキシダーゼを不活性化
など
● バックグラウンドが出る
抗体の濃度が高い
ブロッキング処理が不十分
抗体の洗浄が不十分
一次抗体以降の反応では切片を乾燥させない
など
まとめ
免疫染色での結果に影響を与える要因として、固定、薄切、試薬の種類(濃
度、反応時間など)、抗原賦活法の種類、二次抗体の種類、発色時の反応時
間などそれぞれの過程で数多くの項目があげられる。
適切な染色を行うには、抗体や試薬の特性、保存方法などをよく理解してお
くことが必要である。各施設、各抗体による最適な染色条件の検討を行う必
要がある。
免疫染色の機械化と普及が進み、用手法に比較して染色時間の無駄がなく、
効率よく一定条件下で免疫染色を行うことが可能になった。染色の自動化に
よって、染色感度、再現性、標準化につながる点があげられるが、各施設に
おいて染色原理の違い、抗体の違い、試薬の違いなどから全て標準化する
のは困難である。
しかし、各施設の染色結果のばらつきを少しでもなくすために、正確な温度、
時間、試薬、プロトコールの管理を行うなど日頃からの試薬管理、精度管理
が肝要である。
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