ワーグナー作曲《ピアノ独奏のためのポロネーズ ニ長調》WWV 23A の

ワーグナー作 曲 《ピアノ独 奏 のためのポロネーズ ニ長 調 》WWV 23A の自 筆 譜
——初 期 作 品 の自 筆 譜 研 究 ——
小林 幸子
こ の 論 文 は 、 ワ ー グ ナ ー が 10 代 で 作 曲 し た 《 ピ ア ノ 独 奏 の た め の ポ ロ ネ ー ズ ニ 長 調 》
WWV 23A の自 筆 譜 に関 する研 究 報 告 である。1970 年 頃 にこの自 筆 譜 がマンチェスター
で発 見 されたことに関 するファーネス／ウォーカーの報 告 (1973)によって、当 作 品 の存 在 が
初 め て 広 く 知 ら れ るこ とと な っ た。 ま た 、 初 期 作 品 に 関 す る先 行 研 究 は 、 現 在 の とこ ろ 極 め
て 限 ら れ て い る 。 以 上 の こ とか ら 、 同 時 代 （ 初 期 ） に 書 か れ た 自 筆 譜 群 の 体 裁 を 詳 細 に 検
証 し、体 系 化 した。その結 果 をふまえ、初 期 自 筆 譜 群 における当 該 資 料 の位 置 づけを行
った。結 果 は以 下 の通 りである。
ワ ー グ ナ ー の 初 期 作 品 の 自 筆 譜 は 、 (1) ス ケ ッ チ や 草 稿 と い っ た 下 書 き 的 な 要 素 を 持 っ
た も の 、 (2) 最 終 稿 とし て の 意 味 合 い を 持 っ たも の 、 (3) さ ら に は そ の 中 で も 特 に 出 版 ま で 考
え て 書 か れたも の と、 大 きく ３ 段 階 に分 け るこ とが で きる。 そ れ ぞれの 体 裁 は 明 確 に 異 な り 、
い くつ かの特 徴 を 伴 う 。そ れに 従 って 検 討 すると、 《ピアノ 独 奏 の ためのポ ロネ ーズ》の自 筆
譜 は、初 期 自 筆 譜 群 において次 のような位 置 づけが可 能 となる。この自 筆 譜 は、スケッチ
や草 稿 （いずれも現 存 せず）などの下 書 きの上 に成 り立 っている清 書 的 な意 味 合 いを持 つ
最 終 稿 ではあるが、他 の作 品 における出 版 を意 識 して書 かれた最 終 稿 とは、タイトルペー
ジの存 在 や、楽 譜 開 始 ページにおけるタイトルの記 入 の有 無 、五 線 の引 き方 などに明 らか
な相 違 が見 ら れる。さ らに、 当 時 、個 人 的 に作 曲 の 指 導 を受 けて い たクリ スティアン・テ オド
ール・ヴァインリヒ(1780-1842)によるとみられる書 き込 みがあること、そして姉 の 所 有 物 の 中
からこの楽 譜 が発 見 されたという事 実 も含 めて考 察 すると、出 版 までは意 識 せず、個 人 的
な目 的 で書 かれたものといえる。