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新興国における我が国企業の進出拠点の開発に関する

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新興国における我が国企業の進出拠点の開発に関する
平成25・02・13財通第6号
平成24年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる
国際経済調査事業
新興国における我が国企業の進出拠点の開発
に関する調査・分析
報 告 書
平成25年3月
経
済
産
業
省
委託先:新日本有限責任監査法人
i
平成24年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業
新興国における我が国企業の進出拠点の開発に関する調査・分析
報
告 書 目 次
はじめに ............................................................ 1
1 ASEAN における外国政府や国際機関等が実施している産業協力を含めた拠
点開発計画 .......................................................... 2
1.1
既往の外国政府及び国際機関等が実施した調査報告の整理 ....................... 2
1.1.1
世界貿易機関(WTO) ..................................................... 2
1.1.2
経済協力開発機構(OECD) ................................................ 6
1.1.3
東アジア・ASEAN 経済研究センター(ERIA) ................................ 14
1.1.4
アジア開発銀行(ADB) .................................................. 19
1.1.5
米国(米国国際貿易委員会) ............................................. 25
1.2
ASEAN における産業政策について ............................................ 27
1.2.1
あるべき産業政策と実態 ................................................. 27
1.2.2
産業集積支援とインフラ整備 ............................................. 31
1.2.3
日韓の取り組み ......................................................... 31
1.2.4
アジア域内経済統合の影響 ............................................... 36
2 インドにおける外国政府や国際機関等が実施している産業協力を含めた拠
点開発計画 ......................................................... 38
2.1
投資環境概観:カルナタカ州、グジャラート州、マハラシュトラ州............... 38
2.1.1
カルナタカ州 ........................................................... 38
2.1.2
グジャラート州 ......................................................... 41
2.1.3
マハラシュトラ州 ....................................................... 44
2.2
カルナタカ州の諸外国政府機関との関係及びケーススタディ .................... 48
2.2.1
カルナタカ州の概要 ..................................................... 48
2.2.2
カルナタカ州政府の投資促進に向けた取組の概観............................ 53
2.2.3
カルナタカ州と外国政府機関との関係の概観................................ 67
i
2.3
グジャラート州及びマハラシュトラ州の外国政府機関との関係 .................. 73
2.3.1
グジャラート州 ......................................................... 73
2.3.2
マハラシュトラ州 ....................................................... 75
2.3.3
グジャラート州・マハラシュトラ州・カルナタカ州の姉妹都市協定 ............ 76
2.4
3
インドにおける英国の取組:英国貿易投資総省(UKTI) ........................ 78
我が国政府が今後取るべき拠点作りに係る政策の提言 ................ 82
3.1
ASEAN での拠点作りに係る政策の提言 ........................................ 82
3.1.1
産業集積とインフラ整備 ................................................. 82
3.1.2
相手の状況を踏まえた支援 ............................................... 82
3.1.3
進出希望企業に対する支援 ............................................... 83
3.2
インドでの拠点作りに係る政策の提言 ........................................ 84
3.2.1
産業セクター分析と拠点開発 ............................................. 84
3.2.2
インド州政府との関係構築、対象州でのプレゼンス向上 ...................... 85
3.2.3
進出企業への支援 ....................................................... 85
3.3
新興国全般における拠点作りに係る政策の提言 ................................ 87
3.3.1
産業セクター分析と拠点開発 ............................................. 87
3.3.2
新興国の州・県等の政府との関係構築 ..................................... 88
3.3.3
進出企業への支援 ....................................................... 89
参考文献 ........................................................... 90
ii
はじめに
我が国は、人口減少や少子高齢化による国内市場の縮小、震災からの復興、円高など多く
の重要な困難に直面している。一方、アジア、アフリカ、中南米等を始めとする新興国では、
今後10年間で約13億人の富裕層・中間層が増加するなど、この成長力は非常に高い。我
が国経済がこれまで以上に発展していくためには、
我が国企業がこうした新興国の旺盛な需
要を取り込むことが必要不可欠である。
我が国企業が現地進出を行う上では、相手国や相手国州政府と協力することによって、当
該国・州のビジネス環境や産業構造などの状況を踏まえた進出拠点作りが重要となる。例え
ば、まずは、相手国・州に必要となる産業を把握、そのニーズを踏まえた上で、関連する企
業の海外展開を促す。そのうえで、相手国との win-win な関係を構築しつつ、相手国の成長
を取り込んでいくといったアプローチが考えられる。
本事業では、こうした我が国企業の海外展開を促進する拠点作りのために、新興国が他国
や国際機関と協力して進めている、産業協力を含めた拠点開発計画に関して、調査・分析を
行い、本報告書に取りまとめた。
1
1
ASEAN における外国政府や国際機関等が実施している産業協力
を含めた拠点開発計画
1.1
既往の外国政府及び国際機関等が実施した調査報告の整理
本節では、グローバル・バリュー・チェーン及びサプライチェーンに関して、調査研究及
び提言をまとめている報告書を整理した。特に日本企業の強みとするセクターである製造業
に絞って文献の検索を実施し、以下の通り、概要と特筆すべき内容・提言等をまとめた。
これらの文献の多くは、グローバル・バリュー・チェーンが発生した背景、その事例研究
を中心に構成されている。また、今後、バリューチェーン展開を考えるにあたっては、自由
貿易協定の改定の検討、
定量化された各国の地域特性(産業構造のみならず、
輸送インフラ、
ソフトインフラ等)を踏まえた分業体制の検討、民間企業との対話の重要性等が提言されて
いる。
1.1.1
世界貿易機関(WTO)
【文献情報】
WTO/IDE-JETRO, ‘Trade patterns and global value chains in East Asia’ 1
内容概略
ASEAN 諸国において展開されている貿易概況及びグローバル・バリュー・チェーンにお
ける状況分析。グローバル・バリュー・チェーンは、以下の図 1-1 の左側のように国際需
要、ハード・ソフトインフラ整備等により形成が後押しされ、その結果、中間生産物貿易の
増加、国際貿易の幅の広がりや新たな統計指標の必要性等が生じている。
1
http://www.ide.go.jp/English/Press/pdf/20110606_news.pdf よりダウンロード可。
2
図 1-1
グローバル・バリュー・チェーン形成の背景と波及効果
第 1 章ではバリューチェーン、サプライチェーンの歴史・背景について詳述。ここでは、
バリューチェーンの増加に伴い 2009 年以降中間生産物が劇的に増加し、整備された輸送イ
ンフラ、貿易協定、及び好都合な地理的条件等を背景に、製造業の国際分業体制が構築され
たとしており、事例として、図 1-2 のように、日本の自動車メーカー産業における ASEAN
自由貿易協定や関税特恵を活用したサプライシステムを取り上げている。
第 2 章では、先進国から途上国にアウトソーシングを行っている現状と、それに伴い中間
生産物が増加してきた結果、
その輸送に関わる香港とシンガポールの再輸出ビジネスが発展
している現状、また製造業のみならずソフト分野(IT、R&D 関係等)においてもオフショ
ア化が進んでいる事例をインドとフィリピンの現状を挙げて説明している。
続く第 3 章では、
輸送インフラの整備及び IT などの通信システムの整備がバリューチェーンの拡大に不可欠
としている点を分析。輸送ビジネスでは、ソフト・ハード両面において優位性のある香港と
シンガポールがアジアのハブとなっていることを指摘している。
第 4 章では、輸出入税などのコストについて分析。アジアにおいて中間生産物貿易は税金
面で低コストで対応できることが、
同地域で中間生産物バリューチェーンが展開されている
点を分析。第 6 章ではグローバル・バリュー・チェーンとは地域特性を生かした分業体制で
あり、その地域特性について分析。図 1-3 では、9 カ国の産業構造を分析しており、20 年
の変化を示している。こちらを見ると各国の強い産業が分散化されているのがわかる。
3
図 1-2
ASEAN における自動車製造における部品供給システム
4
図 1-3
ASEAN9 カ国の産業構造の変化(1985 年-2005 年)
5
経済協力開発機構(OECD)
1.1.2
【文献情報1】
OECD/WTO貿易付加価値(TIVA)データベース 2
内容概略
OECD と WTO は、
共同で
「付加価値貿易イニシアティブ
(OECD-WTO Trade in Value-Added
Initiative (TiVA))」を考案。財やサービスが国境を越える度に、その総フローを計算して貿
易収支としてきたこれまでの計算方法とは別に、
輸出される財やサービスを原産国の付加価
値として計算することで、国家間の通商関係の全容を表す試み。つまり、企業が生産拠点を
複数国にどのように分散させているかを反映したもの。国家間の貿易交渉は、このような現
実を認識して進められることが重要であり、
各国には自国企業が国際バリューチェーンで活
躍できるよう支援する政策の実施が求められると結論付けている。図 1-4 は、上記の計算
方式を日本のケースに当てはめたものである。
図 1-4
輸出入の総額と付加価値、相手国別(全体に占めるシェア)
:2009 年
図 1-4 から読み取れる日本関連の主な結論は、以下の通り。

貿易フローを付加価値で測ると、日本の輸出は中国向けよりも米国向けの方が多い。
2
http://www.oecd.org/industry/ind/measuringtradeinvalue-addedanoecd-wtojointinitiative.htm、及び
http://www.oecd.org/sti/ind/TiVA%20Japan%20(Japanese)2.pdf。
6

付加価値では、対中、対韓貿易黒字は(総額ベースと比べ)ほとんど無くなるが、対
米貿易黒字は総額で見た場合より 60%増加する。これは、アジアへの中間財輸出が米
国の最終消費に行き着くため。

あらゆる産業部門で、日本の輸出品には、国内原産品が高い割合で含まれている。
サービスは日本の輸出総額における付加価値の 42%を占めており、そのうちの高い割合
が国内のサービス業者からのものである。製造業における輸出額に占めるサービスの割合も
大きく(約 30%)、効率的なサービス投入が財の分野の競争力にとっても重要であること
を示している。
ASEAN諸国では、例えばインドネシアの場合、①インドネシアは日系及び韓国企業の製
品を生産した上、更なるプロセスのために他国に輸出している傾向にある、②機械産業、電
子産業及び繊維産業の分野でグローバル・バリュー・チェーンを展開、③付加価値でみると
中国との輸入は輸入総額に比して低く、日本や米国は高くなる、などが分析できる 3。
【文献情報2】
OECD, ‘Southeast Asian Economic Outlook 2010’ 4
内容概略
東南アジア諸国の経済概況を分析した上で、
今後東南アジア諸国は中期的に堅調な成長を
維持するためにどのような政策をとるべきか、アジアの地域統合は、均衡のとれた成長を達
成するためにはどうするべきか論じられている。
第 1 部においては、地域経済概況について至近年のマクロ経済を議論している。主な提案
事項は以下の通り。

東南アジア諸国においては、中期的な政策目標を設定の上、それを達成させるために
堅実な財政運営、国家開発計画と整合的な中期予算・財政枠組みの構築が重要である
としている。

財政政策枠組みを改善させるためには、ASEAN 諸国は綿密な財政ルールの整備が必
要としており、そういった財政ルールを監督するためにも独立した機関・協議会等が
有益としている。尚、表 1-1 は、上記提案にある財政ルールの一例を示している。設
定するルールは 4 分類すると予算バランスルール、負債ルール、歳入及び歳出ルール
としている。
3
4
http://www.oecd.org/sti/ind/TiVA%20Indonesia.pdf。
http://browse.oecdbookshop.org/oecd/pdfs/product/4110051e.pdf よりダウンロード可。
7
表 1-1

財政ルールの構成
ASEAN 諸国の主要な課題は、限られた電子製品(大半は部品)の輸出に対する過度
の依存を引き下げるとともに、バリューチェーンの技術的段階を高めていくことにあ
る。ASEAN 諸国はよりニッチで特殊な製品の開発にも並行して取り組むべきである。
つまり、より均整のとれた成長のためには、輸出から内需への転換だけでなく、新成
長分野(例えば、保健医療製品市場への多角化)を支援するための公的資源の再配分
も必要だとされている。
尚、表 1-2 は、1995 年と 2006 年でのアジア太平洋地域各国の輸出量の推移を分析した結
果を示している。各国の強みが理解できるのと同時に、10 年間の時代の流れ及びニーズの
変化に伴い大きく変化をしているのが見て取れる。
8
表 1-2
アジア太平洋地域各国での輸出量の推移(1995 年・2006 年)
9
表 1-3 アジア太平洋地域各国での輸出量の推移(1995 年・2006 年)(つづき)
また、表 1-4 は、中国の台頭がグローバル・バリュー・チェーンの形に変化を与えてい
る状況を示している。例えば、1995 年の衣料産業において中国から輸入を大量にしている
国はアジア太平洋地域では 7 カ国、世界的には 11 カ国だったのが、2006 年にはアジア太平
洋地域で 12 カ国、世界的には 3 倍以上の 35 カ国となっている。
10
表 1-4
アジア太平洋地域における優勢な供給国及びそのセクター
そして、図 1-5 は、アジア地域におけるサプライチェーンの構図が中国の台頭とともに
大きく変化した様子を示している。1995 年は、中間生産物の流れが日本・アメリカに集中
していたが、2005 年には中国がほとんど輸入している状態となっている。
11
図 1-5
アジアにおける中間生産物輸出に係るサプライチェーンの変遷
第 2 部においては、輸送インフラの重要性に焦点を当てて議論している。主な内容及び提
案事項は以下の通り。

輸送インフラ整備とはハードだけではなく輸送政策、規制・手続き、多国間取組・協
定等を含めた「ソフト」インフラの改善も含まれる。総合的にみれば、シンガポール
が進んでおり、タイ・マレーシア等が続く。特に、カンボジア、ラオス、ミャンマー
が整備遅延。インドネシアは経済成長に注目されているが、未発達な輸送インフラが
域内生産チェーンや国内の経済統合・発展を妨げていると指摘されている。
尚、インドネシアは東南アジア地域で近年勢いを見せているが、依然として投資環境等の
点で評価は低い。図 1-6 は、アジア諸国の競争力ランキングを示したものである。これを
みると、インドネシアにおける最大の障害はインフラの未整備という点であり、133 か国中
84 位と低い。また、詳細には何がビジネス環境において障害となっているのか、図 1-7 で
示している。最も問題視されているのが非効率な政府の官僚主義(書類手続き等のプロセス
遅延)、不十分なインフラが圧倒的である。つまり、インフラの整備及び効率的な政府の支
援がビジネス環境整備及び貿易振興において重要である点がわかる。
12
図 1-6
図 1-7
アジア諸国の競争力
アジア諸国のビジネス環境の障碍
13

東南アジア諸国において、ハードインフラ整備に対する巨額投資が必要だが、国家財
政だけでは限界がある。従い、OECD 諸国で既に成果を上げているインフラ・レベニ
ュー債等の新たな資金調達手法が東南アジア諸国の輸送部門でも有益である。また、
これは PPP 形態による輸送インフラ建設とも整合的。
結論としては、以下のような点が述べられている。

東南アジア諸国の将来の発展は、必要な措置を講じない限り、部門別にも国別にも不
均衡となる。従って、国内及び地方の比較優位を特定し支援することが必要な政策行
動の一つ。

ASEAN 地域の連結性を高めるために、より統合的な輸送インフラの整備が不可欠。
そのために新たな資金調達手段の検討・導入が必要。
1.1.3
東アジア・ASEAN 経済研究センター(ERIA)
【文献情報】
ERIA, ‘ASEAN+1 FTAS and Global Value Chains in East Asia’ 5
内容概略
ASEAN における貿易促進、グローバル・バリュー・チェーンの展開要因を分析。既に
ASEAN では 5 つの自由貿易地域があり、この枠組みによりバリューチェーンが生み出され
たと分析。また、サプライチェーンにおいては ASEAN 各国において製造の最終工程の役割
か、部品を輸入し再輸出する役割(中間生産物)かに分かれている点分析(特に第 2 章に
ASEAN 諸国の産業構造、ASEAN 諸国での機械産業比率、その他、各貿易枠組み及び関税
優遇策の有効性につき分析)。
また、第 3 章において ASEAN 経済統合に向けた課題を、自由貿易協定の枠組みで解決す
るべく提言。ASEAN 諸国は各々の地域特性及び産業を明確にしてどの役割を果たすのか狙
いを定める必要があると論じている。本章では、各産業別に ASEAN 諸国+オーストラリ
ア・ニュージーランドの貿易環境分析、ASEAN 諸国の貿易環境指標を分析している。以下、
表 1-5 は、貿易に係る様々な行動・活動を変数として ASEAN 諸国の優位性を定量化したも
のである。例えば、税関手続きのプロセスにおいては、カンボジアが最も効率が悪く、シン
ガポールが最も迅速な手続きが可能ということになる。また、図 1-8 は、貿易に係る行動
の 5 項目を指標とし、当該国の貿易環境を評価したものである。5 項目とは、税関手続き、
技術規制等、非関税障壁、法律・規制等の透明性、情報通信関係や電子取引、である。例え
5
http://www.eria.org/publications/research_project_reports/images/pdf/y2010/no29/FY_2010_ERIA_RPR_No.29_All
_file.pdf よりダウンロード可。
14
ば、インドは全体的に評価が低いものの、情報通信関係は好評価、一方で技術規制等(安全
規制や衛生管理等)についてはゼロ評価である。
15
表 1-5
アジア地域における貿易に係る行動の評価
16
図 1-8
アジア太平洋諸国における貿易環境 5 項目スコアリング表
17
図 1-8
アジア太平洋諸国における貿易環境 5 項目スコアリング表(つづき)
18
第 7 章以降は事例研究が記載されている。第 7 章ではマレーシアにおける電子産業のグロ
ーバル・バリュー・チェーンについて、マレーシアの産業発展背景及び現況を踏まえ、マレ
ーシア政府への提言として①中小企業を考慮した経済協定を検討、②新しい ASEAN+1FTA
sは効力を発揮するのが遅いので、政府は既存の枠組み(AFTA、ASEAN-China、
ASEAN-Japan)の強化にも並行して注力すべき、③通関の最適化、④非関税障壁の軽減(特
に自動車エレクトロニクス)、⑤中小企業育成に向けた大企業とのマッチング検討等を挙げ
ている。
第 8 章ではスリランカにおける繊維・被服産業のグローバル・バリュー・チェーンについ
て、製造過程においてアジア域内で輸出入を繰り返し、最終的には米国・欧州に流出されて
いる現状の中、既往の ASEAN だけをカバーする貿易協定の有効性に疑問を呈している。第
9 章ではフィリピンの自動車(日系企業)及び電子産業のグローバル・サプライチェーンに
ついて、第 10 章ではタイの自動車産業におけるグローバル・サプライチェーンの事例研究
が述べられている。
1.1.4
アジア開発銀行(ADB)
(ADB については、農業・食品産業でのバリュー・チェーンレポートが多いため、製造業
系に絞る)
【文献情報 1】
ADBI Working Paper, ‘Supply chain Dynamics in Asia’ 6
内容概略
ASEAN 間の貿易振興及び輸送インフラ整備の重要性を論じている。キーサプライチェー
ンの紹介(アジアとその他の諸国と製造業オペレーション)、サプライチェーン形成におけ
るアジアの輸送業者の役割を論じている。事例としては、中国-EU 間の貿易促進協定、タイ
-ベトナム間の輸送比較等。アジア諸国の政策立案担当者に対し、サプライチェーンマネー
ジメントの重要性、
国内サプライチェーンの形成がグローバルレベルのサプライチェーンに
連結する点を強調し提言している。
【文献情報 2】
ADBI Economic Working Paper, ‘Global Value Chains and the Transmission of Business Cycle
Shocks, June 2012’7
6
http://www.adbi.org/files/2010.01.07.wp184.supply.chain.dynamics.asia.pdf よりダウンロード可。
19
内容概略
アジア域内のバリューチェーン形成が貿易円滑化に繋がった事例として、中国の産業成長を挙
げている一方で、グローバル・バリュー・チェーンでの取引が通常取引より必ずしも収益を上げるか
否かには懐疑的な立場で論じている。
【文献情報 3】
ADB, ‘Taking the Right Road to Inclusive Growth: Industrial Upgrading and Diversification in the
Philippines’ 8
内容概略
ASEAN 諸国においてフィリピンの経済発展は他国に比して包括的な成長を遂げていない
点に着目。以下、表 1-5 では GDP の伸びがインドネシア、マレーシア、タイに比して悪
い点を示している。
表 1-5
7
8
GDP 成長率の比較(インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ)
http://www.iadb.org/intal/intalcdi/PE/2012/12168.pdf よりダウンロード可。
http://www.adb.org/sites/default/files/pub/2012/taking-right-road-to-inclusive-growth.pdf よりダウンロード可。
20
1980 年代初頭フィリピンは産業の空洞化を経験しており、サービス産業に依存する形に。
本レポートでは過去 10 年のフィリピンにおける製造業と雇用パターンの構造的変化に着目
して、長期的成長戦略を検討するもの。尚、表 1-6 では過去約 30 年の産業構造の変化を示
している。比較している他の 3 か国は、第 1 次産業は減少傾向にあり、第 2 次・第 3 次産業
は増加しているが、フィリピンの場合は第 1 次・第 2 次が減少、一方第 3 次産業であるサー
ビス分野は他国に比して大きな伸びを示している。
表 1-6
1980 年と 2009 年における産業構造の変化
(インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ)
これまで電子機器産業等がフィリピンに参入してきているが発展性がなく、
主にフィリピ
ン経済成長を牽引したのはサービス産業である。フィリピンの産業構造をマッピングして、
関連生産物製造地域と線で繋いだものが図 1-9 の通り。円のサイズと線の長さで関係性を
表している。
これをみると機械産業、化学製品などが他と密接に連携している一方で、天然資源や農産
物等は他との連携が弱いのがわかる。また、石油や衣料品関係などは一定地域に集積してい
ることがわかる。その産業構造及び集積状況の変遷を示しているのが図 1-10 である。
例えば、フィリピンは 1975 年までは衣料品産業、農産物、森林産業が盛んであり、その後
外資が入り電子産業が盛んとなった変遷が分かる。
他、レポートには ASEAN 諸国における同様のマッピングの掲載がある。
21
図 1-9
産業構造マッピング
22
図 1-10 産業構造の変遷(1)
23
表 1-7
産業構造の変遷(2)
このような分析を踏まえ、本報告書では、フィリピンの産業の向上と多様化に向けて、政
策決定者に対し2つのステップを提言するもの。1 つ目はターゲット産業を選択すること。
政策決定者は、現在ある産業に近い製品グループからターゲットを選ぶべく、選択基準を設
24
定するべき。例えば、①付加価値の高い製品、②他の製品に波及する製品、③労働吸収性が
高い製品。2 つ目は、官民対話。政策決定者がターゲット製品を決定した後、一番様々なマ
ーケット情報を持つ民間と情報交換を行い、
民間がどのような政府の支援を期待しているの
か等を議論することが必要である、としている。
1.1.5
米国(米国国際貿易委員会)
USITA, ‘ASEAN Regional Trends in Economic Integration, Export Competitiveness, and Inbound
Investment for Selected Industries’ 9
内容概略
ASEAN 諸国における、コンピューター機器、綿織物、広葉樹合板、ヘルスケア関係、自
動車部品、パーム油の 6 つの産業に関する地域統合、輸出競争性等の状況を分析。これらの
6 産業は ASEAN 地域統合促進に向けて ASEAN メンバーにより選ばれた産業であり、メン
バーによりロードマップを策定。
第 1 章、第 2 章に関しては ASEAN 内の貿易状況及び課題について分析。図 18 では貿易
課題、輸送サービス、電子取引の 3 つのイシューに対し、競争性への影響を分析している。
ASEAN 諸国の中でもシンガポール、タイ、マレーシアにおいては、貿易手続きはスムース
だが、特にラオスとカンボジアは困難。輸送インフラ環境においては、シンガポールは世界
標準であるが、ラオス、カンボジア、ミャンマーは整備不足。E-commerce に関しては ASEAN
諸国で大きなギャップがあるが、
近年のベトナムのインフラ整備及び法整備は目を見張るも
のがある。これらのポイントが ASEAN 統合に向けた課題である。
9
http://www.usitc.gov/publications/332/pub4176.pdf よりダウンロード可。
25
図 1-11
競争性に関する分析
第 3 章以降は産業別に現状と課題を分析。共通して言えることは、①近年の中国の台頭が
ASEAN 域内の貿易に影響を与えている、②各国は輸出入税等のコスト低減を検討する必要
がある、等を指摘している。
26
1.2
ASEAN における産業政策について
今回の調査では、3 月 11 日~15 日の間、マニラ、ジャカルタを訪問し、国際機関関係者、
投資関係の現地政府機関、JETRO、JICA、民間企業等を訪問した。訪問先では、最近の ASEAN
経済統合等の自国産業に与える影響、産業政策の実態、あるべき産業政策の姿、他国の事例
等についてヒアリングを実施した。
以下は、ヒアリングした内容を整理したもの。なお、ヒアリングは 11 先に対して実施し
たが、以下、発言内容については、発言者の組織名を開示せず、国名のみを示すこととする。
1.2.1
あるべき産業政策と実態
(1) 産業政策 10の必要性について
産業政策について、その重要性は、多くの関係者が認めるところ。かつては政府が特定の
有望産業を選択することができないとされたが、最近では、こうした考え方は後退し、開発
途上にある国の政府が経済を成長させるために、
自国内に特定の産業を支援しようという動
きは肯定的に受け止められている。こうした状況下、ADB では「今年のニューデリーにお
ける年次総会の目玉は、産業政策について議論すること」としている。

「多くのフィリピン人が台湾や、韓国などの製造業の現場で勤務している。本来で
あれば、彼らは、フィリピン国内で同様の業種に就労する機会があってしかるべき。
雇用がフィリピンの国内で生まれることにより、知識が国内に蓄積され、関連する
産業が発展することになる。こうした Spillover 効果は決して無視するべきではな
い」(比2)
(2) 産業政策の現状
ただし、政治家が、選挙対策等の短期的な視野で政策が実施すること等から、必ずしも、
それぞれの国で適切な産業政策がつくられているわけではない。
本来、途上国政府が自ら確固たるビジョンを持って、長期的な視野で産業政策を考えるこ
とが重要である。

「BOI で策定された産業政策の原案が、大統領府でひっくり返ることもある。ちな
みに、2012 年の投資優遇プログラムの原案では、あるセクターが外されていたが、
大統領府でひっくり返った。これは、政権の幹部が、同セクターの組合の会長だった
10
なお、産業政策については、大きく分けて、①投資環境整備(許認可等の法制度、通関、知的財産性保
護等々)と、②特定の産業セクターの育成に分けられるが、ここでは、後者について取り上げる。
27
からだとされる。ちなみに、大手財閥の某グループは、そのセクターの事業で莫大な
収益をあげているとされる。結局のところ、事業者の収益底上げに寄与しているだけ
だ」(比3)。

「政府の産業政策についてはあまり過度な期待はかけてはいけない。例えば、インド
ネシア政府などは短いタイムフレームでしか考えていない。
このところ貿易赤字が続
き、為替が減価しており、選挙を前に、保護主義に動いている。例えば、最近では、
輸入を削減するために、
輸入港を閉鎖すべきだなどという議論が平気で行われる」
(尼
4)。

「産業政策で最も重要なことは、途上国政府が①雇用の創出、②Spillover 効果、③
増大する需要の増加への対応など、どの効果を目的として、どういった産業を育成す
るかを決めることだ」(比2)
また、産業政策を適切に策定、実施するためには、相手国政府内でスムースに調整が取れ
ている必要がある。しかし、こうした体制になっていないことも多いとみられる。

「投資促進機関(Investment Promotion Agency)が複数あり、お互いに連携が取
れていないことが気になる。本来は、NEDA(国家経済開発庁)か BOI(DTI)がし
っかり投資政策を管轄するべきなのだが」(比2)

「インドネシアの投資誘致は BKPM が担当し、インフラ整備は BAPPENAS が担
当している。産業政策は工業省が担当している。必ずしも洗練されているとは思え
ない。BKPM の投資認可も最終的には、財務省が承認する仕組み」(尼2)
(3) 今後に向けて
産業政策策定上の留意点としては、特に民間企業との対話が極めて重要という点が、多く
の関係者から聞かれた。これは、そもそも、やる気がある事業者が存在しない産業を育成し
ようとしても意味がないため。

「フィリピン政府の問題点は、20 年後、30 年後にどのような国になりたいかを官
僚が明確に描かないことだ。例えば、自動車セクターを育成したいと考えたとしよ
う。現在は、アセンブラーしかいないが、長期的には国産車を開発したいとしよう。
その場合、例えばトヨタやホンダから話を聞いて、どうしたら国産車を自前で開発
することが出来るかを考え、プランをまとめるべきだ。それを受けて、トヨタ、ホ
ンダに対して、技術提供を求める代わりに、優遇措置として何を求めるかを交渉し
て、進出を促すというプロセス。途上国政府と民間企業の対話が非常に重要だと思
28
う。ここではフィリピン政府からすると、トヨタやホンダは、フィリピン企業と同
列の一民間企業である。日本政府に役割があるとすれば、相手国政府との交渉を支
援したり、自国の経験を相手に伝えたりすることではないか」(比5)
また、産業政策の策定、実施にあたって、重要なポイントは、失敗を恐れずに産業育成に
臨むことが必要であるとの指摘が聞かれた。さらに、予め撤退戦略等を明確にしておく必要
があるという指摘も聞かれた。

「対象を決めて優遇措置を提供する際には、①Performance Measurement、②
Sunset Clause を予め決定しておくこと。タイは今ではアジアのデトロイトとし
て自動車産業の中心になっているが、それ以外に多数の産業の育成に失敗してい
る」(比2)

「韓国企業が幾つかの途上国の政府に対して、進出を約束する一方で恩典を求め
るやり方については、注意が必要だと感じている。恩典の中に、『半永久的に恩
典を続けること』や『同種の産業を誘致しないこと』のような条項を入れてしま
うと、独占環境がいつまでも続いてしまうので、Sunset 条項などを適切に含める
ことが必要だと思う」(尼4)
政府支援のあり方
ADB のフィリピン Country Economist が作成した資料によると、産業政策を策定、実施
する際に留意すべき原則としては、以下のようなものがあるとしている。
Principles of public support
1) Sunset clauses
An industrial intervention is designed for a fixed period. The industrial initiative will expire
after a set time; or will require a review before further use.
2) Exit strategies
An industrial intervention is designed with a strategy to exit the industry after a specified
time,
or after certain milestones are reached.
3) Targeted
An intervention is targeted the specific problem or group of firms requiring assistance, as
opposed to broad coverage, regardless of specific industry or firm requirement
29
4) Clear objectives
A well defined objective with commitment at the outset of the intervention so that all
stakeholders know what the new industrial support initiatives are trying to achieve.
5) Performance Indicators
Use of indicators in the design and implementation to identify outputs and outcomes
6) Monitoring & evaluation mechanisms
Monitoring is required to measure performance indicators and evaluation is used to judge if
objective(s) have been achieved as per the targets.
7) Cost recovery
Used to separate out committed firms valuing the services or interventions from those seeking
a free resource.
8) Simple design
The simpler and easier to administrative, the more likely an intervention will work.
9) Flexibility to adjust
Frequent changes to interventions or a design that allows no adjustment are both signs of poor
design. Ability to fine –tune the intervention after its initial implementation is a good design
feature.
10) Stakeholder consultation and participation
Good interventions, consultant stakeholders during the design and include their participation
in the implementation and evaluation.
なお、税金の免除等の優遇措置を供与することには、財政状況が厳しい国では、
後ろ向き。
産業政策上、別の手当てや政府の取り組みが必要になると考えられる。例えば、ソフト、ハ
ード両面のインフラ整備である。
 「『産業政策』と聞くと、ADB の中でも『補助金のばらまき』と勘違いする連中
がいる。しかし、産業政策で利用されるツールは優遇措置だけではない。例えば、
フィリピンの場合、加工したマンゴーではなく、マンゴーそのものが重要な輸出
産品になる可能性があると考えている。これを後押しするためには、例えば、各
国の検疫の状況を調べて、可能な範囲で調整をはかるといった対応がフィリピン
政府には出来るはずだ。これも重要な産業政策の一つ」(比4)
 「現在、『適切な投資誘致の Incentives のあり方』について、JICA のプロジェク
30
トとして調査してもらおうと考えている。そもそも Incentives について検討しよ
うということになったのは、大蔵省(DOF)が五月蠅いから。彼らは財政事情が
厳しく、IMF などから、こうした財政的な支援について厳しく指摘を受けている
ようだ。日本や韓国、シンガポールが積極的に補助金等を利用して産業育成に成
功したわけで、同じことをやろうとしているのに、それをダメだといわれるのは
納得がいかないのだが」(比3)
1.2.2
産業集積支援とインフラ整備
産業集積あるいは産業育成とインフラ整備は、密接に関係しており、例えば、製造業を拠
点に集積させるためには、「タイムリーに必要なインフラが整備される」という確信を、進
出を検討する企業に持たせられなければならない。このためには、過度に民間のインフラ事
業者にインフラ整備を期待するのではなく、必要に応じて、優先度が高いプロジェクトに対
しては、公的セクターがインフラ整備に関与して実施するべきであるとの指摘が聞かれた。

「インフラは産業の派生需要である。フィリピンのように雇用を創出することが重要
な国では、産業政策で育成すべき産業を決定し、それに必要な工業団地、輸送設備等
のインフラを併せて整備することが必要」(比4)

「インフラ整備と産業集積は相互に繋がりがあるものである。これまでは、バラバラ
に検討されていたが、これは間違いだ。例えば、フィリピンのボラカイで空港を整備
しようとするとする。
これによって裨益するのは、
明らかに観光業である。すなわち、
本来、観光業を振興しようという動きと、空港を整備する動きは両輪で動かないとい
けないはずである」(比5)

「インフラの開発と産業育成をセットにすることは一つの考え方だと思う。
当方とし
ては、インフラ開発自身が Incentive の一つとして考えている」(比6)
1.2.3
日韓の取り組み
(1) 韓国の取り組みについて
韓国の取り組みは高い評価を受けている。韓国の場合は、直接、政権のトップに働きかけ
て自国企業が現地市場に入り込みやすい状況を作っている模様。
31
ポイントは、韓国企業と韓国政府が、予め、①相手国政府が求めていることを確認、②自
社が相手国政府に対して要望したいことを整理、③その上で、韓国大使館の力を借りて、直
接、相手国のトップに働きかけるという仕組み。予め、Study が終わっているので、即断即
決で進出を決めることができると考えられる。

「韓国の Hanjin(韓進造船)グループは、スービックの工業団地の開発について、
直接、大統領のところに話を持っていき、開発を進めた。スービックでは 6 万人が
雇用されているが、そのうち 2 万人は Hanjin グループによるものである。2 万人の
うち、1200 人は韓国人で、その結果、Korean Town が形成されているが、我々とし
ては、雇用を創出してくれているので、高く評価している。フィリピンとしては、中
間層の雇用を拡大しないといけない状況にあり、それに応える Hanjin グループのよ
うな取り組みは大歓迎」(比1)

「韓国企業は、彼らから進出要望を受けて、相手国の置かれた状況、直面している課
題を分析して、進出に関するパッケージを作成して、相手国のトップに提示するかた
ち。基本的に、自分がやりたいこと、相手が欲していることを予め分析してから乗り
込んでくるので、スピード感があり、相手の受けは非常に良くなる」(尼1)。
32
フィリピン経済について
以下、韓国の Hanjin グループが進出したフィリピンの現在の経済の動向を整理し、進
出にあたって適用された「Strategic Projects」の概要についてする。
フィリピン経済は、「開発なき成長(Growth without Economy)」が続いている。し
かし、現在の成長は、サービス業に依存しており、フィリピンが包括的な経済成長を達
成するためには、製造業と近代的なサービス業の両方に依拠する “Walk on Two Legs”
が必要である。すなわち、重要なことは、生産的な雇用機会を、フィリピンの全ての労
働階級に提供することといえる。そのためにフィリピン政府は必要な政策を講じなけれ
ばならないが現在の産業政策は有効なものとはいえない。
出所)世界銀行
フィリピン経済は、海外労働者からの送金、高学歴者を活用するビジネスプロセスア
ウトソーシング(BPO)の増加により、好調を持続している。しかし、失業率は高水準
で推移し、貧困削減は進んでいない。
この間、外部環境をみると、①中国やタイ、ベトナムでの賃金上昇が続いていること、
②タイや日本で自然災害の後、域内生産ネットワークの再編が続いていること、③円高
などから、フィリピンには、産業を誘致する好機が訪れているといえる。
33
出所)世界銀行
なお、Hanjin グループは、直接フィリピン大統領政府と進出にあたって交渉したが、
法的に特別な措置を要請したものではない。同グループは、フィリピン投資庁(BOI)が
作成した Investment Priorities Plan 2012 の「Strategic Projects」に該当する投資として取り
扱われている。
「11. Strategic Projects
This covers projects that exhibit very high social economic returns that will significantly
contribute to the country’s economic development.
The social economic returns of the proposed project shall be measured in terms of the following:
-
Consumer-based benefits (e.g., price, availability, quality)
-
Forward and backward linkages with existing industries in the country
-
Generation of at least 500 direct employment or use of highly specialized
or advanced technology
-
Generation of at least US$ 1 million in foreign exchange savings, when
applicable
-
Stature of the proponent as a global player, when applicable
Projects that cost at least the Philippine Peso equivalent of US$500 million may be granted
pioneer status.
Projects under these activities will be approved upon determination by the Board in consultation
with the Department of Finance (DOF), National Economic Development Authority (NEDA) and
other appropriate agencies.」
34
この間、日本については、調査は多いが、あまりインパクトのある支援が出来ていないとい
う評価が散見された。また、相手国との間で双方向的な関係になっていないことを指摘する
声もあった。今後は、相手にとっても日本と関わることのメリット(関係を疎遠にすること
のデメリット)が分かるような仕組みづくりが必要か。

「日本については、FS 調査ばかりをやっている印象。我々も ERIA から調査案件を
請け負ったことがあるので、恩恵を受けているわけではあるが、実際の投資、雇用
に結びつかなければ、進出先の政府や国民からは、あまり評価されないだろう」(比
1)

「日本とインドネシアの EPA 交渉については、今後、交渉が難航すると予想される。
日本にとって、EPA のメリットはあるかもしれないが、インドネシア側から『イン
ドネシアにとってメリットがあまりないのではないか』という声が出ている」(尼
3)
(2) 日本の中小企業進出
昨今の日本国内のエネルギー問題、円高や、新興国経済の成長等を受けて、我が国の中小
企業は活発に海外に展開しようとしている。こうした中で、日本政府の関与が重要であると
指摘する声が聞かれる。
 「地方に進出した中小企業に対して日本政府として相手地方の政府等にプレッシャ
ーをかけていくことは重要だと思う。最近、メダンに進出している日本企業に対し
て、地元の電力会社 PLN が唐突に値上げを突き付けてきた。陳情を受けた日本の
総領事は、PLN の幹部に手紙を書き、値上げを撤回させた。この例でも分かるよう
に、交渉力の弱い日本の中小企業を進出させたらその後のフォローも必要」
(尼2)
しかし、現状では、進出後のアフターケアを実施する体制が弱いほか、JETRO、JICA、
中小機構等の多くの機関が中小企業進出支援に関与する結果、現場では混乱が生じていると
いう声もあった。
 「日本側の問題だが、進出した中小企業のアフターケアを実施する体制が整ってい
ないように感じている。日本側には、経済産業省、中小機構、JETRO、JICA、外
務省と幾つかの機関が中小企業の進出を後押ししている。しかし、進出してから彼
らの面倒をみる仕組みが弱いと思う。」(尼1)
 「最近、問題だと感じるのは、中小企業の海外進出支援のやり方。色々な支援策が
打ち出されており、前線で、JICA、JETRO 等の担当者が混乱している。日本側が
一つにまとまっていないことによって、インドネシア政府は、それぞれ自分のとこ
35
ろに来た担当者から聞いた話のうち、いいところだけをつまみ食いしようとするだ
ろう」(尼3)
1.2.4
アジア域内経済統合の影響
(1) 経済統合に関する見方
ASEAN 経済統合、中国やベトナムにおける賃金上昇の影響、タイにおける洪水、日本に
おけるエネルギー問題、新興国の経済成長等から、域内で産業バリューチェーンの再編が進
むということについては、共通認識。なお、ASEAN の経済統合の影響については、評価は
分かれるところ。

「2015 年 1 月から即座に大きく変わるわけではないが、民間企業による最適立地
の模索は時間をかけて進むだろう」(比6)

「既に関税は低い水準にあり、ASEAN 経済統合の影響がこれから出てくるとは考
えにくい」(尼4)

「アジア全体の産業バリューチェーンの変化については、ASEAN 統合以外にも、
日本の円高、国際的なエネルギーコストの変動、世界金融ショックなど、検討しな
ければならない外部環境は他にも多いと思う」(比1)
(2) 研究等
ERIA では、アジアにおける産業集積、コネクティビティの研究を実施。各地域の物流イ
ンフラ等の調査を実施し、それぞれの経済の発展可能性を分析している。ただし、個別の産
業セクターのバリューチェーンの予測については行っていない。
アジア全体の産業の予測図
を作成して、それを個別の国・地域の産業政策に落とし込むことは難しいと考えられる。現
実的には、ERIA や ADB が作成するマクロ的な分析結果を参考にしつつ、各国でボトムア
ップ型に産業のバリューチェーンを意識した産業政策を立案していくことであると考えら
れる。
なお、全体の俯瞰図から各国の産業政策に落とし込むことが困難な要因は以下の 2 点。①
正確なデータを確保して加工することが難しいこと、②物流に関して、関係国の政策の動向
によって左右される可能性があること。

「コネクティビティの現状を分析することはかなり難しい。
各国の統計局に依頼し
て、道路事情等、輸送インフラの状況を分析するのだが、必ずしも正確なデータが
返って来ないことが多い」(尼4)
36

「そもそも、産業集積の効果を計ろうとすると、それぞれの国の海運政策がどのよ
うになるか等を予想する必要があるが、それは困難。例えば、フィリピンは海洋国
家としてチャンスがあるはずなのだが、現時点では、地場の業者の力が強く、外資
に海運事業を開放していない。それが結果として、欧米との航路がない状況につな
がっている。しかし、もし、外資に開放して航路が開かれれば、欧米の主要航路が
フィリピンと繋がるようになり、
フィリピンで自動車や電気機械などの製造業が集
積する可能性もないわけではないのだろうが。」(比3)
37
インドにおける外国政府や国際機関等が実施している産業協力
2
を含めた拠点開発計画
2.1
投資環境概観:カルナタカ州、グジャラート州、マハラシュトラ州
本項では、今回の調査対象である、カルナタカ州、グジャラート州、マハラシュトラ州の
3 州について、その投資環境、主要産業、FDI 動向、関連政府機関について州毎に概観する。
2.1.1
カルナタカ州
(1) カルナタカ州の概要
人口
:
70.2 百万人(2012 年)
州総生産
:
INR 41,540 億 INR(2011-2012 年)
主な産業
:
自動車および自動車部品、IT・ITeS、設計、電子機器、鋼鉄
連結イン
:
► 国道 15 路線(総距離 3,973 km)
► 鉄道ネットワーク(3,089km)
フラ
► 2国際空港(バンガロール、マンガロール)、5国内空港
► 大港湾1、小港湾 10
電力
:
12,146.14 MW (2012 年 3 月)
38
図 2-1
カルナタカ州の立地
+14%
2,430.3
2,785.4
3,055.9
FY’08
FY’09
FY’10
図 2-2
3,606.2
FY’11
4,154.3
FY’12
州総生産(10 億 INR)
(出所:Directorate of Economics and Statistics, Govt. of Karnataka, Indian Port Association,
Central Electricity Authority (CEA))
(2) カルナタカ州への FDI
①主なセクター
・IT/ITES
・自動車・自動車部品
・エンジニアリング・宇宙
・電子機器
・バイオテクノロジー・医薬品
・農業・食品加工
39
・繊維
・製鉄
・セメント
・エネルギー
②カルナタカ州への FDI の動向
► 2000-11 年の FDI 受入累積額では国内第 3 位
► インドへの FDI 総額に占める割合は 5.72%
► カルナタカ州への FDI 総額は 94.8 億ドル
► FDI が多い分野
► IT/ITES
► インフラ
► 通信
► 自動車・自動車部品
その他
30%
41%
モーリシャス
ドイツ
13%
キプロス
米国
図 2-3
オランダ
カルナタカ州への FDI 上位国(2000 年 1 月~2011 年 12 月)
(出所:Department of Industrial Policy and Promotion)
(3) 投資関連政府機関
名称
重点分野
役割
Karnataka State Industrial
工業用不動産
州内の工業セクターを管轄。資本参加を通じ
& Infrastructure
て、これまでに 135 事業の企業を支援(総額
Development Corporation
INR1,182.8)。製鉄、セメント、鉱業、繊維
40
名称
重点分野
役割
など基幹産業への融資も行う。
(KSIIDC)
Karnataka Udyog Mitra
投資
投資促進および投資提案の受け入れからス
ムーズな実施を支援する。
(KUM)
Karnataka Industrial Areas
用地取得
用地取得支援および工業地帯の基盤インフ
ラ整備により州内の産業発展に資する。
Development Board
(KIADB)
Department of Industries
産業政策
産業の発展振興にかかる制度、政策の形成・
実施における中心的役割を果たす。
and Commerce (DIC)
Karnataka State Pollution
環境規制
環境関連の規制遵守、大気汚染、水質汚濁管
理・予防。各事業体に事業許可を与える。
Control Board
用地取得
District Revenue office
特定の工業団地以外の地域への投資に関す
る用地割当・取得を行う。
Central and State Excise
税務登録
税務関連の各種登録を行う。
departments
2.1.2
グジャラート州
(1) グジャラート州の概要
人口
:
6,030 万人(2011 年人口統計暫定値)
州総生産
:
44,094 億 INR(2010-11 年、時価)
主要産業
:
化学・石油化学、エンジニアリング・自動車、医薬品、繊維・衣料品、
食品加工、鉱工業、冶金
連結イン
フラ
:
► 国道:総距離 3,245 km (2008-09)
► 鉄道ネットワーク: 5,309 km(2009 年時点)
► 主要港は Kandle、その他 42 の小規模港湾
► アーメダバード国際空港、国内空港の数は9を超える
41
Banas
Kant ha
Rann of Kachcch
Pat an
Mehsana Sabar
Kant ha
Lit t le
Rann
Kachcch
Gandhinagar
Surendra
Nagar
Ahmedabad
Kheda
Dahod
Panchmahal
Rajkot
Anand
J amnagar
Vadodra
Porbandar
Bhavnagar
J unagadh
Bharuch
Narmada
Amreli
Surat
Navsari
The Dangs
Valsad
図 2-4
グジャラート州の立地
3,094
2,809
2,140
2006-07
図 2-5
2,393
2,495
2007-08
2008-09
2009-10
州正味生産高(実質価格 2004-05 年)(10 億 INR)
(出所: IBEF Gujarat State Report、2010 年 11 月)
(2) グジャラート州への FDI
①主なセクター

バイオテクノロジー&医薬品

化学・石油化学

開発・環境

エンジニアリング・自動車

食品・農業

ガス、石油、電力

貴石・宝飾品
42
2010-11

情報技術

繊維・衣料品

観光
②グジャラート州への FDI の動向

FDI 総額に占める割合:4.81%

グジャラート州への FDI 総額:79.6 億ドル

通信、電力石油・天然ガスなどに FDI が集まっている
その他
英国
15%
4%
キプロス
50%
5%
11%
モーリシャス
15%
シンガポール
米国
図 2-6
グジャラート州への FDI 上位国(2000 年 1 月から 2011 年 12 月)
(出所:Department of Industrial Policy and Promotion)
(3) 投資関連政府機関
15%
名称
重点分野
iNDEXTb
投資促進
5%
役割
州内の産業振興を目的として設立された機関。
州内におけるあらゆる投資関連活動の窓口とな
る。また、非居住インド人や外国からの投資促
進、中央・州の関係機関との調整を行う。
15%
Gujarat Industrial
工業用地・
産業インフラ建設。競争入札に基づいて、自社
Development
諸設備
所有不動産や下請業者の不動産に諸設備を提供
Corporation (GIDC)
する。
43
名称
重点分野
役割
Gujarat Infrastructure
都市インフ
諸設備インフラの整備・提供。インフラ開発事
Development Board
ラ
業への民間投資誘致にも取り組む。
産業政策
あらゆる産業分野の振興、産業開発計画のモニ
(GIDB)
Industries
タリング、機能調整を行う。州政府および中央
Commissionerate
政府の産業政策実施において中心的な役割を果
たす。
資金支援
Gujarat Industrial
インフラ開発資金および中・大規模産業向け資
Investment Corporation
金パッケージを提供する。他の中央・州の金融
Limited (GIIC)
機関、銀行と共同で大型事業への資金調達も行
う。
Gujarat Pollution
環境規制遵
環境関連の規制遵守、水質汚濁や大気汚染の抑
Control Board
守
制、管理、予防を管轄するほか、事業許可を発
行する。
2.1.3
マハラシュトラ州
(1) 概要
人口
:
11,230 万人(2011 年統計暫定値)
正味州生産
:
INR 702,830 億(2010-11 年)
主要産業
:
自動車、農業・食品関連、ワイナリー、IT & ITeS、バイオテクノロジー
連結インフラ
:
► 国道:総距離 4,367 km
(港湾、物流
► 鉄道網: 5,983 km
など)
► 4国際空港、2国内空港
► 2大型港、48 小規模港
電力
:
設備容量:約 21,378 MW (2009-10 年)
44
図 2-7
マハラシュトラ州の立地
+10%
5,423
5,560
6,348
7,028
4,881
FY ’07
FY ’08
FY ’09
FY ’10
FY ’11
図 2-8
マハラシュトラ:州正味生産(10 億 INR、2004-05 年固定価格)
(出所: マハラシュトラ州政府 Directorate of Economics and Statistics、IBEF )
(2) マハラシュトラ州への FDI
①主なセクター
► 化学・化学製品
► 電気機械・非電気機械
► 繊維
► 石油・石油製品
► 情報技術
► 農業・食品加工
► バイオテクノロジー・薬品
► 金属製品
45
► ワイン
► 宝飾品
② マハラシュトラ州への FDI の動向
► インドへの FDI 総額に占める割合: 32.28%
► マハラシュトラへの FDI 総額: 534.8 億ドル
► FDI 上位セクター:建設、薬品、通信等
オランダ
7%
米国.
5%
モーリシャス
英国.
10%
39%
シンガポール
10%
図 2-9
マハラシュトラ州への FDI 上位国(2000 年 1 月~2011 年 12 月)
(出所:Department of Industrial Policy and Promotion)
(3) 投資関連政府機関
名称
部局・重点分野
役割
Maharashtra Industrial
産業振興
土地収用・放棄、インフラ設備提供などを行
Development
う。また州内各地におけるインフラ開発、産
Corporation (MIDC)
業振興のために諸設備・サービスを提供する。
City & Industrial
産業振興
開発事業を実施し、土地と建設資産の売却益
development
でそのコストを回収する。Navi Mumbai 地区
Corporation of
における産業・インフラ整備を行う。
Maharashtra (CIDCO)
46
名称
部局・重点分野
役割
Department of
産業政策
あらゆる分野の産業振興、産業開発計画のモ
ニタリング、機能管理を行う。産業政策実施
Industries
に重要な役割を果たす。
Maharashtra State
Financial Corporation
資金支援
州内の新規および既存産業に資金支援を提供
する。
(MSFC)
47
2.2
カルナタカ州の諸外国政府機関との関係及びケーススタディ
カルナタカ州の概要
2.2.1
(1) カルナタカ州の概要
カルナタカ州はインドのシリコンバレーと言われるバンガロールで有名であるが、
カルナ
タカ州の産業は IT 産業だけではなく、自動車産業、航空宇宙産業、バイオテクノロジー等、
多様な産業が集積している。
191.7 平方キロメートル
面積
(国内第 8 位の面積。インドの総面積の約 6%)
人口
6,110 万人(インド総人口の約 5%。2011 年国勢調査。)
人口密度
319 人/平方キロメートル
GDP 成長率
8.2%(FY10~11 年)
一人当たり GDP
1,401US ドル(FY10~11 年)
主要産業
自動車、航空宇宙産業、IT、化学・石油化学、鉱業、教育、バイ
オ・化学、エネルギー、観光、テキスタイル・アパレル、アグロ・
食品加工
カルナタカ州は、人口はインド国全体の 5%にすぎないが、GDP の 6%、輸出においては
全体の 13%に貢献するなど、輸出産業を中心とした産業地帯として国家の経済成長に貢献
している。
5%
人口
海外直接投資(FDI)
6%
面積
6%
GDP貢献度
6%
登録工場数
6%
粗付加価値
7%
固定資本(製造)
7%
13%
輸出
0%
2%
4%
6%
8%
10%
図 2-10 カルナタカ州のインド全体に占める比率
(出所:Advantage Karnataka, 2012)
48
12%
14%
(2) カルナタカ州の産業の集積状況
カルナタカ州は世界有数のハイテク産業拠点となっている。産業構成を見てみると、特に
多く立地しているのが、
エレクトロニクス産業やコンピューターソフトウェア産業であるが、
それ以外の産業も多く集積しており、幅広い産業基盤を有する州である。産業セクターを支
えるエンジニア人材育成機関も豊富であり、産業が育成される土壌が整っている。
・ インド最大のバイオ産業の拠点。インドのバイオテクノロジー企業 340 社中 194 社が立
地。
・ インド最大のソフトウェアパーク拠点。インドの STP ユニット第 3 位。
・ 国内最大数の医学研究所及び産業訓練校が立地。
・ 国内最大のソフトウェア輸出量。
・ エンジニア大学の数は国内第 3 位
・ FDIを見ると、カルナタカ州の州都かつ同州最大都市のバンガロールは、ムンバイ、
デリーに次ぐ第 3 位(金額ベース)。
カルナタカ州の産業はエレクトロニクス・コンピューターソフウェアが中心であり、輸出
全体の約 6 割を占めている。また、FDI の流入は、首都のバンガロールがムンバイ・ニュー
デリーに次ぐ第 3 位となっている。
エンジニ
アリング
3%
鉄鉱石、
鉱物
3%
化学、薬
品
2%
その他
5%
縫製品
4%
エレクト
ロニク
ス、コン
ピュー
ターソフ
トウェア
63%
石油
8%
宝石
12%
図 2-11
カルナタカ州の産業構成
(出所:Advantage Karnataka, 2012)
49
アーメダ
バード
7%
チェンナ
イ
7%
ハイデラ
バード
5%
バンガ
ロール
8%
ムンバイ
47%
ニューデ
リー
26%
図 2-12 州別 FDI(2000~2011 年)
(出所:Advantage Karnataka, 2012)
▲
マルチプロダクト
▲
自動車
▲
セメント、発電所
▲
アルミニウム、鉄鋼
▲
農業、食品加工
▲
石油化学
図 2-13 カルナタカ州の産業の集積状況マップ
(出所:Directorate of Economics and Statistics, Govt. of Karnataka)
50
(3) カルナタカ州の投資環境
カルナタカ州は、インド国内で最初に投資促進法を制定した州の一つであり、世界銀行の
2009 年の投資環境インデックスにおいて健全なビジネス環境についてインド国内第 1 位に
ランクしている。
なお、カルナタカ州には、Karnagaka Udyog Mitra という投資家に対してワンストップサ
ービスを提供する政府系機関があり、同機関が投資家への包括的なサポートを行っている。
また、カルナタカ州では透明かつ投資家フレンドリーな各種産業政策が揃っており、一覧
化すると下表の通りである。
新産業政策(New Industrial Policy 2009-14)
観光政策(Karnataka Tourism Policy 2009-14)
新インフラ政策(New Infrastructure Policy 2009-14)
再生可能エネルギー政策(Renewable Energy Policy 2009-14)
繊維政策(Suvarna Vastra Neethi – Textile Policy 2008-13)
情報通信技術政策(Information & Communication Technology Policy 2011)
半導体政策(Semiconductor Policy 2010)
アニメ・視覚効果・ゲーム・漫画政策
(Karnataka Animation, Visual Effects, Gaming & Comics Policy 2012)
太陽光政策(Solar Policy 2011-16)
電子機器政策(Electronics Hardware Policy)
ミレニアム・バイオテック政策(Millennium Biotech Policy – II)
鉱物政策(Karnataka State Mineral Policy 2008)
表 2-1
カルナタカ州の産業政策
(4) カルナタカ州のフォーカスセクターの概況と投資機会
カルナタカ州がフォーカスセクターとして設定しているセクターについて、その概況をま
とめると以下の通りとなっている。
①情報通信技術(IT)産業
・ 80%のグローバル IT 企業が事業拠点や R&D センターをバンガロールに立地。
・ バンガロールは世界第 4 位のテクノロジークラスター
・ 47 か所の IT 用の SEZ と 3 か所のソフトウェアテクノロジーパークが立地。
・ IT 投資の中心的な州
51
②バイオテクノロジー、医薬品産業
・ インドのバイオテクノロジー業界及び医薬品業界のけん引役
・ 70%以上のインドのバイオテクノロジー企業が立地
・ バイオテクノロジーに特化した SEZ が立地。インド最大のバイオテック産業のクラスタ
ーが立地。
・ バイオテクノロジーに特化したパーク・センターの設置計画
・ 医薬品収益の 8%を産出。40%の医薬品は輸出向け。
・ 医薬品産業地帯の立地(Hassan, Yadgir)
③航空宇宙産業
・ インド国内の飛行機・宇宙船の 1/4 以上の生産地
・ インドの航空宇宙産業や国防に関する R&D センターの最高峰のセンターが立地
・ インドの最初の航空宇宙産業の SEZ が立地(Belgaum)
・ 航空宇宙産業に特化した産業政策をカルナタカ政府が準備中(国内初)。
④自動車産業
・ 自動車生産国内第 4 位
・ 自動車産業クラスター3 か所、産業用バルブクラスター1 か所、自動車部品クラスター1
か所が立地しており、自動車産業の投資先として好まれている。
・ カルナタカ政府は自動車産業に特化した政策の発表に向けて準備中。
⑤化学・石油化学産業
・ 500 社以上の化学産業企業が立地
・ 石油化学に特化した SEZ が立地。(Mangalore)
・ エンドユーザー産業の立地(テキスタイル、自動車、パッケージング)
⑥教育産業
・ 国内最大数の医科大学が立地。国内 75 校のトップランクエンジニアリング機関のうち 8
校が立地。
・ 291 校の職業訓練校、187 校のエンジニア大学、114 校の医科大学、69 校の薬科大学、
18 校の総合大学が立地。
・ 幾つかの主要な機関が立地。例:Indian Institute of Management – Bangalore, National Law
School of India, Christ University, Mt. Carmel College, RV College of Engineering, Bangalore
Medical Collage and Research Institute, University of Visvesvaraya College of Engineering,
等
・ 毎年 85,000 人超のエンジニア学生が入学。その他の一般学位のコースには 20 万人超の
52
学生が入学。
⑦繊維産業
・ カルナタカ州は縫製品生産の 20%、国家輸出の 8%を占める
・ 綿生産の 6%、ウール生産の 12%を占める。
・ 縫製品輸出は州の輸出全体の約 3.6%を占める。
・ 農業に次ぐ雇用創出産業
⑧観光
・ 世界遺産(Hampi, Pattadakal)
・ 国内で最も高度医療の評価が高い州
・ 欧米からのメディカル・ツーリズムの受け入れ
・ 320 キロの未開発の海岸線
・ 南インドの最初の豪華列車(Golden Chariot)
2.2.2
カルナタカ州政府の投資促進に向けた取組の概観
カルナタカ州の投資誘致に向けた取組については、よりターゲットを絞った投資誘致活動
と、より広い二国間関係構築活動の2つの活動に分類することができる。
まず、ターゲットを絞った投資誘致活動においては、州政府は各セクターについてサブセ
クター毎にマッピングを行い、州の産業について詳細な分析を行う。このなかで、今後育成
していくターゲットセクターについて選定を行う。ターゲットセクターを選定したうえで、
次にそのセクターの育成のために連携すべきターゲット国の選定を行いショートリストの
作成を行う。このターゲット国のショートリストに基づき、対象国に対するロードショーを
実施し、州への投資を直接呼びかける。
次に、より広範な二国間関係構築については、使節団の派遣、セミナーの実施、文化交流
や幅広い意味での国のブランディング等により、相手国の理解を深めることが挙げられる。
また、この延長で、あらゆる分野に関する包括的な MoU を締結するケースも多い。このた
め、MoU 自体はこれによる投資促進等の効果は限定的であるとする声が大きい。
さらに、カルナタカ州では、2010 年より、2 年に一度、Global Investor’s Meet という投資
家を一堂に招致するイベントを実施しており、セクターのショーケース及び二国間関係強化
の両者を含む幅広い側面での効果を生み出している。
以下の項では、これらの州政府の取組について、より詳細に確認を行っていく。
53
ターゲットを絞った
投資誘致活動
州のセクター・市場調査:
ブランディング:
州の各セクターの強み・市場ニ
産業ミッション、ロードショーの
ーズ分析、ターゲット国選定等
実施等
Global Investor’s Meet
二国間関係構築
二国間関係構築:
覚書(MoU):
使節団派遣、セミナー、文化交
MoU 締結、プロジェクト発掘、投
流、知識共有等
資誘致等
図 2-14 投資促進に向けた活動の概観
(1) ターゲットを絞った投資誘致活動
ターゲットを絞った投資誘致活動としては、まずは各セクターにおいて強み・弱みの分析
を行い、州にとって必要な産業、投資を積極的に誘致するターゲットセクターがサブセクタ
ーレベルで決定される。また、このプロセスのなかで、バリューチェーン分析を実施してい
るケースも確認されている。
本項では、IT/ITES、バイオテクノロジー・医薬品、航空宇宙、自動車、化学・石油化学
の 5 つのセクターに関するセクター情報について提示し、州政府の提示している投資機会
(ターゲットとなるサブセクター)についても例示を行う。
なお、以下に提示するセクタープロファイルは、カルナタカ州政府の投資促進機関により
作成されたもので、州における各セクターの現状、産業ギャップ、潜在的な投資可能性につ
いて分析したものである 11。
①IT/ITES
a. IT/ITES 分野の投資機会(ターゲットとなるサブセクター)
 IT 関連サービス
11

ビジネスプロセスアウトソーシング

ナレッジプロセスアウトソーシング

リーガルプロセスアウトソーシング
www. advantagekarnataka.com
54

エンジニアリングプロセスアウトソーシング
 IT サービス

アプリケーション開発・展開・メンテナンス

中核を担う最先端技術の開発(ハードウェアを含む)

半導体設計製造
 電子政府

調達プラットフォーム

投資通関ポータルサイト

政府機関向けビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)、データ管理
 インフラ

SEZ、投資地域、工業団地
事業
地区
投資額(百万ドル)
IT 投資地区
バンガロール農村部
IT SEZ
Mysore
83
IT SEZ
Hubli-Dharwad
82
IT SEZ
Kolar
73
IT SEZ
Shimoga
52
IT SEZ
Hubli-Dharwad
68
IT パーク
Mysore
10
IT パーク
Dakshin Kannada
10
IT パーク
Gulbarga
10
IT パーク
Shimoga
10
表 2-2
具体的な投資機会:IT/ITES
(出所:Karnataka Udyong Mitra)
55
18,750
b. 事例:Texas Instruments (TI)
 1985 年 8 月:TI 社はバンガロールに自社の R&D 施設を設立。これがインド初の技術系
の世界企業の拠点となった。
 1995 年:インドで制御系アプリケーションのプロセッサを設計。業界初の無線ハンドセ
ット用シングルチップソリューション開発にも広く関与。
 Dataquest 誌とインド政府は TI を国内で最も革新的な企業とし、全国ソフトウェア・サ
ービス企業協会(NASSCOM)は 2007 年の NASSCOM IT イノベーション・アワードを
同社に授与。
c. 過去の投資傾向
Global Investor’s Meet (GIM) 2010 の期間中、IT 分野には 34 億 3500 万ドルの投資が集まっ
た(MoU 締結高、全産業中 1 位)。

Inforsis:2つのソフトウェア開発センターに 6 億 1,670 万ドル

Manyata Developers:IT/BT/BPO パークに 3 億 9,170 万ドル

Indian Green Grid Group:IT パークに 2 億 690 万ドル

Wipro:IT/ITeS SEZ とソフトウェア開発センターに 2 億 1,130 万ドル

Larsen & Turbo:IT・ITeS 分野 SEZ に 1 億 2,810 万ドル
締結覚書(MoU)と実現投資額を比較すると、GIM2010 期間中に MOU 締結されたプロ
ジェクトの 70%が実際に実施されている。
図 2-15
GIM2010 期間中 MOU 締結されたプロジェクトの実施状況
(出所:Karnataka Udyong Mitra)
56
②バイオテクノロジー・医薬品
インドのバイオテクノロジー産業は、バイオ医薬品、バイオサービス、バイオ農業、バイ
オ産業、バイオ情報の5つのセグメントで構成。現在、国内のバイオテクノロジーセクター
は 40 億ドル規模であるが、2015 年までに 100 億ドルまで成長することが期待されている。
a. バイオテクノロジー・医薬品分野の投資機会(ターゲットとなるサブセクター)
・ インフラ開発

基本インフラ、バイオテクノロジー関連学校、商業空間を備えた PPP によるバイ
オテクノロジー・医薬品 SEZ 及びテクノロジーパーク
・ バルク製剤生産と医療機器開発のための製造ユニット
・ 研究および人材育成

R&D センター

産業研修センター、PPP による職業訓練プログラム

中核的研究拠点(COE)

事業設立のためのイノベーション・インキュベーションセンター

バイオテクノロジー関連学校
事業
地区
投資額(百万ドル)
バルク製剤および有効医薬
Yadgir
104
製剤設備
Mysore
208
医薬品 SEZ
Hassan
104
アグリバイオテック・パーク
Hubli-Dharwad
13
自然動物公園
Bidar
11
海洋バイオテックパーク
Dakshin Kannada
21
バイオテックパーク
Bangalore
医療計測クラスター
Mysore
成分(API)設備
表 2-3
具体的な投資機会:バイオテクノロジー・医薬品
(出所:Karnataka Udyong Mitra)
57
104
21
b. 事例:AstraZeneca
・ AstraZeneca India は新薬発見、医薬品の開発・販売を行う多国籍医薬品企業。カルナタ
カに同社唯一の結核研究センターを整備。
・ IDL と協力し、1979 年に製造拠点を開発、1987 年にはバンガロール Malleswaram に
Astra Research Centre India(ARCI)を設立。
・ インド全域で活発に展開。その成長率は国内の多国籍企業の中でも上位(12%、在イン
ド多国籍企業の平均は 6%)
c. 過去の投資傾向
・ GIM2010 では、医薬品セクター6 事業に 3,550 万ドル、バイオテクノロジーセクター2
事業に 1 億 3,500 万ドルが集まった。うち医薬品セクターの4事業(1,590 万ドル)が
現在実施中。
・ GIM2010 以降、2010 年 5 月から 2011 年 12 月までに州投資通関委員会、州レベルのシ
ングルウィンドウ通関委員会(SLSWCC)、州ハイレベル通関委員会(SHLCC)は両
セクターにおいて 42 事業(総額 1 億 6,250 万ドル)を誘致。

Apotex Research は 10 エーカーの錠剤薬製造ユニットに 7,250 万ドルを投資

580 万ドルの事業など4つのバイオテクノロジー事業が GIM2010 以降の投資総額
の約 10%を構成

現在 42 事業すべてが実施段階にある。
③航空宇宙
a. 投資機会(ターゲットとなるサブセクター)
・ 航空機製造・組立
・ 航空機部品(エンジン製造・組立含む)
・ 航空関連設計・製造
・ R&D センター、航空学教育
・ 航空機構造および航空電子工学のハイエンド技術ソリューション
・ バンガロール国際空港近隣の航空宇宙産業用の工業地帯と SEZ(984 エーカー)
・ カルナタカ州には 3 つの国内空港と2つの国際空港が立地。
国内初の民間空港であるバ
ンガロール国際空港は 1 時間あたり乗客 3,000 人の取り扱いが可能であり、また、国内
初の航空宇宙 SEZ(Belgaum)も現在運営されており、航空宇宙および関連産業のポテ
ンシャルは高い。
58
事業
地区
投資額(百万ドル)
防衛・航空宇宙機材・部品生産プ
Belgaum
ラント
1,042
メンテナンス、修繕、運転(MRO) バンガロール農村部
208
メンテナンス、修繕、運転(MRO) Mysore
208
航空宇宙関連物流パーク・倉庫
バンガロール農村部
42
R&D センター
バンガロール農村部
208
表 2-4
具体的な投資機会:航空宇宙
(出所:Karnataka Udyong Mitra)
b. 事例:Boeing
・ 世界有数の航空宇宙企業、商用ジェット機と軍事用航空機のメーカーとして世界最大
・ インドでは完全子会社の Boeing International Corporation India Private Limited (BICIPL)
(2003 年設立)を通じて事業展開
・ 2009 年 3 月 31 日、インド国内では同社初の R&D センターをバンガロールに設置
・ 同センターは米国外に所在する Boeing 社の5つの先端研究センターの一つであり、イ
ンドにおける Boeing の技術面の活動拠点として、特に航空機の構造や航空電子工学の
分野におけるハイエンド技術ソリューションを開発
c. 過去の投資傾向
・ HAL 社:航空機部品製造に 4 億 3,700 万ドルを投資
・ Bessel 社:航空機部品製造に 6,600 万ドルを投資
・ DYNAMATIC Technology 社:航空機部品製造に 9,704 万ドルを投資
59
図 2-16
GIM2010 期間中 MOU 締結されたプロジェクトの実施状況
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
図 2-17 カルナタカ州の航空宇宙セクターにおける主要プレーヤーのマッピング
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
④自動車
a. 投資機会(ターゲットとなるサブセクター)
60
・ 製造

自動車および自動車部品(タイヤ、チューブ含む)製造

機械ツールおよび鋳物類(鉄・スチール鋳物、ポンプ、バルブ、モーター、食品加
工機械、繊維機械等)

メンテナンス、修繕、運転(MRO)
・ インフラ

自動車・自動車付帯製品パーク
・ リサーチ及び人材育成

R&D センター

職業訓練及びソフトスキル開発
現在、自動車産業クラスターはバンガロール農村部の Hoskote、ラマナガールの Bidadi、
Dharwad に、工業バルブ産業クラスターは Hubli-Dharwad に、自動車部品産業クラスターは
Shimoga および Belgaum に立地。また、Savarna Karnataka 開発回廊に沿って Ramanagara,
Shimoga, Hubli-Dharwad に自動車産業向けの地帯の開発が計画されている。
事業
地区
投資額(百万ドル)
自動車製造
Hubli – Dharwad
1,042
自動車製造
Kolar
1,042
自動車製造
Vemagal
1,042
自動車・自動車付帯製品ゾーン
Ramanagara
1,042
機械ツールパーク
Tumkur
208
自動車部品製造
Kolar
104
自動車部品製造
Hubli-Dharwad
104
Tumkur
208
重工業エンジニアリング、機械ツ
ール
表 2-5
具体的な投資機会:自動車
(出所:Karnataka Udyong Mitra)
61
b. 事例:トヨタ
・ Kirloskar グループとの JV を通じてインドで事業展開
・ 1997 年に事業拠点を設立。カルナタカの Bidadi にインド初の生産工場を整備。
・ 今日では、インド有数の乗用車メーカーとなり、カルナタカ州の誇りとなっている。
c. 過去の投資傾向
・ Bosch 社は自動車部品に 1 億 1,500 万ドルを投資
・ Honda は 2 輪車製造に 2 億 8,125 万ドルを投資
(再掲)
図 2-18
GIM2010 期間中 MOU 締結されたプロジェクトの実施状況
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
62
図 2-19 カルナタカ州における主要自動車メーカーの集積状況
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
⑤化学・石油化学製品
a. 投資機会(ターゲットとなるサブセクター)

中間石油化学事業

プロピレン系:アクリロニトリル、オキソアルコール

パラキシレン系:精製テレフタル酸、ポリエチレン、テレフタル酸塩、ポリエステ
ル繊維、ポリエステル単繊維糸(一部撚り)

オルトキシレン系:フタール酸

ベンゼン系:ナイロン単繊維・ナイロン工業糸、シクロヘキサン、カプロラクタム、
アジピン酸、ポリアミド、直鎖アルキルベンゼン、アニリン

プロピレン・ベンゼン系:クメン、フェノール・アセトン、ビスフェノールA、
ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、スチレン-アクリロニトリル、
ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート

合成ガス I:メタノール、酢酸
63


メタノール系ホルムアルデヒド
川下の石油化学産業

合成繊維・工業用繊維、衣料品

特殊化学品、コーティング、接着剤、密封材、ゴム薬品、殺虫剤、染料

プラスチックおよびプラスチック製品

バルク医薬品および API

農業化学物質および有機化学物質




インフラ
特別経済区域
輸送ハブ
石油化学製品産業パーク
ロジスティックパーク
投資機会
教育・研究開発



製



エコ・フレンドリー技術・製造
研究開発センター
産業育成に向けた教育機会の提供
造
パラキシレン
ベンゼンベース
エタノールベース
等
利用可能な原材料をベースに中間・下流産業における投資地域
図 2-20 カルナタカ州の石油化学分野における投資機会
(出所:Karnataka Udyog Mitra を基に新日本監査法人作成)
b. 事例
カルナタカ州の産業政策(2009 年-2014 年)によると、投資促進のため補助金交付、優遇
税制、財政インセンティブ、優遇融資等の制度を整備しており、それに加えて、インド政府
による SEZ 向け優遇策及びカルナタカ州による SEZ 向け優遇策により投資促進を後押しし
ている。以上のような優遇策を背景に、石油精製企業を中心に中間石油化学事業関連企業、
そして川下石油化学製品製造企業がカルナタカ州に進出している。
64
企業名
ビジネス内容
Mangalore Refinery &
石油・ガス精製
企業ロゴ
Petrochemicals Ltd
BASF
化学製品、プラスティック等
Mangalore Chemicals &
農業関係化学製品、肥料等
Fertilizers Ltd.
Somu Group
石油化学製品、産業化学製品等
United Phosporous
農薬、産業特別化学製品等
NOCIL
ゴム製品等
表 2-6
石油化学分野の進出企業一例
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
c. 過去の投資傾向
化学製品産業のバリューチェーンは、原材料(精油)→中間生産物の成分合成→機能的化
学物質の合成→付加価値プロセス→副生成物、という流れの中、ディーゼルオイル、
燃料油、
ガソリン、ケロシン、LPG 等が製造される。
図 2-21 化学産業のバリューチェーン
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
65
下図のように、カルナタカ州にある製油所、つまり精製された石油をベースに、インフラ・
研究開発・特区優遇等の環境が整備され、中間産業(石油化学製品)・下流産業(プラスチ
ックや化学繊維等)が誘致されている。
カルナタカ州にある Mangalore 製油所から精製された石油を、州内にある約 500 か所以上
の化学産業企業に輸送されている。以下の図は集積度合いが色分けされている。特に製油所
に近い南部に集積している。特に、Mangalore には石油化学に特化した SEZ が形成されてお
り、100 近くの石油製品企業が集積している。
図 2-22 石油産業の集積状況
(出所:Karnataka Udyog Mitra)
(2) グローバル投資家会議(Global Investors Meet:GIM)
カルナタカ政府は、2010 年 6 月に「グローバル投資家会議(GIM2010)」を開催。この
結果、複数セクターにおいて、389 件、計 3 兆 9,200 億ルピー(約 700 億ドル)に上るプロ
ジェクトの覚書締結、これによる 75 万人の雇用創出可能性など、確固たる成果を上げてい
る。
カルナタカ政府は 2012 年にも GIM2012 を開催。この結果、246 件、計 2 兆 8,152 億ルピ
ーに上るプロジェクトの覚書締結、約 137 万人の雇用創出可能性など、引き続き民間投資は
旺盛であり、大きな成果を出している。この GIM2012 には 39 カ国から参加があり、GIM
66
エクスポだけでも 460 社の出展があった。GIM2012 の支援を行っている政府としては、日
本政府、メキシコ政府、及びドイツ・バイエルン州政府であった。
次回の GIM は 2014 年に予定されており、それに向けた準備が既に開始されている。
2.2.3
カルナタカ州と外国政府機関との関係の概観
カルナタカ州においては、
各国政府機関が活発に州政府との関係構築を行おうと積極的で
ある様子が窺われる。政府間で覚書(MoU)締結をしている先としても、カルナタカ州と
の間で MoU を締結している先としては、ドイツ・バイエルン州、米国・デラウェア州など
の州がある。また、州レベル以外にも市レベルでの MoU も締結しており、バンガロール市
と米国・サンフランシスコ市との間で MoU を締結している事例もある。
また、MoU を締結していないケースとしては、台湾がこの 1 年で極めてアクティブに活
動しており、インド政府高官を自国に何度も招聘して関係構築を進める一方、エレクトロニ
クス産業のカルナタカ州進出を含む台湾シティの建設に向けた計画を進めている。
本項では、
これらの外国政府がカルナタカ州との間で進めている二国間関係について概観
するため、ドイツ・バイエルン州、台湾、及び米国・サンフランシスコ市と進めている取組
について概要を記載する。
(1) 政府間関係強化にあたっての州政府の取組の種類
カルナタカ州政府が実施している諸外国中央・州政府及び諸外国民間企業との関係強化の
取組としては、以下のようなものがある。

ロードショー:国内外においてカルナタカ州を投資家に対しアピールするロードショー
の実施

代表団の派遣:協力関係強化及びビジネス機会発掘等を目的とした政治・経済ミッショ
ンの相互派遣

文化交流イベント:相互文化理解のために 2 カ国に係るイベント開催

教育交流:コミュニティレベル、ビジネスレベルでの関係醸成

B2B Meet:投資家を集めた商談会
67
なお、2012 年に実施した Global Investors’ Meet 2012 では、国内ロードショー(デリー、
ハイデラバード、チェンナイ、ムンバイ、コルカタ、国内博覧会等)や、航空宇宙関係の海
外ロードショー(日本、シンガポール)、投資家マッチング会合等を開催している。以上の
ように、MOU は外国政府との関係促進を約束するものではない。MoU が外国との関係強化
にあたって最も有効なのは、以下のような条件を備えた時である。

投資のエリアが明確化されており、実際の事業が選定されている時

両政府間に以前からの交流があり、協力の範囲を選定したうえで、その関係を公式なも
のにしたいと考えている時
政府間の関係構築にあたっては以上のような方法が取られているが、以下の項では、実際
の他国政府の実施している事例について紹介する。
(2) ドイツ・バイエルン州
①ドイツ・バイエルン州の概況
2010 年のバイエルン州の GDP は 4,424 億ユーロに達しており、欧州 27 カ国中 20 カ国を
上回る経済力を有している。2011 年の輸出額は前年比 11%増の約 1,600 億ユーロとなり、
今後も高い成長が見込まれている。
また、バイエルン州は先端産業の集積するハイテク産業拠点となっている。自動車、IT、
電機を中心に、その周辺産業も集積しており、ドイツで一番のハイテク産業地域であり、ま
た欧州でも有数の産業集積地域である。
面積
70,550 平方キロメートル(ドイツ最大の州)
人口
約 1,253 万人(首都ミュンヘンの人口:136 万人)
GDP 成長率
3.5 – 4 %(2010 年)
主要産業
自動車、生産技術、ライフサイエンス、航空宇宙、ICT、材料技
術、環境・エネルギー供給技術・システム、観光、農業、林業
州内の主要企業
アリアンツ保険、シーメンス、BMW、アウディ、EADS、アディ
ダス、プーマ、MAN、等
バイエルン州の海
ブラジル・サンパウロ、ブルガリア・ソフィア、中国・青島、イ
外現地事務所
ンド・バンガロール、イスラエル・テルアビブ、日本・東京、カ
ナダ・モントリオール、クロアチア・ザグレブ、メキシコ・メキ
シコシティ、オーストリア・ウィーン、ポーランド・ワルシャワ、
ルーマニア・ブカレスト、ロシア・モスクワ、南アフリカ・ヨハ
ネスブルグ、チェコ共和国・プラハ、トルコ・イスタンブール、
68
ウクライナ・キエフ、ハンガリー・ブタペスト、米国・ニューヨ
ーク、サンフランシスコ、UAE・アブダビ、ベトナム・ホーチミ
ン市(以上 2010 年 7 月時点)
表 2-7
ドイツ・バイエルン州の概況
(出所:Invest in Bavaria, 2011)
②他国との関係
バイエルン州が政府間委員会などにより特に密接な二国間関係を持っている国・州として、
チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、スロバニア、クロアチア、セルビア、マケ
ドニア、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、モスクワ市という欧州諸国が挙げられてい
る。また、ワーキンググループが設置されている州として、ケベック州とカルナタカ州が挙
げられている。
その他に、多国間作業部会及び政府間の協力ネットワークである「Regional Leaders
Conference」 にもアクティブメンバーとして参加している。この構成としては、バイエル
ン州のほか、オーストリア・リンツ州、カナダ・ケベック州、ブラジル・サンパウロ州、中
国済南州、南アフリカ・ケープタウン市、となっている。
► 過去 10 年間、バイエルン州はカルナタカ州で活発に活動
► バイエルン州経済省はバンガロールに駐在員事務所 Invest-in-Bavaria を設置
► 文化交流、教育促進、研究開発、貿易投資など、すでにさまざまな側面でバイエル
ン州とカルナタカ州の関係が構築されている
► 2007 年、バイエルン州とカルナタカ州は関係強化のために覚書を締結
③カルナタカ州とバイエルン州の関係の概観
a. バイエルン州政府の取組
・ 2001 年:バンガロールにバイエルン州の駐在員事務所を設置。
・ 2007 年:カルナタカ州とバイエルン州の間で MOU の締結。
・ 2009 年:技術開発・ビジネス開発に関する Joint Action Plan がカルナタカ州とバイエル
ン州の間で締結。

内容としては、両州間での大学間協力の促進(生徒・講師間交流含む)、水分野で
のパートナーシップ継続、インフラ分野での協力促進、フィルム・メディア分野で
の協力促進(Film-FernsehFonds Bayern と協働)、等。
・ 2009 年:Hof University に、Bavarian-Indian Centre for Business and University Cooperation
(BayIND)設立。
69
・ バイエルン州とインドの複数大学との間での学術研究や人材交流に関する協定締結(バ
ンガロール大学等)。
b. 現在のバイエルン州、カルナタカ州及びインドのビジネス関係
・ 350 社以上のバイエルン州の企業がインドに立地。
(例:シーメンス、BMW、Allianz、Adidas、MAN、Audi、等)
・ バイエルン州内で就労・就学しているインド人の数は 7000 人に上る。また、バイエル
ン州内に立地するインド企業は約 50 社に上る。即ち、ドイツに立地するインド企業の
1/4 はバイエルン州に立地している。(例:Dr. Reddy、Wipro、TCS、HCL、Reliance、Tata、
等)
・ インド-バイエルン間の年間貿易額は 20 億ユーロ以上
・ インド-バイエルンの企業間のビジネス関係は 1,167 以上
(3) 台湾
首都
:
台北
人口
:
23,315,822 人 (2012 年)
面積
:
36,193km2
名目 GDP
$ 4,640.54 億 (2012)
人口一人当たり GDP
$19,888 (2012)
経済
:
・ 投資・貿易において州の関与を徐々に減少させる
・ ダイナミック、資本主義、輸出主導型経済
・ 中小規模ビジネスが大多数
台湾政府はカルナタカ州との MOU は締結していないが、セミナーや代表団派遣、ロード
ショー等を通じて活発にカルナカタ州と対話を重ねている。また、台湾政府はカルナタカ州
政府代表団を台湾に招へいし、
台湾企業への紹介を行うなど積極的にビジネス関係構築に向
けた取組を行っているようである。
なお、カルナタカ州にとって台湾は、カルナタカ州が有している既存の産業(IT:ソフト
ウェア)に対して、現在は弱い産業(エレクトロニクス:ハードウェア)を提供することが
できる。一方、台湾にとっても、自国で強いエレクトロニクスと、自国が弱くカルナタカ州
70
が強い IT(ソフトウェア)については、相互補完の関係がある。このため、両者の関係強
化により、双方にとってメリットがある関係が構築されるという声も聞かれた。
(4) サンフランシスコ市・郡と Bruhat Bangalore Mahanagar Palike (BBMP)との MOU(2008
年 10 月)
サンフランシスコ市・郡の MOU は、元々は姉妹都市協定を締結したことを発端とするも
の。姉妹都市協定の MOU に関する付随的 MOU として、ビジネス面の MOU を別途締結す
る形をとっている。なお、バンガロールは歴史的に IT に強く、サンフランシスコも同様に
IT に強いため、同業種での連携を期待する声も聞かれている。

原 MOU はサンフランシスコとバンガロールの姉妹都市協定の促進を目的とする。
原 MOU のフォーカス分野は以下の通り。


芸術及び演劇

ビジネス及び貿易促進

インフラ整備及び健全な政府

クロスボーダー起業

環境、保健、教育
原 MOU を補完する形で付随的 MOU も締結している。
例えば、ビジネス分野に関する付随的 MOU について概要を抜粋すると以下の通り。
71
【サンフランシスコ市とのビジネス分野における MoU の概要(抜粋)】
<インド国カルナタカ州バンガロール The Bruhat Bangalore Mahanagara Palike と米国サン
フランシスコ市・郡覚書(MoU)>
目的:
バンガロールとサンフランシスコは 2008 年に姉妹都市となったが、特に以下の分野に
おける両市の連携および両市の貿易関連組織の絆をさらに強化するために、2009 年 11
月 30 日、カルナタカ州 IT/BT and Industries and Commerce、Science and Technology、
Core Committee 委員長と San Francisco Chamber of Commerce 会長により本 MoU が締結さ
れた。

情報通信技術

バイオテクノロジー

科学・技術

エンジニアリング

先端材料、医療機器、輸送交通、環境サービス、環境設計・技術、インフラ、化学・
医薬品、電気製品設計、航空宇宙、メディア技術、委託研究・製造、財務、機械ツ
ールなどのハイテク産業

手工芸品・芸術
なお、本 MoU に基づいて実施される活動や交渉の結果発生したコストは各都市がそれ
ぞれ負担する。
また、その他商工業セクターにおける事業協力の可能性を高め、相互利益を創出する
ために、事業・共同事業設立支援、催事共同開催、博覧会参加、輸出増強につながる民
間セクターの結びつきを強化する直接的な共同事業を重点目標として特定技術と事業開
発組織とのパートナーシップを促進することも目的とする。
原則:
本パートナーシップは以下の原則に基づく。

相互利益

対等な関係

互恵主義
有効期限:
本覚書は 2009 年 11 月 30 日から 2012 年 11 月 29 日の3年間、有効とする。
(出所:原文(http://www.sfbangalore.org/mou_files/City-County_of_SF_and
_Bruhat_Bangalore_MOU-11-30-09.pdf)を元に新日本有限責任監査法人作成)
72
2.3
グジャラート州及びマハラシュトラ州の外国政府機関との関係
2.3.1
グジャラート州
(1) 概要
 グジャラート州における投資促進の中心的役割を担うのは iNDEXTb
 グジャラート州政府は、隔年の投資促進イベントとして Vibrant Gujarat 世界投資家サ
ミット(VGGIS)を開催。政策策定者、産業界、オピニオンリーダー等、さまざまな層
より参加がある。
 同サミットは国内外からの投資を誘致し、州の経済・社会発展を育むことを目的として
幅広い調査と戦略に基づいて開催される。
 民間事業者との MoU が多数締結されており、これらの MOU 締結事業が実際に投資に
つながるかどうかが追跡されている。なお、中小企業セクターにおける 2009~2011 年
における MOU の追跡結果については以下の通りである。グジャラート州への投資の関
心は、ここ数年で急速に伸びていることが窺われる。
2005
2003
Reestablishing
Gujarat as
投資先とし
Investment Destination
て再認識
2009
2007
Making Gujarat as
優先投資先
Preferred Investment
Destination
に選定
Making Gujarat as Most
最優先投資
Preferred Investment
Destination
先に選定
2011
Showcasing
Gujarat –
国家経済を
The
Growth Engine of
けん引する
India
力を提示
The
Global Business
世界のビジ
Hub
ネス拠点
Investment proposed,
U S 投資準備高
D billion
(10 億ドル)
14
20
93
240
450
No . of MoUs
締結された
MoU の数
76
226
363
8,660
8,380
1.3
2.6
6.1
Employment million
雇用
(100 万人)
図 2-23 グジャラート州への投資の推移
(出所:Vibrant Gujarat)
73
2013
2013
世界の
The
Global
ビジネス
Business
拠点Hub
(2) グジャラート州と他国との関係:カナダの事例
グジャラート州において、
我が国は最も対話が進んでいる外国政府として認識されている。
一方で、日本の次に同州と活発に対話を行っている国と評価されているのがカナダである。
グジャラート州との MOU を締結しているのは、日本とカナダの 2 カ国と言われている。ま
た、先般の Vibrant Gujarat 世界投資家サミットにおいても、日本とカナダの 2 カ国がパート
ナー国として名を連ねた。
国
カナダ
首都
:
オタワ
人口
:
33,476,688 (2011 年)
面積
:
9,984,670 km2
GDP/人口一人当
1 兆 7,700 億ドル (2012 年推
たり名目 GDP
計)
1 兆 4,450 億ドル (2012 年推
計)
経済
:
► OECD 加盟国、G8
► 主要産業はサービス産
業、次いで製造、自動
車、航空機

グジャラート州は活発にカナダとの経済関係を構築

カナダはグジャラート州の隔年投資家サミット Vibrant Gujarat に2度(2011 年、2013
年)参加

2012 年には加印ビジネス・カウンシルとグジャラート州産業支援局が関係強化のため
に覚書を締結
74
2.3.2
マハラシュトラ州
(1) マハラシュトラ州の投資促進機関(MIDC)
マハラシュトラ州の投資促進機関に相当するのが、マハラシュトラ産業開発協会(MIDC)
である。しかしながら、MIDC は投資促進専門機関ではなく、その取組はカルナタカ州やグ
ジャラート州と比較すると充実度としてはやや劣るという意見もある。海外との MOU につ
いても、締結の動きはあるものの、未だ外国と MOU を締結した事例は同州ではないようで
ある。
(2) マハラシュトラ州のセクター概要資料
マハラシュトラ州のセクター概要資料には、州の有するセクターの現状、成長推進要因、
政府の政策の概要が記載されている。しかし、マハラシュトラ州で実施している産業分析に
おいては、
カルナタカ州のようなバリューチェーン分析は現状まだ実施されていないようで
あり、バリューチェーン上で欠落している分野(gap areas)や提案プロジェクト等は州の公
開資料には提示されていない。
(3) マハラシュトラ州の他国との関係:シンガポールの事例
マハラシュトラ州は、シンガポールとの間で、共同作業部会委員会(JWGC)を構成して
おり、2012 年 3 月に最初の会合が開催された。
その概要をまとめると、以下の通りとなっている。

シンガポールとマハラシュトラ州がともに関心を有している分野を特定し、
経済活動に
係る情報共有の場を提供するために、両者の相互協力のための共同作業部会委員会
(JWGC)を設立

以下の重点分野が特定されている。

Mumbai Metropolitan Regional Development Authority (MMRDA)でのインフラ開発と
Brihanmumbai Municipal Corporation (BMC)の事業


街区モデルのような産業発展

グリーン都市、沿岸管理等の環境課題

観光(ホスピタリティなど)や社会(学校教育など)分野
技術・経済分野での共同事業案
75


マルチモーダル回廊事業

モノレール事業

メトロ鉄道事業

廃棄物管理

地域の埋立地を使った電子電機機器廃棄物(E-waste)事業
その他、JWGC により発掘された機会としては、公共事業管理、分散型下水処理場、パ
ーキングシステムへの知識支援、料金徴収システム、社会インフラを整備した産業街区
開発など。
2.3.3
グジャラート州・マハラシュトラ州・カルナタカ州の姉妹都市協定
カルナタカ州の事例において、サンフランシスコ市とバンガロール市との間で、既存の姉
妹都市協定の延長としてビジネス面での関係強化を行う MOU 締結の事例が確認されてい
る。この事例より、インドの州との関係強化においては、市レベルで締結している姉妹都市
協定を進化させることも一つの手法であることがわかる。
本項では、以下に、対象の 3 州の既存の姉妹都市協定について整理した。
76
マハラシュトラ州
都市
カルナタカ州
国
Mumbai
都市
グジャラート州
国
Mysore
都市
国
Ahmedabad
Berlin
ドイツ
Cincinnati, Ohio
米国
Astrakhan
ロシア
Stuttgart
ドイツ
Cupertino, California
米国
Columbus, Ohio
米国
London
英国
Mangalore
Jersey City, New
Jersey
米国
Los Angeles
米国
Singapore
シンガポール
Ulsan
韓国
St. Petersburg
ロシア
Hamilton, Ontario
カナダ
Port Louis
モーリシャス
Yokohama
日本
Caracas
ベネズエラ
Bhavnagar
Delta, British Columbia
カナダ
Loughborough
Navi Mumbai
Caracas
ベネズエラ
Bengaluru
Bogotá
コロンビア
Minsk
べラルース
Singapore
Cluj-Napoca
ルーマニア
San Francisco, California
米国
Vadodara
Damascus
シリア
San Jose, California
米国
Edison, New Jersey
Havana
キューバ
Cleveland, Ohio
米国
Rajkot
Tehran
イラン
Manipal
Jakarta
インドネシ
ア
Loma Linda, California
Kuwait City
クウェート
英国
Surat
Leceister
米国
シンガポール
米国
英国
(以下余白)
(以下余白)
Pune
Fairbanks
米国
Bremen
ドイツ
Tromsø
ノルウェー
Vacoas-Phoeni
モーリシャ
ス
San Jose
米国
Nashik
Bristol
英国
Philadelphia
米国
表 2-8
マハラシュトラ州、カルナタカ州、グジャラート州の姉妹都市
77
インドにおける英国の取組:英国貿易投資総省(UKTI)
2.4
本部
:
ロンドン、グラスゴー
設立
:
1999 年(輸出関連の Trade Partners UK と英国向け FDI 関連の Invest UK
からなる British Trade International として設立。2003 年にこれらが合併し
て UKTI となった。)
従業員
:
2331 人
年間予算
2 億 7 千万ポンド(2009-2010)
親組織
ビジネス・イノベーション・職業技能省、外務英連邦省
インド拠
ニューデリー、アーメダバード、ムンバイ、プネ、バンガロール、チェ
点
ンナイ、ハイデラバード、コルカタ、チャンディーガルの9拠点
英国はインドと歴史的背景があり、英国企業にとって輸出先・投資先として優位性を保持
している。UKTI は海外貿易を目指している企業に対して初歩的なことから技術的なことま
でガイダンスを提供している。
同省大臣は、「UKTI は企業支援を通じて、英国の目標である輸出高を倍増し 1 兆ポンド
とし、2020 年までに輸出事業を展開する企業数を 100,000 社増やす。」と UKTI の位置付け
を明言している。
同省のサービス概要は以下の通りである。
(1) 英国からの輸出:英国を拠点とし、海外展開を検討している企業に貿易に関する専門
家の助言および具体的な支援を提供
(2) 英国への投資:英国投資や拠点構築を検討している外資企業に無償で支援および個別
アドバイスを提供
(3) 防御・安全性:各企業に対して、顧客の要望解釈や事業機会発掘、マーケティングに
係る支援を提供
以下の図の通り、UKTI は世界中に拠点を展開しており、近年はアジアを重視している。
特にインドは次の大きな市場候補として捉えられている。広報活動が活発で、下記写真のよ
うな投資家向けの資料を作成し、オンラインで配布している。
78
在ニューデリー英国大使館貿易投資ディレクターである Barry Lowen 氏は「インドには英
国企業の事業機会が多数あるが、インドは国土も広く、複雑な国。また、他の国同様、独自
の文化がある。インド投資を検討している企業には十分な調査をし、忍耐と根気が必要。
UKTI インドが現地の知見をもって貴社をサポートする。」と明言しており、UKTI のサポ
ート体制を全面にアピールしている。UKTI のインドでの活動は以下の通り。
79
幅広い市場知識
• 市場・セクターに係るアドバ
イス
• 市場参入戦略
• 事業パートナー候補探し
専門家アドバイザーのネットワ
ーク
• 国際貿易
• 市場専門家
• 個別セクター専門家
UKTI 戦略的関係チームとアジ
ア・タスクフォース
• 既存顧客および潜在顧客と
の対話フォーラムの設立
► 参入した英国企業が収益性を向上し、国際競争力を
強化できるインド国内 16 の重点分野を特定
→世界中に広がる大使館、総領事館のネットワーク
で詳細なセクター情報を提供
► 既に海外との取引経験を有している企業に向けて新
たにインド進出を検討する際のガイドを制作
► インド人顧客・パートナーとのやりとりにおける文
化・言語の障害の克服に関して専門家が支援
► 市場調査の方法や承認済の市場調査事業における助
成金獲得の可能性に関する助言の提供
► 現地の国際貿易アドバイザーによる各種助言の提供
► 戦略的関係チームは投資家や輸出事業者とやりとり
をするさまざまな政府内のチーム間で調整を行い、
活発なコミュニケーションを促すほか、投資家や輸
出事業者との関係に係る長期計画の策定を支援す
る。
► アジア・タスクフォースは産業界や教育界、政府か
ら専門家を集結し、米国の輸出とアジア諸国への投
資を伸ばすことを目的として、年 2 回会合を開き、
その具体的方策を協議する。
なお、UKTI の支援による英国企業のインドでの成功事例としては以下が挙げられる。以
下の事例を見ると、英国中小企業のインド市場へのアクセス支援、インド市場での信頼性獲
得、ブランド PR に向けた取組を多く行い、英国企業を積極的に売り出していることが見受
けられる。
(1) 製品試験・検査企業:TVS
TVS は、ソフトウェア、ハードウェア、半導体製造企業の製品に対して、試験・検
査証を実施する企業。2011 年に UKTI にインド進出の相談を持ちかけたところ、UKTI
は 2 月の電機製品貿易視察団に参加するようアドバイスを提供。その後、9 月に初の事
務所をチェンナイに開設し、UKTI は事務所立ち上げ事務サポートも含めた総合的支援
を実施。事務所員は 50 人以上となり、同社は 2012 年 1 月に 2 つ目の拠点を開設してい
る。UKTI は、引き続き市場開拓支援、行政手続き支援を行っている。
TVS は、UKTI の支援によりインド市場への進出が可能となったこと、またインド市
場で名前の知られていない同社が現地で信頼を得る上で有効であったことについて、
特
に有益であったと言及している。
(2) アウトソーシング企業:Xchanging Plc
2000 年に設立された同社に対し、2010 年 3 月 UKTI と英国副高等弁務官が同社のイ
ンド・シモガ支社を訪問し、短期間で大型投資をシモガで実行することをアドバイス。
80
その際に UKTI は同社役員を英国首相が参加するハイレベルのインド貿易ミッション
の一員として参加を呼び掛けた(2010 年 7 月)。その際に UKTI は同社とインド中央
政府とカルナタカ州政府とのミーティングをアレンジし、同社はインドでのビジネスに
対し 5 年間で 7,700 万ポンド投資することを約束。更にカルナタカ州電力開発公社
(KEONICS)との共同事業にも合意。
Xchanging Plc は、カルナタカ州での投資が非常に大きなステップであり、UKTI がこ
の野心的なプロジェクトを支援したと言及している。また、英国のビジネスリーダーや
首相とともに参加した貿易ミッションにおいて政府とアクセスしたことで、
インド政府
に対して同社の信頼性をアピールすることができたと言及している。
(3) 自動車製造業者向け運転サービス企業:Pro2
UKTI ロンドンが主催した India Marketing Strategy Scholarship Programme に Pro2 社が
参加したことが、同社のインド進出における最初の取組。さらに、2010 年 3 月に同社
社員が現地で実施された 5 日間の集中研修プログラムに参加し、
インドのビジネス環境
や文化を学習。2011 年 1 月、UKTI 先進技術チームの勧めにより、Pro2 がインドで業
界最大規模の展覧会である国際自動車技術シンポジウムに参加したことが、
インドにお
いて同社の信頼性とブランドを広めるうえで非常に役立った。その結果、2011 年 7 月
にはインドの 3 大自動車製造業者の一つであるマヒンドラ社へのトレーニングコース
の提供が実現した。
UKTI による様々な支援により、海外進出が初めての Pro2 社はこれまでのところ非
常に事業が成功しているとしており、主に潜在的なインド事業の成長から、今後 5 年間
で総売上高5倍増を見込んでいる。
(4) IT 技術研修のソリューションを提供する企業:Doulos
Doulos 社は 1990 年に 3 名の電子デザインエンジニアだけで設立。2000 年までは英国
でのビジネスを中心としていたが、その後海外進出を検討。2010 年に同社は、インド
半導体協会サミットに向けて UKTI により形成されたインド貿易ミッションに参加。同
社は地場のエレクトロニクス企業とのネットワーク構築を希望しており、その際 UKTI
が地場の研修実施企業との面談をアレンジした結果、同社は現地で IT 教育が現地でど
のように実施されているかについて知見を獲得。
UKTI がこのミッション期間にインドの半導体企業に積極的に紹介し、ターゲット市
場のキーマンへのブランドアピールを支援してくれたと Doulos 社は言及しており、
UKTI の支援なしではこれら企業との面談は成立していなかっただろうと述べている。
81
3
我が国政府が今後取るべき拠点作りに係る政策の提言
3.1
3.1.1
ASEAN での拠点作りに係る政策の提言
産業集積とインフラ整備
・ ASEAN 諸国において様々な産業政策がある中、その政策と実態のギャップの存在が露
見されつつある。特にフィリピンにおいては、製造業等の産業の繁栄を目指す政策を掲
げるも、実際はサービス業等の第 3 次産業が成長しており、目指す製造業の成長には繋
がっていない。途上国において、政府が自国の成長させるべき産業を特定させることは
困難であるとの見解があるが、産業が集積することによる、周辺雇用の創出効果等が大
きいため、政府が積極的に産業育成を実施するべきとの声は多い。従い、拠点開発計画
の策定にあたっては、相手国に対し適切な産業政策を策定することを支援・提言するに
止まらず、ADB のフィリピン産業に係る調査にもあるように、産業集積に関する緻密
な分析を行い、当該拠点においてどの産業が伸びるのか、あるいは、伸ばせるのか、把
握していくことが有効であろう。
・ 産業を集積させるための政策手段として、補助金の付与や税金の免除等が一般的に選択
されてきたが、それに平行して、自国企業の海外進出を支援するには、相手国のソフト
/ハード両面でのインフラ整備を後押しすることが重要であり、それが相手国の産業集
積を促すツールにもなることは周知の事実である。従い、ターゲットとなる拠点で見通
される産業集積の姿が自国企業への裨益に繋がると想定される場合、その発現に向けて
は、ソフト/ハード両面でのインフラ整備を提案していくことも重要となろう。
・ 更なるポイントは、対象地域について「インフラ整備が適時適切に進む」と進出を検討
している企業に確信を持たせるように日本、対象国双方の政府が積極的に関与すること
であると考えられよう。
3.1.2
相手の状況を踏まえた支援
・ 他国の事例をみると、韓国は、政府が特定企業の途上国に対する進出を積極的に後押し
している。支援の方法は、まず、①相手国が置かれている状況、支援を必要としている
内容を検討し、②さらに自国企業が進出の際に必要としている内容を整理(例えば、土
地の提供や低廉な電力等)、その上で、①と②をパッケージ化した上で、直接、相手国
政府(ハイレベル・大統領)に働きかけるというかたち。
・ 既に自国企業の投資を前提として要望事項がパッケージ化されているため、相手国政府
82
(ハイレベル・大統領)が認めればすぐに実行に移されるような案件が多いとみられる。
そのため、スピード感があり、相手国の評価も高い。こうした相手の必要とするものを
見極め、自国企業が必要とする支援内容をパッケージ化して、相手のハイレベルとかけ
あう韓国の手法は、今後の我が国の企業進出支援にあたって参考になると考えられる。
・ なお、途上国自身の経済成長、中国等の新たな強力な支援国の台頭から、途上国側も支
援する側に対して、強気になりつつある傾向があるとの声があった。こうした環境では、
双方向が長期的に裨益するような仕組み、例えば、双方の国の企業が相手方に投資する
ように促すといった政策の必要性についても検討をすべきか。
3.1.3
進出希望企業に対する支援
・ 最近、我が国の企業、特に中小企業の海外進出の動きが活発になっている。日本政府の
支援の手段も多様なものが準備されている。日本政府は日系企業が海外進出するに当た
りきめ細やかなサポートが必要である。進出のその入り口だけのみならず、立ち上げ後
のフォローアップが可能な支援体制・機能を構築する必要がある。
83
3.2
3.2.1
インドでの拠点作りに係る政策の提言
産業セクター分析と拠点開発
(1) 州が実施している産業分析の現状と我が国の協力可能性
カルナタカ州、グジャラート州、マハラシュトラ州等の先進的な州では、州の現在の産業・
今後のターゲット産業について、外部コンサルタント等の活用により分析を行っている(バ
リューチェーン分析を行っている事例もある)。このため、ターゲット産業に関する分析に
関する外国政府・国際機関等からの支援については、基本的に得ておらず、あまりニーズも
なさそうであった。従って、インドにおいては、先進的な州に対しては、まずは州政府が行
っている既存の分析に関する情報収集を行うことで、例えば、自治体間の連携を深めていく
ことを模索することが有益と考えられる。ただし、まだこれらの分析を行っていない比較的
後進的な州に対しては、産業分析に関する支援を行う余地はあるものと考えられる。
なお、このような対象とするターゲット産業を分析するにあたっては、インドにおいては
国ではなく州を対象とすべきという声が多く聞かれており、
州を対象とするべきであると考
えられる。
(2) インド市場において我が国が強みを発揮できる分野の分析
UKTI では、セクター毎に専門家を置いて、インドの各セクターについて詳しく研究して
いる。特に、英国企業の強みが発揮できるセクターをインドについては 16 分野特定して、
セクターに特化した個別企業支援を提供しているのが最大の特徴。
我が国においても、自国の強みが発揮できる産業分野について、インドの各州に関する分
析を行うことで、よりフォーカスされた支援サービスを提供していくことは、企業支援にお
いて有益であると考えられる。
(3) 上記市場分析を活用したビジネス機会発掘・拠点開発
各州では、分析結果に基づきターゲットの国を絞り込みロードショーを行っている。この
ため、
これらの州によるロードショーにおいて事業がマッチする可能性が高いことが想像さ
れる。我が国としては、インド側がこのようなプロセスを経て実施していることに鑑み、ロ
ードショーを実際の事業に繋げていくような取組がより必要とされていると考えられる。
こ
のため、インド州政府がロードショーを実施する際に、重点産業でのマッチングがなされる
ような取組も重要であろう。例えば自治体とのタイアップを行うのであれば、日本側で各地
84
域がどの分野に強いのかの分析を行い、
インドの州側の産業とマッチするような自治体との
関係構築を行うことのできる体制を日本側に構築していく一層の取組も有効と考えられる。
3.2.2
インド州政府との関係構築、対象州でのプレゼンス向上
(1) インド州政府高官との関係構築
他国は政府高官の訪印によるビジネス関係構築について強い印象がある一方、過去数年の
日本のトップ外交が少ないという印象があるという声も聞かれた。このため、日本の政府高
官の訪印の機会を増やすことは、
現地での日本のインド戦略強化の姿勢を示すうえで有効で
あると考えられる。
他方、インドの政府高官の日本への招へいも有効と考えられる。台湾では、インドの州政
府高官を招へいして自国の産業についてアピールしており、
訪問時にも非常に高評価である
ことが確認された。このため、このようなインド州政府高官の招へい等もいっそう積極的に
実施することは、
我が国のインドでのプレゼンスの更なる向上においても有益と考えられる。
(2) インド及び対象州でのプレゼンス向上
他国については、自国が強い産業に関するアピールが州政府に対して積極的にあるため、
各国がインドで展開したい産業に関する印象が強くあるという意見が多く聞かれた。
我が国
も、州政府に対して、どの分野に関心があり協力を検討しているかの表明を行うこともビジ
ネス機会を確実に捉える上で必要な取り組みであると考えられる。
なお、欧米や韓国等に対しては、メディア等の影響もあり多く情報が入るため国としての
各国に対する印象が強いという点が指摘されている。我が国についても、より広い視点に立
ち、ビジネスの前段階で日本についての宣伝(クールジャパンの取組強化も含めて)をより
精力的に行うことで、日本のビジビリティはより高まることが期待される。
3.2.3
進出企業への支援
(1) 官民連携の強化
欧州等の他国は政府と民間が一体となっているように見えるという指摘が複数見られた。
特に問題が発生した際に、
欧州等他国では政府機関が積極的にサポートする姿勢に対して評
価が集まった。さらに欧州では、問題発生時の連携だけでなく、特定企業を支援する形での
85
政府機関への働きかけなども行っている模様で、政府がアクティブとの評価を受けるなど、
全般的に欧州では官民の連携が非常によいという印象が持たれている。我が国も、既存の企
業支援のいっそうの強化が期待されていると考えられる。
(2) 専門分野に特化した企業へのきめ細かい支援
英国の UKTI はインドに 9 か所の拠点を持ち、中小企業対応に特化して業務にあたってお
り、
個別企業の進出時から進出後まで一貫してきめ細かい対応を行っているという声が聞か
れた。特に、セクター毎の専門家が、実際に対象市場に対して英国中小企業を売り込むよう
な取組が多く見られており、英国中小企業のインド市場へのアクセス支援、インド市場での
信頼性獲得、ブランド PR に向けた取組を多く行っている。このような取組は、特に中小企
業の海外展開において非常に示唆に富むものであり、我が国においても参考になる点が多い
ものと考えられる。
86
3.3
3.3.1
新興国全般における拠点作りに係る政策の提言
産業セクター分析と拠点開発
(1) 産業セクター分析に関する我が国の協力可能性
本調査の結果、ASEAN、インドともに、産業セクターの分析を行い、重点セクターにつ
いてその分野の企業の誘致を行い、産業集積・拠点開発を行っていくことは、政策的に有効
であることが確認された。特にフィリピンでは、本来のターゲット産業である既存の製造業
と実際の集積産業とがマッチしておらず、経済成長がなかなか進まないという課題を抱えて
おり、適切な現状分析に基づくターゲット産業の選定・育成に向けた企業誘致が重要である
ことが確認されている。また、インドでは、既に州政府にて自前での取組が進んでおり、こ
の重点産業に基づき対象国へのアプローチを行い、
拠点開発に向けた企業誘致への取組を行
っていることがわかった。従って、地域毎に現状おかれている状況に温度差はありつつも、
我が国として力をいれていくターゲット国・州に対して、バリューチェーン分析等による既
存の産業や今後のターゲット産業について分析を支援することは有効であるという点につ
いては共通して言えるだろう。
なお、分析を行うにあたっては、国単位ではなく、州・県など、より細分化された地域に
ついて分析を行い、対象セクターをより明確化していくことにより、より具体性のある分析
結果を得られ、よりターゲット産業も絞り込むことができると考えられるため、州・県レベ
ルでの取組の強化が望まれる。
(2) 我が国が強みを発揮できる分野の分析
UKTI では、セクター毎に専門家を置いて、対象国の各セクターについて詳しく研究して
いる。特に、英国企業の強みが発揮できるセクターに特化した個別企業支援を提供している
のが最大の特徴。我が国においても、自国の強みが発揮できる産業分野について、今後取組
を強化すべき対象新興国の州・県レベルに関する産業分析を行うことで、よりフォーカスし
た支援を提供していくことは、日系企業裨益の観点からも有益であると考えられる。なお、
このような取組を行うためにも、そもそも我が国はどの分野で強みを発揮できるのか、国・
地域レベルで分析を行うことも必要であろう。
(3) 上記市場分析を活用したビジネス機会発掘・拠点開発
上記(1) (2) において、相手国・州側の現地側の産業状況を分析し、日本側で強味が発揮
できる分野を特定した段階からは、この結果を活用して、ここでマッチした結果に基づく具
87
体的なセクターレベルでのビジネス機会発掘を行っていくことが有効である。このため、重
点産業でのマッチングがなされるような取組も重要であろう。
なお、マッチングについては、これらのミッション時のアレンジに留まらず、定常的なサ
ービスとなることが望まれる。
(4) インフラ整備との関係
ターゲットとなる拠点で見通される産業集積の姿が自国企業への裨益に繋がると想定さ
れる場合、その発現に向けては、ソフト・ハード両面でのインフラ整備を提案していくこと
が重要である。また、対象地域において、拠点開発にあたって必要なインフラ整備が適時適
切に進むと進出を検討している企業に確信を持たせられるように、日本及び当該新興国の双
方の政府が積極的に関与することが必要であろう。
3.3.2
新興国の州・県等の政府との関係構築
(1) 州・県政府高官との関係構築
欧州・韓国等の他国は、政府高官のトップ外交によるビジネス関係構築について強い印象
がある。このため、日本の政府高官のトップ外交の機会を増やすことは、日本の当該国戦略
強化の姿勢を示すうえで有効であると考えられる。
他方、新興国の政府高官の日本への招へいも有効と考えられる。台湾がインドの州政府高
官を招へいして非常に高評価を得ていることが確認されている。このため、このような新興
国の州レベルの政府高官の招へい等もいっそう積極的に実施することは、
我が国の当該新興
国でのプレゼンスの更なる向上においても有益と考えられる。
(2) 新興国及び対象州・県でのプレゼンス向上
当該新興国及び州・県政府に対して、どの分野に関心があり協力を検討しているかの表明
を行うこともビジネス機会を確実に捉える上で必要な取り組みであると考えられる。
なお、欧米や韓国等に対しては、メディア等の影響もあり多く情報が入るため国としての
各国に対する印象が強いという点が指摘されている。我が国についても、より広い視点に立
ち、ビジネスの前段階で日本についての宣伝(クールジャパンの取組強化も含めて)をより
精力的に行うことで、日本のビジビリティはより高まることが期待される。
88
(3) 新興国政府及び自国企業要望事項のパッケージ化
前出の韓国の事例では、
自国企業の投資を前提として要望事項をパッケージ化してあるた
め、相手国政府が認めればすぐ実行に移されるような案件が多いと見られており、スピード
感があると見られている。このような相手の必要とするものを見極め、自国企業が必要とす
る支援内容をパッケージ化して相手国のハイレベルとかけあうことで迅速に事業を進める
韓国の手法は、我が国の企業進出支援にあたっても参考になると考えられる。
3.3.3
進出企業への支援
(1) 官民連携の強化による進出前後の一貫した支援
欧州等の他国は政府と民間が一体となっているように見えるという指摘が複数見られた。
特に問題が発生した際に、
欧州等他国では政府機関が積極的にサポートする姿勢に対して評
価が集まった。さらに欧州では、問題発生時の連携だけでなく、特定企業を支援する形での
政府機関への働きかけなども行っている模様で、政府がアクティブとの評価を受けるなど、
全般的に欧州では官民の連携が非常によいという印象が持たれている。我が国も、既存の企
業支援のいっそうの強化が期待されていると考えられる。
なお、企業支援にあたっては、進出前だけではなく進出後の支援も欧米諸国では手厚く行
われているとの評価であり、今後いっそうの中小企業進出支援が期待されているなかで、我
が国においてもよりいっそうニーズが高まることが予測される。
(2) 専門分野に特化した企業へのきめ細かい支援
英国の UKTI は、個別企業の進出時から進出後まで一貫してきめ細かい対応を行っている
と聞かれており、特にセクター毎の専門家が、実際に対象市場に対して英国中小企業を売り
込むような取組が多く見られている。具体的には、英国中小企業の新興国市場へのアクセス
支援、新興国市場での信頼性獲得、ブランド PR に向けた取組を多く行っている。このよう
な取組は、特に中小企業の海外展開において非常に示唆に富むものであり、我が国において
も参考になる点が多いものと考えられる。
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参考文献
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