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インド共和国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト
JICA プロジェクトブリーフノート インド共和国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト -円借款「デリー上水道改善事業」の促進- 2015 年 5 月 2 年次活動終了時点 インド共和国 デリー準州 ピタンプラ配水区 (パイロット・プロジェクト地区) チャンドラワール浄水場配水区 を悪化させ、必要な施設投資を行うことが出来ず、 1.プロジェクトの背景と問題点 デリー準州(人口約1,675万人)は、給水時間が約3 時間/日であり、その主な原因は、限られた水源と高 い無収水率(浄水場で生産された水のうち、料金請 求ができない水の割合のこと)が挙げられる。無収 水率は40~50%と言われており、主に施設の老朽化 及び不十分な運転維持管理による漏水と盗水に起因 する。最も古い浄水場、送配水施設は、1937年に建 設されており、その後1950年代を中心に施設整備が 進められてきたため、近年では経年劣化が問題とな っている。そのため、計画的な施設の更新が求めら れているが、施設データの整備が出来ておらず、施 設更新計画を含む長期アセットマネジメント計画が 策定されていない。さらに、適切な運転維持管理が なされていないことから、無収水の原因分析やその 対策が出来ていない。加えて、配水量の地域毎のば らつきがあることから地域間の水圧差が生まれ、水 圧の高い地域では漏水量が増える原因の一つとなっ ている。これらに起因する高い無収水率は財務状況 それがさらなる無収水率の悪化を招くという悪循環 を生んでいる。 このような状況に対応すべく2008年にデリー開発 庁により策定された「デリー都市計画2021」の中で、 無収水削減対策と均等給水の必要性が指摘されてお り、デリー上下水道公社(以下、「DJB」という。) は当該計画に基づいた事業実施を推進することとな っている。その一環として、JICAは開発調査「デリ ー水道改善計画調査」(2009-2011年度)を通じマ スタープラン(以下「MP」という。)策定を支援し た。MPでは、2021年を目標年とし、均等給水実現と 無収水削減対策を実施するために、3階層すなわち① 浄水場から配水池、②配水池から小ブロック(DMA)、 ③ 小ブ ロック 内配 水に送 配水 を分け 、そ れらを SCADA(コンピュータ)システムで監視・制御し、 小ブロック単位での無収水対策を行うことを提案し、 必要な施設整備計画を作成した。その後、インド国 政府から我が国政府に対して、同MPの中で最優先事 業とされていたチャンドラワール浄水場系統につい -1- て、既存上水道施設のリハビリによる給水サービス ②SCADAシステム導入による配水能力向上、 改善を目的とする、円借款「デリー上水道改善事業」 ③GIS(地理情報システム)及びRMS(収入管理シ (以下、「本体事業」という。)が要請された。 ステム)を活用した事業実施能力強化 を目指す。 2.問題解決のアプローチ ①は、施設更新、優先順位の高い送配水管、全給 (1) プロジェクト概況 水管の更新を行い、老朽化に起因する漏水を削減す JICAは、本体事業の実施促進支援、ハード支援と 技術協力(ソフト支援)の相乗効果による開発効果 増大を目指すことを目的とした有償附帯プロジェク ト「デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェ クト(以下、「本プロジェクト」)の実施について インド政府と合意し、2012年12月に本プロジェクト の詳細計画策定調査を行い、本体事業および本プロ ジェクトの枠組み(下表参照)について合意した。 る。また、施設や送配水管の更新を検討する際に必 要な既存施設情報をDJBが適切に管理できる。 ②は、パイロットプロジェクト・エリアにSCADA システムを導入し、その操作方法と活用に係る技術 移転を行い、弁操作による均等給水の実現を支援す るとともに、流量データと顧客請求データとの比較 により無収水量を推定する方法を確立し、無収水対 策の強化に貢献する。これらのノウハウは本体事業 【上位目標】デリー準州において、給水装置を含 む既存の上水道施設を改築・更新することによ り、24 時間連続給水かつ、均等で安定的給水サ ービスの提供を図り、もって同地域住民の生活環 境の改善に寄与する。 で導入するSCADAシステムに活用される。 ③は、本プロジェクトにおいて、DJBの経営の現状 を踏まえて短期的、中期的に目指す姿、取り組むべ き課題を整理し、その実現に向けたGIS/RMSの段階 【プロジェクト目標】 「デリー上水道改善事業」実 施のための DJB の能力が強化される。 的な活用及び開発シナリオ作りを支援する。その中 【成果-1】チャンドラワール浄水場系統の施設デー タ・情報管理に係る DJB の能力が強化される。 データを活用して、DJBはアセットマネジメント計画 【成果-2】均等給水・無収水管理のための配水コン トロール・モニタリングに係る DJB の能力が強化 される。 的な施設更新を実施する能力が高まる事が期待でき、 【成果-3】GIS(地理情報システム)/RMS(収入管 理システム)活用に係る段階ごとの発展シナリオ これら①~③を通じて、高い無収水率により料金 長期シナリオに基づき本体事業において整備される を作成する。その作成を通じて、DJBは計画的で効率 無収水削減を含めた持続的なDJBの経営体制強化に 貢献する。 収入が低下し財務状況が悪化するという悪循環から 脱却し、均等給水を実現し限られた水資源の有効活 本体事業は、主に以下の5つのコンポーネントから 用と安定した持続的な水道事業の実現を支援する。 成り、 a) 浄水場の更新とSCADAシステムの導入 本体プロジェクトと有償附帯プロジェクトの関係 を図1に示す。 b) 西地区の送配水管更新 c) 中央地区の送配水管更新 (2) プロジェクト実施体制 d) 東地区の送配水管更新 プロジェクト実施体制は、DJBの副総裁をプロジェ e) デリー準州の施設情報に係るGIS情報整備 クトの長とし、DJB本部の上級エンジニアと日本人専 本体事業及び本プロジェクトでは、 門家で構成されている。プロジェクトの実施体制は ①老朽化した施設更新等の施設能力強化、 図2の通りである。 -2- 図1 プロジェクト概念図 (3)技術移転セミナー 合同調整委員会(Joint Coordinating Committee) 1) 活動の基本方針 総括:プロジェクト・ダイレクタ- Additional CEO / Director (F&A), BJB セミナーでは、東京都水道局職員を講師として派 遣し、日本及び東京水道の経験や知見をDJBに紹介す DJB JICA る。セミナーは6回(2回/年×3か年)開催する。 2) セミナーの実施状況 第 3 回セミナーは 2014 年 8 月、第 4 回セミナーは 合同チーム 2015 年 3 月に開催された。各回とも約 100 名の参加 DJB JICA専門家 <管理サイド> ・マネージャー :C.E. (Project) Water ・副マネージャー :S.E. (project) Water III &IT ・パイロットプロジェクト主担当 :E.E (Project) Water II <技術サイド> ・S.E. (E&M), (Central), (NW) ・S.E. (Project) Water III & IT ・S.E. (E&M) WC‐I ・チーフアドバイザー ・GISマッピング ・送配水管網 ・SCADA ・GISアプリケーション ・DMA ・無収水分析 ・漏水探査 ・水道事業経営 ・業務調整 者があり、活発な議論が交わされた。また、新しい 試みとして第 3 回以降は、討議形式のセッションを 設け、本邦事例とデリ ー 事例 とを比 較しな がら議論を交わした。 セ ミナ ーにお ける発 表内容は、下表のとお 図2 プロジェクト実施体制図 りであった。 -3- 第 4 回デリーセミナー 開催回 第3回 東京都 水道局 DJB JICA 専門家 討議 DJB 第4回 東京都 水道局 討議 発表者及び発表内容 経営改善による無収水削減対策 東京の漏水防止 漏水探知及び修理手順 漏水探知デモンストレーション の報告と漏水削減の提言 無収水削減対策 本邦研修の報告 DJB における GIS 活用シナリオ チャンドラワール浄水場におけ る日常点検の取組みに関する報 告 東京都水道局におけるアセット マネジメントの取り組み 「データベースと施設更新計画」 健全な経営のための料金体系 管路施工監理 都水道局の関係団体と連携した事業運営にも興味を 示した。 DJBは、本邦研修を通じて自身の課題を再認識し、 日本側と課題を共有することとなった。この結果、 双方の関係がより深まり、JICA専門家とDJB職員の 共同作業がスムーズに実施されるようになった。 (4)活動 1:チャンドラワール浄水場系統の施設デー タ・情報管理に係る DJB の能力強化 1) 活動の基本方針 活動1の目的は、本体事業の詳細設計及びインド政 府内の事業承認に必要な「詳細プロジェクト報告書」 (Detailed Project Report:DPR)の作成を支援するこ とである。DPRには、計画図面、実施スケジュール、 事業費積算が含まれている。本プロジェクトにおい 3) 本邦研修の実施状況 DJB幹部職員7名を対象とした本邦研修を、2014年 て収集・整理する管路情報、選定する更新管情報は、 11月の約10日間東京で実施した。本研修の目的は、 DJBにより適切に管理されることが重要であり、DPR 効率的な施設の維持管理、効果的な水運用(均等給 作成の基礎情報となる。DPRの承認後にODAローン 水)に関する知識を習得し、本プロジェクトの目標 コンサルタントによって詳細設計が行われ、引続き、 である配水管理、SCADAシステム、漏水探知、GIS 施工業者の入札手続きが開始される。 等の運用・維持管理能力の強化である。また、実地 【新設管】 訓練・本邦技術の視察等も併せて実施した。 MPのレビュー 視察 講義・実習 主な講義・視察内容 東京都水道局三園浄水場 東京都水道局小右衛門給水所 東京都水道局水運用センター 東京都水道局お客様センター 水道メータ検針業務 東京都新宿営業所 東京都水道局配水管施工現場 漏水探知講義&実習「東京都水道局研 修・開発センター」 SCADA 講義及び実習「㈱日立製作所」 ダクタイル鉄管製作工程視察、GIS 講義 及び実習「㈱クボタ」 DJBは、浄水場等の水道施設・配水管の施工現場の 【地下埋設物】 GISデータ 【本プロジェクト】 新規布設管の抽 出 地下埋設物の確 認 管布設位置情報 【既存管】 机上調査 情報収集 ・管齢 ・材質 ・漏水履歴 更新すべき管の 抽出 布設・横断工法 試掘調査 路線測量 詳細設計 DPR作成 【ODAローン・ コンサルタント】 図3 活動 1-1 における本プロジェクトと本体事業の 役割分担 2) アクションプラン 視察、漏水探知の実習、GIS/SCADAの実機操作等の 活動1は、下記の活動から構成される。 体験を通して、24時間給水・均等給水の方法につい 【活動1-1】「本体事業」の詳細設計実施に必要な情 て理解を深めることが出来た。 報の収集 また、東京水道サービス㈱や㈱PUCと言った東京 【活動1-2】チャンドラワール浄水場の浄水場及び増 -4- 水道管の内面調査(参考) 圧ポンプ所の測量とGISデータの作成、さらに管路情 老朽化した管 報等の検証 活動1-1では、詳細設計に必要な既存管路及び地下 埋設物の情報を収集し、さらに既存管路の測量調査 を行う。また、活動1-2として浄水場、増圧ポンプ所、 カップリングによる復旧(参考) 配水池の測量調査を行う。本プロジェクトと本体事 カップリング 業の役割分担は図3のとおりである。 切断面 3) 活動 3-1)GIS 情報の確認 既存管路や地下埋設物の情報は、デリー準州政府 によって DSSDI と呼ばれるデータベースシステムに 整備されている。DSSDI のベースマップは、行政区 図4 水道管の内面調査及び調査後の復旧方法 の境界、名称に加えて建物の情報(住所、建物用途、 階数、戸数等)が含まれる詳細な地図となっている。 DJB は顧客(世帯)情報と DSSDI の世帯情報の関連 付けを始めている。この両者の突合せが完了すると、 (5) 活動 2:均等給水・無収水管理のための配水コ ントロール・モニタリングに係わる DJB の能力強化 1) 活動の基本方針 ピタンプラ配水区にSCADAシステムを導入し、均 違法接続個所が容易に発見できるようになり、無収 等給水および無収水削減を目的とした配水管理・制 水量・料金の削減が可能となる見込みである。 DJB が管轄する管路情報が、DSSDI の地図に表示 御をパイロット・プロジェクトとして実施する。 本パイロット・プロジェクトでは、水量や水圧と されているが、情報更新にばらつきが見られ古い情 報も散見されることから、情報の正確性は高くない。 従って、専門家チームは DSSDI の管路情報について いった配水状況をリアルタイムに監視した上で、配 水区内に設定した3個所のDMAへの配水を均等に する目的で、DMAへの流入弁開度を調整する。また、 DJB と共に確認する。 平行してDMAの無収水量を推計し、これらの作業手 3-2) 平面測量調査 チャンドラワール配水区は歴史的に古い地区、人 口稠密地区がある他、中央政府機関、大使館等の官 庁街等の重要施設を抱えている。現場環境に最適な 布設位置および埋設深度を選定し、かつ詳細設計に 順と結果、得られた知見を『SCADAシステムを用い た均等給水及び無収水モニタリングに係るマニュア ル、ガイドライン』としてとりまとめる。 2) アクションプラン パイロット・プロジェクトのフローを図5に示す。 おける意思決定を容易にするために、約1,360 kmにお 無収水削減の対策方法については、デモンストレー よぶ道路の路線測量を実施する。 ション・本邦研修・セミナーを通じて、技術移転を 3-3) 管体試掘調査 本体事業で取り換える管の更新基準(案)を策定 図る。 する目的で、管内外面状況調査を実施する。このた め、チャンドラワール配水区内の約300個所にて試掘 を行い、管の外面調査を実施する。この内、50個所 において管を切断し、管の内面調査を実施する。 -5- 困難であり、メータは多くが個人財産であるため不 具合が生じても自発的に修理・取替えされず、また 不法接続による盗水も多い。しかしながら、無収水 量がどの程度なのか把握されていないため、現状が 認識できず効率的・効果的な無収水削減対策ができ ていない。 パイロット・プロジェクトでは図6に示すように、 ①DMA内の水道料金請求水量と②DMAへの配水量 の差として無収水量を推計する。また、SCADAを活 用し、水圧の適正化によって漏水の低減を図る。 図5 パイロット・プロジェクトのフロー 3) 活動 ② 3-1)配水 SCADA システム 本パイロット・プロジェクトのSCADAシステムの 課題は、以下のとおりである。 ・朝夕各3時間の給水時間内に、配水状況を総合的 ① に把握しながら試行錯誤で弁操作方法を確立す る必要がある。 図6 無収水モニタリング ・SCADAシステムに関する知識・情報を有してい るDJB技術者は少ない。他方でSCADAシステム 3-3)漏水探知デモンストレーション 無収水削減対策の一環として、漏水探知に関する が導入された後の運転・維持管理はDJBが実施及 日本の技術をデモンストレーションし、DJB職員への びモニターしなければならない。 技術移転を図る。 これらの課題に対して、以下のアプローチで対処 実施に当たり、DJBの漏水調査部署職員と共に現場 する。 状況を確認し、実施場所と実施方法を検討する。デ ・管網シミュレーションにより配水区の水圧を事 前に予測し、その後、SCADAシステムの弁操作 モンストレーションでは漏水探査機器(棒状音聴器、 により対象DMAに均等に水量を配分する。 電子式漏水発見器、埋設管探知器)を用い、使用機 ・マニュアル・ガイドラインは、単なるSCADAシ ステムの運転操作方法のみならず、SCADAシス テムを活用した管理内容を含める。 器、技術の説明とともに、現場実習を行う。 (6) 活動 3:GIS/RMS 活用に係る段階ごとの発展シナ リオ案の作成 1) 活動の基本方針 3-2) 無収水モニタリング デリーにおける無収水の主な原因として、漏水、 持続可能な水道事業運営を進めるためには、浄水 メータ不具合、盗水等が挙げられる。漏水は、間欠 場、配水池、ポンプ所、送配水管等の水道施設の改 的な配水でかつ配水圧も低いため漏水箇所の発見が 善だけでなく、財務、組織、顧客サービスといった ソフト面の改善も必要である。日本の水道事業は、 - 6- これまでに経験したことのない大規模更新・再構築 4) アセットマネジメント導入ガイドラインの作成 の時期を迎えており、より計画的かつ健全な上水道 アセットマネジメント(施設の将来更新計画、資 運営を実施するためアセットマネジメントの手法を 産管理の徹底)を導入・浸透させていくために、施 用いた効率的な資産管理及び施設更新が進められて 設管理データベースの作成・蓄積、水道施設の適切 いる。 な運転維持管理等が重要であることを DJB 幹部が DJB においてもイギリス統治時代の施設がみられ 理解するよう協議を重ねる。 DJB が将来に渡り、よ 浄水場や送配水管路の老朽化が進み、施設改修や更 り効果的かつ効率的な水道事業運営を進められるガ 新など早急な対応が求められており、日本と状況は イドラインを作成する。 類似している。 3.アプローチの実践結果 2)アクションプラン 本活動では、DJB の経営方針、経営ビジョン、事 業計画をレビューした上で、アセットマネジメント の活用を最終目的とした GIS/RMS の活用・開発に関 する段階毎のシナリオ(2021 年まで)及びアセット マネジメント導入ガイドラインを作成する。 1) GIS 配管情報の確認及び GIS データの更新 専門家チームとDJBエンジニアにより全280枚の GISの既設配管図が確認された。確認された最新情報 は2015年4月までにGISデータベースへ反映され、管 布設位置の設計資料と統合された。これらの情報は 3) GIS の活用・開発シナリオの作成 DJB の現状の GIS/RMS 活用・開発状況を確認し、 課題解決に向けて、基礎データの整備、GIS データ の共有化、データ更新作業の効率化、さらに日常業 務からアセットマネジメントの実施に活用できる GIS/RMS システムの開発を目指す。本活用・開発シ ナリオは DJB と協議しながら作成し、活用案を基に 具体的に実施する開発項目を設定し、そのスケジュ ールを策定する。以下に本開発シナリオを示す。 本体事業の詳細設計資料として活用されている。 2) 平面測量調査 平面測量は、2013 年11月から2015年3 月にかけて実施され た。浄水場及び配水 池の平面測量図は本 体事業のパッケージ 写真 スパゲティ給水管 1(浄水場更新)の GIS/RMS 開発シナリオ -既存の GIS データベースの再設計(レイヤ、属 性項目の追加・修正) -GIS への既存調査情報等の追加(GIS ファイリ ングシステム導入によるデータ整備) -GIS 利用者の拡大(Web-GIS の導入による情報 の共有化、データ更新業務の効率化) -GIS への情報の追加とデータ精度の向上(測量 調査の実施、日常業務の実施と合わせたデータ 精度の向上策) -GIS の高度な利用(水理解析モデルの作成、ア セットマネジメントシステムの導入) (1) 活動1の結果 DPRに反映されている。また、スパゲティ状の既存 給水管の解消のために測量範囲を見直しして実施し た総延長1,910kmの路線測量図はパッケージ2~4 (送配水管更新)のDPRに反映される予定である。 3) 管体試掘調査 管体調査は、2014年 3 月 から2015 年3 月に かけて実施し、259個 所の試掘調査・管外面 調 査と 50 個所の 管内 面調査を終えた。その 写真 管内面状況 間、煩雑な掘削許可の取得手続きや選挙準備等によ - 7- り、現場作業はたびたび中断を余儀なくされた。 いて議論している。 4) 管の更新基準案の策定 2) 無収水モニタリング 鋳鉄管の管厚測定によると、管厚の減少は大きく 無収水量は、対象区域への配水量と区域内の全使 なく、土壌の腐食性は低いことが判明した。一方、 用水量の差として推定する。配水量は設置する 管内面調査で管内の目詰まりが著しく、30年以上使 SCADAを用いて計測する。全使用水量を推定するた 用した内面ラインニングのない鋳鉄管は、摩擦損失 め、区域内の顧客の確定と過去の使用水量データの 水頭が増加することが確認された。すなわち、老朽 収集・整理を行っている。 管の放置は、多大な水 圧低下を招くことが 確認された。 従って、この管内面 調査結果と日本の管 路更新指針を取り入 メータの設置状況確認 れて、「30年以上使用 3)漏水探査 した鋳鉄管を更新対 2014 年 8 月にピタンプラ・パイロットプロジェク 象とする」ことを、提 トエリアの DMA 区画で、約 30 名の DJB 職員を対象 案した。これに基づき としてデモンストレーションを実施した。 選定した更新対象管 区間を図7に示す。 メータの設置状況確認 図7 GIS 上の更新管データ (図中のピンク着色) 本デモンストレーションを通して、下記の問題点 が明らかになった。 ・漏水探知は、管内に十分な水量と水圧が確保され 5) 更新管ルートの選定 ている状態が望ましいが、朝夕各 3 時間である給 路線測量図とDSSDIの地下埋設物情報を基に、新 水時間帯に「水」使用が集中しているため、適正 設管路の布設位置と埋設深度について、現場を確認 な水圧が確保できない。また、各家庭が水圧不足 した上で総延長1,415kmの更新管路データを作成し を補うためポンプを用いているが、そのモーター た。さらに、掘削工事が困難な国道・鉄道の横断個 所を選定して適切な横断工法を検討した。これらの 調査結果は「布設替え対象管選定検討書案」にまと 音等で漏水音を判別することが難しい。 ・DMA 内には制水弁が数箇所確認できた程度で、空 気弁、消火栓等の附帯設備は確認できなかった。 めて、DJBに提案した。 そのため、相関式漏水発見器等の機器が使えない (2) 活動 2 の結果 等、漏水探知方法に制限があった。 1) 配水 SCADA ・漏水探知ユニット( LDI)職員は、所有する探知 SCADA資機材は2015年2月に据付けた後、同年3月 機器(音聴棒・電子式漏水発見器・相関式漏水発 に試運転を行う予定であったが、据付け工事は当初 見器・埋設管探知器等) 予定より数ヶ月遅れている。2015年4月末時点の据付 の使用方法を知らな け状況から判断すると、同年6月には据付けが終わる い。 事が見込まれているが、定期的に会議を開催し、資 ・頻繁な人事異動により、 機材の調達状況、据付け状況の確認及び問題点につ LDI ユニット内部で 漏水探査 デモンストレーション - 8- 技術継承が行われていない。 a) 浄水施設維持管理データベースの作成 これらの問題点及び漏水は資源と費用の浪費であ 効率的な施設管理、施設の把握、計画的な施設更 り、漏水探知・補修作業が重要であることを、第 3 新を進めるために、チャンドラワール浄水場の「施 回セミナーでの発表及び討議を通じて示した。積極 設概要」、「施設関連図」、「施設フロー図」で構成さ 的に質問が出る等 DJB 側の高い関心が伺えた。 れる維持管理用データベース(施設台帳)を作成し た。同台帳は、DJB の全職員が閲覧、活用できるも のとする。引き続き、DJB は他の浄水場、配水池等 デリー全体の浄水施設のデータベースを作成する。 b) 浄水場維持管理用点検表、点検の実践 効果的に施設改修・更新を進めるための日常点検 データの蓄積を本ガイドラインに含めることとした。 “Every Drop saved is a rupee earned” 第 3 回デリーセミナーの発表資料 さらに、機器の通常状態の把握と異常時の迅速な発 見といった維持管理職員の意識の向上に繋げるため、 (3) 活動 3 の結果 チャンドラワール浄水場の日常点検表を作成し、点 1) 段階的なGIS/RMSの活用・開発シナリオ 検を実践した。DJB職員はこの取り組み状況、日常点 第4回セミナーにおいて、GIS/RMS活用・開発シ ナリオとそのアクションプランが討議された結果、 DJB職員の理解が一層深まった。このシナリオに沿っ て、GISの構築、GISとRMSの統合が本体事業のパッ ケージ5として実施されることになっている。 なお、提案された同シナリオの内、GISのデータベ ースの再構築と平行して、Web-GISによるGISデータ の共有化がDJB本部庁舎で試験的に導入された。 検の重要性を第4回セミナーにて発表した。DJBは、 この取り組みを他の浄水場でも実施する意向を示し ている。 c) アセットマネジメント導入ガイドラインの作成 作成した本ガイドラインには、DJBがアセットマネ ジメントを導入するに当たり必要となるGIS/RMS等 のデータの蓄積、活用、分析方法の検討、施設の更 新・拡張に必要な重要度、水道使用者への影響、そ れを実施するための財務計画を網羅している。 4.プロジェクト実施上の工夫・教訓 (1) 過去類似案件の教訓 MP調査では、実質的な責任者を特定し、如何に責 任者と緊密な連絡体制を築くかが、協力を円滑に進 めるために重要であるという教訓が得られている。 (2) 実施体制の構築 本プロジェクトでは3つの成果が期待されており、 これを統括するため副総裁を長とするプロジェクト DJB への Web-GIS の導入のイメージ チームがDJB内に組織された。DJBの組織は厳格なピ 2) アセットマネジメントガイドライン ラミッド型の上下関係があり、部署ごとに指揮命令 アセットマネジメントを導入するためのガイドラ インを作成するために、以下の取り組みを行った。 系統が異なるため、指揮命令系統の上位にいる人物 を中心に据えることが円滑なプロジェクト実施に寄 - 9- 与するためである。 副総裁は、本体事業等のプロジェクト管理部門の 上位の立場にある。さらに財務会計部門の責任者で あり経営面にも明るい。現地組織の特徴を考慮した トップダウン方式のアプローチが有効に機能するよ うに適切な責任者が配置されている。 (3) 浄水場維持管理用点検表の作成、点検の実践 機器の通常状態の把握と異常時の迅速な発見とい った維持管理職員の意識の向上に繋げるため、日本 の例を参考としてDJB職員と共同でチャンドラワー ル浄水場の日常点検表を作成し、点検を実践した。 この試みは、DJBにとって初めてであり、DJBの維持 管理職員も関心を示した。さらに、DJB上層部もこの 有用性を認め、この取り組みを他の浄水場でも実施 する意向を示した。 (プロジェクト実施期間:2013年6月~2016年5月予 定) 参考文献: 独立行政法人国際協力機構(2015)「インド共和国 デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト 業務進捗報告書(第2年次前期)」 独立行政法人国際協力機構(2014)「インド共和国 デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト 業務進捗報告書(第1年次後期)」 独独立行政法人国際協力機構(2013)「インド共和 国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェク ト業務進捗報告書(第1年次前期)」 立行政法人国際協力機構(2012)「インド共和国 デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト 詳細計画策定調査報告書」 独立行政法人国際協力機構(2011)「インド共和国 デリー水道改善計画調査報告書」 -10-