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インド共和国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト

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インド共和国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト
JICA プロジェクトブリーフノート
インド共和国デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト
-円借款「デリー上水道改善事業」の促進-
2016 年 5 月
3 年次活動終了時点
インド共和国
デリー準州
ピタンプラ配水区
(パイロット・プロジェクト地区)
チャンドラワール浄水場配水区
ばらつきがあることから地域間の水圧差が生まれ、
1.プロジェクトの背景と問題点
デリー準州(人口約1,675万人)は、給水時間が約3
時間/日であり、その主な原因は、限られた水源と高
い無収水率(無収水率とは、水道システムに投入さ
れた水量のうち、料金請求の対象とならなかった水
量の割合を示した指標であり、水道管等からの漏水
に伴う損失や、違法接続や水道メーターの不備・不
具合に起因する損失等が含まれる。)が挙げられる。
無収水率は40~50%と言われており、主に施設の老
朽化及び不十分な運転維持管理による漏水と盗水に
起因する。最も古い浄水場、送配水施設は、1937年
に建設されており、その後1950年代を中心に施設整
備が進められてきたため、近年では経年劣化が問題
となっている。そのため、計画的な施設の更新が求
められているが、施設データの整備が出来ておらず、
施設更新計画を含む長期アセットマネジメント計画
が策定されていない。さらに、適切な運転維持管理
がなされていないことから、無収水の原因分析やそ
の対策が出来ていない。加えて、配水量の地域毎の
水圧の高い地域では漏水量が増える原因の一つとな
っている。これらに起因する高い無収水率は財務状
況を悪化させ、必要な施設投資を行うことが出来ず、
それがさらなる無収水率の悪化を招くという悪循環
を生んでいる。
このような状況に対応すべく2008年にデリー開発
庁により策定された「デリー都市計画2021」の中で、
無収水削減対策と均等給水の必要性が指摘されてお
り、デリー上下水道公社(以下、「DJB」という。)
は当該計画に基づいた事業実施を推進することとな
っている。その一環として、JICAは開発調査「デリ
ー水道改善計画調査」(2009-2011年度)を通じマ
スタープラン(以下「MP」という。)策定を支援し
た。MPは、2021年を目標年とし、均等給水実現と無
収水削減対策を実施することを目標に策定された。
MPでは、デリー市の送配水システムを3階層すなわ
ち①浄水場から配水池、②配水池から小ブロック
(DMA)、③小ブロック内配水に分け、それぞれの
階層をSCADA(コンピュータシステム)で監視・制
-1-
御し、小ブロック単位での無収水対策を行うことを
本体事業及び本プロジェクトでは、
提案し、こうした対策に必要となる施設整備計画も
①老朽化した施設更新等の施設能力強化、
作成した。その後、インド国政府から我が国政府に
②SCADAシステム導入による配水能力向上、
対して、同MPの中で最優先事業とされていたチャン
③GIS(地理情報システム)及びRMS(収入管理シ
ドラワール浄水場系統について、既存上水道施設の
リハビリによる給水サービス改善を目的とする、円
ステム)を活用した事業実施能力強化
を目指す。
借款「デリー上水道改善事業」(以下、「本体事業」
という。)が要請された。
①は、本体事業で施設更新、優先順位の高い送配
水管、全給水管の更新を行い、老朽化に起因する漏
水を削減する。本プロジェクトでは、本体事業の対
2.問題解決のアプローチ
象となる既存施設や送配水管の更新を検討する際に
(1) プロジェクト概況
必要となる既存施設の現況情報を収集・分析し、そ
JICAは、本体事業の実施促進支援、ハード支援と
技術協力(ソフト支援)の相乗効果による開発効果
増大を目指すことを目的とした有償附帯プロジェク
ト「デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェ
クト(以下、「本プロジェクト」)の実施について
インド政府と合意し、2012年12月に本プロジェクト
の詳細計画策定調査を行い、本体事業および本プロ
ジェクトの枠組み(下表参照)について合意した。
の情報を円借款本体の設計に活用することで、本体
事業の実施促進を図る。
②は、パイロットプロジェクト・エリアにSCADA
システムを導入し、その操作方法と活用に係る技術
移転を行い、弁操作による均等給水の実現を支援す
るとともに、流量データと顧客請求データとの比較
により無収水量を推定する方法を確立し、無収水対
策の強化に貢献する。これらのノウハウは本体事業
【上位目標】デリー準州において、給水装置を含
む既存の上水道施設を改築・更新することによ
り、24 時間連続給水かつ、均等で安定的給水サ
ービスの提供を図り、もって同地域住民の生活環
境の改善に寄与する。
で導入するSCADAシステムに活用される。
③は、本プロジェクトにおいて、DJBの経営の現状
を踏まえて短期的、中期的に目指す姿、取り組むべ
き課題を整理し、その実現に向けたGIS/RMSの段階
【プロジェクト目標】
「デリー上水道改善事業」実
施のための DJB の能力が強化される。
的な活用及び開発シナリオ作りを支援する。その中
【成果-1】チャンドラワール浄水場系統の施設デー
タ・情報管理に係る DJB の能力が強化される。
データを活用して、DJBはアセットマネジメント計画
長期シナリオに基づき本体事業において整備される
を作成する。その作成を通じて、DJBは計画的で効率
的な施設更新を実施する能力が高まる事が期待でき、
【成果-2】均等給水・無収水管理のための配水コン
トロール・モニタリングに係る DJB の能力が強化
される。
無収水削減を含めた持続的なDJBの経営体制強化に
貢献する。
【成果-3】GIS(地理情報システム)/RMS(収入管
理システム)活用に係る段階ごとの発展シナリオ
これら①~③を通じて、高い無収水率により料金
収入が低下し財務状況が悪化するという悪循環から
脱却し、均等給水を実現し限られた水資源の有効活
本体事業は、主に以下の5つのコンポーネントから
用と安定した持続的な水道事業の実現を支援する。
成り、
a) 浄水場の更新とSCADAシステムの導入
本体プロジェクトと有償附帯プロジェクトの関係
を図1に示す
b) 西地区の送配水管更新
c) 中央地区の送配水管更新
d) 東地区の送配水管更新
e) デリー準州の施設情報に係るGIS情報整備
-2-
図1
プロジェクト概念図
(2) プロジェクト実施体制
(3)成果1:チャンドラワール浄水場系統の施設デー
本プロジェクト実施体制は、DJBの副総裁をプロジ
ェクトの長とし、DJB本部の上級エンジニアと日本人
タ・情報管理に係るDJBの能力強化
1) 成果の基本方針
成果1の目的は、本体事業のコンサルタントが実施
専門家で構成されている。プロジェクトの実施体制
する「詳細設計」及びインド政府内の事業承認に必
は図2の通りである。
要な「詳細プロジェクト報告書」
(DPR)の作成に必
合同調整委員会(Joint Coordinating Committee)
総括:プロジェクト・ダイレクタ-
Additional CEO / Director (F&A), BJB
要となる現場の状況を整理するといった情報整備に
関する支援を実施することである。本プロジェクト
において収集・整理する管路情報、選定する更新管
DJB
JICA
情報は、DJBにより適切に管理されることが重要であ
り、詳細設計、DPR作成の基礎情報となる。ODAロ
ーンコンサルタントは先ず詳細設計を行い、それに
合同チーム
基づきDPRが作成される。DPRには、計画図面、実
DJB
JICA専門家
<管理サイド>
・マネージャー
:C.E. (Project) Water
・副マネージャー
:S.E. (project) Water III &IT
・パイロットプロジェクト主担当
:E.E (Project) Water II
<技術サイド>
・S.E. (E&M), (Central), (NW)
・S.E. (Project) Water III & IT
・S.E. (E&M) WC‐I
図2
施スケジュール、事業費積算が含まれている。DPR
・チーフアドバイザー
・GISマッピング
・送配水管網
・SCADA
・GISアプリケーション
・DMA
・無収水分析
・漏水探査
・水道事業経営
・業務調整
の承認後に施工業者の入札手続きが開始される。
プロジェクト実施体制図
-3-
2) 計画された活動
る管路情報を DJB と共に確認し最新情報に更新する。
成果1は、下記の活動から構成される。
【活動1-1】「本体事業」の詳細設計実施に必要な情
3-2) 管体試掘調査及び管の更新基準案の策定
報の収集
本体事業で更新管を選定し設計を行うが、その更
【活動1-2】チャンドラワール浄水場の浄水場及び増
新基準を策定する目的で、管内外面状況調査を実施
圧ポンプ所の測量とGISデータの作成、さらに管路情
する。このため、チャンドラワール配水区内の約300
報等の検証
個所にて試掘を行い、管の外面調査を実施する。こ
活動1-1では、詳細設計に必要な既存管路及び地下
埋設物の情報を収集し、さらに既存管路の測量調査
の内、50個所において管を切断し、管の内面調査を
実施する。
を行う。また、活動1-2として浄水場、増圧ポンプ所、
配水池の測量調査を行う。本プロジェクトと本体事
水道管の内面調査(参考)
老朽化した管
業の役割分担は図3のとおりである。
カップリングによる復旧(参考)
カップリング
切断面
図3
図4
活動 1-1 における本プロジェクトと本体事業の
水道管の内面調査及び調査後の復旧方法
役割分担
3-3) 更新管ルートの選定と路線測量(平面測量)調
3) 主たる取組み(活動)
査
3-1)GIS 管路情報、地下埋設物の確認・検証及び更新
チャンドラワール配水区は歴史的に古い地区、人
既存管路や地下埋設物の情報は、デリー準州政府
口密集地区がある他、中央政府機関、大使館等の官
によって DSSDI と呼ばれるデータベースシステムに
庁街等の重要施設を抱えている。現場環境に最適な
整備されている。DSSDI には、道路、行政区の境界、
布設位置および埋設深度を選定し、かつ詳細設計に
名称に加えて建物の情報(住所、建物用途、階数、
おける意思決定を容易にするため、1,415 kmにおよぶ
戸数等)が含まれる詳細なベースマップが備わって
道路の路線測量を実施する。
いる。DJB は DSSDI の世帯情報顧客(世帯)情報と
3-4) 浄水場・増圧ポンプ所・配水池の測量と GIS デ
の関連付けを始めている。この両者の突合せが完了
ータの作成
すると、違法接続個所が容易に発見できるようにな
り、無収水量・料金の削減が可能となる見込みであ
る。
DJB が管轄する管路情報は、DSSDI のデータベー
スシステムに表示されているが、情報更新にばらつ
きが見られ古い情報も散見されることから、情報の
正確性は高くない。従って、DSSDI に記載されてい
標記の測量を行い、各施設の諸元を調査した上で、
GIS化を行う。
(4) 成果 2:均等給水・無収水管理のための配水コ
ントロール・モニタリングに係わる DJB の能力強化
1) 成果の基本方針
ピタンプラ配水区にSCADAシステムを導入し、均
等給水および無収水削減を目的とした配水管理・制
-4-
御をパイロット・プロジェクトとして実施する。
を格納するチャンバーを建設した。しかしなが
本パイロット・プロジェクトでは、水量や水圧と
ら、現地施工業者の能力に問題があったことか
いった配水状況をリアルタイムに監視した上で、配
ら一部のチャンバーはモンスーン時期に雨水が
水区内に設定した3個所のDMAへの配水を均等に
浸入しJICA側調達の機材が水没する恐れのある
する目的で、DMAへの流入弁開度を調整する。また、
ことが判明した。チャンバー内部が水没するこ
平行してDMAの無収水量を推計し、これらの作業手
とで、完全防水対応ではない一部の機器の故障
順と結果、得られた知見を『SCADAシステムを用い
や漏電事故の発生につながる可能性がある。
た均等給水及び無収水モニタリングに係るマニュア
これらの課題に対して、以下のアプローチで対処
ル、ガイドライン』としてとりまとめる。
する。
2) 計画された活動
・チャンバーの耐水性を改善するため、モデルチ
パイロット・プロジェクトのフローを図5に示す。
ャンバーを建設し、耐水試験を行い有効な浸水
無収水削減の対策方法については、デモンストレー
対策を検討する。その耐水試験における評価に
ション・本邦研修・セミナーを通じて、技術移転を
基づき、実際のチャンバーの改善工事を行う。
図る。
また、万が一チャンバー内の機器が水没した場
合にも漏電事故が発生しないよう、漏電対策機
器(水位警報装置及び漏電ブレーカー)を設置
する。
・管網シミュレーションにより配水区の水圧を事
前に予測し、その後、SCADAシステムの弁操作
により対象DMAに均等に水量を配分する。
・マニュアル・ガイドラインは、単なるSCADAシ
ステムの運転操作方法のみならず、SCADAシス
テムを活用した管理内容を含める。
3-2) 無収水モニタリング
デリーにおける無収水の主な原因として、漏水、
盗水等が挙げられる。漏水は、間欠的な配水でかつ
図5
配水圧も低いため漏水箇所の発見が困難であり、メ
パイロット・プロジェクトのフロー
ータは多くが個人財産であるため不具合が生じても
3) 主たる取組み(活動)
自発的に修理・取替えされず、また不法接続による
3-1)配水 SCADA システム
本パイロット・プロジェクトのSCADAシステムの
課題は、以下のとおりである。
・朝夕各3時間の給水時間内に、配水状況を総合的
に把握しながら弁操作方法を確立する必要があ
盗水も多い。しかしながら、無収水量がどの程度な
のか把握されていないため、現状が認識できず効率
的・効果的な無収水削減対策ができていない。
パイロットプロジェクトでは、簡便な方法として
①DMAへの配水量と②DMA内の水道料金請求水量
る。
・SCADAシステムに関する知識・情報を有してい
るDJB技術者は少ない。他方でSCADAシステム
が導入された後の運転・維持管理はDJBが実施及
びモニターしなければならない。
・DJB側がSCADAシステムの一部である流量計等
の差として無収水量を推計する。①はDMA入口に設
ける流量計で計測可能となる一方、②はDJBの管理す
るRMSを用いて算定は可能である。
③無収水量=①DMAへの配水量-②DMA内の水
道料金請求水量
-5-
他方、無収水量は漏水量と営業的損失水量に分け
られる。
課題解決に向けて、基礎データの整備、GIS データ
③無収水量=④漏水量+⑤営業的損失水量
の共有化、データ更新作業の効率化、さらに日常業
上記の⑤営業的損失水量を把握するため、DMA1
務からアセットマネジメントの実施に活用できる
~3内の全ての顧客(約3,400戸)を対象に実態調査を
GIS/RMS システムの開発を目指した。本活用・開発
実施する。
シナリオは DJB と協議しながら作成し、活用案を基
営業的損失水量はいくつかの要素に分かれるが、
に具体的に実施する開発項目を設定し、そのスケジ
特に各戸への給水量が正しく計量できる環境が整備
ュールを策定する。以下に本開発シナリオを示す。
されているかを確認するため、家屋ごとに、⑥DJB
GIS/RMS 開発シナリオ
のRMSシステムに登録され料金請求がされているか、
-既存の GIS データベースの再設計(レイヤ、属
⑦否かを調査する。
性項目の追加・修正)
なお、⑦登録されていない家屋での水道使用量(盗
-GIS への既存調査情報等の追加(GIS ファイリ
水量)を営業的損失水量とみなし、④漏水量は、直
ングシステム導入によるデータ整備)
接測る事が出来ないため、①-②-⑦として推定す
-GIS 利用者の拡大(Web-GIS の導入による情報
る。
の共有化、データ更新業務の効率化)
-GIS への情報の追加とデータ精度の向上(測量
(5) 成果 3:GIS/RMS 活用に係る段階ごとの発展シナリ
オ案の作成
調査の実施、日常業務の実施と合わせたデータ
精度の向上策)
1) 成果の基本方針
-GIS の高度な利用(水理解析モデルの作成、ア
持続可能な水道事業運営を進めるためには、浄水
セットマネジメントシステムの導入)
場、配水池、ポンプ所、送配水管等の水道施設の改
善だけでなく、財務、組織、顧客サービスといった
3-2)アセットマネジメント導入ガイドラインの作成
ソフト面の改善も必要である。日本の水道事業は、
アセットマネジメント(施設の将来更新計画、資
これまでに経験したことのない大規模更新・再構築
産管理の徹底)を導入・浸透させていくために、施
の時期を迎えており、より計画的かつ健全な上水道
設管理データベースの作成・蓄積、水道施設の適切
運営を実施するためアセットマネジメントの手法を
な運転維持管理等が重要であることを DJB 幹部が
用いた効率的な資産管理及び施設更新が進められて
理解するよう協議を重ねる。DJB が将来に渡り、よ
いる。
り効果的かつ効率的な水道事業運営を進めるガイド
DJB においてもイギリス統治時代の施設がみられ
浄水場や送配水管路の老朽化が進み、施設改修や更
新など早急な対応が求められており、日本と状況は
類似している。
ラインを作成する。
3.アプローチの実践結果
(1) 成果1の結果
1) GIS 配管情報の確認・検証及び更新
2)計画された活動
本活動では、DJB の経営方針、経営ビジョン、事
業計画をレビューした上で、アセットマネジメント
の活用を最終目的とした GIS/RMS の活用・開発に関
する段階毎のシナリオ(2021 年まで)及びアセット
マネジメント導入ガイドラインを作成する方針とし
た。
配水を担当する各配水事務所のエンジニア、テク
ニシャン、配管工の協力を得て全280枚のGISの既設
配管図を確認した。確認した最新情報は2015年4月ま
でにGISデータベースへ反映され、管布設位置の設計
資料と統合した。これらの情報は本体事業の詳細設
計資料として活用されている。
2) 管体試掘調査及び管の更新基準案の策定
3) 主たる取組み(活動)
管体調査は、2014年3月から2015年3月にかけて実
3-1) GIS の活用・開発シナリオの作成
DJB の現状の GIS/RMS 活用・開発状況を確認し、
施し、259個所の試掘調査・管外面調査と50個所の管
-6-
内面調査を終えた。その間、煩雑な掘削許可の取得
路線測量図、DSSDIの地下埋設物情報、および管
手続きや選挙準備等により、現場作業はたびたび中
の更新基準に基づき、新設管路の布設位置と埋設深
断を余儀なくされた。
度について、現場を確認した上で総延長1,415kmの更
鋳鉄管の管厚測定によると、管厚の減少は大きく
新管路データを作成した。さらに、掘削工事が困難
なく、土壌の腐食性は低いことが判明した。一方、
な国道・鉄道の横断個所は適切な横断工法を検討し
管内面調査で管内の目詰まりが著しく、30 年以上使
た。これらの調査結果は「布設替え対象管選定検討
用した内面ラインニングのない鋳鉄管は、摩擦損失
書案」にまとめて、DJBに提案した。これらの情報は
水頭が増加することを確認した。すなわち、老朽管
本体事業の詳細設計資料として活用されている。
の放置は、多大な水圧低下を招くことが確認された。
4) 浄水場・増圧ポンプ所・配水池の測量と GIS デー
従って、この管内面調査結果と日本の管路更新指針
タの作成
を取り入れて、「30 年以上使用した鋳鉄管を更新対
浄水場・増圧ポンプ所・配水池の平面測量図は本
象とする」という方針に基づき、更新基準を策定し、
体事業のパッケージ1(浄水場更新)のDPRに反映
DJB に提案した。これらの情報は本体事業の詳細設
されている。
計資料として活用されている。
3) 更新管ルートの選定と路線測量(平面測量)調査
平面測量は、2013年11月から2015年3月にかけて実
施した。また、スパゲティ状の既存給水管の解消の
ために測量範囲を見直し、実施した総延長1,910kmの
路線測量図はパッケージ2~4(送配水管更新)の
(2) 成果 2 の結果
1) 配水 SCADA
モデルチャンバーの建設が終わり(2016年5月現在)、
今後耐水試験を行う予定である。チャンバーの施工
監理はDJBの担当職員と共に実施し、OJTを通して浸
水対策や施工監理の技術移転を行っている。
DPRに反映されている。
写真
写真
管内面状況
施工監理の指導の様子
写真
改善策の協議
また、チャンバー内の漏電対策機器(水位警報装
写真 スパゲティ給水管
置及び漏電ブレーカー)の仕様を策定し、現在調達
しているSCADAシステムに機能を追加する予定で
ある。SCADAシステムは2017年2月に試運転が完了
し、同年3月から配水コントロール及びモニタリング
を実施する予定である。
2) 無収水モニタリング
無収水量は、①DMA内の水道料金請求水量と②
DMAへの配水量の差として推定する。配水量は、今
後設置するSCADAを用いて計測し、使用水量は、
RMSの使用水量データより算出する。なお、RMSデ
ータだけでは顧客の特定時期の使用水量の算出が困
難であったため、過去の年間平均使用水量に基づき
図6
GIS 上の更新管データ(図中ピンク着色)
無収水量を推定する事とし、今後、DJB側が無収水量
-7-
の精度を高めることができるように、DJBと共に適切
GIS整備等がなされる予定である。
な検針方法やメーターの設置位置等を議論しマニュ
なお、提案された同シナリオの内、GISのデータベ
アル案に反映する。
ースの再構築と平行して、Web-GISによるGISデータ
営業的損失水量の実態調査(2015年9月~10月)は、
の共有化がDJB本部庁舎で試験的に導入された。
JICA専門家の助言のもとDJBピタンプラオフィス内
に調査チーム(総勢13名)を作りDJBが実施した。
写真
全戸訪問調査
写真
調査表への記載
実態調査の結果、営業的損失水量(盗水量)を推
定した。盗水(DJBと未契約のまま水道管に接続)と
図7
確認できた戸数が約60戸あり、これは全調査戸数の
2%弱程度であった。これ以外にも、盗水の疑いがあ
DJB への Web-GIS の導入のイメージ
2) アセットマネジメントガイドライン
る家(居留守や、前の住民の時の使用廃止管)が約
アセットマネジメントを導入するためのガイドラ
650戸あり、全て合わせると営業的損失水量は約710
インを作成するために、以下の取り組みを行った。
a) 浄水施設維持管理データベースの作成
戸(約21%)となる。これらの盗水及び盗水の疑い
がある接続家屋については、今後、調査チームとピ
効率的な施設管理、施設の把握、計画的な施設更
タンプラ配水地区の料金徴収部門と協議をし、DJB
新を進めるために、チャンドラワール浄水場の「施
が対応方針を決定する。また、本調査結果はDJB本部
設概要」、「施設関連図」、「施設フロー図」で構成さ
にある図面作成部署(Mapping Cell)がGISデータベー
れる維持管理用データベース(施設台帳)を作成し
ス上に反映していく。
た。DJB はこの取り組みを他の浄水場、配水池等に
拡大している。
b) 浄水場維持管理用点検表、点検の実践
効果的に施設改修・更新を進めるための日常点検
データの蓄積を本ガイドラインに含めることとした。
さらに、機器の通常状態の把握と異常時の迅速な発
写真
Revenue部門との協議
写真
GISへの反映方法の協議
この実態調査後、DJBはNRW削減のための調査の
有意性を認識し、専門家に助言をもらいながら調査
方法をアレンジし、デリー全域で調査を始めた。
見といった維持管理職員の意識の向上に繋げるため、
チャンドラワール浄水場の日常点検表を作成し、点
検を実践した。DJBは、この取り組みを他の浄水場で
も実施している。
c) アセットマネジメント導入ガイドラインの作成
(3) 成果 3 の結果
1) 段階的なGIS/RMSの活用・開発シナリオ
GIS/RMS活用・開発シナリオとそのアクションプ
ランを策定した。このシナリオに基づき本体事業で
は入札仕様書が作成されており、本体事業の開始後
作成した本ガイドラインには、DJB がアセットマネ
ジメントを導入するに当たり必要となる GIS/RMS 等
のデータの蓄積、活用、分析方法の検討、施設の更
新・拡張に必要な重要度、水道使用者への影響、そ
れを実施するための財務計画を網羅している。
-8-
参考文献:
4.プロジェクト実施上の工夫・教訓
独立行政法人国際協力機構(2016)「インド共和国
(1) 過去類似案件の教訓
デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト
MP調査では、実質的な責任者を特定し、如何に責
任者と緊密な連絡体制を築くかが、協力を円滑に進
めるために重要であるという教訓が得られている。
業務進捗報告書(第3年次前期)」
同上(2015)「同上(第2年次後期)」
同上(2015)「同上(第2年次前期)」
(2) 実施体制の構築
同上(2014)「同上(第1年次後期)」
本プロジェクトでは3つの成果が期待されており、
これを統括するため副総裁を長とするプロジェクト
チームがDJB内に組織された。DJBの組織は厳格なピ
ラミッド型の上下関係があり、部署ごとに指揮命令
系統が異なるため、指揮命令系統の上位にいる人物
同上(2013)「同上(第1年次前期)」
独立行政法人国際協力機構(2012)「インド共和国
デリー上水道運営・維持管理能力強化プロジェクト
詳細計画策定調査報告書」
を中心に据えることが円滑なプロジェクト実施に寄
独立行政法人国際協力機構(2011)「インド共和国
与するためである。
デリー水道改善計画調査報告書」
副総裁は、本体事業等のプロジェクト管理部門の
上位の立場にある。さらに財務会計部門の責任者で
あり経営面にも明るい。現地組織の特徴を考慮した
トップダウン方式のアプローチが有効に機能するよ
うに適切な責任者が配置されている。
(3) 営業的損失水量の実態調査
無収水量は、漏水等の物理的損失量と盗水・メー
タ故障等による営業的損失量に区分できる。デリー
の無収水率は40%~50%ほどあると言われているが、
物理的損失と営業的損失の割合について殆ど調査さ
れていない。このため、成果2のパイロット・プロジ
ェクトで無収水量を推定するのに先立ち、営業的損
失水量についての実態調査を行った。
営業的損失量を把握するには手間と時間を要する
ため敬遠されがちであるが、本調査により潜在的に
漏水量と同程度の損失があることが明らかとなり、
DJBは同様の調査をデリー全域で実施することを決
定した。費用をかけてよりスマートな手段を選択す
ることもできるが、まずは手間と時間をかけて実践
し何らかの結果や実績を残すことが、DJB側の意思決
定を促す上で重要であった。
(プロジェクト実施期間:2013年6月~2018年3月)
-9-
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