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21.GIS(地理情報システム)を用いた、高齢社会に おける在宅医療の
21.GIS(地理情報システム)を用いた、高齢社会に
おける在宅医療のあり方に関する検討
○ 田代
角田
敦志 (新潟市保健衛生部)
浩(公立黒川病院)
【背景と目的】
高齢化社会における在宅医療の推進、地域ケアの充実は、全ての自治体において重要課
題の1つと考えられるが、24 時間体制で往診可能な在宅療養支援診療所は、二次医療圏内
で偏在していることが指摘されており、在宅療養支援診療所の需給評価と今後の需給予測
について、これまで地理空間レベルの検討はほとんど行われていない。
これらの背景から、新潟医療圏の中心を占める新潟市において、在宅療養支援診療所の偏
在の有無と高齢化が顕著に進行した際に在宅医療に関連する資源が不足する地域を把握す
るために、GIS(地理情報システム)による空間解析を行い今後の課題を検討した。
さらに、病診連携など関連施設間の連携体制を可視化する試みの一つとして宮城県黒川郡
において在宅医療に関するネットワーク分析を実施した。
【方法】
新潟市内の在宅療養支援診療所、訪問看護ステーション等の在宅医療に関係する施設を
地図上にプロットし、在宅療養支援診療所と関連施設の配置状況についてベースとなる
マップを GIS ソフトと地図データを用いて作成した。
次に、コホート要因法を用いて算出された区別5歳階級別の将来人口より変化率を求め、
国勢調査の小地域データにこの変化率をかけ合わせ 2025 年における単位面積あたりの高齢
者の増加数を予測した。
これらの結果を地図上で重ね合わせ需給予測マップを完成させ、将来的に在宅医療に関
係する施設が不足する可能性が高いエリアを同定した。→ 空間解析
また、現状把握を目的として、同定されたエリア内で在宅医療を行っている診療所の開設
者にヒアリングを行った。
さらに、患者の急変時に受け入れを行う病院との病診連携の実態について、在宅医療や
訪問看護、訪問介護分野との連携を以前より手がけている宮城県の公立黒川病院の協力を
得て、同病院を核とした在宅医療ネットワークに関して、病院と在宅療養支援診療所、介
護関連施設等の相互関係を捉えることを目的に、解析ソフト pajek を用いてネットワーク
構造の可視化と定量化を試みた。
→ ネットワーク分析
― 101 ―
【結果 1 】
空間解析
2005-2025年の20年間における
単位面積あたりの高齢者の増加予測数
信濃川河口左岸の市街地を中心に高齢者が急激に増加すると予測される。(左図)
右図に表示した多角形内に在宅医療を提供している診療所が一ヶ所存在するが、
最も増加割合の高いエリアに診療所そのものが不足している事が見て取れる。
同様に、在宅医療に関連する施設も近隣に存在しない事が分かる。
高齢者の増加予測数 (2005-2025)
高齢者の単独世帯率
高齢者が著しく増加するエリアは、単独世帯率の高いエリアとほぼ一致していた。
最も高齢化がすすむことが予想される地域で勤務するA診療所の開設者にヒアリングし
たところ、今後の在宅医療の需要増大を予感しており、近隣で開業している医師が在宅医
療に加わる事や、新たに在宅療養支援診療所が同じエリアに開設されることを望んでいた。
― 102 ―
さらに同院長からは、在宅の主治医と病院の主治医を併せ持つシステムが今後の在宅医
療の普及に必要との考えが述べられた。専門的な診療を年に1回程度病院で行うことによ
り、在宅療養支援診療所と病院の連携が強化され、医療レベルも一定の水準に保つことが
可能となり、診療所の主治医が安心して在宅医療に専念できることを理由として挙げてい
た。
病診連携については、在宅医療をすすめる上でキーポイントとなることから、在宅療養
支援診療所との連携で実績のある宮城県の公立黒川病院の協力を得て分析を行った。
【結果 2】
空間解析とネットワーク分析
黒川郡は仙台市に近い富谷町を中心として宅地化がすすみ、国道沿いは人口密度
が高い地域となっており、在宅療養支援診療所もこのエリアに開設されている。
在宅医療と密接な関連がある訪問看護や介護関連施設は、在宅療養支援診療所の分布
とほぼ一致しており、大郷町を除くと高齢化率の比較的低いエリアに集中している。
黒川郡において、在宅療養患者の急変時に対応できる総合病院は、公立黒川病院である
ことから、患者が入院前に利用していた施設について、同病院を核としたネットワーク分
― 103 ―
析を行い、ネットワーク内の各施設の関係を分析した結果を以下に示す。
対象となったのは、2012 年の 6 月に、公立黒川病院に入院となった高齢者 26 名(男性:
15, 女性:11)、年齢:75-88 歳 であり、入院前の医療機関、在宅サービス(看護、介護)
の利用状況について調査を実施し、ネットワーク分析ソフトを用いて関連施設のネットワ
ークの可視化と定量化を行った。
黒川郡の在宅医療ネットワーク
クラスター係数:0.03
施設名は省略して記載
病院・診療所を緑色、包括支援センターを赤色、訪問看護ステーションを青色、
介護関連施設を黄色で表示し、媒介中心性が高い(ネットワーク内の情報の流れに
強く関与し、橋渡し的な役割を持つ)施設を大きな○で表示、線の太さは施設間の
結びつきの強さを表している。
公立黒川病院を中心にネットワークは仙台市内の施設まで広がっており、特定の訪問看
護ステーションや包括支援センター等の施設が互いに有機的に結びついている状況が捉え
られた。特に、公立黒川病院からの距離が比較的近いB訪問看護ステーションやC包括支
援センターが、公立黒川病院に次いで大きな役割(ネットワーク全体における橋渡し)を
担っている事が示された。
【考察】
今回行った在宅医療の需給予測と GIS を用いた可視化は、区以下の比較的狭い地域にお
いてきめ細やかな医療提供体制を考える際に特に有用性が高いと考えられる。
GIS の在宅医療分野への応用は緒に就いたばかりであり、2010-2011 年の厚生労働科学研究
(地域医療基盤開発推進研究事業)において、在宅医療資源の配置状況に関する分析結果
― 104 ―
が報告されているが、机上での分析に加えて実際に診療に従事している関係者と意見交換
を行い、今後のあり方について検討した報告はこれまでなかった。
地域の高齢化は、人の移動や出生率、死亡率の変化といった不確定要素を伴うが、どの
自治体においても喫緊の課題と考えられることから、事前に地域医療提供体制について対
応策を協議する意義は大きいと思われ、今年度予定されている在宅医療支援連携検討会に
おいて、作成した在宅医療マップを現状把握の資料として配布したいと考えている。
さらに、新たな試みとして行った在宅医療のネットワーク分析から得られた知見は、病
院の地域医療連携室といった部署で有効活用されることが今後期待される。
具体的には、現在機能しているネットワークの中で、情報を共有する際に鍵となる(媒介
中心性が高い)施設を明らかにして、該当する施設を通じて情報発信を強化することで、
ネットワーク全体に効率良く情報を伝えることが可能になると思われる。
ネットワーク分析は、社会科学分野において有用性の高い分析手法として近年注目され
ているが、地域医療分野に応用した事例はこれまで無いと思われることから、医療と介護
の連携強化を考えるにあたって有力なアプローチの一つとなることが期待される。
本研究では新潟医療圏の中で今後在宅医療体制を強化する必要がある地域を明らかにする
ことができたが、この地域で具体的な取り組みをすすめる場合においても、今回の分析手
法が役立つと思われる。
今回の調査研究においては、GIS による空間解析とネットワーク分析といった新たな手法
を用いて在宅医療の現状把握を行ったが、今後はこれらの成果を踏まえ、ネットワーク構
造の違いが在宅療養サービスの提供にどのような影響を与えているのか、不足が見込まれ
る地域にどのような介入が有効であるかについても検討を加え、得られた知見を在宅医療
の普及と効率化に反映させていきたいと考えている。
研究費使途明細
PC 用 GIS ソフト(SuperMap Deskpro 6)
165,900 円
地図データ(Super Base Map 25000)
40,950 円
交通費(会議及びデータ収集)
75,664 円
消耗品(文具、プリンターインク代 他)
17,486 円
計
― 105 ―
300,000 円
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