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ADCPミスアライメント
ミスアライメントの概要と補正 ミスアライメントの概要と補正 1 ミスアライメントとは 1-1 概要 流速のダイアグラムをナビゲーションリファレンスで表示したとき、近傍の観測線であるにもかかわらず進行 方向によって流速が著しく変わることがあります。 このような現象は、「ミスアライメント」があるときに起こります。 一般にミスアライメントとは送受波器の取り付け誤差を指しますが、ADCP では真方位と ADCP のヘディング 情報のズレをミスアライメントと呼んでいます。 ミスアライメントの評価および補正処理は、ミスアライメントを含む取得データに対して後処理を施すことによっ て可能です。 ミスアライメントの要因は、ADCP の取り付け誤差の他に ADCP のデッキボックスでのヘディング値の合わせ 誤差などがありますが、この内、取り付けの誤差については一度取り付けた後は一定になります。 ヘディング 値の合わせ誤差については航海毎に変わるため、原則として、その都度ミスアライメント値の算出が必要となり ます。 その他の要因には、ジャイロコンパス自身の誤差がありますが、ジャイロコンパスの誤差が進行方向に 依存するような場合には後処理でのミスアライメントの評価は困難となります。 本書は、ミスアライメントについてその要因と対策、補正方法の考え方を記します。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 1-2 ミスアライメントによって起こる流速誤差 1-2-1 ADCPによる流速計測 ミスアライメントの話をする前に、ADCP が計測する流速について記します。 ADCPが計測する流速は ADCP(船)に対する流速(相対流速:Vd)なので、これを対地の流速(絶対流速: V)にするためにはADCPが計測した流速から船速成分(-Vs)を引かなければなりません。 船速成分は、ADCP のボトムトラック機能で海底に対してどのように動いたかを計測した結果を使用する場 合(ボトムトラックリファレンス)と GPS の緯度経度からを計算したものを使用する場合(ナビゲーションリファレ ンス)とがあります。 ミスアライメントがある場合、上記の 2 種類のリファレンスをそれぞれ使用して得られる絶対流速ベクトル V の 間に相違が現れます。 上図はミスアライメントがない場合で、ボトムトラックリファレンスとナビゲーションリファレンスの流速値は一 致します。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 1-2-2 ミスアライメントがある場合の流速計測 船速を ADCP のボトムトラックから得る場合(ボトムトラックリファレンス)、船速ベクトル(Vs)と相対流速ベク トル(Vd)は同じ方位データを使用しているので、ミスアライメントが流速データに与える影響は小さくなります。 しかし、船速を GPS 情報から計算する場合(ナビゲーションリファレンス)はミスアライメントが流速データに与 える影響は顕著になります。 上図は、 θ° のミスアライメントが存在する場合に計測されるベクトル、計算されるベクトルを示していま す。 ミスアライメントが θ° のとき、ADCP が計測する船速度成分及び相対流速は実際の流速から -θ° 分だけ方向が変わります。 ボトムトラックリファレンスの場合は、相対流速ベクトル(Vd)と船速ベクトル(Vsb)の両方が -θ° 回転し た方向になり、計算結果となる絶対流速(V)も -θ° だけ方向が変わります。 このとき、ベクトルの絶対値 は変化しません。 通常、ミスアライメント角は数度なので、ボトムトラックリファレンスでは補正を行う必要はな いといえます。 しかし、ナビゲーションリファレンスの場合はボトムトラックリファレンスと異なり、相対流速ベクトル(Vd)のみ が回転するため、計算結果(V)は方向と絶対値の両方に影響を受けます。 この影響はミスアライメントが大き いほど、さらに速度が速いほど大きくなります。 そのため、ボトムトラックが取得できず、ナビゲーションリファレ ンスで流速を計算する場合には、ミスアライメントの補正が必要になります。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 1-2-2 ミスアライメントが流速データに与える影響 ミスアライメントがどの程度流速データに影響するかを分かりやすくするために絶対流速がゼロの場合を考え ます。 ミスアライメントがない場合、船速(Vs)と ADCP が計測する速度(Vd)にはズレがないため、 V = Vd + Vs = 0 となります。 ところが、ミスアライメントが時計回り方向に θ° あるとき、ADCP が計測する流速は船に対する流速か ら -θ°ずれ、下図のような Ve の流速誤差を生じることになります。 θは通常、小さい値(数度程度)であるため、生じる流速の誤差は |Ve| = |Vs| × tanθ と近似することができます。 つまり、ミスアライメントによる流速の誤差は (船速) × tanθ の大きさで常に船の進行方向に対して進 行方向のほぼ正横に生じます。 下表は、ミスアライメント 0.1°、0.5°、1°、2°、4°のときの船速 10knot、15knot、20knot での流速誤差 を示します。 ミスアライメント 0.1° 0.5° 1° 船速 流速誤差 10knot 0.02knot (0.9cm/s) 15knot 0.03knot (1.3cm/s) 20knot 0.03knot (1.8cm/s) 10knot 0.09knot (4.5cm/s) 15knot 0.13knot (6.7cm/s) 20knot 0.17knot (9.0cm/s) 10knot 0.17knot (9.0cm/s) 15knot 0.26knot (13.5cm/s) 20knot 0.35knot (18.0cm/s) 10knot 0.35knot (18.0cm/s) 2° 15knot 0.52knot (26.9cm/s) 20knot 0.70knot (35.9cm/s) 10knot 0.70knot (36.0cm/s) 4° 15knot 1.05knot (54.0cm/s) 20knot 1.40knot (71.9cm/s) 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 1-3 ミスアライメントがあるデータと補正されたデータ(例) 前項までの説明から、以下のことがいえます。 1)ミスアライメントの流速への影響はナビゲーションリファレンスで大きい。 2)ナビゲーションリファレンスでの流速誤差は進行方向の正横に (船速) × tanθ の大きさで生じる。 3)ボトムトラックリファレンスでは数度のミスアライメントは無視できる。 ここでは、ミスアライメントが流速データへ及ぼす影響について、リファレンスの種類およびミスアライメント値 が異なるケースについて実際のデータで比較を行います。 使用データ 船速:10knot 最大流速:約 50cm/s 使用機器:OS-ADCP38kHz (正しい流速) 1-3-1 ナビゲーションリファレンスとボトムトラックリファレンスの比較 ミスアライメント ナビゲーションリファレンス ボトムトラックリファレンス なし -4° 上図で示すように、ナビゲーションリファレンスではミスアライメントの影響が大きいが、ボトムトラックリファレ ンスでは実用上影響はないと言えます。 ※ナビゲーションリファレンスでは、変針、変速時に GPS での船速計算で誤差が生じるため、船速、針路がほ ぼ一定の部分でデータを見ます。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 1-3-2 ミスアライメントによる流速への影響(ナビゲーションリファレンス) なし -0.5° 0.5° -1° 1° -2° 2° -4° 4° ミスアライメントが大きいほど、流速データに与える影響は大きい。 船速 10knotのときの流速ベクトルへの影響 ミスアライメント 流速誤差 -0.5° -1° -2° -4° 進行方向 向かって左へ ミスアライメント 4.5cm/s 0.5° 9.0cm/s 1° 18.0cm/s 2° 36.0cm/s 4° 流速誤差 4.5cm/s 進行方向 向かって右へ 9.0cm/s 18.0cm/s 36.0cm/s 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 2 ミスアライメントの要因と対策 ミスアライメントが生じる要因はいくつかあり、それによって補正可能な場合と補正が難しい場合とがありま す。 2-1 ADCP取り付け誤差 船底装備の ADCP は通常、ADCP のヘディング(3 番ビーム)が右前 45°になるよう取り付けられ、データ 取得時には ADCP のコマンドまたはソフトウェアの設定でこの値を入力しています。 実際の取り付けの際には数度の取り付け誤差があることが多く、使用する方向データ(ジャイロデータなど) 自体の取り付け誤差もこれに含まれます。 この誤差は一度取り付けた後は一定値になるので、データの蓄積と分析によってその傾向が分かります。 2-2 ADCPデッキボックスでの合わせ誤差 船底装備の ADCP はヘディングの情報を船のジャイロ信号から得ているが、シンクロ信号またはステッパー 信号でデッキボックスにデータが入るため、航海毎(デッキボックス立ち上げ毎)に ADCP のデッキボックスでジ ャイロ値のオフセットを合わせる必要があります。 この合わせる際の誤差が、ミスアライメントとなります。 合わせ誤差は、船の係留状態によりジャイロ値が安定しないときやジャイロコンパスを立ち上げてから安定す る前にデッキボックスのジャイロ値を合わせたときに特に大きくなります。 (ジャイロコンパスが安定するには、 電源投入後 2 時間以上の時間が必要) また、ADCP デッキボックスでのジャイロ値は 1°単位でしか合わせ られないため、船のジャイロ値が安定している場合でも最大 0.5°程度の差が生じます。 ミスアライメントが航海毎に大きく違う場合は合わせ誤差によるところが大きいです。 ジャイロコンパスが十 分に安定してから、出港前の船が安定している状態でジャイロ値合わせをすることでこの誤差を軽減すること ができます。 合わせ誤差についてはデッキボックスを介さず直接 PC にジャイロ値を入力することで除去することができま すが、その場合一定速度(2Hz 以上)で安定したデータが出力されなくてはなりません。 2-3 ジャイロコンパスの誤差 ADCP はヘディング情報を船のジャイロコンパスから得ているため、ジャイロコンパス自身の誤差が ADCP データに影響を及ぼします。 ジャイロコンパスにはその種類によって速度誤差、変速度誤差、緯度誤差などの誤差があり、構造的に避け られない誤差については速度や位置情報を用いて内部補正を行っています。 ジャイロコンパス内部で補正処 理が正しく行われていれば誤差は取り付けのオフセットのみとなるので、後処理によるデータ補正が可能で す。 補正が正しく行われていない場合や、ジャイロコンパスを立ち上げてから安定する前に出港した場合には、航 海中に誤差が変化します。 また、温度誤差やジャイロの経年劣化による誤差が生じることがあり、こういった ジャイロ側の誤差が航海中に変化するようなときにはデータの補正は難しくなります。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 3 ミスアライメントの補正 3-1 補正が必要なデータ データによって、補正が必要な場合と補正が必要でない場合があります。 観測水域全体でボトムトラックが可能であれば、補正作業は必要ありません。 ボトムトラックが海底に届か ず、ナビゲーションリファレンスを用いる場合は、ミスアライメント補正の必要性を判断しなくてはなりません。 まず ADCPTracker など、ADCP のトラック図を描けるソフトウェアを使って、データの概要を把握します。 下記のようなときは、データにミスアライメントが含まれている可能性があります。 ● ボトムトラックリファレンスとナビゲーションリファレンスの流速分布が異なる場合 ミスアライメント補正必要 ミスアライメント補正不要 ● 船の進路や速力に応じて流速分布が極端に変わる場合(ナビゲーションリファレンス時) ミスアライメント補正必要 ミスアライメント補正不要 (ナビゲーションリファレンスでは変針中の流速誤差は大きくなるので、変針中のデータは使用できない。) 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 3-2 ミスアライメントの算出 ミスアライメントの算出は、SEA のソフトウェア「ADCPCalib」により可能ですが、算出に使用するデータには 条件があり、それを満たすデータが取得できなかった場合はミスアライメント補正が行えません。 3-2-1 ミスアライメント算出のためのデータ ミスアライメント算出のためには、下記のような条件のデータが必要となります。 ・データ系列にボトムトラックと GPS の情報が含まれていること >> SEA のミスアライメント計算ソフトウェア「ADCPCalib」では GPS の緯度経度から計算された 針路と ADCP のボトムトラックで計測された針路を比較し、ミスアライメントを算出します。 その ため、ボトムトラックと GPS の船速情報があることが必要となります。 ・船速と針路が一定であること >> 変針時や船速が変化するときに緯度経度の情報から船速を計算すると、実際の船速との誤差 が大きくなります。 そのため、ミスアライメントの算出には使用できません。 ・良質のデータが 50 サンプル(アンサンブル)程度含まれていること >> ADCP データ、GPS データにはランダム誤差があるため、できるだけ多くのサンプル数で算出 する必要があります。 ミスアライメント補正には、上記条件を満たすデータが得られていることが必要です。 先に述べたように、ミ スアライメントは航海毎に違うため(デッキボックスでジャイロのオフセットをする場合は特に)、原則として航海 毎にミスアライメント算出のための航走をすることが望ましいです。 ミスアライメントの算出は、ランダム誤差をなくすためにもジャイロの進行方向による誤差を判別するためにも、 針路を変えた複数の測線についてデータを取得するべきです。 具体的には、出港後、ボトムトラックデータを取得できる範囲で往復または L 字走航を行い、航海中に変化が ないかを確認するために帰港前に同様に走航します。 時間的に余裕がなければ、出港後ボトムトラックが取得できる範囲ではできるだけ船速、針路を変えずに走 航し、また、帰港時にも同様に走航することでミスアライメントの算出は可能となります。 2005/02/02 版 ミスアライメントの概要と補正 3-2-2 ミスアライメント算出方法 ミスアライメントの算出にはいくつかの方法があるが、SEA のソフトウェア「ADCPCalib」では下記の方法で 算出しています。 アライメント誤差 θ がない理想の場合は、ADCP で測った船の針路と GPS で測った船の針路は同じで、 針路誤差がありません。アライメント誤差があった場合は、ADCP で測った船の針路と GPS で測った船の針路 は θ° ずれて針路誤差が起きます。 即ち、針路誤差はアライメント誤差に等しくなります。 上図で、 Vs の針路:φn Vsb の針路:φb とすると、針路の誤差 φe (=θ) は、 φe = φn-φb ランダム誤差を取り除くために、 < φe > = < φn-φb> となります。 ここで、<>はアンサンブル平均を表します。 「ADCPCalib」の操作手順については、別紙「ADCPCalib 操作手順書」を参照してください。 算出されたミスアライメントは、ADCP のソフトウェア(VmDas、WinRiver、ADCPTracker など)に入力し、 データの補正が可能になります。 詳細については「ADCPCalib 操作手順書」およびそれぞれのソフトウェアのマニュアルを参照してください。 参考文献: 金子新 伊藤集通 (1994): ADCP の普及と海洋学の発展 気象庁 (1999): 海洋観測指針(第一部) 付録 C 表層海流計観測データの較正 2005/02/02 版