...

VELOと層

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

VELOと層
図1.調査対象海域
3.調査方法
H-ADCP、短波レーダー、水温・海流ブイの設置場所は宮城県漁業協同組合および宮城県水産技
術総合センターと協議の上、図2のように決定した。
図2.H-ADCP、短波
レーダー、水温・海流
ブイの配置想定。
(1)H-ADCP による万石浦-石巻湾間交換流量調査
H-ADCP による流量観測地点として適正であるかを事前に判断するため、万石浦と石巻湾を
繋ぐ水路(万石浦水路)を対象に、海底地形および断面流速分布調査を実施した。事前調査
結果を元に、土地管理者や漁業活動および護岸工事との兼ね合いを鑑み、宮城県漁業協同組
合および宮城県水産技術総合センターと協議の上、設置場所の最終決定を行った。
H-ADCP は水路左岸側に設置し、水路の流量観測を約 1 ヶ月間連続で実施した。この際、水
路中央部の海底に上向き ADCP を設置し、流速の鉛直構造を同時に観測して、流量算出式の
モデル構築に用いた。また、集中観測日を 2 日間設定し、日中における 1 時間毎の流速断面
観測を行ない、H-ADCP で算出した流量のキャリブレーションを行った。
上記の情報を元に、万石浦水路の 1 ヶ月間の交換流量を高精度に算出し、調和解析を行って
調和定数を算出し、任意期間の流量を推算できるプログラムを構築した。
(2)海洋短波レーダーによる石巻湾表層流調査
本調査では、海洋短波レーダーの設置位置を決定するため、石巻湾周辺を踏査し選定した。
更に、選定された設置箇所については、宮城県漁業協同組合および宮城県水産技術総合セン
ターと協議の上、最終決定された。
42MHz 帯の VHF 短波レーダーは、石巻湾を囲むように 2 局設置(付図7)し、各レーダー
11 局周辺の短波発信状況を調査し、補正係数を算出した。また、15 昼夜観測を実施し、海面二
次散乱を抽出し流向・流速を観測した。上記観測データは演算処理の上、表面流速ベクトル
を求め、これの成果である表面流の変動と潮時との対応を検討しながら、石巻湾内でのカキ
幼生輸送経路を推定する基礎データを獲得した。
(3)水温・海流ブイによる石巻湾リアルタイム海洋環境モニタリング
水温・海流ブイを設置する場所を決めるため、石巻湾周辺を踏査し、宮城県漁業協同組合お
よび宮城県水産技術総合センターと協議の上決定し、設置し、リアルタイムで水温・海流情
報を監視できる体制を整えた。データを陸上サーバーで自動受信し、データベース化すると
ともに、インターネット上でデータを表示、図化できるようなシステムを構築した。また、
漁業者がより使用し易くするため、携帯電話からも情報を閲覧できるようなシステムを構築
した。
200
150
100
50
0
‐50
‐100
‐150
‐200
‐250
‐300
H24年6月 石巻‐万石浦
積算流量
潮位
積算流量
6/12 6/13 6/14 6/15 6/16 6/17 6/18 6/19 6/20 6/21 6/22 6/23 6/24 6/25 6/26 6/27 6/28 6/29 6/30 7/1
図3.H24 年 6 月の積算流量
(2)海洋短波レーダーによる石巻湾表層流調査
12 14
12
10
8
6
4
2
0
‐2
‐4
‐6
積算流量(×10^6 m^3/s)
推算潮位(cm)
4.結果と考察
(1)H-ADCP による万石浦-石巻湾間交換流量調査
事前観測の結果から、万石浦水路内の海底地盤が震災前よりも大きく低下していることが判
明した。震災前の万石浦水路内は水深4~5m程度であったが、今回の深浅測量の結果(付図
1)、水深 8~11m程度まで深くなっており、渡波港付近では最大 15mまで深掘れしている箇
所が見つかった。
H-ADCP で計測された流速をみると(付図2)、万石水路の流速は、水位低下時には順流(海
側)で、水位上昇時は逆流(万石浦側)になっており、水位変化と連動した往復変動となっ
ていた。
次に、万石水路の中央付近に設置した鉛直式の ADCP データから、順流最大時、順流低減時、
逆流低減時、逆流最大時の4ケースを抽出し、水深 2mにおける流速値 1 点を用いて、二次
曲線を用いて流速鉛直プロファイルをモデリングした(付図3)。この鉛直プロファイルモ
デルを用い、H-ADCP の実測流速から断面流速分布をシミュレーションし、流量を算出した。
計算した流量を、曳航型 ADCP の流量観測結果(2 回実施)と比較し、検証した結果、両者の
相関は、Y=0.99x(Y:H-ADCP 流量、x:ADCP 流量)、相関係数 R2=0.98 と非常に良好な結果
が得られた(付図4)。次に、H-ADCP データから算出した流量値を用いて 30 昼夜の調和解
析を行い、13 分潮を算出し(付表1)、算出した調和定数を用いて、H-ADCP 観測期間(H23
年 2 月)における推算流量を算出し、実測流量比較した結果、良い一致を示した(付図5)。
付表1の調和定数を用いて、カキの種苗シーズンである H24 年 6 月の推算流量を試算し(付
図6)、積算流量の変化を調べた結果、大潮期には小潮期の約 3 倍の流出が生じていた(図
3)。また積算流量のピークは干潮時と重なっており、こうした積算流量のピーク時に合わ
せて採苗することが効果的であろう。
付図8に示すとおり、調査区域の北西部に旧北上川が位置しており、河口から石巻漁港の防
波堤沿いに 30~50cm/s の南流または南東流が卓越していた。渡波港沖合では、石巻湾奥を
時計回りとする南流が主流で、流速は 10cm/s 以下であった。大潮の 2 月 22 日の平均流速(付
図9)では、渡波港から南西約1km 沖合において、石巻漁港の沖防波堤と尾崎を結ぶ中間付
近の海域では流れが滞留していることが確認された。
また、万石浦から搬送されたカキ幼生が石巻湾においてどのような経路で浮遊するか推定す
る目的で、本調査では観測された二次元的な表層流に乗せてカキ幼生の浮遊の挙動を推定し
た(図4)。図は渡波港(万石浦)前面から幼生を放出して 30 分毎に追跡動画を作成して
カキ幼生の輸送経路の推定したものだが、渡波港口より幼生は時計回りに南下し、尾崎付近
から時計回りに西に移動して滞留する場合と、韮崎から尾崎までの海岸に漂着するか、尾崎
を越え、生草島及び南東沖合に移動するものと推測された。
図4.大潮時の幼生の輸送経路(左:2 月 7 日、右:2 月 22 日)。
(3)水温・海流ブイによる石巻湾リアルタイム海洋環境モニタリング
2 月 20 日に石巻湾に水温・海流ブイを設置した。設置当初は安定してデータが取得できてい
たが、2 月 24 日に流速計のデータが取得できなくなった。このため、ブイを回収し、調査し
た結果、通信ケーブルの断線と判断されたため、通信ケーブルを交換し、3 月 16 日に再設置
した。その後、良好なデータが取得できている(付図10)。これらのデータは、インター
ネット上および携帯サイトにて、漁業者向けに公開している。
5.成果概要
・万石浦から石巻湾に放出される幼生が最大量となる潮時が解明された。
・石巻湾内でのカキ幼生の輸送パターンが推算された。
・カキの成熟と産卵に重要な水温情報と、幼生輸送方向を判断するのに重要な海流情報をリア
ルタイムで漁業者に提供することが可能となった。
6.成果の利活用
H-ADCP を用いた万石浦から石巻湾への放出流量の予測式が構築され、カキの好適採苗時期が
特定可能となり、被災地域における今後の効率的・安定的な養殖生産に寄与できる。同様の解
析を海洋短波レーダーの海流向・流速データに適用することによって、採苗に適した場所を推
定することができ、今後の効率的・安定的な養殖生産に寄与できると期待される。
13 【補足説明】
(1)H-ADCP による万石浦-石巻湾間交換流量調査
事前観測の結果から、万石浦水路内の海底地盤が震災前よりも大きく低下していること
が判明した。震災前の万石浦水路内は水深4~5m程度であったが、今回の深浅測量の結果
(付図1)、水深 8~11m程度まで深くなっており、渡波港付近では最大 15mまで深掘れして
いる箇所が見つかった。
付図1.海底地形測量結果。図中
の赤丸は海底設置型上向き ADCP
の設置場所を、赤線は H-ADCP に
よる測定線を示す。
実測水位(cm)
H-ADCP で計測された流速をみると(付図2)、万石水路の流速は、水位低下時には順流(海
側)で、水位上昇時は逆流(万石浦側)になっており、水位変化と連動した往復変動となっ
ている。横断方向の流速分布は、右岸側(西側)に流心が存在しており、みお筋の位置(付図
1)と概ね一致する。大潮期の最大流速は 1.2m/s 程度、小潮期の最大流速は 0.55m/s で、逆
流時に若干流速が大きくなる傾向が見られた。また、2時間周期の短周期振動が生じており、
小潮期において顕著であった。
180 実測水位(大潮期)
130
80
30
‐20
40944
40945
40946
40947
40948
40949
40950
40951右岸
観 測 方
左岸
逆流
順流
付図2.H-ADCP 観測結果。
万石水路の中央付近に設置した鉛直式の ADCP データから、流速の鉛直プロファイルモデル
14 を構築した。順流最大時、順流低減時、逆流低減時、逆流最大時の4ケースを抽出し、水深
2mにおける流速値 1 点(●)を用いて、ADCP 実測値(○)にフィットする鉛直二次曲線をモ
デリングした(付図3)。順流時、逆流時ともに ADCP の実測値は典型的な鉛直流速プロフ
ァイルを描いており、計算式との整合も良好であった。
流速値(m/s)
流速値(m/s)
0.00
1.0
2.0
2.0
2.0
2.0
3.0
3.0
3.0
3.0
安芸の式結果
4.0
実測流速
5.0
流速実測値
5.0
0.10
0.15
0.20
水深(水面基準)
水深(水面基準)
4.0
0.05
4.0
5.0
水深(水面基準)
1.0
0.00
1.00
0.00
-0.25
1.0
0.75
-0.05
-0.50
1.0
0.50
-0.10
-0.75
0.0
0.25
-0.15
-1.00
0.0
0.0
4.0
5.0
6.0
6.0
6.0
6.0
7.0
7.0
7.0
7.0
8.0
8.0
8.0
8.0
順流最大時
順流低減時
逆流低減時
9.0
9.0
逆流最大時
9.0
9.0
付図3.ADCPによる鉛直プロファイルのモデル化
上記の鉛直プロファイルモデルを用い、H-ADCP の実測流速から断面流速分布をシミュレー
ションし、流量を算出した。計算した流量の検証を行うため、曳航型 ADCP の流量観測結果
(2 回実施)と比較した(付図4左)。ADCP の曳航流量は一見するとバラツキが大きいように
見えるが、2時間周期の振動の影響を受けているためであり、H-ADCP 流量(赤)と良く一致
している。
両者の相関は、Y=0.99x(Y:H-ADCP 流量、x:ADCP 流量)、相関係数 R2=0.98 と非常に良好
な結果が得られた(付図4右)。これにより、H-ADCP の流速データを元に算出された流量は
十分な精度を有していると評価できる。
流量(m^3/s)
曳航流量
1.0
水位(m)
0
‐0.5
(500)
(1,000)
2/1 12:00
1,000
‐1.0
‐1.5
2/1 16:00
2/1 20:00
2/2 0:00
流量(m^3/s)
2/2 4:00
2/2 8:00
曳航流量
2/2 12:00
2/2 16:00
1.0
水位(m)
0.5
500
0.0
0
‐0.5
(500)
(1,000)
2/28 0:00
600
H‐ADCP計算流量(m^3/s)
0.0
水位(T.P.m)
0.5
500
水位(T.P.m)
流量(m3/s)
1,000
流量(m3/s)
水深(水面基準)
流速値(m/s)
流速値(m/s)
-0.20
0.0
0.00
y = 0.99x
R² = 0.98
400
200
0
‐200
‐400
‐600
‐600
‐1.0
‐400
‐200
0
200
400
600
ADCP曳航流量(m^3/s)
‐1.5
2/28 4:00
2/28 8:00
付図4
2/28 12:00
2/28 16:00
ADCP曳航流量とH-ADCP計算流量の比較
次に、H-ADCP データから算出した流
量値を用いて 30 昼夜の調和解析を行い、
13 分潮を算出した(付表 1)。
算出した調和定数を用いて、H-ADCP
観測期間(H23 年 2 月)における推算流量
付表1 H-ADCP流量から求めた13分潮
分潮
M2
S2
K2
N2
L2
ν2
μ2
15 振幅(cm)
遅角(°)
312.1
160.3
43.6
35.3
9.1
6.8
5.1
211.4
249.9
249.9
203.4
193.4
203.4
208.0
分潮
K1
O1
P1
Q1
M4
MS4
振幅(cm)
遅角(°)
109.9
93.8
36.6
13.1
11.6
14.8
282.5
250.2
282.5
245.0
215.2
318.9
を算出した(付図5)。実測流量(オレンジ)と推算流量(赤)は非常に良く一致しており、調
和解析および推算流量の算出精度に問題がないと言える。但し、小潮期には2時間周期の振
動が卓越しており、推算流量ではこれが再現できていない。なお、実測流量の 25 時間移動平
均(点線)をみると、流量収支はほぼゼロになっていることから、海水交換以外に流入・流出
がほとんど無い状況であることがわかる。
潮位(cm)
潮位と流量の関係図
2500
50
2000
0
1500
‐50
1000
‐100
500
‐150
0
‐200
‐500
‐250
実測潮位
推算潮位
H‐ADCP実測流量
‐300
2/1
2/2
2/3
2/4
2/5
付図5
2/6
2/7
2/8
2/9
推算流量
25h移動平均
‐1000
‐1500
2/10 2/11 2/12 2/13 2/14 2/15 2/16 2/17 2/18 2/19 2/20
H-ADCP実測流量(オレンジ)と推算流量(赤)の比較
200
150
100
50
0
‐50
‐100
‐150
‐200
‐250
‐300
H24年6月 石巻‐万石浦
推算潮位と推算流量
推算流量
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
‐500
‐1000
‐1500
‐2000
6/12 6/13 6/14 6/15 6/16 6/17 6/18 6/19 6/20 6/21 6/22 6/23 6/24 6/25 6/26 6/27 6/28 6/29 6/30 7/1
付図6
潮位
推算流量(m^3/s)
推算潮位(cm)
付表1の調和定数を用いて、カキの種苗シーズンである H24 年 6 月の推算流量を試算した(付
図6)。この様に、任意期間の推算流量を計算することが可能であり、種苗シーズンの状況
を事前に把握して採苗の計画立案に資すことができる。
H24年6月大潮期の推算流量
(2)海洋短波レーダーによる石巻湾表層流調査
42MHz 帯の VHF 短波レーダーは、石巻湾を囲むように 2 局設置(付図7)し、各レーダー
局周辺の短波発信状況を調査し、補正係数を算出した〈アンテナパターン〉。また、実際の
流況観測は、15 昼夜実施し、海面二次散乱を抽出し流向・流速を観測した。
上記観測データは演算処理の上、表面流速ベクトルを求め、これの成果である表面流の変動
と潮時との対応を検討しながら、石巻湾内でのカキ幼生輸送経路を推定する基礎データを獲
得した。
16 流量(m^3/s)
H24年2月 石巻‐万石浦
100
付図7-1
魚町局(石巻市超低温冷蔵施設)
付図7-2 袖ノ浜局(宮城県水産技術総合
センター)
141°22'
旧
北
上
川
141°20'
141°18'
海洋短波レーダーによって取得した表層流は 200m格子メッシュで日平均流速を求めベクト
ル表示を行なった。観測期間は、2 月7日~22 日までの 15 昼夜連続観測とし、観測インタ
ーバルは 30 分間隔とした。
平均流速出現状況
魚町局
万石浦
◎
観測開始時刻:2012/02/21 00:00
観測終了時刻:2012/02/22 00:00
魚町浜
単位:cm/sec
石巻漁港
渡
波
港
38°24'
◎ 神ノ浜局
38°24'
袖ノ浜局
50 cm/sec
cm/sec
尾崎
141°22'
38°22'
141°20'
141°18'
38°22'
0
付図8.日平均流速図(平成 24 年 2 月 21 日)
17 10
20
30
40
50
141°22'
141°20'
141°18'
旧
北
上
川
平均流速出現状況
万石浦
魚町局
観測開始時刻:2012/02/22 00:00
◎
魚町浜
観測終了時刻:2012/02/23 00:00
石巻漁港
単位:cm/sec
渡
波
港
◎ 神ノ浜局
38°24'
38°24'
袖ノ浜局
50 cm/sec
尾崎
cm/sec
0
20
30
40
50
141°22'
141°20'
38°22'
141°18'
38°22'
10
付図9.日平均流速図(平成 24 年 2 月 22 日)
(3)水温・海流ブイによる石巻湾リアルタイム海洋環境モニタリング
45
360
40
270
30
25
180
20
15
90
10
5
0
2012/2/20 2012/2/25 2012/3/1
0
2012/3/6 2012/3/11 2012/3/16 2012/3/21
付図10.石巻湾の水温・海流ブイによって得られた流向・流速。
18 direction (degree)
velocity (cm/sec)
35
vel.
dir.
平成23年度種苗発生状況等調査事業実施報告書
A21
調 査 名
A 種苗発生状況緊急調査(1)調査
課 題 名
①ホタテ(ⅰ)母貝生息状況調査
機 関 名
担当者名
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
渡野邉雅道(函館水産試験場 調査研究部 主査)
協力機関名
噴火湾ホタテ生産振興協議会
1. 調査目的
北海道噴火湾海域では,ホタテガイ養殖漁業が営まれ重要な基幹産業となっている。しかし,
東北地方太平洋沖地震に伴う津波によって,当海域のホタテガイ養殖施設が大きな被害を受けた
ため,産卵に寄与するホタテガイ母貝量は震災前後で変化した可能性がある。本課題では,噴火
湾海域の関係漁業組合等に対し聞き取り調査を行い,ホタテガイ幼生の発生量に影響を与えるホ
タテ母貝量を推定する。
2.調査内容
下記の対象漁業協同組合において,年齢毎のホタテガイ生息状況を調査し,産卵に寄与するホ
タテガイ母貝量の推定を行う。
対象漁業協同組合(図 1)
噴火湾胆振海域:室蘭漁協,いぶり噴火湾漁協
噴火湾渡島海域:長万部漁協,八雲町漁協,落部漁協,森漁協,砂原漁協,鹿部漁協
図1 噴火湾におけるホタテガイ養殖漁業漁場図(青塗り部)
※漁場位置は,イメージであり正確なものではない
~ 19 ~
3.調査方法
・資料の収集
北海道漁業協同組合連合会が作成した「帆立販売明細表」から,平成 19 年以降の地区
別月別規格別のホタテガイ水揚げ量を集計した。
・産卵に寄与するホタテガイ母貝量の推定方法
噴火湾では,2 年貝(2 年目)の産卵数は 3 年貝(3 年目)に比べ非常に少ないと考えられ
る。このことから,産卵期おける 3 年貝の養殖量を産卵に寄与するホタテガイ母貝量と
した。ただし,産卵期に養殖されているホタテガイの数量を把握することは困難である
ことから,産卵終了後の6月以降に出荷された 3 年貝の水揚げ量により母貝量を推定し
た(図 2)。以上の方法で,平成 19~23 年のホタテガイ母貝量を推定した。
・聞き取り調査
平成 24 年のホタテガイ母貝量の見通しについて,関係漁協で聞き取りを行った。
図2 ホタテガイ養殖漁業の概念図
4.結果と考察
・平成 19~23 年の年別漁協別のホタテガイ母貝量を表 1 に示す。漁協別にみると,八雲町
漁協が全海域の約 5 割を,長万部漁協が約 3 割を占めており,両漁協あわせると噴火湾
全体の約 8 割を占めていた。海域別では渡島海域が全体の 9 割以上を占めていた。
・噴火湾全体のホタテガイ母貝量は減少傾向となっており,東日本大震災後に産卵期を迎え
た平成 23 年の母貝量は,平成 19 年以降では最低となった(図 3)。ただし,平成 23 年の
母貝量(水揚げ量)は東日本大震災の津波により養殖施設が被害を受けたため出荷ができ
ず過小に評価している可能性がある。
・今春の産卵期(平成 24 年 5 月) のホタテガイ母貝量の見通しについて,関係漁協で聞き取りを
行った。
噴火湾で最も多く母貝を産出している八雲漁協によると,今年の春に母貝(3 年貝)
となるホタテガイの耳吊り量は,震災の影響により例年の半分程度ということであった。
一方,2 番目に母貝量が多い長万部漁協については前年とほぼ同量ということであった。
以上のことから,今春の産卵期における母貝量は平成 23 年よりも減少する可能性がある。
・以上のように,震災後の平成 23 年の母貝量は平成 19 年以降では最低となったが,同年の
ホタテ稚貝採苗密度は平成 19~22 年に比べ大幅に増加した(図 4)。また,これまでの研
究でホタテ稚貝の採苗密度には産卵前の餌の量や成長の良し悪しに影響を受けることが
明らかとなっている。このように,ホタテ稚貝の採苗量の推定には母貝量のみならず他の要
因(餌量,成長,生息環境など)も考慮して総合的に判断する必要があると考えられた。
~ 20 ~
表1 推定されたホタテガイ母貝量(年別,漁協別)
単位:トン
海域
漁協
H19
H20
H21
H22
H23
長万部
5,062
5,441
5,478
3,837
2,471
八雲町
11,925
10,311
8,997
6,745
3,310
落部
2,504
461
94
23
1
森
5,170
2,797
2,617
1,892
509
砂原
46
20
50
0
4
鹿部
34
8
9
0
0
室蘭
0
0
0
0
0
722
1,187
904
491
717
渡島海域計
24,741
19,037
17,246
12,497
6,295
胆振海域計
722
1,187
904
491
717
渡島海域
胆振海域
いぶり噴火湾
推定母貝量(トン)
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
H19
H20
H21
H22
H23
採苗密度(千個/100g採苗器)
図3 推定されたホタテガイ母貝量の年変化(全海域計)
300
250
200
150
100
50
0
H19
H20
H21
H22
図4 ホタテ稚貝採苗密度の年変化
~ 21 ~
H23
5.成果概要
・噴火湾におけるホタテガイ母貝の分布状況を空間的に把握した。
・噴火湾におけるホタテガイ母貝量の年変化を示し,震災前後の母貝量の変化を比較した。
・今春の産卵期における母貝量の見通しを示した。
・ホタテ稚貝の採苗量の推定には,母貝量のみならず他の要因も考慮して総合的に判断する必要
があることを示した。
6.成果の利活用
調査結果を,噴火湾ホタテ生産振興協議会等を通じてホタテガイ養殖漁業関係者に情報提供す
る。各ホタテガイ養殖関係者は,この結果に海洋環境状況調査結果等の情報を合わせて,今春の
ホタテガイ採苗の準備に活用できる。
~ 22 ~
平成23年度種苗発生状況等調査事業実施報告書
A22
調 査 名
A 種苗発生状況緊急調査(1)調査
課 題 名
②ホタテ(ⅱ)海域環境情報調査
機 関 名
担当者名
噴火湾ホタテ生産振興協議会
佐藤 博(八雲町漁業協同組合 総務指導部長)
(独)水産総合研究センター東北区水産研究所
伊藤進一(資源海洋部海洋動態グループ グループ長)
筧 茂穂(資源海洋部海洋動態グループ 主任研究員)
和川 拓(資源海洋部海洋動態グループ 任期付研究員)
山田陽巳(資源海洋部 部長)
協力機関名
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
岩手県水産技術センター
1. 調査目的
ホタテの養殖業は北海道や岩手県において基幹となる重要な漁業の一つであるが、東北地方太
平洋沖地震に伴う津波によって北海道噴火湾や岩手県沿岸域の養殖施設が大きな被害を受け、親
貝の分布状況も大きく変化してしまった。当該地域の水産業の復興には、ホタテの養殖業の一日
も早い復興・再生が急務である。しかし、親貝の分布状況が変化し、また沿岸域の漁場環境も一
変したため、従来の経験に基づいた採苗時期・場所では種苗を確保できない恐れがある。被災地
域における今後の効率的・安定的な養殖生産を確立するために、津波後の新たな海域環境下にお
ける好適採苗場所を特定する必要がある。本課題では、ホタテ幼生の採苗が盛んな北海道噴火湾
および岩手県沿岸を対象に、ホタテの成熟と産卵に重要な水温情報や、幼生輸送方向を判断する
のに重要な海流情報をリアルタイムで漁業者に提供するシステムを構築し、効率的・安定的な養
殖生産を支援することを目的とする。また、噴火湾においては、親貝分布域の海洋環境をモニタ
リングすることにより、親貝の適切な管理・保護を行い、今後の親貝の確保と採苗を支援する。
2.調査内容
(1)北海道噴火湾では、津波によってホタテの養殖が被害を受けたが、中でも八雲町の被害が
甚大であり、多くの養殖施設が被害を受けた。今後、ホタテの養殖を継続するためには、残され
た成貝・半成貝・稚貝を適切に管理・保護し、今後の親貝の確保と採苗を可能にすることが必要
不可欠である。このため、定期的な海洋環境調査を実施し、成貝・半成貝・稚貝の生息環境を監
視する。また、八雲町黒岩にテレメーター式の水温・塩分観測ブイを設置し、これらのデータを
インターネットを通じて配信できるシステムを構築する。
(2)岩手県沿岸に、テレメーター式の水温・海流ブイを設置し、リアルタイムで水温・海流情
報を監視できる体制を整える。また、これらのデータを、インターネット・携帯アプリケーショ
ンを通じて配信できるシステムを構築する。
また、既存のデータなどを利用して、三陸沿岸域に供給されるホタテの幼生の輸送パターンを解
析し、好適採苗場所を推定する。
23 図1.調査対象海域(右)
とブイの展開想定位置。
3.調査方法
(1)メモリー式 CTD(深度,水温,塩分,DO,クロロフィル,濁度)を購入し、噴火湾内の広範囲
で観測を実施し(図2)、親貝の生息環境を空間的に把握する。
また、海洋環境観測ブイを購入し、八雲町黒岩沖に設置することによって、5, 50 m 深の水温お
よび 15, 30 m 深の水温・塩分を計測し、テレメータシステムにて陸上サーバーへ転送し、漁業者
にリアルタイムで漁場環境情報を提供する。
図2.噴火湾内での観測定点。
(2)水温・海流ブイによる岩手県沿岸リアルタイム海洋環境モニタリング
水温・海流ブイを設置する場所を決めるため宮古および大船渡周辺を踏査し、地元の漁業協
同組合(重茂漁業協同組合、越喜来漁業協同組合を想定)および岩手県水産技術センターと
協議の上、設置場所を決定する。
テレメーター式の水温・海流ブイを購入し、対象海域に設置し、リアルタイムで水温・海流
情報を監視できる体制を整える。
24 これらのデータを陸上サーバーで自動受信し、データベース化するとともに、インターネッ
ト上でデータを表示、図化できるようなシステムを構築する。また、漁業者がより使用し易
くするため、携帯電話からも情報を閲覧できるようなシステムを構築する。
4.結果と考察
(1)北海道噴火湾内の海域環境情報調査
ASTD(多項目水質計)の導入によって、クロロフィル a や溶存酸素についても鉛直プロファ
イルを計測可能となった。また、濁度の測定も可能となった。調査は、虻田,砂原,鹿部,
森,落部,内浦,静狩の 6 調査点で実施した。
2 月の表層水温は、0~2℃台の値が観測された。0℃台は森地区中旬及び落部地区の 2 月 17
日の調査で観測され、1℃台は森地区の中下旬、落部地区の沖側、内浦地区の陸側などで、2℃
台は森地区の上旬や湾口寄りの砂原地区や鹿部地区で観測された。全体的に表層より中底層
で水温の高い傾向が見られたが、概ね 1℃以下の変化となった。
2 月の塩分濃度については、砂原地区や落部地区の沖側、森地区上旬、内浦地区などでは 33.2
~33.3‰台の値が中心に観測され、鹿部地区や森地区中下旬、砂原地区や落部地区の陸側で
は 33.2‰以下の値が観測された。1 月の調査結果よりさらに親潮の影響が広がっているもの
と思われた。
2 月のクロロフィルa量について、3~9μg/L の値が観測された。湾口に近い鹿部地区や砂原
地区では 3~4μg/L で、森地区から湾奥では概ね 5~7μg/L であった。時間的変化としては、
2 月上旬に急激に高い値が観測され、春季ブルーミングと判断された。クロロフィルa量は
5.1~7.9μg/L で、中下旬については前年の半分程度の値であったが、過去 12 年の平均と比
較すると倍以上の高い値であった。
また、海洋環境観測ブイを 3 月 2 日に八雲町黒岩沖に設置し、水温,塩分の観測を開始した(図
3)。データは、テレメータシステムにて陸上サーバーへ転送し、漁業者にリアルタイムで情報
提供された。
33.5
Salinity (psu)
Temperature (degC)
3
2.5
20-Mar
18-Mar
16-Mar
14-Mar
12-Mar
10-Mar
8-Mar
6-Mar
4-Mar
33
2-Mar
2
図3.八雲町黒岩沖の海洋環境観測ブイによって観測された 30m 層の水温、塩分。
25 temp.
sali.
(2)水温・海流ブイによる岩手県沿岸リアルタイム海洋環境モニタリング
岩手県宮古重茂地区に、2 月 27 日に水温・海流ブイを設置した(北緯 39 度 37.119 分,東経
142 度 02.464 分,水深 59m)。事前調査では携帯電話によるデータ転送に問題がなかったが、
設置後のデータ送信状況が悪く、2 月 29 日に設置場所を移動した(北緯 39 度 35.822 分,東
経 142 度 02.805 分,水深 62m)。移動後に通信状況が改善傾向に向かったが、依然通信状況
が悪い状態が散発的に発生し、通信を頻繁に再実行したため、バッテリー低下が発生し、欠
測が増えてしまった。このため、通信間隔を 1 時間から 2 時間に変更し、電力使用量の軽減
を図った。これにより安定したデータ取得が可能となった(図4)。
岩手県大船渡越喜来地区に、2 月 29 日に水温・海流ブイを設置した(北緯 39 度 03.934 分,
東経 141 度 53.132 分,水深 66.6m)。設置直後から安定したデータ取得が可能となった。
これらのデータを陸上サーバーで自動受信し、データベース化するとともに、漁業者向けに
インターネット上でデータを表示、図化できるようにした。また、漁業者がより使用し易く
するため、携帯電話からも情報を公開した。
40
360
35
velocity (cm/sec)
25
180
20
15
direction (degree)
270
30
vel.
dir.
90
10
5
0
12/2/28
0
12/3/4
12/3/9
12/3/14
12/3/19
図4.岩手県宮古重茂地区に設置した水温・海流ブイで取得された流向・流速。
5.成果概要
・噴火湾において親貝の生息環境を空間的に把握できるようになった。2012 年 2 月は親潮の影
響が強く、春季ブルームが早く起きていることが明らかとなった。
・噴火湾においてホタテの成熟と産卵に重要な水温情報をリアルタイムで漁業者に提供するこ
とが可能となった。
・岩手県沿岸でホタテの成熟と産卵に重要な水温情報と、幼生輸送方向を判断するのに重要な
海流情報をリアルタイムで漁業者に提供することが可能となった。
6.成果の利活用
噴火湾における ASTD や海洋環境観測ブイの導入によって、津波後の新たな海域環境下におけ
るホタテの親貝の保全が効率化できる。また岩手県沿岸では、水温・海流ブイの導入によって、
好適採苗場所・時期を特定でき、被災地域における今後の効率的・安定的な養殖生産に寄与で
きる。
26 
Fly UP