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Title 肝内胆管癌の病理組織学的特徴 Author(s) 下西, 智徳

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Title 肝内胆管癌の病理組織学的特徴 Author(s) 下西, 智徳
Title
肝内胆管癌の病理組織学的特徴
Author(s)
下西, 智徳; 中沼, 安二
Citation
胆と膵 = The Biliary tract & pancreas, 18(11): 1085-1090
Issue Date
1997-11
Type
Journal Article
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/40232
Right
Copyright © 医学図書出版 | 許可を得て登録
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,各著作権等管理事業者に確認してください。
http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
特集
胆と膵Vol.18(11)p.1085~1090,1997
肝内胆管癌(胆管細胞癌)
肝内胆管癌の病理組織学的特徴*
下西智徳1)・中沼安二
要約:肝内胆管癌は,肝内胆管系上皮および胆管周囲付属腺より発生する悪性腫瘍で,その発
生部位により肝門型(肝内大型胆管癌)と末梢型(肝内小型胆管癌)に分けられる。肝内胆管
癌の組織像は多彩であり,乳頭状,管状,コード状,充実性増生を示す腺癌が多い。異常な分
化傾向(腺扁平上皮癌,粘液癌,肉腫様癌など)を示す例もある。間質の線維増生の程度は症
例により,また部位により種々で,髄様癌例や硬癌例もある。肝内大型胆管癌では,胆管腔内
に乳頭状に増殖し,またin situ様に胆管内面上で発育進展し,また同時に胆管壁内外や門脈域
内への浸潤を示す。一方,肝内小型胆管癌では,コード状,管状の増生を示す腺癌が多く,門
脈域を取り込むように発育し,肉眼的には腫瘤あるいは結節形成を示す。背景病変として大型
肝内胆管癌では慢性胆管炎,特に肝内結石症が,また小型肝内胆管癌では非胆汁性肝硬変やト
ロトラスト沈着症が知られているが,多くの例では不明である。本稿ではわれわれが経験した
手術,剖検症例122例の肝内胆管癌を中心に,その病理組織像を解説し,その肝内浸潤様式や
背景肝病変について述べる。
Key words : intrahepatic cholangiocarcinoma, intrahepatic bile duct, histology, adenocar-
clnoma
てはこの肝内胆管系の定義を用いており,肝内胆管を
はじめに
肝内大型胆管(肉眼的に同定できる胆管で,左右の分
枝区域胆管,領域胆管およびその一~二次分枝),それ
肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma,
に顕微レベルで同定できる肝内小型胆管(隔壁胆管,
intrahepatic bile duct carcinoma)は,胆管周囲付属
小葉間胆管,細胆管)とに2分し,検討している。肝
腺を含む肝内胆管系上皮より発生する悪性腫瘍であ
内大型胆管には胆管付属腺が分布している11)。なお左
るト9)。肝細胞癌に次いで多い原発性肝悪性腫瘍であ
右肝管を含め肝内胆管の分岐には変異が多く,また大
り,近年の画像診断学および外科手術学の進歩により
型胆管は必ずしも規則正しく分岐せず,かなりの数の
肝内胆管癌と診断される症例,切除される症例,ある
細枝が大型胆管より直接派生し肝実質内へ分枝してい
いは鑑別を要する症例が今後増えると予想される。従
る。
来,肝細胞癌に関しては,多くの臨床病理学的研究が
本稿では,われわれが経験した肝内胆管癌122例を
なされているが,肝内胆管癌に関しては,その病理形
中心にその病理組織学的特徴について述べる。
態像を含め,不明な点が多い9・10)。
1.肝内胆管癌の肉眼分類
さて肝内胆管系は,わが国の胆道癌取扱い規約によ
ると,左右肝管の第一次分枝を含めた肝側の胆管系と
定義されている1)。この肝内胆管系に発生し,進展した
1.発生部位による分類
癌が肝内胆管癌である。われわれも肝内胆管癌に関し
従来,肝内胆管癌は肝戸部の肝内胆管に発生,発育
“ Histopathological Features of lntrahepatic
する肝門型と末梢の肝内胆管に発生し進展する末梢型
Cholangiocarcinoma
に分類され,検索時での癌の占拠部位が両者の重要な
1)金沢大学第二病理(〒920金沢市宝町13-1)
判断材料となっている2・3)。現在,肝門部癌の定義と名
1085
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称が混乱しているので,本稿では肝門型を肝内大型胆
表1肝内胆管癌の組織分類
管癌,末梢型を肝内小型胆管癌と呼び解説する。なお
腺癌 105例
高分化腺癌 22例
大型(乳頭状腺癌) 13例
小型(コード状増生) 9例
中分化腺癌 46例
低分化腺癌 37例
腺扁平上皮癌 4例
扁平上皮癌 1例
特殊型 12例
乳頭腫症 4例
粘液癌 3例
肉腫様癌 4例
未分化癌 1例
早期の段階の症例では原発部の推定はできるが,高度
例では癌は肝門や肝実質へ進展し,両者の区別が困難
な例も少なくない。なお,本来小型胆管に属する隔壁
胆管に発生する肝内胆管癌の具体例を経験していない
が,大型と小型の中間的性状を示す可能性がある。
2.肉眼形態による分類
肝内胆管癌は,肝細胞癌の肉眼分類に準拠し,結節
型,塊状型,びまん型に分類され,特に進行した肝内
胆管癌例ではこの分類が適用される4)。最近,外科的に
合計
122例
切除可能な肝内胆管癌の新しい肉眼分類(腫瘤形成型,
胆管浸潤型,胆管内発育型の3型)も提唱されてい
る5)。腫瘤形成型とは,癌が結節状に存在するもので周
増生を示す肝内胆管癌症例や部位も少なくない。しか
囲肝組織との境界は明瞭である。胆管浸潤型とは胆管
し,低分化なものや進行例では,硬癌の形態を示すも
壁あるいは門脈域に沿って癌が増殖浸潤を示す型であ
のが多い。腫瘍内での癌細胞の脱落を伴う2次的硝子
り,胆管内発旧型は癌が胆管内で主に発育する型であ
化を含め,高度の硝子化を伴う例もある。
る。
われわれは肝内胆管癌を胆道癌取扱い規約1)での組
織学的分類を参考にして表1のごとく組織分類を作成
II.肝内胆管癌の組織像
し,検討した。具体的な症例での分類は組織像が多彩
であり,画一的には適応できない症例が多いが,面積
肝内胆管癌は,組織学的にはそのほとんどが腺癌で
的に多い領域を占める組織型で分類し,具体的な症例
ある。乳頭状あるいは管状,腺房状,節状,コード状,
数を表1に示した。なお,後述のごとく,高分化型に
充実性の増殖パターンを示し,種々の程度の細胞異型
関しては肝内大型胆管癌では胆管内腔内で乳頭状の増
や構造異型(分化度)を示す。細胞は一般的には大型
生を示し,浸潤がないか,あっても軽度のものとし,
のものが多く,胞体は淡明~濃染するものまで種々で
肝内小型胆管癌では大きさの揃った小型のコード状の
ある。しかし,その組織形態は肝内胆管系での発生,
増生を示すものとした。中分化型とは,明瞭な腺腔形
増殖部位により,また症例によりかなり多彩である。
成,乳頭状増生を示し,増殖する腺癌で,低分化型と
特に形態や分化度は,胆管癌が胆管壁内外へ浸潤し肝
は,これらの形態形成が不明瞭になったものである。
実質へ向かって発育するに従い,組織像がかなり変化
以下に,肝内大型胆管癌と肝内小型胆管癌に分けてそ
する。なお他の消化器系の腺癌では,臓器を反映する
れぞれの組織像を述べる。
組織像がある程度知られているが,肝内胆管癌を特徴
付ける病理組織像は乏しい。これらの一般的な腺癌の
m.肝内大型胆管癌(intrahepatic large
組織像に加え,肝内胆管癌症例ではその他の稀な組織
bile duct carcinoma)(肝門型)
像(腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,粘液癌,印環細胞癌
など)が混在する,あるいは目立つ症例もある2・6)。肝
1.定義と組織像
内胆管癌は種々の程度と範囲で粘液を産生し,腺腔内,
大型肝内胆管に発生する肝内胆管癌である(図1)。
内腔縁や胞体内の粘液空胞や杯細胞様分化を形成する
肝内結石症含有胆管から発生する肝内胆管癌もこの型
のが特徴である。癌細胞の周囲に粘液が漏出する像も
である。推定原発部位での検索で,ほとんどの例で大
観察される。ムチカルミンやアルシアン青(pH 2.5),
型胆管内懐面での癌の発育に加え胆管壁内あるいは周
PAS染色, high iron diamine(HID)染色で染まる酸
囲への浸潤を示している。推定原発部の胆管の病変と
性あるいは中性粘液が認められる。肝内胆管癌122例
して胆管の壁が癌の浸潤と線維増生のため肥厚し内腔
全例に粘液産生所見があった。この粘液産生像は肝細
が狭小化している部位,それに胆管内腔が拡張してい
胞癌との重要な鑑別点となる。
る部位がある。いずれもその内面は腺癌で置き換って
また肝内胆管癌の間質の線維成分は従来より豊富と
おり,いずれの胆管病変が,時期的に早いものか不明
されている。確かに,肝細胞癌に比べ多いが,髄様の
だが,今後の症例の蓄積により明らかになると思われ
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も
…麟灘鑛鑛 、灘藩難鷲暴
鞍懸懸麟、羅 癖懇灘懇懇灘
離総総蕩灘嬬識.難
まへ し
鑛罐鑛鯉
幾、
嬉
総
濠
鎌
響
辮灘. 図2 肝内小型胆管癌(末梢型)
高分化型で規則正しい小型の管状腺
即齢灘無難讃羅難
乳頭状腺癌で胆管内腔で増殖してい
る(×100)
」 峯 , 趨 血暖
図1肝内大型胆管癌(肝門型)
癌が増殖している(×200)
る。胆管内発育型で,主として胆管内に乳頭状に増殖
る11)。また胆管付属腺とその導管が肝内胆管癌の肝内
し,ほとんど浸潤を示さない例がある。なお,胆管癌
進展経路の一つとして重要と考えられている7)。
が神経周囲に浸潤した場合,二次的に大きな腺腔形成
2.肝内大型胆管癌の浸潤
をきたし,拡張した胆管と間違えることがあり,注意
肝内大型胆管癌は発育に伴い胆管壁および門脈域結
が必要である。
合織,肝実質内へ浸潤する。なお胆管基底膜を越えな
癌が胆管内で発育している段階では,ほとんどの症
い上皮内癌,特に胆管内発育型も存在するが,病理学
例では乳頭状腺癌,乳頭状管状腺癌,in situ様に胆管
的に検討可能な多くの症例では胆管癌が様々な浸潤進
内面を1~3層状に増殖する型があり,胆管内腔で増殖
展様式を示す。
する。胆管壁内やその周囲の結合組織へ浸潤している
1)肝内胆管内進展
部位では,分化度が下がり,乳頭状,種々の管状ある
肝内大型胆管癌ではしばしば癌が基底膜上を肝内胆
いは腺房状の発育を示し,節状発育や索状発育を示す。
管上皮を置換するように種々の程度に進展する。胆管
管状あるいはコード状の増生を示す部位が多くなり,
癌の側方進展像でありintraductal spreadと呼ばれ,
種々の程度の線維増生もみられる。
他の臓器の導管癌でもしばしばみられる。広汎な肝内
また肝内大型胆管に付属する胆管腺組織自体が肝内
胆管内進展を示す例では,肝内小型胆管の広汎な消失
胆管癌の発生母地の可能性として検討されており,
や胆管硬化を示す例がある。原肝内胆管付属腺の腺管
1000例の剖検例を用い検討した結果で,発生初期の付
内への進展像(glandular involvement)もみられる。
属腺癌(肝内大型胆管癌に属する)症例を経験してい
2)脈管内,神経周囲への浸潤
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大型胆管壁および門脈域の結合織内へ浸潤した胆管
表2 肝内胆管癌の背景肝胆道病変
癌細胞は,門脈内やリンパ管内にしばしぼ侵入し,癌
肝内結石症 15例
非胆汁性肝硬変 16例
トロトラスト沈着症 2例
塞栓を形成する。さらに神経周囲への浸潤像が高率に
みられる。門脈内の結合織内への浸潤もみられ,肝内
先天性肝線維症 1例
への小型門脈域および肝旧情結合織へ進展する。
不明 88例
(肝線維症 20例を含む)
3)周囲肝実質への浸潤
合計
門脈域内の結合織を介して,また経脈管性に癌は肝
122例
実質へ浸潤する。被膜形成はみられず直接浸潤を示す。
しばしば小型~中等大の門脈域が肝実質内へ浸潤した
実質と置き換わり,さながら迷路状に発育しているパ
癌巣内に残されている像がある。また圧排充実性で門
ターンもみられる。この病変部では小型の門脈域の構
脈域を含まない髄様の増殖パターンもみられる。類洞
造が規則正しく取り残されている。癌の中心部はしば
内へ潜り込むように類洞性に増殖し,肝実質と置換性
しば疲甲状の線維化となり,門脈域が取り残されてお
に,さらに圧排性に増殖する。
り癌細胞がゴースト状に遺残している像もみられ,ま
た癌細胞があったと思われる小隙間もみられる。肉眼
IV.肝内小型胆管癌(intrahepatic small
的には結節あるいは腫瘤形成としてみられ,肝被膜直
bile duct carcinoma)(末梢型)
下に発生した場合,癌膀としてみられる。門脈域内に
浸潤する像がみられることがあり,門脈内の腫瘍塞栓
1.定義と組織像
像もみられる。肝内大型胆管癌に比べ,組織像の部位
細胆管,小葉間胆管から発生したと推定される肝内
による違いが比較的少ない。なお,肝内小型胆管癌で
胆管癌であり,末梢型肝内胆管癌である(図2)。慢性
は発生初期の症例では問質の線維増生は軽度である。
肝疾患にみられる増生細胆管との存在が推定されてい
る幹細胞に由来する腺癌も含める。高分化型では規則
V.背景の肝胆道病変とディスプラジア
正しい小型の管状,腺房状あるいはコード状腺癌がみ
られる。粘液産生が軽度の場合,肝細胞癌との鑑別が
肝細胞癌のほとんどは進行性慢性肝疾患,特に肝硬
問題となる。しかし,その分化度は腫瘍のサイズが大
変を背景に発生し,その先行病変として異型腺腫様過
きくなるにしたがい低下し管状あるいは微小乳頭状の
形成や肝細胞ディスプラジアが注目されている14)。一.
増生もみられる。進行した症例では,肝内大型胆管癌
方,肝内胆管癌は一般的には非肝硬変より発生し,肝
との区別は,組織像のみでは困難となる。
内胆管癌の原因あるいは癌発生に深く関連する病態や
肝硬変を背景に発生する肝内胆管癌では,胎生期の
先行病変の多くは不明とされてきた。
胆管板(ductal plate)に似た組織成分をみることがあ
1。背景肝胆道病変
る。細胆管が持っている多方向分化能を反映している
従来より一部の肝内胆管癌症例では,ある種の疾患
と思われる。なおSteinerらにより報告された細胆管
に合併してみられることが知られている。これらの先
癌12)も小型肝内胆管癌に含めるべきと思われる。この
行病変あるいは背景病変として知られている疾患を表
型では門脈域辺縁部にあり肝細胞と接する細胆管や
2に示す。われわれが具体的に経験した症例を示す。
Herring管に似た細胆管状の配列を示す特徴があり,
1)慢性胆管炎
細胆管癌(cholangiolocellular carcinoma)12)と呼ばれ
慢性胆管炎は肝内胆管癌,特に肝陽型胆管癌の代表
ている。われわれが経験した1例は,増生細胆管に類
的な背景疾患である。わが国では,特に肝内結石症(ビ
似した胆管上皮細胞の比較的均一な増生がみられた。
リルビンカルシウム石,コレステロール石のいずれで
また分化度の低下した例では,印環細胞癌や肉腫様の
も肝内胆管癌を伴う)に伴う慢性胆管炎が代表的であ
癌もみられる。また,Omataらが提唱した肝の硬化癌
り,今回の検討でも15例(12%)は肝内結石症を合併
(Sclerosing carcinoma)13)で,胆汁産生の明らかでな
していた。肝内結石症は長年月に及ぶ慢性疾患であり,
いものも,肝内小型胆管癌に含めることができると思
わが国の成績では肝内結石症の5%から10%は最終
われる。
的に肝内胆管癌を合併するとされているが,正確な疫
2.浸潤像
学調査はなされていない。癌塊の中に結石が埋まって
高分化型では肝小葉や再生結節の肝細胞索を置換す
いたり,あるいは結石を含有する胆管の一部あるいは
るように発育増生する像が主体であり,癌が浸潤し肝
半周が癌で置換されている像が一般的である8)。なお,
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選
凝,
胆管の被覆上皮に核濃染,多層化,
乳頭状増殖をみる(×200)
肝内胆管癌を合併するその他の慢性胆管炎として原発
分布し,この中の壁面腺にdysplasiaをみることがあ
性硬化性胆管炎や肝吸虫症が欧米やアジア諸国で知ら
り,剖検例を用いた検索では癌化例も認められた(こ
れているが,わが国では少なく,当教室では経験して
れらの症例では胆管内腔面に癌はみられない)14)。
いない。
従来より稀ではあるが,非胆汁性の肝硬変に肝内胆
管癌の合併することが知られている。われわれの検討
VI.特殊な肝内胆管癌あるいは関連する
悪性腫瘍
では,この合併は稀ではなく肝内胆管癌の13%の例で
肝硬変を合併していた。当教室でこのような症例を収
1.乳頭腫症
集しており,バイアスが入っていることも考えられる。
基本的に大型肝内胆管の病変で多発性,あるいはび
なお,従来,肝硬変に合併する肝悪性腫瘍は比較的容
まん性に胆管上皮の乳頭状増殖を示す病態で異型性に
易に肝細胞癌として診断される傾向があったが,この
乏しく,胆管壁への浸潤や転移は生じにくい。われわ
ような偏見を捨ててもう少し肝内胆管癌を十分に考慮
れは4例経験しており,肝内胆管に限局する症例もあ
する必要があろう。
る10・19)。in situの肝内胆管癌との鑑別が問題となる。
その他にトロトラスト沈着肝2例15),先天性肝線維
胆管腔内に大量の粘液分泌があり,そのための閉塞性
症1例16〕が合併疾患としてみられた。文献的には,湿球
黄疸を主症状とする例が多い。
リ病17),嚢胞肝に発生することがある。
2.腺扁平上皮癌,扁平上皮癌
2.ディスプラジア
稀な組織型ではあるが特殊型と分類したもののなか
癌部と接して,あるいは癌部と離れて一部の肝内胆
では,腺扁平上皮癌,扁平上皮癌がある。基本的には
管の被覆上皮に異形成を伴った過形成性病変
扁平上皮癌と腺癌の両組織成分が腫瘍の主体をなすも
(dysplasia)をみることがある(図3)。このdysplasia
ので,両者の移行像がみられる6・20)。純粋な扁平上皮癌
は肝内胆管癌合併例に高度にみられるが,先行性疾患
は肝内胆管癌の中では珍しい。発生病理として,肝嚢
のない肝内胆管癌でも低率ではあるが,みられる。こ
胞での上皮の扁平上皮化生が発生母地となっている症
のdysplasiaと肝内胆管癌との鑑別がしばしば問題と
例もある。しかし,腺癌の高度の扁平上皮化生が扁平
なる。多くの肝内結石症例では,NCAやBGP-IIなど
上皮癌となったものもある。一般的には,典型的な腺
の関連抗原で吸収した抗CEAと反応する異型上皮巣
癌に比べ,腺扁平上皮癌あるいは扁平上皮癌成分を有
の出現を伴った慢性増殖性胆管炎を背景に肝内胆管癌
する肝内胆管癌の予後は不良とされている20)。
が発生すると考えられている8)。さらに病的な胆管で
3.粘液癌
は胆管付属腺の増生,幽門腺化生や腸上皮化生(goblet
癌細胞の豊富な細胞外粘液産生による粘液瘤形成を
cellの出現)を伴う上皮がみられ18),これらの病的組織
特徴とする肝内胆管癌の一組織型である。
を背景に肝内胆管癌の発生することも知られてい
われわれはこのような症例を3例経験している。こ
る18)。また肝内胆管系には付属腺(壁内腺と壁外腺)が
のような症例では,多量の粘液が胆管腔内に充満し,
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理.肝胆膵24=209-216,1992.
肝内胆管は拡張し,閉塞性黄疸をきたすことが多く,
8) Nakanuma Y, Terada T, Tanaka Y, et al.:Are
粘液産生癌と呼ばれている。
hepatolithiasis and cholangiocarcinoma
4.肉腫様癌
aetiologically related? A morphologic study of 12
肝に発生する肉腫に類似した癌であり,そのほとん
cases of hepatolithiasis associated with cholan-
どは肝細胞癌由来と考えられている。しかし稀ではあ
giocarcinoma. Virchows Archiv A4-6 : 45-58, 1985.
るが,肝内胆管癌に由来する肉腫様癌の症例も報告さ
9)中島 透,近藤洋一郎:胆管細胞癌(嚢胞腺癌を含む),
れている21)。われわれは,非硬変肝に発生した紡錘型肉
組織分類.取扱い規約に沿った腫瘍鑑別診断アトラス
肝臓,奥平雅彦ほか,121-129,文光堂,1991.
腫あるいは悪性線維組織球腫に類似した症例を経験し
10) Craig JR, Peters RL, Edmandson HA : Tumors of
ている。いずれも一部で扁平上皮癌成分あるいは腺癌
the liver and lntrahepatic bile ducts. Armed Forces
成分があり,さらにこれらの癌成分と肉腫成分との間
Institute of Pathol, Fas, 26, 1989.
に移行像を認めたので,肉腫様変化を示した肝内胆管
11) Terada T, Nakamura Y:Pathological observa-
癌と診断した。
tions of intrahepatic peribiliary glands is 1000 con-
secutive autopsy livers: II. A possible source of
5.未分化癌
cholangiocarcinoma. Hepatology 12 : 92-97, 1990.
いずれの方向に分化しているのか不明で,N/C比の
12) Steiner PE, Higginson J : Cholangiolocellular car-
大きい未分化な円形~多角形の腫瘍細胞の集団よりな
cinoma of the liver. Cancer 12:753-759, 1959.
る症例とされている6・9)。
13) Omata M, Peters RL, Tatter D : Sclerosing hepatic
carcinoma : relationship to hypercalcemia. Liver
1 : 33-49, 1981.
おわりに
14)中沼安二:胆管細胞癌(嚢胞腺癌を含む).前癌状態(先
行病変を含む, dysplasia).取扱い規約に沿った腫瘍鑑
肝内胆管癌の病理組織学的特徴について述べた。肝
別診断アトラス 肝臓,奥平雅彦ほか,121-129,文光
内胆管癌の早期発見はいまだ困難であるが,診断,治
堂,1991.
15) Rubel LR, Usn CMC, lshak KG : Thorotrast as-
療技術の進歩により生検材料や手術切除標本として接
sociated cholangiocarcinoma. Cancer 50:1408-
する機会が増えている。今後は,遺伝子の変化と表現
1415, 1982.
型,さらには生物学的悪性度を考慮した総合的な検討,
16) Daroca PJ Jr, Tuthill R, Reel RJ:Cholangiocar-
研究が必要である。
cinoma arising in congenital hepatic fibrosis. Arch
Pathol 99 : 592-595, 1975.
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