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第30回 歯学 - Kei-Net
注目 の Contents 学部・学科 ◆概説 岡山大学 窪木拓男 歯学部長 ������� p73 ・歯科医師が対象とする領域の拡大。再生医療、国際 化、高齢化社会への対応 ・歯科医師は全身健康に貢献し、人生を全うすること を支援する仕事へ 第 30 回 歯学 歯科医師というと、子どもの頃、むし歯の治療で通い、 見た目が気になりだす年齢になると審美治療に通い、30 歳過ぎると歯周病の治療で通うといったように、人生の さまざまな段階でお世話になっている職業だ。 その歯科医師を養成する大学・学部は全国で27大学 (国立11大学、公立1大学、私立15大学)である。 「歯医者さん」のイメージが強い歯科医師だが、歯の治 療だけでなく、口(口腔)の健康全般を対象としている。 さらに、近年では、口腔と全身疾患、医科歯科連携、が ん治療、再生医療、そして、超高齢化社会に対応した在 宅医療にかかわる医療人へと大きく変化し始めているのだ。 ◆入試情報 ���������������� p76 ◆教育 日本歯科大学新潟病院 白野美和科長 ���� p78 ・急速に高まる在宅歯科医療のニーズ。日本で最初に 訪問診療を開始 ◆歯の治療学 九州歯科大学 北村知昭教授 �������� p80 ・科学技術の発展に伴い、歯科用 CAD-CAM や歯科用 マイクロスコープなどを使った歯科治療へ ◆口腔と全身疾患 東北大学 笹野高嗣教授 ���������� p82 ・口の中の細菌が全身疾患の原因に。 全身の機能回復を担う医療者へ ◆口腔がん 歯学科を設置している大学 区分 国立大学 公立大学 私立大学 大学名(学部) 北海道(歯) 東北(歯) 東京医科歯科(歯) 新潟(歯) 大阪(歯) 岡山(歯) 広島(歯) 徳島(歯) 九州(歯) 長崎(歯) 鹿児島(歯) 九州歯科(歯) 北海道医療(歯) 岩手医科(歯) 奥羽(歯) 明海(歯) 昭和(歯) 東京歯科(歯) 日本(歯) 日本(松戸歯) 日本歯科(生命歯) 日本歯科(新潟生命歯) 神奈川歯科(歯) 鶴見(歯) 松本歯科(歯) 朝日(歯) 愛知学院(歯) 大阪歯科(歯) 福岡歯科(口腔歯) 72 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 所在地 北海道 宮城県 東京都 新潟県 大阪府 岡山県 広島県 徳島県 福岡県 長崎県 鹿児島県 福岡県 北海道 岩手県 福島県 千葉県 東京都 東京都 東京都 千葉県 東京都 新潟県 神奈川県 神奈川県 長野県 岐阜県 愛知県 大阪府 福岡県 東京歯科大学 柴原孝彦教授 �������� p84 ・先進国の中で日本だけ死亡率が増加する口腔がん ・診断能力の高い歯科医師を育成 ◆再生医療 大阪大学 村上伸也教授 ���������� p86 ・歯周病治療では、歯根膜や体脂肪中の幹細胞を利用 した再生医療が実用化 ◆卒業後の進路 �������������� p89 ・歯科医師国家試験の新卒合格率は約7割 ・医師と比べて開業医が多く、約6割が開業 第 30 回 概説 歯学 岡山大学 歯学部 窪木 拓男 歯学部長 むし歯を治療する 「歯医者さん」から 多職種と連携し、患者さんの人生にも 責任を持つ医療者へ 腺の幹細胞を使って、唾液腺を再生させる実験にも成功 再生の可能性も見えてきます。口の中の幹細胞を使った り痛みを感じさせない歯医者になるには、手先の器用な 再生医療の研究は世界中で行われていますが、そうした 人が向いているといった話を聞いたことがある人もいる 研究を担っているのは、口の中に詳しい歯科医師なので だろう。しかし、現代の歯科医師は、そうした「歯医者 す」と、岡山大学歯学部長の窪木拓男教授は語る。 さん」のイメージから脱しつつある。現代の歯科医師像 考えてみれば、体の中にある臓器の中から幹細胞を採 を明確に把握するため、3つの側面を取り上げる。 取するよりも、口の中から採取する方が簡単である。そし まず、 「再生医療への歯科の貢献」だ。再生医療とは、 て、歯科医師は口に習熟している。そのため、再生医療 簡単にいうと、病気やけがなどで失った臓器や身体の一 の研究では、歯科医師の果たす役割が大きくなっている。 部などを、主に本人の細胞を使って再生し、元通りの機 が注目されているのは、再生医療への期待からだ。再生 2つ目の側面は「国際化」だ。日本はアジア諸国の中 医療の要となるのは、自己複製能力と他の細胞に分化で では、かなり早い段階からむし歯予防に取り組んできた。 きる能力を持つ幹細胞と呼ばれる細胞だ。ES 細胞も iPS 1989 年には、厚生省(現・厚生労働省)と日本歯科医師 細胞もこの幹細胞の一種だが、実は口の中にはかなり多 会が、80 歳で自分の歯を 20 本以上残し、高齢になって くの幹細胞がある。 も自分の歯でおいしく食事をして健康を保とうと呼びか 「永久歯が生えるまでの歯の周りの組織にはさまざまな ける「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」を提唱し、 細胞が含まれており、歯肉の中にはたくさんの幹細胞が 高齢者の健康維持に大きく貢献してきた。日本はアジア あります。永久歯の中でさえ歯髄と呼ばれる歯神経の中 諸国の中では歯科先進国である。 に幹細胞があるなど、歯の周りで多くの幹細胞の存在が 一方で、日本は超高齢社会に突入している。総務省統 確認されています。こうした幹細胞を使えば、歯の再生 計局によれば、2000 年の段階で、日本の中位年齢(注1) も可能です。実際、マウスでは 2009 年に、歯肉内の幹 が 41.5 歳であるのに対して、アジア諸国、とりわけ経済 し ずい (注1)中位年齢…人口の年齢順に並べたときに、全人口を2分する境界点にある年齢 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 73 卒業後の進路 る組織や臓器になる可能性を持つ ES 細胞や iPS 細胞など アジアの発展途上国において 指導的な立場で貢献できる可能性 再生医療 われているのではないか。腕のいい歯医者、患者にあま 口腔がん しています。腺が再生できれば、膵臓や腎臓などの臓器 口腔と全身疾患 歯科医師は、一般的に技術的側面が大きな職種だと思 能に戻す医療のことをいう。万能細胞と呼ばれ、あらゆ 歯の治療学 ヌでも歯の組織の再生に成功しています。さらに、唾液 教育 細胞を使って歯を再生することに成功していますし、イ 入試情報 歯科が対象とする領域の拡大 再生医療では最先端の研究も 概説 歯科医師というと、むし歯を治療したり、歯列を矯正したりという 歯の治療を行う人、すなわち町の「歯医者さん」のイメージで捉えられている。 しかし、歯科医師は、歯の治療だけでなくものを飲み込む機能や 発声・発音の機能なども含め、口の健康全般を対象としている。 さらに、近年、口の健康と全身の健康が密接に結びついていることが明らかになり、 現代の歯科医師は、ほかの医療従事者と連携しながら、口(口腔)の専門家として 人の生命を守る医療人としての役割を果たしている。 そこで、まずは、大きく変化しつつある歯科医師像について、次いで、 現代の歯科医師がかかわっているさまざまな研究領域や治療領域の中から、注目を 集めている分野について、岡山大学歯学部長 窪木 拓男 教授に話を聞いた。 注目の学部・学科 的な発展が著しい ASEAN 諸国の中位年齢は 20 歳台であ 科医療は現在、大きな転換期にある。厚生労働省が行っ り、国民の大多数が若い人たちである。歯科医師も歯科 た歯科治療の需給予測によれば、超高齢社会の進展に 衛生士も歯科技工士も圧倒的に不足しており、口の健康 伴って、歯科治療が「健常者型」から「高齢者型」へと という面ではまだまだ発展途上にあるのが実情だ。 急速に転換することが示されている<図>。 「ASEAN 諸国では経済が発展途上であり、口の健康に 「健常者型」とは、体は健康だが、むし歯や歯周病な 十分配慮が行き届いているとはいえません。そのような どの歯科疾患がある人が主な治療対象者になっている歯 状況下では、若者が多いということは、成長過程でむし 科治療のことである。歯の修復治療や、抜歯して義歯に 歯をはじめとする歯科疾患にかかる患者が多いというこ する治療などが中心になる。これに対して「高齢者型」 とであり、膨大な歯科医師に対するニーズがあるという の歯科治療では、健常者型の修復治療の割合は少なくな ことです。しかし、日本クラスの歯科医師の育成には時 る。むし歯や歯周病の治療は必要であるが,対象の患者 間がかかります。そこで現在、日本の歯学教育の国際認 は健常者ではなく、有病者で病院に入院していたり、認 証制度を確立し、日本の歯科医師免許の通用性を高める 知症や虚弱等のために老人介護施設や在宅介護を受けて 方向で議論が進んでいます。その結果、将来我々の歯科 いて、歯科医師のもとに通院がままならない患者であっ 医師免許が ASEAN 諸国で通用する時も来るかもしれま たりする。失われた歯を補うだけでなく、噛めない、飲 せん。本学もベトナム・ハイフォン市のハイフォン医科 み込めないといった高齢者の口の機能と食形態をマッチ 薬科大学病院に国際歯科センターを設置して歯科医療の させ、口からの栄養供給を維持したり、最後まで口で味 拠点形成を図っていますし、ハノイ、ホーチミンでも同 わうことを可能にすることが診療の中心になる。 様の活動を行う計画があります。シンガポールにも2名 「健常者型の歯科治療は、自分の足で歩いて歯科医のも の歯科医師を派遣しています」 (窪木学部長) とに通うことができる人が対象です。しかしこのまま高 日本ではこれまで、歯科医師が多すぎるといわれてき 齢化が進めば、自分の足で病院に来ることができない患 たが、将来的には国際的な市場が広がる可能性が急速に 者さんを歯科医が診ることになります。このような在宅 高まっている。日本の歯科医師は、ASEAN 諸国などに 医療の現場では、口から食べ物を摂ることができない患 おいて指導的役割を果たす “dentist” へと大きく変貌して 者さんに対しては、歯を治療することだけではなく、い いく可能性もあるのだ。 かにして栄養摂取や飲み込む機能を回復・維持させるか これからの歯科医療は 「健常者型」から「高齢者型」へ 3つ目の側面は「高齢化社会への対応」だ。日本の歯 が焦点になります。要介護になって自分で歯が磨けなく なると、歯は一気に失われます。また、そうなったとき に歯が残っていると、介護する人たちの歯磨きの苦労も 増えます。基本的には歯を残す努力をして自分で食べら れる機能を維持させるわけですが、あ <図>歯科治療の需要の将来予想(イメージ) る段階が過ぎたら、口の中をきれいに 整える、すなわち、時には歯を抜いて 口の中を清掃しやすい形に整える判断 を下さなければならない状況がやって きます。その判断は歯科医師の仕事で す。歯科医師は、歯だけでなく、患者 の人生を左右する職業になってきたの です」(窪木学部長) 介護の現場では、胃ろう(注2)の患者 さんも多い。しかし、栄養摂取の状況 は人によって異なり、1日に必要な約 2,000kcal の栄養のうち、6割は胃ろ うで4割は口から摂取するという患者 さんもいる。この4割をきちんと摂取 (厚生労働省資料) できるように口の中を整えることは歯 (注2)胃ろう…口で食事がとれない人のため、腹部に穴を開けて胃に直接栄養や薬等を投与する方法、またはそうなった状態 74 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 第 30 回 歯学 科医師の重要な仕事になる。なかには 99.95%の栄養を の歯科医師は在宅介護の患者さんを担当する機会が増加 胃ろうから、0.05%を口からという患者さんもいる。飲 するため、本学でも要介護高齢者施設見学や在宅医療に み込むことはできないが、甘いものを少しだけ口に含ま おけるインターンシップ実習などを積極的に取り入れて せるといった場合だが、それだけでその人の人生が豊か います」(窪木学部長) になる可能性がある。特に高齢者の診療では、人生の終 実際、岡山大学を代表校とする計 11 大学の連携によ 盤で、その人の QOL(Quality of Life)を高めることに る「健康長寿社会を担う歯科医学教育改革」は、文部科 歯科医師が関わるようになってきたのだ。 学省の課題解決型高度医療人材養成プログラムに採択さ 高齢化への対応と関連して、 「医療現場での連携強化」 が急速に進んでいる。世界的な潮流として、医療現場で 祉に関わる多職種連携の中で活躍できる歯科医師育成に 向かって動き出しているのだ。 健康寿命を伸ばすことに貢献する 包括的な能力を持った歯科医師へ 食べる能力を確認しないと満足な栄養摂取ができなくな 関係が深く、歯周病を治療すれば血糖値が管理しやすく る。そのため、急性期病院(外科手術を担当する病院) なることも知られている。このほか、歯周病原因菌が動 に歯科医師が常駐することも増えている。 脈硬化を引き起こす可能性が指摘されていたり、歯周病 「急性期病院には多くの高齢者が入院しています。免 と脳梗塞、歯周病と糖尿病も、互いに関係が深いことも 疫力が非常に低下している人は、わずかな感染でも命に 知られるようになってきた。歯科医師の仕事は、すでに 関わる状況に陥ります。例えば、抗がん剤による治療で 歯や口の中だけでなく、こうした全身疾患をも視野に入 は口内炎など口の中に副作用が生じることが多いのです。 れるようになっているのだ。 しかし、むし歯があると歯が感染源となり、抗がん剤投 「確かに、これまでは歯周病と全身疾患との関係は重要 与によって全身に悪影響が出ることもあります。そのた なテーマでしたが、最近の歯科医療はもっと大きなテー め、 『まずは口の治療をしてから、抗がん剤を投与しま マに直面しつつあります。というのも、メタボリック症 しょう』 『先に感染源を除去するために歯を治療し、飲み 候群対策に力を入れ過ぎたこともあって、高齢者の栄養 込む練習をしてから、手術に入りましょう』と、歯科医 が不足し、筋肉や心身の機能が低下する『フレイル(虚 師が医療チームの一員としての判断を下さなければなら 弱)』が大きな問題になっています。フレイルを予防する なくなっているのです」 (窪木学部長) には、食事をちゃんと摂ること、すなわち、きちんと噛 医療の多職種連携というと、医師、看護師、薬剤師に んで飲み込む機能を維持することが重要であり、フレイ 加えて、理学療法士や作業療法士などが加わるチーム医 ルを予防することも歯科医師の重要な責務になりつつあ 療をイメージする人も多いかもしれない。しかし、医療 るのです」(窪木学部長) の世界も健常者型から高齢者型への医療に大きく変化す このほか、自分の歯が残っている人、あるいは入れ歯 る中で、多職種連携の中に歯科医師が入るのが当たり前 などで歯の機能を補っている人ほど、認知症になりにく になりつつあるのだ。 いという結果もある。歯は非常に鋭敏な触覚であり、歯 こうして病院内で、急性期における歯科医師を含んだ から脳へ何らかの刺激が伝わっていることが、認知症予 多職種連携が成功するようになると、回復期や維持期で 防になっている面もあるからだ。 も、同様の多職種連携が求められるようになる。その行 このように、歯科医師の仕事は大きく変貌を遂げつつ き着く先にあるのが、在宅介護だ。 ある。的確な歯科治療技術は必要不可欠だが、それに加 「ただ、これまでの歯科医師は在宅での治療経験がほと えて、倫理観や介護する人の負担感までも考えられるよ んどありません。介護士やホームヘルパーの仕事内容も うな包括的な人生の捉え方が必要になってくる。まさに 知りませんし、個人情報保護や倫理面なども含めて、法 歯科医師は「全身健康に貢献し、人生を全うすることを 的な知識も希薄です。従来の歯学教育では、そうしたこ 支援する仕事」 (窪木学部長)に従事するようになってい とをほとんど教えていないからです。しかし、これから るのだ。 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 75 卒業後の進路 と関心が移っている。歯周病はメタボリック症候群とも 再生医療 重要になる。特に高齢者の場合は、飲み込む力を測定し、 口腔がん 歯科医療では、むし歯の治療から歯周病の予防・治療へ 口腔と全身疾患 には、食事ができるように口の中を整えることが非常に 歯の治療学 歯の健康に関する意識が高まってきたこともあって、 教育 自分の力で食事をとることが推奨されている。そのため 入試情報 は、回復を促進するためにも、手術後はできるだけ早く れている。病院だけでなく在宅も含め、医療・介護・福 概説 多職種連携で行う医療現場に 歯科医師がかかわることが当然の時代に 注目の学部・学科 入試情報 国公立大は、センター試験は理型 2次試験は【英・数・理2】の理系科目 全国で歯学科が設置されている大学は国立 11 大学、公 立 1 大学、私立 15 大学と、全国的に見ても非常に大学 数が少なく、中四国地方の私立大学には歯学科は設置さ 次に入試科目について見ていく<表3>。 れていない(p72 参照) 。ここでは、歯学科入試の状況 国公立大のセンター試験は、前期日程では岡山大を除 について見ていく。 くすべての大学が【英※L・数2・国・理2・ (地・公→ 1)】の「理型」の科目を課している。岡山大では理科、 ここ数年の志願者数は 国公立大前期日程は約2,000人で推移 私立大は大幅に増加 地歴・公民の中から3科目を選択する「選択型」の科目 設定となっている。全ての大学で数学は「数学Ⅰ・数学 A」「数学Ⅱ・数学B」が必須で課されるほか、理科は基 <グラフ1>は国公立大の歯学科志願者数の推移を示 礎を付さない科目からの選択となっている。また、 「地 したものである。前期日程の志願者数は 2005 年度まで 学」が選択できるのは北海道大のみでその他の大学は 2,500 人前後で推移している。その後はセンター試験7 「物理」 「化学」 「生物」しか認められていない。地歴・公 科目化や、入学定員削減等の影響もあり志願者の減少が 民は、地歴が全大学でB科目からの選択、公民は北海道 加速し、2009 年度には 1,575 人まで落ち込み、ピーク 大、東北大、東京医科歯科大、大阪大、広島大、鹿児島 時の 2004 年度と比べると千人以上も少なくなった。 大が「倫理、政治・経済」の指定をしているが、他の大 2010 年度から理系人気や資格志向の高まりから人気が 学は全科目から選択可能である。 徐々に回復し、ここ数年は約 2,000 人の志願者数で安定 後期日程でも多くの大学が前期日程と同じ科目を課し して推移している。私立大も国公立大と同様の推移をし ている。前期日程と異なる科目を課す大学は東京医科歯 ている<グラフ2>。2005 年度入試が私立大の志願者 科大、長崎大の2大学のみで、東京医科歯科大が【英※ 数のピークで、1 万人を超える志願者を集めていた。こ L、数AB、国】《物、化、生⇒2》の4教科6科目、長 の年以降は減少に転じ、2011 年度入試では約 4 千人に 崎大が【英※L、数AB】《物、化、生⇒1》の3教科4 まで減少した。その後、国公立大からは少し遅れて、 科目で受験できる。なお、東北大、九州歯科大は前期日 2012 年 度 から志 願 者 は増 加 に転 じ、 今 春 入 試 では 程のみの募集で、後期日程は実施していない。 8,663 人にまで回復している。 2次試験の科目は、前期日程は【英、数ⅢB】《物、化、 生⇒2》の3教科4科目が主流である。理科はセンター <グラフ1>国公立大学一般入試志願者数推移 (人) (人) 3,000 3,000 2,614 2,634 2,582 2,614 2,634 2,513 2,415 2,582 2,475 2,513 2,344 2,475 2,500 2,415 2,344 2,214 2,500 2,214 2,000 2,000 1,702 1,866 1,866 1,845 1,702 1,762 1,800 1,915 1,915 1,832 1,832 1,500 1,845 1,762 1,800 1,595 1,487 1,500 1,595 1,487 1,368 1,368 1,000 1,000 500 500 00 00 01 01 02 02 03 03 04 04 05 05 06 06 07 07 <表3>国公立大学センター試験・ 2次試験教科パターン 前期日程 前期日程 後期日程 後期日程 1,731 1,731 1,575 1,610 1,575 1,610 1,166 1,197 1,166 1,197 08 08 09 09 10 10 大学名 2,047 2,022 1,864 2,047 2,005 2,005 2,022 1,864 1,356 1,439 1,439 1,314 1,344 1,389 1,344 1,389 1,356 1,314 11 11 12 12 13 13 14 14 15(年度) 15(年度) <グラフ2>私立大学一般入試志願者数推移 (人) (人) 12,000 12,000 4,686 4,739 4,686 4,121 4,041 4,739 4,121 4,041 4,000 4,000 5,563 5,563 7,036 7,036 8,663 8,663 00 00 01 01 02 02 03 03 04 04 05 05 76 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 06 06 07 07 08 08 東京医科歯科 新潟 大阪 岡山 09 09 10 10 11 11 12 12 徳島 九州 九州歯科 長崎 2,000 2,000 0 0 東北 広島 9,896 9,803 10,230 9,896 9,803 10,230 9,809 9,809 9,255 10,000 10,000 8,907 9,255 8,907 8,381 7,887 7,337 8,381 7,887 8,000 7,337 8,000 6,000 6,000 北海道 13 13 14 14 15(年度) 15(年度) 鹿児島 日程 前期 後期 前期 前期 後期 前期 後期 前期 後期 前期 後期 前期 後期 前期 後期 前期 後期 前期 前期 後期 前期 後期 センター 2次試験 7科目型名 教科科目数 理型 3-4 理型 - 理型 3-4 理型 3-4 4-6 - 理型 3-4 理型 - 理型 3-4 理型 - 選択型 3-4 選択型 - 理型 3-4 理型 - 理型 3-3 理型 - 理型 3-4 理型 1-1 理型 2-2 理型 1-1 3-4 - 理型 3-3 理型 - ※2次試験の小論文・総合問題・面接は教科試験と してカウントせず 第 30 回 <表4>私立大一般方式1期 教科パターン 大学名 北海道医療 岩手医科 奥羽 東京歯科 明海 昭和 日本 日本歯科 愛知学院 大阪歯科 福岡歯科 <表5>私立大センター利用方式1期 教科パターン 教科・科目数 2-2 3-3 2-2 3-3 3-3 2-2 3-3 3-3 3-3 2-2 2-2 3-3 3-3 2-2 2-2 2-2 2-2 3-3 3-3 3-3 3-3 大学名 北海道医療 岩手医科 東京歯科 明海 昭和 日本 日本歯科 神奈川歯科 鶴見 松本歯科 朝日 愛知学院 大阪歯科 福岡歯科 学部学科・方式 (歯-歯前期A) (歯-歯前期B・後期) (歯-歯) (歯-歯) (歯(埼玉)-歯) (歯-歯) (歯-歯C方式) (松戸歯-歯C方式1期) (生命歯-生命歯前期) (新潟生命歯-生命歯前期) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯Ⅰ期3科目型) (歯-歯Ⅰ期4科目型) (歯-歯センタープラス) (歯-歯) (口腔歯-口腔歯) センター教科・科目数 2次教科・科目数 3-3 - 2-2 - 3-3 - 3-4 - 2-2 - 3-4 - 3-3 - 3-3 - 3-3 - 3-3 - 2-2 - 3-3 - 3-3 - 3-3 - 2,3-3 - 3-4 - 1,2-2 1-1 3-4 - 3-3 - ※小論文・総合問題・面接は教科試験としてカウントせず 学は「数学Ⅲ・数学B」までの範囲が 出題される。理科を1科目のみで受験 できるのは徳島大と鹿児島大で、九州 ボーダー 大学(学部・学科方式) 得点率(%) 80 東京歯科(歯-歯) 78 日本(歯-歯C方式) 77 昭和(歯-歯) 75 大阪歯科(歯-歯) 74 日本歯科(生命歯-生命歯前期) 69 朝日(歯-歯) 68 日本(歯-歯C方式1期) 66 日本歯科(新潟生命歯-生命歯前期) 64 岩手医科(歯-歯) 鶴見(歯-歯) 63 愛知学院(歯-歯Ⅰ期3科目) 61 福岡歯科(口腔歯-口腔歯) 59 明海(歯-歯) 58 神奈川歯科(歯-歯) 55 愛知学院(歯-歯Ⅰ期4科目) 47 松本歯科(歯-歯) 42 北海道医療(歯-歯前期A) 41 北海道医療(歯-歯前B・後期) ※表6・7のホーダー得点率・偏差値は 2015 年5月 現在 国公立大と異なり多くの大学で理科は基礎科目での受験 担が軽い長崎大では《英、数ⅢB、物、化、生⇒1》の が可能だ。基礎科目で受験ができない大学は、日本大、 1教科で受験が可能である。後期日程では教科試験は課 愛知学院大、大阪歯科大、福岡歯科大の4大学である。 州大が唯一、英語と面接を課している。 最後に歯学科の入試難易度について見ていく。<表6> は今春入試の入試結果調査をもとにした、国公立大前期 日程の難易度一覧である。センター試験のボーダー得点 私立大の一般方式(1期入試)の入試科目は、2教科 率はどの大学も 80%前後である。 を課す大学と3教科を課す大学に分かれる<表4>。2 2次試験のボーダー偏差値は、前述の科目の説明にもあ 教科で受験できる大学は北海道医療大、奥羽大、明海大、 るが、 【英・数・理2】3教科4科目のボーダー偏差値が、 日本大(松戸歯学部) 、神奈川歯科大、鶴見大、松本歯科 「60.0」の大学が多い。私立大は、地区や大学により難易 大、朝日大、3教科は岩手医科大、東京歯科大、昭和大、 度に大きな差が生じている<表7>。関東(首都圏)の大 日本大(歯学部) 、日本歯科大、愛知学院大、大阪歯科大、 学が比較的高く、地方の大学では極端に低くなっている。 福岡歯科大である。課される科目は大学(学部)により なお、90 ページには大学別の歯科医師国家試験(新 さまざまであるため、各大学の募集要項やホームページ 卒)の合格率を掲載している。大学により合格率の差が をご参照いただきたい。 かなり大きいことがわかる。志望校決定の際には入試難 センター利用方式では【英・数・理(2) 】の3教科3 易度も重要であるが、入学後の指導内容、卒業後の進路 (4)科目の科目を課す大学がほとんどである<表5>。 状況等も鑑みたうえで大学を選ぶようにしたい。 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 77 卒業後の進路 私立大の一般方式は2または3教科 センター方式は3教科3 (4)科目 国公立大のボーダーの目安は80% 再生医療 されず、小論文か総合問題と面接の大学がほとんどで、九 口腔がん 歯科大は理科に替え総合問題を課している。最も科目負 口腔と全身疾患 試験同様、 「地学」の選択ができず、数 ランク 大学(学部・学科方式) 偏差値 57.5 昭和(歯-歯) 東京歯科(歯-歯Ⅰ期) 55.0 日本歯科(生命歯-生命歯前期) 52.5 日本(歯-歯N方式1期) 50.0 日本(歯-歯A方式) 明海(歯-歯) 47.5 日本(松戸歯-歯N方式1期) 日本(松戸歯-歯A方式1期) 45.0 大阪歯科(歯-歯) 奥羽(歯-歯特待生) 鶴見(歯-歯) 42.5 朝日(歯-歯) 愛知学院(歯-歯中期) 福岡歯科(口腔歯-口腔歯) 40.0 神奈川歯科(歯-歯) 北海道医療(歯-歯) 日本歯科(新潟生命歯-生命歯前期) 37.5 松本歯科(歯-歯) 愛知学院(歯-歯前期A) 岩手医科(歯-歯) 35.0 奥羽(歯-歯) 歯の治療学 ボーダー 偏差値 60.0 60.0 60.0 60.0 60.0 57.5 57.5 60.0 60.0 62.5 57.5 57.5 教育 ボーダー 大学(学部・学科) 得点率(%) 82 大阪(歯-歯) 81 東京医科歯科(歯-歯) 80 北海道(歯-歯) 岡山(歯-歯) 79 徳島(歯-歯) 東北(歯-歯) 新潟(歯-歯) 78 広島(歯-歯) 九州(歯-歯) 長崎(歯-歯) 77 鹿児島(歯-歯) 76 九州歯科(歯-歯) <表7>私立大 入試難易度一覧 入試情報 ※小論文・総合問題・面接は教科試験としてカウントせず <表6>国公立大前期日程 入試難易度一覧 概説 神奈川歯科 鶴見 松本歯科 朝日 学部学科・方式 (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯特待生) (歯-歯Ⅰ期) (歯(埼玉)-歯) (歯-歯) (歯-歯A方式) (歯-歯N方式1期) (松戸歯-歯A方式1期) (松戸歯-歯N方式1期) (生命歯-生命歯前期) (新潟生命歯-生命歯前期) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯) (歯-歯前期A) (歯-歯中期) (歯-歯) (口腔歯-口腔歯) 歯学 注目の学部・学科 教 育 日本歯科大学 新潟病院 訪問歯科口腔ケア科 白野 美和 福祉や看護など他職種との連携が必要な 訪問診療を実践できる歯科医師を育成 科長 従来の歯科治療は、診療所や病院に来ること(通院)のできる外来患者 だけを対象としていた。だが、急速な高齢化によって通院できない 患者が増えてきたことから、2011年に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が 制定されたことも相まって、歯科医師らが患者の居宅や施設などを訪れて 診療する在宅歯科医療に力が入れられている。 また、歯学教育で導入されている歯学モデル・コア・カリキュラムの中にも 「高齢者の歯科治療」に歯科訪問診療の項目がある。 ここでは、日本で最初に訪問診療を始めた日本歯科大学新潟生命歯学部を例 に、訪問歯科教育の内容を紹介する。 爆発的なニーズが 生まれることを予測し 全国に先駆け歯科訪問診療 専門の診療科を設置 設しました」と診療科を率いる白野 療のほとんどは、訪問診療でも可能 美和訪問歯科口腔ケア科長は語る。 です。最近は、高齢者の誤嚥性肺炎 健康保険が適用される訪問診療は、 予防のための『口腔ケア』を目的と 原則として病院等から半径 16km 圏 する訪問も増え、それが診療科名に 内の居宅や施設などの高齢者、ある も反映しています」(白野科長) ご えんせい 日本歯科大学新潟病院は 1987 年、 いは身体に障害を抱えている「通院 自宅や施設など患者さんがいる場所 が困難な」患者さんが対象である。 を訪問し歯科診療を行う「在宅歯科 そのため、例えば同じ施設入居者で 往診ケアチーム」を日本で最初に発 も、通院可能な患者さんに対しては、 足させた。高齢社会が到来するとい 訪問診療は行うことができないこと われはじめた頃、これからの歯科医 になっている。 日本歯科大学新潟病院では、訪問 療の在り方を見据え、要介護状態に 訪問診療では、治療器具や持ち運 歯科口腔ケア科の診療が、訪問診療 なった通院患者から、入れ歯の調整 びできる大きさになった治療機器な に関する臨床実習の場になっている。 などの往診に対する要望が増えると どを車に積み込んで患者さんの居宅 そのため、1年次から訪問歯科に関 考えたことが背景にある。 や施設を訪問する。同行するのは、 する教育に力を入れている。 「1987 年に開始した当時は訪問診 歯科医師、研修歯科医、歯科衛生士、 1年次は、将来の歯科医師像を考 療の概念もその仕組みもなかったの 歯学部5年次の臨床実習生、併設す える授業「プロフェッション」で、 で、歯科の各科からメンバーを募っ る短期大学の歯科衛生士養成課程の 訪問診療に携わっている歯科医師に てプロジェクトチームを作り、その 病院実習生らだ。診療は月~金曜日 よる講義があり、2年次は「専門歯 都度検討を重ねながら訪問歯科診療 の午後で、最大3台の訪問車でそれ 科治療概論」で、インプラントや審 を行ってきました。しかし、高齢化 ぞれの訪問先に向かう。施設の場合、 美歯科などと並んで、訪問歯科につ がさらに進展する今後は、訪問診療 一度の訪問で7~8人の診療を行う いても詳しく講義している。3年次 に対する爆発的なニーズが生まれる が、居宅を訪問する場合は3軒程度 の「早期臨床実習 II」では、介護の ことが予測されます。そこでこのチ になる。 基本的な考え方やベッドの起こし方、 ームをもとに、教育、研究、診療に 「歯の治療をする医療機器やエッ 車椅子の使い方なども学ぶ。要介護 より専門性を持って取り組むことを クス線撮影機といったポータブル機 者への訪問診療では、ベッドや車椅 目的として 2014 年から『訪問歯科 器が充実してきたため、抜歯や抜髄 子をどう使い、どのような姿勢で口 口腔ケア科』という日本で初めて歯 (歯の神経を抜くこと)、入れ歯作製 腔ケアを行えばいいのか重要になる 科訪問診療を専門とする診療科を開 など一般歯科の外来で受けられる治 からだ。その後、4年次で「高齢者 78 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 居宅と施設を含む 連続4回の臨床実習で 患者の多様性と他職種連携の 重要性を学ぶ 第 30 回 <写真>訪問歯科診療用ポータブルユニット 歯学 <写真>5年次臨床実習生の歯科訪問診療実習 概説 5 年次病院実習では訪問歯科口腔ケア科の訪問診療に同行し、個人宅や介 護保険施設、有料老人ホーム、障害者施設などさまざまな場の特性を学ぶ 宅や施設でも歯を削ったり歯石を取るなどの処置 ことができる。また、診療チームの一員として血圧測定や診療介助、口腔 を診療室と同じように行うことができる。 ケアなども行う。写真では指導医の指導の下で口腔ケアを実施している。 (写真はいずれも白野科長提供) 床実習」につなげている。 「居宅ではケアマネジャーを中心 患の多い患者さんが対象なので、全 「臨床実習生は、訪問歯科口腔ケ に『サービス担当者会議』が開催さ 身疾患をいかに理解しなければなら ア科の訪問診療に連続して4回参加 れ、病院では『退院時カンファレン ないかを考えるようになった」 「他職 することになっています。コアカリ ス』が実施されますが、そこにでき 種の仕事の理解や、他職種との言葉 キュラムに含まれているため、全て るだけ学生を参加させています。医 の共有ができなければ、連携が難し の大学で訪問歯科に関する授業を行 療関係者と介護関係者が一堂に会す いことを痛感した」といった意見が っていますが、実践については決ま るため、訪問歯科の仕組みを理解す 数多く見られるなど、訪問診療が、 った施設に行くだけの場合も多く、 るのに極めて高い教育効果があるか 多職種連携の中で行われる地域医療 個人宅にまでなかなか手が回ってい らです。現在、国の施策として進め の一環だとの意識が高くなっている。 ないのが現実です。しかし、本学で られている地域包括ケアシステムの 「近年は、食べ物を食べて咀嚼し、 は実践の積み重ねがあることから、 中で、医療・介護・福祉等が一体と 飲み込むことが難しい、摂食嚥下障 個人宅はもちろん、終の住処となる なって高齢者を支える仕組みになっ 害に関する歯科へのニーズが高まっ 特別養護老人ホームや、介護老人保 ており、 歯 科 はその一 部 として関 てきています。飲み込みの検査を行 健施設、有料老人ホームなどさまざ わっていくことを求められています。 う病院は増えていますが、訪問診療 まな施設で実習できます。最初は見 ですから、訪問歯科も単なる『歯科 で検査ができるところは少ないのが 学だけですが、2回目以降は、血圧 の出前』では成立しません。臨床実 実情です。しかし、実際には在宅で 測定や診療介助などに参加し、最終 習は、こうした地域医療の一環とし 必要とされています。地域の医療で 日には指導医のもとで口腔ケアを行 て多(他)職種との連携の重要性を 歯科医師に期待されているのは、歯 います」 (白野科長) 学ぶ場なのです」(白野科長) 科治療に加え、口腔ケアと摂食嚥下 実際の訪問診療は、一般歯科外来 の管理であり、歯科医師国家試験に 床実習では学生が訪問先で診療がで きるようになることが目的ではなく、 訪問歯科の特性や地域との関わり、 訪問診療の臨床実習を通して学生 他職種との関わりがどうなっている は大きく成長する。実習後のアン も摂食嚥下に関する問題が増えてき ています。そこで今後は、口腔ケア と摂食嚥下にかかわる訪問歯科の仕 組みの開発と、関連した教育に力を 入れていく予定です」(白野科長) Kawaijuku Guideline 2015.7・8 79 卒業後の進路 歯科医師が担当するものであり、臨 せっしょくえん げ 再生医療 の診療が一通りできる経験を積んだ 口腔ケアと摂食嚥下に 力を入れながら 将来の訪問診療の担い手を 育成する 口腔がん ケートでも、「外来患者に比べて疾 口腔と全身疾患 のかを経験することを重視している。 歯の治療学 歯科」の講義を行い、5年次の「臨 教育 持ち運びできるようになっている。これにより居 入試情報 歯科医院の診療台についている歯を削る器具や水 を吸うための器具等が1つのボックスに納まり、 注目の学部・学科 歯の治療学 九州歯科大学 歯学部歯学科 北村 知昭 教授 治療機器・材料や技術などの 発達により これまで以上に高度な 歯の治療や機能回復が可能に 歯の治療の目的は、歯が本来持っている機能が 失われないように保つことである。具体的には、むし歯になった部分を削り、 樹脂(レジン)や金属で元通りに回復する治療や、 歯に生じた激痛を取り除く治療などが行われる。 診断や治療に使う機器・材料の開発と治療技術の発達により、歯の治療 でも新しい潮流が見られるようになっている。ここでは最新動向も含め、 一般的な歯の治療とそのための教育について紹介する。 歯の硬い組織と 軟らかい内部の治療を合わせ 一連の流れで教える「歯の治療学」 これら3つの領域は2つの分野に 流れとして捉えて「歯の治療学」と まとめられて教育されることが多く、 する方が歯学部生にも理解しやすい そのまとめ方は各歯科大学・歯学部 と考えています。 によって異なります。1つは、歯の むし歯は感染症の一種であり 歯髄の炎症の度合いで 治療方法が異なる 歯の治療というと、むし歯の治療 表面の「硬い組織を対象」とする治 や、歯を支える歯茎の治療など、歯 療と、歯の内部(シンケイ)や歯茎 と歯の周りの悪い部分を治療すると などの「軟らかい組織を対象」とす いうのが一般的なイメージだと思い る治療とに分ける考え方、そしても 一般的な歯の疾患の代表はむし歯 ます。こうした一般的な歯の治療は、 う1つは、 「歯を対象」とする治療と です。むし歯は正式には「う蝕」と 学問的には保存修復治療、歯内治療、 「歯茎を対象」とする治療とに分け 呼ばれる感染症で、口腔内の特定の 歯周治療の3領域に大きく分かれて る考え方です。前者は歯内治療と歯 細菌が作った酸により歯の硬い組織 います。保存修復治療は歯の表面に 周治療を同じ領域として捉え、後者 を溶かしてしまう疾患です。 ある硬い組織を削って歯科材料を詰 は保存修復治療と歯内治療を同じ領 う蝕が生じる歯の組織は、エナメ める治療、歯内治療は歯のシンケイ 域として捉えています。 ル質、象牙質という硬い組織と歯髄 と歯の根の周囲の治療、歯周治療は 本学は後者の立場をとっており、 で構成されており、一般に使われて 主に歯茎の治療を行うものです。 保存修復治療と歯内治療を合わせて いる “ シンケイ ” は歯髄のことを指 「歯の治療学」と称 <図>歯の構造 むし歯(う蝕) エナメル質 象牙質 歯のシンケイ(歯髄) 歯茎(歯肉) 歯と顎の骨をつなぐ膜 (歯根膜) 歯を支える顎の骨 (歯槽骨) (北村教授提供) 80 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 し ずい します<図>。 しています。患者さ むし歯の治療では、感染がエナメ んから見れば、保存 ル質や象牙質でとどまっている場合 修復治療・歯内治療 は、削って歯科材料を詰める保存修 のどちらも「歯の治 復治療が行われます。感染が歯髄に 療」です。また、む 及んでいても炎症が軽ければ、炎症 し歯の進行に応じて を抑えて歯髄を残す保存修復治療を 保存修復治療から歯 行います。これは、いったん歯髄を 内治療へと変わって 除去すると、痛みなどの信号を感じ いくことから、2つ なくなり、再びむし歯になっても気 の治療領域を一連の 付かないうちに感染が進行するとい 第 30 回 歯学 <写真>歯科用マイクロスコープ(顕微鏡) で見た歯の様子 例えば歯科材料です。 しかしながら、歯髄の炎症が重い かつては歯の詰め物は 場合や、感染や炎症が根の先に進ん アマルガムと呼ばれる だ場合には歯内治療を行います。歯 合金が主流で、大きく 内治療には抜髄と感染根管治療の2 削った場合は、金歯や 種類があります。 銀歯と呼ばれるように 抜髄は、歯髄を除去して感染源を やはり合金の冠を被せ 絶つ治療で、一般的には「シンケイ ていました。しかし最 を抜く」といわれます。歯髄を除去 近では、歯の色をした した後は、痛みが引いてから歯根内 コンポジットレジンと 部を歯科材料で埋め、その上に土台 いう樹脂が主流です。 必要に応じて高倍率(10 倍程度)で処置を行う。例 を作って詰め物を入れることになり 昔は強度や歯との接着 えば、穿孔確認後の天蓋除去の際や根管口の位置・数 ます。 に問題があるとされて 一方、感染がひどく歯髄が死んで いましたが、現在では しまった場合は、感染が歯根の先か それらの問題は解消さ ら歯の周囲の組織(歯根膜や骨)に れ、実用的な歯科材料として広く使 到来している日本における歯科用マ まで広がります。そうした歯根周囲 われています。コンポジットレジン イクロスコープを使った治療は重要 の奥深い病巣を治療するのが感染根 の代わりに、より審美性の高いセラ です。高齢者は歯がすり減り、歯髄 管治療です。歯に空けた穴から治療 ミックが使われる場合もあります。 も細くなっていますから、繊細な治 することが難しい場合は、外科的治 冠を作る技術も大きく変化してい 療を可能にする歯科用マイクロスコ 療法として、歯根部分の歯茎を切開 ます。これまでは冠などの大きな詰 ープは必須アイテムになります。 し、歯根を切り取る治療をしてから め物は、まず型をとり歯科技工士が 歯の内視鏡も実用化・一般化に向 歯茎を元に戻す歯根端切除を行うこ その型を元に加工して作っていまし けた開発が進んでいます。将来的に ともありますが、これも「歯の治療」 たが、近年は削った歯の形を 3D カ は、歯の内部を観察すると同時にレ に含まれます。 メラで撮影してコンピュータ内で3 ーザーを照射して感染部分を治療す あまりに感染が進み、歯を支える 次元データを作り、セラミックやレ ることも夢ではなくなるかもしれま 組織を残せないようであれば抜歯し ジンなどの材料のブロックを削り出 せん。 ます。抜歯後は、歯茎が落ち着くの して冠 や 詰 め 物 を 作 る歯 科 用 の さらに、歯や歯髄、歯の周囲にあ を確認する時などは高倍率で処置を行う。 画 像 化 できる「 コ ー ン ビ ー ム CT」 今のところ、悪いところを取り除 す。なお、抜歯以降の治療は「歯の や、治療精度を格段に向上させる いて人工物で代替するのが「歯の治 治療学」の範囲を越えるため、ここ 「歯科用マイクロスコープ」も広ま 療」の基本的な流れです。しかし今 では詳しく説明しませんが、歯学部 りつつあります。歯科用マイクロス 後は、研究の進展や治療機器・材料 生は「歯の治療学」を学んだ後に、 コープは治療部分を最大で 20 倍ま の開発に伴い、侵襲性が低く精度の そうした領域を学びます。 で拡大して見ることができる顕微鏡 高い治療、より美しく見せる審美治 で、非常に精度の高い治療を可能に 療、さらには、これまで残せなかっ します<写真>。歯の治療では感染 た歯 を残 せるようにする再 生 医 療 した部分だけを削るのが理想ですか (治療)などが「歯の治療」を行う歯 ら、顕微鏡を使うことで健全な部分 科医療現場に広がっていくと思いま 科学技術の発展により歯の治療も を削ることを最小限にできます。 す。 変化しています。 これからは特に、超高齢化社会が Kawaijuku Guideline 2015.7・8 81 卒業後の進路 分の機能を回復させることになりま 再生医療 究も急速に進んでいます。 口腔がん また、歯と周囲の組織を3次元で 口腔と全身疾患 る骨の再生医療(治療)に関する研 歯の治療学 「CAD-CAM」が登場しています。 教育 『マイクロエンドをはじめよう 超!入門テキスト』P13 図 26 (北村知昭編著、2013 年、医歯薬出版株式会社) ントなどの方法で歯が無くなった部 精密な治療機器や歯科材料の 発達に伴う高精度の歯科治療や 審美治療、再生医療に期待 入試情報 を待って義歯やブリッジ、インプラ 概説 う大きな問題を生じるからです。 注目の学部・学科 口腔と全身疾患 東北大学 大学院歯学研究科 笹野 高嗣 教授 口の健康と全身の健康は密接に関係 全身の機能回復を担うことが 歯科医師の仕事に 歯の丈夫な人は長生きする──昔からよく知られていることだが、最近では、 口の病気が全身の病気を引き起こす、あるいは全身の病気が原因で 口の中にさまざまな症状が起こるといった、口腔と全身疾患との双方向的な 関係が科学的に解明されつつある。がんなどの手術前の口腔ケアが 浸透しつつあるなど、医科歯科連携も盛んに行われるようになった。 医療における医学と歯学の垣根はどんどん低くなりつつある。 からない発熱は「不明熱」と呼ばれ 口腔細菌が血液に入って全身を回 ますが、その原因が口の中のむし歯 ることで起きる疾患もあります。歯 や歯周病などの感染症による炎症で ブラシや食べ物などで口の中が傷つ あることも少なくありません。口の いたりすると、傷口から口腔細菌が 口の中は人間の体の中で最もばい 中の炎症が原因で、心筋梗塞や脳梗 血管に入ります。たとえ血管に入っ 菌が多い場所です<図1>。培養可 塞になったりすることもあります。 たとしてもほとんどは体に影響があ 能な菌が 150 菌種、不可能な菌種を 誤嚥性肺炎も口腔細菌が原因です。 りませんが、心臓機能が低下してい 入れると 500 以上にもなります。近 肺炎は日本人の死因の3位ですが、 ると、この細菌が心臓に入って大動 年の研究によって、こうした口腔細 その多くは高齢者の誤嚥性肺炎によ 脈内部で増殖する感染性心内膜炎を 菌が全身疾患を引き起こす原因の1 るものです。食べ物が肺に入り、食 発症する可能性もあるのです。 つになっていることがわかってきま べ物に付いていた細菌によって起こ 第2は、口腔細菌が間接的に病気 した。それには大きく2通りありま る肺の炎症ですが、原因菌は食べ物 につながる場合です。人には病原菌 す。 にあったわけではなく、食べ物と一 などの抗原に対して、一対一で対応 第1は、口腔細菌が直接、体に作 緒に肺に入った歯周病菌など、その する抗体を作って感染を防ぐ抗原抗 用する場合です。例えば、原因がわ 人の口腔細菌なのです。 体反応があります。しかし、口腔細 口の中は大きなリスク要因 口の中の細菌が 全身疾患の原因に ご えんせい <図1>人体各部の細菌数 菌に対する抗体が間違って自分の体 こう さ の細胞を攻撃してしまう交叉反応が 起こることがあります。例えば、皮 しょうせきのうほうしょう 膚炎の一種である掌蹠膿疱症は、口 腔細菌の抗体が、皮膚の角質細胞を 攻撃することで発症します。リウマ チ性関節炎や眼内炎、ベーチェット 病なども、口腔細菌の抗体による交 叉反応で生じる場合があります。特 に歯周病菌の抗体は、糖尿病を悪化 させるため、歯周病になると糖尿病 になる危険が 4.6 倍になるという報 告もありますし、妊婦の羊膜にも炎 (笹野教授提供。 『人体常在菌 共生と病原菌排除能』 (牛嶋彊著、2001年、医薬ジャーナル社) 、 『腸内細 菌の話』 (光岡知足著、1978年、岩波新書)をもとに作図) 82 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 症を起こすため、母親が歯周病にか 歯学 第 30 回 <図2>残存歯数とアルツハイマー型認知症の関係 残存歯数とアルツハイマー型認知症の関係 (本) (平均年齢70歳後半、残存歯は平均本数) 10 かると低体重児を出産するリスクが 8 7倍にもなります。 6 このように口腔細菌は、直接、間 4 接に全身疾患の原因になることがわ 2 かってきました。歯科医師が扱う口 0 の中は、全身疾患と大いに関わって 6本 3本 アルツハイマー型 認知症の人 (36人) 脳血管性 認知症の人 (39人) 健康な 高齢者 (78人) (『口腔と全身の健康との関係Ⅱ:名古屋大学医学部口腔外科の研究調査』 より) 「からだの健康は歯と歯ぐきから」P14(財団法人8020推進財団) チェット病や、腸の病気であるクロ 細菌を介したものだけではありませ 「味覚障害」も大きな問題です。 ーン病の症状として口内炎ができる ん。口腔は、ものを噛んで、味わい、 高齢者の場合は、だ液の分泌が少な 場合もあります。 飲み込むという摂食嚥下という重要 くなって、食べ物のうま味を感じな 全身疾患による口腔症状を訴えて な運動を担っていますが、この運動 くなることが多いのですが、若者の きた患者さんに対しては歯科だけで がうまくできなくなると脳の機能に 場合は、ジャンクフードや激辛など は対応できませんし、口腔細菌など 影響が出ることも解明されてきまし の濃い味に馴れてしまい、味覚障害 が原因となっている全身疾患の患者 た。 になる人が増えています。軽度の味 さんには、医科だけでは対応できま マウスを使った実験では、抜歯し 覚障害ですが、濃くないと味を感じ せん。そのため、近年は、医師と歯 たマウス、つまりものを噛むことが なくなるなど、すべての味に対する 科医師が連携することが多くなって できないマウスは、記憶力が低下す 感受性が低下してしまうのです。ち きました。こうした医科歯科連携を ることが確認されています。抜歯し なみに、大学の新入生に食育を行っ 進めていく上では、歯科医師には全 たマウスでは脳の海馬が萎縮し、迷 た結果、味覚障害の3分の1が改善 身疾患に対する知識が必要ですし、 路などを抜ける際に必要な空間記憶 されたという調査結果もあります。 医師にも歯科の勉強が欠かせません。 機能が低下します。ところが、その 味覚障害自体は感覚障害ですが、 特に超高齢社会になり、患者さん マウスにもう一度人工的に歯を入れ 食欲不振になって栄養不足になる危 の多くが全身疾患を抱えている高齢 ると、海馬の反応が回復し、記憶力 険がありますし、塩分の取りすぎや 者になると、歯科治療自体も、全身 も元に戻ります。つまり、噛むとい 糖分の取りすぎによって高血圧や糖 疾患への理解なしには進めることは う運動が、記憶という脳の高次機能 尿病などの全身疾患につながるリス できません。そこで本学では、1年 に影響を与えているのです。 クも高まります。食育などによって、 次に歯科臨床入門として大学病院を 人間の場合も同じです。歯が少な 味覚を正常に保つのも歯科医師が担 見学させたり、5年次のアドバンス い高齢者ほど脳の海馬が萎縮してい う今後の重要な仕事といえます。 講義として「全身と口腔」という授 せ っしょくえ ん げ るという研究結果がありますし、ア ルツハイマー型認知症の人は健康な 人よりも残っている歯の数が少ない 超高齢社会における医療は 医科歯科連携が基本に 業を開講し、全身疾患との関連を意 識した教育を行っています。 歯科医師はこれまで、歯の治療を 全身疾患から起こる口腔症状にも 通して摂食嚥下や発音の機能回復を にすると認知症にな 注意が必要です。歯が痛いからと歯 担当してきましたが、今後は全身の る確率が高まることも知られていま 科を受診したところ、脳腫瘍が原因 機能回復を担う医療者としての役割 す。外界の刺激に対してほとんど反 の歯痛だったことがわかることもあ がますます鮮明になってくると思い 応しないような寝たきりの人に対し りますし、歯茎の出血から白血病が ます。まさに「口腔は全身の鏡!」 て、入れ歯を入れて噛む機能を回復 判明する場合もあります。口内炎も なのです。 という結果もあります<図2>。ま (注) た、胃ろう (注)胃ろう…口から食べものを摂ることができない人や、食べてもむせて誤嚥性肺炎などを起こしやすい人に、腹部に小さな穴を作って、直接胃に栄養を送る 方法のこと。 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 83 卒業後の進路 されています。 再生医療 口腔と全身疾患との関係は、口腔 口腔がん 程度で治りますが、失明に至るベー 口腔と全身疾患 るようになった事例もいくつか報告 歯の治療学 同様です。一般的な口内炎は2週間 教育 させたところ、急速に回復して歩け 入試情報 認知症や味覚障害などにも 口腔環境が大きく影響 概説 いるのです。 9本 注目の学部・学科 口腔がん 東京歯科大学 口腔外科学講座 柴原 孝彦 増加する口腔がんの発見と治療は 歯科医師が果たすべき大切な役割 教授 がん治療に歯科医師が深く関わっていることは、一般的にはなかなか イメージしにくいかもしれない。しかし、歯科医師は、歯の治療だけでなく、 口腔、すなわち唇からのどに至る部分の粘膜疾患も扱い、 「口は健康の源」といわれ健康寿命の延伸に大きく寄与している。 とりわけ、口腔がんは、近年患者数が増加しており、歯科医師の貢献が 強く期待されている。日本における口腔がんの現状を示すとともに、 口腔がんの原因と治療法、歯科医師の関わり方などについても紹介する。 は口腔がんです。かつて口腔がんは、 罹患率の増加は世界的傾向で他の 飲酒や喫煙習慣のある中年男性に多 先進国と変わりませんが、近年の死 いとされていましたが、生活習慣や 亡率をみると、先進国の中では日本 生活環境の変化などから、最近では だけが増加しています。日本ではが 口腔とは唇から舌の付け根までの 若者の患者も増えており、女性の比 んがかなり進行してから(注)、大学病 部位を指し、口腔にできるがんを口 率も3割以上に近づいています。 院などの治療機関を受診する場合が 腔がんと総称しています。口腔がん 2013 年度の日本の口腔がんの罹 多く、手遅れになるケースが多いの は歯以外のどの部位にも発症し、特 患率は、全がん 28 部位のうち 11 番 です。東京歯科大学病院の場合、口 に多いのは舌がんですが、この他に 目で、患者数は男性で最も多い胃が 腔がんの初診患者の6割は、腫瘍の 唇にできる口唇がん、歯茎にできる ん患者数の 10 分の1程度です。し 直径が4㎝より大きなステージⅢ以 歯肉がんなどがあります。 かし、 治 る患 者 さんの割 合( 5 年 上です。かなり進行してから受診す 国立がん研究センターによれば、 生存率)は 28 部位中 20 番目と低く、 る患者さんが多い理由としては、口 年間の死亡率は 46%、5年生存率も 腔がんをよく知らない歯科医師が初 30 年間で急増しており、今後はさら 56.9 % に留 まっ ています。 つまり、 期症状を見落としたり、医師が気づ に増加することが予測されています 口腔がんにかかると約半数が亡くな かずに治療をしたりして、かえって <図表1>。このうち、患者の8割 ってしまうのが現状です。 がんを悪化させてしまうことがある 国民の意識が低い口腔がん 先進国の中で、 日本だけで死亡率が上昇 「口腔・咽頭がん」の患者数は、ここ <図表1>口腔・咽頭がんの患者数 ためです。 一方、アメリカの口腔がんの死亡 率は 19.1%であり、日本の半分以下 です。欧米では、歯科医師会などが 口腔がんの啓発キャンペーンを毎年 行っており、女性や若者も口腔がん になることがよく知られているため、 口腔がんの早期発見につながり、治 る患者さんの割合も高いのです。日 本での死亡率が高い最大の理由は、 口腔がんに対する社会的な認知度が 極めて低いことにあるといえます。 (国立がん研究センター 2014 年は推計値) (注)がんのステージ…がんの大きさやリンパ節・多臓器への転移の有無を組み合わせて、がんの進行度を分類したもので、がんの初期段階から順にステー ジⅠ~Ⅳまで4段階ある。口腔がんの場合、ステージⅠはがんの大きさが2cm 以下、ステージⅡは4cm 以下、ステージⅢは4cm 以上、ステージⅣは4cm 以上で多臓器へ転移がある状態をいう。 84 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 第 30 回 歯学 <図表2>口腔がんの予防の必要性 口腔内の慢性的な刺激が 原因となり5~ 10 年間の 前がん状態を経て発症 口腔がんを発症するメカニズムは 完全には解明されていませんが、こ (柴原教授提供) 同じ所を噛んでしまう、むし歯がい たち歯科医師は、誰でも口腔がんに がんを発見する歯科医師の診断能力 いつもこすれている、といった口腔 なるリスクを抱えていることを広く の強化が鍵を握ります<図表2>。 内の慢性的な刺激が原因となり、そ 伝えていく必要があります。 個人の努力としては、口の中を清潔 こに食べ物や煙草などの要因が積み 重なって発症するといわれています。 筋肉の上に何層もの細胞が重なる構 にして、慢性的な刺激が起きないよ うに口腔環境を整えると同時に、歯 科医師に定期的に診てもらい、前が ん状態でないかどうかチェックする 一方、歯科医師には、口腔がんの できます。筋肉の近くにある上皮細 薬でがん細胞の分裂速度を遅くした 徴候を早期に発見できるような診療 胞(基底細胞)から次々に新しい細 り、がん細胞をある程度減らすこと 能力が求められます。歯の健康状態 胞が供給され、通常なら、上皮が傷 もありますが、特効薬はないので、 だけでなく、歯肉や舌などを含めた ついても2週間程度で自然治癒しま 薬を予防的に使う場合がほとんどで 口腔全体を診る必要があります。本 す。一般的な口内炎が1~2週間で す。放射線治療を併用することもあ 学では学部学生に対して「悪性腫 治るのはこのためです。ところが、 りますが、口腔がんの場合は注意が 瘍」の講義を行い、大学院に「口 口腔内の慢性的な刺激が長期間続く 必要です。なぜなら、放射線を骨に 腔がん専門医養成コース」を設置す と、基底細胞の分裂に問題が起き、 照射すると、骨や歯が腐る「放射線 るなど、口腔がんを熟知した専門性 細胞ががん化するといわれています。 骨疽」になるため、患部の周りに歯 の高い歯科医師の育成に取り組んで ただし、こうした刺激を受けてす がある舌がんや歯肉がんの場合には、 います。また、地域と連携してがん ぐにがんを発症するわけではありま 放射線を照射しにくいのです。 検診を行ったり、開業歯科医を対象 せん。いつも同じ場所に長い間口内 口腔がんの切除手術は、通常は口 とした研修会を定期的に開催したり 炎や傷ができるといった異変が必ず 腔内の治療に熟達している口腔外科 しながら、口腔がんの早期発見につ あるはずです。そうした「前がん状 医、つまり歯科医師が行います。た なげる努力も行っています。さらに、 態」が5~ 10 年続いて初めて口腔 だ、がんが咽頭部や喉頭部にまで達 肉眼では診断しにくい初期の口腔が がんを発症するので、小さな異変を している場合は、耳鼻咽喉科の医師 んを、特定の波長の光で発見しやす 早く察知することが重要です。 と協力して行うこともあります。日 くする機器の開発も行っています。 口の中は歯磨きなどで1日に1回 本では死亡率の高い口腔がんですが、 今後、増加が予想される口腔がん は、直接観察しているはずですし、 ステージⅠの段階で治療を開始すれ の予防、治療には歯科医師の力が欠 指で簡単に触ることができます。そ ば、5年生存率は 95%以上です。で かせません。歯学部をめざす皆さん う考えると、前がん状態を見落とす すから、早期発見は口腔がんを克服 には「歯医者にも救える命がある」 ことは少なく、目に見える異変を5 するためには欠かせないのです。 ということを肝に命じて、口腔がん 年も 10 年も放っておかないはずなの 口腔がん患者を減らし、早期発見 を含め、幅広く医療の勉強を進めて ですが、実際には口の中の異変に気 を促すためには、まずは国民1人ひ ほしいと思います。 がつく人は少ないのが現状です。私 とりの意識改革と予防の徹底、口腔 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 85 卒業後の進路 治療は外科的な切除が一般的です。 再生医療 んどは、この重層扁平上皮の細胞に 口腔がん ことが重要です。 口腔と全身疾患 口腔がんになってしまった場合、 歯の治療学 造をしていますが、口腔がんのほと こつ そ 教育 口腔内の粘膜(皮膚と同じ)は、 早期発見が最重要 診断能力の高い 歯科医師育成が鍵 入試情報 つも当たっている、歯並びが悪くて 概説 れまでの研究から、入れ歯が合わず 注目の学部・学科 再生医療 大阪大学 大学院歯学研究科 村上 伸也 教授 歯根膜や体脂肪中の 幹細胞を利用した 歯を支える歯周組織の再生に挑む 口の中には、再生医療の鍵を握る幹細胞が豊富にあり、 し ずい 歯髄にある幹細胞を人の臓器に分化させる研究などが行われている。 こうした幹細胞の多能性の研究とは別に、歯周病などで失われた骨や 歯茎などを元に戻す歯周組織の再生医療の研究が行われ、保険適用される 治療法も登場している。ここでは、歯科における再生医療を中心に、歯根膜に ある幹細胞を活性化させる研究や、体脂肪の中に存在する幹細胞を 使った再生医療に関する臨床研究の例を紹介する。 能性幹細胞ですが、実は、歯科でも た部分をきれいに補って、治療を終 多能性を持った幹細胞が存在してお えます。治療が終わった時点で「や り、例えば、歯髄の中にある幹細胞 はり元通り自分の歯を再生してほし 病気や怪我、事故などで体の形態 を肝臓などの臓器に分化させる研究 い」と強く望む人がいるでしょうか。 や、感覚や動作といった体の機能が も行われています。ES 細胞や iPS 細 代替材料を使えばわずかの時間で機 失われて、元に戻らない場合、人は 胞を医療の現場で用いるには、克服 能が回復するのに、何カ月もかかる 「元通りにしてほしい」という希望 せねばならない課題がまだ多く残さ であろう歯の再生を望むでしょうか。 を持 ちます。 そこで登 場 するのが れています。しかしながら、例えば 現実的にはむし歯の治療における再 本人の歯髄にある幹細胞を使って本 生医療のニーズは、現状ではほとん 体の形態や機能を再生させるには、 人の組織臓器の再生のために用いる どないといってよく、むし歯に対す 分裂して自分と同じ細胞を作ったり、 ことができれば、いくつかの問題は る再生医療は行われていません。 他の種類の細胞に分化したり、増殖 回避されるため、歯科の幹細胞が注 再生医療へのニーズがあるとすれ できる機能を持った幹細胞が必要で 目されています。 ば、歯を丸ごと再生してほしいとい リスクの少ない治療法を求め 歯科の幹細胞に熱い期待 「再生」という概念です。 す。小さな傷や骨折、一時的な機能 障害の場合は、幹細胞などの働きに より自然に元に戻ります。 元通りになることを望む方向に 再生医療の進むべき道がある う場合です。歯を失った人に、どう しても天然の歯がいいと思えるよう な強い魅力を提供できれば、歯の再 従って、形態や機能が再生しない 歯科は非常に幅が広く、再生医療 生は医療として成立する可能性はあ のは、①幹細胞が(十分に)ない、② も口腔がんや奇形、顎関節症状の治 ります。ただ、歯の発生の過程を順 幹細胞はあるがその能力を上手く引 療や矯正歯科、審美歯科など、口の にたどれば何年もかかります。こう き出せない、の2つが想定されます。 健康に関するあらゆる疾患(病気) した「時間」的な問題を解決できる このように体の自然な治癒能力に任 が対象になります。 かを考えると、やはり歯を丸ごと再 せていては組織臓器の再生が期待で 一方で、歯科の代表的な疾患とい 生する医療は現実的ではありません。 きない場合には、医療者が何らかの えば、むし歯と歯周病でしょう。歯 もちろん、再生医療ではなく、再 医療上の工夫をしなければなりませ は生活上、不可欠な器官です。もし 生医学の研究という点では、歯の再 ん。その工夫のことを「再生医療」 1本の歯にむし歯が見つかったなら、 生は十分に魅力的なテーマです。歯 といいます。 多くの皆さんが経験されたような通 の発生の過程を応用した研究の発展 再生医療で脚光を浴びているのは、 常のむし歯治療を行い、最後には体 や、そうした研究を通じて発生の謎 さまざまな組織や臓器に分化する能 によく馴染む金属や樹脂などの生体 が解けることも考えられます。歯の 力を持つ ES 細胞と iPS 細胞などの多 親和性の材料で、むし歯で損なわれ 再生は、学問としての意義は十分に 86 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 第 30 回 ありますが、現実の医療としては考 歯学 <図1>歯周病の進行と歯の喪失 えづらいのが今の実情といえるでし ょう。 概説 保険適用される治療法としての 歯根膜の幹細胞を 使った再生医療 次に、もう1つの代表的疾患であ る歯周病を考えてみましょう。歯周 織が侵される病気です<図 1 >。歯 入試情報 病は、歯の組織を支えている歯周組 <図2>歯と歯周組織 肉炎の段階なら元に戻りますが、そ し そうこつ れを過ぎるとやがて歯槽骨が溶け、 教育 歯の機能が損なわれていきます。歯 周病の原因は歯垢(プラーク)とよ 歯の治療学 ばれるバイオフィルムの中の細菌で す。治療で原因を完全に除去すれば、 進行を止めることはできますが、失 われた歯槽骨や歯ぐきは元に戻りま 口腔と全身疾患 せん。代替材料もありません。そう なると治療が終わった患者さんから は「再生してほしい」という強い要 求が出てきます。つまり、歯周組織 口腔がん の再生は、医療のリアリティを伴っ た再生医療なのです。 歯周組織は歯肉、歯根膜、セメン 2>。歯根膜は、コラーゲンの線維 じん たい ています。この幹細胞は、歯根膜の のための時間と場所を確保する方法、 0.2mm 程度の厚さがあります。歯 コラーゲン線維などを作る線維芽細 EMD 法は、セメント質の形成を促 根表面のセメント質とそれに相対す 胞、歯槽骨を作る骨芽細胞、セメン すタンパク質でその空間を埋めるこ る歯槽骨は、歯根膜のコラーゲン線 ト質を作るセメント質芽細胞に分化 とで、歯周組織全体の再生を活性化 維でつながれており、ちょうど歯を する能力を備えています。つまり、 しようとする方法です。GTR 法は保 無数のロープでつないで支える構造 歯周病の治療後に、この幹細胞を上 険適用されていますが、高度な手技 をとっています。歯根膜には、①歯 手く使うことができれば、歯周組織 が必要で、治療効果の安定性担保が をつなぎ止める、②噛む力の緩和、 全体を再生できる可能性があるので 難しいというデメリットがあります。 ③感覚受容器、の3つの機能があり す。 EMD 法は、GTR 法に比べて使用法 ます。実際、ものを噛むとわずかに 既に臨床応用されている再生療法 が容易になり安全性も確保されてい 歯は沈み、ごく小さな砂粒などの異 として GTR(組織再生誘導)法と るものの、豚由来のタンパク質を使 物も鋭敏に感知することができます。 EMD 法とよばれるものがあります。 っている点が課題として残されてい この歯根膜の中には多能性を持っ GTR 法は、幹細胞が歯周組織を作 ます。しかし、いずれにしても歯周組 た「未分化間葉系幹細胞」が存在し るための空間を人工膜で覆って再生 織の再生医療は実現しているのです。 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 87 卒業後の進路 などでできた靱 帯 組 織 で、0.1 ~ 再生医療 (図 1・2 とも村上教授提供) ト質、歯槽骨で構成されています<図 注目の学部・学科 <図3>脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)を用いた歯周組織再生誘導 することが前提です。しかし、歯根 膜の幹細胞の数は年齢と共に減少し ます。歯周病は中高年になるにつれ て増加するため、特に高齢者におい ては、幹細胞が減少してしまう場合 もあります。 解決策として考えられるのが幹細 胞の移植です。本人の口の中の幹細 胞、つまり歯根膜や歯髄の幹細胞を 取り出し、それを移植できれば歯周 組織の再生医療が可能です。ただ、 この場合は別の歯を抜く必要があり ます。歯を支える組織を再生するた めに、別の歯を抜くということは、 治療を行う上での大きな制約になり ます。 (村上教授提供) そこで、骨髄や脂肪から幹細胞を 殖を促進する、という2つの優れた 取り出し、それを再生医療に用いる 作用があります。傷を治すにはまず 臨床研究が進められています。骨髄 栄養を供給しなければならないため、 や脂肪の中にある細胞の中にも「未 血管を作る能力が高く、しかも幹細 分化間葉系幹細胞」があるため、私 現在行われている歯周組織の再生 胞の能力を高いまま育む FGF-2 に期 たちの病院ではお腹の脂肪からその 医療の欠点を補う目的で、私たちの 待したのです。 幹細胞を取り出し、それを歯周病の 研究グループでは、大きく2つの方 2001 年から臨床治験を 10 年以上 手術の際に移植することで再生を促 向で新たな再生医療の確立をめざし 重ねた結果、FGF-2 に高い再生効果 そうとしています<図3>。移植と ています。 があることが証明できました。FGF-2 いっても、その幹細胞をゲル状の物 1つは、サイトカインを用いた歯 を投与して9カ月後の歯槽骨の高さ 質にして、患部に置いておくだけで 周組織の再生医療です。サイトカイ を比較すると、平均して 50 ~ 60% す。あとは幹細胞がセメント質芽細 ンは、細胞から分泌されて、周囲の も高くなることがわかりました。症 胞や、繊維芽細胞、骨芽細胞に分化 細胞に何らかの司令を伝えるタンパ 例によっては 100%回復することも し、セメント質や歯根膜、歯槽骨を ク質です。歯周組織を作ることを想 あり、歯周組織の再生医療という点 再生していくのです。 定した場合、必要な細胞に司令を伝 で、非常に高い歯周組織再生誘導効 このように、歯周病治療では再生 えるサイトカインは多数あることが 果があることが判明しました。 医療が実用化され、さらに進化した サイトカインを利用した 薬で治療する 再生医療が実用化間近に わかっています。その司令を伝える サイトカインを薬として用いれば、 それをきっかけに再生が加速される ことが期待されます。 歯周組織再生誘導が期待される 幹細胞移植による 再生医療への道 再生医療の模索が行われています。 これまでの歯科医療は、材料科学が 牽引していきましたが、現在は全身 の組織や臓器の一部としての口腔領 私たちは、そうしたサイトカイン もう1つが、幹細胞の移植によ 域を担当する医療という位置づけで、 の中でも、塩基性線維芽細胞増殖 る歯周組織の再生医療です。GTR 今後の歯科医療は、材料科学と生物 因子 FGF-2 に注目しました。FGF-2 法も EMD 法も、私たちが開発中の 学を両輪として発展していくことに には、①血管新生を促進する、②幹 FGF-2 による再生医療も、すべて歯 なるでしょう。 細胞の多能性を維持したまま細胞増 根膜の中にある幹細胞が十分に機能 88 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 第 30 回 歯学 卒業後の進路 国家試験の新卒合格率は約7割 口腔を入り口とする医療職として期待 ただし、必修問題の一部を採点から除外された受験者 にあっては、必修問題の得点について総得点の 80%以上 教育 とする。 歯学部・歯学科の卒業生は、原則として歯科医師にな (5)必要最低点 0領域以下 ることが想定されている。その最大の関門が歯科医師国 (注1) いれば、歯学部6年次の卒業見込み段階で受験できる。 ると、他の問題がどんなに優秀な成績でも不合格になる。 歯科医師国家試験の内容と合格基準について、第 108 気になる合格率だが、第 108 回国家試験は、全体で出 回(平成 27 年)を例に説明すると、一般問題(必修問題 願者数 3,695 人、受験者数 3,138 人、合格者数 2,003 人、 を含む)を1問1点、臨床実地問題を1問3点とし、 合格率 63.8%であった。そのうち、新卒者を見ると、出 願者数 2,525 人、受験者数 1,995 人、合格者数 1,475 人、 (2)領域B(各論Ⅰ~Ⅲ) 127 点/ 185 点 合格率 73.0%となっている。医師国家試験が例年 90% (3)領域C(各論Ⅳ~Ⅵ) 139 点以上/ 205 点 前後の合格率を保っているのと比べて、低い印象を受け <図表1>歯科医師国家試験 国家試験合格率の推移 80.9 78.3 新卒合格率 76.1 67.5 74.2 対出願者数合格率 81.6 81.8 81.4 80.4 69.5 71.0 71.1 71.2 68.9 60 61.4 59.1 50 50.9 30 61.8 第 99 回 (H18) 63.3 63.8 62.9 43.9 46.1 46.2 47.5 54.2 48.4 第 100 回 (H19) 第 101 回 (H20) 第 102 回 (H21) 平成 19 年「歯科医師国家試験制度改革検討部会報告書」を 踏まえて合格基準を見直し(平成 22 年試験から運用) ・新卒受験者の知識、臨床能力等の水準を基本 ・一般問題と臨床実地問題については、内容が近接した領域を統 合して評価(相対基準による評価項目が2→3に変更) *出願者数については、平成 21 年度試験から公表 (注1)第 108 回は平成 27 年1月 31 日、2月1日に実施 47.8 39.9 39.7 第 98 回 (H17) 73.0 55.6 46.5 40 61.9 61.7 73.3 第 103 回 (H22) 第 104 回 (H23) 第 105 回 (H24) 第 106 回 (H25) 第 107 回 (H26) 第 108 回 (H27) 平成 24 年「歯科医師国家試験制度改善検討部会報告書」を 踏まえて合格基準を見直し(H26 年試験から運用) ・各領域ごとの必要最低点の設定 (厚生労働省資料に、第 108 回の国家試験結果を加えて作成) Kawaijuku Guideline 2015.7・8 89 卒業後の進路 80.8 74.6 既卒合格率 再生医療 81.5 80 70 全体合格率 88.0 90 口腔がん (1)領域A(総論) 68 点以上/ 109 点 口腔と全身疾患 禁忌肢問題も設定され、この問題を基準数以上間違え 歯の治療学 (6)禁忌肢問題選択数 2問以下 の土日2日間に わたって実施されるため、順調に大学での学修が進んで (%) 100 入試情報 (4)必修問題 55 点以上/ 68 点 国家試験の新卒合格率は73% 6年間で合格できる人は約半数 家試験だ。国家試験は毎年2月初旬 概説 歯科大学や歯学部は、歯科医師を養成する教育機関だが、 卒業しただけでは歯科医師にはなれない。歯科医師国家試験に合格する必要があり、 合格後に1年間の臨床研修を経てはじめて歯科医師として登録される。 現在、国家試験の合格率は低下傾向にあるが、これまで紹介してきたように、 歯科医師の仕事は大きく変化しつつあり、今後は全身の健康維持に寄与する 医療者としての職務が増加することが予想される。 注目の学部・学科 <図表2>各大学歯学部の国家試験結果 大学名 北海道大学 東北大学 東京医科歯科大学 新潟大学 大阪大学 岡山大学 広島大学 徳島大学 九州大学 長崎大学 鹿児島大学 九州歯科大学 北海道医療大学 岩手医科大学 奥羽大学 明海大学 東京歯科大学 昭和大学 日本大学 日本大学松戸歯学部 日本歯科大学 日本歯科大学新潟生命歯学部 神奈川歯科大学 鶴見大学 松本歯科大学 朝日大学 愛知学院大学 大阪歯科大学 福岡歯科大学 合計 国家試験合格率(新卒) 105 回 H24 年 90.6% 94.5% 90.5% 88.9% 94.6% 79.3% 94.7% 83.3% 88.1% 91.5% 92.0% 80.7% 82.3% 77.4% 67.6% 80.0% 98.4% 82.5% 76.3% 88.6% 87.4% 73.9% 69.3% 81.3% 50.0% 79.1% 83.2% 64.0% 72.6% 81.4% 106 回 H25 年 83.3% 90.9% 87.7% 94.6% 91.2% 85.9% 92.0% 95.3% 82.7% 91.3% 87.5% 96.2% 85.4% 76.3% 59.6% 78.2% 96.9% 81.5% 80.3% 85.9% 81.4% 71.1% 70.3% 76.3% 29.0% 85.0% 77.6% 74.3% 72.2% 80.4% 107 回 H26 年 85.0% 87.8% 78.3% 89.2% 88.9% 92.9% 84.5% 66.7% 90.4% 79.2% 90.0% 82.7% 77.0% 66.7% 33.0% 84.1% 95.1% 78.3% 62.2% 72.3% 67.8% 65.3% 62.0% 58.2% 35.1% 78.2% 70.8% 75.5% 56.5% 73.3% 108 回 H27 年 89.4% 75.5% 84.3% 67.4% 84.6% 87.8% 81.1% 76.7% 81.6% 75.7% 84.3% 87.1% 63.5% 63.8% 38.1% 63.1% 94.0% 79.2% 77.8% 73.0% 65.7% 60.3% 80.0% 66.1% 34.0% 66.3% 69.4% 77.4% 64.6% 73.0% 最低修業年限での 国家試験合格率 (編入学者を除く) 105 回 106 回 107 回 H24 年 H25 年 H26 年 76.7% 70.0% 72.1% 79.3% 85.5% 72.7% 76.8% 87.3% 71.4% 85.0% 72.5% 70.0% 63.3% 70.0% 59.7% 68.4% 78.6% 85.5% 80.0% 72.7% 72.7% 76.0% 92.5% 45.0% 80.7% 69.1% 76.4% 70.0% 68.0% 70.0% 80.0% 82.5% 78.6% 73.7% 75.8% 73.7% 43.8% 47.9% 43.8% 51.3% 46.3% 35.0% 37.8% 41.7% 28.1% 49.2% 53.3% 52.5% 76.6% 75.0% 73.4% 66.7% 68.8% 62.5% 74.2% 66.4% 55.9% 61.7% 53.9% 45.3% 57.8% 53.9% 62.5% 35.4% 37.5% 36.1% 42.9% 44.2% 32.5% 53.9% 57.8% 35.9% 22.5% 8.5% 20.0% 50.8% 55.5% 36.7% 70.3% 69.5% 54.7% 47.7% 53.1% 52.3% 64.6% 62.5% 51.0% 59.7% 59.7% 53.9% (文部科学省資料に、第 108 回の新卒合格率を加えて作成) る。 ここ10 数年間の全体合格率の変化を見ると<図表1>、 平成 19 年あたりから 70%台に下がり、平成 26 年以降は 歯科医師の需給バランスの観点から 国家試験の合格者が減少 60%台前半で推移している。その要因として平成 24 年 こうした状況が生まれる背景は2つある。1つは、歯 に「歯科医師国家試験制度改善検討部会報告書」を踏ま 科医師数抑制政策だ。コンビニエンスストアよりも歯科 えて領域ごとの必要最低点を設定するなど合格基準を見 医院の数が多いといわれて久しいが、平成 27(2015)年 直し、昨年の第 107 回試験から運用を始めたことが挙げ 3月末段階で、コンビニエンスストアが 52,397 店(一 られる。もっとも、新卒者に限れば、70 ~ 80%台の合 般社団法人フランチャイズチェーン協会調べ)に対して、 格率は維持している。 歯科診療所は 68,807 か所(厚生労働省「医療施設動態 大学別の国家試験合格状況については<図表2>とし 調査」)と上回っている。この比較自体にあまり意味はな てまとめた。注意しておきたいのが、最低修業年限の6 いが、歯科医師数の供給が需要を上回っていることを端 年間での合格率だ。文部科学省の資料によれば第 107 回 的に示す例としてよく知られている。 の歯科医師国家試験の合格率は、新卒合格率が 73.3%で 昭和 61(1986)年には「将来の歯科医師需給に関する あるのに対して、最低修業年限合格率(編入学者を除く) 検討委員会」が、新規参入歯科医師を 20%削減すべきと は 53.9%まで下がる。最低修業年限合格率とは、入学し の意見を出し、実際に平成7(1995)年までには歯学部 て6年間で国家試験に合格できた学生の割合(編入学者 の入学定員は 19.7%削減された。また、平成 10(1998) を除く)を示している。 年にもさらに 10%の削減が提言され、平成 26(2014) 年度までに 9.4%の入学定員が削減された。こうして定 90 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 歯学 第 30 回 <図表3>国公立大学、私立大学入試倍率の推移 (倍) 7.0 6.0 5.0 5.7 6.0 5.6 5.1 4.7 2.8 5.3 4.3 4.6 3.8 2.9 2.9 5.2 4.9 4.5 4.0 3.0 5.4 医学科 歯学科 国公立大全体 5.6 5.4 3.1 2.8 2.8 3.5 3.0 2.9 3.0 (倍) 25.0 5.0 4.2 4.2 医学科 歯学科 私立大全体 19.5 20.0 16.4 16.3 16.5 15.0 18.0 15.1 14.8 13.9 14.1 3.8 2.9 2.9 2.9 2.8 18.9 15.3 10.0 2.0 5.0 1.0 0 4.8 4.4 3.5 3.2 H17 18 19 20 21 22 (年度) 23 24 25 26 0 27 H17 18 3.9 3.4 3.3 3.0 19 20 3.5 3.6 3.5 3.3 3.4 1.8 2.0 2.1 2.1 21 22 (年度) 23 24 25 1.9 ※倍率は志願者数/合格者数 ※国公立大は一般入試前期日程、私立大は一般入試のもの 3.3 3.4 2.7 26 3.2 27 (河合塾) 員を少なくする一方で、国家試験の難易度を上げる施策 ような自助努力が欠かせない。とはいえ、留年や休学が が段階的に行われている。その結果、合格率が下落傾向 多い状況に対して、クラス担任制度等を設けてきめ細か にあるのだ。 な支援を行い、国家試験対策に力を入れる大学も増えて もう1つの要因は、歯学部に入学する学生の質の低下 いる。卒業後の進路を考える上でも、学生支援に関する だ。歯科医師数の過剰が知られるにつれ、また、入学定 情報に注目した大学選択を視野に入れておくといいだろ 員の削減に合わせて歯学部の志願者数も減少し、倍率 う。 (志願者数/合格者数)が低下していた<図表3>。理 系学部の学修は、高校での教科・科目の学力を基礎にし て、その上に学びを積み重ねていくことが多く、大学入 約6割が歯科医院を開業 医師と比べて開業医が多い 学後に補習教育や大学教育などで学修を重ねても、6年 国家試験に合格すると、1年間の臨床実習を経て、歯 間で国家試験に合格する力がつかず、留年する学生も多 科医師として診療に携わることができる。臨床研修を経 い。平成 26(2014)年度の歯学部6年次生が、1度で た後は、病院(主として歯学部附属病院等)か診療所に も留年・休学した割合は全体で 36%(国立大学 15%、公 勤務することが想定されている<図表4>。 (注2) 立大学 11%、私立大学 43%)にのぼっている 。 平成 24 年現在の歯科医師数(注3) は 10 万 2,551 人で、 ただ、平成 23 年頃から、倍率にやや上昇傾向もみられ その 97.2%が医療施設で働いている。このうち勤務医と る。医学部の定員が平成 20 年度から増加しているが、そ して病院で働いているのは 12.6%で、残り 87.4%は診療 れを受けて医学部の倍率が上昇傾向であることに刺激さ 所で働いている。しかも診療所従事者のうち、68.6%は れ、同じ医療系である歯学部の倍率もやや回復基調にあ 診療所開設者、すなわち歯科医院を開業している。歯科 る。倍率が高くなれば歯科医師国家試験の合格率が上昇 医師全体では 58.3%が開業医ということになり、医師と するのではないかと期待されている。また、文部科学省 比べて、圧倒的に開業する人が多いのが特徴といえる。 に設置された「歯学教育の改善・充実に関する調査研究 一般の人が病院に行く場合、まず、かかりつけ医に行 協力者会議」の提言に沿った改革が逐次進められつつあ き、さらに詳しい検査や治療が必要なら病院の専門医へ り、教育力向上に向けた取り組みも既に始まっている。 という流れができつつある。医師免許を取得すれば、ど 歯学部を志す学生は、こうした状況を頭に入れた上で、 の診療科でも診療ができるが、高度化が進んだ医療では まずは高校時代の教科・科目の学習をしっかりと行い、大 深い専門性が求められるようになり、専門医制度が充実 学入学後も6年間で国家試験を突破できる実力をつける してきたからだ。しかしその反面、専門医は各学会が認 (注2)平成 26 年5月 文部科学省 医学教育課調べ (注3)平成 24 年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 91 注目の学部・学科 <図表4>歯科医師のキャリアパスについて(イメージ図) 注)H24 医師・歯科医師・薬剤師調査結果を基にイメージ図を作成したものであり、必ずしも正確な 数値を示したものではない (厚生労働省資料) 定するため、能力や質、養成プログラムなどに差がある るが、患者へはあまり認知されていないのが実情だ。 ことも問題視されるようになった。そのため、平成 26 年 これまでは、歯科医院を開業し、むし歯や歯周病の治 に第三者機関である「日本専門医機構」が創設され、平 療にあたるというのが、一般的だった。しかし社会の高 成 29 年度からはこの組織のもとで統一的な専門医認定が 齢化やグローバル化を見据えて、歯科医師の職務は拡大 行われる仕組みに変更されることになっている。 しつつある。口腔がんをはじめとした全身疾患への対応 歯科医師も、歯科、歯科口腔外科、矯正歯科、小児歯科 はもちろん、地域医療を担う訪問診療や口腔ケアなどの のいずれの診療もできるが、開業医が多いという実情か 重要性がさらに増している。 ら、歯科医師1人で歯科全般を担当することが多く、専 このように大きな変化が予想される歯科医療の状況の 門医としてその専門分野だけの診療にあたることは少な 中で、卒業後の進路としての歯科医師の働き方にも大き かった。現在、厚生労働省が認めている専門医は、 「口腔 な変化が生じる可能性がある。これから歯学部をめざす 外科専門医」 「歯周病専門医」 「歯科麻酔専門医」 「小児歯 人は、新たに開発される新しい治療に対応しながら基本 科専門医」 「歯科放射線専門医」だが、このうち1つで 的な診療能力を高めると同時に、新しい歯科医師像の創 も取得しているのは 4.5%(平成 24 年現在)にすぎない。 造に参加することになるだろう。 この専門医以外にも、学会認定専門医と学会認定医があ Column 高齢社会の進展で変わる歯科治療 高齢化の進展に伴い、高齢者の受診患者は増加してお り、現在すでに、歯科診療所の受診患者の3人に1人以 上が 65 歳以上となっている。それに加えて、少子化の影 響、予防歯科に対する国民の意識の変化もあり「新たな 歯科医療需要等の予測に関する総合的研究」(平成 17 年 度厚生労働科学研究)によれば、今後増加が予想される 歯科診療所を受診する推計患者の年次推移 100% 80% 40% 31.7 32.3 33.7 31.3 29.3 27.8 25.8 23.3 9.0 8.6 8.0 11 14 17 20 23 平成 9.4 平成 8.2 平成 9.1 年 年 年 年 62 35.2 33.7 平成 92 Kawaijuku Guideline 2015.7・8 59 35.7 年 (*)歯などが欠けた場合に入れ歯やインプラントなどの人工物で補うこと 14.9 14.2 14.1 11.1 36.7 平成 鑽を積んでいくことも重要であろう。 0% 年 になってもこういった社会の変化に対応できるように研 20% 年 まずは、歯学部に入学することが必要だが、歯科医師 38.8 37.2 20.6 24.0 27.3 29.0 33.8 35.9 平成8年 」(26.8%)である。 35.8 平成5年 存」(30.9%)、「補綴 44.2 41.4 平成2年 (*) 32.1 33.8 昭和 ほ てつ 30.4 昭和 方で減少が予想される分野は、 「小児歯科」 (31.2%) 、 「保 10.5 12.3 13.4 15.9 60% 分 野 として、「 予 防 歯 科 」(15.2 %)、「 イ ン プ ラ ン ト 」 (14.4%)、「高齢者」(11.8%)が挙がっている。その一 ■0 ∼ 14 歳 ■15 ∼ 44 歳 ■45 ∼ 64 歳 ■65 歳以上 (注) 患者調査データ(層化無作為抽出した歯科診療所(約 1,300 施設)において、平 成 23 年 10 月 18、19、21 日の3日間のうち指定した1日を利用した患者から 推計した年齢構成別の推計患者数)を割合にて算出 (出典:患者調査、厚生労働省資料より)