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直角三角形にオイラー

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直角三角形にオイラー
Lecture2
04.5.13 4:56 PM
1998年4月21日
<<第2週,複素数と3次,4次方程式及び高次方程式の解法>>
<記法上の注意>
以下の文中で,a^2はaの2乗を意味する.b_nやb_{n+1}はサブスクリプト(下付文字)がnやn +
1であることを意味する.
<目次>
前回のまとめ
複素数と絶対値
三角関数の導入
指数関数とオイラーの公式
2次元平面内の回転と三角関数の和公式
2次方程式の解法
3次方程式の解法
4次方程式の解法
高次方程式の解法
数値的解法--繰り返し法
<前回のまとめ>
前回,数の拡張(extension)とその多様性(variety)について学んだ。数は,一番広いカテゴリー
(category)にあるものが,実数 R (real number)であり,一般に無理数(irrational number)であ
る。無理数は,そのほとんどが超越数(transidental number)である,その中に比較的たちのいい無
理数,すなわち代数的数(algebraic number)がある。代数的数の中のほんのわずかな数が,
有理数Q (rational number)つまり分数(fractional number)である。分数の中の特殊な数が,
整数Z (integral number or integer) = { ... , -n, ..., -2, -1, 0, 1, 2, 3, ,...n, ...}である。そして最後
に,その中のほんのわずかな正数(positive number, x > 0の数のこと)が自然数 N (natural number) =
{ 1, 2, 3, ...}である。一方,x < 0の数のことを負の数(negative number)という。
以上をまとめると,
N = { 1, 2, 3, ... , n, ...},
Z = { ... , -n, ... , -2, -1, 0, 1, 2, 3, ... , n, ...},
Q = {すべての有理数の集合},
R = {すべての有理数の集合},
であり,その包含(ほうがん)関係は,次のようになる:
R ⊃ Q ⊃ Z ⊃ N , ここでA⊃BはAがBを含むこと,つまり包含すること(inclusion)を意味する。図示すると,以下のよ
うになる。
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<複素数と絶対値>
ユークリッドの時代以来,2次方程式に奇妙な可能性があることが知られていた。それは,しばし
ば,次のような2次方程式が現われることであった:x^2 = -1。これを形式的に解くと,x = ±√(1)となる。つまり,-1の平方根(square root)である。これを,新しい数--虚数(imaginary
number), i と呼んだのが,オイラー(Euler, 1777)である。したがって,i の定義は
i^2 = -1。 (1)
この定義を利用すると,さまざまな虚数を考えることができる。例えば,2i, 3i, 1+ i, 2 + 5i, etc。
一般に,2つの実数a, bを使って,a + b i のような数を考えることができる。この数を数学では,複素
数C(complex number)と呼ぶ。これは, ガウス(Gauss, 1831)による。
C = {すべての複素数の集合} = { z︱ z = x + y i, x, y ∈R }。
さて,一つの複素数zを
z = x + y i (2)
と書こう。ここで,xをzの実部(real part), yをzの虚部(imaginary part)と呼ぶ。z は,x-y 座標
(coordinate)を使って,座標 (x, y)の点(point)として表わすことができる。すると,原点(0, 0)から
点(x, y)への距離rは,ピタゴラスの関係から,
r = √(x^2 + y^2) (3)
で与えられる。このrを複素数zの絶対値(absolute value)と呼び,|z|と書く。つまり,
|z| = √(x^2 + y^2) 。 (4)
例えば,2i の絶対値は,|2i | = 2, 1+ i の絶対値は,|1+ i | = √2である。(4)の関係を図示すると,
以下のようになる。
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このように数の拡張として複素数の集合C を考えると,もっとも一般的な数が複素数C である。そし
て,複素数は実数を特殊な場合として含む,つまり,C ⊃ R 。
<三角関数の導入>
上で述べた座標(x, y)と三角関数の関係を考えよう。一般に,直角三角形があるとピタゴラスの定理
が成り立つ。もし直角をはさんだ2辺の長さをx, yとし,その斜辺の長さをrすると,(3)あるいは r^2 = x^2 + y^2 [i.e., r = √(x^2 + y^2)] (5)
の関係が成り立つ。これを図示すると,以下のようになる。
このとき,rの辺とxの辺ではさまれる角をθ(theta, シータ)と呼ぶと,三角関数,cosine(コサイ
ン), sine(サイン), tangent(タンジェント)を次のように定義する: cosθ = x/r, (6)
sinθ = y/r, (7)
tanθ = y/x。 (8)
(6)と(7)をx, yに対して解くと,x, yの極座標(polar coordinate)表示:
x = r cosθ, (9)
y = r sinθ (10)
が得られる。これらを(5)へ代入すると,
cos^2(θ)+ sin^2(θ) = 1。 (11) すなわち,座標(cosθ, sinθ)は原点からの距離が1にある点の座標である。
(5)は,距離rを固定して,r = 一定で考えると,半径rの円(circle)を記述している。同様に,(11)は
半径1の円を記述している。これを数学では,単位円(unit circle)と呼ぶ。
三角関数の性質(property)は,その周期性(periodicity)である。それらは
cosθ = cos(θ+ 2π), (12)
sinθ = sin(θ+ 2π), (13)
cos(θ+ π) = - cosθ, (14)
sin(θ+ π) = - sinθ, (15)
tanθ = tan(θ+ π) (16)
である。したがって,角θはの0≦θ≦2π領域(region)だけ考えると,その他の領域はこの領域の繰
り返しとなる。この領域のことを,基本領域(basic region)と呼ぶ。ここで,π(pi, パイ)は円周率の
ことである。したがって,
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π = 3.14159265358979323846...。 (17)
これらの関数を,y = cosθ, y = sinθ, y = tanθのように考えて,y- θのグラフを書くと,以下
のようになる。
<指数関数とオイラーの公式>
次に指数関数(exponential function)について学ぼう。指数関数とは,y = 2^x や y = 3^x や y =
(1/3)^x = 3^{-x} のように書ける関数のことである。つまり,aをある正の定数(constant)とする
と,
y = a^{±x}, (18)
のように書ける関数のことである。それらの中で,
a = e = 2.71828... (19)
となる特別な場合を指数関数と呼ぶ。つまり,
y = e^{±x} (20)
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の場合である。指数関数は次の性質を持っている:
e^{x+y} = e^x e^y 。 (21)
例えば,e^1 = e = 2.71828..., e^2 = (2.71828...)^2 = 7.38906..., etc。指数関数を図示すると,以
下のようになる。
この指数のところに,複素数を入れたらどうなるか考えたのが,オイラーである。仮に(20)のxにx
= iθを代入したらどうなるだろうか?彼は次のような関係(relation)--恒等式(identity)を発見した:
e^{±iθ} = cos θ ± i sinθ。 (22)
これをオイラーの公式と呼ぶ。
<2次元平面内の回転と三角関数の和公式>
このオイラーの公式を使うと,x-y平面(plane)上の点(x, y)を複素数zで表わすことができる。例え
ば,(22)の+の方を使い,両辺にrを掛けると,
r e^{iθ} = r cos θ + i r sinθ (23) が得られる。そして,x = r cos θ, y = r sinθであり,z = x + i y と定義しているから,結局,
z = x + i y = r e^{iθ} (24) が得られる。これを,x-y平面上の点(x, y)の複素(数)表示と呼ぶ。そして,こうして得られるx-y平
面のことを,複素平面(complex plane)呼ぶ。
これを使うと,点(x, y)を角φ(phi, ファイ)だけ回転して得られる別の点(x', y')を,その複素表示z'
= x' + i y'と書ける。このとき,(23)と(24)の定義から,
z' = x' + i y' = r e^{i(θ+φ)} = r[ cos (θ+φ) + i sin(θ+φ)]。 (25)
これより,
e^{i(θ+φ)} = cos (θ+φ) + i sin(θ+φ) (26)
を得る。 この左辺は,e^{i(θ+φ)} = e^{iθ}e^{iφ} となるから,(22)を使うと,
e^{i(θ+φ)} = e^{iθ}e^{iφ} = (cos θ + i sinθ)(cos φ + i sinφ)
= cos θcos φ+ (i sinθ) cos φ + cos θ(i sinφ) + (i sinθ)(i sinφ)
= cos θcos φ+ i (sinθ cos φ + cos θ sinφ) + i 2 sinθ sinφ
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= (cos θcos φ - sinθ sinφ) + i (sinθ cos φ + cos θ sinφ), (27)
ここで i^2 = -1を使った。これと(26)を比較すると,結局,次の三角関数の和公式が得られる:
cos (θ+φ) = cos θcos φ - sinθ sinφ, (28)
sin(θ+φ) = sinθ cos φ + cos θ sinφ。 (29)
そして,これらから,
tan(θ+φ) = (tanθ + tanφ)/(1- tanθtanφ) (30)
が得られる。
このように,オイラーの公式を使うと三角関数の基本的性質を簡単に得ることができるのである。つ
まり,三角関数の性質は,2次元の回転と結び付いていることを発見したのである。
<2次方程式の解法(中学高校のテーマ)>
今度は,
a x^2 + b x + c = 0; a, b, c ∈R (31)
を解くことを考えてみよう。これが仮に次のように因数分解できたとしよう:
a x^2 + b x + c = a{x^2 + (b/a) x + (c /a)} = a(x - α)(x - β)。 (32)
このとき,右辺を再び展開(expand)して両辺を比べると,
α + β = -b/a, αβ = c/a。 (33)
これを根(root)[あるいは,解(solution)]と係数(coefficient)の関係と呼ぶ。
一方,直に(32)を因数分解して分かるように,
α= {-b + √(b^2 - 4ac)}/(2a), (34)
β= {-b + √(b^2 - 4ac)}/(2a)。 (35)
ここでαとβは(31)の根であるから,当然,αとβは(31)を満たす。つまり,
a α^2 + b α + c = 0, (36)
a β^2 + b β + c = 0。 (37)
解の性質は,判別式(discriminant)Dよって行われる。もしD > 0なら,αとβはともに実数の解で
ある,もしD = 0なら,α=β= -b/(2a),そしてもしD < 0なら,αとβはともに複素数の解である。
以上は,これからさらに高次方程式の解を考えていくときの鍵(key)となる。
<3次方程式の解法>
2次方程式の解は,ギリシャ時代から始まり,以後ずっと中世まで続いた。一方,3次方程式の解を
求める試みは,やっと9世紀以後の中世のアラビアで発展し,後にアラビアからヨーロッパ,イタリア
へ伝わった。[この辺の歴史は,山下純一著「ガロアへのレクイエム」(現代数学社)に詳しい。] そし
て最終的にカルダノ(Cardano)によって1539年に解かれた。
さて,まず次の一般形の3次方程式を考えよう:
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a x^3 + b x^2 + c x + d = 0, a ≠ 0。 (38)
まず最初に分かることは,
x = y - b/(3a) (39)
とすると,(38)はもっと簡単な形の3次方程式:
y^3 + p y + q = 0, (40)
p = -{(b/a)^2 - 3(c/a)}/3, (41)
q = {2(b/a)^3 -9(bc)/a^2 + 27(d/a)}/27。 (42)
したがって,いつも(40)のような3次方程式を考えれば良いことになる。
(40)を解く方針は,何とかして(40)の3次方程式の解を2次方程式の解を求めることに帰着できる
か考えることである。初めてこれに気付き完全な答えを与えたのが,カルダノであった。まず
y = u + v (43)
を(40)へ代入し,
(u + v)^3 = u^3 + 3u^2 v + 3uv^2 + v^3 (44)
の展開公式を使うと,結局
u^3 + v^3 + 3(uv + p)(u + v) + q = 0 (45)
を得る。これを満たすように
u^3 + v^3 = - q, (46)
uv = - p/3 (47)
と取る。(47)を3乗すると,u^3とv^3 は2次方程式の解と係数の関係から,次の2次方程式:
t^2 - q t - p^3/27 = 0 (48)
の解となる。2次方程式の解の公式(34)と(35)を使って,それらは次のように得られる:
u^3 = - q/2 + √R, (49)
v^3 = - q/2 - √R, (50)
R = q^2/4 + p^3/27。 (51)
これらの3乗根を求めると,u, vが得られる:
u = (-q/2 + √R)^{1/3}, (52)
v = (-q/2 - √R)^{1/3} 。 (53)
このu, vを掛けるとuv = (-p^3/27)^{1/3}となるが,1の3乗根,1^{1/3},には3種類の可能性があ
る。これは1の平方根には,1 と -1 の2種類があるのと同様である。一般に,1の3乗根をωと書き,
次を満たす:
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ω = e^{i2π/3}, ω^3 = 1。(54)
このωを使うと,uとvの足し算の組み合わせには,u+v,ωu+ω^2v,ω^2u+ωvの3種類あって,そ
れらが元の3次方程式の3つの解となる。結局,(40)の3つの解は,
y_1 = u + v,
y_2 = ω u + ω^2 v ,
y_3 = ω^2 u + ω v。 (55)
これがカルダノの公式である。これ以外にも現在までにさまざまな解法が得られている。
解と係数の関係を考えて見よう。(38)を
a x^3 + b x^2 + c x + d
= a (x -x_1)(x -x_2)(x -x_3) (56)
のように因数分解できたとすると,この場合も解と係数の関係が得られる。(56)の右辺を展開して,x
の係数を比較して,
x_1 + x_2 + x_3 = -b/a,
x_1 x_2 + x_1 x_3 + x_2 x_3 = c/a,
x_1 x_2 x_3 = -d/a。 (57)
<4次方程式の解法>
次に4次方程式:
x^4 + a x^3 + b x^2 + c x + d = 0 (a, b, c, d ∈ R ) (58)
を解くことを考えよう。
まず,2, 3次方程式の時のように,4次方程式の解と係数の関係を考えよう。(58)が次のように因
数分解できたとする:
x^4 + a x^3 + b x^2 + c x + d = (x -x_1)(x -x_2)(x -x_3)(x -x_4)
。 (59)
この右辺を展開し,両辺を比較すると,次のような解と係数の関係を得る:
x_1
x_1
x_1
x_1
+ x_2 + x_3 + x_4 = -a,
x_2 + x_1 x_3 + x_1 x_4 + x_2 x_3 + x_2 x_4 + x_3 x_4 = b,
x_2 x_3 + x_1 x_2 x_4 + x_1 x_3 x_4 + x_2 x_3 x_4 = -c,
x_2 x_3 x_4 = d。 (60)
(58)の第2項(term)は,次の変換 (transformation):
x = y - a/4 (61)
によって消すことができる。これを(58)に代入すると,
x^4 + p x^2 + q x + r = 0 (62)
の形の4次方程式を得る。
4次方程式を解く方針は,何とかして4次方程式を解く代わりに3次方程式を解くことに帰着する
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(reduce)ことである。そして3次方程式の解の公式を使えるようにすることである。まじめにこの全
部を行うことは,1ヵ月以上を要する時間が必要なので,ここでは,日本の大数学者,飯高茂が高1の
時に発見したという伝説のある方法を述べるに留める。しかし,最初にこの問題を解決したのは,フェ
ラーリ(Ferrari, 1522-1565)である。
次の恒等式がある:
(x+y+z+u)(x+y-z-u)(x-y+z-u)(x-y-z+u)
= x^4 + y^4 + z^4 + u^4
-2(x^2 y^2 + x^2 z^2 + x^2 u^2 + y^2 z^2 + y^2 u^2 + z^2 u^2)
+ 8xyzu。 (63)
これを(62)と比べると,p, q, rは次のようになる,
p = -2(y^2 + z^2 + u^2),
q = 8yzu,
r = y^4 + z^4 + u^4 -2(y^2 z^2 + y^2 u^2 + z^2 u^2)。 (64)
仮にこの関係を満たすy, z, uが得られたとすると,(63)がゼロになるには,
x_1
x_2
x_3
x_4
= - y - z - u,
= - y + z + u,
= y - z + u,
= y + z - u (65)
が解になればいいということである。そこで
y^2 + z^2 + u^2 = -A = -p/2,
y^2 z^2 + y^2 u^2 + z^2 u^2 = B = -(p^2/16 - r/4),
y^2 z^2 u^2 = -C = q^2/64 (66)
と書くと,3次方程式の解と係数の関係(57)を使うと,y^2, z^2, u^2 は次の3次方程式の解となる:
t^3 + A t^2 + B t + C = 0。 (67)
この3次方程式の解をt_1, t_2, t_3とし,y^2 = t_1, z^2 = t_2, u^2 = t_3 となる。これをそれぞ
れy, z, uに対して解くと,y = ±√t_1, z = ±√t_2, u = ±√t_3 となる。これを(64)の第2式に合
わせるように符号を取る。そして,最後にこれらを(65)に代入して(62)の4つの解:
x_1
x_2
x_3
x_4
= - √t_1 - √t_2 - √t_3,
= - √t_1 + √t_2 + √t_3,
= √t_1 - √t_2 + √t_3,
= √t_1 + √t_2 - √t_3 (68)
を得る。
<高次方程式の解法>
以上で,4次方程式までの解法について学んだ。そこでの方針は,一つの高次方程式の解を求めるこ
とを一つ次数(order)の低い高次方程式の解を求めることに帰着することであった。では,いつでもこ
のアイデア(idea)は使えるのだろうか?そして,どんな次数の高次方程式にも解の公式が存在するのだ
ろうか?この問題を解くことが,前世紀の重要な問題であった。
この問題に最終的な答えを与えたのが,アーベル(Abel, 1802-1829)とガロア(Galois, 1811-
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1832)であった。この2人は正真正銘の天才で,ともに20歳代で亡くなった。アーベルは研究が認め
られるようになる直前に貧困と共に28才で病死した。ガロアは,7月革命後の動乱期に体制側の死客
との決闘で21才で死んだと言われている。その決闘の前の晩に徹夜して,それまでの自分の研究の概略
を友人への手紙として残した。それが現在われわれがガロア理論と呼んでいる数学である。アーベルと
ガロアの理論は,今なお現代数学の中の最も重要かつ深い理論として主要な地位を占め,今現在活発に
研究されている。
彼等の理論は数学や物理学の博士課程レベルの学生でも理解することが難しいので,彼等の理論の説
明はしない。ここでは,主要な結果だけを述べる。結論は,「n ≧ 5の高次方程式には,一般の解の公
式は存在しない」ということである。しかし,特別な場合には,解の公式は存在する。
以下で,一般的に言えることとその特別な場合だけ説明する。まず,次のn次方程式を考えよう:
x^n + a_1 x^{n-1} + a_2 x^{n-2} + ... + a_n = 0。 (69)
この式に,n個の解,x_1, ... , x_n (これらは一般に複素数である)があるとすると,一般に(69)は次の
ように因数分解できる:
x^n + a_1 x^{n-1} + a_2 x^{n-2} + ... + a_n = (x - x_1)(x - x_2)...(x - x_n)。 (70)
これはいつも正しい。このように,高次方程式がいつも解を持つことを「代数学の基本定理」と呼ぶ。
これを最初に証明したのが,ガウス(Gauss, 1777-1855)である。ここで,注意することは,「解を持
つこと」と「解の公式を得ること」は違うということである。アーベルとガロアの言っていることは,
5次以上の高次方程式の解はあるけれども,その公式は原理的に存在しないということである。
(70)の右辺を展開し,両辺を比較して,解と係数の関係が得られる:
x_1
x_1
... ,
x_1
x_1
+ x_2 + ... + x_n = -a_1,
x_2 + x_1 x_3 + ... + x_{n-1} x_n = a_2,
x_2 ...x_{n-1} + ... + x_2 x_3 ... x_n = (-1)^{n-1} a_{n-1},
x_2 ... x_n = (-1)^n a_n 。 (71)
左辺の形の式を数学では,基本対称式(fundamental symmetric polynomial)と呼ぶ。というのも,
任意の2つのx_iとx_jの入れ替えに対して,これらの式は形を変えない,つまり,対称だからである。
また,次のn次方程式:
x^n = 1 (72)
の解の公式は得られている。この解を1のn乗根と呼び,次のように与えられる:
x_k = e^{i2πk/n} ( 0 ≦ k ≦ n-1)。 (73)
つまり,x^n - 1は
x^n - 1 = (x - x_0)...(x - x_k)...(x - x_{n-1}) (74)
のように因数分解できるということである。複素座標表示で書くと,点x_k ( 0 ≦ k ≦ n-1)は,単位
円周上にある,正n角形の頂点の座標を与えている。したがって,それらを図示すると,以下のように
なる。
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<数値的解法--繰り返し法>
今度は,次の高次方程式:
f(x) = x^n + a_1 x^{n-1} + a_2 x_{n-2} + ... + a_n
= (x - x_1)(x - x_2)...(x - x_n) = 0 (75)
の解を計算機等で数値的に求める方法を学ぼう。この種の実際的な方法は,ニュートンの時代から知ら
れていて,コンピューターの発達した現代になって活発に利用されるようになった。
今我々は,(75)式の真の解,x = x_k (1≦ k ≦ n)を知らない。そこで,仮にそれらの解の一つをx
= x*と書こう。その近くで,まったく適当に2つの値(value),x = x_0,x = x_1を x_0< x* <
x_1となるように取る。このとき,必ず
f(x_1) > 0, f(x_0) < 0 [f(x_1) < 0, f(x_0) > 0] (76)
となる。これを図示すると,以下のようになっている。
そして,x_0とx_1の平均値(mean value):
x_c = (x_0+ x_1)/2 (77)
を考える。そこで,今度はこれを(75)に代入してみる。もし,
f(x_c) > 0 (< 0) (78)
なら,そのとき,x_c を新しくx_1(x_0)と考えてまた同じことをする。以後これをどんどん繰り返し
て行くと,x_0あるいはx_1はどんどん真の値に近づいていく,すなわち収束する(converge)。つ
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まり,x*_0, x*_1, x*_2, x*_3, . . .を得る。これらの近似的な答えを,x*の近似値(approximant)
と呼ぶ。そして,他の解に対しても同じようにして順次探し求めていく。
この方法を繰り返し法(recursive method)と呼ぶ。数値計算の基本的アイデアはみんなこれと同じ
ことである。
<Home Work Set #2>
1) a) 2 + 5i の絶対値を求めよ。
b) そのときのtangentは何か?
2) cos(π/3), sin(π/3), tan(π/3)を求めよ。
3) e^{±iπ/4}の複素表示を求め図示せよ。
4) (38)に(39)を使って,(40), (41), (42)を確かめよ。
5)1の5乗根を求めて,複素平面上に作図せよ。
6) (63)の恒等式を証明せよ。
7)f(x) = x^2 - x - 1とする。このとき,f(1) < 0, f(2) > 0であることがわかる。x_0= 1, x_1 = 2
として,繰り返し法によって,真の値の3桁までの近似値を求めよ。
<Home Work Set #1の解答>
1) 次の数列の一般項a_nを求めよ。
1, 2, 6, 24, 120, ... , a_n, ...
答え)
a_n = 1×2×3×....×n = n!。
このn!のことをnの階乗(factorial)と呼ぶ。
2) 次の和を与える公式を求めよ。
S_n = 1 + 2 + 3 + ... + n。
答え)
2S_n = (1 + 2 + 3 + ... + n)
+ (1 + 2 + 3 + ... + n)
= (1 + 2 + 3 + ... + n-2+ n-1+ n)
+ (n + n-1 + n-2 + ... + 3 + 2 + 1)
= (n + 1) + ... + (n + 1)
= n(n+1).
結局,S_n = n(n+1)/2。
3) 55/29の連分数展開を求めよ。
答え)
55/29 = [1, 1, 8, 1, 2]
= 1 + 1/(1+1/(8+1/(1+1/2)))。
4) 次の連分数展開はどのような2次方程式の解か?
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2 + 1/(2 + 1/(2 + 1/(2 + ...)))。
答え)
x = 2 + 1/(2 + 1/(2 + 1/(2 + ...)))と置く。すると,x = 2 + 1/xを得る。両辺をx倍して,
x^2 = 2x + 1。
5) 9x^3 + 10x^2 + 7x +1をx^2 + 2x - 3で割ったときの,商と余りは何か?
答え)
9x-8
--------------------------------x^2 + 2x - 3 ) 9x^3 + 10x2 + 7x + 1
9x^3 + 18x2 -27x
---------------------------------8x^2 + 34x + 1
-8x^2 - 16x + 24
-------------------------------50x - 23
それゆえ,
(9x^3 + 10x^2 + 7x + 1)/(x^2 + 2x - 3)
= 9 x - 8 ...... 50x - 23。
すなわち,
9x^3 + 10x^2 + 7x + 1 =
(9 x - 8)(x^2 + 2x - 3) + (50x - 23)。
つまり,商は9 x - 8,余りは50x - 23。
6) 次の式x^2 - 3xy + 5y^2を因数分解せよ。
答え)
x^2 - 3xy + 5y^2 = (x - ay)(x - by)と書いて,右辺を展開すると,a + b = 3, ab = 5を得る。した
がって,a, bは2次方程式,t^2 - 3t + 5 = 0の解である。これを解くと,t = [-3 ±√(-11)]/2。ゆ
えに,
x^2 - 3xy + 5y^2 = {x -y[-3 +√(-11)]/2}{x -y[-3 -√(-11)]/2}。
7)(a) 次の数列:2, 2, 4, 6, 10, 16, 26, 42, . . . の一般項A_nを求めよ。
(b) n -> ∞のときの比A_n/A_{n-1}を求めよ。
答え)
(a) 一般に,A_{n+1} = A_{n-1} + A_n (1)と初期条件A_0 = 1, A_1 = 2 (2)が成り立つ。A_n =
r^n と書こう。これを(1)に代入すると, r^2 = r + 1が得られる。これを解くと,r_{±} = (1 ±√
5)/2。したがって,独立な2つの解(r_{±})^n が得られる。これらをもとに,一般解は2つの定数a, b
として,An = a(r_{+})^n + b (r_{-})^n (3)と書ける。これに初期条件をあてはめると,A_0 = a +
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b = 2 (4) ; A_1 = a r_{+} + b r_{-} = 2 (5)。(4)と(5)をaとbに対して解くと,a= 2(1 - r_{-})/(r_
{+} - r_{-}) = 2(1- r_{-})/√5 = 2r_{+}/√5, b= 2(r_{+} - 1)/(r_{+} - r_{-}) = -2r_{-} /√5 。
ここで,r_{+} + r_{-}= 1使った。結局,A_n = 2{( r_{+}/√5)(r_{+})^n + (-r_{-} /√5)(r_{-})^n
} = 2[(r_{+})^{n+1} - (r_{-})^{n+1}]/(r_{+} - r_{-}) = 2[(r_{+})^{n+1}- (r_{-})^{n+1}]/√5 (6)と
なる。
(a) A_n/A_{n-1}
= [2(r_{+})^{n+1} - (r_{-})^{n+1}]/√5]/ [2((r_{+})^n - (r_{-})^n)/√5]
= [(r_{+})^{n+1} - (r_{-})^{n+1}]/ [(r_{+})^n - (r_{-})^n]
= r_{+}{(1 - ( r_{-}/r_{+})^{n+1})/ (1 -( r_{-}/r_{+})^n)}.
r_{-}/r_{+} < 1であるから,(r_{-}/r_{+})^{n+1} < (r_{-}/r_{+})^n
< 1,そして n -> ∞のとき,( r_
{-}/r_{+})^n -> 0。したがって,
lim_{n -> ∞} A_n/A_{n-1} = r_{+} = (√5 + 1)/2。
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