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LNG FPSO:Shell の受注者が決定、その他現況

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LNG FPSO:Shell の受注者が決定、その他現況
更新日:2009/8/17
調査部:大野 泰伸
LNG FPSO:Shell の受注者が決定、その他現況
各種報道をもとに作成
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Shell が計画を進めてきた LNG FPSO の基本設計の受注先が決定した。今後 1 年半ほどの基本設計
の後、最終投資判断が行われるが、LNG FPSO による開発対象となるガス田を保有する Shell だけ
に、今後の動向が注目される。
最近の国際会議等で議論されている、LNG FPSO の液化/貯槽/出荷等の設備に関するトピックス
を紹介する。
昨今、LNG 液化プラントの建設以上に LNG 船の建造が進められており、今後一部余剰となることが
見込まれる LNG 船をコンバージョンし、LNG FPSO とすることが検討される。
金融危機下における LNG FPSO の資金調達では、上流や下流も含めた強力なチェーン構築が不可
欠である。
1. Shell の LNG FPSO 基本設計の受注者が決定
2009 年 7 月 28 日、Shell が昨年より入札をかけていた、LNG FPSO の FEED(Front End Engineering
Design:基本設計)業務の受注者が決定した。エンジニアリング会社/造船会社の 3 コンソーシアムのう
ち、受注者は Technip(仏)と Samsung Heavy Industries(韓)のコンソーシアムで、LNG 年産 350 万トンの
LNG FPSO の FEED を行う。この他、15 年間にわたって複数基の LNG FPSO に関する設計、建造、設
置を行う基本契約にも調印している。
今回、具体的な開発対象のガス田は公表されていないが、かねてより豪州沖合の Prelude ガス田がタ
ーゲットとして挙げられており、まずは Prelude 向けの FEED が行われると思われる。また、各種報道では
エジプトやナイジェリア沖合ガス田、イラクの随伴ガスもターゲットとされているが、詳細は明らかではな
い。Shell は”design one – build many“とのコンセプトでジェネリックデザインの LNG FPSO 建造を掲げて
いる。厳密には、不純物除去等の前処理設備や製品 LNG の発熱量調整のための蒸留設備等、ガス田
毎に異なるガス性状や LNG 市場の仕様に合わせた設計が必要となるが、今回のように複数基の建造を
視野に入れている場合、極力共通設計を行うという観点では理にかなったもの言える。
原料ガスの条件変更に対して、冷媒の成分を調整することである程度柔軟に対応可能な DMR
(Double Mixed Refrigerant)方式の液化プロセスが採用されると見られており、「ジェネリック」での対応範
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
囲を広げる一因になると考えられる。Prelude ガス田は、計画されている 12 坑の探鉱井掘削が 2009 年 8
月に完了する予定であるが、ガス埋蔵量は 2~3Tcf 程度とみられている。液化プラントにおいて通常の
20 年程度の生産期間を想定すると、今回の 350 万トンの生産規模に対してガス埋蔵量がやや不足する
可能性があるが、期間を短縮して 15 年程度で生産し、ジェネリックデザインの特性を活かして他のガス
田へ移動させられることを勘案すれば、水深が約 250m と浅く、上流コストが比較的抑制可能な Prelude
ガス田は、初の LNG FPSO による開発に適したものといえる。
出所:Shell プレスリリース
図 1 Shell の LNG FPSO イメージ
2.LNG FPSO の技術関連トピックス
LNG FPSO 技術に関連して、最近の国際会議等で取り上げられているトピックスを紹介する。
(1) プラントレイアウト
LNG 液化プラントでは、液化設備の前段で、原料ガスの受入・計量設備、CO2 や H2S 等の酸性ガスや
水分、水銀等の不純物を除去するための前処理設備がある。メインとなる液化設備で原料ガスが液化さ
れて LNG となった後、LNG 貯槽で貯蔵されて運搬用の LNG 船へと出荷される。
複数の LNG FPSO プロジェクトで、Pre-FEED あるいは特定のガス田を対象とせず一般的な条件での
FEED が既に行われている。LNG FPSO では浮体上という限られたスペースとなるため、プラントの設置
面積は設計上の重要な要素の一つとなる。メインとなる液化設備の設置スペースが最大となるが、前処
理設備で必要となるスペースも多い。ガス田によってガス性状は異なるため、ジェネリックな設計では
LNG FPSO の仕様を確定することができず、各ガス田に固有の設計が浮体を含めた全体設計に大きく
影響を及ぼす。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
(2) 前処理設備
前処理設備には、酸性ガス除去、水分除去、水銀除去等が含まれる。いずれも、洋上の動揺環境下
にあっても、必要スペックにまで除去するプロセスの提供には、既存 FPSO の実績等も踏まえて支障は
ないと見られている。酸性ガス除去では、原料ガス中の含有量に応じて化学吸収(吸収液との化学反応
により除去)、物理吸収(高圧下で有機溶剤に酸性ガスを吸収)+化学吸収が用いられるが、極低温の
LNG プラントでは液化設備で許容される酸性ガス含有量の条件は既存の FPSO と比べて厳しい。陸上と
異なり LNG FPSO においては設備の揺れを伴うため、例えば化学吸収で吸収塔に導入されるアミン水
溶液の吸収液が、原料ガスとの間で均一に化学反応が進まないことが考えられる。このため、陸上プラ
ントの場合と比べて吸収塔や投入する吸収液を増加し、酸性ガス除去量にアローワンスを持たせること
が提案されている。
(3) 液化設備
陸上の液化プラントでは、原料ガスの予冷にプロパン冷媒を用い、液化・過冷却に混合冷媒を用いる
プロパン予冷混合冷媒(C3MR: Propane(C3) pre-cooled Mixed Refrigerant)が主流であるが、冷媒に大
量のプロパンが必要となる。プロパンは漏洩・爆発時の爆圧が高くなるため、LNG FPSO 向きではない。
LNG FPSO では、プロパン保有量を削減可能な DMR 方式や、そもそも可燃性流体を使用しない窒素エ
キスパンダ方式が検討されている。混合冷媒を用いる方が高効率であるが、設備が複雑で CAPEX が高
くなる。一方、窒素エキスパンダは効率は劣るが、設備がシンプルで設置面積も比較的小さく、そもそも
窒素冷媒は不活性であるため安全性が高い。どのプロセスを選定するかは、プロジェクト毎に海域条件、
プラントレイアウト、ライフサイクルコスト等を踏まえて判断することとなるが、概ね、300 万トン以上の大型
の場合は効率を優先して DMR 方式、200 万トン以下の比較的小規模の場合は窒素エキスパンダ方式、
それらの中間では予冷サイクルを持たず混合冷媒 1 系列のみを用いる SMR(Single Mixed Refrigerant)
方式、という傾向がある。窒素エキスパンダでは、トレインあたりの液化容量が 100 万トンに満たないため、
LNG FPSO の液化容量に応じて複数トレインが必要となる。冷媒である窒素は常に気体となっているた
め、揺れを伴う熱交換器内でも偏流やその結果として熱負荷等を起こしにくいが、気体であるためプロセ
ス配管の口径が太くなる。窒素エキスパンダ方式が比較的小規模での採用に限られるのは、大規模で
は複数トレインが必要となって機器数やその設置スペースが増加し、またプロセス配管のスペースが確
保できなくなることなどによる。
(4) LNG 貯槽
LNG 貯槽としては、主に小規模 LNG FPSO に限定されるモス型を除くと、メンブレン型もしくは独立方
形タンクタイプ B(SPB:Self-supporting Prismatic tank IMO type B)のいずれかが選択される。ここでの対
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
応課題はスロッシング対策である。スロッシングとは、浮体の揺れと、タンク内の LNG 液面の揺れとが同
調し、タンク内面に過大圧がかかることをいう。特に中間液位では圧力が大きくなるため、メンブレン型の
LNG 船では積み付け制限がかかる。これに対し、LNG FPSO では洋上において任意の液位で操業する
こととなるため、スロッシングを引き起こさないタンク形状が必要となる。
メンブレン型でのスロッシング対策として、通常の LNG 船が 1 列のカーゴタンクであるのに対し、カー
ゴタンクを2列に分け、波立ちを抑えることが提案されている。LNG FPSOへのメンブレン型タンクの採用
検討をしている造船メーカやメンブレンタンクのライセンスを提供する GazTransport & Technigaz らが、
各種の試験を繰り返し実施し、メンブレン型の適応性確認に努めている。現時点では、特に動揺のレベ
ルが大きくなる比較的中小規模の LNG FPSO に対しては、メンブレン型よりも SPB 型を採用する傾向が
みられる。動揺が抑えられる大型LNG FPSO ではメンブレンの選択もある。SPB 型は LNG 船での採用実
績は少ないものの、条件的に厳しいアラスカ航路で運航され、タンクが損傷した実績はない。タンク内部
に緩衝用の骨材を取り付け可能であり、スロッシングに対する信頼性が高い。コスト面で比較すると、
LNG 船向けとしては、メンブレン型の方が安価と言われる。しかし LNG FPSO 向けに 2 列配置とすると、
タンクの鋼材・断熱材・船体保護のヒーティング設備等が追加となり、コストアップとなる。一方、SPB 型は
ライセンサである IHI が溶接作業の自動化を含む建造・供給体制を整え、コスト削減を図っている。実際
にどちらが安価となるかは不明であるが、LNG FPSO 向けにはコスト面で大きな差はないとも考えられ
る。
(5) LNG 出荷設備
数ある LNG FPSO 計画のいずれも、LNG FPSO と LNG 船を横付け(Side-by-side)し、ローディングア
ームを介して出荷することで検討が進められている。陸上基地と LNG 船との間で使用されるローディン
グアームは信頼性が高く、実績も豊富である。ただし、機械的な可動限界から、LNG FPSO では静穏な
海域での使用に限定される。LNG FPSO のサイズや設置海域の気象海象条件等にもよるので一概には
言えないが、概ね有義波高2~2.5m程度までがローディングアームを介したSide-by-side での出荷の限
界とみられる。ただし、これは既にローディングアームを接続済みで LNG 出荷中に対応可能な条件であ
り、LNG 船を着船させる際にはより穏やかな条件が必要となる。将来技術として、タンデム(浮体同士を
縦列)配置にした、エアリアルホースあるいはフローティングホースによる出荷への期待は高い。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
3. LNG 船のコンバージョン
LNG FPSO は、陸上 LNG 液化プラントと比較して相対的に規模が小さいものの、陸上の場合のように
現場に数多くの建設従事者を集める必要がなく、モジュール化して建設したプラントを造船所で浮体上
に組み上げられること等から、陸上よりも単位 LNG 生産量あたりの CAPEX が下がることが期待されてい
る。とは言え、数千億円規模の投資が必要であり、コスト低減は望まれる。これに対して、建造あるいはオ
ーダー中を含めた LNG 船の総容量はこの数年で大幅に増加し、結果として一部余剰となることが見込ま
れることから、中古の LNG 船を LNG FPSO に改造する構想が挙がっている。LNG 船では、コストダウン
を目的として、1 隻あたりの容量の大型化が進んでおり、中古船となる数十年前の LNG 船では貯槽容量
が現在の標準サイズと比べて小さくなる。その分、LNG液化容量も小さくせざるをえない。また、デッキ上
にプラントを搭載することを想定して建造されているわけではないので補強が必要であったり、そもそも
モス型LNG 船の場合にはデッキスペースが限定されたりすることからも、比較的小規模の LNG FPSO向
けになるものと考えられる。LNG は非腐食性流体であり、定期的なメンテナンスが行われる LNG 船は、
中古であっても状態は良いと言われる。ただし、LNG FPSO へ改造してこの先 20~30 年の操業に耐えう
るかどうかの判断は難しく、10 年程度の比較的短期間での操業を想定すると、中古船の買い取り額や補
強等の改造費を最小限に抑えることが求められる。
液化プラント
容量(左軸)
LNG 船
容量(右軸)
出所:各種情報をもとに JOGMEC 作成
図 2 LNG 液化プラントと LNG 船の容量の変遷
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
4.LNG FPSO の資金調達
2008 年をピークに鋼材費は下落傾向であるものの、依然として高い水準にあり、期待されたほど大
幅な建設コスト削減には繋がっていないのが現状である。数千億円規模の投資を要する LNG FPSO
に対して、現在の金融危機の状況下で適切な資金調達が可能なのか、懐疑的な見方もあろう。真相
は測りかねる面もあるが、各プロジェクト推進者は資金調達の面で苦慮している様子はない。貸手で
ある銀行団側としても、全体の貸付額が下がってはいるものの、石油ガス関連、特にそのうちでも優良
な案件には積極的な融資を考えている模様である。とは言え、LNG FPSO では CAPEX の大きさや動
揺環境への技術対応の必要性などからコストオーバーランすることもありうるため、財務的に優れたス
ポンサー企業の存在、また確実な LNG 販売によるコスト回収のため信頼できる LNG 買主の存在が重
要視されている。確実な原料ガスも含め、上流、中流、下流の LNG チェーン全体を陸上プラント以上
に強固なものとすることが、LNG FPSO では求められる。
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