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天然ガス需給動向と電気事業者の燃料調達・上 流進出戦略

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天然ガス需給動向と電気事業者の燃料調達・上 流進出戦略
電力中央研究所報告
経
営
天然ガス需給動向と電気事業者の燃料調達・上
流進出戦略
−欧米の電気事業者のケーススタディー−
キーワード:電気事業者,天然ガス,燃料調達,上流事業,ガス事業
背
報告書番号:Y10008
景
近年、エネルギー価格の高騰や、新興国の経済発展に伴うエネルギー需要の急増等、
我が国のエネルギー・セキュリティーへの影響が懸念される話題が多い。大量の化石燃
料を利用する電気事業者にとっても、安定的な燃料調達は重大な経営課題である。中で
も上流権益の取得は安定的な燃料調達の一つの手段と考えられているが、近年、欧米の
電気事業者がガスの上流事業に進出する事例が見られるようになった。
目
的
化石燃料の中でも今後重要性が増すと思われる天然ガスに着目し、近年の需給動向を
確認する。その上で、安定的燃料調達と上流戦略に関して、欧米の電気事業者の事例を
元に、我が国の電気事業者にも適用しうる戦略オプションを示す。
主な成果
世界の天然ガス需給状況の文献調査、さらに大手の欧米電気事業者を対象とした文献
及びインタビュー調査を行った(図 1)。その結果、以下の点を明らかにした(図 2)。
1. 近年の世界の天然ガス供給状況を鑑みると、中期的には燃料調達の量的安定性を確保
するのに十分な LNG の供給力が見込め、さらに供給地域の分散化も図られつつある。
2. 燃料の安定調達には、調達手段、供給地域、サプライヤー、契約期間などの各々の分
散化が重要である。その際、上流進出は調達手段分散化のオプションの一つではある
が、現在の LNG の供給状況からその有効性は限定的と考えられる。
3. 上流進出は燃料調達コストの安定化に資するが、同時に上流特有の事業リスクを負う
ことになり、このリスクを取れる場合にのみ、コスト安定化の有効な手段となりうる。
また、これら欧米事業者の事例から、
下記のような我が国電気事業者への示唆を得た。
4. 上流事業は、電気事業とは全く異なる性格のプロフィット・ビジネスであり、進出す
るならば「燃料調達」という限定的な目的ではなく、積極的に利益獲得を目指す必要
がある。その際、従来の事業の延長ではなく、人員や組織等の新たな整備が望まれる。
5. 上流事業は、生産したガスの販路拡大の選択肢が増えるため、ガス事業とのシナジー
がより強く期待される。電気事業者が上流進出する場合、将来的には国内外の電気・
ガス事業者への LNG 販売等も視野に入れた、より柔軟な戦略の適用が必要であろう。
今後の展開
我が国における柔軟的な LNG の活用を実現させるために、必要な条件や方法などに
ついて、具体的な検討を行っていく。
+
B.ガス上流事業
ガス田探鉱・生産。
A.電気事業 +
C.ガス中流事業
パイプライン・貯蔵設備などの保有・運用。
欧米では規制事業であり、これらの設備へは
第三者アクセスが認められている。
+
D.ガス下流事業
配ガス・ガス小売事業。欧米では、歴史的に
ガスの下流事業を兼業する電気事業者が多
本稿では LNG 液化設備もここに含め
る
石油開発会
社の事業範
ガス会社
の事業範囲
①ガスのバリューチェーン全てに展開している事例【A+B+C+D】:
DTE Energy(米)、AEP(米)
、E.ON(独)、RWE(独)、Centrica(英)
、GdF-Suez(仏)など
②ガス上流に展開している事例【A+B+D】:
Constellation Energy(米)、Union Fenosa(西)(2008 年に Gas Natural と合併)など
③ガス中流に展開している事例【A+C+D】:
Dominion(米)、PG&E Corp(米)、CLECO Corp(米)、Iberdrola(西)(2009 年に売却)など
④上流・中流には展開していない事例【A(+D)】:
Public Service Enterprise Group(米)、APS(米)、Iberdrola(西)(現在)など
※下線のある会社は今回の調査対象であり、上記 4 つのカテゴリーに基づいて抽出した。
図 1 ガスのバリューチェーンと、欧米の電気事業者の事業展開の事例
上流事業の
安定的燃料調達への影響
*従来の事業の延長線ではなく、上
流専門家を雇い入れるなどの対
応
④
*ハイリターンであるが、同時にハイリス
ク。
*ユーティリティー事業とはビジネスモデ
ルが異なる
プロフィット・ビジネスである
【評価】
*価格変動リスクをヘッジする
替わりに、上流事業のリスク
を負う。
*このリスクを負えれば、上流
進出は有効な調達コスト安
定化の手段となりうる
③
上流事業は、燃料価格の変
動リスクをヘッジし、安価な燃
料を調達できる。
安く生産し、市場に高く売る
上
流
事
上流進出は、供給手段多様化
の一つのオプションとなりうる。
*特にガス事業との間でシナジーが強い
⑤
*電気事業との兼業で、シナジ
ーを効果的に享受
安定的燃料調達
*安定供給の基本は多様化。
*複数のオプションを持つことが重要。
②
ガスを柔軟に活用できる
垂直統合のシナジーがある
コスト的安定性
供給手段の多様化
が重要である
業
*安価に生産できる。
*コストが燃料の市場価格に
影響されにくい
*長期契約でも、ガス価格が石油価格
リンクの場合、価格(調達コスト)の変
動リスクにさらされる。
*競争市場の場合、より安価な燃料が
要求される
量 的 安 定 性
【評価】
*供給力が豊富で、他の手段
でも充分に多様化が可能な
状況。
*リスクとのバランスから、上流
進出の有効性は低いか。
*近年の世界的な供給状況か
ら 、中期的に は 天然ガ ス
(LNG)の供給力は十分存在。
*供給地域の分散化も図られつ
つある
①
※①∼⑤は主な成果 1∼5 に対応。
図 2 欧米事業者の事例に基づく上流事業の安定的燃料調達への影響
研究担当者
問い合わせ先
筒井
美樹(社会経済研究所
エネルギー事業政策領域)
(財)電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 03-3480-2111(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] ©財団法人電力中央研究所 平成23年3月発行
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