Comments
Description
Transcript
ジャカルタ~国内向けエネルギー供給増と日本の利害
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html ジャカルタ駐在員事務所 2011 年 4 月 ジャカルタ~国内向けエネルギー供給増と日本の利害~ ●復活・新設が相次ぐ成田直行便 ジャカルタは、人口 960 万人を抱えるインドネシアの首都であり、周辺を含めた首都圏 では 2,600 万人を超える大都市圏である。しかしながら、筆者が知っている限り、唯一ジ ャカルタの案内を掲載している日本の観光ガイドブックは「地球の歩き方」だけであり、 この1冊の中でほんの数ページが割かれているだけである。日本の多くの観光ガイドブッ クがジャカルタを紹介していないということは、ジャカルタに来る観光客は非常に限られ ているということになる。にも拘わらず、JAL は観光地として有名なバリ島への路線を廃 止した一方、ジャカルタへの路線は残し、しかも機材を最新鋭のものに切り替えた。さら に、ガルーダ・インドネシアは昨年 9 月から成田への直行便を新設し、2011 年 1 月からは ANA も 12 年振りに路線を復活させた。 ●目を見張るジャカルタの発展 これらの事実が物語っているのは、ジャカルタはビジネス客が多い、ということであり、 それだけジャカルタでのビジネスが活況を呈しているということである。インドネシア経 済は、リーマンショックに端を発した世界的な経済の落ち込みの中でも力強い内需に支え られて 09 年は 4.6%の経済成長を維持し、直近の 10 年第 4 四半期では 6.9%と市場の予想 を上回る成長を達成、一人当たり GDP も 10 年に 3,000 ドルを超えた。政府の中期開発計 画では、14 年までの平均成長率の目標を 6.3 ~ 6.8%とおいており、今後とも高い経済成 長を見込んでいる。 ジャカルタを初めて訪れた日本人は、立派な高層ビルが多く立ち並び、巨大なショッピ ングモールが次々とオープンし、いずれ のショッピングモールにも高級ブラン ド店が軒を連ねている様子に驚くこと が多い。筆者が当地に赴任した 07 年 3 月以降でも、パシフィック・プレイス、 グランド・インドネシア、そしてプラ ザ・インドネシアの拡張と市内中心部で 大型ショッピングモールが増えている。 高層ビルやインターネットの普及(イン ドネシアは、米国に次いで Facebook の 利用者が多い国だそうである)は今の日 本と見間違うほどかもしれないが、購買 ジャカルタの高層ビル 1 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 力平価を考慮した一人当たり GDP でみると、昭和 30 年代半ば頃の高度成長前の日本と同 じくらいである。 もう一つ、街中を走る車とオートバイの数にも圧倒される。10 年には、四輪車販売台数 が 76 万台、二輪車販売台数は 739 万台に達し、いずれも過去最高を記録した 08 年の 60 万台、628 万台を大きく上回る結果となった。しかも、四輪車、二輪車共に日本のメーカー が 90%以上のシェアを有している。今後とも市場の拡大が見込まれており、当地で生産を 行っている日系メーカーの生産設備拡張計画も目白押しである。 そして、これら進出日系企業の事業拡大を支えるのに不可欠なのがインフラ整備と共に エネルギー供給である。 ●エネルギー消費国としてのインドネシアと新たなビジネスチャンス インドネシアは、石油、ガス(LNG(液化天然ガス))、石炭といったエネルギー資源を 多く日本に供給している。特に、LNG は、70 年代後半に日本への供給を開始して以来、今 日までずっと日本にとって最大の供給国である。一方で、インドネシアの国内エネルギー 需要も同国の経済成長に伴って飛躍的に増大しており、この需要増加にどう対応していく かはインドネシア政府にとって喫緊の課題である。インドネシアに進出している日系企業 は 1,000 社以上と言われており、国内向けエネルギー供給の不足は、これら日系企業にと っても深刻な影響を与えている。日本は、これまでインドネシアに豊富に存在する低品位 炭の利用に関しては、改質技術や液化技術、ガス化技術の実用化においてインドネシアと 協力してきている。他方、ガスに関しては、インドネシア国内向けのガス供給を増やすこ とについては、日本への LNG 供給量が削減されるとしてネガティブであった。しかしなが ら、インドネシアの国内向けエネルギー供給を増加させることは日本にとって必ずしもネ ガティブな面だけではない。日本は、ガスの液化や輸送船などの分野で高い技術を有して いる。これらの高い技術を活かして、小型の液化設備や LNG 輸送船なども開発されている。 また、液化まではしないが高い圧力をかけて輸送効率を上げた CNG(圧縮天然ガス)輸送 用船舶でも日系の企業が技術を有している。ガスはあるものの島嶼国家であるインドネシ ア国内への供給を図るためにはこうした技術は非常に有効であり、日本企業にとっては新 たなビジネスチャンスになりうる。 今後のインドネシアと日本のエネルギ ー関係を考える上では、インドネシアを 単なるエネルギー供給国として見るので はなく、同国の国内エネルギー需要を満 たしながら、そこに日本企業にとっての ビジネスチャンスも見出していくという 視点も重要になっており、従来のパラダ ジャカルタの高層ビル イムの転換が求められている。 (国際協力銀行 ジャカルタ首席駐在員 佐竹 貴徳) LNG プラント ※ この記事は、2011 年 4 月号の金融ジャーナル社「金融ジャーナル」に掲載されたものです。 2