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「日本経済における投資事業―金融・経済危機と政策対応」
2009.7.24 金融庁 大森泰人 日本経済における投資事業―――金融・経済危機と政策対応 1.金融危機と実体経済危機 ○背景としての産業構造 ・日本:上位企業の顔ぶれは過去30年間ほぼ不変・・・ 「失われた90年代~」 から輸出主導での回復 ・アメリカ:決定的ダメージにならないGM破綻、西海岸のIT、東海岸の金 融が牽引する経済へ転換(←効率的資金配分を可能とする市場型金融システ ム) ○貿易と資金移動 ・中国のGDPの1%はウォルマートが輸入、大統領のキャデラック←→中産 階級のプリウス ・アメリカ家計のマイナス貯蓄率(実力以上の暮らし) ・・・資産価格上昇(2 000年まではIT株、それ以降は住宅)が支える過剰消費+財政赤字・・・ アジアの過剰貯蓄によるファイナンス ・長期にわたる日本の超金融緩和・・・円安バブル、ミセスワタナベのFX ○自作自演型バブル ・サブプライムローン:信用力の低い人でもローンを付ければ住宅が持てる→ 住宅の実需が高まり値段が上がる→収入と無関係に借金のやりくりが可能 ・80年代後半の日本:銀行は不動産担保さえあれば貸せる→不動産の実需が 高まり値段が上がる→担保余力向上でさらに貸せる 2.アメリカが歩んだ道 ○原点としての大恐慌 ・ペコラ委員会による実態解明と現在まで続く規制枠組みの形成 ・州法である会社法→連邦法による規律(開示、公正取引)、連邦機関(SEC) による監視 ・預金者と投資家をともに守る→商業銀行の業務制限(短期貸付)、証券会社(投 資銀行)との厳格な区分 1 ・金融政策に対するフリードマンらの批判、ケインズ政策の普及 ・固定相場制の基での基軸通貨ドルの確立・・・オープン・エコノミー・トリ レンマ ・住宅金融支援体制の確立(S&L、ファニーメイ、連邦住宅貸付銀行) ○その後の展開 ・60~70年代:実体経済の競争力低下、スタグフレーション ・80年代~:現在のアメリカ的イメージの形成(小さな政府の下での最小限 の最小限の規制、銀行より市場を中心とする金融システム、グローバル資本 主義への展開) ・市場型金融システムの優位性 ①資金配分の効率性(市場が見出す今後の成長分野) ②経営へのガバナンス ③M&Aによる企業再編の容易さ ④永続しない製造業の比較優位→成熟経済における金融立国 ⑤国民の資産構成の多様化 ・中南米債務危機、S&L危機・・・危機の克服と金融技術の進化 3.日本が歩んだ道 ○敗戦後~高度成長期 ・アメリカ型金融制度の下で、圧倒的に銀行中心の金融システムを形成 ・国全体として資本不足・・・銀行が、低利に規制された預金を集め、政策的 に必要な産業に配分していく仕組みが効率的(キャッチアップ時代の規格大 量生産モデル) ・銀行間の役割分担(都銀、長信銀、信託、地銀、相銀、協同組織) ・銀行と貸付先企業は運命共同体・・・株式公開の動機は資金調達ではなく、 一流企業のステイタス→経営が株主と向き合い、株主に報いる発想の不在 ○80年代~ ・実体経済が成熟段階に到達(元来、市場型金融システムが整合的) ・・・実際 には、銀行に集まり続ける預金、企業の資金需要の鈍化→不動産担保貸付へ の一層の注力(←85年プラザ合意以降の金融緩和、時代精神) ・ 「失われた」90年代以降・・・実体経済の長期低迷、長期間にわたる不良債 権処理 ・今後とも、銀行がいったん貸したら完済まで抱え込むビジネスモデルを続け 2 れば、不良債権問題は再発 4.金融危機の容疑者たち ○証券化と格付 ・リスク管理手法としての証券化:返済が長期の住宅ローン→借り手が途中で 失業、病気の可能性(パススルーでは全額回収できない)→信用補完(ファ ニーメイが元利保証、ストラクチャーを優先劣後構造に切り分け・再証券化) ・クレジットの証券化商品、株式、社債、投資信託 ・OTD(Originate to Distribute)ゆえのエージ ェント問題 ・格付・・・より緊張感を伴った評価をせざるを得ないインセンティヴ構造 ○金融のビジネスモデル ・(商業)銀行:預金を受け入れ、貸し付けるバランスシート商売 ・証券会社(投資銀行) :証券の引受・販売、M&Aの助言・仲介などによる手 数料商売 ・投資銀行のファンド化、商業銀行の簿外証券投資(裁定取引による収益機会 の減少→バブル創造) ・アメリカでの業態地図の変化(投資銀行モデルの崩壊と商業銀行の復権?) →より厳格な利益相反管理の必要性 ○時価会計と自己資本比率規制 ・バランスシートの時価認識と自己資本連動による資産価格ボラティリティの 高まり→資産価格上昇(下落)局面でのレバレッジ拡大(縮小) ・基本方針:不良資産を切り離す&切り離さないなら厳格に時価評価する&そ の結果毀損する自己資本を公的資金で補完する ・公的資金投入申請への心理的ハードル・・・必ずセットで登場する時価会計 停止論 ・「先送り」は結果論、という側面 5.「金融」の定義=収入から返済できる範囲で貸す ○なぜ、収入から返済できない人に貸してしまったのか・・・再発防止困難な ら、収入から返済できる範囲でしか貸せない制度にする=日本の貸金業法 3 ○消費者金融の典型的パターン:生活が苦しいので30万円借りる(毎月の返 済額1万円)→返済を続けているうちに利用限度額が50万円にアップ(毎 月の返済額1万5千円)→2社目、3社目、4社目・・・ ○ケーススタディ ・月収20万円(年収240万円)の貧困世帯の借金総額400万円 ・現行上限金利約30%→年間金利負担120万円、月10万円 ・仮に金利が30%→15%になれば・・・ ・上限金利の引下げと、収入の3分の1までの総量規制により、年収240万 円の3分の1の80万円を15%で借りる(年間金利負担12万円、月1万 円) ・貸金業法改正時(2006年)の日米GDP論争 6.アメリカの金融制度改革動向 ○金融危機調査委員会(新ペコラ委員会) ・「Too Big to Fail」「OTDモデル」などの検証 ・期限は2010年12月 ○A New Financial Foundation(ガイトナー&サ マーズ) ・システミックリスク対応・・・FRBへの一元化 ・ABS規制・・・発行者の報告義務強化、格付依存体質からの脱却、発行者 等によるリスク分担 ・デリバティブ規制・・・先物と現物の規制調和、支払決済システムのセーフ ガード強化、OTCデリバティブへの監督 ・横断的消費者保護枠組みの創設(クレジットカード規制に基づく) ・ノンバンク破綻制度の整備 7.政策の方向感 ○金融政策 ・効果を期待できる局面、期待できない局面 ・ゼロ金利、量的緩和、非伝統的資産(長期国債、社債、CP、株式)購入 ・インフレターゲット論争・・・理論と手段 ・金融政策の国際的波及、金利体系の正常化という視点 4 ○財政政策 ・ケインズの復活? ・需要と供給(需給ギャップ論と構造改革論、均衡成長経路との関係)・ ・生産性向上につながる投資 ○為替政策 ・介入の是非・・・ 「円高国難」イメージからの脱却 ・円高を活かした直接投資、人口減少に対応した開国 ・内需型経済構造の模索 ○株価対策? ・鏡に映った自分の顔 ・公的資金による株式買取り ○実体経済と金融 ・アメリカの改革に呼応して考える「この国のかたち」 ・・・金融システム制御 の失敗を他山の石としつつ、市場型金融システムに一層転換し、市場機能を 活用した経済運営 ・アメリカ流儀の否定→コーポレート・ガバナンスさえ軽視→平時の備えとし ての「投資対象」の品質保証 ・銀行と証券機能の有機的連携 ・過剰貯蓄解消に向けた対応・・・法人内部留保→新たな投資機会の発見、株 主還元 ○根拠なき妄想 ・80年代~:そんなに努力していないのに「ジャパン・アズ・ナンバーワン」 ・90年代~:ジャパン・パッシング、ナッシング ・「禍福はあざなえる縄のごとし」「人生万事塞翁が馬」 ・10年後に振り返る現在 以上 5