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少子化の要因分析とその対策 - Doors
少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (743)47 【論 説】 少子化の要因分析とその対策 * 船 橋 恒 裕 1 は じ め に 近年,我が国において,少子化が急速に進行している.1989 年の合計特殊 出生率 1)が 1.57 と発表されたいわゆる「1.57 ショック」以降,出生率の低下 に目が向けられるようになり,特に,21 世紀以降,少子化問題は,社会保障 の中でもクローズアップされ,社会的問題になってきた 2).第 1 図は,出生 数及び合計特殊出生率の年次推移について図示しているが,戦後の出生数の 推移をみると,1947(昭和 22) 年∼ 1949(昭和 24) 年の第 1 次ベビーブーム に生まれた女性が出産したことにより,1971(昭和 46)年∼ 1974(昭和 49)年 には第 2 次ベビーブームとなり,1 年間に 200 万人を超える出生数があった. しかし,1975(昭和 50) 年以降は毎年減少し続け,平成以降もゆるやかな減 * この研究は,平成 21 年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学院重点特 別経費(研究科分)の助成を受けて行われた. 1) 「合計特殊出生率」とは,15 歳から 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計した値,すなわち, 合計特殊出生率=(母の年齢別出生数/女性の年齢別人口 15 歳から 49 歳までの合計)である. これは,年齢構造の影響を除いた出生率の水準を示す指標であり,未婚既婚を問わず,一人の 女性が一生に産む子どもの数にほぼ等しい. 2) 我が国において,政府が,出生率の低下と子どもの数が減少傾向にあることを「問題」とし て認識し,子育て支援の対策に取り組み始めたのは,「1.57 ショック」がそのきっかけとなった 1990(平成 2)年以降のことである.1.57 ショックとは,1990 年になって,前年(1989(平成元)年) の合計特殊出生率が 1.57 となり, 「ひのえうま」という特殊要因により過去最低であった 1966(昭 和 41)年の合計特殊出生率 1.58 を下回ったことが判明したときの衝撃を指している.1.57 ショッ クを契機に,厚生省(現・厚生労働省)が中心となって,仕事と子育ての両立支援など子ども を産み育てやすい環境づくりにむけての対策の検討が行われ始めた(内閣府編,2005a) .「ひの えうま(丙午,へいご)」とは,干支の 1 つで,第 43 番目に当たる.この年は火災が多く,また, この年に生まれた女性は気が強く,夫を食い殺すという迷信がある. 48(744) 第 61 巻 第 4 号 第 1 図 我が国の出生数及び合計特殊出生率の年次推移 出所:内閣府編(2005a) .厚生労働省大臣官房統計情報部(2008a) .厚生労働省大臣官房統計情報部 (2009a) . 少傾向を続けてきたことがわかる.政府は 2005 年 12 月,2005 年版『少子化 社会白書』で,2004 年の合計特殊出生率 1.288 と当時の過去最低を更新した 状況を踏まえ,日本を初めて「超少子化国」と位置付けた.国の社会保障給 付費に占める児童・家族関係給付費の割合が少ないという問題点を指摘し,国, 地方自治体,経済界が連携した少子化対策が急務だと強調した 3). その後,さらに,2005 年の合計特殊出生率は 1.26 と過去最低水準となった が,2006 年=1.32,07 年=1.34,08 年=1.37 と 3 年連続で上向いている.原 因として,30 代の出生率が上向き,景気の後押し,芸能人や雑誌の影響もあっ たのではといわれる 4).しかしながら,晩婚晩産が定着し,出産期女性数は 減少傾向にある.実際には,2008 年の出生数は前年比 1,338 人増の 109 万 1,156 3) 内閣府編(2005b)参照. 4) 「08 年出生率 1.37,3 年連続増 歯止めはかからず」(朝日新聞,2009.06.04)など参照. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (745)49 第 1 表 合計特殊出生率の国際比較 日 本 (2008 年) 1.37 スウェーデン (2007 年) 1.87 (2006 年) 1.35 アメリカ (2006 年) 2.10 イタリア イギリス (2008 年) 1.96 オーストラリア (2007 年) 1.97 ドイツ (2007 年) 1.37 韓 国 (2008 年) 1.19 フランス (2008 年) 2.02 シンガポール (2007 年) 1.29 出所:厚生労働省大臣官房統計情報部(2008b) ,その他,各国の統計局資料を参照. 人であった.増加は 2 年ぶりだが,死亡数が 3 万 4,073 人増えたため,人口 の自然増減数は 5 万 1,251 人のマイナスだった.また,出産についても,う るう年だった特殊要因を除けば,実質的には微減であった.20 ∼ 34 歳の出 産期女性で出産は減り,35 歳以上で産む人が増える傾向が続いた.合計特殊 出生率が上向いているのも,分母の人数が減少していることも影響した見せ かけの上昇であり,今後も,出生数は微減傾向が続く見込みである 5). このように,日本の合計特殊出生率は低下傾向にあり,第 1 表のように, 先進諸国の中でも最低レベルである.この傾向が止まらない,止められない 場合,総人口は急速に減少していくと予測されている 6).そこで,本稿では, 日本の少子化,出生率の状況を分析し,少子化を引き起こす要因を考え,そ れらが出産率にどのように影響しているのか分析を行い,今後の政策につい ても言及したい.第 2 章で,出生率低下についての状況を分析し仮説を立て, 第 3 章にて,推定モデルとデータについての説明を行う.第 4 章において, 推定結果を示し,その分析を行いたい. 5) 朝日新聞(2009.06.04) ,「08 年の出生数は 109 万 1,156 人,確定値,2 年ぶり増加」(日本経 済新聞 NIKKEI NET,2009.09.04)参照. 6) 国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)』における中 位推計によると,日本の総人口は,2050 年には 9,515 万人に減少し,2100 年には約 4,700 万人 にまで減少すると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所,2007) . 第 61 巻 第 4 号 50(746) 2 出生率低下についての現状分析 本稿では,合計特殊出生率がどのような要因に影響を及ぼされるのかを分 析したい.まず,日本の場合,出生のほとんどが戸籍法に基づき婚姻の届出 をした夫婦によるものである.第 2 表は,嫡出でない子の割合の国際比較を 表している.第 2 表をみると,欧米諸国では,嫡出でない子(非嫡出子)の割 合は,スペイン,イタリアといった南ヨーロッパではいくぶん低いものの, いずれの国も日本よりもはるかに高い水準にある.このように,欧米諸国と 比較をすると,日本では,婚外子(=非嫡出子)の割合が極めて少ない.これは, 日本と違って,欧米諸国では,男女のカップルが結婚に至るまでに同棲とい う事実婚の状態を経ることが多いこと,非嫡出子であっても法的に嫡出子と ほぼ同じ権利を享受できること,結婚形式の多様化に対する社会一般の受け 入れなどが背景にあるからと考えられる.一方,日本では,婚外子(=非嫡出子) の割合は極めて小さいものの,最近では,俗に「できちゃった婚」と呼ばれ ている妊娠してから結婚をするという形態により,子どもが生まれるという ケースが増加している 7).このような現象から,将来的には,婚外子(=非嫡 出子)の割合も増えるのかもしれないが, 「婚活ブーム」8)という言葉が示す ように,まずは,結婚する人数の多さ,すなわち婚姻率が出生率に大きく影 響を与えているといえる 9). 7) 婚外子(=非嫡出子)割合の国際比較については,内閣府編(2004)を参照. 厚生労働省大臣官房統計情報部(2006b)によると,結婚期間が妊娠期間より短い出生(俗に 言う「できちゃった婚」)が多い都道府県で合計特殊出生率が高いという傾向が見られる.また, 都道府県別データで,婚外子(=非嫡出子)割合が最も高い沖縄県で,合計特殊出生率が最も 高い. 8) 「婚活」とは,「結婚活動」の略である.理想の相手を見つけ,幸せな結婚をするために様々 な活動をすること.女性の社会進出,晩婚化,ライフスタイルの多様化などにより男女がすぐ には結婚しなくなったことから,結婚のためには就活(就職活動)のように積極的な働きかけ が必要になってきたとするもの.山田・白河(2008)からの流行語である(大辞泉より). 9) 若者が結婚しない,できない背景として,若い女性の専業主婦志向が近年高まっている一方で, 女性が男性に求める収入と実際に得る収入に乖離があることが指摘されている.近年の調査に おいては,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」と思っている 20 代女性は約 4 割となってい るなど,依然として性役割分業意識が高い.一方で,未婚女性が求める男性の収入と未婚男↗ 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (747)51 第 2 表 嫡出でない子(非嫡出子)の割合の国際比較 年 割合(%) 1980 0.80 2004 2.00 アメリカ 2003 34.6 フィンランド 2003 40.0 アイスランド 2003 63.6p オランダ 2004 32.5 スウェーデン 2004 55.4 ドイツ 2004 28.0 ノルウェー 2003 50.0 スペイン 2003 23.2e デンマーク 2004 45.4 イタリア 2004 14.9 日 本 年 割合(%) フランス 2003 45.2 イギリス 2004 42.3 注:e は推計値,p は速報値. 出所:内閣府(2004) ,厚生労働省大臣官房統計情報部(2006b) . 次に,出生率の低下の要因として,女性の社会進出が考えられる.特に, 日本では,今なお寿退社 10)の慣習が色濃く残っており,欧米に比べて,出産・ 育児休業の取得も困難である.企業によっては,たとえ,育児休業後に職場 に復帰しても,不当に降格・減給されたり 11),不況ということで育休切り 12) されたりするという現象も起こっている.また,女性の再就職の現状も採用・ 労働条件などが厳しく,正社員として再就職することが極めて難しい.第 2 図より,正社員とパートタイム労働者の入職割合をみると,2000(平成 12) 年ではパートタイム労働者が 7 割以上になっている.また,第 3 図のように, 子どものいる世帯では,子どもの年齢がまだ小さいと思われる 20 ∼ 30 代に ↘ 性の収入を比較すると,東京においては,25 ∼ 34 歳の未婚女性の約 7 割が男性に 400 万円以 上の収入を求めながらも,25 ∼ 34 歳の未婚男性の約 8 割の年収は,400 万円以下となっており, 両者の間に大きな乖離がみられる.経済・社会環境の変化を踏まえ,今後は,現在の男女の性 役割分業意識の変革と様々な分業形態の推進,若者の生活基盤の安定,就業形態にかかわらな いすべての働く男女を対象とした仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進など の必要性が指摘されている(内閣府編,2009). 10) 「寿退社」とは,女性社員が結婚を理由に退職すること.以前は,女性は結婚を機に退社す る慣例のある企業が多く,違法行為である誓約書を書かせていた企業もあった. 11) 「育児休業から復帰したら,不当に降格・減給された」ゲームソフト製作会社の女性社員が 提訴…東京地裁(読売新聞,2009.06.16)など,不況に乗じて育休切りが行われている. 12) 「育休切り」とは,出産し,育児休業を取っている女性に対し,育休を理由に企業が解雇したり, 非正規社員(パートなど)にしたりすること. 52(748) 第 61 巻 第 4 号 第 2 図 女性の再就職層(35 ∼ 44 歳の一般未就業者)の入職割合 備考:労働力率の M 字型カーブのボトムから,再び上昇し始める 35 ∼ 44 歳を再就職層とみなして, 厚生労働省『雇用動向調査』により,この年齢層で過去 1 年間働いていなかった者が,入職時 にどういう就業形態で就職したのか,正社員とパートタイム労働者の入職割合をみると,2000 (平成 12)年ではパートタイム労働者が 7 割以上になっている. 出所:厚生労働省雇用均等・児童家庭局(2002) . 第 3 図 世帯類型・世帯主年齢層別有業人員(2003 年) 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2. 「子どものいる世帯」は,勤労者世帯の夫婦と 21 歳以下の未婚の子どもがおり,世帯主が 夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳の世帯. 3. 「子どものいない世帯」は,勤労者世帯の夫婦のみで,世帯主が夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳かつ仕送り金の支出がない世帯. 4.金額は 1 か月当たりの平均値である. 出所:内閣府編(2005a) . 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (749)53 第 3 表 大学における学生数の推移 年度 計(人) 男子の占 女子の占 学部(人) 大学院(人) 男子(人) める比率 女子(人) める比率 (%) (%) 1999 2,701,104 2,448,804 191,125 1,741,614 65.5 959,490 35.5 2004 2,809,295 2,505,923 244,024 1,708,456 60.8 1,100,839 39.2 2005 2,865,051 2,508,088 254,480 1,740,151 60.7 1,124,900 39.3 2006 2,859,212 2,504,885 261,049 1,731,738 60.6 1,127,474 39.4 2007 2,828,708 2,514,228 262,113 1,701,957 60.2 1,126,751 39.8 2008 2,836,127 2,520,593 262,687 1,695,372 59.8 1,140,755 40.2 2009 2,845,965 2,527,370 263,976 1,687,551 59.3 1,158,414 40.7 注:2009(平成 21)年度の大学数は,773 校(国立 86 校,公立 92 校,私立 595 校)で,前年度より 8 校増加,学生数は,284 万 6 千人(男子 168 万 8 千人,女子 115 万 8 千人) ,前年度より 1 万人 増加している.女子学生の占める割合は 40.7%で,前年度より 0.5 ポイント上昇している(文部 科学省生涯学習政策局,2009) . 出所:文部科学省生涯学習政策局(2009)より作成. おいて共働き率も低くなっている.これらは,大学卒業後,正社員として働 いてきた女性に,結婚・出産という選択肢を選ばせることを困難にさせている. このような状況を考慮すると,女性の高学歴化すなわち進学率の上昇(大学に おける女子学生数の推移については,第3表を参照)や,就職後の企業内でのポス トの向上などに伴う高所得化,すなわち所得の増加が,出産に伴う休業や退 職などの行動に強い歯止めをかけていると考えられる 13). 13) 第 2 図のように,女性正社員と女性パートタイム労働者の所定内給与を単位時間あたりで比 較すると正社員の 7 割弱となっており,格差の推移も拡大傾向にある.さらに,賞与,退職金 制度の適用などを考慮すると正社員とパートではさらに大きな格差となる.内閣府国民生活局 (『家族とライフスタイルに関する研究会報告(平成 13 年)』)では,女性の就業パターン別に 生涯賃金の推計を行っているが,継続就業している場合と,一度中断し出産・子育て後に再就 職する場合の生涯賃金を比較すると,継続就業している場合の生涯賃金に比べ,正社員として 再就職した場合は 7,200 万円,パートタイマーで再就職した場合は 1 億 8,600 万円の所得差が ある.再就職型を理想とする者や現実にそういう働き方をする女性は多く,子育ては社会的に も重要な意義を持つこととはいえ,長期雇用や年功賃金を前提とする雇用慣行において,再就 職の際に十分満足できる労働条件,就業形態であることは難しいのが現状である(厚生労働省 雇用均等・児童家庭局編,2002).その他,出産・退職することで生じる機会費用はかなり大 きいということを内閣府編(2005a)でも詳しく記されている. 54(750) 第 61 巻 第 4 号 第 4 図 保育所定員数,利用児童数及び保育所数の推移 出所:厚生労働省 雇用均等・児童家庭局(2009) . 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局(2009) . このような就業状況の中では,仕事を持っている女性が出産したいと考える場 合,できるだけ早期に仕事に復帰できるかどうかを考慮に入れるであろう.そこ で,早期復帰を可能にするためには,どのような要因が寄与するのかを考えたい. まず,考えられるのが,母親となる女性自身に代わって子育てを行ってく れる家族,主に自分の母親や夫の母親が存在するかどうかである.家族形態 が,三世代家族などの大家族であれば,自分に代わって子どもの面倒を見て くれる人がいるので,容易に,早期の職場復帰が可能である 14). 続いて考えられるのが,そのような子育てを手助けしてくれる身内がいな い場合,それを代替するような組織の存在があるかどうかだが,日本で主に 考えられるものは,保育所 15)の存在であろう.第 4 図は,保育所利用児童数 14) 山重(2001)では,三世代同居が保育園を代替するとしている. 15) 「保育所」と「保育園」の違いはなく,法律的な正式名称は「保育所」である.ただ,必ずしも「∼ 保育所」という名称にしなくてはならないという法令はなく,自治体では「幼稚園」という言 葉に語呂をあわせて,「保育園」という名称を使っている場合が多い. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (751)55 第 4 表 子どものいる世帯と子どものいない世帯の世帯主年齢層別消費支出の比較(2003 年) 世帯主年齢 子どものいる世帯(円) 子どものいない世帯(円) 20 代 236,357 257,704 30 代 287,913 276,159 40 代 361,765 290,270 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2.「子どものいる世帯」は,勤労者世帯の夫婦と 21 歳以下の未婚の子どもがおり,世帯主が夫 で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳の世帯. 3.「子どものいない世帯」は,勤労者世帯の夫婦のみで,世帯主が夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳かつ仕送り金の支出がない世帯. 4.金額は 1 か月当たりの平均値である. 出所:内閣府編(2005a) . 第 5 表 子どものいる世帯と子どものいない世帯の世帯主年齢層別平均消費性向(2003 年) 世帯主年齢 子どものいる世帯 子どものいない世帯 20 代 72.9% 67.0% 30 代 68.3% 61.8% 40 代 72.7% 58.8% 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2.「子どものいる世帯」は,勤労者世帯の夫婦と 21 歳以下の未婚の子どもがおり,世帯主が夫 で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳の世帯. 3.「子どものいない世帯」は,勤労者世帯の夫婦のみで,世帯主が夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳かつ仕送り金の支出がない世帯. 出所:内閣府編(2005a). などの状況を表している 16). 次に,出産・子育てにかかる費用が考えられる.子育てには当然それなりの 費用がかかるため,やはり所得が大きく影響している.第 4 表は,子どものい る世帯と子どものいない世帯の世帯主年齢層別消費支出を表している.これを みると,子どものいる世帯の支出は世帯主の年齢が高いほど,子どものいない 世帯に比べて増加している.また,第 5 表は,子どものいる世帯と子どものい 16) 0 ∼ 3 歳児童に占める保育園利用児童の比率は,北欧が 4 割以上,アメリカ・カナダが 4 割以上, フランスが 3 割だが,日本,ドイツ,イタリア,韓国などは 1 割からそれ以下と極めて低い.また, 保育サービス業が発達していない国は,祖母が大きな役割を果たしている(永瀬伸子,2007) . 第 61 巻 第 4 号 56(752) 第 6 表 年齢別子育てコストの推移(2003 年) (単位:円) 0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 198,602 122,633 115,459 85,832 80,855 79,542 88,915 育児費 57,042 56,338 60,128 87,004 67,640 91,013 83,098 保健・医療費 38,830 24,161 19,628 17,734 38,195 30,070 26,672 幼稚園・保育園 関係費 18,420 90,188 97,192 155,617 258,870 277,346 249,732 幼稚園・保育園 以外での教育費 18,626 21,367 61,484 42,755 39,228 48,241 55,315 おこづかい・ お祝い行事関係費 72,723 29,173 23,626 29,919 31,079 31,538 33,118 子育てのための 預貯金・保険 101,765 120,914 137,326 97,446 104,447 101,598 97,390 計 506,008 464,774 514,843 516,307 620,314 659,348 634,240 ベビー・子ども 用品・衣料 注:金額は年額.「育児費」とは,食費やおやつ(給食以外)をいう.「幼稚園・保育園関係費 」 には, ベビーシッターや一時保育費も含む. 出所:(財)子ども未来財団(2003). ない世帯の世帯主年齢層別平均消費性向を表しており,子どものいる世帯の平 均消費性向は 20 代と 40 代で,特に高くなっていることがわかる.これらは, 世帯主の年齢が高いほど,子どもの年齢も高くなり,教育費用が大きくなるた めではないだろうか.子育ての費用の内訳について,幼児期については第 6 表, 成人になるまでについては第 7 表で図示している.第7表は, 0 歳から 21 歳まで, 子どもを 1 人育てるのにどのくらいの費用がかかるのかを算出している.こう した費用を推計するには様々な方法が考えられるが,ここでは,子育てにかか るすべての費用を積み上げるのではなく,子育てしない状態に比べて追加的な 費用がどのくらいかかるかを子育ての費用と考える.その上で,子育て費用を 「基本的経費」 「教育費」及び「住宅関係費」に分け,各年齢層の子どもを一人 持つ世帯の支出額から,世帯主が同世代であって子どものいない世帯の支出額 を差し引いて,0 歳から 21 歳までの 22 年間分を足し上げ,それを「1 人の子 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (753)57 第 7 表 1 人の子どもを育てる費用(2003 年) (単位:万円) 基本的経費 722 食料費 310 光熱・水道費 85 被服及び履物費 75 教養娯楽費 73 交通・通信費 67 保健医療費 22 家具・家事用品費 9 その他の消費支出 80 教育費 528 住宅関係費 53 計 1,302 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2.1 人の子どもを育てる費用は,子どもがいると増加 すると考えられる費用について,子どもが 1 人いる世 帯の 22 年間の支出から子どものいない世帯の 22 年 間の支出を差し引いて算出した. 3.四捨五入のため,費目別費用と合計は一致しない場 合がある. 4.2003 年から過去 2 年にさかのぼり平均値をとる 後方移動平均により算出した. どもを育てる」費用として推計している(内閣府,2005a より)17).これらをみると, いかに教育費が子育て費用の多くを占め,重要な要因であるのかが理解できる. ただし,所得が多い方が子育てには望ましいと思われるが,実際には,子 育てを行っている世帯の方が,子どものいない世帯よりも収入は少なく,可 処分所得も少ないという集計結果が出ている.第 8 表は,世帯類型・世帯主 年齢層別世帯主収入と配偶者収入を表している.これをみると,子どものい る世帯では子どものいない世帯よりも世帯主の収入は多いが,配偶者の収入 は少なく,世帯主収入と配偶者収入を合わせた額も少ない.これは,子育て 17) 詳しい算出方法は,内閣府編(2005a)を参照. 第 61 巻 第 4 号 58(754) 第 8 表 世帯類型・世帯主年齢層別世帯主収入と配偶者収入(2003 年) (単位:円) 20 代 子どものいる世帯 子どものいない世帯 世帯主収入 321,470 325,816 配偶者収入 29,445 100,633 世帯主収入+配偶者収入 30 代 350,915 426,449 子どものいる世帯 子どものいない世帯 世帯主収入 440,737 420,815 配偶者収入 36,578 101,484 477,315 522,299 子どものいる世帯 子どものいない世帯 517,019 491,302 60,386 109,657 577,405 600,959 世帯主収入+配偶者収入 40 代 世帯主収入 配偶者収入 世帯主収入+配偶者収入 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2.「子どものいる世帯」は,勤労者世帯の夫婦と 21 歳以下の未婚の子どもがおり,世帯主が夫 で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳の世帯. 3.「子どものいない世帯」は,勤労者世帯の夫婦のみで,世帯主が夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳かつ仕送り金の支出がない世帯. 4.金額は 1 か月当たりの平均値である. 出所:内閣府編(2005a) . 第 9 表 子どものいる世帯と子どものいない世帯の 世帯主年齢層別可処分所得(2003 年) (単位:円) 世帯主年齢 子どものいる世帯 子どものいない世帯 20 代 324,156 384,572 30 代 421,611 447,146 40 代 497,822 494,025 備考:1.総務省『家計調査』により特別集計. 2.「子どものいる世帯」は,勤労者世帯の夫婦と 21 歳以下の未婚の子どもがおり,世帯主が夫 で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳の世帯. 3.「子どものいない世帯」は,勤労者世帯の夫婦のみで,世帯主が夫で年齢が 20 ∼ 29 歳,30 ∼ 39 歳,40 ∼ 49 歳かつ仕送り金の支出がない世帯. 4.金額は 1 か月当たりの平均値である. 出所:内閣府編(2005a) . 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (755)59 第 5 図 一般病院における産科及び産婦人科,小児科を標ぼうする施設数の年次推移 出所:厚生労働省大臣官房統計情報部(1998a) . 厚生労働省大臣官房統計情報部(1998b) . 厚生労働省大臣官房統計情報部(2009b) . 厚生労働省大臣官房統計情報部(2009c) . をするためには,当然,世帯主の収入は,多い方がいいに越したことはないが, 必ずしも夫婦合わせた世帯全体の所得の多さを考慮に入れているとは限らな い,ということを示しているのかもしれない.また,これに関連して, 第 9 表は, 子どものいる世帯と子どものいない世帯の世帯主年齢層別可処分所得を表し ているが,この表では,20 代と 30 代で,子どものいる世帯の可処分所得は, 子どものいない世帯より少ないことを示している. 最後に,近年,医師不足,特に,産科,小児科不足が問題になっている. このような病院の存在は,女性にとっての出産要因に大きな影響を及ぼすと 思われる.第 5 図は,一般病院における産科及び産婦人科,小児科を標ぼう する施設数の年次推移を表している.1990 年の産科及び産婦人科,小児科を 標ぼうする施設数は,それぞれ 2,459 施設(全一般病院の 27.3%)と 4,119 施設 (全一般病院の 45.7%)であり,2007 年では,それぞれ 1,539 施設(全一般病院の 60(756) 第 61 巻 第 4 号 19.8%) と 3,015 施設(全一般病院の 38.7%) であった.この図から,近年,一 般病院が恒常的に減少しており,その原因は,産科及び産婦人科,小児科の 大幅な減少であることがわかる 18). 3 推定式及びデータ 第 2 章の現状分析とそれをもとにした仮説から,推定式は以下のようにな る. 推定式 TFR=α0+α1MAR+α2GTS+α3INC+α4FAM +α5NUR+α6EDU+α7HOS+ε (1) (1)式を説明すると,被説明変数(TFR)は合計特殊出生率について表して いる.以下,説明変数として,MAR=課税対象所得婚姻率(人口 1,000 人当た り),GTS=高等学校卒業者の進学率,INC= 1 人当たり県民所得,FAM=一 般世帯の平均人員,NUR=0 ∼ 5 歳人口 1 万人当たりの保育所数,EDU=全 世帯における消費支出に対する教育費割合,HOS=人口 10 万人当たりの一般 病院数である. 次に,各変数と推定に使用されるデータについて詳しく説明する.サンプ ルは都道府県のデータである 19). まず,被説明変数である合計特殊出生率(TFR)については,資料源は,厚 生労働省大臣官房統計情報部『人口動態統計』で,年間の出生の全数を対象 18) 愛知県の独自の調査 (2009 年度) では, 県内の病院の 2 割が,医師不足のために診療制限を行っ ていることが分かった.調査結果によると,県内 332 病院の 20.8%にあたる 69 病院が,医師 不足を理由に診療を制限し,割合は昨年度(2008 年度)から大きく変わっていない.特に影 響の大きい診療制限では,診療科の全面休止が 17 病院,入院診療の休止が 15 病院,分娩(ぶ んべん)対応の休止が 10 病院,時間外救急患者の受け入れ制限が 15 病院など,計 40 病院(重 複を含む)が該当した.また,診療科別では,産婦人科で 24.6%と高くなっているほか,小児 科で 12.0%,精神科で 11.9%などであった.県では「医師不足は,2004 年に導入された医師 臨床研修制度や労働条件の厳しさ,診療報酬の抑制など複合的な要因によるもので,劇的な改 . 善は難しいのではないか」としている(読売新聞 YOMIURI ONLINE,2009.09.03) 19) 2005 年のデータを使用している.これまで,都道府県別データに基づくクロスセクション 分析として,米谷(1995)がある. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (757)61 とし,市区町村への届出に基づいて集計している. (MAR) 次に,説明変数であるが,婚姻に関しては,婚姻率(人口 1,000 人当たり) で,資料源は,厚生労働省大臣官房統計情報部『人口動態統計』の婚姻件 数 20)と総務省統計局『国勢調査報告』21)の人口総数(総人口)である.婚姻 件数は,年間の婚姻の全数を対象とし,市区町村への届出に基づいて集計し ている. 進学率を表す変数は,高等学校卒業者の進学率(GTS)である.この統計デー タの資料源は,文部科学省生涯学習政策局『学校基本調査報告書』である.また, この資料では,高等学校卒業者の進学率は,高等学校卒業者のうち,大学な どへの進学者の割合を示している(単位:%)22). 所得については,1 人当たり県民所得(INC)である.本来,働く女性の所 得や主に世帯主となる夫の所得など,より詳細なデータがあれば望ましいの であるが,そのようなデータは集計(または公表)されていないので,一人当 たり県民所得を使用する.資料源は,内閣府経済社会総合研究所国民経済計 算部『県民経済計算年報』である(単位:10 万円)23). 次は,自分に代わって子どもの面倒を見てくれる人がいるかどうかである 20) 我が国において,各年 1 月 1 日から 12 月 31 日までの間に市区町村長に届出のあった婚姻し た日本人についての件数である. 21) 国勢調査は,本邦内に常住するすべての人を対象として,5 年ごとに行われる人口調査で, 年齢,男女の別,配偶関係,国籍,労働力状態,従業上の地位,産業,職業,世帯の種類,住 宅,従業地・通学地などについて調査するものである. 22) 「大学などへの進学者(高等学校卒業者)」とは,大学(学部),短期大学(本科),大学及び 短期大学の別科,高等学校または盲・ろう・養護学校高等部(専攻科)に進学した者をいう. 専修学校,各種学校,大学・短期大学の通信教育部,外国の大学・短期大学,防衛大学校また は警察学校などへの進学者は含まれていない.なお,進学した者で 5 月 1 日までに退学した場 合は進学者とはされない.また,進学者数には,就職進学者も含まれている.就職進学者とは, 中学校または高等学校卒業者が就職して高等学校(定時制のみ)または大学など(昼夜間部を 問わない)へ進学した者をいう.就職者とは,給料,賃金,利潤,報酬,その他経常的収入を 得る仕事に就いた者をいう.自家自営業に就いた者は含めているが,家事の手伝いや臨時的な 仕事に就いた者は含まれていない. 23) 生産要素を提供した県市町村内の居住者(個人ばかりではなく,法人企業,行政機関も含む.) が,県内外での生産活動によって新たに生み出した所得(純生産)をいう.この定義にしたがっ て,県外居住者に帰属する所得は,除いて推計されている.また,県民所得を県の総人口で除 したものを一人当たりの県民所得として掲載されている. 62(758) 第 61 巻 第 4 号 が,家族形態が 3 世代であるとか,子育てをしてくれる祖父母がいるなどの 統計データはない.そこで,とにかく,世帯人員が多い方が,核家族ではな く,3 世代などの大家族である可能性が高いと思われるので,データとして, 一般世帯の平均人員(FAM)を入れておく.資料源は,総務省統計局『国勢調 査報告』である(単位:人)24). 保育所については,0 ∼ 5 歳人口 1 万人当たりの保育所数(NUR) である. 資料源は,厚生労働省大臣官房統計情報部『社会福祉施設等調査報告』と, 総務省統計局『国勢調査報告』である(単位:か所)25). 教育費については,全世帯における消費支出に対する教育費割合(EDU)で ある.資料源は,総務省統計局『家計調査年報《家計収支編(二人以上の世帯)》』 である(単位:%)26). 最後に,病院についてであるが,人口 10 万人当たりの一般病院数(HOS) を用いる.資料源は,厚生労働省大臣官房統計情報部『医療施設調査・病院報告』 である.休止または 1 年以上休診中のものを除いたものを施設数としている(単 24) 「一般世帯」とは,(1)住居と生計を共にしている人々の集まりまたは一戸を構えて住んで いる単身者.ただし,これらの世帯と住居を共にする単身の住み込みの雇人については,人数 に関係なく雇主の世帯に含めている.(2)上記の世帯と住居を共にし,別に生計を維持してい る間借りの単身者または下宿屋などに下宿している単身者.(3)会社・団体・商店・官公庁な どの寄宿舎,独身寮などに居住している単身者などであり,それぞれが一般世帯になる.また, 一般世帯人員とは,一般世帯を構成するすべての者の数である.したがって,世帯主と親族関 係のある世帯員の外,非親族(住み込みの家事手伝いなど)の者も含まれる. 25) 「保育所」とは,日々保護者の委託を受けて,保育に欠けるその乳児または幼児を保育する ことを目的とする児童福祉施設である.運営の実態としては,幼稚園に代わるものとして入所 希望者を受け入れる場合があり,数値の県別比較に当たっては,そのことを念頭におく必要が ある.保育所数は,都道府県知事の許可を受けた保育所の総数であり,企業などがその従業者 のために開設した託児所,数人の親が共同で人を雇って託児する場合などは,ここでいう保育 所には含まれていない.また,公営保育所とは,都道府県,市区町村またはこれらの一部事務 組合が経営している保育所である.設置主体と経営主体が違う場合,例えば,市区町村で設置 した保育所(公立)の経営を社会福祉法人(私営)に委託している場合があるので,設置主体 でみた公立,私立の区分と,経営主体でみた公営,私営の区分とを使い分けている.『社会福 祉施設等調査報告』では,経営主体でみた公営を掲載している. 26) 消費支出は,いわゆる生活費のことで,食料,衣料,電気,ガス,その他種々の物やサービ スを購入して実際に支払った額をいう.そのうち,教育の費用は,授業料等,学習用書籍,補 習教育の費用が含まれる. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (759)63 第 10 表 推 定 結 果 変数 係数 定数項 −0.536 MAR 1.613 GTS −0.0047 INC −0.0083 t- 値 −1.500 変数 係数 t- 値 FAM 0.4398 NUR 0.0025 2.245* −2.069* EDU 0.0110 0.7273 −2.140* HOS 0.0174 2.915** 4.846** 5.937** 注:自由度修正済み決定係数= 0.7038. *5%水準で有意 **1%水準で有意 位:施設)27). 4 推定結果と分析 上述した仮説と推定モデル及びデータをもとに,クロスセクションによる 回帰分析を行った.推定結果は第 10 表に示されている. 結果についてであるが,自由度修正済み決定係数は,大変高い値とまでは いかなかった.当然のことかもしれないが,出産には,もっと他の要因,特 に経済的なもの以外の要因も影響しているということであろう. 次に,各説明変数についてである.まず,婚姻率(人口 1,000 人当たり)(MAR) の合計特殊出生率に対する影響は,仮説通り,有意で符号がプラスとなり, 強い影響を受ける結果となった.日本では,婚外子(=非嫡出子)が極めて少 ないということからも,少子化対策には,まずは,婚姻率を高めることが重 要であることが示された. 高等学校卒業者の進学率(GTS)については,仮説通り,有意となり,符号 がマイナスという結果となった.進学率が高いほど出生率が低いということ であるが,データ上,男女別ではなく,すべての高校卒業者の進学率である ので,男性の進学率の影響を排除できていない.男性についても,大卒であ 27) 「病院」とは,医師または歯科医師が,医業または歯科医業を行う場所であって,20 人以上 の患者を入院させるための施設を有するものである.一般病院・療養型病床群を有する病院(= 精神病院,結核療養所以外の病院),精神病院(=精神病床のみを有する病院),結核療養所(= 結核病床のみを有する病院)のように分類される. 64(760) 第 61 巻 第 4 号 れば晩婚化の傾向があると思われるので,女性ほどではないものの,男女と もに進学率の上昇は,マイナス要因になるであろう. 次に,所得であるが,1 人当たり県民所得(INC)についても,男女の区別 がないデータである.仮説でも述べたように,女性の高所得化は,退職や休 職という行為にブレーキをかけることと考えられ,男性に食べさせてもらう といった経済的な理由で結婚を考えることもなくなるであろう.また,出産・ 子育てに多額の費用がかかると考えるのであれば,夫婦の所得,特に,夫の 所得が多い方がより望ましいと考えるであろう.つまり,1 人当たり所得が 高額であればあるほど,望ましいというふうに考えられる.しかしながら, 本稿の推定結果では,符号がマイナスで有意となった.第 8 表のような統計 結果もあることから,前者,すなわち,女性の高所得化が,退職・休職して 出産をするという行動に歯止めをかけるという作用が,より大きく働いてい ると思われる. 家族の人数を示す一般世帯の平均人員(FAM)であるが,有意で符号がプラ スとなり,強い影響を受けるという結果となった.核家族化が進んでいる大 都市部をかかえる首都圏(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県)や近畿圏(京都府, 大阪府,兵庫県,奈良県)の都府県でより出生率が低いのも,母親代わりになる 人がいないことが大きな要因であろう 28).第 11 表は,2005 年と最新の 2008 年の都道府県別にみた合計特殊出生率であるが,これをみると,沖縄県と九 州地方(福岡県を除く),山陰地方,福井県,福島県などが高く,他方,北海道, 首都圏,近畿圏などの出生率は,大変低い状況であることがわかる. 28) 2005 年の首都圏(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県)や近畿圏(京都府,大阪府,兵庫 県,奈良県)の都府県の核家族世帯の割合(対一般世帯数)は,埼玉県 64.36%(全国 2 位), 千葉県 62.12%(全国 4 位),東京都 51.00%(全国 46 位),神奈川県 61.20%(全国 9 位),京 都府 56.94%(全国 26 位),大阪府 60.37%(全国 10 位),兵庫県 62.69%(全国 3 位),奈良 県 64.91%(全国 1 位)であった.また,単独世帯の割合(対一般世帯数)は,埼玉県 25.19% (全国 30 位),千葉県 26.94%(全国 20 位),東京都 42.53%(全国 1 位),神奈川県 30.94%(全 国 8 位),京都府 32.94%(全国 2 位),大阪府 32.08%(全国 4 位),兵庫県 26.75%(全国 22 位), 奈良県 20.86%(全国 47 位)であり,首都圏,近畿圏の都府県では,核家族世帯または単独世 帯が多いことがわかる. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (761)65 第 11 表 都道府県別にみた合計特殊出生率 2005 年 2008 年 2005 年 率 順位 率 順位 北海道 1.15 46 1.20 46 青森 1.29 35 1.30 岩手 1.41 14 宮城 1.24 秋田 1.34 山形 2008 年 率 順位 率 順位 滋賀 1.39 17 1.45 12 37 京都 1.18 45 1.22 44 1.39 26 大阪 1.21 42 1.28 41 39 1.29 39 兵庫 1.25 38 1.34 35 28 1.32 36 奈良 1.19 43 1.22 44 1.45 11 1.44 15 和歌山 1.32 32 1.41 22 福島 1.49 4 1.52 8 鳥取 1.47 8 1.43 17 茨城 1.32 32 1.37 29 島根 1.50 2 1.51 9 栃木 1.40 15 1.42 21 岡山 1.37 22 1.43 17 群馬 1.39 17 1.40 24 広島 1.34 28 1.45 12 埼玉 1.22 40 1.28 41 山口 1.38 20 1.43 17 千葉 1.22 40 1.29 39 徳島 1.26 36 1.30 37 東京 1.00 47 1.09 47 香川 1.43 13 1.47 11 神奈川 1.19 43 1.27 43 愛媛 1.35 26 1.4 24 新潟 1.34 28 1.37 29 高知 1.32 32 1.36 32 富山 1.37 22 1.38 27 福岡 1.26 36 1.37 29 石川 1.35 26 1.41 22 佐賀 1.48 6 1.55 5 福井 1.50 2 1.54 6 長崎 1.45 11 1.50 10 山梨 1.38 20 1.35 33 熊本 1.46 9 1.58 4 長野 1.46 9 1.45 12 大分 1.40 15 1.53 7 岐阜 1.37 22 1.35 33 宮崎 1.48 6 1.60 2 静岡 1.39 17 1.44 15 鹿児島 1.49 4 1.59 3 愛知 1.34 28 1.43 17 沖縄 1.72 1 1.78 1 三重 1.36 25 1.38 27 全国平均 1.26 出所:厚生労働省大臣官房統計情報部(2006a,2009a) . 1.37 66(762) 第 61 巻 第 4 号 第 6 図 保育所待機児童数及び保育所利用率の年次推移 出所:厚生労働省 雇用均等・児童家庭局(2008,2009) . (NUR) 同じく, 母親役の代替的施設となる保育所数(0 ∼ 5 歳人口 1 万人当たり) についても,有意で符号がプラスとなるという結果となった.第 6 図は,保 育所待機児童数及び保育所利用率の年次推移,また,第 12 表は,都市部と それ以外の地域の保育所利用児童数と保育所待機児童数の状況を表している が,これらをみると,依然として,待機児童が多く存在していることがわか る 29).特に,2009 年(4 月)の待機児童数をみると,1 年間でかなりの増加と なっており,2 万 5,384 人に上り,前年同期と比べて 5,834 人,29.8%増加した. 前年に続き 2 年連続の増加で,増加率は過去最高である.厚生労働省では「働 く女性が増えたことに加え,不況の影響で共働きが多くなり,保育所の需要 が増えたことが背景にあるのではないか」と推測している 30).都市部の待機 29) 「待機児童」とは,国が定める要件を満たし,認可保育所への申し込みをしたものの,施設 が不足しているため入所ができない児童のことをいう. 30) 駒村(1997),滋野・大日(1999),大石(2003)などで,女性の就業行動に与える保育供給 の効果を分析している.保育供給が女性の就業率に大きい影響を与えることを示し,また低年 齢の児童の待機率の上昇や保育料の上昇は女性の離職を促すことを示している. 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (763)67 第 12 表 都市部とそれ以外の地域の保育所利用児童数と保育所待機児童数の状況 保育所利用児童数 7 都府県・指定都市・中核市 その他の道県 全国計 保育所待機児童数 7 都府県・指定都市・中核市 その他の道県 全国計 2008 年 4 月 人 2009 年 4 月 % 人 % 1,023,559 50.6 1,052,617 51.6 998,614 49.4 988,357 48.4 2,022,173 100.0 2,040,974 100.0 2008 年 4 月 人 15,187 2009 年 4 月 % 77.7 人 20,454 % 80.6 4,363 22.3 4,930 19.4 19,550 100.0 25,384 100.0 出所:厚生労働省 雇用均等・児童家庭局(2008,2009) . 児童の状況は,出生率が低い首都圏(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県),京阪 神など近畿圏(京都府,大阪府,兵庫県)の 7 都府県(政令指定都市・中核市を含む), 及びその他の政令指定都市・中核市の合計をみると 2 万 454 人となり,全待 機児童の 80.6%を占め,その他の道県と比べて著しく多くなっている.また, 都市部とその他の地域の待機児童数の差も,この 1 年間でかなりの格差となっ ている 31).都市部の幼稚園の活用など早急な対策が必要である 32). 31) 第 4 図のように,保育所数は 2 万 2,925 か所で前年同期比 16 か所増えた.定員は同じく 1 万 1,192 人増の 213 万 2,081 人で,利用児童数 204 万 974 人より多く,待機児童が多い自治体 がある一方で,定員割れする自治体もある. 待機児童が最も多いのは,都道府県別では,東京都が最多の 7,939 人,次いで神奈川県 3,245 人,沖縄県 1,888 人,大阪府 1,724 人,埼玉県 1,509 人など.富山県,石川県,福井県,山梨 県,長野県,鳥取県,香川県,佐賀県,宮崎県は 0 人だった.市区町村別では,横浜市の 1,290 人,川崎市 713 人,仙台市 620 人,東京都世田谷区 613 人,大阪市 608 人,名古屋市 595 人 と都市圏の自治体が続く,年間増加数が最も多かったのは横浜市の 583 人で,続いて東京都 世田谷区 278 人,東京都板橋区 245 人だった.待機児童のうち 1,2 歳児は 1 万 7,492 人で,全 体の約 69%を占めた.育児休業を終えて仕事に復帰する際に子どもが待機児童になるケース が多いとみられる. (厚生労働省雇用均等・児童家庭局,2009,読売新聞 YOMIURI ONLINE, 2009.09.08,毎日新聞 毎日 jp,2009.09.08 など参照). 32) 首都圏では,幼稚園数は多いが保育園数は少ない.新たに創設された「認定子ども園」とい う制度は,幼稚園と保育園の中間的な保育施設の可能性として期待された.2006 年 10 月より 施行されることになったが参入の動きは鈍い(永瀬,2007). 第 61 巻 第 4 号 68(764) 教育費を表している全世帯における消費支出に対する教育費割合(EDU)に ついては,符号はプラスであったが,有意にはならなかった.この変数(全世 帯における消費支出に対する教育費割合) の数値は,相対的に首都圏で高い.し かしながら,それ以外の地域でもこの数値が高い場合もある 33).その他,消 費性向の大きさや消費内容に対しての地域的特性もあるため 34),結果的に, 有意にならなかったのではないだろうか. 最後に,病院の合計特殊出生率に対する影響についてであるが,説明変数 の人口 10 万人当たりの一般病院数(HOS)の推定結果は,仮説通り,有意で 符号がプラスとなり,強い影響を受ける結果となった.いわゆる医師不足問 題への対応が急務とされる 35). 5 む す び 本稿では,合計特殊出生率について,都道府県のデータを用いて回帰分析 を行った.この分析の推定結果から,合計特殊出生率に影響を与えている 6 つの変数,婚姻率,高校卒業者の進学率,所得額,世帯人員数,保育所数, 病院数が確認され,特に,婚姻率の上昇,世帯人員数の増加,病院数の増加が, 合計特殊出生率の上昇に大きくかかわっていること,所得の増加は,合計特 殊出生率上昇にマイナスの要因となることなどが示された. このような結果から,合計特殊出生率の低下を食い止め,さらに上昇傾向 33) ちなみに,文部科学省が全国の小学 6 年生と中学 3 年生を対象に国語と算数・数学について 実施された 2009 年度の全国学力テストでは,小学校・中学校を合わせた平均正答率は秋田県 が 1 位で,次いで福井県,富山県と 3 年間固定化しており,下位も沖縄県,高知県,北海道, 大阪府で固定化している.しかしながら,2007 年の全世帯における消費支出に対する教育費 割合は,それぞれ,秋田県が 36 位,福井県は最下位の 47 位,富山県が 35 位で,沖縄県 13 位, 高知県 7 位,北海道 34 位,大阪府 9 位と,必ずしも費用対効果は一致しない. 34) 例えば,マクロ的な消費性向は,県民経済計算の家計の可処分所得に対する家計最終消費支 出の比率で表すことができる.これらから,2006 年度では,消費性向の高い地域は大都市圏 と北海道で,消費性向の低い地域は佐賀県,青森県,富山県などとなった. 35) 解決策の例として,鳥取県立厚生病院は,県内の病院で初めて,助産師が中心となって分娩 (ぶんべん)や産後ケアに当たる「院内助産システム」を開始した(日本海新聞 Net Nihonkai, 2009.09.02) . 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (765)69 に転換させるには,婚活はもとより,保育所の整備を進めることが重要である. さらに,これに関連して,育児休業の日数の長期化,パパ・クオータ制 36)の 導入や育児給付の増額など条件の改善が必要である.それに伴い企業に対し ての育児への理解を浸透させる政策も重要である.もちろん,婚外子(=非嫡 出子)への法的改善も必要であろう.また,まず,出生率を上げる絶対条件と して,病院機能の低下につながる医師不足,特に産科,小児科への早急な対 応が望まれる. 最後に,今年(2009 年),「国が豊かになるほど出生率は下がる」というか つての鉄則は,ある段階まで発展が進むと覆されるという研究結果が,英科 学誌『ネイチャー(Nature) 』に発表された.研究によると,富裕国のベビー ブームの背景には,女性が子どもを産むという選択を取りやすいよう社会が 変わってきていることが大きく影響しているという.例えば,フランスは 2008 年に 40 年以上ぶりに合計特殊出生率が 2.02 に達し,オーストラリア, スウェーデン,アメリカ,イギリスなどでもちょっとしたベビーブームが起 きている.ただし,これらの国々と同等程度の富裕国であるのに合計特殊出 生率は低いという結果が出た「例外」国があった.それは,日本や韓国で, 両国については,女性の社会的地位が比較的過小評価されているからではな いかと分析している.出生率の上昇には,「女性に優しい社会」がカギとのこ とである 37).出生率の上昇,少子化政策への早急な取り組みとともに,我々 の意識改革も急務だということだろう. 36) 「パパ・クオータ制」とは,北欧などで導入されている父親に育児休業を取らせるためのシ ステムである.子どもの両親が育児休業を分け合い,両者が一定期間,育休を使わないと全体 の育休中の手当がカットされる. 37) 「発展進むと出生率は上昇,ただし女性の社会進出がカギ」(AFP 通信 AFPBB News,2009. 08. 06) .各国の合計特殊出生率については第 1 表を参照. 丸尾・川野辺・的場編(2007)では,先進諸国のうち出生率の上昇している国には,仕事と 子育ての新しい関係が生まれ,出生率の急減した国では,依然として,仕事と出産・子育ての 両立を阻む要因(保守的な制度・慣行,貧弱な家族政策,経済の停滞)が強く残っていると指 摘している. 70(766) 第 61 巻 第 4 号 【参考文献】 国立社会保障・人口問題研究所,(2007) 『日本の将来推計人口〈平成 18 年 12 月推計〉』 厚生統計協会. 駒村康平, (1997) 「保育需要の経済分析」 『季刊社会保障研究』(国立社会保障・人口問 題研究所)第 32 巻第 2 号,pp.210-223. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (1998a) 『医療施設調査・病院報告〈平成 8 年 下巻〉 ―静態調査・動態調査 都道府県編』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (1998b) 『医療施設調査・病院報告〈平成 8 年 上巻〉 ―静態調査・動態調査 全国編』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部編, (2003) 『数字で見る雇用の動き〈平成 14 年版〉平 成 13 年雇用動向調査報告』財務省印刷局. 厚生労働省大臣官房統計情報部,(2006a) 『平成 17 年 人口動態統計月報年計(概数) の概況』 . 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2006b) 『出生に関する統計〈平成 17 年度〉―人 口動態統計特殊報告』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2007a) 『医療施設調査・病院報告〈平成 17 年 下巻(都 道府県編) 〉―静態調査・動態調査』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2007b) 『医療施設調査・病院報告〈平成 17 年 上巻(全 国編) 〉―静態調査・動態調査』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2007c) 『社会福祉施設等調査報告〈平成 17 年〉』厚 生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2008a) 『平成 19 年 人口動態統計月報年計(概数) の概況』 . 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2008b) 『平成 20 年 人口動態統計の年間推計』. 厚生労働省大臣官房統計情報部,(2009a) 『平成 20 年 人口動態統計月報年計(概数) の概況』 . 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2009b) 『医療施設調査・病院報告〈平成 19 年 下巻(都 道府県編) 〉―動態調査』厚生統計協会. 厚生労働省大臣官房統計情報部, (2009c) 『医療施設調査・病院報告〈平成 19 年 上巻(全 少子化の要因分析とその対策(船橋恒裕) (767)71 国編) 〉―動態調査』厚生統計協会. 厚生労働省雇用均等・児童家庭局編,(2002) 『女性労働白書〈平成 13 年版〉働く女性 の実情』 (財)21 世紀職業財団. 厚生労働省雇用均等・児童家庭局, (2008) 『保育所の状況(平成 20 年 4 月 1 日)等に ついて』 . 厚生労働省雇用均等・児童家庭局,(2009) 『保育所の状況(平成 21 年 4 月 1 日)等に ついて』 . 丸尾直美・川野辺裕幸・的場康子編,(2007) 『出生率の回復とワークライフバランス ―少子化社会の子育て支援策』中央法規出版. 文部科学省生涯学習政策局, (2005) 『学校基本調査報告書〈平成 17 年度 高等教育機 関編〉 』国立印刷局. 文部科学省生涯学習政策局, (2009) 『平成 21 年度学校基本調査速報』. 永瀬伸子, (2007) 「少子化にかかわる政策はどれだけ実行されたのか?―保育と児童 育成に関する政策の課題―」 『フィナンシャル・レビュー』(財務省財務総合政策 研究所)第 87 号. 内閣府編, (2004) 『少子化社会白書〈平成 16 年版〉 』ぎょうせい. 内閣府編, (2005a) 『国民生活白書〈平成 17 年版〉子育て世代の意識と生活』国立印刷局. 内閣府編, (2005b) 『少子化社会白書〈平成 17 年版〉少子化対策の現状と課題』ぎょ うせい. 内閣府編, (2009) 『少子化社会白書〈平成 21 年版〉 』佐伯印刷. 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部編, (2005) 『県民経済計算年報〈平成 17 年版〉』 国立印刷局. 内閣府国民生活局, (2001) 『家族とライフスタイルに関する研究会報告(平成 13 年)』. 大石亜希子, (2003) 「母親の就業に及ぼす保育費用の影響」 『季刊社会保障研究』(国立 社会保障・人口問題研究所)第 39 巻第 1 号,pp.55-69. 滋野由起子・大日康史, (1999) 「保育政策が出産の意思決定と就業に与える影響」『季 刊社会保障研究』 (国立社会保障・人口問題研究所)第 35 巻第 2 号,pp.192-207. 総務省統計局, (2006) 『家計調査年報〈平成 17 年 家計収支編〉』日本統計協会. 総務省統計局, (2007) 『平成 17 年 国勢調査報告』 . 72(768) 第 61 巻 第 4 号 山田昌弘・白河桃子, (2008) 『「婚活」時代』ディスカヴァー・トゥエンティワン. 山重慎二, (2001) 「保育所充実政策の効果と費用―家族・政府・市場による保育サー ビス供給の分析―」国立社会保障人口問題研究所編『少子社会の子育て支援』東 京大学出版会,所収,pp.241-267. 米谷信行, (1995) 「我が国の出生率低下の要因分析―都道府県別データに基づくクロ スセクション分析―」 『フィナンシャル・レビュー』 (大蔵省財政金融研究所,現・ 財務省財務総合政策研究所)第 34 号. 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