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持続可能な農業生産を支える取組

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持続可能な農業生産を支える取組
(6)持続可能な農業生産を支える取組
(6)
ア
持続可能な農業生産を支える取組
近年の気候変動による生産への影響とその対応
(温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化や異常気象の頻発)
地球温暖化は、農業生産にとって、CO2濃度の上昇による収量増加というプラスの面がある一
方、気温上昇、干ばつ、洪水等により、農地面積の減少、生産量の変動、栽培適地の移動等のマ
イナスの影響を及ぼすものと世界全体で懸念されています(図3­110)
。
近年、我が国においては、温室効果ガス1の増加に伴う地球温暖化に、数年∼数十年程度の時
間規模の自然変動が重なり、真夏日2の日数が増加、冬日の日数が減少するなど高温となる年が
頻出しています(図3­111)
。
図3−110 地球温暖化による農業生産等への影響の予測
北アメリカ
ヨーロッパ
今世紀早期の数十年間は、降雨依
存型農業の生産量が5∼20%増
加するが、地域間で重要なばらつ
きが生じる。
北ヨーロッパでは、気候変化により、暖房需要の減少、農産物生産量の増加、森林成長の増加が
みられるが、気候変化が継続すると、冬期の洪水、生態系危機、土壌安定性減少による悪影響が
便益を上回る可能性が高い。
中央ヨーロッパ、東ヨーロッパでは、夏の降水量が減少し、水ストレスが高まる。
南ヨーロッパの一部で、高温と干ばつが悪化し一般的に農作物生産が減少。
アジア
ラテンアメリカ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5(℃)
アフリカ
2020年までに7,500万∼2
億5千万人に水ストレスが高
まる。
いくつかの国で、降雨依存型
農業からの収穫量が2020年
までに50%程度減少。
2050年代までに10億人以
上に水不足の悪影響。
南アジア、東アジア等の人
口が密集しているメガデル
タ地帯で、洪水が増加。
21世紀半ばまでに、穀物
生産量は、東・東南アジア
で最大20%増加。中央・
南アジアで最大30%減少。
人口増加等もあり、いくつ
かの途上国で飢餓が継続。
第3
今世紀半ばまでにアマゾン東部
地域の熱帯雨林がサバンナに
徐々に代替。
より乾燥した地域では、農地の
塩類化と砂漠化により、いくつ
かの重要な農作物・家畜の生産
力が減少し、食料安全保障に悪
影響。
温帯地域では大豆生産量が増加。
豪州・ニュージーランド
降水量減少、蒸発量増加により、豪州南部・東部、ニュージーランド北東、東部地域で2030年までに
水関連の安全保障問題が強まる。
豪州南部・東部、ニュージーランド東部の一部で、増加する干ばつと火事のために、2030年までに農
業・林業の生産が減少。
ニュージーランドの西部・南部等においては、成長期の長期化、降霜の減少及び降水量の増加によって、
当初は便益がもたらされる。
資料:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「第4次評価報告書第2作業部会報告書」
を基に農林水産省で作成
注:地図は「第4次報告書(Figure SPM. 6. Alb)
」の100年後の平均地上気温の上昇予測。下線部はプラスの影響予測。
図3−111 我が国における真夏日等の年間日数の経年変化
1地 点 当 た りの年 間 日 数
1地 点 当 た りの年 間 日 数
資料:気象庁調べ(2009年)
注:国内15地点(網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、長野、水戸、銚子、境、浜田、彦根、多度津、名瀬、石垣島)の
出現日数から求めた1地点当たりの年間日数。細線は年々の値を、太線は11年移動平均値。
注 1 [用語の解説]
を参照
冬日は日最低気温が0度未満の日
2 真夏日は日最高気温が30度以上の日、
197
(近年の気候変動と農業生産面での対応)
我が国の生産現場においては、高温障害等地球温暖化によるものと思われる農作物への影響が
全国各地で発生しています1。例えば、水稲では登熟障害、りんご・みかん・ぶどう等では着色
不良・着色遅延、病害虫の多発、葉茎菜類では生育不良、乳用牛では乳量・乳成分の低下等が報
告されています(図3­112)
。
また、全球気候モデルによる水稲の収量の変化予測では、2081∼2100年には、気候変動の影
響が強まり、北日本で収量が増加する一方、中国・九州では収量が減少するとみられていま
す2。さらに、地球温暖化による作目の栽培適地の移動も予測されています(図3­113)
。
このため、地球温暖化の予測や農業における気候変動の影響を極力回避するための対応が検討
されています。これまでに、例えば、水稲では登熟期の高温を避けるため移植期を変更するなど
の適応策、ぶどうでは環状はく皮処理による着色向上技術等が開発されています(図3­114)
。
各都道府県段階においても、高温による品質低下を回避できる水稲の新品種の開発や、高温でも
着色するりんご品種の開発・導入、トマトの低段どり密植栽培3等による作期の変更、熱帯・亜
熱帯作物の導入によるブランド化等の取組が進められています。
図3−114 ぶどうの高温による着色不良と改善技術
図3−112 水稲の高温に
よる登熟障害
着色不良
着色良好
整粒
高温により発生した白未熟粒
資料:
(独)農業・食品産業技術総合研究機
構 九州沖縄農業研究センター
無処理のぶどう
幹を「環状はく皮」したぶどう
資料:
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
図3−113 温州みかんの栽培に適する年平均気温(15∼18℃)の分布
現在
2020年代
2040年代
2060年代
適地(15∼18℃)
より高温の地域
より低温の地域
資料:
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所
注:現在(1971∼2000年の平年値)の値及び2020年代、2040年代、2060年代の推定値
注 1 農林水産省
「平成20年地球温暖化影響調査レポート」
(平成21年
(2009年)
9月)
6 No.
2
(温暖化が日本の水稲栽培の潜在的特性に及ぼす
2 林陽生・石郷岡康史・横沢正幸・鳥谷均・後藤慎吉
『地球環境 Vol.
(2001年)
)
インパクト)
(
』
(社)
国際環境研究協会、
平成13年
3 (独)
農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター、
近畿中国四国農業研究センター
198
(6)持続可能な農業生産を支える取組
(CO2削減に向けた農業分野等での取組の実績)
我が国は、京都議定書1の第一約束期間(平成20(2008)∼平成24年(2012年)
)において、
基準年の平成2年(1990年)に比べ温室効果ガスを6%削減する約束をしています。平成20年
(2008年)の温室効果ガス排出量をみると、我が国全体では12億8,
200万 t­CO22となり、平成
2年(1990年)に比べ1.
6%増加となりました。農林水産分野においては、省エネ機器の導入や
燃油の価格高騰による使用量の減少、景気後退による電力使用量の減少、水稲の作付面積の減少
等により、農林水産業で3,
723万 t­CO2、食品製造業で1,
562万 t­CO2、合計5,
285万 t­CO2と
なり、平成2年(1990年)と比べて26.
3%減少しました(表3­8)
。
表3−8 我が国の農林水産業等における温室効果ガス排出量と中期目標
(単位:百万t−CO2)
2008年度
(基準年比)
1,261
―
1,282
(+1.6%)
72
―
53
(▲26.3)
農林水産業
54
―
37
(▲31.4)
二酸化炭素
22
―
11
(▲48.4)
メタン
18
―
15
(▲16.4)
一酸化二窒素
14
―
11
(▲24.0)
17
―
16
(▲10.6)
温室効果ガス排出量
農林水産業+食品製造業
食品製造業
京都議定書削減約束年
2008∼2012年
(基準年比)
(▲6%)
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
中期目標
2020年
(基準年比)
(▲25%)
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
第3
京都議定書
基準年
1990年
資料:環境省「2008年度(平成20年度)の温室効果ガス排出量(確定値)について」を基に農林水産省で作成
現在、平成25年(2013年)以降の枠組みづくりのための国際交渉が行われています。このなか
で、我が国は、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の
合意を前提として、温室効果ガスの排出量を平成32年(2020年)までに平成2年(1990年)比
で25%削減する中期目標を表明し、この達成に向け、あらゆる政策を総動員することとしてい
ます。このなかで、農林水産分野においても、省エネ施設・機械の導入や施肥の適正化、緑肥作
物3の作付け拡大等による農地の炭素貯留量の増加につながる土壌管理等の営農活動の普及を進
めていくことが必要になっています。また、排出量取引や「CO2の見える化4」等の新たな経済
的手法の構築を通じて、温室効果ガス削減への取組を加速化させていくことも重要です。
注 1 [用語の解説]
を参照
2 各温室効果ガスの排出量を温室効果をもたらす程度に応じて二酸化炭素換算し、
それらを合算したものです。
3 レンゲ等のマメ科植物で地力増進や窒素肥効が期待される作物です。
また、
ソルゴー等の非マメ科植物で土壌の物理性の改善
や病害虫抑止が期待される作物もあります。
4 農林水産分野における
「見える化」
とは、
農林水産物等の原材料調達、
生産から廃棄・リサイクル等の各段階にかかる温室効果
ガスの排出量、
排出削減量や農林水産物の生産者等の排出削減努力を消費者にわかりやすく示すことです。
199
事例
CO2 削減に向けた取組
(1)ヒートポンプの導入による取組
く す まち
福岡県
玖珠町
大分県玖珠町のバラの施設栽培を行うM農業生
産法人は、省エネルギー効果が高いヒートポンプ
大分県
や保温効果が高い高断熱被覆設備の導入により、
熊本県
宮崎県
CO2排出量の削減に取り組んでいます。ハウスの
暖房設備をA重油焚きのみの暖房機から電気式
ヒートポンプを導入した
ヒートポンプを組み合わせたハイブリッドシステムに転換したこ
ハウス
とで、燃油の使用量が大幅に削減できたことから、温室効果ガス
の排出量は年間577t-CO2削減される見込みです。また、この取組により、燃料コストの低減と
経営体質の強化が期待されます。
し
長野県
山梨県
神奈川県
ふくろ い
岐阜県
(2)木質バイオマス利用加温機の導入による取組
静岡県袋井市及び近隣市町のメロン栽培農家6
静岡県
戸は、ハウスの暖房設備として木質バイオマス焚
袋井市
き温水ボイラーを導入し、CO2排出量の削減に取
り組んでいます。これまで、ボイラーの燃料には
重油を使用していましたが、木くず等の木質バイ
木質バイオマス利用加温機
オマスを原料とした木質ペレットに変えたことにより、温室効果 を導入したハウス
ガスの排出量は年間1,382t-CO2削減される見込みです。また、
生産したメロンは、環境に配慮した農産物として販売されており、農林水産分野における温室効
果ガス削減の取組に対する消費者の理解醸成に役立つことが期待されます。
愛知県
(3)店舗で地元産木材を使用した取組
青森県
由利本荘市
秋田県
全国に牛丼店をチェーン展開するY社は、木造
店舗の建設により環境負荷軽減に取り組んでいま
す。外装をはじめ柱や内装材に地元産の秋田杉を
ゆ り ほんじょうし
使用した店舗(秋田県由利本荘市)では、木の温
もりが心地良さを与えるとともに、使用された木
材のなかに約2.7tの炭素が貯蔵されていると試算されていま
木材利用店舗(建築中)
す。Y社は、今後、全国で国産材を使用した店舗建設を予定して
おり、木材利用を通じた地球温暖化対策への貢献に取り組んでいくこととしています。
山形県
岩手県
宮城県
(省エネ技術の導入等による国内クレジット制度の取組)
中小企業や農家等が行った CO2排出削減のための取組は、国内クレジット制度1において、排
出削減量が認証され、大企業等の自主行動計画等の目標達成のために活用されます
(図3­115)
。
農林水産分野における国内クレジットについては、平成21年(2009年)7月に初めて、施設園芸
における A 重油焚きボイラーからヒートポンプへの転換による CO2削減事業が認証されまし
た。現在、国内クレジット制度において認証された国内クレジットの量は、我が国全体で延べ
注 1 京都議定書目標達成計画
(平成20年
(2008年)
3月28日閣議決定)
において規定されている、
大企業等の技術・資金等を提供
自主行動計画等の目標達成のために活
して中小企業等が行った CO2等の排出抑制のための取組による排出削減量を認証し、
用する制度です。
200
(6)持続可能な農業生産を支える取組
3.
5万 t­CO2、うち農林水産分野関係では延べ1.
2万 t­CO2 1となっています。
図3−115 排出量取引の国内統合市場の試行的実施の概要
国内統合市場
①試行排出量取引スキーム
②国内クレジット
企業が自主削減目標を設定、その達成を目指して排出削減を進
める。目標達成のためには、排出枠・クレジットが取引可能。
大企業等が技術・資金等を提供して中小企
業等が行った排出抑制の取組を認証(国内
クレジット)する制度。
排出総量目標、原単位目標など様々なオプションが選択可能で
あり、多くの企業の参加を得て日本型モデルを検討。
実排出量
B社
A社
資金・技術
国内クレジット
実排出量
削減目標
排出削減
協働(共
同)事業
削減量
自主行動計画と
整合的な目標。
妥当性を政府で
審査の上、関係
審議会等で評価
・検証。
C社(中小企業等)
必要な排出
量の算定・
報告、検証
等を実施。
③京都クレジット
〔海外における温室効果ガス削減分〕
自主行動計画への反映等を通じて京都議定書目標達成に貢献
資料:農林水産省作成
(
「CO2の見える化」の取組)
消費者に対しては、農産物等への「CO2の見える化」の推進等を通じ、地球温暖化対策の必要
第3
性、省 CO2の取組趣旨、表示内容に関する知識の普及等を行っていくことが必要です。
「CO2の
見える化」
の手法の一つであるカーボンフットプリント制度が現在試行的に実施されていますが、
今後、CO2排出量が商品選択の一つの基準となることにより、生産者や消費者が排出削減に向け
て主体的に行動することが期待されます(図3­116)
。なお、カーボンフットプリントは、世界
各地で検討が進められていることから、ISO(国際標準化機構)による国際規格化に向けた議論
が進められています。
図3−116 カーボンフットプリントマーク
カーボンフットプリントは直訳す
ると「炭素の足跡」です。製品(商
品・サービス)の原材料調達から
製造、運搬、消費、廃棄・リサイ
クルに至るまで、ライフサイクル
全体において排出される温室効果
ガスを、CO 2 量に換算して製品に
表示するものです。
資料:農林水産省作成
注 1 第11回国内クレジット認証委員会
(平成22年
(2010年)
3月26日)
時点
201
コラム ライフサイクルアセスメントとフード・マイレージ
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、製品の材料調達から廃棄に至る各段階における
エネルギー(燃料)
、資源の投入と排出を把握し、製品、サービスの環境への負荷を分析、評価
し、負荷の少ない生産への移行を検討する手法です。この手法を用いて、食料の生産から消費・
廃棄物処理に至る過程で必要となる燃料エネルギーの総量を算出すると、例えば、ごはん
*1
6,330kcal/kg、パン類9,510kcal/kg、めん類15,040kcal/kgとなります 。
一方、輸送距離にのみ着目したフード・マイレージがあります。食料輸送量に輸送距離を乗じ
た我が国のフード・マイレージは約9千億t・kmと試算され、韓国・米国等他国と比べて格段
に大きくなっており、この試算からも我が国が世界最大の農産物輸入国であるとともに、輸送に
*2
多くの化石燃料を使用していることがうかがえます 。
各国のフード・マイレージ
フード・マイレージ
(百万t・km)
(日本を100とした時の指数)
日本
900,208
(100)
韓国
317,169
(35)
米国
295,821
(33)
英国
187,986
(21)
*1 久守藤男『飽食経済のエネルギー分析』
(農山漁村文化協会、平成12年(2000年)3月)
*2 中田哲也『フード・マイレージ』
(日本評論社、平成19年(2007年)9月)
(バイオマス利活用の一層の取組が必要)
我が国では家畜排せつ物、稲わら、林地残材といったバイオマス1が年間3億2千万 t 発生し
ています。これらバイオマスについては、
「バイオマス・ニッポン総合戦略」
(平成18年(2006年)
3月)に基づき、全国各地で、飼肥料等の製品やバイオ燃料等のエネルギーとして利活用が進め
られています。例えば、市町村段階では、家畜排せつ物のたい肥化、間伐材等を利用した木質ペ
レット製造等により、バイオマスの地域内での循環を図るバイオマスタウン構想を策定する取組
が進められ、平成22年(2010年)3月末現在で全国268地区の構想が公表されています(図3­
117)
。
図3−117 バイオマスタウン構想公表地区
バイオマスタウン構想公表地区
2010年3月末 268地区
2010年度目標 300地区
資料:農林水産省作成
注 1 [用語の解説]
を参照
202
(6)持続可能な農業生産を支える取組
平成21年(2009年)9月には、バイオマスの活用の推進に関する施策を総合的・計画的に推進
するため、
「バイオマス活用推進基本法」が施行され、現在、政府のバイオマス利活用に関する
基本的事項を定めた「バイオマス活用推進基本計画」の策定実現に向けた検討が進められていま
す。今後、この基本計画に基づき、地域における計画の策定を推進するなど、バイオマスの利活
用について一層の取組が必要となっています。
バイオ燃料については、農山漁村の活性化や地球温暖化防止への貢献等の観点から、その生産
拡大に対し関心が高まっています。我が国では、平成19年(2007年)2月に、関係7府省が「国
産バイオ燃料の大幅な生産拡大に向けた工程表」を作成し、平成23年(2011年)に国産バイオ燃
料を5万 kl 生産する目標をたてているところです。
この目標の達成に向け、平成19年(2007年)に、原料の調達からバイオ燃料の製造・販売まで
地域の関係者が一体となった実証事業として、多収穫米や余剰てんさい等を原料としたバイオエ
タノール・廃食用油やなたね油等を原料としたバイオディーゼル燃料の製造が開始されました。
平成20年(2008年)では国産バイオ燃料の生産量は2千 kl となっていますが、平成21年度(2009
年度)からは、施設の本格的な稼働により生産量が拡大されることが期待されます(図3­118)
。
なお、平成20年(2008年)10月に施行された農林漁業バイオ燃料法1では、農林漁業者等とバイ
オ燃料製造業者が連携して農林漁業有機物資源からバイオ燃料を製造する取組や、バイオ燃料の
製造の高度化を図る研究開発等の取組を国が認定し、固定資産税の軽減等の支援が講じられてい
ます。
さらに、食料供給と両立できる稲わら等のソフトセルロース系原料からバイオエタノールを製
造する技術の確立が図られています。
第3
今後、このような事業を通じて、生産コスト面での課題等を解決しつつ、国産バイオ燃料の増
大に向けた取組を進めていく必要があります(図3­119)
。
図3−118 国産バイオ燃料生産の推移及び目標
万㎘
5
目標値
5万㎘
4
3
2
1
895㎘
2,228㎘
0
2007年
08
09
10
11
資料:農林水産省作成
注:バイオ燃料地域利用モデル実証事業及び地域バイオマス利活用交
付金実施主体から聴取して実績値を把握
注 1 正式名称は
「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律」
203
図3−119 バイオエタノール等の生産コスト(試算)
円/ℓ
500
400
300
200
100
54
46
0
ガソリン
100円/ℓ
CIF価格
製造費
原料費
ガソリン税
卸売価格
関税
49
46
430
288
46
6
ブラジル産
エタノール
52.3円/ℓ
83
糖蜜
90円/ℓ
7
46
52
49
45
規格外
小麦
98円/ℓ
小麦
(食用)
334円/ℓ
コメ
(原料米)
94円/ℓ
コメ
(食用)
479円/ℓ
資料:①ガソリンは元売会社の特約店向卸価格(石油情報センター、2009年4月平均)②ブラジル産エタノールはCIF価格(貿
易統計、2009年4月平均)
、関税(2009年度、13.4%)③糖蜜は原料費:糖蜜2千円/t(農林水産省試算)
=エタノール
原料7円/ℓ
(2,200tの糖蜜から700㎘のエタノールを製造)④規格外小麦は(財)
十勝振興機構試算:小麦22円/kg=
エタノール原料52円/ℓ(2.7万tの小麦から11,600㎘のエタノールを製造)⑤小麦(食用)は農業経営統計調査(2007
年産小麦生産費田畑計・北海道)
:122円/kg=エタノール原料288円/ℓ⑥コメは全農試算:コメ20円/kgで計算=エタ
ノール原料45円/ℓ(8万tのコメから3.6万㎘のエタノールを製造)⑦コメ(食用)は農業経営統計調査(2007年産米
生産費・北海道)
:197円/kg=エタノール原料430円/ℓ
注:1)
各製造コストには施設の設置コスト及びランニングコストを含む。
2)
小売価格はこれに流通経費、消費税がかかる(ガソリンでは合計20円程度)
。
3)
バイオエタノール等混合ガソリンについては、揮発油税及び地方揮発油税(53.8円/ℓ)のうち、混合バイオエタノー
ル分(上限3%)に相当する税額を軽減(2009年2月25日(「揮発油等の品質の確保等に関する法律の一部を改正する
法律」施行日)から2013年3月31日まで)
事例
ソフトセルロース利活用技術確立事業の取組
国産バイオ燃料の生産拡大を図るため、食料供給と両立できる稲わら・麦わら等のソフトセル
ロースを原料としたバイオエタノール生産が推進されていますが、効率的な製造技術は、いまだ
確立されていません。このため、原料の安価で効率的な収集運搬技術の開発導入、酵素等を用い
て効率的にバイオエタノールを製造する技術の開発導入等を図るための技術確立事業が行われて
います。
北海道ソフトセルロース利活用プロジェクト
原 料:稲わら、麦わら
なん ぽろ ちょう
なが ぬま ちょう
(北海道南幌町及び長沼町)
え にわ し
プラント設置場所:北海道恵庭市
施 設 規 模:3.7ℓ/日
秋田県ソフトセルロース利活用モデル地区
原 料:稲わら、籾殻
おお がた むら
(秋田県大潟村)
かた がみ し
プラント設置場所:秋田県潟上市
施 設 規 模:200ℓ/日
柏の葉ソフトセルロース利活用プロジェクト
兵庫県ソフトセルロース利活用プロジェクト
原 料:稲わら、麦わら
いな み ちょう
か さい し
(兵庫県加西市及び稲美町)
あかし し
プラント設置場所:兵庫県明石市
施 設 規 模:16ℓ/日
原 料:稲わら、再生茎
かしわ し
(千葉県柏市)
プラント設置場所:千葉県柏市
施 設 規 模:100ℓ/日
:2008年度採択地区
204
:2009年度採択地区
(6)持続可能な農業生産を支える取組
イ
環境保全型農業の取組状況
(環境保全型農業の取組)
農業は、その生産活動に伴う肥料、農薬等の利用、水・土壌管理等を通じて、環境への負荷を
生じさせています。このため、
「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和等に留意し
つつ、土づくり等を通じて化学肥料・農薬等による環境負荷の軽減、さらには農業が有する環境
1
保全機能の向上に配慮した持続的な農業」
である環境保全型農業の取組を進めていくことが重
要です。
農業者の環境保全型農業の取組に対する意識をみると、
「消費者の信頼感が高まる」
、
「地域の
環境をよくする」等の利点を多くあげており、関心が高いことがうかがえます(図3­120)
。ま
た、持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画を作成し、都道府県知事から認定されたエコ
ファーマーは増加傾向にあり、平成21年(2009年)9月末現在で19万2千件となっています(図
3­121)
。これを営農類型別にみると、水稲と野菜が全体の各4割程度の7万件、果樹が2割の
4万件となっています。
今後、このような環境保全型農業を進めていくためには、土壌診断を実施し、その結果を活用
して、たい肥の施用等を通じた土づくり、化学肥料・化学合成農薬の使用の低減を促進していく
ことが重要です。また、環境負荷低減・地球温暖化防止・生物多様性の保全等環境保全機能の向
図3−120 農業者の環境保全型農業の取組に対する意識
とても利点がある
43.6
消費者の信頼感が高まる
34.8
16.6
3.5
1.0
34.1
地域の環境をよくすることができる
43.8
16.9
4.0
0.6
36.3
自身の健康につながる
0
20
37.5
40
21.2
60
3.1
0.5
第3
どちらともいえない あまり利点がない
まったく
やや利点がある
利点がない
無回答
0.6
0.5
1.3
%
100
80
資料:農林水産省「食品及び農業・農村に関する意識・意向調査結果」
(2010年4月公表)
注:農業者モニター2,500人を対象に実施したアンケート調査(回答率78.9%)
図3−121 エコファーマー認定件数の推移
万件
20
16.8
15
0
19.2
その他
果樹
12.7
9.9
10
5
18.6
野菜
7.6
4.8
2.6
2002年度
水稲
03
04
05
06
07
08
09
(9月末現在)
資料:農林水産省調べ
注 1 農林水産省環境保全型農業推進本部
「環境保全型農業推進の基本的考え方」
(平成6年
(1994年)
4月)
205
上を図るために、これらの取組を行う農業者のネットワーク化を進め、交流会や技術研修会によ
けんさん
る相互研鑽の場を設けることを通じて、点の取組を面的・全国的に展開していくことも重要と
なっています。
(有機農業の取組)
化学肥料、化学合成農薬及び遺伝子組換え作物を使用しない有機農業の取組は、我が国におい
ては、平成21年(2009年)4月現在、有機 JAS 制度の認定を受けたほ場が田2,
810ha、畑5,
777ha
で耕地面積全体の0.
2%にとどまっており、諸外国に比べて低いのが現状です1。一方、有機
JAS 認定を受けた事業者は年々増加し、平成21年(2009年)3月現在で3,
924事業者(加工業者、
小分け業者等を含む)となっており、有機 JAS 制度のもとでの有機農産物の格付数量も野菜を
中心に増加しています(図3­122)
。
有機農業に対する農業者の意識は、
「条件が整えば取り組みたい」とする農業者が5割という
調査結果等から、その関心の高さがうかがえます。他方、有機農業を行う場合は、労働時間の増
加、収量の低下、有機農業に適した種苗の確保、土壌管理等への対応が必要となります。このほ
か、農業者からは有機農業を継続していくための必要な取組として、生産コストに見合う価格で
取引してくれる販路の確保・拡大、収量、品質を確保できる技術の確立等もあげられています
(表3­9)
。
図3−122 有機JAS制度のもとでの有機農産物の格付数量の推移
万t
6
5.3
5
4
4.4
4.6
4.7
4.8
5.6
その他
果樹
米
4.9
3.4
3
2
野菜
1
0
2001年度
02
03
04
05
06
07
08
資料:農林水産省調べ
表3−9 有機農業に取り組むうえで必要な条件に関する農業者の意識(複数回答)
生産コストに見合う価格で取引してくれる販路の確保
収量、品質を確保できる技術の確立
地域の行政や農協の働きかけや支援
技術を習得するための研修の充実
近隣農業者で取り組む者がいること
経営転換時の資金の確保
その他、無回答
69.0%
67.5%
23.2%
12.5%
7.3%
4.7%
4.9%
資料:農林水産省「有機農業をはじめとする環境保全型農業に関する意識・意向調査結
果」
(2007年11月公表)
注:農業者モニター2,500人を対象に実施したアンケート調査(回答率78.5%)
注 1 EU は3.
9%
(平成15年
(2003年)
)
、
米国は0.
6%
(平成20年
(2008年)
)
206
(6)持続可能な農業生産を支える取組
このため、水田の除草作業の軽減に資する除草ロボット、地域に合った有機栽培技術の確立等
の研究や化学合成農薬を使用しない病害虫防除技術の開発、地域における有機農業の参入希望者
に対する技術指導、販路開拓のためのマーケティング等を支援していくことが重要です。また、
消費者側からは、有機 JAS マークの認知度が低い、有機農産物がどこで売られているかがわか
らない、有機農産物の品揃えが少ないなどの問題も指摘されており、これらの対応策も今後検討
していく必要があります。
事例
有機農業の取組
岩手県
かわにしまち
(1)山形県川西町のY農業生産法人は、昭和60年(1985年)に食
の安全等の消費者ニーズを見据えて減農薬栽培に取り組む農業
者グループを結成、平成7年(1995年)に法人化しました。Y
法人は、現在、95人の農業者で構成されており、農薬等の生産
資材のコスト削減だけでなく、環境保全型農業を通じた持続的
な農業生産を実現するため、有機米、特別栽培米等の生産を
行っています。また、有機米等の生産に当たっては、市場が求
める品質・価格に応じた米の効率的な生産に取り組んでいま
す。さらに、直売や外食チェーンへの販売等、販路拡大にも努
めています。
秋田県
山形県
宮城県
川西町
新潟県
福島県
有機米の生産に取り組む
農業生産法人
おお の し
さかだに
石川県
大野市
第3
(2)福井県大野市の阪谷地区では、平成20年(2008年)から、地
域が一体となって有機農業の推進を図っています。現在、約
460戸の農家のうち、58戸が有機農業に取り組み、牛糞を利用
したたい肥による土づくり、地域内施設で製造された有機肥料
のぼかし等の土壌改良資材を活用しています。
また、生産されたさといも等の有機農産物は、学校給食に提
供しているほか、大野市内や首都圏で開催される有機農産物
フェアに出品するなど、消費者の有機農業に対する理解と関心
の増進に努めています。
福井県
岐阜県
滋賀県
京都府
消費者との交流
佐賀県
福岡県
長崎県
大分県
やま と ちょう
熊本県
山都町
宮崎県
(3)熊本県山都町では、平成15年(2003年)に有機農産物や特別
栽培農産物の生産に取り組んでいるグループ等により「山都町
有機農業協議会」が立ち上げられました。現在、123人の農業
者で構成され、協議会では土壌診断や技術支援を行うほか、牛
糞たい肥や油かす、魚粉等の有機質肥料を利用した土づくりを
行い、有機農業に取り組みやすい環境を整備しています。生産
したレタス、ばれいしょ等の野菜や米を学校給食に提供すると
ともに、消費者との交流や食育活動等を通じて有機農産物や特
別栽培農産物への理解に努めています。
鹿児島県
レタスの収穫風景
207
(環境負荷を低減しながら生産性の維持を図る防除手法)
化学農薬だけに依存するのではなく、例えば、輪作体系や抵抗性品種、熱による消毒1や機械
等を用いた物理的な防除、天敵やフェロモンの利用等を組み合わせる防除手法として、総合的病
害虫・雑草管理(IPM2)があります(図3­123)
。これは、病害虫の密度を制御することで、
環境への影響を極力少なくし、より生物多様性に配慮しながら、生産性の維持を図る農業生産の
方法であり、今後、さらなる推進を図っていく必要があります。
図3−123 総合的病害虫・雑草管理(IPM)の概要
【判断】
病害虫等の発生状
防除要否及びタイミングの判断
況が経済的被害を
生ずると判断
・発生予察情報の活用
・ほ場状況の観察 他
【予防】
【防除】
病害虫・雑草の発生しにくい環境の整備
多様な手法による防除
・耕種的対策の実施(作期移動、排水対策等)
・生物的防除(天敵等)
・輪作体系の導入、抵抗性品種の導入
・物理的防除(粘着板等)
・種子消毒の実施
・化学的防除(化学農薬)
・フェロモン剤を活用した予防
資料:農林水産省作成
事例
農家グループによる土着天敵の活用
あ
き
し
高知県のJA土佐あき管内の安芸市のナス施設栽培農家は、コナジラミ類
徳島県
防除のため、総合的病害虫・雑草管理(IPM)技術として、土着天敵のタバ
愛媛県
高
コカスミカメを取り入れた栽培を行っています。土着天敵は、8∼6月のナ
知
ス栽培期間中にハウス内に放飼し、その後、土着天敵用のハウスで温存し次
安芸市
県
作の栽培に再度、活用しています。土着天敵の温存ハウスは、遊休ハウス等
を活用し、主に農家グループが共同で管理を行っています。
土着天敵の確保に当たっては、温存ハウスの利用のほか、作型の違う地域間で土着天敵を移動
させる「天敵リレー」による地域間での需給の調整等を行っています。
このような取組により、農薬散布回数が58回から24回に、また、農薬の経費が6割減少した
などの効果がみられました。
土着天敵温存ハウスの内部
注 1 熱水や太陽熱等を利用して土壌病原菌等を死滅させる方法
2 Integrated Pest Management の略
208
タバコカスミカメ
(6)持続可能な農業生産を支える取組
ウ
生物多様性を重視した農業の取組状況
(農林水産業と生物多様性)
農林水産業は、自然の多様な生物がかかわる循環機能を利用した活動です。また、特に我が国
においては、その持続的な営みを通じて、里地・里山・里海といった特有の自然環境を形成・維
持し、生物多様性保全に貢献しています。
しかし、近年、担い手の減少等による農林水産業の活動の停滞に伴い、従来身近にみられた種
の減少や、野生鳥獣による農作物被害が深刻化しています。
このため、
「農林水産省生物多様性戦略」
(平成19年(2007年)7月策定)及び「生物多様性国
家戦略2010」
(平成22年(2010年)3月閣議決定)に基づき、有機農業をはじめとする環境保全
型農業の推進や、水田魚道の設置等生物多様性に配慮した生産基盤整備の推進、野生鳥獣被害対
策の推進等により、生物多様性保全を重視した農林水産業を一層推進していくことが必要です
(図3­124)
。
図3−124 農林水産省生物多様性戦略の概要
農林水産省生物多様性戦略(2007年7月策定)の推進
田園地域・里地里山の保全
里海・海洋の保全
間伐等による森林の
適切な整備・保全
漁業者を中心とした
藻場・干潟の保全活
動への支援
生物多様性と農林
水産業の関係を定
量的に計る生物多
様性指標の開発
第3
森林の保全
有機農業等環境保全
型農業の推進
生物多様性に配慮し
た生産基盤整備の推
進
農地に隣接する藪の
刈払等、鳥獣被害対
策の推進
関連施策の
効果的な推進
生物多様性を向上させる農業の拡大の推進
生物多様性のモニタリングや営農条件等の事例収集を通じ、食料生産と生物多様性
保全とを両立させる水田農業の取組を拡大 等
○ 生物多様性保全をより重視した農林水産業の推進
○ COP10を契機として我が国農林水産業の生物多様性保全への貢献を国内外に発信
資料:農林水産省作成
(生物多様性条約第10回締約国会議等の開催)
コ ッ プ テン
1
平成22年(2010年)10月には、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
が愛知県名古屋
市で開催されます。COP10では、
「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という2010年目
2
標に代わる新たな国際目標(ポスト2010年目標)や、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)
注 1 COP は、
Conference of the Parties の略
2 Access and Benefit-sharing の略。ABS の国際枠組みについては、
COP10までに検討作業を終了させることとされています。
209
が主要議題となっています。このような重要な節目となる会議が国内で開催されることに伴い、
生物多様性への関心が国内外で飛躍的に高まることから、我が国の生物多様性保全に貢献する農
林水産業について積極的に国内外に発信していくことが必要です。
モ ッ プ ファイブ
1
また、COP10に先だって開催されるカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP 5)
において
は、遺伝子組換え生物の国境を越える移動から生ずる損害の「責任と救済」に関する国際ルール2
が主要議題となっており、遺伝子組換え生物等に対する様々な立場をもつ各国にとって実効性の
あるバランスのとれた制度となるよう、我が国は議長国としてリーダーシップを発揮することが
求められています。
(
「生物多様性指標」の開発)
我が国における生物多様性関連の施策をより効果的に推進するため、農林水産業と生物多様性
の関係を科学的根拠に基づき定量的に計る「生物多様性指標」を平成20年度(2008年度)から5
か年で開発することとしています。このため、平成21年度(2009年度)だけでも延べ274地点の
水田や畑において、200万個体以上に上る生物が調査の対象となりました。
「生物多様性指標」については、今後現場で活用されることを踏まえ、農法や農業技術の変化
をわかりやすく反映し、国民にとって親しみやすいものとすることが重要です。
(広がる生きものマークの取組)
全国各地で、農林水産業の持続的な営みを通じて、多くの生きものが暮らせる豊かな環境を支
える取組が始まっています。生物多様性に配慮した農林水産業の実施と、そのようにして生産さ
れた農林水産物を活用して発信するものを総称して「生きものマーク」と呼んでいます(図3­
125)
。滋賀県高島市の「たかしま生きもの田んぼ米」や兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む米」等、
様々な地域で「生きものマーク」の取組は広がりつつあります。
図3−125 生きものマーク
たかしま し
滋賀県高島市では、田んぼの生きも
の全般を保全の対象とし、地域の農業
者グループが中心となって魚道やビオ
トープの設置、中干しの延期などの保
全策を行っているほか、栽培規定に
沿って生産された農産物に地域の生き
ものをデザインしたラベルを貼付して
販売しています。現在、農家12戸
(約12ha)が取り組んでおり、農家
自らがマーケティングや営業活動、情
報発信等を実践し、ブランド化を図っ
ています。
資料:農林水産省作成
注 1 MOP は、
Meeting of the Parties の略
2 MOP5においてカルタヘナ議定書の補足議定書として採択される予定です。
210
(6)持続可能な農業生産を支える取組
「生きものマーク」は、日々の食べものを通じて、国民が、それが生産されている豊かな自然
環境に思いをめぐらせ、生物多様性と調和して営まれる農林水産業の重要性に理解を深めるきっ
かけとなるものです。また、消費者が生きものマークの付いた商品を購入することは、こうした
農林水産業を支える活動に参加することでもあります。
平成22年(2010年)3月には、
「生きものマーク」についての取組事例集やその活用のための
1
手引きである「生きものマークガイドブック」
がとりまとめられたところであり、今後、これ
らの活用を通じて、生きものマークの取組がより多くの地域で行われるよう推進していく必要が
あります。
事例
COP10に向けた取組
えのきまえ 年)10月に愛知県名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議
働により実施した取組のなかで、県が開発した「水田魚道」を設置しまし
愛知県
安城市
静岡県
(COP10)に向けて生物多様性の意識を高めるために、愛知県が県民との協
岐阜県
長野県
あんじょうし
愛知県安城市の榎前町内会(榎前環境保全会)では、平成22年(2010
た。この水田魚道は、水田と水路を魚等が自由に行き来できるようにするも
のですが、水田魚道を設置した水田で魚毒性の低い農薬の使用や減農薬栽培
等、環境に配慮した栽培を行ったこともあり、水田を中心とした多様な生態系が回復しました。
なお、県では水田魚道の取組について、生物多様性に貢献する日本の農林水産業として
COP10の関連行事で情報発信することとしています。
第3
水田と水路をつなぐ水田魚道
水田に生息する生きもの
注 1 詳細は、
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/s_ikimono/guidebook/index.html を参照
211
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