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国連、そして核兵器のない世界に おける安全保障

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国連、そして核兵器のない世界に おける安全保障
(61)2009年(平成21年)1月25日
広島県医師会速報(第2036号)
昭和26年8月27日 第3種郵便物承認
I
PPNW
(核戦争防止国際医師会議)コーナー
国連、そして核兵器のない世界に
おける安全保障
潘基文国連事務総長の基調講演
JPPNW事務総長 片 岡 勝 子
第63回国連総会第一委員会(軍縮・安全保障)に並行して、2008年10月24日にニューヨー
クで開催されたイースト・ウエスト研究所主催の会議「機運をつかむー大量破壊兵器と軍縮
に関わる新たな東西合意を築くための具体策」において、潘基文国連事務総長は「国連、そ
して核兵器のない世界における安全保障」と題して基調講演をして核兵器のない世界に向け
ての意欲を示し、そのための国連の役割を強調した。
原文(英文)は次のホームページを参照されたい。ht
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なお、会議のアジェンダについては、次のホームページに掲載されている。
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国連事務総長としての私の主要課題のうち、
核兵器のない世界は優先順位のトップに位置づ
けられる。核兵器は比類なく危険なものである
にもかかわらず、非合法化する条約はない。核
兵器は、その無差別的影響、環境への影響、そ
して地域的・世界的安全保障への深刻な影響か
ら、再び使われてはならないという考え(核の
タブー)が世界中で支持されているものの、核
軍縮は現実的課題にはなっておらず、願望の域
を出ていない。
この分野において重要な決定を行うのは国家
であるが、国連も重要な役割を担っている。国
連は各国共通の利益となるような規範に各国が
合意できるように中心的な議論の場を提供し、
合意目標を追求するために分析、啓発、主張を
行う機関である。国連は全面完全軍縮を永年に
わたって追求しており、これは国連そのものの
アイデンティティーともなっている。国連総会
決議第1号(1
946年)は大量破壊兵器の廃絶を
求めるものであったし、同様の目的をもった数
百の国連総会決議がこれまでになされてきた。
核兵器は恐ろしい影響を無差別に生み出す。
意図的に使用されずとも事故は常に起こりうる
し、核兵器の製造は健康や環境に害を及ぼす。
テロリストが核兵器や核分裂性物質を手に入れ
る危険性もある。
ほとんどの国は核オプションを放棄し、核不
拡散条約(NPT)に基づく誓約を遵守してき
た。しかし核兵器の保有をステータス・シンボ
ルと見做したり、国の安全保障を核抑止論に
頼ったりしている国があり、未だに推定26,
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発の核兵器がある。このような核抑止ドクトリ
ンは伝染性のもので核拡散を引き起こし、核兵
器が使われる新たな可能性を生み出している。
原子力エネルギーはクリーンで、気候変化を
引き起こすような環境への排出物が少ないとし
て「原子力ルネッサンス」が起きようとしてい
る。これは核兵器の拡散やテロへの脅威から防
護すべき核物質の生産量と使用量を増加させる
ことにつながる。
軍縮への障害を乗り越えることは容易ではな
いが、軍拡がもたらす損失やリスクに関心を向
けねばならない。巨額の軍事予算によって多く
の利益が損なわれ、軍事的優位の追求によって
膨大な資源が消費されることを考えてほしい。
核兵器の危険性とコストに対する懸念から、
ハンス・ブリックス氏が立ち上げた大量破壊兵
器委員会、この場にご出席のキッシンジャー博
士らのアピールから生まれたフーバー・プラン、
新アジェンダ連合とノルウェーによる7カ国イ
ニシアティブ、オーストラリアと日本が立ち上
げた核不拡散及び核軍縮に関する国際委員会、
多くの市民グループや核兵器国による提案など、
核軍縮の大義に新たな命を吹き込もうという思
考が世界中で生まれている。
世界が経済や環境の分野で危機に直面するに
したがい、世界的な課題に対する世界的な解決
昭和26年8月27日 第3種郵便物承認
広島県医師会速報(第2036号)
策の必要性に多くの人々が気づきはじめた。こ
うした意識の変化も国際的軍縮を活性化させる
一助となろう。
このような精神に立って、私はここで「五つ
の提案」をしたい。
第1に、私は全てのNPT締約国、とりわけ
核兵器国に対し「核軍縮へつながる効果的な措
置に関する交渉を行う」という、NPTに基づ
く義務を果たすことを強く求める。
各国は相互に補強しあう別々の条約の枠組み
に合意すること、または確固たる検証システム
に裏付けられた核兵器禁止条約(NWC)の交
渉を検討することが可能である。コスタリカと
マレーシアの提案になるNWCの草案は、よい
出発点となろう。
世界唯一の国際軍縮交渉の場であるジュネー
ブの軍縮会議(CD)において、核兵器国は他
の国々とともに核軍縮に積極的に取り組むべき
である。米ロの保有する核兵器の大幅で検証可
能な削減を目指した2国間交渉も世界から歓迎
されよう。
各国政府はまた、検証に関する研究開発にさ
らに努力を払うべきで、核兵器国による検証問
題の会議を開催するという英国の提案は具体的
な一歩となろう。
第2に、安保理常任理事国は、核軍縮過程に
おける安全保障に関する協議を、例えば軍事参
謀委員会のような形で開始すべきである。これ
らの国は、非核兵器国に対して核兵器の使用や
威嚇を行わないことを明確に保障することがで
きる。安保理はまた、核軍縮に関するサミット
を呼びかけることもできよう。NPT非締約国
は自国の核兵器能力を凍結し、核軍縮に関する
誓約を行うべきである。
第3の提案は「法の支配」に関するものであ
る。核実験及び核分裂性物質の生産に関しては、
これまで一方的なモラトリアムしかなかった。
包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させ、
CDにおける核分裂性物質生産禁止条約(FM
CT、カットオフ条約)の交渉を直ちに無条件
に開始するための新たな努力が必要である。私
は中央アジア及びアフリカ非核兵器地帯条約の
発効を支持する。核兵器国が、非核兵器地帯条
約の全ての議定書を批准することを奨励する。
また、私は中東に非核兵器地帯を設置するため
の努力を強く支持する。さらに私は全てのNP
T締約国に対して、IAEAと保障措置協定を
締結するよう、また、追加議定書のもとに強化
2009年(平成21年)1月25日(62)
された保障措置を自発的に受け入れるよう要請
する。核燃料サイクルがエネルギーや不拡散の
問題に留まらないことを、私たちは忘れてはな
らない。その行く末は軍縮の未来をも左右する
ことになろう。
第4の提案は説明責任と透明性に関するもの
である。核兵器国は目標に向かって自国が行っ
ていることに関する説明文書をしばしば配布し
ているが、これらの説明が一般公衆の眼に触れ
ることはほとんどない。私はこのような文書を
国連事務局に送付するとともに、より広範な配
布を奨励するように求める。核兵器保有国は、
核兵器の保有量、核分裂性物質の備蓄量、特定
の軍縮成果に関して公開する情報量を増やすこ
とができるはずである。核兵器の総数に関する
公式の見積もりがないという事実は、さらなる
透明性が必要であることの証拠である。
第5の、すなわち最後の提案は、多くの補完
的措置が必要だということである。そのなかに
は、他の種類の大量破壊兵器(WMD)の廃絶、
WMDを使ったテロリズムの防止に向けた新た
な努力、通常兵器の生産及び取引の制限、ミサ
イルや宇宙兵器を含む新型兵器の禁止などが含
まれる。国連総会が「軍縮、不拡散、テロリス
トによるWMDの使用防止に関する世界サミッ
ト」の開催を求めるブリックス委員会の勧告を
受け入れることも可能である。
WMDを使ったテロの問題は解決不可能との
見方もある。しかし、軍縮において現実的かつ
検証可能な前進が図られれば、このような脅威
を根絶する能力も飛躍的に高まる。特定の種類
の兵器の保有自体を禁止する基本的な世界的規
範があれば、それらの管理強化を各国政府に促
すことが格段に容易になろう。もっとも恐ろし
い兵器とその材料が世界的に廃絶に向かえば、
WMDを使ったテロ攻撃の実行は困難になる。
われわれの努力が、テロの脅威を増大させる社
会、経済、文化並びに政治状況にも向けられて
いくことは、さらに望ましい。
世界の平和は我々皆の手中にある。それらは
国連憲章と政治的意志に表されている。単に軍
縮のみでなく、世界平和と安全保障のシステム
を強める新しい出発を考えよう。
軍縮が進むとき、世界も進歩する。これが国
連に対する強い支持の理由であり、重要課題に
ついての私の全面的サポートが期待されている
理由でもある。あなた方のサポートを感謝しま
す。
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