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家計貯蓄率研究におけるマクロとミクロ
家計貯蓄率研究におけるマクロとミクロ 石 山 嘉 英 (証券アナリストジャーナル編集委員会委員) 1.はじめに [2005]は、家計貯蓄率を被説明変数とし、家計 近年、家計部門の貯蓄率の低下が注目されてい の保有する金融資産残高、定期預金金利、従属人 る。米国においては1980年頃から家計貯蓄率の 口比率などを説明変数とする回帰式を推定してい 低下が目立つようになったが、日本においても るが、そのミクロ的基礎は不明である。仮に回帰 70年代半ばから同様の現象が起こっている。 式のデータへのフィットが良くても、個々の家計 日本の『国民経済計算』 (SNA)のデータによ が退職後に備えてライフサイクル的に貯蓄してい ると、家計部門の可処分所得に対する貯蓄の割合 るのか、退職者はどの程度貯蓄を取り崩している である家計貯蓄率は、74年度と76年度に約23 % のか、所得の変動リスクに備える予備的貯蓄はど という高いレベルを示していた。しかし、その後 の程度存在するのかなどの問題への答えは分から はほぼ一貫して下がり続け、特に2001年度以降 ない。マクロの家計貯蓄はミクロの家計貯蓄を集 に急落している。すなわち、2000年度に9.1%で 計したものである。したがって、マクロの家計貯 あったが、01年度に5.2 %、02年度に4.6 %、03 蓄率の研究においてもできるだけミクロ的基礎を 年度に3.9%となった。04年度は3.4%、05年度は 与えることが必要であろう。 3.5%、06年度は3.2%である。 マクロの家計貯蓄率を左右するものとして、人 SNAにおける家計貯蓄率は、自営業者、無職者、 口の高齢化は重要な要因ではあろうが、その他の 退職者などの家計をも含むすべての家計を対象と 要因をネグレクトしていいわけではない。Parker している。退職者家計の貯蓄率は低いので、人口 [1999]は、米国における家計貯蓄率の低下を説 の年齢構成が高齢化するだけでもマクロの家計貯 明するものとして、人口の高齢化という要因は重 蓄率は低下するであろうが、近年の貯蓄率の低下 要でないと結論している。その理由としては、米 は激しく、人口要因が果たして主因かどうか疑問 国では高齢化が他国よりも緩やかに進んでいると もある。人口の高齢化を主たる原因と結論してい いう事情もあるが、株価上昇による、家計金融資 るものとしては、Horioka[1991] 、古賀[2004] 、 産の増加という事情もある。ただし、Parkerはこ 内閣府[2005]などを挙げることができる。 れもあまり重要ではないことが分かったとしてい しかし、マクロ経済データと人口データのみ る。結局、彼が最も重要だと結論しているのは、 に基づく研究には限界がある。例えば、内閣府 すべての世代にわたって将来の消費の効用を割り 証券アナリストジャーナル 2008. 9 51