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バランスシート問題と長期不況

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バランスシート問題と長期不況
バランスシート問題と長期不況
―経済成長論からの分析―
一橋大学経済研究所
1
小林慶一郎
欧州債務危機の構造

バブル(不動産、国債)の崩壊によるバランスシート問題



欧州でも大きな住宅バブル
バランスシート問題: 負債 > 資産 (家計、銀行、企業、政府)
銀行救済:
⇒ 銀行のバランスシートの損失
⇒ 政府のバランスシートに移転
⇒ 国家債務危機へ

バランスシート調整(穴埋め)のコストをだれが負担?


どの国の納税者、預金者、債務者、債権者?
損失の分配ができず、バランスシート調整がストップ

政治のリーダーシップ
2
70
70
60
60
4/1/11
1/1/10
10/1/08
7/1/07
4/1/06
80
1/1/05
90
10/1/03
100
7/1/02
120
4/1/01
スペイン
米国
フランス
英国
1/1/00
2005=100
09/9
08/12
08/3
07/6
06/9
05/12
05/3
110
04/6
120
03/9
130
02/12
2002/3
欧米の住宅価格
2005=100
米国
110
100
90
80
(資料)OECD Factbook 2010; S&P
3
バランスシート調整の分析

バランスシート調整がなぜ必要か

「バランスシート問題は経済パフォーマンスの悪化を招く」

日本の1990年代:

「バランスシート問題は低成長と無関係」という主張


「不良債権は不況の結果であって、原因ではない」
バランスシート調整と低成長の因果関係は?

経済分析の役割
4
日本のGDPの推移(90年代)
兆円
600
実質GDP
潜在GDP
550
500
450
400
350
90年代以降
成長が鈍化
250
80Q1
81Q3
83Q1
84Q3
86Q1
87Q3
89Q1
90Q3
92Q1
93Q3
95Q1
96Q3
98Q1
99Q3
01Q1
02Q3
04Q1
05Q3
07Q1
08Q3
10Q1
300
(資料)内閣府「国民経済計算」、内閣府「今週の指標」No.1010
5
日本の生産性の低下
Hayashi
=Prescott
Kobayashi
=Inaba
JIP2011
1961-70
4.86
1971-80
0.83
1981-90
1.93
2.06
1.39
1991-2000
0.36
0.35
0.04
0.48
1.13
2001-2007
1.68
6
日本の資産価格の推移
600
1980=100
地価
日経225平均株価
500
400
300
200
100
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10
(資料)内閣府「国民経済計算」、日本経済新聞社
7
日本企業の参入と退出
万社
参入
退出
20
純参入(右目盛り)
15
10
5
0
-5
-10
04~06
01~04
99~01
96~99
94~96
91~94
89~91
86~89
81~86
78~81
-15
75~78
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
万社
-20
(資料)総務省「事業所・企業統計調査」
8
米国の企業の参入と退出
万社
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
2009
-20
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
純参入(右目盛り)
2001
2000
1999
退出
1998
1997
1996
1995
参入
1994
100
80
60
40
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
万社
(資料) U.S. Bureau of Labor Statistics, "Business Employment Dynamics"
9
バランスシート問題の分析
―なぜバランスシート問題が低生産性と低成長を招くのか

過去の実例(Reinhart and Rogoff)

世界恐慌では、生産回復に10年。失業率は平均16.9%増加。




Zombie Lending (Caballero, Hoshi, and Kashyap)



生産の落ち込みは4年以上。生産回復まで平均10年。
戦後の危機では生産回復までに4.4年。
大恐慌時:失業率は平均16.9%上昇(米国は3.2%から24.9%に)
「追い貸し」によって低生産性企業が存続。
高生産性企業が参入できない。
Debt Overhang (Lamont)

過剰債務があると、新規借入ができない
10
バランスシート問題の分析
― なぜバランスシート問題が低生産性と低成長を招くのか

借入制約が悪化 ⇒ 必要な運転資本が借りられない


健全企業 vs 過剰債務企業
過剰債務企業は銀行の支配下: 存続する限りDの返済が見込める。
健全企業の借入制約
wc  f
過剰債務企業の借入制約
f  VL
wc  f
f  D  VL  f  VL  D
wc  VL
wc  VL  D
(wc: 運転資本の借り入れ、 f: 返済可能額、VL:清算価値)

過剰債務企業では、運転資本の借入制約が厳しくなる
⇒ 過剰債務企業では、生産性・雇用・生産量が低下。
11
バランスシート問題の分析
―なぜバランスシート調整が低生産性と低成長を招くのか

資源が過剰債務企業に固定され、企業の新規参入が低下、
生産性が低迷

厳しい借入制約のため、過剰債務企業が担保資産を死蔵(土地等)

需要不足と担保不足のため、新規参入企業の利潤が減少

新規参入のインセンティブが低下⇒ R&Dが減少⇒ 技術進歩の停滞

内生的経済成長モデル:
過剰債務企業の割合が増加すると生産性の上昇がゼロに
12
内生的成長モデルの数値例

過剰債務企業の割合が増加
⇒ 新規参入の利益がマイナスに
⇒ 新規参入がゼロに
⇒ 生産性の上昇がゼロに
0.6
企業価値の差
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
0
20
40
60
80
100
過剰債務企業の割合(%)
13
バランスシート問題の分析
―なぜバランスシート調整は遅れるのか

適正な価額での債務削減(債権放棄)に貸し手と借り手が
コミットできる制度が存在しないこと

債権者は適正価格での債権放棄にコミットできない
(Lack of Commitment)

借り手は過剰債務状態から抜け出すことができない。

過剰債務状態が長期的に継続
14
欧州危機の今後

欧州の財政的統合と金融システムのバランスシート
調整が必要



アメリカも同様の問題に直面


バランスシート調整は遅れる
経済成長は低迷 (突発的なクライシスがなくても)
欧米はかなり長期的に低成長を余儀なくされる
欧米指導層がバランスシート調整の必要性を強く認
識する必要がある
15
欧州危機の今後


日本は相対的に安定が続くが・・・
潜在的には欧米をはるかに凌ぐ債務問題

当面は円高、低金利の継続

対外投資を拡大して「成熟した債権国」に進化する好機

金融緩和競争(通貨安競争)の激化への対応

金融政策、通貨政策、国債管理を連動した政策構想
16
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