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アジア市場の成長を享受する農業機械業界

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アジア市場の成長を享受する農業機械業界
ア ナ リ ス ト の 眼
アジア市場の成長を享受する農業機械業界
【ポイント】
1. 好業績を牽引してきた北米小型トラクター市場と内需に変調がみられる。
2. 所得水準の向上や農業人口の減少から、アジア市場は農機需要が急増している。
3. アジアの中でもタイと中国長江デルタ流域が成長ドライバーである。
4. 日本の農機メーカーは、両地域で高いシェアを誇る。
5. アジアの機械化需要は潜在成長力が大きい。
直近数年間、農業機械大手各社の業績は良好な事業環境を背景として順調に拡大して
きたが、国内及び北米市場の変調から先行きに対する不透明感が台頭している。
こうしたなか、農機各社は新たな成長に向けた施策としてタイ、中国を中心に据えた
アジア戦略を明確に打ち出し始めた。
1.北米、内需に陰り
図表 1 は農機大手 3 社の業績推移であるが、04/3 期から非常に高い伸びを示している
ことが分かる。日本メーカーが得意とする北米の小型トラクター市場が極めて活況であ
った事に加えて、主力の国内需要も安定的に推移したことが主因である。この結果、過
去 5 年間で各社の経常利益は 1.6 倍~5 倍へと急拡大している。
牽引役である北米の小型トラクターは住宅の軽土木や芝刈りなどに使用される非農
業用途が中心。北米住宅着工の拡大と共に市場が成長しており、05 年までの 5 年間で北
米向け小型トラクター(50 馬力以下)の輸出高は年率 14.5%の高成長を記録している。
しかし、06 年は住宅着工の減速を受けて需要低迷が鮮明になっており、06 年 1‐9 月累
計の輸出金額は前年同期比 16.6%減と急ブレーキがかっている。
図表1.農業機械大手3社の業績推移
18,000
(億円)
(億円)
図表2.農林機械内需
1,800
1,600
17,500
売上高(左目盛)
10.0%
国内受注額(右目盛)
前年比(左目盛)
1,200
16,500
1,000
16,000
800
600
15,500
43,000
41,000
39,000
1,400
経常利益(右目盛)
17,000
(百万円)
15.0%
5.0%
37,000
35,000
0.0%
33,000
-5.0%
400
31,000
29,000
-10.0%
15,000
200
14,500
0
02/3
03/3
04/3
05/3
(期)
(資料)会社資料から特殊費用を除き富国生命投資顧問作成
06/3
27,000
-15.0%
02
1月 4月 7月 0月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月
年 2年 2年 年1 3年1 3年4 3年7 年10 4年1 4年4 4年7 年10 5年1 5年4 5年7 年10 6年1 6年4 6年7 年10
0
0 02
0
0
0 03
0
0
0 04
0
0
0 05
0
0
0 06
(資料)内閣府
(備考)6ヵ月移動平均
25,000
アナリストの眼
他方、堅調に推移していた国内市場も 05 年後半から不振が目立つ(図表 2)。担い手
の育成などを謳った「21 世紀新農政 2006」の推進に伴い、農家が様子見姿勢を強めて
いることが背景とみられる。
2.アジア市場の台頭
こうしたなか、農機各社はアジア市場への展開を本格化させている。前述の通り日本
企業の海外戦略は北米の小型トラクターが中心であり、減速しているとはいえ総輸出に
占める北米の比率は 57%と依然高い(06 年 1‐9 月)。ただし、アジア市場も着実に存在
感を増しており、直近 5 年間の平均成長率は 19.7%と輸出全体の伸び率(同 15.6%)を大
きく上回る。輸出総額に占めるアジアの構成比は 01 年の 15.0%から 05 年は 17.3%へ
と上昇しており、その規模は欧州と肩を並べる水準にまで成長した(図表 3)。
図表3.輸出仕向地構成(2005年)
アフリカ
1%
中南米
2%
大洋州
2%
その他
0%
アジア
17%
390億円
1,340億円
北米
60%
図表4.農業機械輸出高推移
2.1
404億円
(2000年=1.0)
1.9
中近東
0%
欧州
18%
アジア
欧州
北米
1.7
1.5
1.3
1.1
0.9
0.7
2000
(資料)財務省通関統計
2001
(資料)財務省通関統計
2002
(年)
2003
2004
2005
アジアの農機市場が拡大している背景は、①都市部からの仕送りなどによる資金還流
を背景とした農村の所得水準向上、②農業人口の減少に伴う機械化ニーズの増大、など
があげられよう。
ある農機メーカーは新車需要の発生ポイントを、一人当たりの GDP が 2,500 ドルを
上回った時点と分析しているが、2004 年の段階で 2,500 ドルを上回っている地域は、タ
イに加えて中国の一部(長江デルタ流域)が該当する。実際に 2001 年から 2005 年までの
アジア向け輸出増加の過半は、この 2 地域によるものであった。農機各社はタイ・中国
をアジア戦略の核として位置づけており、両地域に資本を集中投入する構えである。
3.タイ・中国市場
タイはインドネシア、ベトナムに次ぐ東南アジア第 3 位の米生産国であり、その生産
量は日本の 2 倍強を誇る。しかし、都市化の進展などにより農業人口は 90 年代の 2,000
万人前後から 2004 年には 1,363 万人と大幅に減少している。こうした状況下、農業の
機械化が急速に進展しており、90 年代半ばから 10 年間で乗用トラクターの稼働台数は
2 倍以上に増加したとみられる。ただし、販売されるトラクターの大部分は中古車であ
り、最近まで日本勢にとってタイ市場は耕運機など低付加価値製品の市場でしかなかっ
た。ところが、所得水準の向上や機械メーカーの魅力的な金融プログラムの提供により
アナリストの眼
トラクターの新車需要が急増。06 年には 2 万台の新車販売台数を記録して、初めて中古
車の販売台数を上回った模様である。日本メーカーはタイ市場においてエンジンや耕運
機で 40 年間の販売実績を積み重ねてきたうえ、強力な販売網を整備していることから、
高いブランド力とシェアを獲得している。市場成長がダイレクトに販売増に結び付く構
図にあるといえよう。損益的には低価格ゾーンの製品が中心であることから、北米に比
較して低収益を余儀なくされているが、中期的には数量効果による利益改善が予想され
る。
一方、中国は賃刈業者向けのコンバインが中心。賃刈業者とは 4 月から 11 月の間、
収穫時期の早い中国南部を皮切りに、北上しながら中国各地で刈取を請け負う専門業者
のことである。賃刈業者のコンバインは年間稼働時間が 1,000 時間を越えるともいわれ
(日本は 100 時間程度)、極めて過酷な条件下で使用されている。このため、コンバイン
は高性能・高耐久性が最も重要な評価ポイントとなっており、品質面で大きな優位性を
持つ日本メーカーが高い市場占有率を誇っている。なお、2006 年の自脱式コンバイン市
場は前年比 50%増の 7,500 台に達した。
また、中期的には中国政府の農業機械化促進策が支援材料。利子補助金の交付などを
通じて、2010 年に向けて大幅な機械化の推進が計画されていることから、コンバインに
加えて、田植機の需要拡大が期待されている(図表 5)。
図表5.中国稲作機械化率の数値目標
2005年
2010年目標
32%
60%
8%
20%
収穫
田植
4.結び
図表 6 はアジア諸国の米作付面積と一人当たり GDP の散布図である。現段階で日本
の農機メーカーが対象とする市場は所得水準の関係からタイと中国の一部地域に過ぎな
いが、近い将来においてインドネシア、ベトナム、インドなど広大な水田を持つ地域も
ターゲットになる可能性がある。競合する欧米メーカーは水田稲作の機械化ノウハウに
乏しいだけに、同地域の機械化は日本勢に大きなビジネスチャンスをもたらすであろう。
図表6.アジア諸国の米作付面積とGDP
(百万ha)
50
インド
45
40
35
米
作 30
付
け 25
面
20
積
15
中国
インドネシア
10
ミャンマー
5
タイ
ベトナム
カンボジア
フィリピン
0
0
500
1000
1500
1人当たりGDP(ドル)
2000
2500
3000
(資料)USDA、外務省HP資料などから富国生命投資顧問作成
(富国生命投資顧問(株)シニアアナリスト 小山 誠)
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