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証券化技術の発達と自動車産業

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証券化技術の発達と自動車産業
証券化技術の発達と自動車産業
内田
修(横浜国立大学大学院)
米 国 の 自 動 車 市 場 で は 、購 入 者 が オ ー ト ロ ー ン や リ ー ス な ど の 販 売 金 融 を 利 用 す る 比
率 は 極 め て 高 い 。G M 等 の メ ー カ ー は ユ ー ザ ー に 対 し 、自 動 車 本 体 や ア フ タ ー サ ー ビ ス
に 加 え 、G M A C の よ う な 傘 下 の 販 売 金 融 会 社 を 使 っ て 、有 利 な 金 融 サ ー ビ ス を 提 供 し
な く て は 、生 き 残 っ て い け な い 。一 方 、メ ー カ ー 側 に と っ て 、販 売 金 融 事 業 は 、新 車 販
売戦略として重要な役割を果たしているほか、大きな収益源にもなっている。
自 動 車 販 売 金 融 会 社 は 、商 業 銀 行 の よ う な 預 金 業 務 を 行 っ て い な い た め 、資 金 調 達 面
で は 、一 般 事 業 会 社 と 大 差 は な い 。長 期 資 金 に つ い て は 、株 式 や 社 債 を 発 行 す る か 、銀
行 等 か ら 長 期 借 入 を 行 い 、短 期 資 金 に つ い て は 、C P 発 行 や 銀 行 等 か ら の 短 期 借 入 に 依
存せざるを得なかった。
1985 年 1 月 、 米 国 投 資 銀 行 の ソ ロ モ ン ・ ブ ラ ザ ー ズ に よ り 、 最 初 の オ ー ト ロ ー ン 債
権 の 証 券 化 が 行 わ れ た 。以 後 、自 動 車 販 売 金 融 会 社 は 、オ ー ト ロ ー ン・リ ー ス 債 権 の 証
券 化 に よ り 、同 債 権 を 早 期 に 現 金 化 で き る よ う に な り 、資 金 調 達 コ ス ト の 削 減 や 調 達 ソ
ー ス の 分 散 も 可 能 と な っ た 。さ ら に 、同 債 権 の 証 券 化 は 、収 益 向 上 や 、会 計 上 の オ フ バ
ランス効果にも資するようになった。
従 来 、流 動 性 危 機 は 金 融 機 関 に 特 有 の 問 題 で 、製 造 業 に は 無 縁 の も の と 考 え ら れ て き
た 。し か し 、近 年 の デ ィ ス イ ン タ ー ミ デ ィ エ ー シ ョ ン( 企 業 の 銀 行 離 れ )と 、事 業 会 社
の 直 接 調 達 拡 大 の 流 れ の な か で 、代 表 的 な 製 造 業 で あ る 自 動 車 業 界 で も 、販 売 金 融 事 業
に 依 存 す る 「 金 融 業 化 」( financialization) が 急 速 に 進 ん で き た 。
傘 下 の 販 売 金 融 会 社 の 証 券 化 を 通 じ て 、資 金 調 達 を 行 う 自 動 車 産 業 は 、金 融 市 場 の 変
調 か ら 、グ ル ー プ 全 体 の 資 金 繰 り に 大 き な 影 響 を 受 け る よ う な 構 造 に 変 化 し て し ま っ た 。
今 般 の 世 界 金 融 危 機 と 証 券 化 市 場 の 機 能 不 全 の な か で 、流 動 性 危 機 が 大 企 業 の 経 営 破 綻
の直接の引き金を引いたという点で、ベアー・スターンズやリーマン・ブラザーズと、
ク ラ イ ス ラ ー や G M と の 間 に 、大 き な 相 違 は な い 。こ の 点 は 、金 融 と 実 体 経 済 の 負 の 相
乗作用の典型例ともいえる。
自 動 車 メ ー カ ー は 、こ れ ま で 、リ コ ー ル の よ う な 製 品 の 問 題 に 対 す る 備 え は 行 っ て き
たが、自社の資金流動性に対する危機意識を十分に持っていたかどうか、疑問である。
証券化などの金融技術の発達の反面で、流動性プールの維持や、コンティンジェンシ
ー・フ ァ ン デ ィ ン グ・プ ラ ン( 危 機 時 の 資 金 調 達 計 画 )な ど の 流 動 性 管 理 技 術 の 向 上 は 、
今後の課題として残されている。
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