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特別支援学校におけるリズム遊びの実践事例

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特別支援学校におけるリズム遊びの実践事例
宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第1号 2015年8月1日
特別支援学校におけるリズム遊びの実践事例 †
茅野理子 *
宇都宮大学教育学部 *
概要 本報告では,リズム,かかわり,表現の観点でリズム遊びを位置づけ,本学教育学部附属特別支援学
校の児童とともに行った実践事例を通して,児童の活動とそれに対する教諭の評価を基に,リズム遊びの可
能性と課題について検討することを目的とした。実践からは,自然に2人組ができていたり,列で動けてい
たりとかかわりが生まれてきていることを検証することができた。ビデオ分析から見えてきたのは,児童一
人一人が自分なりの表現で動いているという事実であり,指導者としてそれを見届けることのできる複眼的
観察力の重要性についての省察である。
キーワード:リズム遊び,特別支援学校,知的障害教育,かかわり,表現
1.研究の目的
1月23日のみ1・2組 11名
近年,特別支援学校や特別支援学級に在籍してい
(3)実施場所 附属特別支援学校プレイルーム
る幼児児童生徒が増加する傾向にあり,その教育に
(4)指導は筆者が行った。
重きが置かれるようになっている。
(5)分析方法
知的障害児・者を対象としたダンス指導実践につ
全体を写す固定カメラ2台を正面左右に設置し撮
いては,佐分利,麻生,伊藤ら多くの舞踊教育関係
影した。その映像から,指導に対する児童の反応に
の研究者が貴重な報告,提言をしている。しかし,
ついて分析を行うとともに,学部指導主事にインタ
その多くは,中学部以上の実践であり,小学部の教
ビューした。
育課程における児童を対象とした実践は少ない。
そこで,本報告では,リズム,かかわり,表現の
3.実践内容
観点でリズム遊びを位置づけ,本学部附属特別支
(1)本校の学習形態
援学校の児童とともに今年度行った実践事例を通し
本校の学習形態は発達・学習支援と生活支援の二
て,児童の活動とそれに対する教諭の評価を基に,
ダンスプログラムの可能性と課題について検討する
つから構成されている。前者は,
「おはよう」
「うごき」
「体育」
「チャレンジ」に,
後者は,
「日常生活学習」
「生
ことを目的とした。
活学習」
「なかま」
「音楽」に分かれている。実践は,
2.研究方法
(2)指導にあたって
(1)実施日時 本実践は,学部指導主事を含めた9名(23日は7
平成27年1月16日,23日,2月9日
名)の教員が一緒に行動している。特に支援が必要
学部合同の「なかま」の時間に行ったものである。
いずれの日も10:50−11:30に実施
な児童には,教員がつきそう。学部指導主事とは,
(2)対象者 事前に指導内容,児童の実態,当日の様子などにつ
宇都宮大学教育学部附属特別支援学校
いて打ち合わせを行っているが,他教員とは打ち合
小学部1∼3組 17名 わせしていない。
Masako CHINO*: Case Study on Dance
Movement Practice at Special Support School.
* Faculty of Education, Utsunomiya University
(連絡先:[email protected])
(3)1月16日の実践について
1)実践内容
① 「おちた おちた」
簡単な動きから少しずつ動きを増やしていくと
− 237 −
ともに,友達の動きを指導者(筆者)が紹介し,
表1.ビデオ分析による児童の反応
真似することへ発展させた。
② 「ロンドン橋おちた」
みんなで輪になって,ゲームを楽しみながら,
歌のテンポに合わせてゆっくり歩いたり,早く歩
いたりのリトミック的な内容を取り入れた。
③ 「ミックスジュース」
定番の振付によるダンス。
④ 「キツネとガチョウ」
リズム遊びを取り入れたおにごっこ(子とり鬼)
として,対象の児童にとっては初めて行う活動。
3)指導主事との話し合いから
歌遊びの内容と動き方は以下の通りである。
「おちた おちた」で,子どもたちの方からバラ
ンスで止まる動きが出てきたのは,今年度の「うご
き」の授業のテーマとして,半年間練習を重ねてき
た成果であった。学んだ技を自然に実践しようとす
る子どもたちの動きに,「練習」とは違った自由な
動きでのリズム遊びの有効性を評価された。 (4)1月23日の実践について
1)実践内容
キツネ役の筆者の「子ガチョウだ」という声を
① 「おちた おちた」
聞いてから逃げるようにし,児童の反応を観て,
ウォーミングアップ的に。
席に着いたら逃げられたというルールをつくった。
② 「ホ・ホ・ホ」
サビ部分のリズムの良さにあわせて,跳ぶ動き
⑤ 「おちた おちた」
その場で先生の動きを真似する。
と揺れる動きの組み合わせで楽しく動けるように
2)実践に対する児童の反応
意図した。
① 「おちた おちた」
③ 「ロンドン橋おちた」
いろいろなところを走って止まる動きでは,低
ゆっくりと早くにプラスして止まる動きを取り
くなって止まる子や片足をあげてバランスで止ま
入れた。 る子,跳んでからバランスで止まる子などがあり,
④ 「おちた おちた」
それぞれの動きを指導者の方で紹介してみんなで
リーダーを決めて動きを真似する。
真似することができた。
⑤ 「ミックスジュース」
回る動きにかえて
④ 「キツネとガチョウ」
広汎性発達障害の子どもたちがよくする運動の
特徴として,
「跳ぶ」動きがあることから,その
要素を取り入れて歌遊びとした。指導者に集中し
ている様子が見えるとともに,他の子にぶつから
ないで逃げることができていた。
定型の問答である「あなたの好きなものは何?」
のときに,ある児童が自分の好きなものを尋ねら
れたと思って一所懸命答えようとしていた。そこ
1月16日の実践「ロンドン橋おちた」
からヒントを得て,これを発展させて表現の動き
2)実践に対する児童の反応
とすることにした(2月9日の内容参照)
。
ビデオから観察された児童の反応を表1に示す
(主要な4名について分析)
。
① 「おちた おちた」
既に何度か実践しているので,曲がかかると立
− 238 −
ち上がって走り始める子がほとんどであった(教
また,実践直後に1組の先生からは,「1組さん
員に促されるまで座っていたのは11名中3名で
は楽しかったのか,一所懸命やってたのか,疲れ
あった)
。バランスで止まる動きでは,
「トンボ」
ちゃったみたいです」という感想があった。
という声あり。後方で止まったままの子がいるが, (5)2月9日の実践について
手を小さくあげたり,片足をあげたり,自分なり
1)実践内容
に反応している。最後には自ら前へ出てくる様子
① おちた おちた
がみられた。
「走る−止まる」を課題に一連の動きを行う。
走り回るところで,他の人にぶつからないように
② 「ホ・ホ・ホ」
「ホ・ホ・ホ・ホ ゆれゆれゆれゆれ」のサビ
走ることに注意させた。
の部分だけ作っておいて,あとは動きが未完で
2回目は自分の好きな止まり方で止まる。
あった。子どもたちは回る動きも好きなので,
「回
② 「キツネとガチョウ」の発展
るよ」と言葉かけしたら,意図せず女児二人が両
「キツネとガチョウ」を発展させて,
「あなたの
手をつないで回っていた。みんなで真似してみる
好きなものはなに?」の後,子どもたちとの問答
と,友達同士,先生と一緒になど,楽しい関わり
とし,その答えを動きに変えていく内容とした。
ができたように思われる。歌いながら動いていた
子どもたちから出てきた好きなものは以下の通り
である。*印は教員が代弁したもの。
子もいた。
ビデオから観察された児童の反応は以下の通り
カメハメハ,たまご,横転する動き,消防車,
走って行ってトン(壁やマットにタッチ)
,両
である(主要な4名について分析)
。
腕をぐるぐる回す,うどん,電車,なわとび*,
表2.ビデオ分析による児童の反応
くるくる回る動き,
(アイドルの)嵐,
陸上*(走
る)
,ユラユラとかいぐり,2人組で座る,エ
ビバーガー*,バナナ*,アンパンマン
教員から出たもの:野球(投げて,打って,捕っ
て)
,花火,給食,平泳ぎ,ネコ
2)実践に対する児童の反応
① おちた おちた
前回の活動で,走るのに夢中になってかどうか,
友達を突き飛ばす接触があったので,他の人にぶ
つからないようにするということを大切なことと
して運動させた。
回したり,スピードを緩めた
りして対応できている子どもが数名いた。
2回目の自分の好きな止まり方は,バランス,
小さくうずくまってなどがみられた。
② キツネとガチョウ
一人一人の名前を呼びながら,好きなものを聞
き,それを動きにしていった。ただし,説明3分
46秒(座ったままで:2分40秒,立って:1分6秒),
全体で39分23秒の実践は少し長すぎたという反省
3)指導主事との話し合いから
もある。しかし,多くの子どもたちは集中をきら
「ホ・ホ・ホ」の曲で女児2人が両手をつないで回っ
さず,活動できていたし,すべての子どもたちか
ていたことについて,いままでみられなかったこと
ら様々な動きが生まれ,また,表現運動に発展で
と驚かれたようであった。友達や先生と2人組や3
きる内容もあった。「電車」の動きでは,筆者の
人組になって踊った後には,指導主事からも教員か
後ろに7名の児童がつながって電車になってい
らも拍手があった。
た。カメハメハ,たまご,消防車(ウーウーウー)
− 239 −
など,声を出しながら動きをすることができた。
ビデオから観察された児童の反応は表3の通り
もどちらでもいい」
(p.63)
これらは,どのような教育現場にあっても,子ど
もたちの気持ちを代弁するものであり,教育の核心
である(主要な3名について分析)
。
となるものであろう。
表3.ビデオ分析による児童の反応
本報告は,平成25 ∼ 27年度科学研究費助成事業
「広汎性発達障害児のコミュニケーション能力に働
きかけるリズム遊びの教材開発」
(基盤研究(C)課題
番号25350717)による。
謝辞
一緒に楽しくリズム遊びをしてくれて,いろいろ
なことを教えてくれた宇都宮大学教育学部附属特
別支援学校小学部のみなさんと,それを支えてくだ
さった先生方に感謝します。
3)指導主事との話し合いから
子どもたちからいろいろな動きが生まれたこと,
引用・参考文献
電車での子どもたちが列になって動けていたことに
1)佐分利育代(1993)知的障害児のダンス学習.
鳥取大学教育学部研究報告35(2)
:349‐362.
対して評価があった。
2) 佐分利育代(1996)知的障害児のダンス学習に
おけるコミュニケーション.日本体育学会大
4.むすびにかえて
会号 (47):592.
ビデオを通してみえてきた子どもたちの実態は,
それぞれその子なりの反応をしているという事実で
3) 麻生和江(2000)知的障害者と大学生の共同に
あった。
よる作品創作活動の経過と成果.舞踊教育学
それぞれのやり方で真似ができていたり,表現が
研究3:29-40.
4) 伊藤美智子(2014)知的障害者とその家族をメ
できていたりすることを認めることができた。
また,
「ホ・ホ・ホ」で自然発生的に2人組,あ
ンバーとするダンスグループの活動に関する
るいは3人組での動きができ,あるいは,「キツネ
質的研究.社)日本女子体育連盟学術研究30:
とガチョウ」の電車で7人が連なり,関わり合って
29-41
動けたことは,ダンスプログラムの可能性を改めて
5) 常森俊夫・平井章(2003)知的障害児における
感じさせるものであった。
ムーブメント教育−ムーブメント教育プログ
しかし,筆者自身,ビデオを見るまでは,その子
ラムアセスメント(MEPA)からみた効果に
なりの反応を見極めることができていなかったこと
ついて−.教育臨床総合研究紀要3:45-57.
に気づいた。 複眼的な観察の重要性を改めて認識
6) 村上祐介(2013)自閉症スペクトラム障害児の
した。
運動特性と指導法に関する研究動向.筑波大
また,リズム遊びは自由な活動であるという共通
学体育学紀要36:5-14.
7) 渡邉貴裕・橋本創一・菅野敦・中村勝二(2007)
理解を各教諭と深めておく必要がある。
特別支援学校における体育の教育課程に関す
あわせて今後の課題としたい。
る調査研究.発達障害支援システム学研究6
最後に自身自閉症である東田(2007)の言葉を引
(2)
: 45-51.
用したい。
「自分の気持ちを相手に伝えられるということは,
8) 東田直樹(2007)自閉症の僕が跳びはねる理由.
自分が人としてこの世界に存在していると自覚でき
エスコアール出版部.
(2015年 3月31日 受理)
ること」
(p.31)
「自分を好きになれるのなら,普通でも自閉症で
− 240 −
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