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1 6. 金融政策 6.1. 金融と経済

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1 6. 金融政策 6.1. 金融と経済
6. 金融政策
別機関
金融知識の専門性
中央銀行
政 府
マクロ安定化政策としての金融政策
90年代以降の日本経済の低迷と金融政策の関
係は?
不良債権処理
デフレ経済
金融システムの安定化の問題
1
6.1. 金融と経済
金融取引と金融機関
金融仲介専門機関の類別
①金融仲介機関(銀行,保険会社等)⇒間接金融
②証券業者⇒直接金融
金融仲介機関の役割
預金証書・
金融商品
金融資産は,大別して,「機能」,「収益予見性」,
「発生形態」,「取引形態」の4つの観点から分類.
①機能⇒決済勘定資産と投資勘定資産
前者は,各種経済取引の決済に利用される(流動
性(高),収益性(低)→現金,要求払い預金など).
後者は,決済勘定資産以外(定期性預金,信託,
債券,株式など). 収益確定(リスクなし) 収益不安定
②収益予見性⇒安全資産と危険資産
現金等の決済勘定資産はもちろん前者に該当.
投資勘定資産の中でも定期性預金は安全.その
他投資勘定資産は危険資産に.破綻すると? 4
③発生形態⇒間接証券と本源的証券(直接-)
前者は,金融仲介機関の負債として供給される
(だからリスクを負う).後者は,最終的な資金の借
り手が供給する.
④取引形態⇒相対取引資産と市場取引型資産
前者は,転売に制限がある.後者は,不特定多数
の投資家を対象に転売可能な金融資産.
保険証書
最終的な借り手 貸し出し
(企業; 投資資金
家計; 住宅資金)
銀行など
(狭義の金融
仲介機関)
間接証券
家計
資金調達
(預金・保険料
: 家計余裕資金)
証券業者の役割
最終的な借り手
本源的証券
証券業者
証券販売
株式・債券
2
家計
(他企業
・政府)
資金調達(資金余裕者→証券会社→最終的な借り手)
資金回収のリスク
間接金融では 金融仲介機関がリスクを負担 預
間接金融では,金融仲介機関がリスクを負担.預
金者には所定金利が.「ペイオフ」問題
⇒90年代以降の不良債権増加→「焦げ付き」
直接金融では,証券業者は単に資金の流れを仲
介するだけで,それ以上の責任なし.証券取得に伴
うリスクは,最終的な貸し手(投資家)が負担 3
金融仲介機関は,さまざまな金融商品を用いて,
異なるニーズをもつ資金の「借り手」と「貸し手」の
間を適切に仲介する.
5
企業と金融の関係
企業は,「株式」や「社債」を発行し必要な投資資
金を調達する.株式の購入者は「株主」となる.
企業の投資が失敗しても,株式価格が低下する
以外,株主に責任はない.逆に企業投資が成功し
利益が出ると,配当を得る.
債権者(⇔債務者)は,規定の債券利率以上の
収益を得ることはできない.企業投資失敗すれば,
株主同様,債券の全額回収は困難に.
株主は高収益望むが,債権者はリスクの少ない
安全な投資先望む.投資に関する考え方異なる.
6
1
日本⇒資金調達は,社債発行,銀行融資の方
が一般的だった.よってリスクの小さい安定的な
投資先好まれた.80年代以降,将来の見通しが立
たない時代に至り,金融仲介うまく機能せず
メインバンク
企業と長期的・総合的な取引関係を維持する銀行
(時に最大融資元 有力株主 役員派遣など)
(時に最大融資元,有力株主,役員派遣など).
経営難の際,再建策の主導的役割担う
モニタリング機能⇒融資先の審査・監督が銀行
ごとに重複し非効率→メインバンクが代表監視者
⇒内部情報蓄積; リスク負うことで積極監視; 債権
者かつ株主の銀行→株主利益反映した行動 7
6.2. 安定化政策: IS-LM分析
GDPと金融市場
「IS-LMモデル」⇒貨幣的側面と財市場の均衡を
同時に分析可能.金融政策の効果をみる.以前
の「国民所得の決定モデル(45°線分析)」では,
利子率所与の下で,財市場で需給が一致するよう
利子率所与の下で,財市場で需給が
致するよう
に国民所得が決定された. IS-LMモデルでは,
金融市場で利子率がどう決まるか明示して考える.
岩田-翁論争
貨幣供給
中央銀行の判断.貨幣供給量(M)の選択は金融
政策の守備範囲.つまり,貨幣供給は政策的に操
8
作可能な政策変数であると考える.
GDP増→マクロ経済活発化→取引需要増
貨幣需要(L)
貨幣を保有したい動機は?⇒取引需要と資産需要
特に資産需要は,資産として貨幣を需要する動
機を表す.利子率が高いとき,利子を生まない貨幣
で資産を保有することは損.逆に利子率低いとき
は,貨幣での資産保有は安全.
貨幣需要は,
L = L ( GDP , 利子率 )
(+)
(-)
貨幣市場の均衡
貨幣需給が一致するところで,利子率(r)が決定.
財市場において,すでにGDPが決定されたものと
みなし,貨幣供給量も中央銀行がM0に設定. 9
利子率
r*’
r*
LL’
LL
O
M0
貨幣需要
貨幣需要は利子率の減少関数(右下がり).曲
線LLが貨幣供給量M0と等しくなるところで,均衡
利子率(r*)が決まる
財市場でGDPが増加→資産需要が仮に不変で
も,取引需要増えるので,貨幣需要は全体として
10
増加→曲線LLがLL’へと右方へシフト
貨幣供給M0が変わらない限り,GDP増加でr*は
上昇.「GDP増→貨幣市場で均衡利子率上昇」
この関係を,縦軸に利子率(r),横軸にGDP(Y)
をとったグラフに表すと,以下のようになる.
利子率
O
LM曲線
GDP
11
IS曲線とLM曲線
LM曲線
前頁の図で示された,貨幣市場の均衡状態での利
子率とGDPとの正の相関を表す曲線.貨幣需給が
均衡するまで,つまり曲線上の点に至るまで利子率
rが調整される.
投資と利子率の関係-企業行動
投資と利 率 関係 企業行動
投資は利子率
利子率低⇒利子支払軽⇒投資増
の減少関数!!
I=f(r), f ’(r)< 0
利子率高⇒利子支払重⇒投資減
利子率の変化と財市場の反応
変化前: (rA→IA; 政府支出GA,均衡国民所得YA*)
12
いま何らかの理由で,rA→rBへと上昇!
2
投資は利子率の減少関数なので,投資水準はIB
に減少し,均衡国民所得もYB*へと低下する
変化後: (rB→IB; G不変,均衡国民所得YB*)
財市場の反応のまとめ-IS曲線の導出
利子率上昇→投資減→GDP減.縦軸に利子率,横
軸にGDP(Y)をとると 右下がりの曲線に
軸にGDP(Y)をとると,右下がりの曲線に.
r
財市場の均衡状態にお
rB
けるrとYの負の相関を表
rA
IS曲線
した曲線をIS曲線と呼ぶ
財需給が均衡するまで
Y
O
YB* YA*
(IS曲線上),Y調整される
13
IS-MP分析概説
「新しい」IS曲線
「古い」IS曲線では,将来期待は捨象(教科書での例外は
ブランシャール).(1)将来の期待実質GDP高ければ,設備
投資増加.(2)実質利子率(金利)高ければ,実質資本コス
ト上昇して設備投資減.←投資・・,消費の場合は?
形状は「古い」IS曲線と一緒
形状は「古い」IS曲線と
緒
期待実質GDPを一定として・・・
【注意】将来予想が変更され
ればIS曲線シフト.生産性上
昇が期待実質GDP高めると
予想された場合,実質金利が
一定でも,現在の消費や投資
は増加しIS曲線□シフト.
実質金利
IS曲線
0
実質GDP
16
GDPの決定: IS-LM分析の核心
(財市場): 利子率所与→需給調整でGDP決定
(貨幣-): GDP所与→需給調整で利子率決定
投資需要を経由し生じる2市場の相互依存関係を
考慮することで,GDPと利子率を同時に説明するの
が,「IS-LM分析」である r
LM曲線
IS曲線とLM曲線の交点
曲線
曲線
E
Eがマクロ経済の均衡点
点Eで2市場が同時に均
IS曲線
衡⇒Y*とr*が決定される
労働市場で完全雇用が O
Y
14
実現するとは限らない
金融政策(Monetary Policy)ルールとMP曲線
中央銀行の政策変数は何か?
・マネーストックを操作・・・LM曲線
・短期名目金利を操作・・・MP曲線
多くのCBは短期名目金利をターゲットに
Fed→FFレ ト
・Fed→FFレート
・日銀→無担保オーバーナイト・コールレート
現代の金融政策と分析ツール
IS-LM分析からIS-MP分析へ
短期の名目利子率をいかに設定するか
アメリカ ⇒ the fed funds rate
予備知識
・フィッシャー方程式
名目金利=実質金利+期待インフレ率
⇔実質金利=名目金利-期待インフレ率
・自然産出量(≈潜在GDP)
資本 労働 技術水準により規定される実質GDP
資本,労働,技術水準により規定される実質GDP
・GDPギャップ⇒ 実際のGDP-自然産出量
テイラー・ルール
名目金利=a+α×インフレ率+β×GDPギャップ
ただし,a > 0,α > 1,β≧ 0
D. Romer (2000) “Keynesian Macroeconomics without the
LM Curve,” Journal of Economic Perspectives, 14, 149-69.
The model with formal microfoundations: M. Woodford
(2003) Interest and Prices, Princeton University Press.
Textbook: C. I. Jones (2010) Macroeconomics: Economic
Crisis Update, W. W. Norton & Company.(宮川・荒井・大
久保・釣・徳井・細谷『ジョーンズ マクロ経済学Ⅱ』(短期変
動編)東洋経済新報社)
15
⇒CBは短期の政策決定の際に銀行間(インターバンク)金利に着目
金利の変更にはルールがある
「テイラー・ルール」
⇒金融政策がある法則性に従うことを見出したのはテイラー教授
17
J.B. Taylor (1993) “Discretion versus Policy Rules in Practice,” Carnegie-Rochester
Conference Series on Public Policy, 39, 195-214.
18
3
テイラー・ルールの具体例
名目金利=a+1.5・インフレ率+0.5・GDPギャップ
インフレ率の金利への影響
インフレ率1%→名目金利1.5%(↑)
[インフレ率の上昇幅以上に名目金利引き上げ!]
6.3. 金融政策の効果
公開市場操作:金融政策の中心的手段
CBが民間金融機関との間で国債などの債券や
手形を「売りオペ」,「買いオペ」.
ベース・マネー増減 (現金+日銀当座預金)
金融自由化→市場整備→公開市場操作の役割大
フィッシャー方程式より実質金利0.5%(↑)
実質金利の上昇は,主に投資需要を減退させることなど
を通じて総需要を減少させ,インフレを鎮静化させる.
右下がりの総需要曲線!
【例】CBが1兆円売りオペ(債券と交換に現金1兆
円を市中から吸収)→銀行の手持ち現金減→準
備金不足→銀行は企業・家計への信用供与減
19
22
GDPギャップの金利への影響
GDPギャップ-1%→名目金利0.5%(↓)
[実質GDPが自然産出量を1%下回る⇒いわゆるデフレギャップ]
フィッシャー方程式より実質金利0.5%(↓)
実質金利の下落は,主に投資需要を刺激することなどを
通じて総需要を増加させ,GDPギャップを縮小させる.
ギ
プ
テイラー・ルールの説明力
アメリカ:1985年以降の金融政策を適切に描写
日本:1990年代末まで妥当
法定預金準備率(支払準備率)操作
法定準備率=市中銀行預金量の内,支払準備
のためにCBに預ける必要のある一定比率
現金保有もCB当座預金も利子なし→法定準備
きっかりをCBに→法定準備率≈実際の準備率
【例】準備率(↑)→支払準備金増→外部貸出減(信
用創造抑制)→金融引き締め効果
法定準備率と信用創造との関係は?
[ゼロ金利時期説明困難 / 金利マイナスに / 名目金利のゼロ下限]
20
23
ところでMP曲線はどうなった?
先のGDPギャップの影響の例より・・・
・実質GDP低いほど,実質金利を低下させる
・実質GDP高いほど,実質金利を上昇させる
[期待インフレ率と自然産出量を一定として・・]
実質金利
MP’
MP
E’
E
MP’
E’
IS
IS-MP体系
実質GDP
インフレ率の上昇
名目金利の低下
21
信用創造のプロセス
預金準備率10%,現金が10億円だけ増加.このと
き市中銀行は10×0.1=1億円をCBへの預け金に
回し,残りを貸し出す(銀行の収益源は貸付によっ
て得る利子).
貸し付けられた9億円はどこかの銀行の口座に
振り込まれる そ 銀行は
振り込まれる.その銀行は9×0.1=0.9億円をCB
億円を
に.残り8.1億円を貸付に・・・ 預金通貨総額は?
10+9+8.1+・・・=10/(1-0.9)=100(億円)
〔初項=10,公比=0.9〕
数値例では,10倍の100億円だけ増加(⇒信用
創造).準備率低いほど,信用創造大きく
24
4
かつての主力選手-公定歩合(基準貸付利率)
日銀が市中銀行に貸出を行う際に適用される金利
以前は預金金利・貸出金利が公定歩合に連動⇒金融
政策の代表的手段だった 「政策金利」
政策スタンス示す役割⇒「アナウンスメント効果」
【例】政策スタンスに消費行動や投資行動反応
公定歩合操作の影響
公定歩合(↑/↓)⇒市中銀行の借入コスト(↑/↓)⇒市中金
利(↑/↓)⇒主に投資に影響し総需要抑制 or 刺激
金融自由化により役割低下し,名称も変わる(2006年)
現在は日銀による「補完貸付制度」の適用金利
制度を利用するのは,コール市場で借り入れ困難な信用力の低い
銀行に限定される⇒貸付利率変更の影響はかなり限定的
25
金融政策の特徴-機動性
国会審議を経由する必要なし.CBの金融政策決定会合
(画像).予想外の事態にも素早く対応可能.
日々の金融政策は,主に景気変動を微調整する手段と
して有効.
変更を市場が先読みする傾向があり,それを読み込ん
だ金融取引.市場期待に押し切られる金融政策も.
コミットメント(信頼される約束)の重要性
(1)将来の政策への不確実性を減らし将来物価の安定化
に寄与(2)人々の物価予想に積極的に働きかけ政策効果
高める [2001年の量的緩和]
「消費者物価上昇率が安定的にプラスになるまで政策継続」
・コミットメント ⇒ “explicit”ルール
・テイラー・ルール等 ⇒ “implicit”ルール
28
不況期の金融政策
拡張的金融政策⇒低金利政策,買いオペなど→貨
幣供給量増やす政策 「限界」も指摘される.
短期金利と金融政策
コールレートの変化は
他の金利にも波及する.
ピンク線 ⇒ コールレート
ブルー線 ⇒ 基準貸付利率
グレーゾーン ⇒ 景気後退期
(注)無担ON各月平均 (出所)日銀HP
日本のコールレートと基準貸付利率の推移
(1985年~2011年)
どのように決まるか
やはり資金需給で決まる CBが公開市場で買いオペを行
やはり資金需給で決まる.CBが公開市場で買いオペを行
うと,資金需要が低下しコールレート下がる.売りオペを行
うと,コールレート上がる.
誘導目標値の指針を示すのが,例えば
なぜ公開市場操作が重要なのか 暗黙のルールとしてのテイラー・ルール
多くのCBは,短期金利の誘導目標を決め,それに近づけ
るべく公開市場操作を行うため.
短期金利の目標を上下動 金融引締めと金融緩和 26
ゼロ金利政策と量的緩和政策
まず前頁の図をじっくり観察しよう 「失われた10年」
拡張的金融政策の限界
不況期特有の状況⇒企業の将来期待弱→利子率
が低下しても,投資需要あまり反応せず
これはLM曲線が水平な部分をもつ場合にあたる
⇒利子率はすでに十分に低い水準にある(=債券
価格は天井に達している)→経済主体は将来の金
利上昇を予想するため(=債券価格の下落を予想)
貨幣の投機的需要(資産需要)が無限大になる(債
29
券投資のキャピタル・ロス恐れるため)
r
LM
IS
ゼロ金利政策へ
1991年以降,誘導目標=コールレートを段階的に下げ,
金融緩和.【例】1999年2月~2000年8月解除
量的緩和政策の導入(2001年3月~2006年3月)
金融政策のターゲットを□ □ □ □ □ □から日銀当座
預金残高に.当座預金残高を段階的に引き上げ,ベー
ス・マネーを増やす政策.
⇒名目金利のゼロ下限に直面し,金融政策が困難になる中で,信
用創造によりマネーストックを増やしてデフレに対処しようとした.
2010年10月には包括緩和政策へ(新聞記事)
27
E
流動性のわな
O
LM’
貨幣供給増による
LM曲線のシフト
Y
この状況下では,金融政策により貨幣供給を増
加させても,全てが貨幣の投機的需要に吸収され,
利子率は下がらない.⇒利子率が低水準でも,悲
観的な期待をもつ企業投資は刺激されず,そのた
め有効需要の創出は生じず.⇔「流動性のわな」
(深刻な不況期には拡張的金融政策無効に) 30
5
21世紀初頭の日本→緩やかなデフ
インフレターゲット論
レ傾向.物価水準1-2%程度下落
デフレの悪影響
マクロの総需要低迷・不活発
①借り入れ企業→債務の実質的増加(債務額は
過去のデフレ前の金額)→新規投資抑制
②賃金の名目額は一般に変わらない→実質的賃
金上昇!→企業にとっては収益圧迫→投資抑制
③家計は物価の下落傾向予想→消費を先延ばし
しようかな・・・→消費意欲低下→モノが売れない
デフレ脱却の特効薬?-インフレターゲット
CBが2-3%程度の緩いインフレ目標,積極的金
融政策.金融政策でインフレ生じさせるのは容易
でない.インフレ期待蔓延→大幅物価上昇? 31
6.4. 金融行政と金融システム
金融業界はかつ
て最も手厚く規制
されていた産業
護送船団方式と金融ビッグバン
70年代前半まで,人為的低金利政策の下で,金
利が当局により規制.業務すみわけも固定化.新
規参入も,倒産での退出も認められず
の クサイ化 国債大量発行と国際資本移
2つのコクサイ化→国債大量発行と国際資本移
動活発化→自由化への胎動→国債流通市場整
備,94年預金金利は普通預金を含め完全自由化
金融ビッグバン→銀行・証券相互乗り入れ,外
国資本が破綻機関買収,異業種から新規参入→
不良債権に喘ぐ金融機関の倒産も現実化→他産
業同様,市場メカニズム働く産業に変身する? 32
信用不安と金融秩序
信用制度保持へのマイナス要因
90年代にバブル崩壊,不良債権問題,アジア通貨
危機,金融機関の経営破綻 ⇒マクロ経済に打撃
預金保険機構の登場
取り付け騒ぎを沈静化し,預金者保護を目的.預
金払い戻しを肩代わり・保証する+破綻機関に係
わる合併に際しても資金援助や不良債権買取.
97年日銀法改正⇒金融政策決定の透明性と中
央銀行の独立性; 金融再生委員会⇒検査・監督体
制; 金融再生法⇒破綻処理の仕組み; 早期健全化
法⇒公的資金注入の枠組み
33
不良債権の発生
バブル崩壊で地価・株価低下→担保資産価値減少
背景としての銀行の放漫経営(審査なし融資)
大企業は自力で資金調達するように→新融資先と
して不動産,リゾート開発重視⇔「土地神話」と「つ
ぶれない神話」に支えられ甘い将来収益予想
「つぶれない神話」
当局の「銀行はつぶさない」との護送船団方式.信
用不安の連鎖的拡大を危惧した金融秩序維持策.
80年代まで預金保険機構が本格的に機能したこと
なく,日銀が「最後の貸し手」として最大の拠り所に.
この神話が逆に放漫経営を助長した可能性. 34
放漫経営のゲーム分析
利 得
健全経営
(中,中)
銀
行
救済する
(大,小)
救済しない
(負,負)
放漫経営
【ストーリー】
銀行が健全経営をすれば必ず
生き残り,放漫経営をすれば
必ずつぶれる.政府は救済す
るか否かを選択.対象利得は
銀行と政府・国民.
《政 府》
(銀行,政府・国民)
35
銀行の利得
健全経営には努力コスト要る.よって,つぶれて救
済される方が銀行の利得高い.
政府の行動宣言
もし「つぶさない」と宣言すれば,銀行側には放漫経
営の誘因(銀行利得比較).しかし,政府の宣言の
意図は健全経営してもらいたいため.そのためには,
「救済しない」という姿勢示す必要あり(銀行利得比
較).健全経営強いるには「救済しない宣言」必要.
つぶれたら本当に救済しないのか?
救済なし⇒政府・国民利得は負(救済ありなら小).
結局,救済する.政府の行動宣言はincredible.36
6
放漫経営と金融行政
近年の金融機関破綻での状況⇒上記ゲーム対応
護送船団方式のもとで「つぶさない宣言」→放漫
経営の1つの誘因に.バブル期に放漫経営拡大し,
バブル崩壊後に大量の不良債権として顕在化
90年代以降の国際的金融大競争時代にあって
は,従来型の救済合併での急場しのぎにも限界
状況打開の方途
Credibleな「救済しない宣言」必要.憲法等の容易
に改正困難な法律で対応規定するのも一案.日銀
の独立性とも関連.従来の不透明な金融政策→放
漫経営助長し,不良債権処理先送りする誘因.37
ただ乗りの誘因
信用秩序(の維持)⇒公共財,社会的共通資本
不良債権と景気
90年代日本経済低迷→不良債権増大
景気悪化→企業収益悪化→不良債権増加
逆の因果のルート(2つのメカニズム)
不良債権累積問題→マクロ経済を押し下げる
① 不良債権
不良債権→銀行収益圧迫・仲介機能低下→
銀行収益圧迫 仲介機能低下
(不良債権処理額)>(銀行収益)状態継続→リスク
高い融資控える→「貸し渋り」→企業投資抑制
② 不良債権処理の遅れ→収益性高い事業(マ
クロ経済の牽引役)に資金回らず→マクロ経済低迷
加えて,不良債権→金融システムの信頼性損な
う→企業の投資意欲・家計の消費意欲減退 38
各金融機関はどれだけ支援=負担するか?
各行の最適戦略⇒自分以外の金融機関か公的資
金⇔懐痛めることなく信用秩序回復
破綻表面化のたびに支援方法を裁量的に決める
場合→全体として処理遅れ,金融不安長期化
ルールが存在する場合→各金融機関は最初から
思い切った負担受け入れやすく,早期に信用秩序
安定化(法的整理の手続き簡素化・透明化重要)
サラ金問題と酷似・・
時間経過するほど,問題処理コスト累積的に増大.
その場しのぎの対応だと,一層サラ金に頼ってしま
う(借り換え?).自己破産⇒コスト極めて大きい 41
不良債権処理の遅れ 3日三洋証券倒産; 4日コール市場で
デフォルト→狭義の金融不安;
17日北拓B消滅; 24日山一証券自主廃業
処理の先送り
→1997年11月の金融混乱を招く デフォルト=債務不履行;
債務者のデフォルト宣言
なぜ処理が遅れたか?
①将来また地価・株価が上昇するだろうという甘い
期待(銀行,当局) 「バブルよ再び・・・」
②不動産取引や紛争処理に係る法律上の制約
処分時間がかかりすぎるという問題
借り手の権利を過度に優遇し既得権化(明治時
代の法律,土地・住宅市場の発展妨害)
こうした硬直性は,処理にはマイナスだが,弁護
39
士等の仕事を増やし彼らのレントを大きく
金融機関の既得権
公的資金投入-国民の強い反発の背景
護送船団で「既得権益」享受してきた
生産性以上の給料がレントとして支払われている
⇒高賃金の銀行員の救済になぜ税金投入か???
金融規制緩和の必要性
規制緩和で既得権が消滅し,レントを反映した高賃
金が是正されれば,国民の反発も緩和.
公的資金投入の是非⇒金融システム維持の費用
と便益の比較という本来の判断基準で冷静に
金融ビッグバンを契機とした業界の再編
銀行
銀行
(破綻)
信用システム
銀行
銀行
各金融機関は安定的な信用システムにより大き
なメリット享受.不良債権により金融機関破綻⇒信
用秩序維持のためには,他の金融機関の支援(借
40
金棒引き)or公的資金投入が必要
42
7
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