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ファン‐スライダ・クランク機構を用いた壁面登攀ロボットの開発

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ファン‐スライダ・クランク機構を用いた壁面登攀ロボットの開発
ファン‐スライダ・クランク機構を用いた壁面登攀ロボットの開発
The development of the wall-climbing robot using fan-slider crank mechanism
精密工学専攻 27 号 鈴木 隼人
Hayato Suzuki
1.緒言
3.壁面登攀ロボット
近年,人にとって危険な作業をロボットに代行させる研究
3.1
ロボットの概要
が進んでおり,その中の研究対象の一つに,高層ビルなどの
波動伝播移動を規範とした壁面登攀ロボットの概観を
壁面での作業がある.壁面での作業には,清掃や塗装などが
Fig.2 に,仕様を Table 1 に示す.本ロボットは四つのユニッ
あり,知識と技術を兼ね備えた作業員が作業台を取り付ける
トを直線形状に連結した構造になっており,それぞれのユニ
ことで行っている.そのため,危険性や品質のばらつき,コ
ットは吸着機構,移動機構,シールで構成されている.また,
ストなどの問題がある.そこで,安全性・効率・コストなど
中間の連結部には二平面間の移動時にユニットを持ち上げ
の観点からロボットによる作業の自動化が進められている.
るための関節部が設けられている.
その中で,実用化されているロボットの吸着方法には真空
Suck
ポンプを用いた高負圧式(1)と磁気式(2)がある.しかし,これ
Extension and
Joint part
mechanism
contraction part
らの吸着方法では特定の場所のみで有効であるため,汎用性
に欠ける.そこで,多少の凹凸があっても移動できるように
プロペラ(3)やファン(4)を用いた低負圧式の吸着方法が研究さ
Adsorption
れている.しかし,その移動方法には車輪機構を用いている
part
Seal
ため,吸着力の制御が困難である.これは,移動の際,接地
面との間に隙間ができやすいために吸着力が安定しないこ
とが原因である.また,壁から滑り落ちず,かつ移動の妨げ
Fig.2 Wall-climbing robot using fan-slider crank mechanism
にならない程度の吸着力を維持し続ける必要があるため,急
Table 1 Specifications of the robot
激な状況の変化に弱く可搬性に問題がある.
一方,カタツムリの移動様式である腹足運動は平面を捉え
Length [ mm ]
やすい構造をしており,対地適応性が高く滑りにくいという
特徴(5)を持つ.そのため,本様式をロボットに応用すること
で,段差・目地・曲面・傾斜などの不整地の多い壁面での安
定した移動に期待できる.
Contraction
Extension
620
920
Width [ mm ]
200
Weight [ kg ]
2.2
そこで,本研究では腹足運動の基本原理である波動伝播移
動を規範とした壁面登攀ロボットを開発した.とりわけ本報
では,吸着システムの基礎特性について調べ,試作したロボ
ットを様々な壁面に適用し実験的な検討を行った.
3.2
吸着システムの概要
吸着システムの模式図を Fig.3 に示す.吸着力は,密封し
た吸着部内から空気を吸い出すことで内部圧力を下げ,大気
圧と内部圧力との差によって生じる.そのため,隙間から流
2.カタツムリの移動様式
カタツムリは腹足運動と呼ばれる移動方式で移動してい
る.ここで,腹足の断面図を Fig.1(6)に示す.腹足運動では前
入する流量よりも排出する流量を大きくすることで,完全な
密封状態を作り出さなくても吸着力を発生できる.
また,吸着部内で負圧を作るため,吸着部内から空気を排
斜筋と後斜筋の二種類の筋肉を用い,腹足波を発生させる.
出する際に大きな抵抗が生じる.そこで,排出には静圧が高
そして,この波を尾部から頭部にかけて繰り返し発生させる
く排気量の多いファンが適していると考え,遠心ファンを採
ことで前進している.また,腹足の中で波を形成していない
用した.
Flow of air
部分は地面に設置しているため,安定した移動ができる.
Adsorption part
Atmospheric
pressure
Negative pressure area
Fig.1
Cross section of the snail
Fig.3
Schematic view of the adsorption system
3.3
4.ロボットのモデル化
移動システムの概要
本ロボットは,吸着力の強弱に合わせてユニットを伸縮さ
せることで前進する.伸縮動作には,サーボモータを動力と
4.1
1 ユニットの力学的平衡モデル
ロボットが天井に吸着し,その状態を維持するためには,
したスライダ・クランク機構を用いた.ここで,ロボットが
吸着力がロボットの重量を上回ればいい.しかし,ロボット
前進する様子を Fig.4 に示す.具体的には,以下の手順に従
が壁に吸着し,その状態を維持するためには,以下の条件を
って前進を行う.
満たす必要がある.
(1) 最後尾のユニットの吸着力を下げ,ユニットを収縮さ
条件 1: 壁から滑り落ちない
条件 2: 壁からひっくり返らない
せる.
(2) 収縮させた最後尾のユニットの吸着力を上げ,次のユ
ここで,ロボットが壁に吸着するときに働く力を Fig.7 に
示す.力のつりあいより,吸着力を F,壁からの垂直抗力を
ニットの吸着力を下げる.
(3) 最後尾のユニットを伸張させつつ,次のユニットを収
N とすると,
FN
縮させる.
(4) 以降,同様にして,ユニットの伸縮を前方へ伝達させ
ることで前進する.
となる.また,ロボットの質量を M,重力加速度を g,接地
面に働く摩擦力をΣf とすると,
Adsorptive power
H
L
H
H
H
H
H
H
H
H
H
L
H
H
H
L
H
となる.ここで,条件 1 を満たすには,摩擦係数を μ とする
Traveling direction
と,
Σf ≦ N
(3)
となる必要がある.したがって,壁から滑り落ちないために
H: High adsorption power
L
L: Low adsorption power
3.4
(2)
Mg  Σf
H
H
Fig.4
(1)
Movement method of the robot
必要な吸着力は,以下のようになる.
F≧
Mg
(4)

次に,支点とする 0 点周りのモーメントのつりあいより,
シールの概要
空気の流入を防ぐシールの断面図を Fig.5 に示す.シール
材には,曲面や粗い面にも適応できるように柔軟性の高いシ
ール材を二種類採用した.大きな凹凸に対しては,軟質スポ
条件 2 を満たすには,ロボットの中心から 0 点までの距離を
R,壁からロボットの重心までの距離を H とすると,
FR  NR  GH
(5)
ンジ材が対応し,それ以外の小さな凹凸や隙間に対しては,
となる必要がある.したがって,壁からひっくり返らないた
ブラシシールが対応する.
めに必要な吸着力は,N = 0 とすると,以下のようになる.
Adsorption
part
F≧
Brush seal
Soft sponge
MgH
R
(6)
ここで,吸着力 F は大気圧との差によって生じる圧力 P に
Fig.5
3.5
Cross section of the seal
吸着部の面積 A を掛けたものである.
F  PA
(7)
以上のことから,ロボットが壁に吸着するのに必要な吸着
ロボットの動作方法
本ロボットの制御には,二つの制御用マイコン H8/3052F
を用いた.二つの H8 マイコンは,それぞれサーボモータと
遠心ファンの動力である DC モータを制御している.そして,
力は,以下のようになる.
 Mg
MgH 
F  max
, 
R 


サーボモータ用の H8 マイコンをマスターとし,伸縮動作に
Σf
合わせて吸着力の調整を行っている.制御方法の構成図を
Fig.6 に示す.
Adsorption
part
Battery
H8 micro
computer
Servo motor
Fan
H8 micro
computer
Robot
Motor
driver
Block diagram of control method
Motor
F
N
R
DC Motor
Battery
Fig.6
(8)
0 Point
H
Mg
Fig.7 Mechanical parallelism model
4.2
吸着機構のモデル化
▲ Adsorption part:A
■ Adsorption part:B
Adsorption part:A
(Theory)
Adsorption part:B
(Theory)
(7)
池田ら の提案を基にした吸着機構のモデルを Fig.8 に示
す.ここで,遠心ファンの吸引圧を Pv,吸着部の内部圧力を
◆ Adsorption part:C
Adsorption part:C
(Theory)
140
Adsorption power [N]
P(t),大気圧を P0 とし,圧力はゲージ圧とする.漏れなどに
よって大気から吸着部内へ流れる空気の流量および吸着部
内から遠心ファンによって排出される空気の流量をそれぞ
. .
れ g1,g2 とする.
また,モデル化にあたり,以下に挙げる仮定を設けること
で簡略化した.
仮定1) 隙間から流入する流量は圧力差に比例する
120
100
80
60
40
20
0
0
仮定2) 吸着部内では等温変化する
2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000
Rotational speed [r/m]
以上の仮定より,次式が成立する.
g 1  k1 ( P0  P (t ))
(9)
g 2  k 2 ( P (t )  Pv )
(10)
g  g 1  g 2
(11)
P (t )  g / c
(12)
Fig.9 Relation between rotational speed and adsorption power
5.2
動特性
吸着機構の動特性として,内部圧力の立ち上がり時間の測
定を行った.実験結果を Fig.10 に示す.また,結果のシミュ
なお,k1,k2 は圧力差を流量に変換する比例定数であり,c
レーション値は式(13)によって求めた値である.結果より,
は吸着部の体積などに関する定数である.
内部圧力が高くなるほど定常状態までに時間がかかり,4~6
以上のことから,上記の式を解くと,吸着部の内部圧力の
ン結果と比較すると,高回転時に立ち上がり誤差が見られる.
時間変化は次式のように求められる.
P(t ) 
秒で定常状態になることがわかった.また,シミュレーショ
k1 P0  k 2 Pv
k P  k 2 Pv 
 [ P(0)  1 0
]e
k1  k 2
k1  k 2
k1  k 2
t
c
これは,シミュレーションではモータの立ち上がり特性を考
(13)
慮していないことが原因である.
0
Flow of air
Simulation
(17100 [r/m])
Simulation
(13800 [r/m])
Simulation
(10900 [r/m])
Simulation
(8500 [r/m])
Simulation
(6000 [r/m])
17100 [r/m]
p
pv
g・
0
Internal pressure [kPa]
-1
Adsorption
part
2
・
g1
g・ 1
P(t)
-3
13800 [r/m]
-4
10900 [r/m]
8500 [r/m]
-5
Fig.8 Model of the adsorption mechanism
0
2
4
6
8
10
6000 [r/m]
Time [s]
5.吸着機構の基礎特性
5.1
-2
Fig.10 Response at time of internal pressure
静特性
吸着機構の静特性として,回転数と吸着部の大きさが吸着
力に与える影響および,内部圧力と吸着力の関係について調
べた.吸着部の仕様を Table 2 に実験結果を Fig.9 に示す.結
果より,吸着力と回転数は比例傾向にあり,吸着部の面積を
6.走行実験
6.1
走行条件
開発したロボットの走行実験を行い,進行方向と走行環境
の違いが走行に与える影響について調べた.
大きくすることで吸着力を上げることができる.また,測定
進行方向に関する実験では,走行環境をホワイトボードと
した内部圧力に吸着部の面積を掛けることで吸着力を求め
し,垂直壁面上昇,垂直壁面下降,垂直壁面水平移動,水平
られることが確認できた.
面移動,水平面天井移動を行った.
走行環境に関する実験では,進行方向を垂直壁面上昇とし,
Table 2 Specification of adsorption part
滑らかな壁面,ガラス面,滑らかで目地の小さいタイル壁,
Adsorption part
A
B
C
Diameter [ mm ]
220
200
185
また,動作条件を以下に示す.
Height [ mm ]
40
40
45
Area [ m2 ]
0.38×10-2
0.31×10-2
0.27×10-2
条件 1) 遠心ファンの立ち上がり・立下り時間:4 秒
Volume [ m3 ]
1.52×10-4
1.24×10-4
1.21×10-4
Weight [ kg ]
0.23
0.24
0.26
ブロック塀,粗く目地の大きいタイル壁で行った.
条件 2) ユニットの伸張・収縮時間:2 秒
条件 3) 1 サイクルの時間:24 秒
6.2
実験結果(進行方向が走行に与える影響)
走行実験の様子を Fig.11 に,実験結果を Fig.12 に示す.結
果より,移動速度にばらつきはあるが進行方向に関係なく移
動できることが確認できた.理論速度との差に関しては,水
平面移動と天井移動で同程度の速度低下が見られることか
ら,伸縮動作の不具合が原因であると考えた.また,垂直壁
面での走行では,重力によるすべりの影響もあると考えた.
Smooth wall
Vertical migration
Pane
Smooth tile
Horizontal migration
Block wall
Ceiling migration
Rough tile
Fig.14 Appearance of experiment with various walls
Passing speed [cm/min]
Fig.11 Appearance of experiment with running direction
30.0
25.0
7.結言
26.6
25.0
23.2
21.3
19.6
20.0
22.5
本研究では,カタツムリの移動様式に着目し,波動伝播移
動を規範とした壁面登攀ロボットを開発した.そして,走行
実験により,進行方向や走行環境にとらわれずに走行できる
15.0
ことを確認した.
10.0
また,より汎用性を高めるために遠心ファンに着目し,吸
5.0
着力を制御できる吸着機構の開発を行った.そして,吸着機
0.0
Theory speed Climbing on the
wall
Moving
downward on
the wall
Horizontal
Moving on the Movement on
movement on horizontal plane
the ceiling
the wall
Traveling direction
構のモデル化および吸着実験を行い,吸着機構の基礎特性に
ついて調べた.
今後の課題は,壁から天井などの二平面間での移動や段差
Fig.12 Speed comparison by difference of traveling direction
での移動を可能にすることである.また,各ユニットに圧力
センサを搭載し,内部圧力のフィードバック制御を行うこと
6.3
実験結果(走行環境が走行に与える影響)
でより安全かつ,スムーズな走行を可能にすることである.
実験結果を Fig.13 に,走行実験の様子を Fig.14 に示す.結
果より,速度にばらつきがあるもののどの平面でも移動でき
8.参考文献
ることが確認できた.走行環境で比較すると,粗く目地の大
(1) 三宅,石原,吉田,吸着型窓清掃小型ロボットの開発,
きいタイル壁では他に比べ移動速度が大きく低下すること
がわかる.これは,吸着部に隙間ができたことで吸着力が下
がり,他に比べて大きなすべりが生じたことが原因であると
考えた.また,理論速度との差は,壁面の種類によって摩擦
Passing speed [cm/min]
が変化することや伸縮動作の不具合が原因であると考えた.
ト学会誌,25 巻 5 号,2007
(3) Daijun Xu and Xueshan Gaao,Suction Ability Analyses of a
Novel Wall Climbing Robot , 2006 IEEE International
Conference on Robotics and Biomimetics
30.0
25.0
第10回ロボティクスシンポジア,2005
(2) 鶴,米田,磁気同期駆動型窓掃除ロボット,日本ロボッ
25.0
22.3
19.8
20.0
21.5
(4) Jizhong Xiao and Ali sadegh,Modular Wall Climbing Robots
20.6
with Transition Capability ,
13.0
15.0
2005 IEEE International
Conference on Robotics and Biomimetics
(5) 藤原,森川,小林,陸生軟体動物の腹足移動機構に関す
10.0
る研究,日本機械学会論文集(C 編),67,658,(2001-6)
5.0
0.0
Theory
speed
Smooth wall
Pane
Smooth tile
Block wall
Rough tile
Running environment
Fig.13 Speed comparison by difference of running environment
(6) H.D.Jones , Circulatory pressures in Helix pomatia ,
L.Comp.Biochem.Physiol ,39A,289,(1971)
(7) 池田喜一,矢野智昭,走査型吸盤の基礎的研究,日本ロ
ボット学会誌,6 巻 3 号,1988
Fly UP