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- 47 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成
【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-1 菌かき、注水 【技術内容】 ビン栽培においては、菌糸がビン全体にまん延後、ビン上部の接種した種菌を取り除き、新しく成 長した菌床表面を露出させる操作を行う。これを菌かきとよび、その後菌床表面に水分を補給するた め注水を行う。いずれも原基形成を促し、芽出しをそろえることを目的とする。菌かきは、ヒラタケ、 エノキタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、エリンギなどで行われており、ナメコは2回以上収穫する ときに行われる場合がある。また、注水はビン口一杯まで水を注入し 1~2 時間後に残った水を捨て る方法のほか、散水で行う方法などがあり、エリンギのように注水はせずに菌かき後、直ちに芽出し 工程へ移行する場合もある。 菌かきの方法には、菌床面をあまり傷付けずに種菌だけを取り除く「平かき」と、種菌とともに菌 床を 5~10mm 取り除く「ぶっかき」 、菌床面中央部 20~30mm の円形部分を残して周縁部をかき取 る「まんじゅうかき」があり、きのこの種類により使い分ける(図1)。平がきは、ぶっかきより芽出 しが 1~2 日早く、発生するきのこの数が多いのに対して、ぶっかきは培養中の乾燥による発生不良 が少ないという傾向がある。まんじゅうかきは、芽切りが遅れることなく、かつ芽数もある程度抑え ることが可能である。 エノキタケでは、培養期間中菌床が乾燥しやすいコーンコブ培地ではぶっかきが適する。また、菌 かきの時期は菌廻り完了時が適期だが、コーンコブ培地の場合は菌廻りの 2~3 日前から可能である。 注水は、散水で行う。ブナシメジでは、培養、熟成が終了後、まんじゅう型の菌かきを行い、注水後、 ビン口全体に有孔ポリエチレンフィルムか湿らせたウレタンマットなどを被覆し、乾燥を防ぐ。エリ ンギでは、菌かき方法別の発生試験結果から、ぶっかきのなかでも菌床表面を 10~15mm かき取る「深 かき」法が、きのこの大型化に有効であることが明らかになった。また、ヌメリスギタケでは、ぶっ かき法により菌かき後、 水道水や地下水などの新鮮な水を 1 ビン当たり役 15~30ml ずつ注水するか、 またはビン口まで(約 40~45ml)注水し 3 時間後に排出する。 【図】 図1 まんじゅうかき(山かき)と平かき 出典: 「第四章 シリーズ エリンギ栽培の実際 3.栽培の実際 (5)発生操作-菌かき・芽出し-」、新特産 エリンギ-安定栽培の実際と販売・利用-、2001 年 3 月 5 日、澤章三著、社団法 人農山漁村文化協会発行、99 頁 第 4-26 図 山かきと平かき - 47 - 【出典/参考資料】 1)「第四章 ズ エリンギ栽培の実際 3.栽培の実際 (5)発生操作-菌かき・芽出し」、新特産シリー エリンギ-安定栽培の実際と販売・利用-、2001 年 3 月 5 日、澤章三著、社団法人農山漁村 文化協会発行、99-101 頁 2)「第3章 空調栽培技術 第6節 菌掻き・注水」、図説 基礎からのエリンギ栽培 安定生産技術 へのアプローチ、1999 年 11 月 30 日、木村榮一著、株式会社農村文化社発行、164-173 頁 3)「キノコ栽培の実際」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、社団法人農 山漁村文化協会発行、44-245 頁 - 48 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-2 覆土 【技術内容】 ビン容器を用いた空調栽培の発生操作において覆土処理が研究されているのは、ハタケシメジ、ホ ンシメジなどである。 ハタケシメジの空調栽培では、菌かき後注水し、約 1 時間後に排水して覆土し、キャップをして育 成工程に入る。覆土材料は 5mm メッシュ程度の完熟バーク堆肥で、撹拌、散水して水分率を 65%前 後に調整したものを用いる。覆土機を用いると効率がよい。図1左に覆土した状態を示す。育成 8 日 程度で覆土表面が白くなってきたら、覆土部分を 2~4mm 残して排土を行う。菌かき機の深さを調整 したものが排土機として利用されている。良好な排土面は霜降り状になる(図1右)。排土を行なわず に発生させると、表面や石づき部にバーク堆肥が付着して商品性が低下する。なお、空調ビン栽培に おける覆土操作の効果は、子実体の 1 個当たり重量が大きく、良形となりやすい点だが、菌株によっ て異なり、覆土の必要のない菌株もある。 ホンシメジのビン栽培では、ピートや鹿沼土で約 1cm 厚さの覆土をする。培地材料によっては覆土 を省略することも可能である。 【図】 図1 ハタケシメジ空調ビン栽培における覆土(左)と排土(右) 出典:「第四章 空調栽培の実際 新特産シリーズ 4.栽培の手順と実際 ハタケシメジ (4)菌かきと注水、覆土、育成、排土」、 -林内栽培・簡易施設栽培・空調栽培-、2000 年 3 月 31 日、 菅野昭、西井孝文編著、社団法人農山漁村文化協会発行、114 頁 までの培地の状態 第 46 図 培養完了から発生 3 覆土したもの、5-1 排土した状態 【出典/参考資料】 1)「第四章 空調栽培の実際 産シリーズ 4.栽培の手順と実際 (4)菌かきと注水、覆土、育成、排土」、新特 ハタケシメジ-林内栽培・簡易施設栽培・空調栽培-、2000 年 3 月 31 日、菅野昭、 西井孝文編著、社団法人農山漁村文化協会発行、111-120 頁 2)「ハタケシメジ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、社団法人農山漁 村文化協会発行、162-171 頁 3)「I.きのこの栽培編 9.ハタケシメジ」、きのこハンドブック、2000 年 1 月 20 日、衣川堅二郎、 小川眞編、株式会社朝倉書店発行、115-120 頁 4)「空調施設におけるハタケシメジの覆土栽培技術」、農耕と園芸 49 巻 一浩著、206-208 頁 - 49 - 8 号、1994 年 8 月、宍戸 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-3 芽出し 【技術内容】 芽出し工程では、子実体を発生させるために温度・湿度条件、酸素・二酸化炭素条件、光条件など の環境条件を整えるとともに、培養袋のカット、浸水などの操作が行われている。主なきのこの芽出 し時の環境条件については、技術分類1-2-7-6から1-2-7-8の各表1を参照。 シイタケの菌床栽培では、冠水処理により子実体の形成が誘起され、処理は温度 8~18℃で 12~24 時間行うのがよい 1)。また、菌床への電気刺激処理は、労力と時間のかかる浸水処理の代用となるう え、子実体発生時期の早期化、発生期間短縮も可能である 2)。収量に関しても、菌床に 15kV の電気 インパルスを印加すると子実体発生量が増加し、その効果は 2 回目、3 回目発生においてより顕著で あった(図1)3)。なお、シイタケの発生操作としては、栽培袋をカットして菌床全体を露出させる 方式と、袋の上面だけを露出させる方式がある。上面栽培法は、上部以外からの発芽生育を抑制する ために 27~28℃程度の高温で管理し、側面及び底面に水を入れて空気を遮断するもので、栽培室の省 スペース性、収穫の容易さ、肉厚で高品質なきのこが得られる、などの特徴がある 4),5)。非高温抑制 型上面栽培や上面栽培専用温調システムの開発研究も行われている 6)。 エリンギでは、菌かき後にビンを反転させて管理する倒立芽出しが適している。菌床表面の害菌汚 染が防止でき、正立菌床に比べ原基の形成も若干早まる傾向がある。また、被覆芽出しの場合は、新 聞紙のような通気性のある被覆材がよい 7)。倒立芽出しは、ビン口に水が溜まって菌糸がおぼれない ように、ハタケシメジなどでも行われる 8)。 【図】 図1 シイタケ菌床栽培での電気刺激処理が子実体発生量に及ぼす影響(3回目発生) 出 典 :「 Effect of electric impulse on fruit body production of Lentinula edodes in the sawdust-based substrate」、日本応用きのこ学会誌 9 巻 1 号、2001 年 4 月 30 日、Shoji Ohga、 Shigeru Iida、Chang-Duck Koo、Nam-Seok Cho 著、日本応用きのこ学会発行、11 頁 Fig.7. Effect of electric impulse at 3rd flush stage. Vertical bars indicate the standard errors of the mean (n=30). Asterisks indicate the significant differences at p < 0.01. - 50 - 【出典/参考資料】 1)「Induction of fruit-body formation by water-flooding treatment in sawdust cultures of Lentinus edodes」、Transactions of the Mycological Society of Japan(別名 日本菌学会会報) 28 巻 4 号、1987 年 12 月、Teruyuki MATSUMOTO、Yutaka KITAMOTO 著、日本菌学会発行、437- 443 頁 2)「シイタケ子実体に及ぼす電気刺激の効果(第3報)浸水処理に代わる電気刺激処理について」、静 電気学会誌 25 巻 3 号、2001 年、水戸部一孝、工藤行蔵、吉村昇著、静電気学会発行、149-152 頁 3)「Effect of electric impulse on fruit body production of Lentinula edodes in the sawdust-based substrate」、日本応用きのこ学会誌 9巻 1 号、2001 年 4 月 30 日、Shoji Ohga、Shigeru Iida、 Chang-Duck Koo、Nam-Seok Cho 著、日本応用きのこ学会発行、7-12 頁 4)「第4章 きのこ栽培の最新技術 II 生シイタケ 2)菌床栽培 2(北研型)」 、2004 年度版きのこ 年鑑、2004 年 4 月 1 日、鮎沢澄夫著、株式会社特産情報 きのこ年鑑編集部発行、126-136 頁 5)「簡易ハウスを利用しての上面栽培夏期発生「北研 608 号」の夏期発生・「北研 607 号」の夏期か ら秋期発生」 、特産情報 24 巻 10 号、2003 年 5 月、木下新栄著、株式会社プランツワールド発 行、48-51 頁 6)「平成 14 年度きのこ種菌開発実施報告書より 上面栽培適品種の開発と安定生産技術の確立」、特産 情報 24 巻 14 号、2003 年 9 月、株式会社北研食用菌類研究所著、株式会社プランツワールド発 行、44-47 頁 7)「第3章 空調栽培技術 リンギ栽培 第7節 芽出し~2 ステップ芽出し方式の提唱~」、図説 基礎からのエ 安定生産技術へのアプローチ、1999 年 11 月 30 日、木村榮一著、株式会社農村文化 社発行、174-193 頁 8)「キノコ栽培の実際 ハタケシメジ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志 編、社団法人農山漁村文化協会発行、162-171 頁 - 51 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-4 抑制 【技術内容】 抑制処理は主にエノキタケの栽培において、生育を揃えて生産性を高める目的で行われる。生育前 期に、3~5℃の低温と光照射で傘の肥大促進と柄の生長を抑制する工程である。このとき、温度 14 ~15℃の芽出し室から急に低温環境に移行すると、傘が乾燥して肥大しなくなるため、抑制の前には 温度 7~8℃で 2~3 日間馴化させる、ならし工程を設ける場合が多い。ならし室に移動する時期は、 きのこの長さが 3~5mm、傘の直径が 1mm 程度に生長し、接種孔がきのこでふさがった頃とする。 抑制室では傘の乾燥を防ぐため、必要に応じて加湿器を用いる。 光照射は、きのこの長さが 20~40mm の時に行うと、収量増加効果がある。照度と照射時間の目安 は、150~300lux で 1 日当たり 30 分を 2~3 日照射とする。光照射は、紙巻き後の生育 60~70mm の時にも行うと側枝が生長し品質向上に有効である。抑制効果が最も高い光源は青色系の光だが、一 般的な白色蛍光灯でもよい 2)。 抑制工程において、光照射と併用して風当て処理を行うと、水きのこ(傘や茎が水浸状となる症状) の発生や茎基部の着色防止に有効である 3)。白色系品種では、子実体の長さが 5~30mm の時期に、 温度 4~5℃で風速 1m 前後の風を当てて処理する。一方、純白系品種では、ならしの後は 4~5℃で 光照射(100~300lux で 1 日当たり 1~2 時間)する。着色系では、品種や栽培法により異なるが、 風当てよりも光照射の方が多い。風当てや照明は、処理を均一にするために自走式の機械で行う場合 が多い 4)。また、収穫直前に加温送風の仕上げ処理を行い、1 日 12.5g の水分蒸散を図れば、収量は 低下するが、水きのこの発生は抑制される 3)。 【図】 図1 抑制処理中のエノキタケ 出典:株式会社えのきボーヤホームページ、Top>えのきだけ栽培の実際3、検索日 2006 年 2 月 27 日、http://www.enokiboya.com/growing/index3.html - 52 - 【出典/参考資料】 1) 株式会社えのきボーヤホームページ、Top>えのきだけ栽培の実際3、検索日 2006 年 2 月 27 日、 http://www.enokiboya.com/growing/index3.html 2)「キノコ栽培の実際 エノキタケ」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、 社団法人農山漁村文化協会発行、85-96 頁 3)「びん栽培エノキタケの環境制御による品質向上(第1報)子実体生育中の風利用について」、長野 県野菜花き試験場報告 3 号、1983 年 12 月、白鳥保、柿本陽一、村岡進著、長野県野菜花き試験 場発行、71-78 頁 4)「III きのこの増殖の実際 7.エノキタケ」 、最新バイオテクノロジー全書7 きのこの増殖と育 種、1992 年 9 月 14 日、中村公義著、最新バイオテクノロジー全書編集委員会編、農業図書株式会 社発行、245-257 頁 - 53 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-5 育成 【技術内容】 きのこの発生から収穫までの育成工程は、きのこの種類や品種、栽培方法などに応じた方法で管理 する。主なきのこの育成時の環境条件については、技術分類1-2-7-6から1-2-7-8の各 表1を参照。 シイタケの場合、発生中の水分管理としては大きく分けて浸水方式と散水方式がみられる。浸水時 間は、2 回目の発生では 5~6 時間、発生回数が多くなるにつれて時間を長くし、4 回目の発生では 15~16 時間浸水する 1)。散水方式では、培地を乾燥させないように最低 1 日 1 回行われる。培地水分 が常に高く、形成される子実体の含水率が高いことから傘の色は暗色傾向になる。これを防ぐ工夫と して、子実体成長過程の培地は棚の最上部に置いて水をかけず、未形成の場合は下に移動させて積極 的に散水するといった方法もある。発生中の水分管理が子実体発生に及ぼす影響を調べた結果による と、1 番収穫後 20℃で 20 日間休養させてから浸水した試験区で、浸水後に集中発生がみられたが、 子実体発生量の点では 3 方法とも大きな差はみられなかった。休養方式は、加温施設が必要なことや 休養中の害菌汚染の問題もあり最近ではあまり採用されていない 2)。 エノキタケでは、抑制処理の後、きのこの周囲を紙などで覆う紙巻きを行う(図1)。これにより、 きのこ周辺の二酸化炭素濃度が上昇し、傘の生育が抑制されるとともに茎が伸長し、細長い株の形に 仕上がる。 エリンギでは、栽培を数回繰り返している場合に突然発生する立ち枯れ現象が最大の課題である。 原因は、種菌の老化、雑菌の混入等が考えられるが、発生の原因や状態によっては、二番発生に回せ る場合もある(図2)。 【図】 図1 エノキタケの紙巻き 出典: 「四、エノキタケ」 、改訂新版 キノコ栽培、1978 年 7 月 25 日、白鳥保著、大森清寿、庄司 当編著、社団法人農山漁村文化協会発行、232 頁 - 54 - 第 75 図 紙巻きのやり方 図2 エリンギ生育中の状態と2番発生か廃棄かの判断 出典:「第二章 エリンギ導入の課題 1.最大の課題は立ち枯れの克服」、新特産シリーズ エリ ンギ-安定栽培の実際と販売・利用-、2001 年 3 月 5 日、澤章三著、社団法人農山漁村文化協会 発行、42 頁 第 2-5 図 生育中の状態と2番発生か廃棄かの判断 【出典/参考資料】 1)「キノコ栽培の実際 シイタケ」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、 社団法人農山漁村文化協会発行、44-64 頁 2)「第 II 章 菌床シイタケの栽培技術 四 菌床シイタケの栽培 (八)発生管理」、菌床シイタケ の栽培と経営(林業改良普及双書 No.112)、1992 年 12 月 21 日、古川久彦編著、社団法人林業改 良普及協会発行、81-90 頁 3)「四、エノキタケ」、改訂新版 キノコ栽培、1978 年 7 月 25 日、白鳥保著、大森清寿、庄司当編 著、社団法人農山漁村文化協会発行、203-237 頁 4)「第二章 エリンギ導入の課題 1.最大の課題は立ち枯れの克服」 、新特産シリーズ エリンギ- 安定栽培の実際と販売・利用-、2001 年 3 月 5 日、澤章三著、社団法人農山漁村文化協会発行、32 -42 頁 - 55 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-6 温度、湿度条件 【技術内容】 菌床栽培は、その地域の気象条件に合わせ、できるだけ自然環境を利用して温度管理を行う自然栽 培と、空調施設、機器を用いて環境制御を行う空調栽培に分けられる。自然栽培では、パイプハウス 等の簡易な施設を使用し、栽培環境の調節には暖房機と散水装置を用いる。空調栽培では、芽出し室、 発生室は培養室より低い温度とし、低温刺激により子実体の発生を促す。主なきのこの発生・育成温 度、湿度条件の目安を表1に示す 1)。 エリンギの芽出し、育成工程では、乾/湿の較差を大きくつけた湿度管理がポイントで、常時高湿 度環境とならないように留意する。これは菌床表面からの気中菌糸の立ち上がりを制限すると同時に、 菌床表面を害菌の汚染から予防する対策ともなる 3)。 大型ビンを用いたシイタケ菌床栽培試験によると、発生室の湿度条件は子実体の発生量に最も大きく 影響し、ビンの反転、培養温度も有意に影響していた。子実体の発生個数には培養温度の影響が大き かった。また、ビンの反転と発生室の湿度条件、およびビンの反転と培養温度との間に有意な交互作 用が認められている。供試した市販品種の原基形成適温は 23℃付近にあると考えられた 4)。 ヒラタケでは、ある程度以上の水が蒸発するような湿度条件下では、培地表層部の含水率が低下し 子実体発生量も低下する 5)。 マイタケでは、芽出しの均一化と安定化を図るために、培養末期は発芽を抑制するためやや高温の ままで推移し、目出し操作の時にやや低温にシフトダウンして一斉に発芽を促すとよい 6)。 【図】 表1 主なきのこの発生・育成温度、湿度条件の目安 種名 温度、湿度 シイタケ 発生:10~20℃(13~18℃が最適)、60~80% ナメコ 発生:12~17℃ 育成:7~12℃(1 日の温度変化幅が 12℃程度あ れば最適) ヒラタケ 芽出し:13~16℃、90~100% 育成:10~13℃、85~95% エノキタケ 芽出し:14~15℃、95%前後 ならし:7~8℃、90%前後 抑制:3~4℃、85~90% 育成:5~6℃、75~80% マイタケ 発生:12~24℃(16~18℃が最適)、90~95% ブナシメジ 芽出し:15℃前後、95~100% 育成:15℃前後、95%前後 タモギタケ 芽出し、発生:16~20℃、85~95% ハタケシメジ 芽出し、発生:17℃、100% エリンギ 発生:15~17℃、85~90% 出典:本標準技術集のために作成(シイタケ、ナメコは【出典/参考資料】2)、他は 1)を参考とし た) - 56 - 【出典/参考資料】 1)「キノコ栽培の実際」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、社団法人農 山漁村文化協会発行、44-245 頁 2)「I.きのこの栽培編」、きのこハンドブック、2000 年 1 月 20 日、衣川堅二郎、小川眞編、株式 会社朝倉書店発行、9-177 頁 3)「第3章 空調栽培技術 基礎からのエリンギ栽培 第7節 芽出し~2 ステップ芽出し方式の提唱~、第8節 生育」 、図説 安定生産技術へのアプローチ、1999 年 11 月 30 日、木村榮一著、株式 会社農村文化社発行、174-205 頁 4)「大型ビンを用いたシイタケ菌床栽培(第2報)培養温度、ビンの反転および発生室の湿度条件が 子実体の発生に及ぼす影響」、奈良県林業試験場林業資料 14 号、1999 年 2 月 1 日、渡辺和夫著、 奈良県林業試験場発行、1-4 頁 5)「ヒラタケ栽培ビンのキャップの通気性と環境湿度条件が子実体の発生に及ぼす影響」、奈良県林業 試験場研究報告 27 号、1997 年 12 月、渡辺和夫著、奈良県林業試験場発行、1-7 頁 6)「芽出しの均一化,安定化を図ったマイタケのびん栽培」 、農耕と園芸 山中勝次著、株式会社誠文堂新光社発行、200-202 頁 - 57 - 52 巻 2 号、1997 年 2 月、 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-7 酸素、二酸化炭素条件 【技術内容】 きのこの形成時は二酸化炭素濃度の影響を受けやすい。例えば、ヒラタケの生育段階に高濃度の二 酸化炭素を暴露すると、まず柄の徒長と傘の発育抑制が生じる。形態的な変化を生じる二酸化炭素濃 度の限界は、菌種、品種により異なるが、ヒラタケ、ナメコ、ブナシメジ、エノキタケの中ではヒラ タケの限界が低く、それぞれ 3,000ppm、6,000ppm であった 1)。したがって施設栽培では、換気扇ま たは外気導入できる空調機や熱交換機などを使用し、室内に新鮮な空気を導入することが必要である。 主なきのこの発生・育成工程における酸素、二酸化炭条件の目安を表1に示す 2),3)。 ブナシメジの場合、芽出し初期における二酸化炭素濃度が収穫時の形状に大きな影響を及ぼす。消 費者から期待されるきのこ形状を作り出すために、きのこ高、茎径、傘径、芽数などと二酸化炭素濃 度の関係を表すファジイ線形回帰モデルを求めた研究によると、芽出し時の二酸化炭素濃度を 1,200 ~1,800ppm 付近の範囲に設定すれば、期待される形状が得られ芽数も増加する(図1)4)。 【図】 表1 主なきのこの発生・育成工程における酸素、二酸化炭素条件の目安 種名 ナメコ 酸素・二酸化炭素濃度 CO2 人間の通常作業に支障のない程度(酸素不足 に注意) ヒラタケ 発生:CO23000ppm 以下 育成:CO22000ppm 以下 エノキタケ 芽出し、ならし、抑制、育成:CO21000ppm マイタケ 発生:CO21000ppm 以下 ブナシメジ 芽出し、育成:CO23000ppm 以下 タモギタケ 芽出し、発生:CO21500ppm 以下 ハタケシメジ 芽出し、発生:CO21000~3000ppm エリンギ 発生:CO22000ppm 以下 出典:本標準技術集のために作成(ナメコは【出典/参考資料】3)、他は 2)を参考とした) 図1 ブナシメジの芽出し工程において期待されるきのこ形状を作るための炭酸ガス濃度の T.F.N. - 58 - 出典: 「ファジィ数を用いた植物生産環境システムの栽培技術(第2報)きのこ形状と芽だし・生育 環境」、植物工場学会誌 9巻 本植物工場学会発行、123 頁 2 号、1997 年 6 月 1 日、松山正彦、寺沢泰、堀部和雄著、日 図8 期待されるきのこ形状を作るための炭酸ガス濃度の T.F.N. 【出典/参考資料】 1)「III. きのこの基礎編 4.菌糸ときのこの生理・生態 4.4 ガス環境」、きのこハンドブック、2000 年 1 月 20 日、鈴木彰著、衣川堅二郎、小川眞編、株式会社朝倉書店発行、324-330 頁 2)「キノコ栽培の実際」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、社団法人農 山漁村文化協会発行、44-245 頁 3)「I.きのこの栽培編」、きのこハンドブック、2000 年 1 月 20 日、衣川堅二郎、小川眞編、株式 会社朝倉書店発行、9-177 頁 4)「ファジィ数を用いた植物生産環境システムの栽培技術(第2報)きのこ形状と芽だし・生育環境」、 植物工場学会誌 9巻 2 号、1997 年 6 月 1 日、松山正彦、寺沢泰、堀部和雄著、日本植物工場学 会発行、114-123 頁 4)「ブナシメジの化学成分組成に及ぼす高濃度二酸化炭素暴露の影響」、日本食品科学工学会誌 巻 9 号、1995 年 9 月、渡邊智子、鈴木彰著、日本食品科学工学会発行、656-660 頁 - 59 - 42 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-8 光条件 【技術内容】 きのこの発生、育成工程には光が必要である。暗黒下で芽出しを行うと原基が形成されず 育工程での暗黒環境は傘の生長不良をもたらす 1),2)、生 1)-3)。主なきのこの発生・育成工程における光条件の 目安を表1に示す 4),5)。なお、本工程における光条件に関しては、下記のような試験報告がある。 ヒラタケは、芽出し工程では約 2lux の連続照明により栽培期間の短縮と収量増が期待できる。生 育工程では 200~500lux の連続照明により最大の収量が得られた 1)。 ブナシメジは、芽出し工程では発生本数と茎の伸長からみた最適照度は 2lux で、傘の生長に対す る最適照度は 30~100lux であった。生育工程では 200~500lux の連続照明が高収量であった 2)。 エノキタケの着色品種では、芽出し工程では 2~10lux の照度で子実体発生量が最多となった。な らし・抑制工程では子実体の伸長を揃え、傘を生長させる最適照度は、子実体の着色を除けば 10~ 30lux と推測された。生育工程では照度を上げると茎の伸長が抑制され、着色が濃くなる。傘の生長 は 100lux まで照度に比例して促進されたが 200lux 以上の高照度では生長が抑制された 3)。また、エ ノキタケでは 1 栽培室(6,400 本規模)当たり 20W と 40W の蛍光灯を設置、移動させながら 1 日 12 時間青色の光を当て、品質の向上と収量の増加効果を得ている例がある 6)。 発光ダイオード光源については、ブナシメジの芽出し工程には青色光(460nm)が効果的で最適照 度は 1lux、黄色光(592nm)や赤色光(630nm)では原基が形成されなかった。生育工程では茎の 伸長抑制や傘形成のために青色光が最も効果的で(図1) 、最適照度は 60lux と考えられた 7)。シイタ ケでは、発光ダイオード光源を子実体発生時に照射した結果、生重量が赤色光(660nm)で増加した が青色光(470nm)、緑色光(525nm)照射では優位差は認められていない 8)。また、シイタケ子実 体発生直前に、健康線灯を用いた紫外線(300~350nm)を照射した結果、子実体の発生量には変化 がなかったが、発生個数は増加し小型化した。紫外線域の発光ダイオード光源(375nm)を用いた照 射では影響がみられなかった 8)。 【図】 表1 主なきのこの発生・育成工程における光条件の目安 種名 光条件 シイタケ 発生:200lux 以上で 8 時間点灯、16 時間消灯 ナメコ 発生、育成:0.2~0.4lux ヒラタケ 発生:50lux 育成:100lux エノキタケ 芽出し:50~ 100lux 抑制:150~300lux(きのこの長さ 2~4cm の時 30 分/日を 2 ~3 日照射) 育成:150~300lux(傘形成不良の場合のみ、きのこの長さ 6 ~7cm の時 30 分/日を 1~2 日照射) マイタケ 発生、育成:500lux 以上 ブナシメジ 芽出し:50~ 100lux 育成:500~ 1000lux(12 時間/日、15~30 分間断) タモギタケ 芽出し、発生:要照明 ハタケシメジ 芽出し、発生:200~ 500lux エリンギ 発生:200lux - 60 - 出典:本標準技術集のために作成(シイタケ、ナメコは【出典/参考資料】5)、他は 4)を参考とし た) 図1 光源の異なる発光ダイオード光の照射がブナシメジの子実体形成に及ぼす影響 出典:「Effects of LED lights on fruit-body production in Hypsizygus marmoreus」、日本応用き のこ学会誌 10 巻 3 号、2002 年 10 月 31 日、Kenji Namba、Satoshi Inatomi、Kouichirou Mori、Makoto Shimosaka、Mitsuo Odazaki 著、日本応用きのこ学会発行、145 頁 Fig.3 Appearance of fruit-bodies produced under LED light during Developing process in H.marmoreus. The culture surface was exposed to LED light of 30 lx for 12 days during the Developing process. A: Blue, B: Green, C: Yellow, D: Red 【出典/参考資料】 1)「ヒラタケ栽培における子実体の発生と生長におよぼす光の影響」、日本応用きのこ学会誌 8巻 4 号、2000 年 12 月 31 日、稲冨聡、難波謙二、小平律子、岡崎光雄著、日本応用きのこ学会発行、 183-189 頁 2)「ブナシメジ栽培における子実体の発生と生長におよぼす光の影響」、日本応用きのこ学会誌 巻 10 3 号、2002 年 10 月 31 日、稲冨聡、難波謙二、小平律子、下坂誠、岡崎光雄著、日本応用き のこ学会発行、135-140 頁 3)「エノキタケ着色品種「ナカノ株」での各栽培工程における光照射の子実体生産に及ぼす効果」、日 本応用きのこ学会誌 9巻 1 号、2001 年 4 月 30 日、稲冨聡、難波謙二、小平律子、岡崎光雄著、 日本応用きのこ学会発行、21-26 頁 4)「キノコ栽培の実際」 、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、大森清寿、小出博志編、社団法人農 山漁村文化協会発行、44-245 頁 5)「I.きのこの栽培編」、きのこハンドブック、2000 年 1 月 20 日、衣川堅二郎、小川眞編、株式 会社朝倉書店発行、9-177 頁 6)「青色蛍光灯でえのきたけ増収-傘が開かず品質も向上-(中野市)」、農林漁業現地情報(長野版) >平成 12 年タイトル一覧>6 月、2000 年 6 月、関東農政局長野統計・情報センター発行、検索日 - 61 - 2006 年 2 月 5 日、http://www.nagano.info.maff.go.jp/genchi/H12/genchi_1206.html#10 7)「Effects of LED lights on fruit-body production in Hypsizygus marmoreus」、日本応用きのこ学 会誌 10 巻 3 号、2002 年 10 月 31 日、Kenji Namba、Satoshi Inatomi、Kouichirou Mori、Makoto Shimosaka、Mitsuo Odazaki 著、日本応用きのこ学会発行、141-146 頁 8)「健康線灯および発光ダイオードを利用したシイタケ菌床栽培」、中部森林研究 51 号、2003 年 3 月、山口亮、武藤治彦著、日本森林学会中部支部発行、227-228 頁 - 62 - 【技術分類】1-2-7 基本栽培方法/菌床栽培/発生・育成工程 【技術名称】1-2-7-9 菌床の野外埋め込み 【技術内容】 菌床栽培において、林地等の野外に、菌糸が蔓延した菌床を埋め込む方法が取られる場合がある。 これらの栽培法を称して「菌床野外栽培」や「野外栽培」 、「露地栽培」、「屋外栽培」等の名称が使用 されているが、いずれも菌床栽培に分類される栽培方法で、後に示す菌根菌の林地栽培とはその意味 合いが異なる。 このような菌床の野外埋め込みを行うきのことしては、マイタケ 1)、クリタケ 2)、ハタケシメジ 3)、 トンビマイタケ 4)、キヌガサタケ 5)、ムラサキシメジ 6)等を挙げることができる。 菌床の野外埋め込みは、菌糸が蔓延した菌床を埋め込むことで、子実体原基の誘導を促すことが目 的であり、その機能は覆土の工程と同一の意味合いを持つ。 また、この方法がとれるきのこは、完熟した菌床さえ入手できれば、菌床の育成に必要な設備を必 要とせず、通常のきのこ栽培に比べると簡易に収穫にたどりつくことができる。 ただし、菌床の埋め込み時期については、各きのこに適した気候条件の適基を判断して行う必要が ある 7)。 埋め込み方法の一例として、ハタケシメジの例を図1に示すが、他に2-1-14-1オオイチョ ウタケ、2-1-22-4チャナメツムタケの図も参照されたい。 【図】 図1 ハタケシメジの菌床の埋め込み方の一例 出典:「ハタケシメジ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、菅野昭著、大森清寿、小出博志編、 社団法人農山漁村文化協会発行、170 頁 図 9 菌床埋め込み状況断面図 - 63 - 表1 埋め込みの深さ・覆土の厚さ・地面から高さ 埋め込みの深さ きのこの種類 (地面からの高さ) 覆土の厚さ マ イ タ ケ 土壌の湿度条件に応じて適宜加減 2~3cm+落葉 5cm ク リ タ ケ 表面が露出する程度 数 cm ハ タ ケ シ メ ジ 盛土 5~10cm 1~3cm トンビマイタケ 菌床の 1/3 が埋まる深さ 数 cm キ ヌ ガ サ タ ケ 土壌の湿度条件に応じて適宜加減 3cm 程度 ムラサキシメジ 覆土分マイナス 数 cm 出典:本標準技術集のために株式会社流通システム研究センターが作成(作成に際しては【出典/ 参考資料】に掲げる文献を参照した) 【出典/参考資料】 1)「マイタケ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、川島祐介著、大森清寿・小出博志編、社団法 人農山漁村文化協会発行、97-109 頁 2)「クリタケ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、増野和彦著、大森清寿・小出博志編、社団法 人農山漁村文化協会発行、143-148 頁 3)「ハタケシメジ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、菅野昭著、大森清寿・小出博志編、社団 法人農山漁村文化協会発行、162-171 頁 4)「トンビマイタケ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、菅原冬樹著、大森清寿・小出博志編、 社団法人農山漁村文化協会発行、201-205 頁 5)「キヌガサタケ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、塩田敦史著、大森清寿・小出博志編、社 団法人農山漁村文化協会発行、220-222 頁 6)「ムラサキシメジ」、キノコ栽培全科、2001 年 9 月 30 日、宮本敏澄・小倉健夫著、大森清寿・小 出博志編、社団法人農山漁村文化協会発行、223-225 頁 7)「第三章 野外栽培の実際」、新特産シリーズ ハタケシメジ 林内栽培・簡易施設栽培・空調栽培、 2000 年 3 月 31 日、菅野昭著、菅野昭・西井孝文編、社団法人農山漁村文化協会発行、60-94 頁 8)「第 4 章 きのこ栽培の最新技術 12 キヌガサタケ」 、2004 年度版きのこ年鑑、2004 年 4 月 1 日粕谷嘉信著、きのこ年鑑編集部編、株式会社特産情報発行、189-190 頁 - 64 -