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Title 『沙石集』における「馬」について(二〇一四年度卒業論文要旨集

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Title 『沙石集』における「馬」について(二〇一四年度卒業論文要旨集
Title
『沙石集』における「馬」について(二〇一四年度卒業論文要旨集)
Author(s)
戸田, 真僚
Citation
札幌国語研究, 20: 108-108
Issue Date
2015
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7769
Rights
Hokkaido University of Education
『沙石集』における「馬」について
古典文学研究室 一四五〇 戸田 真僚
『栄花物語』における嬉子の描かれ方
古典文学研究室 一四七七 伊林 香織
どは、転生譚の二話、唯一中国を舞台とする一話を含め、人や
『沙石集』に登場する動物は三十八種類であるが、そのうち
「馬」は最多の三十三話に登場する。これらの「馬」のほとん
記事の中では、特に戴餅、出産、薨去・葬送が重要である。
く、
道長の期待通りに国母となった長女彰子といることが多い。
嬉子の記事は、懐妊を除く全てに家族の誰かが登場する。順
はほぼ史実通りだが、史料で揃って名の見える三女威子ではな
記事、同時代の文学作品の類似表現と比較することで探った。
物の移動手段、
それゆえの財であった。
転生譚の巻二ノ八の
【一】
初登場の戴餅は史料で確認できないが、道長の「栄花の初花」
敦成を彰子が産む寛弘五年の年頭にある。母倫子が着付けをす
本研究では、藤原き道し長を賛美する『栄花物語』における末娘
で後朱雀天皇母の嬉子の描かれ方の特徴を、史実や他の人物の
の転生は段階的なもので、
「牛」以上に「馬」が人間の身近な
る間は末娘の意の「いと姫君」、道長が戴餅を行う際は「いと
鎌倉時代中期の仏教説話集『沙石集』
(米沢本、
本研究では、
全五百十六話)に登場する「馬」の特徴を捉え、編者である無
存在であったことが窺える。もう一話の巻七ノ十の【一】は、
若君」と呼称が使い分けられていた。稀な女子の「若君」の例
住の執筆意図との関係を明らかにすることを目的とした。
畜生を殺すなという教えに直結しているが、親孝行が主題で、
ちご
出産記事は、彰子との類似及び幼さの強調が既に指摘されて
いるが、
後者は、白と二藍という肌と衣の色の取り合わせが『枕
のうち
『源氏物語』
の明石の姫君や宇治の中の君は皇子を産む。
やはり「馬」が身近な存在であることが重要な話である。
ば とう
鹿や牛は神仏そのものや供物となり、蛇や虎は邪心や凶暴さ
の 象 徴 と な る な ど 神 聖 さ と 恐 ろ し さ の 正 負 の 意 味 が あ る が、
め ず
「馬」には無い。特別な「馬」は馬頭と馬頭観音に限られる。
草子』「うつくしきもの」の児のそれに基づくことからもいえる。
薨去・葬送では、帝や翁・嫗という公私両面の愛情を受けた
かぐや姫に喩えられていた。また次女妍子とは類似表現もある
『枕草子』
『今昔物語集』
『宇治拾遺物語』
また、『日本霊異記』
『平家物語』の「馬」は、色や強さが種々ある、年中行事など
で貴族が乗る、戦場で武士が乗る、空を飛ぶ特別な力がある、
が、
乳母など私的な繋がりの女性の哀傷が中心であるのに対し、
このように嬉子は公と私、国母と末娘、道長の栄華と「あは
れ」
という対照的な二面を同時に持つ人物として描かれている。
嬉子は男性貴族が中心で、より政治的な面が強調されていた。
食用や骨など死を連想させる、といった特徴が見られた。
しかし『沙石集』の「馬」は日常的で身近である。このこと
は、仏教を広めるために「世間浅近の賤しきことを譬として」
執筆するという無住の意図の証明になっているといえよう。
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