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自然観測のための センサネットワーク構築方式について
「マルチメディア,分散,協調とモバイル (DICOMO2008)シンポジウム」平成20年7月 自然観測のための センサネットワーク構築方式について † 高橋慶太 萬代雅希 †† 渡辺尚 ††† 無線センサネットワークは, 有線の固定インフラを利用せずに観測データを取得できるため幅広い応用 が期待されている. その一つとして, 温室効果ガスの発生量などを観測する自然環境観測応用がある. 一般的に, 自然環境観測のための環境センサネットワークでは, 長期にわたる観測を可能にするために, ノードの回収, 交換などのメンテナンスが必要となる. その際, 自然環境への影響を小さくするよう考 慮する必要がある. 本稿では, まず環境センサネットワークにおける自然量と環境への影響度を定義す る. そして, 影響度を小さくするセンサネットワーク構築方式の一つとして Less Impact area(LI-area)集 中ルーティングプロトコルを提案する. LI-area 集中ルーティングは, 自然量が極端に減少した領域を敢 えて集中的に利用し全体の影響度を小さくする方式である. 評価の結果, LI-area 集中ルーティングは最 短経路ルーティングに対して影響度を 30%程度小さくできることを示す. Wireless Sensor Networks for Monitoring of the Natural Environment † KEITA TAKAHASHI MASAKI BANDAI ††† TAKASHI WATANABE †† Recently, many works on wireless sensor networks have been done to broaden availability for various applications. Among of them is natural environment monitoring. In an environmental monitoring sensor network, generally sensor nodes should be replaced over time in order to enable a long term operation. Therefore, the node replacement should be done with less impact to the nature. This paper, at first, defines the amount of nature and impact factor to the nature that is denoted by the size of replaced area. Then, we propose one of routing protocols which has less impact to the nature, called LI-area concentrated routing protocol. LI-area routing uses the area with the least amount of nature intensively which makes less impact to the nature. By comparing with the conventional shortest path routing, LI-area routing achieves 30% less impact. ステムの例として, 愛知万博において行われた環境セ 1. はじめに ンサネットワークによる環境モニタリング[3]につい 近年, 無線センサネットワークの研究が盛んに行わ て図1に示す. 現在, 温室効果ガスの増加による地球 れている. センサネットワークとは, 無線通信機能を 温暖化の懸念, オゾン層破壊, 酸性雨, 海洋汚染, 森林 搭載した小型センサを用いて, 光や音, 振動などの環 消失, 砂漠化など, 非常に多くの環境問題が発生して 境情報を収集するネットワークである. 機器に搭載さ おり, それらの問題に対して解決のための試みが行わ れているセンサをネットワークにつなぐことで遠隔地 れている. 環境問題の解決には, 問題の大きさを知り, のデータを得ることができ, 複数のセンサが協調し広 また問題解決のために行われる実験などの有効性を正 範囲の情報収集が可能になる. センサネットワークで 確かつ迅速に知る必要がある. そのため, 環境センサ 実現されるアプリケーションは医療や生活, 防災, 社 ネットワークは環境問題を解決するための重要な要素 会環境, 自然環境など多岐に渡ると考えられる[1]. ア であると考える. プリケーションのひとつとして環境センサネットワー センサネットワークの重要な問題として, センサノ クがある. 環境センサネットワークは自然環境中で利 ードのバッテリ制限による問題があり, 問題解決のた 用されるセンサネットワークであり, 自然現象に関す めに様々な研究がなされている. しかしながら, セン る基礎研究のための環境モニタリングや, 災害などに サネットワークを長期間運用する場合, ノードの交換, 反応するシステムの開発に利用されている[2]. またシ 回収を避けることは難しい. † 静岡大学大学院情報学研究科 Graduate School of Informatics, Shizuoka University †† 静岡大学情報学部 Faculty of Informatics, Shizuoka University ††† 静岡大学創造科学技術大学院 Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University 自然観測を行うセンサネットワークに着目した場合, センサネットワークだけでなくそれが置かれている環 境も考慮しなければならない. 環境センサネットワー クはまず観測対象(自然環境)に対する影響を抑えな ─ 137 ─ を提案し, 5 節で提案方式の評価を行う. 6 節ではメン テナンス時における他エリアの通過による影響を考慮 した場合の考察を行う. 7 節でまとめとする. 2. 関連研究 センサネットワークでは, センサノードと呼ばれる 無線通信機能を搭載した小型センサを利用することが 想定されている. 設置環境によっては電源供給が困難 な場合も生じるので, バッテリ駆動による運用も考え 図1 万博アメダス[3] なければならない. 特に自然環境中にセンサネットワ ークを設置する場合, ノードはバッテリ駆動である必 要性が大きく, そのためバッテリ制限を考慮しなけれ Low influence ばならない. 上記の問題を解決するためのアプローチ として二つの提案がある. 一つめはセンサネットワー クに使用するセンサノードのハードウェアを変更する こと, 二つめはセンサネットワークの構築方式を変更 することである. 一つめの方法として, 太陽光発電に よる自己給電などが挙げられる[4][5]. 二つめの方法 High influence としては, ルーティング方式やスリープスケジューリ 図2 環境センサネットワークによる影響 ングによるノードの省電力化がある[6][7]. しかしな がら, どちらの方法においても, センサネットワーク ければならないと考える. センサネットワークを構築 を長期間に及んで使用する場合におけるノードのバッ する場合, ノードの腐食などによる汚染物質の流出や, テリ枯渇や故障は回避できない問題であり, 交換・回 交換時に人が立ち入ることで環境に大きな影響を与え 収の必要を生じさせる. ると恐れがある. その影響の程度は, 自然の多い場所 ほど大きくなると推測する. 図2に環境センサネット 3. 自然環境への影響 ワークによる影響の概念図を示す. 図のように自然領 1 節で, センサネットワークの運用によって対象と 域中にセンサネットワークを設置した場合, 道路など する自然環境へ影響を及ぼすことを述べた. そこで本 自然の少ない場所はセンサノードによる影響が少なく, 節では, センサネットワークが対象とする領域へどの 植物が密生している場所は影響が大きいと考えること 程度の影響を及ぼすかについて考察し, 必要となる要 ができる. ノードを設置することによる影響を始め, 素について定義する. その上で, 領域の自然環境への ノードの交換や回収などのメンテナンスが必要となる 影響の大きさを影響度として定義を行う. 場合, それによって生じる環境への影響を極力抑える 3.1 必要がある. センサネットワーク環境において, 運用期間中に自 自然環境へ影響を与える要素 本研究では, センサネットワークの観測対象となる 然環境に影響を与える要素を定義する. 自然に対して 領域の自然環境への影響を小さくするために応じてセ 負担となる, 悪影響を与える要素を考える場合, 大き ンサネットワークの構築方式を変更することを考える. く分けて2つある. 1つはセンサネットワーク運用時 自然観測のためのセンサネットワークにおいて, ノー において, センサノードが自然環境中に置かれること ドのメンテナンスが必要となることを前提に考え, 観 によって起こる破壊である. センサノードを領域中に 測領域への影響を小さくするセンサネットワーク構築 設置することで, ノードによる植物の成長の阻害や, 方式を提案する. そのために, まず観測領域における 汚染物質の発生などによる破壊が考えられる. もう1 自然環境への影響度を定義する. その上で, 影響度を つはノードの交換や回収などのメンテナンスを行うこ 小さくするセンサネットワーク構築方式を提案する. とによる破壊である. メンテナンス時に人が領域に立 2 節ではセンサネットワークとその関連研究につい ち入ることで, 本来の自然を破壊し, 更に機材の使用 て述べる. 3 節で自然環境への影響度の定義を行う. 4 による破壊がある. 一方, 自然に対して効果のある, 節で影響度を小さくするセンサネットワーク構築方式 良い影響を与える事象として, センサネットワーク領 ─ 138 ─ 仮定する. よって, V≧0 である. 域の自然が持つ回復力がある. これらの要素は, 該当面積が広ければ広いほど, 時 まず, センサネットワークを設置しない場合におけ 間経過が長ければ長いほど大きな影響をもたらすと考 る自然量の変化を考える. センサノードを設置しない えることができる. 面積及び時間による関係を考慮し, ことにより破壊による影響は 0 となるので, C = G とお 破壊の大きさを破壊量 D, 回復の大きさを回復量 G と ける. このときの時刻Tにおける自然量をVN(T)とおく おくと, 以下のように面積 s, 時間 t の関数で定義する と, VN(T)は以下の式で表すことができる. ことができる. VN (T ) = V( 0) + G D = f D (s, t ) (1) G = f G ( s, t ) (2) (4) 次に, センサネットワークを設置する場合における 自然量の変化を考える. センサネットワークを設置し た場合の時間による自然量の変化を図3に示す. 図に 自然環境中でセンサネットワークを運用する場合, セ おいて x 回目のセンサネットワーク運用時間を tex, ノ ンサネットワーク運用における破壊と自然の回復は同 ードのメンテナンス時間を tjx とする. tex 期間において 時に行われる. よって, 破壊量と回復量の関係から自 はノードによる破壊, tjx 期間においては更にメンテナ 然の変化する大きさを求めることができ, これを変化 ンスによる破壊が行われていることから, それぞれの 量 C と定義する. 変化量の式を以下に示す. 時間で異なる変化量をもつ. ノードのメンテナンス時 C = G − D = f C ( s, t ) (3) C は回復量の方が大きい場合は正, 破壊量の方が大き い場合は負の値をとる. つまり, 変化量が負の方向に 大きくなるほど自然環境への影響も大きいとする. 3.2 には領域に立ち入り作業することから, ノード稼働時 よりもメンテナンス時の方が変化量は大きく, その値 は負値になると考えられる. 時刻 T をネットワーク運用期間とする. T までに n 回のノード交換が行われたとき, 以下の式を導くこと 影響による自然環境の変化 ができる. センサネットワーク運用期間中における自然環境へ の影響度を定義する上で, センサネットワークによっ n n′ i =1 j =1 T = ∑ t ei + ∑ t mj て生じる変化が, 本来ある自然に対してどの程度影響 (5) (n′ = n + 1または n) を与えるかについても知る必要がある. 変化の大きさ このとき, n 回目のノード交換後にセンサネットワー を知ることで, 領域へどの程度影響を与えたかがわか ク運用時間が存在する場合が考えられる. n 回目のノ る. よってセンサネットワーク領域における, 自然環 ード交換後にセンサネットワーク運用時間が存在する 境の規模についても定義する必要がある. 本研究では, 場合のは n’= n+1, 存在しない場合は n とする. 式(5)よ メンテナンスの方法を, 一般的な方法であるバッテリ り, x-1 回目のノードのメンテナンスが終わってから x 枯渇ノードの交換を行うこととする. 回目のメンテナンスが行われるまでの変化量 Cx は式 領域における変化の大きさを知るために, 領域中に (2)(5)を利用して以下のように考えることができる. C x = C ex + C mx ある自然の規模を知る必要がある. そこで, 自然環境 において存在する自然の規模について, その規模の大 = f C ( s , tex ) + f C ( s , t mx ) きさを定量化した値を自然量 V と定義する. 自然量は (6) = f C ( s , (tex + t mx )) 時間または面積によって変化し, 時刻 T までの自然量 の変化を考える場合, 初期自然量をV(0), 時刻T におけ 以上の式から, 時刻 T までに n 回ノードの交換が行わ る自然量を V(T)とする. 本研究では, 自然量は上限が れたときの時刻 T における自然量 V(T)を導く. 導かれ 存在せず, また量的なものと捉え, 非負の値であると た式を式(7)に示す. 自然量 自然量 V0 VT V≧0 V0 VT te1 tm1 te2 tm2 te3 T 時間 te1 tm1 te2 tm2 te3 図4 自然量が0になる場合 図3 時間の経過による自然量の変化 ─ 139 ─ T 時間 は大きくなり, センサネットワークが自然環境へ与 n V( T ) = V ( 0 ) + ∑ C i + ( n ′ − n ) ⋅ C e n′ i =1 (7) える影響が大きくなるといえる. 多数の領域が存在する場合の自然環境への影響度 ( n′ = n + 1または n ) を考える. 全領域における自然環境への影響度αall は, 初期自然量 V(T)と時刻 T までの変化量の合計が0よ それぞれの領域を分割した場合においても, 各エリ り小さくなる場合を考える. V は非負の値であること アの V(T) , VN(T)を求め, その総和を利用して求めるこ から, 時刻 t における自然量 V(t)が0になったとき, 変 とができる. K 個の領域が存在する場合, 領域 k にお 化量が負の値であっても0の値をとることとする. 図 ける自然量を Vk(T) , VNk(T)とおくと, それぞれの値は 4に例を示す. 図において, 期間 tm2 中に自然量が0に 以下の式で表すことができる. Gk, Ck,x は領域 k におけ なった場合, その後変化量が正になるまで自然量は0 る回復量, 変化量をそれぞれ表す. をとる. 期間 te3 において変化量が正となった場合, 自 VN k (T ) = Vk ( 0 ) + Gk 然量は0から増加することになる. 以上のことを考慮 n して式(7)を変形したものを式(8)に示す. V k (T ) = max(V k ( 0 ) + ∑ C k ,i + ( n ′ − n ) ⋅ C k ,en′ ) (12) n i =1 V(T ) = max(V( 0 ) + ∑ C i + ( n ′ − n ) ⋅ C en′ ) (8) i =1 ( n ′ = n + 1または n ) 式(10)(11)(12)より, 全領域における影響度αall は式(13) ( n ′ = n + 1または n ) のように表すことができる. 式(8)により, 時刻 T における自然量の変化を導くこと K ができる. 3.3 (11) α all = 自然環境への影響度 導出した自然量の変化を利用して, センサネットワ i =0 K ∑ VN i =0 ークによる自然環境への影響度を定義する. ある領域 において, センサネットワークを配置し運用すること ∑ (VN i (T ) − Vi (T ) ) i (T ) K =1− ∑V i =0 K i (T ) ∑ VN i =0 (13) i (T ) 式(13)より, 影響度はそれぞれの領域の自然量の和を で, センサネットワークを設置しない場合に比べてど とることになるので, 一つの領域において Vk(T) と れだけ領域中の自然量が変化したかの指標のことを影 VNk(T)との差が大きい場合でも, センサネットワーク 響度と定義する. よって, ある領域について, 時刻 T が自然環境へ与える影響が大きくなるといえると限ら における自然環境への影響度αを以下のように定義す ない. ることができる. 4. 提案方式 Q α= c Qv QC = センサネットワークを設置した場合の 3 節での定義から, 一つの領域においては V(T)と VN(T)の差が大きくなるほど影響度αは大きくなるが, (9) 複数領域においての影響度αall が同様に大きくなると 領域の自然の変化量 は限らないことを述べた. 本節では, 複数領域におけ QV = センサネットワークを設置しなかった る各領域のメンテナンス頻度と自然環境への影響度の 場合の領域の自然量 関係を考察する. 考察から得られた結果をもとに, 影 響度を小さくするセンサネットワーク構築方式を提案 式(4)(7)(9)より, 時刻 T におけるαは以下の式で表す ことができる. する. 4.1 α= VN (T ) − V(T ) =1− VN (T ) 影響度を考慮したメンテナンス方法 単純な例を利用して考察を行う. 図5において, 自 (10) V(T ) 然量の異なる二つの領域が存在し, 領域 A の初期自然 量 VA(0)は 10, 領域 B の初期自然量 VB(0)は 100 であると 仮定する. 単純化のために変化量 Cx は全て一定で, そ VN (T ) の値は-50 であるとする. つまり, 1 回のメンテナンス 式(10)より, 変化量が負の方向に大きければ大きい ほど, つまり破壊量が大きいほど Vk(T)の値は小さく なる. その結果 VNk(T)との差が大きくなるほど影響度 により自然量が 50 減少すると考える. ここでは, メン テナンスをノード群の交換と考えることにする. 時刻 T においていずれかの領域でノード群のメンテ ─ 140 ─ ナンスが1回行われるとき, 領域 A のノード群を交換 Sink した場合と, 領域 B のノード群を交換した場合それぞ A1 れにおける領域全体の影響度αall を比較する. それぞ A2 1 れの場合における交換直後の領域 A 及び B の自然量, A5 領域全体の影響度αall を表1に示す. A6 1 表より, 領域 A のノード群を交換する場合の方が領 A9 A13 がわかる. つまり, 初期自然量が小さい領域のメンテ A4 16 A7 2 A10 1 域全体での影響度αall を小さくすることができること A3 2 12 A11 6 A14 1 1 A12 9 A15 3 1 A8 1 A16 2 1 ナンスを行う方が自然環境への影響度を小さくするこ 図6 LI-area 集中ルーティングプロトコル とができる. よって, 複数の領域におけるセンサネッ トワークにおいて, 初期自然量の小さい領域のノード 群のメンテナンス回数を増加させることで, 初期自然 域は格子状に 16 分割され, それぞれのエリアを 量の大きい領域のノード群のメンテナンス回数を減少 A1~A16 と呼ぶ. このとき A3, A7, A10, A11, A14 が LI させ, 領域全体の自然環境への影響度αall を小さくす エリアだとすると, データは図の矢印の方向に流れ, ることができると考えられる. シンクまで到達する. 各エリアのデータ発生数を1と 4.2 LI-area 集中ルーティング したときの それぞれのエリアの送信データ数を, エ 提案方式として, LI-area(Less impact area)集中ルーテ リア内の数字で表す. ィングプロトコルを提案する. これは, 領域を複数の 図より, LI エリアの送信データ数が他のエリアに比 エリアに分割し, 初期自然量の小さいエリア (=LI エリ べて多いことがわかる. 以上のようにLI エリアにトラ ア)にトラフィックを集中させるルーティングを行う フィックを集中させることで, LI エリアと他エリアの ルーティングプロトコルである. 特定のエリアにトラ 消費電力に差をつける. フィックを集中させることで, エリアごとのノード群 の消費電力に差をつける. トラフィックが集中するエ 5. 評価 リアは送信データ数が増加することから, 消費電力も LI-area 集中ルーティングプロトコルを利用した場 比例して増加し, バッテリ枯渇が早まり, ノードのメ 合における評価を行う. ここでは, シンクへの最短経 ンテナンス, つまり交換の回数が増加する. 一方他の 路を通るルーティングを従来方式として採用し, 提案 エリアは送信データ数が少なくなるので, 消費電力が 方式との比較を行う. ここではノードのメンテナンス 小さくなり, メンテナンス回数を減少させることがで 方法を一般的な方法であるノードの交換と考える. 評 きる. 価基準は, 自然環境への影響度αとする. LI エリアにトラフィックを集中させることで, LI エリ 5.1 アのノード群のメンテナンス回数は増加するが, 同時 図7では, 図6と同様のLI エリア分布の場合におい 評価 1 に LI エリアよりも初期自然量が大きなエリアのメン て, 提案方式と, シンクへの最短ホップを行った場合 テナンス回数は減少する. 初期自然量の大きなエリア それぞれのデータの送信方向と送信数を示している. のメンテナンス回数を減少させることで, 領域での自 (a)はシンクへの最短ホップを行う場合, (b)は提案方式 然環境への影響度αall を小さくすることができる. によるルーティングを行った場合を示す. 図7のトポ 図6に提案プロトコルの概要を示す. 図について, 領 ロジにおける評価を行う. このとき, 条件として以下 A B VA(0) VB(0) =10 =100 を用いる. ・ リアとの通信を行えるものとする ・ 各エリアの変化量 Cx は全て等しく一定の値 C を ・ 初期自然量 Vk(0)≦C が成立するエリア k を LI エ 図5 自然量の異なる2領域 とる 表1 自然量と影響度の比較 領域A交換 領域B交換 VA(T+) 0 10 VB(T+) 100 50 各エリアには十分な数のノードが存在し, 他エ αall 1/11 5/11 リアとする ・ LI エリア以外のエリアの初期自然量は全て等し く, 値を V(0)とする 領域において時刻 T までに n 回のメンテナンスが行 ─ 141 ─ われたときの提案方式の影響度αall, 従来方式の影響 0.9 度α’all は, 式(4)(7)(11)より以下のように表すことがで 0.8 きる. 従来α n=30 (14) 0.6 提案α n=30 0.5 従来α n=60 0.4 提案α n=60 0.3 従来α n=90 0.2 32 nC 56 ′ = 1− α all 16(V( 0 ) + G ) 提案α n=90 0.1 0 0 (15) 変化量 評価トポロジでは, LI エリア以外のエリアの初期自然 量Vk(0)を500, 回復量Gk を10 とする. 式(14)(15)を利用 図8 変化量を変動させた場合の影響度 して, ノード群の総交換回数が一定の場合において変 1.2 化量が変動する場合, また変化量が一定の場合に総交 結果を示す. どの場合においても, 提案方式の方が従 0.8 従来α C=-50 0.6 提案α C=-50 0.4 従来α C=-100 提案α C=-100 0.2 来方式である最短ホップを行う方式に比べて影響度を 290 270 250 210 230 190 170 150 90 110 70 10 50 0 小さくできることがわかる. n = 90 での提案方式の影 30 図8は, 総交換回数 n が 30, 60, 90 である場合における 提案α C=-10 影響度 結果を図8, 図9に示す. 従来α C=-10 1 換回数を変動させる場合のそれぞれついて比較を行う. 130 11V( 0 ) + -1 0 -2 0 -3 0 -4 0 -5 0 -6 0 -7 0 -8 0 -9 0 α all 14 nC 60 = 1− 16(V( 0 ) + G ) 11V( 0 ) + 影響度 0.7 交換回数 響度のグラフが n = 30 での従来方式のグラフと重なる ことから, 提案方式は従来方式の3倍の改善率である 図9 総交換回数を変動させた場合の影響度 と考えられる. 特に, n = 30 の場合, 図7におけるデー タ送信数が1のエリアの交換が行われないので, 影響 度を大きく抑えられる. 図9は, 変化量が-10, -50, -100 Sink A1 合においても提案方式は影響度を小さくすることがわ かる. C = -10 の場合において, 影響度の増加率が小さ A5 式によって自然環境への影響度αを小さくすることが A3 1 A6 4 A9 いことから, 変化率が小さいほど提案方式による効果 が大きくなると考えられる. 以上のことから, 提案方 A2 1 である場合における結果を表す. 同様に, いずれの場 8 2 15 2 4 2 1 2 2 1 A8 14 A11 1 A14 (a) 可能であり, また, 交換回数や変化量を小さくするこ 5 1 A4 15 A7 A10 A13 1 A3 2 A6 A9 A16 1 A2 1 A5 A12 A15 1 A1 1 A8 A11 A14 1 A4 16 A7 A10 A13 Sink 3 A12 6 A15 3 1 A16 5 1 (b) 図 10 LI-area 分布によるルート構築の違い とで更に小さく抑えることが可能であることがわか る. 5.2 評価 2 図 10(a)のように, LI エリアが領域を横断または縦断す LI エリアの分布状態によって, プロトコルの有効性 が高い場合と低い場合がある. 減少させることができるような分布であるとき有効性 Sink A1 A2 4 A5 8 A6 3 A9 16 3 2 4 3 2 A15 1 3 2 1 (a) 12 6 1 A15 3 1 A16 2 が連続せずに点在する場合やシンクから遠い場合, 他 エリアの中継データ数を減少させることが出来ず, 結 果として従来方式とほぼ変わらない影響度となる. A12 9 (b) 図7 評価トポロジ 1 A8 A11 A14 1 16 2 させることができる. 一方図 10(b)のように, LI エリア A4 A7 A10 A13 1 2 1 は高く, 従来方式に比べて影響度を最大で 3~4 割減少 A3 A6 A9 A16 1 A2 A5 A12 2 1 A1 A8 A11 A14 1 A4 A7 A10 A13 Sink A3 る形で存在する場合など, 他エリアの中継データ数を しかしながら, 有効性が低い場合においても従来方式 よりも影響度を減少させることができ, また有効性が 1 高い場合にはより大きく影響度を減少させることがで きることから, LI-area 集中ルーティングプロトコルは 有用であると考えることができる. ─ 142 ─ 提案プロトコルはLI エリアが存在するような, 自然 量の大きい地域と小さい地域が混在する領域において 有効に活用できると考えられる. 具体的な例として, A1 うな場合には LI エリアが領域中に存在すると考えら A3 0 A4 0 0 A1 A2 0 A5 国立公園における環境センサネットワークによる観測 調査を行う場合, 特に観光地として整備されているよ A2 0 A6 0 A9 1 A13 0 A11 1 1 A14 A15 0 0 0 A5 A4 0 1 A12 0 A9 A13 (a) A7 1 0 A8 1 A10 2 A16 0 A6 3 6. メンテナンス時において通過エリア が受ける影響 A3 0 A8 1 A10 0 れるので, 提案プロトコルの適用が可能である. A7 A11 2 2 A14 A15 3 3 1 A12 2 A16 3 (b) 図 11 領域深度の決定方法 3 節では, メンテナンス時において, メンテナンス を必要とする領域のみの破壊を考慮して定義を行った. た内側のエリア(A6, A7, S10, A11)はメンテナンス時に しかしながら, 4節の例のように領域を複数のエリア 1つエリアを通過する必要があるので 1 となる. 図 に分割して考える場合, メンテナンス時に人が該当エ 11(b)では, 領域の外縁部の一辺からのみ立ち入ること リアまで移動するのに, 他のエリアを通過することに が可能である場合を示す. 同様にして考えると, それ なる. この場合, 通過するエリアに対する破壊が発生 ぞれの領域深度は図のようになり, 立ち入る場所から すると考えられるので, 新たな要素として, エリアの 離れたエリアほど領域深度は大きくなり, 領域中にM 通過による破壊を考える必要がある. 本節では通過エ を発生させる量が大きくなる. リアによる破壊を考慮した上での自然環境への影響度 6.2 について考察する. 領域深度を考慮した上で, 領域の自然量 V(T)と影響 6.1 自然量の変化と影響度 度αall を考える. 移動による破壊は, あるエリアにお 移動破壊量 M と領域深度 3.1 節で述べた要素と同様に, 移動による破壊は面 いて, 他エリアのメンテナンス時に, 自らがメンテナ 積及び時間と関係を持つと考えられる. 移動による破 ンス経路に含まれている場合に発生する. つまり, エ 壊の量を移動破壊量 M とし, 以下の式で定義する. リアが属するメンテナンス経路が使用された時に移動 M = f M (s, t ) (16) による破壊が起こると考える. 図 11(b)では, A7 は A11, A15 のメンテナンス経路上にあるので, それら2つの 移動による破壊は近隣エリアのメンテナンス時にのみ エリアのメンテナンス時に発生すると考えられる. 領 発生する. 領域へ立ち入る場合, 通常, 領域の外縁部, 域深度が大きいエリアほど移動破壊量M は小さく, 小 もしくはシンクから立ち入ると考えられる. ここでは, さいほどM は大きくなる. また図11(a)では, A7 のメン 領域の外縁部からエリアへ立ち入ると仮定する. 外縁 テナンス経路は A3 を通る場合と A8 を通る場合の 2 部から立ち入るとき, 外側のエリア, すなわち外縁部 通りがある. このとき, どちらの経路を選択するかの に接するエリアはMが大きく, また内側の, すなわち 確率は等しく , 図の場合は 1/2 であるとする. 以上の 外縁部から離れたエリアはMが小さい. エリアのメン ことを考慮して, 式を定義する. テナンスを行うことで発生するMの大きさの違いを, エリア k について, 領域深度を depk とする. 領域中 領域深度と定義する. 領域深度は立ち入る場所から目 の最大領域深度を Mdep とすると, メンテナンス経路 的とするエリアまでに通過しなければならないエリア の経路選択が行われない場合, エリア k を通過する経 数を表している. 領域深度を考慮した上で, エリアの 路数は Mdep と depk との差で表される. また, 経路選 択が行われる場合, エリア k の通過前に選択が行われ 分割方法, また侵入方法による変化の違いを考える. 図6のトポロジに対する領域深度の決定方法を図 る場合と通過後に選択が行われる場合とで分けて考え 11 に示す. エリア内の数値は領域深度を示している. る. エリア k の通過後に選択が行われる場合, 経路中 定義として, 領域深度は侵入方向からの最短経路によ のエリア k 通過後のエリアについて, それぞれの経路 って決定すると考える. また, メンテナンス時に必要 選択確率を P0, P1, P2…Pz(z = Mdep-depk)とおくと, エリ となる経路をメンテナンス経路と呼ぶ. 図 11(a)では, ア k の通過後で経路選択が行われた場合の経路選択割 領域の外縁部のどこからでも立ち入ることが可能であ 合 Rafterk は式(17)で示すことができる. z=0 のときは領 る場合を示す. このとき, 外縁部に接するエリアは移 域深度が最大となるので, P0=0とする. エリアkを通過 動破壊量 M が発生しないので領域深度は 0 となる. ま 前に選択が行われる場合, エリア k までの経路が存在 ─ 143 ─ Rafterk = 7. まとめと今後の課題 Mdep − dep k ∑P i =0 (17) i しなければ経路数は 0 となるので, エリア k まで経路 を作る確率を考える. 経路中のエリアそれぞれの経路 選択確率を P’0, P’1, P’2…P’z’(z’ = depk)とおくと, エリア k の通過前に経路選択が行われた場合, エリア k まで の経路が存在する確率 Pbefork は以下の式で示すこと ができる. z’=0 のときは領域深度が最小となるので P’0=1 とする. Pbeforek = ∑ P′ (18) j 式(17)(18)より, メンテナンス経路がエリア k を通過す る割合 rk を以下の式で導くことができる. (19) エリアk通過後にあるエリアの, 時刻tまでのメンテ ナンス回数をそれぞれ e1, e2…ez(z = Mdep-depk)とする. 式(16)(19)を利用すると, 時刻 t までにエリア k が受け る移動破壊量 Mk(t) , z の総量は以下の式で示すことがで きる. このとき, e0 は存在しないことから, Mk(t) , 0=0 と する. M k (t ), z ( z ≥ 1) ( z = 0) ス回数, z はメンテナンス経路におけるエリア k 通過後 のエリア数を表す. (20) + ( n ′ − n ) ⋅ C k , en ′ した場合の全領域における影響度α’all は次の式で表す ことができる. i =0 i (T ) の変化について考察を行った. 今後は, LI エリアの決 定条件やルーティングアルゴリズムの考察を行う. 特 ルゴリズムについて, LI エリアだけでなく移動による 影響も考慮したルーティングを行う必要がある. 謝辞 本研究は科研費基盤研究A(17200003)の助 成を受けて行った. 参考文献 [1] Ian F. Akyildiz, Weilian Su, Yogesh Sankarasubramanian, Erdiai [2] Jane K. Hart, Kirk Martinez, “Environmental Sensor Networks: A pp.177-191, May 2006. [3] http://www.nec.co.jp/effort/ubiquitous/2005_0819/ [4] Brett A, Warneke, Nichael D Scott, et al, “An Autonomous 16 mm3 Solar-Powered Node for Distributed Wireless Sensor Networks”, IEEE sensors 2002 Proceedings, vol.2, pp.1510-1515, June 2002. ∑V ′ i =0 K i (T ) ∑ VN i =0 Networks”, IEEE/ACM Transactions on Networking, pp.493-506, June 2004. [7] Chalermek Intanagonwiwat, Ramesh Govindan, Deborah Estrin, “Directed Diffusion: A Scalable and Robust Communication K =1− Deployments”, IPSN 2006 The fifth International Conference on, Control with Coordinated, Adaptive Sleeping for Wireless Sensor 式(13)に(20)をを適用すると, 移動による影響を考慮 ∑ VN エリア通過による影響も考慮した場合における自然量 [6] Wei Ye, John Heidemann, Deborah Estrin, “Medium Access ( n′ = n + 1または n ) K くすることができた. また, メンテナンス時における pp.407-415, April 2006. + M k ( t ), z ) i =0 特定のエリアにトラフィックを集中させる LI area 集 Sustainable and Scalable Outdoor Wireless Sensor Network i =1 ′ = α all れを基に自然環境への影響度αを導出した. その上で, [5] Prabal Dutta, Jonathan Hui, Jaein jeong, et al, “Trio: Enabling n Vk′(T ) = max(Vk ( 0 ) + ∑ C k ,i − Vi′(T ) ) 象領域における自然の規模についての定義を行い, そ revolution in the earth system science?”, Earth-Science Reviews 78 よって導くことができる. n はエリアk の総メンテナン i (T ) 環境へ影響を与える要素, 及びセンサネットワーク対 Magazine, pp.102-114, Aug 2002. (19) の, エリア k の時刻 T における自然量 V’k(T)は式(20)に K トコルを提案した. まず, センサネットワークが自然 Cayircl, “A Survey on Sensor Networks”, IEEE Communications 式(19)より, エリア通過による影響を考慮した場合 ∑ (VN ワーク構築方式である LI area 集中ルーティングプロ に, 移動による影響を考慮した場合のルーティングア rk = Pbeforek ⋅ Rafterk z ⎧ ⎪ M ⋅ rk ⋅ ∑ ei =⎨ i =0 ⎪⎩ 0 ークが自然環境へ与える影響を考慮したセンサネット 中ルーティングプロトコルによってαを 4 割程度小さ dep k j =0 本稿では, 自然環境中で利用されるセンサネットワ (21) Paradigm for Sensor Networks”, ACM Mobicom, pp.55-67, Aug 2000. i (T ) ─ 144 ─