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10 定理 3.1(行列の積の演算法則) A, B, C は2行2列,あるいは3行3列
10 定理 3.1(行列の積の演算法則) A, B, C は2行2列,あるいは3行3列の同じ型の正方行列とする.このときつぎ のことが成立する. (i) A(BC) = (AB)C (ii) A(B + C) = AB + AC (iii) (結合法則) (A + B)C = AC + BC (分配法則) (分配法則) (iv) λ スカラーのとき, (λA)B = A(λB) = λ(AB) (v) O が2行2列あるいは3行3列の零行列のとき, AO = O, OA = O (vi) E が2行2列あるいは3行3列の単位行列のとき, EA = A, AE = A. 注意. 問 3.2 の (5), (6) の計算から分かるように,積の交換法則 AB = BA は,一般には成立しません.それと, AB = O であっても,A = O あるいは B = O とは限らないことに注意しよう. A, B が同じ n 次の正方行列の場合, A2 = AA として, (A + B)2 = A2 + AB + BA + B 2 という計算が可能ですが, (A + B)2 = A2 + 2AB + B 2 は一般には成立しません. 11 4.行列の基本変形 問 4.1(つるかめ算) つるとかめが合わせて21匹います.その足の数の総数は54 だそうです.つるとかめはそれぞれ何匹いますか? 解答1. いま21匹すべてがつるだとします.このときの足の数は21×2=42 のは ずです.しかしこのとき,54−42=12 だけ余分になっていますが,かめの足は4 本ですから,12を2で割ってかめは6匹,つるは15匹と計算します. この解答がいわゆる‘ つるかめ算 ’です. 解答2. もう1つの方法は連立方程式をたててそれを解く方法である.つるの数を x , かめの数を y とする.このとき, ( x+y 2x + 4y = 21 ···○ 1 = 54 ···○ 2 この方程式は簡単に解けるでしょうが,つぎのようなやり方でやってみよう. ○ 2+○ 1 × (−2) ( x+y 0x + 2y ○ 4× = 21 ···○ 3 = 12 ···○ 4 1 2 ( ○ 5+○ 6 × (−1) x+y = 21 0x + y =6 ···○ 6 = 15 ···○ 7 ( x + 0y 0x + y すなわち, ···○ 5 =6 ( ···○ 8 x = 15 y =6 である. 2 12 この解法の特徴はつねに2式を並列して書いていくというですが,注意して見ると式の 変形が結局, x, y の係数と定数の部分だけの変形であることが分かります.したがって, 連立方程式 ( ax + by =p cx + dy =q を書くとき, x, y および +, = の記号を省略して .. a b . p . c d .. q と書いてしまっても上の変形による計算は可能です.第1列は x の係数,第2列は y の係 数で第3列は右辺の定数と定めておけば,いつでも元の方程式の形に戻すこともできます. そして,ここで使われている変形は, (I) (II) 1つの式の両辺に0ではない定数をかける. 1つの式に定数をかけた他の式を加える. の2種類だけです.この2種類の変形と (III) 2つの式を入れ換える. という変形だけを用いて問 4.1 の解答2のように連立方程式を解いていく方法はガウス の消去法あるいは掃き出し法と呼ばれます. 例 4.2 連立方程式 x + y + z 2x + 3y + 5z 5x − 4y + 6z =0 = −1 =1 をガウスの消去法で解いてみる. . 1 .. 0 2 3 5 ... −1 .. 5 −4 6 . 1 1 1 2行+1行×(−2) ↓ ↑ 2行+1行×2 13 .. 1 1 1 . 0 0 1 3 ... −1 .. 5 −4 6 . 1 3行+1行×(−5) ↓ ↑ 3行+1行×5 .. 1 1 1 . 0 0 1 3 ... −1 .. 0 −9 1 . 1 3行+2行×9 ↓ ↑ 3行+2行×(−9) . 1 1 1 .. 0 0 1 3 ... −1 .. 0 0 28 . −8 ↓↑ 1行+2行×(−1) 1 0 −2 0 1 3 1行+2行 .. . 1 .. . −1 .. 0 0 28 . −8 3行 × 1 28 ↓↑ 3行×28 .. 1 0 −2 . 1 0 1 3 ... −1 .. 0 0 1 . − 27 1行+3行×2,2行+3行×(−3)↓ ↑ 1 0 0 0 1 0 1行+3行×(−2),2行+3行×3 .. 3 . 7 .. . − 17 .. 2 0 0 1 . −7 最後の行列の形をもとの式の形に戻すと, x = y z 3 7 = − 71 = − 27 となり,方程式が解けいていることになる. 14 x, y, z を未知数とする連立方程式 a11 x + a12 y + a13 z (∗) に対して,3行3列の行列 a21 x + a22 y + a23 z a x + a y + a z 31 32 33 = b1 = b2 = b3 a11 a12 a13 A = a21 a22 a23 a31 a32 a33 を上の連立方程式 (∗) の係数行列といい,これに右辺の定数の列 b1 B = b 2 b3 を加えた3行4列の行列 . a11 a12 a13 .. b1 . .. (A .. B) = a a a . b 2 21 22 23 . a31 a32 a33 .. b3 を拡大係数行列といいます.さらに,未知数をベクトル x X = y z の形に書くと,連立方程式 (∗) が, AX = B と行列の積の形で表現されます.ガウスの消去法は拡大係数行列の係数行列の部分を行列 の行基本変形で単位行列に変形していく操作です. a11 a12 a13 .. (A . B) = a21 a22 a23 a31 a32 a33 .. .. . b1 基本変形 1 0 0 . p1 .. .. .. . b2 −→ 0 1 0 . p2 = (E . P ) . .. ←− 0 0 1 .. p3 . b3 係数行列 A を,(I),(II) および (III) の行基本変形により単位行列 E に変形していくと きに,同時に B も同様の変形を行うと,結果として出てきた P がその方程式の解になる ということです.その際, E を作る手順が列ごとに行われていることに注意してください. 15 例 4.3 連立方程式 x + 3y + 3z y − 3z −x − 4y + az を解いてみる. =2 =b =0 .. 1 3 3 . 2 . 0 1 −3 .. b .. −1 −4 a . 0 ↓↑ .. . 2 .. 0 1 −3 . b .. 0 −1 a + 3 . 2 1 3 3 ↓↑ .. 1 0 12 . 2 − 3b 0 1 −3 ... b .. 0 0 a . b+2 ···○ 1 つぎに3行3列の a を1にするわけですが,それは a の値によって場合に分かれます. (i) a 6= 0 の場合,3行を a で割ることができるから, ↓↑ . 1 0 12 .. 2 − 3b 0 1 −3 ... b .. b+2 0 0 1 . a 1行3列の12と,2行3列の−3をそれぞれ3行3列の1を使って0にすると, ↓↑ .. 12(b+2) 1 0 0 . 2 − 3b − a 0 1 0 ... b + 3(b+2) a .. b+2 0 0 1 . a したがって,このとき, x = 2 − 3b − y z =b+ = b+2 a 3(b+2) a 12(b+2) a 16 の1組の解をもつ. (ii) a = 0, b = −2 のとき,○ 1 の行列は .. 1 0 12 . 8 0 1 −3 ... −2 .. 0 0 0 . 0 となり,これ以上の変形は意味をなしません.そこで方程式の形に戻しますと, x + 12z = 8 y − 3z 0 = −2 =0 上の2つの式はそれぞれ x = −12z + 8, y = 3z − 2 のように x, y が z で表せることを意 味しますが,z そのものにはそのような拘束がありません(本来 z を拘束する式が 0 = 0 と 無意味な式になっているからです).したがって, t を任意の数として,上の答は x = −12t + 8 y z = 3t − 2 =t と表せ,これは t を媒介変数とする3次元の空間内の直線の方程式になり,その直線上 の点の座標がこの方程式の解になり,それは無数にあるということになります. (iii) a = 0, b 6= −2 のときは,○ 1 の第3行が 0 = b + 2 6= 0 という矛盾を含む式になり,この場合は解があるとするとこの矛盾が必ず出ることになり, したがって解がありません. 2 17 5.逆行列をもつ行列 A を2次あるいは3次の正方行列としたとき, AX = XA = E をみたす2次あるいは3次の正方行列 X は A の逆数に相当するものになります.これを 求めることを考えてみましょう. まず A が2次の正方行列の場合に X を求めてみます. " # a b A= , c d " X= x1 x2 y1 y2 # とすると, AX = E は, " # " # ax1 + by1 ax2 + by2 1 0 = cx1 + dy1 cx2 + dy2 0 1 となる.したがって, X を求めるには2つの連立方程式 ( ( ax2 + by2 = 0 ax1 + by1 = 1 cx1 + dy1 = 0 cx2 + dy2 = 1 を解けばよい.ここで注意してほしいことはこの2つの連立方程式は係数行列がともに行 列 A であることです.つまり行基本変形で解く場合,同じ変形により2つの方程式が同時 に解けることになります.そこで .. a b . 1 0 . c d .. 0 1 において,行基本変形を使って左の行列 A を単位行列 E に変形していくと,ad − bc 6= 0 の とき, .. d −b 1 0 . ad−bc ad−bc . −c a 0 1 .. ad−bc ad−bc となる.すなわち, " # 1 d −b X= . ad − bc −c a 18 また, ad − bc = 0 のときは上の連立方程式の少なくともいずれか一方が解をもたない ということも分かり,この場合は X に相当する行列はないことになります. 一般に,正方行列 A に対して, AX = XA = E をみたす正方行列 X があるとき,この X を A の逆行列 inverse matrix といい,A−1 と書 きます.逆行列がある場合はその行列は1つだけであることも分かります. " # a b A= , c d の場合は A−1 ad − bc 6= 0 " # 1 d −b = ad − bc −c a というわけです. 定理 5.1 A, B が逆行列をもつ正方行列なら,A−1 , および AB も逆行列をもち, (A−1 )−1 = A, (AB)−1 = B −1 A−1 , である. 3次の正方行列に対しては,この段階では2次のときのように逆行列の形を単純に表す 方法がありません.この場合には1つ1つ行列を基本変形で単位行列に変形していく方法 で逆行列を求めていきます. . a11 a12 a13 .. 1 0 0 .. a a a . 0 1 0 21 22 23 .. a31 a32 a33 . 0 0 1 を基本変形で変形していったとき, . 1 0 0 .. ∗ ∗ ∗ 0 1 0 ... ∗ ∗ ∗ .. 0 0 1 . ∗ ∗ ∗ の形に変形できたとき, ∗ で表されている部分に,もとの行列の逆行列が現われてきます. 19 例 5.2 3 −6 10 A = 3 −5 11 , 2 −4 7 1 2 3 B = 4 5 6 7 8 9 の逆行列を求めてみましょう. A の場合: . 3 −6 10 .. 1 0 0 3 −5 11 ... 0 1 0 .. 2 −4 7 . 0 0 1 1行+3行×(−1)↓ ↑ 1行+3行 .. 1 −2 3 . 1 0 −1 3 −5 11 ... 0 1 0 .. 2 −4 7 . 0 0 1 2行+1行×(−3),3行+1行×(−2)↓ ↑ 2行+1行×3,3行+1行×2 . 1 −2 3 .. 1 0 −1 0 1 2 ... −3 1 3 .. 0 0 1 . −2 0 3 1行+2行×2 ↓ 1 0 7 0 1 2 ↑ 1行+2行×(−2) .. . −5 2 5 .. . −3 1 3 .. 0 0 1 . −2 0 3 1行+3行×(−7),2行+3行×(−2)↓ ↑ 1行+3行×7,2行+3行×2 .. 1 0 0 . 9 2 −16 0 1 0 ... 1 1 −3 .. 0 0 1 . −2 0 3 したがって, A は逆行列をもち, 9 2 −16 = 1 1 −3 −2 0 3 A−1 となります. 20 B の場合: .. 1 2 3 . 1 0 0 4 5 6 ... 0 1 0 .. 7 8 9 . 0 0 1 2行+1行×(−4),3行+1行×(−7)↓ ↑ 2行+1行×4,3行+1行×7 . 1 2 3 .. 1 0 0 0 −3 −6 ... −4 1 0 .. 0 −6 −12 . −7 0 1 µ ¶ 1 2行× − ↓ ↑ 2行×(−3) 3 .. 1 2 3 . 1 0 0 .. 4 0 1 2 . 3 − 13 0 .. 0 −6 −12 . −7 0 1 3行+2行×6 ↓ 1 2 3 0 1 2 ↑ 3行+2行×(−6) .. . 1 0 0 .. 4 . 3 − 13 0 .. 0 0 0 . 1 −2 1 となります.そしてこの変形は連立方程式を解いているわけであり,最後の3行を見ます と,方程式の形に直したとき 0 = 1, 0 = −2 という式が出てくることになります.これは 矛盾です.すなわち, B に対しては逆行列が存在しないということになります. x, y, z を未知数とする連立方程式 (∗) a11 x + a12 y + a13 z a21 x + a22 y + a23 z a x + a y + a z 31 は, 32 a11 a12 a13 A = a21 a22 a23 , a31 a32 a33 33 b1 B = b2 , b3 = b1 = b2 = b3 x X = y z とおくと, AX = B と書くことができて,特に A が逆行列 A−1 をもち,それが計算できているときは, X = A−1 B を計算することにより解が求まることになります.