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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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ミイラ化した腹腔内胎児の1例
野村, 淑子; 平瀬, 文子
東京女子医科大学雑誌, 28(12):916-922, 1958
http://hdl.handle.net/10470/13082
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
ら6
(東京女医三脚第28巻第121号頁916−922昭和33年12月)
ミイラ化し7;腹腔内胎児の1例
第
一
医
乱
野
闘
淑
子
ノ
ムラ
ヨシ
コ
、
東・京都監察医務院
平
瀬
丈
子
ヒフ
セ
フミ
コ
(受付昭和33年10月11日)
1.緒
凋濁液各々80.0㏄を容れている。
言
子宮外妊娠のうち卵管妊娠は最も屡々遭遇する
で正常妊娠に対し0.06%,卵管妊娠に対し3∼5
諸臓器の重量は脳1430g,左眼は465g,右肺
は558g,肝は1360g,心は235g,左腎は193g,
右腎は1679,脾は1629,でいずれも著しく血量
%の割に認められる。
少く,貧1血性である。腎は分葉状で軽度の浮腫が
ものであるが,腹腔妊娠1)2)は比較的稀有な症例
:東京都監察医務院において変死体の死因究明の
ある。諸処の粘膜はいずれも蒼:白で,各粘膜下及
目的をもつて行政解剖を行つt処,本屍は人工或
び漿膜下に盗血点はないが,血管は坦々充盈して
は自然流産後で然も腹腔内において一見腫瘤状の
いる。
ミイラ化した胎児(妊娠5ヵ月)を認め得たのでラ
左・恒肌「に鳳尚艮り刀《狸を認の一首1∼気月里状『(ごめ
これを法医解剖学的,並びにレンドゲン写真によ
る。気管支内には灰白色の細小泡沫中等量を容れ
り検索を行ったので鼓に報告する。
ている。皮下脂肪織,腸間膜脂肪織及び心外膜下
2.症
ニ ぬゆ リユしら わい
例
ロうゆぬ ヤロミ
ぬゆぬゆ
ゴユすセ
あ
脂肪織の発育は著しく貧,小腸下部及び大腸にお
1.状況,23才,♀,国電の階段を下降中突然倒
ける淋巴装置の発育は中等である。胃内には淡紅
れ,救急車で附近の病院に収容されたがその途次死亡
灰白色の澗濁内容20.0㏄及び蝸轟1条を容れて
いる。左心房及び同心室内には暗赤色流動性血液
したもので死亡前の詳細な状況は不明である。なお親
戚の人の言によると,本四は内妻らしく夫の住所は不
明で,本屍既往症についても不明である。
10.0㏄を右心房内には同様血液5.0㏄を,同心
室内には同様血液少量を容れている。心筋の厚さ
2.剖検所見
右は0.6cm,左は1.2cmで淡黄褐色を呈してい
(1) タト景検査
る。心筋に潅燭は認められない。各弁膜装置に異
身長149,0cm,体SC 40. 0 kg,全身の皮膚の色は一
常を認めない。また冠状動脈及び脳底動脈の走行
般に蒼白であるが,背部には紫赤色の屍斑軽度であ
は尋常で硬化は認められない。腹腔内には異液が
る・死俸灘は総ての関館こ申等度である・左右眼瞼
並びに眼球結膜は蒼白で盗血点はない。角膜は略々透
ない。膀胱内には淡黄色の透明尿5.0㏄を容れて
明,散大した瞳孔を透見出来る。鼻腔からは異液を洩
いる。子宮の大きき12.8×8.0×3.5㎝子宮外ロ
らさない。口は三々開いている。口腔内には灰白色
は横裂でそ「の長径は2.Ocmである。子宮漿膜は
の細小泡沫少量を容れている。舌尖は歯列の後方にあ
淡紫色を呈し,子宮腔内には鳩卵大,暗紫赤色の
胎盤を残存しているが,胎児或は胎児の部分を認
る。体表面に於て外傷を認めない。
めない(附写真1参照)。
(2)三景検査
子宮内膜の色は暗紫赤色稽々粗槌である。卵管
血液は暗赤色流動性,左右胸腔内には淡黄色の
Yoshiko NOMURA (Daiichi Clinic> & Fumiko HIRASE (Tokyo Medical Examiner Office)
: One case of mummified foetus in abdomen.
一 916 一一
らブ
出歩行および乗車していたものでこれ等が誘因と
は亭々下下で肉眼的に癒着,疲痕その他卵管妊娠
破裂を思わせる様な所見は認められない。左右卵
なって急性心機能不全をきたして死の転機をとっ
巣の大ききは略々尋常で皆野を認められない。子
たものと推定される。また通常些々見られる急死
宮底の上:方8.0㎝の処に於て3.0×6.5cm大の
例の様に本例においても血液は暗赤色流動性であ
腫瘤1個がある。表面は大網膜様組織で被われ,
るが,各粘膜下および漿膜下の盗血点は殆んど認
索状組織により子宮底部漿膜面と連絡している。
められなかった。これは全身の高度の貧血及び衰
本腫瘤は周囲組織との癒着なく,子宮底部と連絡
弱のためと考えられるが,この様な状態を惹起さ
している以外は腹腔内に遊離iしている。硬度は表
せた原因について考按を試みると,子宮4)は約4
面は千々軟かいが中心部は著しく硬い(附写真H
カ月の大きさを呈している。子宮腔内には胎盤組
参照),次いで表面の大網膜様組織を除去して検
織を遺残しているので生前おそらく自然流産した
索すると約鶏卵大,半ばミイラ化萎縮した胎児を
か,あるいは人工妊娠中絶を受けたが胎盤組織遺
認めた(附写真皿参照)。
残のため子宮復故不全をきたして外出血が持続,
徐々に貧血に陥ったものと考えられる。子宮には
本胎児をレンドゲン写真により検索を行った三
(附写真IV参照)。
その他外出血をおこすと考えられる様な穿孔及び
裂傷等を認めない。更に子宮腔内には胎盤組織遺
また本胎児の大きさをレントゲン像により測定
残による感染等も認められなかった。本症例にお
すると左右大腿骨,同脛骨及び同鎖骨の長径は第
いて最も興味のあることは,.死因とは直接関連は
??ノ示してある。これを各月三二胎児骨長と比
ないが剖検によって腹腔内胎児が発見きれたこと
和脊柱及び四肢骨に変形及び位置異常を認めた
一一
較すると本胎児は胎生5カ月に相当している(附
である。
すなわち本例は苗回の妊娠が早宮外妊娠でそれ
写真V参照)。
が中絶して,腹腔内胎児として一定耳聞を経遇半
内分泌臓器においては左右腎上体皮質のリポイ
ド含有量が少いのみで脳下垂体,胸腺及び甲状腺
ばミイラ化して爾腹腔内に残存しているのに薪た
に子宮腔内に妊娠し,次いでこれも自然或は人工
等に著変を認めない。
第一表 在胎月令別胎児各骨長 (単位mm)
的に妊娠中絶をしたものと考えられる。この腹腔
在二月釧大腿骨 脛骨 鎖骨
内胎児はおそらく腹腔(腹膜)妊娠で,しかも新
ll
皿
W
v
vr・
顎
皿
pt
X
新産児
本
たに子宮腔内妊娠が重複していたので興味ある症
3
例
例と考えその点に関して老察を試みた。
10
8
14
19
17
14
37
34
43
55
20
32
腹腔妊娠(卵管或は卵巣妊娠中絶による)であるが
38
が1912年初めてこれを認めてから引続き’. Vera
57
42
60
43
68
45
腹腔妊娠とは次の3条件を満す注射に限ると云っ
74
47
ている。すなわち,
40
55
61
71
76
84
左22.5ド
右・2.・L右…
腹腔内胎児の原因は原賦性腹腔妊娠及び続発性
原発性腹腔妊娠は稀有なものである。Richter 6)
及びVeit等の報告がある。 Veit 7)は所謂原発性
「1),卵は腹膜と生活結合を営むこと,2),卵着
左.13. 5
床部は卵管,副卵管,卵巣及び子宮と無関係である
右 14.0
こと。3),胎児は生活しているものであること。
以上の3条件を肉眼的及び綿緯学的に解明する
3.総括及び考按
必要があるが・Vara 8)は1936年迄の収集症例38
以上の所見から本屍は諸臓器の著しい貧血,左
右肺は高度の肺水腫及び一部に気腫を認め,脂肪
例中,この3条件をそなえていたものは僅か4分
織の発育は貧で,全身は高度の衰弱状態にある。
前1、q)10例に過ぎないと云っている。 H:oehne 9)
また左右胸腔内に淡黄色の瀕濁液多:量を容れてい
も1928年迄の文献について検討した結果所謂原発
ることから両翼の滲出性肋膜炎に罹患していたも
性腹腔妊娠は僅か3例であったと報告している。
のである。この様に全身状態が不良であるのに外
我国において終戦前の彦坂10)の報告では確実な原
一 917 一一一
58
登性腹腔妊嫉は10例で戦後では川村1iう,:小橋t2)
宮外胎児に惹起される変化としては生活児の体重
を始め5例位である6また所謂続発性腹腔妊娠とは
及び身長は子宮内胎児より小で崎形及び変形等が
卵管妊娠,或は卵巣妊娠中絶によって胎児が腹腔
多い15)。、腹腔内胎児においては羊水の欠乏によっ
内に離脱する野合の総称で1卵全体(胎児及び胎
て,叉卵管及び卵巣内胎児においては羊水の欠乏
盤も共に)が腹腔内へ脱出して死亡した揚合及び
に加え内腔の制限等によってこれらの異常をきた
胎盤は原発着床部に残って,「胎児だけが腹腔に出
すものと考えられる。また極めて稀に広靱帯内(
て死亡しあるいは一定期間発育した場合である。
腹腔外)腹腔妊娠があるがこの揚合も前記と同様
すなわち続発性腹腔妊娠とは卵管妊娠或は卵巣妊
なものと思われる。死後においては妊娠初期で骨
娠の中絶現象と考えられるが,二次的に腹腔内に
格のない胎児は融解,消失するものと思われてい
再着床し妊娠を継続する例はないとされている。
るが,相当発育した胎児は浸軟;骨格化,ミdラ思
人及び動物において自然的再移殖を証明した者は
及び石灰化して,多くの揚合は囲緯膜を癸生し密
いない。但し胎盤附着部以外の破裂によって胎児
着した厚い灰白色の膜で包まれる様になるので体
のみが腹腔内に脱出して発育を続け,次第に胎盤
表器管を直接見るζとが出来ない。後にこの囲続
発育の揚所が不足し着床部と無関係な部位に迄拡
膜は石灰化し或は胎児と癒着する様になる。
大する揚合は認められる処であるが,これは剥離
好例においてはレントゲン写真によって証明さ
胎盤の移植とは考えられない。従って真の続発性
れた様に骨格には崎形があって,ミイラ化し更に
腹腔妊娠は不可能とされている。腹腔内胎児を発
表面は大網膜様の囲緯膜で包まれて,全く腹腔内
見した揚合,これが原発性の腹腔妊娠か或は所謂
胎児の所見を備えている。次ぎに子宮外妊娠中絶
続発性腹腔妊娠か否かについて検討する必要があ
の時期であるが,一般に最:も頻発する卵管峡部妊
娠の揚合は早期の2乃至3カ月頃迄で幸に外嚢破
る。
旧例においては生前の徴候が判然としないため
確かではないが,解剖所見のみから推察して胎嚢
裂:或は内嚢破裂によって腹腔内に胎児が脱出して
及び索状組織等から絨毛組織を証明できなかった
る。また開腹手術によって生児を得た報告もあ
のでVeitの第一の条件である卵と腹膜との生活結
る14)。本号の子宮は妊娠4カ月の大きさを示し,
合性が判然としない。次いで第二の条件である卵
子宮腔内には胎盤組織を遺残していたが,これは
蒲床土に関しては全く不明である。第三の条件で
胎児或はその部分を認め得なかったことから考え
ある胎児の生活有無に関してば既にミイラ化した
て恐らく自然流産後か或は人工妊娠中絶(子宮内
本門においては問題とならない。故に本例は原発
容除去術)後と考えられる。しかし既にミイラ化
性腹腔妊娠とは決し難い。そこで続発性腹腔妊娠
した腹腔内胎児とは無論関係がなく,子宮内及び
について考えてみると,原発着床部と老えられる
子宮外妊娠が同時に多胎妊娠として合併すること
卵管及び卵巣は左右両側共に癒着,疲痕その他破
は稀で我が国に嘗ては続発性腹腔妊娠で7カ月の
裂を思わせる罪な所見を呈していない上1胎盤組
胎児が腹腔内に健在中であるのに更にまた子宮内
織も認められない点から続発性腹腔妊娠をも証明
に約3カ・月大の胎児を妊娠していた例が沢崎工5)に
することは出来ない(勿論子宮内に残存している
よつて報告されている。雑筆の様に腹腔内に残留
妊娠を持続した葺合には成熟児を得ることがあ
胎盤組織は腹腔内胎児と関連があるとは考えられ
していた胎児が死亡した後,また薪に子宮内に妊
ない)。しかし子宮底部とが索状組織によって互
に連絡していることから考えて:最も発育しやすく
娠する時期は通常みられる子宮内妊娠中絶の揚合
と同様であろうと思われるが,本尊では既に腹腔
叉脱出しやすい卵管膨大部妊娠で,胎児が卵管か
内胎児がミイラ化しているので相当の時期を経た
ら脱出,胎盤は子宮底部に新たな発育面を選んで
後で今回の子宮内妊娠をしたものと考えられる。
拡大,引続き腹腔内で発育を継続して胎生5ヵ月で
一般に腹腔妊娠の母体に与える影響は卵管妊娠
栄養の補給が充分でない為妊娠中絶を招いて,ミ
の場合と同様で妊娠中絶がおこると始めて下腹部
イラ化したものと考えられるか,或は又立証され
疹痛,貧血,悪心及び嘔吐等がおこる。また卵管妊
なかったが原発性腹腔妊娠であったかも知れない
娠中絶時と異って外出血は余り認められないが,
が,この点に関しては全く不明である。次ぎに子
内出血は多量な揚合がある。開腹手術を施行しな
一 9i8 一一
59
ければならない場合がある。また胎児を腹腔外に
及び乗車等の過重な運動が誘因となって心不全を
出し得ても胎盤は伺腹膜に附着し,その面積が
きたして死亡したものと考えられる。
広く,重要臓器との関係もある上剥離困難及び出
交
血.も多く,更に止血も困難で母体に悪影響を与え
献
1)安間善雄:日本産科婦人科学会雑誌,29,347
ることが多い。それ故腹腔妊娠を診断した場合に
(昭9)
は早急に開腹手術を施行するのが妥当と思われる
2)古屋清:産科と婦人科,2,1012(昭9)
3)小南又一郎:実用法医学,215(昭19)
が他方妊娠末期迄特別の変化なく経過し開腹によ
4)古畑種基:法医学,144(昭26)
って生活児を得ることもある。また他の原因によ
つて開腹或は解剖された場合に発見されることか
ら考えて母休に与える影響は少いこともある。本
5)安藤画Pt :婦人科学各論(下)152(昭24)
6) Richter:Archiv. f. Gyn. Bd.,96,461, (1912)
7) Veit, J.:DOderlein’s Handbuch Der Gebu−
四における腹腔内胎児は本屍の死因とは直接関係
rtshilt−e Bd. 2. 403, (1916)
がないものと思考される。
8) Vera,P.:Zbl. f. Gyng 6g Jg NT 47, (1936)
4.結
語
9) Hoehne, O : Halban−Seitz. Biologie u. Path−
検案時において死因不詳であった一急死例を剖
ologie des Weibs, Bd. VI[ 2 Teil S 686, (1928)
検した結果,所謂腹腔内妊娠(原発性,続発性の
何れかは不明)子宮底部上方にミイラ化した約5
10)彦坂恭之助:臨床産科婦人科,18,181(昭18)
11)川村幸雄:北海道産科婦入科学会誌,3,116,
(昭27)
ヵ月の胎児を認め,また子宮は妊娠約4カ月の大
12)小橋正:四国医学雑誌,4,94(昭28)
きさで胎盤組織を遺残して,すなわち自然流産或
は入工妊娠中絶後と推定された。しかしその死因
13)安藤画一;婦人科学各論(下)102(昭24)
は腹腔妊娠とは直接関係なく,本四は左右滲出性
14)木下正一・松島正雄=日本産科婦人科学会雑誌
肋膜炎に罹患し,更に子宮復故不全による外出血
のため全身の貧血及び衰弱を招来し,これに歩行
一919一
39, 38 (日召 19)
15)沢崎手具・関 關:臼本産科婦人科学雑誌,38.
925 (日召 18)
61
野村・平瀬論:父附図
附写真1胎盤組織を残存せる子宮
附写真H胎児
一92ノー
62
野村・平瀬論:文附図
附写真皿本胎児と対照(4ヵ月)の横断面
附写真V 本胎児と対照(5ヵ月)
のレン}ゲン写真
附写真IV 本胎児レントゲン写真
一一 922 一
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