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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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鼻腔より副鼻腔,上顎骨に蔓延した黒色肉腫の一例
久田, タカ; 鈴木, 千鶴子; 長沼, 雅子
東京女子医科大学雑誌, 26(9):482-486, 1956
http://hdl.handle.net/10470/12700
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
42
(東京女医大誌面26巻第9号頁482−486昭和31年9月)
鼻腔より副鼻腔,上顎骨に蔓延しアこ
黒色肉腫の一例
東京女子医科大学耳鼻咽喉科学教室(主任佐藤ククヨ教授)
久
田
ヒサ
タ
鈴
済生会大月病院
木
橘
擬
千 鶴 子
スズキチズコ
長
ナが
沼
雅
ヌマ
マサ
子
(受付 昭和31年7月20日)
緒
一血液像及び尿所見には異常なし。
言
病理組織学的並びに臨床的に特異なる所見を呈
局所所見;外鼻に異常なし。右鼻前庭入口部よ
する黒色腫瘍は,他の悪性腫瘍に比し其の報告例
第 一 図
が稀である。我が教室に於ても,さきに佐藤教授
の報告があるが,最:近私共は右側鼻中隔より発生
し宛腫瘍を除去し,更に1年目に再発を来し,遂
に上顎骨全摘出を行った黒色肉腫の一例を経験し
備前
Tugnt除去後
充ので追加報告する。
症
例
気
t
患老:小○某,30才の女子
初診:昭和29年7月15口
主訴:右側鼻閉と腫瘤
瀧繊
既往症及び家族歴:生来健康で著息なく,悪性腫瘍
詔舷29卸η彫む稲
の遺伝的関係なし。
現病歴:29年4月右側鼻閉及水様三山漏あり,医師
り中隔面は黒色を呈し,鼻底部は梢薄墨色に着色
の診察を受けたが病名不明。5月右側鼻閉高度とな
り,鼻茸様のものが増大し,鼻孔迄現れて来たので某
す。個有鼻腔にある腫瘤は中隔より広基性に突出
して右鼻腔を閉塞し,甲介は認められなv・。且腫
医院で腫瘤の摘出術を受け,栂指頭大のものが除表さ
れたが殆ど出血をみなかった。一時鼻閉は軽快したが
1ヵ月後より再び右側鼻閉起り,日毎に腫瘤増大し,
7月始め某病院を訪れ,女子医大病院に紹介された。
瘤は淡紅色で梢汝硬く,易出血性ではなく,悪臭
なし。後鼻孔には変化を認めない。X線写真上で
は右鼻腔に軽度の陰影を認めるが副鼻腔には著変
なし。
現在迄に鼻出血はなく,29年6月始め頃より淡褐色の
以上の局所所見より右鼻腔の黒色肉腫を疑い腫
鼻汁が出たという。
現症;体格梢々小,栄養中等度,胸腹部に著変
なし。血液ワ氏反応陰性,軽度の貧一血を認めるが
瘤の一部を試験切除し,病理組織学的に検索せる
結果Pigmentは判然とせぬが肉腫様増殖を認め
Taka HISATA, Tizuko SUZUKI (Depart. of Oto・rhino−laryngology Tokyo Women’s Medical College)
and Masako NAGANVMA (Saiseikai Otuki Hospital) : A case report on melanosarcoma origi−
nated in nasal−cavity spreading to nasal sinus and maxilla.
一 482 一
ng
たので,29年7月24日,佐藤教授執刀の下に,第
再手術所見:30年9月5日右外頸動脈結紮。9
月6日佐藤教授執刀の下に最:初反対側鼻中隔の黒
一回手術を施行した。
治療及び経過
変部を除去後,右側デンケル氏上顎部分的切除術
手術所見:仰臥位にて局所麻酔の下に鼻内法及
の予定で開始した。犬歯窩骨壁は平滑なるも,骨
び口腔法を併用す。鼻腔内に突出せる腫瘤は中隔
膜と共に黒変し,此の骨壁を野ぎく削干するに,
及び鼻底部より広基性に出て居た。腫瘤を血豆係
第三図
で瞬断後,鼻腔を精査すると鼻中隔鼻底部,下心
道外側壁迄黒変部を認めるので黒変部粘膜を剥離
摘出し,更に下甲介にも軽度に黒変部ある為大き
く骨部より切除したが出血は僅少。口腔創を縫合
し,鼻内タンポンを施し第一回手術終了す。10日
後残存せる鼻底深部の真黒な組織を面内より剥離i
除去す。後端は後鼻孔縁には達せす,Deviotomie
に準じて鋤骨の黒染部も削除す。之にて肉眼的黒
染部は全部除去し得た。
第=二図
黒変した上顎洞前壁
骨壁の上顎洞面は凹凸粗造で黒変し,上顎洞は非
常に小で洞内は黒変せるMasseで充満し粘液が
少量あり。鼻腔側壁を切除するに,もはや骨質は
吸収されて無く,洞内黒変部は全面に亘り,洞底
部と歯槽突起部が最:も強V・。Denker氏手術は殆
ど無血に終了したが,之だけでは余りに周囲の骨
壁に蔓延して居るので,引続き上顎骨全摘出術に
変更し%。
、貰te
顔面にWeber氏の皮切をおき骨膜より剥離す
第一次手術(鼻中隔及鼻腔粘膜)
るに上顎骨前面は真黒色で,上顎骨の頬骨突起を
昭和2D年7月24目 (第一回手術)
論断すると骨皮質は白いが断面の骨髄はなお少許
〃29年8月3日 (第二回手術)
り黒変部を認む。眼窩下壁も黒変せるため,眼窩
後療法;ラジウム2280mg時照射を行い,全治
縁より約3㎝後方迄除去したが眼窩骨膜は難色せ
状態で,8月15日退院した。
す。正中離断を行い軟口蓋を残して上顎骨を摘出
其後済生会大月病院にて29年9月20日より30年
したが上顎洞部で折れた。ロ蓋骨は黒変せす,更に
8月30日迄の約一年間にナ・fトロミン総:量2700
筋骨蜂窩を廓清するに,発育狭小で懇懇前群の粘
mg(50mg 54回)注射を行った。此の間30年6月
膜は黒変せるも,後方は蒼白浮腫状であった。中甲
中旬より右側上裂に面した鼻中隔の上部及び甲甲
介と下甲介にも黒変せる部分を認む。30年8月末
頃反対側の鼻中隔直入ロ部に近い上端に小豆大の
黒変部を認めたので30年9月4日再手術の為入院
した。
介上部を鉗除すると嗅湖面は黒変し,小さな黒変
せる上甲介を認め,中隔嗅裂部粘膜も真黒色を呈
した。之門門門門は最初より最も疑った処で,予
想通り病変は進行していたが嗅裂上部に手をつけ
再入臨時所見:栄養中等度,顔面の色素沈着や
る事は危険なるため残した。摘出腫瘍標本に第4
腫脹なし。胸腹部に著変なく,頸部淋巴腺腫脹も
図に示す。顔面皮膚縫合を行v・術を終了した。術
なし。血液所見は赤血球325×104,白血球5400,
後直に輸血及び葡萄糖注射等行う。
Hb 94%(ザーリー),血液像にて好酸球百分率増
後療法としてザルコマイシン総量9500mg注射
加を認めft。
ラジウム総量2640mg時,及びレ線照射60(㌧施行
一”
S83一”
44
第 四 図
第 七 図
第二次手術 (上顎骨摘出)
上顎骨前壁骨の組織像
昭和30年9月6目
ハーベルス氏管内に黒色腫瘍細胞を認める。
白血球数5400,赤血球数229×104,Hb 79%(ザ
不同,不正形であるが紡錘形の細胞が多く,メラ
ーリー), ヘマトクリット値33,プライスジヨン
ニン色素を大量に含有し,所々に巨大細胞のよう
ス曲線はほぼ正常なるも,貧血を呈せる為,其後
なものも認める。
は貧血の療法のみ施行し,30年11月術創治癒せる
犬歯面骨壁の骨標本では,骨髄腔及びハーベル
為口腔外科にて作ったプロテーゼを装用して,
ス氏管内にメラニン色素を含有せる腫瘍細胞が充
発語もやや明瞭となり退院した。
満している。なお色素は過酸化水素で脱色され,る,
組織学的所見:上顎洞粘膜では肉腫細胞は大小
これで脱色される色素はメラニン色素と消耗色素
である。消耗色素の揚合は脂肪染色で陽性である
第 五 図
が,本例は陰性なるため,メラニン色素と認めら
れる。
考
按
組織発生:本腫瘍の発生機転につV・てみるに,
Pt k一異論があり,未だ定説はなv・。 Virehow,
Rapah. L6wentha1等は外傷を誘因に挙げてv・
るが,他の研究者は鼻茸,母斑り手術等をあげて
VOる。
繁騨纐讐騨書
組織発生説によればBecker7♪は黒色腫は表皮
と真皮の接合部のMelanoblast(メラニン母細
鼻中隔粘膜組織像 (弱拡大)
胞)から生じ,決してより深V・母斑細胞からは発
黒点はメラニン色素を含む腫瘍細胞
しないと述べている。初期の表皮説を支持する学
第 六 図
者は関係ある細胞の特異性を認めぬが,その凡て
の細胞は活動性で,而も潜在性のメラニン母細胞
であると信じていた。
然るに最近の研究で,特にB㏄kerの詳述せる
如く段k’表皮の総懸状細胞の特異性がありそうに
見えたり,彼の言う普通の棚状基底細胞が良性の
上皮腫又はKrebusになり,一方MeIanoblast
の様な明るい細胞は良性及び悪性黒色腫になると
いう結論が正当化されるように見えると解せられ
ている7)。
鼻中隔粘膜組織像 (強拡大)
黒色肉腫の母組織となるものは先ず皮膚殊に色
一 484 一
45
素性母斑,眼球に於ける網膜,紅彩肱絡膜,中枢
照射して臨床的に治癒退院し,其後ナノfトロミン
神経組織等の色素を含有する組織であり,稀に皮
注射総量2700mgを使用して経過観察中,術後9
膚に隣i接する粘膜(口腔,鼻腔,直腸,尿道)其
ヵ月で再発した。再手術所見で,節骨蜂窩上顎洞
他食道,肝,総出阻管,副腎髄質等の如き内臓に
上顎骨迄蔓延しているので遂に上顎骨全摘出術を
も原発性又は転移性に発生する。鼻腔粘膜の呼吸
施行し,術後ザルコマイシン等を併用した。ナイ
部にも嗅部にもメラニン色素あり乏なすものに,
トPミンは第一野手術後は再発防止の目的で使用
OPPikofer, v Brum, Schieferdecker等がある。
したが,使用中に嘔気,食慾不振,全身倦怠感あ
しかしながら杉山,吉田両.氏12)は鼻粘膜の色素に
り,連続投与も困難となり,白1血球数を参照して
就き研究した結果,普通のメラニンとは本態的に
時々中止しながら総量2700mgを使用した。経過
異るものの様であると言う。
中,白血球数は3700となった事もあった。
好発部位:黒色肉腫色素顯粒の多V・眼及び皮膚
以上の各種抗癌性薬剤を以てしても,局所所見
に原発する事が多いが,耳鼻咽喉科領域では何れ
で本腫瘍を軽快せしめたとは思われなかった。こ
の部位からも発生し,特に鼻腔及び口蓋が好発部
れも極めて早期に使用したならば,或程度軽快せ
位である。我々の症例も右側鼻中隔より発生し,
しめ得たのではなV・かと思われる。
同側前部二二箕,上顎洞,上顎骨に及んでいた。
他の領域への関聯:更に他の部への淋巴腺転移
再発転移:再話及び転移については,これらは
を探求したが腫脹を触れない。一時眼窩壁の下部
必発とみられている。再発迄の期間は,早いもの
は黒変部を認めたが視力障碍なく,眼底の変化も
は2日目より,遅V・のぱ10年に及ぶものも報告さ
認められなかった。内科的に自覚症状なく,一血液
れているが,平均して1箇年前後と言われてい
所見で貧血をみるのみであった。叉Melanourie
る。本論では初診より丁度9ヵ月目に再発した。
は腎転移のある場合にみられるのであるが,本例
なお上顎骨摘出時に上顎骨の頬骨突起を鋸断ずる
では此の所見もみられなかった。融々治癒の状態
際,骨皮質は硬く白いが,断面の骨髄のみが黒変
で退院し今後の経過を観察する予定であったが,
しているのを認めた。これをみても黒色肉腫はや
別の原因で急逝されたのは実に遺憾であった。
は:り:最初は骨髄よ夢拡大し遂には骨全体が真黒色
結
となるとV・う事がわかった。淋巴腺転移は認めら
語
本例は,30才女子の右側鼻中隔に原発した黒色
肉腫で,第1回手術後9カ月で再発を来し,前部飾
れなかった。
発生頻度:耳鼻咽喉科領域に於ても比較的稀で
骨盤案及び上顎骨に迄拡大増殖を来し,遂に上顎
特に鼻中隔より発生したものについては1888年
骨全摘出術を施行し,後療法としてラジウム照射,
Heymannが始めて報告し, 我国では1929年江
レントゲン照射,ザルコマイシン及びナイトロミ
面1)等の報告以来数氏による報告をみる。当教室
ンの注射を併用し,ほぼ軽快したが,なお嗅裂上
にても佐藤!1)が鼻中隔に原発したと思われる黒色
部に僅に黒変部を残したまま退院した。退院後30
肉腫につV・て既に発表したが,今回の例は鼻中隔
年11月他の事情により急逝した為其後の経過を追
から飾骨蜂窩,上顎洞粘膜更に上顎骨髄迄拡大し
V・得なかった一例である。
た症例である。
症候:自覚的には鼻閉塞,鼻出1血,偏頭痛を訴
本論文は,第一報として,昭和29年10月,巨本耳鼻
咽喉科学会関東地方会第26回大会及び昭和29年12月東
えたり,特異な薄墨∼黒色の鼻漏あると言われる
京女子医大学会69回例会において,第二報は昭30年10
が,本例の中隔鼻茸は晶晶により切除され後に再
月,丁丁第29回大会において発表したものを纏めたも
発し且少量の薄茶色の鼻漏があるので,本腫瘍を
のである。
終に臨み,御懇篤なる御指導と御校閲の労を執られ
疑ったが,この鼻茸切除に際し茎部の後方は広く
黒変をみたので臨床的に本症と診断出来た。
た佐藤教授に衷心より拝謝し,なお病理組織標本につ
いて,種々御指導下さいました今井教授に深謝の意を
治療:病変部の手術的除去は勿論であるが後療
表する。
法としては従来よりレ線照射及びラジウム照射が
文
行われている。
本例も第1回手術後ラジウム総量2640mg時を
献
1)江面,小野:耳鼻咽喉科 2,850 (昭2)
1−
V4翻肝
4・6
2)
加藤冨男,江艮捷:耳鼻咽喉科 26,91(昭28)
8)沢木,田ロ,五十嵐:日耳会i報 58,1137
3)
梶浦常助:耳鼻臨床42,132 (昭24)
(昭30)
4)
光吉多喜男:大目耳鼻41,1688 (昭10)
5)
緒方・三田村:病理学総論下の巻
6)
林天賜:耳鼻咽喉科 14,259 (昭工6)
11)佐藤イクヨ=耳鼻咽喉科 13,16(昭15)
7)
Willis R.A. : Pathology of Tumours
12)吉田俊夫:大日耳鼻41,282(昭10)
9)植木巖:耳鼻咽喉科15,279 (1940)
10)砂田知一:大目耳鼻 43,553 (昭12)
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