Comments
Description
Transcript
天体ライブ配信教材の開発と実践
中学第二分野 天体ライブ配信教材の開発と実践 宮城県大崎市立古川東中学校 齋 藤 弘一郎 (業績分担者)宮城教育大学 高 田 淑 子 * ** (業績分担者)国立天文台 水沢 VERA 観測所・石垣島天文台 宮 地 竹 史 (業績分担者)宮城県仙台市立吉成中学校 門 脇 駿 *** **** 目 的 中学校で行う天体の観察は、さまざまな制約があり 授業中だけでは不十分である。一方で、観察をシミュ レーションソフトやモデルで置き換える学習には疑問 が残る。 そこで、インターネットや IT 機器を活用し、天体 のライブ配信を行い、その記録を用いて学習を展開で きる教材を開発した。 Ⅰ.太陽の日周運動ライブ配信「ぜんてん」 太陽の日周運動を撮像した画像から、季節による変 化を導き、季節による日周運動の違いを調べさせる。 Ⅱ.昼の金星のライブ配信「金星ライブ望遠鏡」 図 1 ぜんてん概要 生徒が学校で活動する昼に金星を観察することで、 その満ち欠けや視直径の変化を調べさせる。 Ⅲ.地球儀モデル「地球儀全天カメラ」 地球儀とカメラによる太陽の日周運動、季節による 違い、観測地の緯度経度による違いをモデルで再現 し、観察結果と関連づけて理解させる。 概 要 Ⅰ.「ぜんてん」 魚眼レンズをつけた全天カメラを屋外に設置し、太 陽を撮像する。画像を常時インターネット上に配信す ると共に、データを蓄積することで、授業時に季節ご との比較ができる(http://zenten.miyakyo-u.ac.jp/) 全天カメラは仙台市と、石垣市の 2 カ所(緯度経度 が約 15°異なる)に設置した。 図 2 ぜんてん公開ウェブサイト * さいとう こういちろう 宮城県大崎市立古川東中学校 教諭 〒 989-6117 宮城県大崎市古川旭 4-5-1 ☎(0229)24-0444 E-mail [email protected] たかた としこ 宮城教育大学理科教育講座 教授 〒 980-0845 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 149 ** *** **** みやじ たけし 国立天文台水沢 VERA 観測所・石垣島天文台 副所長 ☎(022)214-2415 〒 907-0024 沖縄県石垣市新川 1024-1☎(0980)88-0013 かどわき しゅん 宮城県仙台市立吉成中学校 教諭 〒 989-3205 宮城県仙台市青葉区吉成1-12-1☎ (022) 279-3800 7 Ⅱ.「金星ライブ望遠鏡」 望遠鏡に CCD デジタルアイピースを取り付け、昼 の金星を撮像し、室内のモニタにワイヤレスでリアル タイムで配信する。金星の満ち欠け、視直径の変化を 継続的に観察する。 望遠鏡を含めた機器はその都度設置、回収が可能で ある。設置から配信まで 1 人で行った場合でも所要時 間が 30 分程度である。 構築に必要な機材の合計価格は 182,162 円(コン ピュータを除く)である。 図 4 地球儀全天カメラ概要 図 3 金星ライブ望遠鏡概要 写真 2 地球儀全天カメラと白熱灯 教材・教具の製作方法 Ⅰ.「ぜんてん」 写真 1 撮影した金星(左)、屋内のモニタに配信(右) 1.撮像部 ネットワーク対応カメラに魚眼コンバージョンレン ズ(魚露目 8 号)を両面テープで接着する。ケース(タ カチ:防水防塵ボックス)に穴(φ 2.4cm)を開け、 アクリルドームでカバーする。カメラをケースに入れ 屋外に設置した。 カメラとのデータの送受信は無線で行うと配線は 100V 電源のみである。カメラ材料費は 50,000 円ほど で、ネットワークと電源の確保ができれば設置可能で ある。 Ⅲ.「地球儀全天カメラ」 地球儀に固定した魚眼レンズ付き小型ワイヤレスカ メラで、太陽の日周運動等を再現する。 従来の方法では、カメラの画角により自転に伴って カメラの向きが変わり、画面上の方位が変化するため 方位の把握が困難であった。魚眼レンズを取り付ける ことで、カメラを天頂方向へ固定したまま、全天球上 を視野に入れることができる。画面の上下左右が常に 北南東西に対応し、方位や高度の把握が容易である。 8 写真 3 全天カメラ 2.サーバー部 カメラの画像をインターネットに公開するためのプ ログラムを自作した。プログラムの主な機能は、カメ ラ画像の取得、加工(目盛り、時刻、観測地名の合成)、 画像保存、公開用 Html テキストおよびカレンダー用 Html テキストの作成である。これらを Perl 言語で作 成し制御した。 Ⅱ.「金星ライブ望遠鏡」 1.望遠鏡部 手動で昼の金星を導入するのは困難なため、自動導 入可能な経緯台(Vixen : SkyPod 経緯台)を用いる。 小型の望遠鏡(Kenko : SE-120 f=600mm)を搭載し、 バローレンズ(× 2)により焦点距離を延長、CCD デジタルアイピース(Celestron : NexImage)で撮像 する。 フリップミラーを用いてズームアイピースを取り付 け、導入から撮像のワンタッチで切り替え可能にした。 デジタルアイピースでの撮像ではピント調節が微動 になるため、モーターフォーカサーを取り付けた。 輝く金星が収まる。金星を視野中央に合わせた後、フ リップミラーをデジタルアイピース側に切り替える。 撮 像・ 配 信 PC の モ ニ タ を 見 な が ら、 モ ー タ ー フォーカサーでピントを合わせる。 室内のモニタ PC をリモートデスクトップ機能で、 撮像・配信 PC に無線接続し、金星のライブ映像を室 内のモニタに配信する。金星の自動追尾を行うが、30 分ごとに望遠鏡の向きを手動で微調整する必要がある。 慣れれば設置から配信まで 30 分程度で行える。配 信終了後は機材一式を撤去する。 Ⅲ.「地球儀全天カメラ」 防犯用のワイヤレス小型カメラに、全天カメラに使 用した魚眼レンズ(魚露目 8 号)を取り付け、地球儀 に取り付ける。 地球儀はアクリル半球を 2 個合わせて、内側から キャノンペーパークラフトの地球儀を貼り付けた。カ メラ用三脚に固定したため、地軸の傾きを変えること ができる。画像はカメラ付属のレシーバーで受信し、 スクリーン等に表示する。 カメラは 9V 電池で動作するため、ワイヤレスでの 使用が可能である。 写真 4 金星ライブ望遠鏡の構築 2.撮像、映像配信 PC PC にデジタルアイピースを USB 接続し撮像する。 同時に SkyPod 経緯台とクロスケーブルで接続し、天 文シミュレーションソフト(ステラナビゲータ 9)の 望遠鏡コントロール機能を用いて望遠鏡を操作する。 3.室内のモニタ 無線 LAN ルーターを用いて、屋外に設置した撮 像・映像配信 PC と、室内のモニタ PC を接続する。 室内のモニタに画像を配信すると共に、室内からの望 遠鏡の遠隔操作を可能とした。 4.望遠鏡設置から配信までの手順 配 信 を 行 う に は、 屋 外 に 望 遠 鏡 一 式 を 設 置、 SkyPod 経緯台に撮像・映像配信 PC を接続する。鏡 筒を水平西に向けた後、太陽を導入し、白い板にファ インダーごしの太陽を投影し同期する。 この後、金星を導入するとファインダー内に明るく 写真 5 地球儀全天カメラの製作 学習指導方法 Ⅰ.「ぜんてん」 1.太陽の日周運動の記録 全天カメラによる冬至の太陽の位置を 1 時間ごと透 明半球(ヤガミ : 目盛り入り透明半球)に記録する。 記録は内側からシール(エーワン : カラーラベル透明 タイプ)を貼り付ける。 記録から日の出、日没の時刻、昼夜の長さを求め、 南中高度、南中時刻を求める。 9 2.季節によるちがい 同様に夏至、秋分の太陽を記録し、その記録から、 日の出、日没の時刻、昼夜の長さを求め、南中高度、 南中時刻を求める。季節によって、これらが変化する ことを見つけ、その原因について推測する。 過去の画像を印刷し掲示することで、金星の満ち欠 けや、視直径の変化を比較することができる。 写真 6 全天カメラ画像、秋分(上)、夏至(左)、冬至(右) 写真 9 金星の画像を印刷し廊下に掲示 写真 7 目盛入り透明半球への記録 3.緯度による違い 仙台市と石垣市の記録の違いを予想し、全天カメラ の画像から透明半球に記録し、比較することで緯度や 経度の違いによる見え方を考える。 同様に赤道、北極における各季節の太陽の動きにつ いて推測する。 授業ではこれらの画像を比較し、内惑星としての金 星の公転運動と見え方の関係を考える。その際、望遠 鏡のレンズによる倍率は同じであることを補足する。 Ⅲ.「地球儀全天カメラ」 「ぜんてん」の記録によって導かれた、季節による 日の出や日没の時刻、昼夜の長さ、南中高度が異なる 原因を地球儀全天カメラで再現し考える。 教室中央に白熱灯(太陽)を設置、地球儀全天カメ ラを春夏秋冬の位置にそれぞれ移動し、地球儀を回転 (自転)させ、画面に映る太陽の動きから地軸の傾き と日周運動の関係を考える。 写真 8 昼夜の長さ、南中高度の違いを考える Ⅱ.「金星ライブ望遠鏡」 ライブ配信を定期的に行う。ライブ配信の際に、 AVI 形式の動画ファイルとして保存する。さらに画 像処理ソフト(RegiStax)で処理する。 10 写真 10 地球儀全天カメラで再現 その他補遺事項 Ⅰ.金星ライブ望遠鏡の入手先 テレスコープセンター アイベル ホームページアドレス http://www.eyebell.com/ Ⅱ.本実践は日本学術振興会科学研究費補助金奨励研 (2008) 、日本科学協会笹川科学研究助成実践(2010) 、 武田科学振興財団 中学校理科教育振興奨励(2010) の助成を受けて行った。 最新情報などはブログ「K’s 理科実験室」 http://tovu3110.blog19.fc2.com/ で公開している。 Ⅲ.謝辞 写真 11 地球儀全天カメラによる画像 公転面に対して地軸を 90°にすると、地球がどの位 置でも日周運動が同じになることが再現できる。 赤道や北極における各季節の日周運動について、カ メラを地球儀の北極、赤道に取り付けて再現する。磁 石で固定しているため取り外しが容易である。 実践効果 全天カメラの画像、地球儀全天カメラを用いて平成 20〜22 年度、美里町立不動堂中学校、大崎市立古川 東中学校の 3 年生を対象に授業実践を行った。 授業後に行ったアンケートの結果は以下の通りである。 本実践は宮城教育大学大学院派遣(平成 19〜20 年 度)における研究を中心にまとめたものです。このよ うな機会を与えていただいたことに感謝いたします。 宮城教育大学理科教育講座高田淑子教授、同環境教 育実践研究センター鵜川義弘教授をはじめ多くの皆様 からご指導いただきました。また、石垣島への全天カ メラ設置には国立天文台 VERA プロジェクト / 石垣 島天文台の宮地竹史氏をはじめ多大なるご支援を頂き ました。この場を借りて感謝申し上げます。 授業実践を行った美里町立不動堂中学校、大崎市立 古川東中学校の生徒、保護者、先生方に感謝いたします。 仙台市に設置した全天カメラは、この度の震災によ る落下で原稿執筆時には画像配信できていません。 最後に、被災された方々に心からお見舞い申し上げ ると共に、今後の復興に向けて、微力ながら、被災地 の理科の教師として、できることを精一杯行っていき たいと思います。 興味を持って学習できたか。 季節ごとの違いを理解できたか。 透明半球の記録から日の出や日没の時刻 や昼夜の長さを調べることができたか。 緯度による日周運動の違いが理解できたか。 できた どちらかといえばできた どちらかといえばできなかった できなかった 図 5 授業後のアンケート結果(単位は人) 金星ライブ望遠鏡による配信は平成 22 年度に行い、 撮像した画像を用いて、金星の公転と満ち欠け、視直 径の変化の授業を行った。 11