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VERA 2 ビームフリンジ位相補償における大気位相揺らぎについて
VERA 2 ビ ー ム フ リ ン ジ 位 相 補 償 に お け る 大 気 位 相 揺 ら ぎ に つ い て 佐 藤 克 久 、 本 間 希 樹 、 久 慈 清 助 、 VERA グ ル ー プ ( 国 立 天 文 台 他 ) 1.はじめに 試 験 観 測 期 間 中 の VERA に よ り 、離 隔 0.65゜ の W49N と OH43.8-0.1 の メ ー ザ 源 ペ ア で 2 ビ ーム観測を実施し、2 ビームによるフリンジ位相の補償を施すと大気による位相変動が効 果 的 に 低 減 さ れ る 事 を 位 相 安 定 度 の 観 点 か ら 示 し た [1]。 VERA で は 建 設 候 補 地 の サ イ ト 調 査 の 一 環 と し て 、 1998 年 に シ ー イ ン グ モ ニ タ ー に よ る 大 気 位 相 安 定 度 評 価 を 実 施 [2]し て お り 、今 回 の VERA 試 験 観 測 に よ る 2 ビ ー ム 位 相 補 償 で の フ リ ン ジ 位 相 安 定 度 評 価 結 果 と の 比較検討を行った。 2 . VERA 2 ビ ー ム 観 測 に よ る フ リ ン ジ 位 相 V E R A に よ る 2 ビ ー ム 観 測 は 、2 0 0 2 年 7 月 2 3 日 に 離 隔 0.65゜ の W49N と OH43.8-0.1 の メ ー ザ 源 ペ アで実施した。2 天体のフリンジ位相補償の様子を 図 1 に示す。大きな位相変動を示すのがそれぞれ W49N と OH43.8-0.1 の フ リ ン ジ 位 相 で 、そ の 差 分 が 2 ビーム位相補償結果となり、中央に位相変動が低減 さ れ た 様 子 が 示 さ れ て い る 。 W49N と OH43.8-0.1 の フリンジ位相及び位相補償後のアラン標準偏差評価 を 図 2 に 示 す 。 図 中 △ で 示 す OH43.8-0.1 は □ で 示 す W49N に 比 し て 観 測 時 の 輝 度 温 度 が 低 く 、 評 価 時 間 10 秒以下では大気の振る舞いがシステムノイズに埋も れている。位相補償後は○で示す様に完全に白色位 相雑音を示しており、2 ビーム位相補償が完全に機 能 し て い る [1]。 3.シーイングモニターによる大気位相安定度 VERA 建 設 サ イ ト 調 査 時 に 、写 真 1 に 示 す 様 な 衛 星 TV 受 信 用 1.2m パ ラ ボ ラ ア ン テ ナ と 1.7GHz 帯 中 間 周 波 数 を位相安定化光ファイバーで伝送する構成でシーイン グモニターシステムを組み上げ、大気変動評価を実施 し た [2]。 主 な 仕 様 は 、 以 下 の 通 り で あ る 。 受 信 信 号 : BSAT-1a 衛 星 ( 11.70666GHz) IF: 1.7067GHz 2ndIF: 406.7MHz K-4 terminal output: 107kHz V.V.input: 107kHz( with 20kHz B.P.F.) A/D converter effective band width: 800Hz 基 線 : 96m 東 西 ( 水 沢 ) 、 60m 東 西 ( 入 来 ) システムブロック図を図 3 に示す。 1998 年 10 月 12 日 か ら 13 日 に か け て の 、 水 沢 で の 測定をアラン標準偏差で評価した結果を図 4 に示す。 図 中 の 時 間 経 過 は ● (1009.4hPa、 90.6%)、 ■ (1011.6hPa、 図 1 図 2 写真 1 図 3 97.2%)そ し て ▲ (1012.5hPa、 67%)と 推 移 し 、 そ れ ぞ れ 安 定 度 は 評 価 時 間 1 秒 で 見 た 場 合 、 1E-12 程 度 か ら 2E-13 程 度 へ と 推 移 し て い る 。 こ れ は 、 水 沢 の 気 圧 と 気圧傾斜による湿潤大気や乾燥大気の流入に起因し て い る と 考 え ら れ る [2]。 4 . VERA 2 ビ ー ム と シ ー イ ン グ モ ニ タ ー に よ る 大気位相安定度比較 VERA 2 ビ ー ム 観 測 に よ る フ リ ン ジ 位 相 変 動 と シ 図 4 ーイングモニター観測による大気位相のアラン 標 準 偏 差 評 価 の 比 較 を 図 5 に 示 す 。図 中 、● で 示 す シ ー イ ン グ モ ニ タ ー の 値 は 、V E R A シ ス テ ム と の シ ス テ ム ノ イ ズ の 違 い を 考 慮 し 、比 較 の た め に 時 間評価の長周期側で一致する様調整している。 VERA 2 ビ ー ム 観 測 は 入 来 局 -水 沢 局 基 線 で 行 わ れ て お り 、短 基 線 シ ー イ ン グ モ ニ タ ー に よ る 局 所 的な大気の 3次元構造が卓越する乱流領域と異な り、2 次元的な大気のスクリーンモデルが適用さ れ る 基 線 長 と な っ て い る 。 従 っ て 、 VERA 2 ビ ー 図 5 ム観測によるフリンジ位相の安定度評価では、3 次元乱流構造領域となる時間評価の短周期側はシーイングモニターの結果と比 して安定度が良い傾向を示しているものと考えられる。一方、時間評価の長周 期側は、長基線で、かつ 2 次元的なスクリーンモデルの適用範囲と考えられ、 大 気 構 造 の 差 分 と し て 100 秒 程 度 ま で 大 気 起 因 と 考 え ら れ る フ リ ッ カ ー 雑 音 性 質を示している。 5.安定度評価 ア ラ ン 標 準 偏 差 は 式 1 [ 3 ] で 表 さ れ る が 、パ ワ ー スペクトラム領域の連続量たる周波数安定度を、 時間間隔毎の離散的に取得される時間領域の測定 データから推定するので、評価の信頼性を維持す るためには無限時間平均が前提となる。しかしな がら、この平均化処理で短周期の変化する事象が 相殺される事になる。短周期変動事象の様子を観 るために、評価の信頼性を損なう事になるが敢え て VERA 2 ビ ー ム 位 相 デ ー タ を 1 分 毎 と 5 分 毎 の 時 間間隔でのアラン標準偏差評価する。アラン標準 偏差には、連続方式と呼ばれる通常の標準偏差計 算手法以外に、τ秒間隔のデータを移動しながら 計算するτ重複方式と呼ばれる計算手法がある。 τ重複方式は、測定した全データの間隔を逐次使 用して安定度を評価するので、貴重なデータを有 効に活用出来る。今回はこの算出方法を用いる。 1 分 毎 の ア ラ ン 標 準 偏 差 評 価 で は 、時 間 評 価 1 0 秒迄の結果が得られ、5 分毎の評価からは、時間 評 価 1 0 0 秒 迄 の 結 果 が 得 ら れ る 。OH43.8-0.1 の 1 分 毎 及 び 5 分 毎 の 結 果 を 図 6、 図 7 に 示 す 。 図 6 の 時 間 評 価 10 秒 以 下 の 領 域 で 見 ら れ る 2∼ 3 分 周 期の安定度の変動成分が、図 7 では平均効果で平坦にな っ て い る 。そ こ で 、図 6 の 10 秒 以 下 と 図 7 の 10 秒 ∼ 100 秒 迄 の そ れ ぞ れ の 安 定 度 変 動 成 分 を 合 成 し 、 100 秒 ま で の時間評価全域での安定度の様子を観る。結果を図 8 に 示 す 。同 様 に 、W49N に つ い て の 合 成 し た 100 秒 ま で の 時 間 評 価 全 域 で の 安 定 度 の 様 子 を 図 9 に 、 VERA 2 ビ ー ム 位 相 補 償 後 の 様 子 を 図 10 に 示 す 。 図 8: OH43.8-0.1 図 9: W49N 式 1 図 6 図 7 図 10: 2B 位 相 補 償 後 図 8、図 9 に 見 ら れ る ア ラ ン 標 準 偏 差 の 変 動 に は 、時 間 評 価 1 秒 か ら 数 秒 に 渡 る 2∼ 3 分 の 周 期 と 、 時 間 評 価 数 十 秒 か ら 100 秒 に 及 ぶ 20 分 程 度 の 周 期 成 分 が 見 ら れ る 。 これらの周期成分の可能性として、 大 気 重 力 波 [4]が 上 げ ら れ る 。 図 11 に 電 離 圏 擾 乱 ス ペ ク ト ル 模 式 図 [4] を示すが、この様な電離圏擾乱は、 大気圏の重力波と呼ばれる定在波的 な波動が電離圏へ伝搬する事により 説 明 [4]さ れ て い る 。今 後 、大 気 圧 の 周期解析等から、この変動成分の検 討を進めたい。 図 11 6.フリンジ位相時間構造関数評価 大気位相揺らぎの評価方法として、空間構造関数が用いられる事が多い。対 流 圏 の 水 蒸 気 成 分 の 密 度 分 布 が Kolomogorov の 乱 流 理論によると仮定し、その中で簡単なモデルとして Frozen-screen モ デ ル を 採 用 し た 場 合 、 対 流 圏 中 に 様 々な大きさの塊として水蒸気成分が存在し、形状を変 式 2 えないまま上空の風に吹き流されて横切る事によりラ ンダムな位相変動を生じると考えられる。この 場合、大気位相揺らぎの時間構造関数は式 2 で 表 さ れ る [5]。 VERA 2 ビ ー ム 観 測 に よ る フ リ ン ジ 位 相 変 動 を 、 こ の 時 間 構 造 関 数 で 評 価 し た 結 果 を 図 12 に 示 す 。図 中 の 点 線 は 、Dravskikh-Finkelstein の 大 気モデルを適用した大気揺らぎの時間構造関数 の 理 論 曲 線 [5]を 示 す 。 こ の 理 論 曲 線 は 観 測 装 置 のシステムノイズを反映するので、今回の比較 では、べき乗形状の推移のみ有意と考えられる。 △ で 示 す OH43.8-0.1 は 、 低 S/N の た め 、 時 間 評 価 の 図 12 短 周 期 側 で 理 論 曲 線 か ら 離 脱 し て い る 。 ▽ で 示 す W49N は 十 分 な S/N を 有 す る も の の 、 や は り 時 間 評 価 の 短 周 期 側 で 若 干 理 論 曲 線 か ら 離 脱 し て い る 。理 論 曲 線 は 、短 基 線 で 大 気 の 3 次 元 構 造 が 卓 越 す る 乱 流 領 域 で の 解 析 に よ る [ 5 ] の で 、 入 来 局 -水 沢 局 基 線 間 の 2 次 元 的 な 大 気 の ス ク リ ー ン モ デ ル が 適 用 さ れ る 大 気構造の差違が現れているものと考えられる。●で示す 2 ビーム位相補償後は、時間構造 関数的な観点では完全に平坦となり、大気擾乱が完全に補償されている事を示している。 一 方 、 時 間 評 価 の 長 周 期 側 で は OH43.8-0.1 と W49N 共 理 論 曲 線 か ら 離 脱 し て い る 。 使 用 し た VERA 2 ビ ー ム フ リ ン ジ 位 相 デ ー タ は 試 験 観 測 初 期 の も の で 、解 析 パ ラ メ ー タ 不 適 正 起 因 の 長 周 期 成 分 除 去 の た め に 前 処 理 を 実 施 し て い る 。時 間 構 造 関 数 の 時 間 評 価 の 長 周 期 側 で 、 長 時 間 平 均 処 理 領 域 が 低 減 し て い る [5]事 か ら 、ト レ ン ド 除 去 前 処 理 で 長 周 期 成 分 を 過 大 評 価した可能性がある。 7.おわりに VERA 2 ビ ー ム フ リ ン ジ 位 相 変 動 と シ ー イ ン グ モ ニ タ ー に よ る 大 気 位 相 安 定 度 評 価 を 比 較 検討した結果以下の事が判明した。 (1) V E R A 2 ビ ー ム 観 測 に よ る フ リ ン ジ 位 相 の 安 定 度 評 価 で は 、 位 相 補 償 後 は 完 全 に 白 色 位 相 雑 音 を 示 し て い る 。S/N が 良 好 な W49N の 場 合 、時 間 評 価 の 短 周 期 側 は 3 次 元 乱 流 構 造 領 域 と な る シ ー イ ン グ モ ニ タ ー の 結 果 と 比 し て 、2 次 元 的 な 大 気 の ス ク リ ー ン モ デ ル が 適 用 さ れ る 基 線 長 故 、安 定 度 が 良 い 傾 向 を 示 し て い る 。 一 方 、 W49N と OH43.8-0.1 両 者 と も 時 間 評 価 の 長 周 期 側 は 、 大 気 構 造 の 差 分 と し て 100 秒 程 度 ま で 大 気 起 因 と 考 え ら れ る フ リ ッ カ ー 雑 音 性 質 を 示 し ている。 (2) VERA 2 ビ ー ム フ リ ン ジ 位 相 補 償 で は 観 測 星 の S/N が 重 要 で あ り 、 低 強 度 星 の 場 合 数 分 の 大 気 位 相 安 定 度 の 周 期 性 に 対 し 、 S/N リ ミ ッ ト で 位 相 補 償 が 充 分 機 能 し な い 。 こ の 数分の大気位相安定度の変動そのものは、長時間積分処理した場合、積分効果で埋も れ て し ま い 、 実 質 位 相 補 償 が 機 能 し て い る 。 ま た 、 20 分 程 度 の 大 気 位 相 安 定 度 の 周 期 性 に 対 し て は 、位 相 補 償 が 有 効 に 機 能 す る 。こ の 20 分 程 度 の 大 気 位 相 安 定 度 周 期 性 は 、 長時間積分処理した場合積分効果で現れない。 (3) 時 間 構 造 関 数 的 な 観 点 で は 、 VERA 2 ビ ー ム フ リ ン ジ 位 相 補 償 後 は 特 性 が 完 全 に 平 坦 と なり、大気擾乱が完全に補償されている事を示す結果となった。 国 立 天 文 台・地 球 回 転 研 究 系 の 劉 慶 会 氏 に は 、時 間 構 造 関 数 に つ い て 有 益 な 意 見 を 頂 い た。また、国立天文台・水沢観測センター浅利一善氏からは、気象データを提供して頂い た。ここに記して深謝致します。 参考文献 [1]Honma M. et.al., First Fringe Detection with VERA Phase-Referencing Capability, s Dual-Beam System and Its Publ. Astron. Soc. Japan, 55, L57-L60, 2003. [2] Hara T., Kuji S., Sato K.-H., Sasao T., Sakai S., Iwadate K. and Asari K, Atmospheric phase stability at NAO, Mizusawa, 1998 年 度 VLBI 懇 談 会 シ ン ポ ジ ウ ム 集 録 , p.108-111, 1998 年 11 月 . [3] A.R. Thompson, J.M. Moran and G.W. Swenson, Jr, in Radio Astronomy, [4] 柴 田 喬 , Interferometry and Synthesis Krieger publishing company, pp.272-277, 1998. 大気中に生じる不思議な波動 −大気重力波−, 7 大学大学院合同セミナ ー 「 科 学 特 論 」 , Sept. 3-7, 1995. [5] 劉 慶 会 他 , 実 時 間 VLBI シ ス テ ム を 利 用 し た 大 気 揺 ら ぎ の 観 測 , 2001 年 度 VLBI 懇 談 会 シ ン ポ ジ ウ ム 集 録 , p.141-142, 2001 年 12 月 [6] 佐 藤 克 久 、 本 間 希 樹 、 久 慈 清 助 、 VERA グ ル ー プ ( 国 立 天 文 台 他 ) , リンジ位相補償における大気位相揺らぎについて, ウ ム 集 録 , p.48-51, 2003 年 12 月 . VERA 2 ビ ー ム フ 2003 年 度 VLBI 懇 談 会 シ ン ポ ジ