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「多様な「人活」支援サービス創出事業」
平成25年度 経済産業省委託事業 平成25年度 経済産業省委託事業 経済産業省委託事業 「多様な「人活」支援サービス創出事業」 報告書 平成26年3月 株式会社インテリジェンス 目次目次 【第1章 はじめに】 【第2章 事業概要】 1.事業の全体像 ...................................................................................................................... 3 2.実施概要とその結果 ........................................................................................................... 4 (1)参加者募集の実施とその結果 ..................................................................................... 4 (2)成長分野における事業者の求人開拓と結果 ............................................................... 6 (3)研修の実施とその結果................................................................................................ 8 (4)マッチングにおける支援実施とその結果................................................................. 13 【第3章 事業を通した 事業を通した成果】 を通した成果】 1.再教育における効果 ......................................................................................................... 16 2.マッチング支援における効果 .......................................................................................... 19 【第4章 事業を通して明らかとなった新たな課題と「人活」支援サービスにおけるプログラ 事業を通して明らかとなった新たな課題と「人活」支援サービスにおけるプログラ ムの取りまとめ】 ムの取りまとめ】 1.事業を通して明らかとなった新たな課題 ........................................................................ 21 2.事業の自立化の可能性およびその課題 ............................................................................ 24 【※別紙】 シンポジウム実施報告書 ....................................................................................... 26 シンポジウム『これからの時代に求められる中高年の学びとキャリアとは』 1 【第 1 章 はじめに】 2012 年に発表された「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関す る研究」の調査によると、日本人の健康寿命は男性が 70.42 歳、女性は 73.62 歳となって いる。 「70 歳現役社会」はもはや現実のものになりつつある。55 歳定年制が一般的だった 高度成長期時代において、45 歳-55 歳は職業人生を締めくくる位置付けであった。しかし、 (仮に 20 歳から働き始めるとすると)70 歳まで働く社会では 45 歳-55 歳はまだ折り返し 地点を過ぎたばかりに過ぎない。 職業人生が長期化する環境下にあっては、若い頃に培った能力やスキルを頼りに職業人 生を歩むことは難しく、新たなスキルや能力を獲得する「学び直し」が不可避となる。さ らに拍車をかけるのが IT の進化やグローバル化等による激しい環境変化である。環境が激 しく変化する中にあっては蓄積した知識・スキルの陳腐化が起こり、より一層学び直しの 重要性を高める。例えば東京大学の柳川教授は、 『日本成長戦略 40 歳定年制』の中で「2030 年には、誰もが今の仕事の経験や技術を蓄積するだけでなく、常に新たなスキルや能力を 獲得しながら働く必要が出てくる」と指摘している。こうした要請は日本だけに限らない。 ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授も『ワーク・シフト ― 孤独と貧 困から自由になる働き方の未来図〈2025〉 』の中で高度な専門技術を連続的に習得していく 「ゼネラリスト」から「連続スペシャリスト」へとシフトしなければならないと論じてい る。 では、具体的にはどういった学び直しが有効なのであろうか。残念ながら企業内教育が 中心のわが国においては、社外で学び直しを行う機会は極めて少なく、その問いに対して 明確に回答するだけの事例は乏しい。そうした意味で、この「多様な「人活」支援サービ ス創出事業」は企業や国家の成長はもちろん、個人のキャリアの観点からみても我が国に 必要不可欠な機能となる可能性を包含している。その初年度である今年度(平成 25 年度) は、「ポータブルスキル」や「キャリア意識」の認識に軸を置き、学び直し研修やマッチン グ支援の効果を実証・検証した。 本報告書では、次年度以降につながる知見を紡ぎ出したいという背景から、個々の事例 からなるべく一般化した知見を抽出するように心がけている。第2章は、当事業で実施し た研修やマッチング支援の概要・結果を事実ベースで記載している。第3章では、その事 業による効果の検証や成功要因の分析を記している。研修によって起こった変化の有無や その内容を示すとともに、インタビューでのコメントも記している。最後の第4章では、 当事業を通して新たに見出された課題を記している。ここでは円滑な労働市場の形成とい う大目的に照らしたときに必要な要素として、採用のパラダイム転換(ヒト軸からコト軸 へ)やキャリア・インテグレーションの必要性を記している。 今回の経験から得たエッセンスが、働く個人はもとより企業の人事担当者、教育担当者、 人材サービス産業など多くの人に伝わり、「学び直し」が普及していけば幸いである。 2 【第 2 章 事業概要】 1. 事業の全体像 事業の全体像 (1) 本事業の目的 産業構造や就業構造が大きく変化するなか、雇用を維持しながらも経済成長を実現する ためには、高い職業能力と豊富な職業経験を持つ社会人が成長分野で活躍し、成長を促進 することが不可欠となっている。しかし、外部労働市場が未成熟だと言われる我が国にあ っては、経験豊富な中高年層が成長分野に移動し、活躍する例は多くはない。 こうした背景を受け、平成 25 年 6 月に発表された成長戦略において「成長分野への失業 なき労働移動の推進」が掲げられ、経済産業省において「多様な「人活」支援サービス創 出事業」が実施された。この事業は、スキルと経験を持つ社会人が成長分野で活躍するた めに成長分野の人材ニーズに適合した再教育・マッチングを一体的に行う事業の創出・振 興を目的としている。平成 25 年度においては計 8 つの事業者によって受託・運営がなされ ているが、本報告書はそのうちインテリジェンス社(以下当社)が受託した事業を対象と している。 (2)事業の体制およびスケジュール 本事業の特徴は再教育とマッチングの一体化にある。当事業において、再教育は Indigo Blue 社によるポータブルスキル研修、エコリンクス社による成長分野実践研修、ネットラ ーニング社による e ラーニング研修等を実施した。マッチング支援(求人開拓・求人紹介・ カウンセリング等)については、当社がその役割を担っている。 研修効果をより高める観点から、当事業は研修を二期に分けて実施した。いずれの期に おいても、参加者の募集期間を経た後、ポータブルスキル向上研修や成長分野実践研修等 を実施。研修後は e ラーニング研修を伴いながら個別カウンセリングや面接対策などのマ ッチング支援を実施した。また、この間求人開拓は継続して行い、参加者への案件紹介等 を行った。マッチングおよび出向先における就業を経た後に、帰任や転籍も選択肢としな 3 がら本人による進路決定の判断がなされた。 7月 第1期 8月 9月 参加者の 募集 第2期 10月 11月 研修の実施 参加者の 募集 研修の実施 12月 1月 マッチング ・出向先就業 マッチング ・出向先就業 2月 意 思 決 定 求⼈開拓 2. 実施概要とその結果 実施概要とその結果 (1)参加者募集の実施とその結果 (1)参加者募集の実施とその結果 ①ターゲットとした人材像 本事業では 35 歳以上の年齢層を対象に、専門性や技術力が一定あり、心身ともに挑戦で きる方を参加の条件とした。加えて、事業内容や目的を踏まえ、チャレンジすることを自 分自身で最終決断出来る人材をその対象としている。 ②参加者募集の方法 ・参加者募集期間 第 1 期:平成 25 年 7 月-9 月 第 2 期:平成 25 年 7 月-10 月 ・参加者募集方法 参加者の募集は基本的には企業を通して募る形をとった。新聞・ウェブ等による広報活 動を行うとともに、当社と取引等のある顧客のうちスキル・経験の豊富な人材を多く抱え る産業および企業を選定し、営業活動や説明会等を実施した。営業活動については、当社 の強みを最大限活用する観点から、大手企業の人事・人材開発部門を対象に行った。また、 当事業の特徴は一体化した再教育・マッチングにあることから、説明会においては特に再 教育をアピールする形で参加者を募った。具体的には、研修プログラムの具体的な内容を 紹介し研修の魅力をお伝えするとともに、出向等を通し社外の機会に触れることで成長が 促されることを伝えた。説明会は計 4 回にわたり、のべ 100 名以上の企業人事担当者にお 集まり頂く結果となった。当事業は最終的な転籍が必須ではなく出向元への帰任も有り得 ることを十分に説明した上で、当事業の趣旨に理解・共感頂いた企業 13 社が、プログラム 参加者の選定ステップに進むこととなった。 4 ③参加者募集の結果 上記方法を通し、最終的にプログラムに参加する意思を表明された参加者は18名に上 る。うち3名については出向元における業務上の都合やその他の事情等で途中辞退したた め、結果として参加者は15名となった。参加者の平均年齢は 49 歳。産業は製造業、IT、 小売・物流、不動産・建設業。職種も営業、一般事務、技術職、研究開発などその背景は 多岐にわたる。 ※説明会にご参加頂いた企業には、当事業への参画を希望するものの時間的な制約によ り見送る企業もあった。従って潜在的にはより多くの企業のニーズがあることが見込まれ る。 出向元企業業種 職種 年齢 不動産・物品賃貸業 マンション管理営業、マンション管理担 当 46 製造業 営業 54 情報通信業 システム開発作業 アウトソーシング作業 52 情報通信業 事務 40 情報通信業 事務 46 運輸・物流・郵便業 3D CADを用いた筐体設計 42 製造業 営業 44 製造業 CAD設計者 54 不動産・物品賃貸業 不動産賃貸仲介事務 46 不動産・物品賃貸業 営業 53 製造業 研究開発 50 情報通信業 CAD半導体製造装置の設置 メンテナンス 53 情報通信業 59 ⾦融・保険業 総合職 49 運輸・物流・郵便業 物流サービス部、業務担当 53 5 ※ただし、今回のアプローチに課題がなかったわけではない。特に大きな課題に集客期 間の短さが挙げられる。当事業の趣旨を鑑みると、本来であれば参加者の募集は公募形式 などにより自己成長に積極的な参加者にご参加頂くことが望ましい。加えて、研修効果の 向上やマッチング向上の観点を踏まえながら、研修運営者側が参加者の選抜に携わること が求められる。今回は、集客期間が短かかったことから、一部には趣旨が伝わりきらない 人選も見られた。この課題解決には、より十分な集客期間を確保するとともに、1社あた りのアプローチやコミュニケーションに時間をかけて丁寧に行う対応が必要である。 また、詳しくは第4章で後述するが、年齢の若い段階から社内教育・研修の一貫として こうした研修や外部に触れる機会等を組み込むことが求められる。従って、経営陣や経営 企画などにもアプローチすることでより長期的な観点から捉えて頂くようなアプローチも 次年度には求められる。 (2)成長分野 (2)成長分野における 成長分野における事業者の における事業者の求人開拓と 事業者の求人開拓と結果 求人開拓と結果 ①ターゲットとした事業者 受け入れ先の事業者については環境エネルギー(太陽光発電・蓄電、エネルギーマネジ メントシステム、電力サービス) 、グローバル展開企業、ベンチャー企業などを中心とした。 同領域を中心とした背景は3点からである。1点目は成長が見込まれるにもかかわらず人 手が不足している企業が多く求人ニーズが旺盛であること。2点目に、今後成長が見込ま れるため、事業拡大に伴い大企業で培った能力・スキルが発揮できるような分野であるこ と。そして3点目に当社が展開している事業との親和性が高く当社のノウハウが活用でき ることである。 ※ただし、プログラム参加者の希望や適性が、上記領域と合致するとは限らないことか ら、事業実施期間中に、対象分野を拡大している。 ②求人開拓の実施方法 ・開拓における期間 平成 25 年 8 月-平成 26 年 2 月 ・開拓における方法 当社と取引等のある法人企業に対し上記条件に該当する企業を選定。営業活動を通して 本事業の取り組み等を説明し、求人化の促進を行った。豊富な求人企業先を顧客に持つ当 社の強みを活かし、マスマーケティングの手法および求人開拓担当によるローラー的なア プローチを行った。尚、企業アプローチする際には、出向形態を取ることでミスマッチの リスクを軽減できることや研修を行った上での就業であるために、育成負担軽減にも寄与 できることを伝えるなどの工夫を行っている。 また、事業を運営する中で本人の希望や経験・スキルに合わせて個別展開するアプロー チが有効であることが分かったため、期間途中で個別求人開拓の手法に切り替えている。 6 こうしたマスマーケティングの手法と個別展開の手法を両立させたことが求人開拓の成功 に寄与した。ただし、逆に言えば、事業開始当初は過度に上記三分野にこだわった求人開 拓を行ったことが、参加者の希望や適性になかなかマッチしない遠因ともなった。この改 善には、事業開始当初から成長分野全域を対象とするとともに、マスマーケティングの手 法と個別対応の手法とを両立することが求められる。 ③求人開拓における結果 結果として、求人ポストの提示数としては、150 ポスト以上の求人化に成功している。主 な求人は製造業(29%)、情報通信業(16%)、卸・小売業(11%)など。職種は営業(32%)、製造 系エンジニア(14%)、事務(9%)に続き、管理職・管理職候補(8%)が多い。 受け入れ企業の求人ニーズ(産業別) 電気・ガス・熱供 給・水道業 1% その他のサービス 金融・保険業 業 1% 11% 製造業 29% 生活関連サービス・ 娯楽・飲食業 3% 建設業 9% 情報通信業 16% 医療・福祉業 4% 学術研究,専門・技 術サービス業 5% 不動産・物品賃貸業 卸・小売業 10% 11% 受け入れ企業の求人ニーズ(職種別) 広報・マーケティン グ 1% 経理 2% その他エンジニア 2% 企画職 その他 2% 5% マンション管理 品質管理 2% 2% 営業 32% 研究職 3% IT系エンジニア 7% 総務・人事 5% 管理職・管理職候補 8% 製造系エンジニ ア 14% 事務 9% 施工・施工管理 6% 7 (3)研修の実施とその結果 (3)研修の実施とその結果 ①研修で開発ターゲットとした要素(成長分野で必要とされる適性・スキル) 職業経験が豊富な社会人が成長分野に移動し活躍するためにどういった適性・スキルに 目を向ける必要があるのだろうか。インテリジェンス HITO 総合研究所が『中高年転職者の 能力スキル調査』を実施したところ、転職に成功する人とそうでない人の違いは「ポータ ブルスキル認識」と「キャリア意識」の有無にあった。この調査結果をもとに当事業にお ける研修は、ポータブルスキルとキャリア意識を軸に設計している。 ポータブルスキルとは直訳すると「持ち運び可能なスキル」であり、業種・職種の垣根 を越えてどんな仕事や職場でも活用できる汎用性の高いスキルのことを指す。大久保幸夫 氏の『キャリアデザイン入門〈1〉基礎力編』では、ポータブルスキルは 2 種類に分かれる と指摘している。ひとつは専門力といわれる専門知識や専門技術・ノウハウ。もうひとつ は基礎力として対人・対自分・対課題のような能力や処理力・思考力といったものを指す。 当事業におけるポータブルスキルの定義は、インテリジェンス HITO 総合研究所も参画し た JHR(人材サービス産業協議会)で概念化した能力要素をベースとしている(下図参照) 。 即ち、現状把握・計画立案・実行・状況対応といった「仕事のし方」や、社内対応・社外 対応・部下マネジメントといった「人との関わり方」を包含した能力として定義した。 [仕事のし方] の観点 ポータブルスキル(社外でも通用する能力) 1.現状の把握 取り組むべき課題やテーマを設定するために行う 情報収集やその分析のし方 仕事のし方 専門知識 専門技能 人との 関わり方 2.課題の設定 (対人) 3.計画の立案 事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組む べき課題の設定のし方 (対課題) 担当業務や課題を遂行するための具体的な計画 の立て方 4.課題の遂行 スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえ × での障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 適応可能性 5.状況への対応 予期せぬ状況への対応や責任の取り方 環境変化への 適応のし方 [ 人との関わり方] の観点 1.社外対応 職場の特徴 顧客・社外パートナー等に対する納得感の高い コミュニケーションや利害調整、合意形成のし方 2.社内対応 経営層・上司・関係部署に対する納得感の高い コミュニケーションや支持の獲得のし方 [適応のし方] の観点 [職場の特徴] の観点 3.部下マネジメント 1.指示を待つのではなく、自らの意思で積極的に行動する 1.組織で重視される価値観 メンバーの動機づけや育成、持ち味を活かした 2.何事も前向きに受けとめ、建設的に考えようとする 2.組織における仕事の進め方の特徴 業務の割り当てのし方 3.人に対して開放的、素直で、親しみを感じられる 3.組織における対人関係の特徴 4.謙虚に他者の意見に耳を傾ける 5.環境変化を受けいれ、変化することを恐れない ※出典:JHR(人材サービス産業協議会)キャリアチェンジプロジェクト 8 キャリアについても様々な定義があるが、文教大学の益田勉 准教授の『キャリアの探索 と形成 ―キャリアデザインの心理学―』によるとキャリアの定義は次の4つに分類される。 ○昇進・昇格(advancement)の累積としてのキャリア: 組織階層の中でのタテの昇進や昇格を繰り返し、次第に高い地位を得ていく一連のプロ セスをさす。キーワードは地位、出世。 ○専門職業(profession)としてのキャリア: 法律家や医師、学者など高度な専門職に従事する人々をさす。キーワードは専門職業 ○生涯を通じた一連の仕事としてのキャリア: ある人が生涯を通じた一連の職業経験としてのキャリアをさす。この意味づけからは、 何らかの仕事の経験を持った人は全てその固有のキャリアをもつことになる。キーワー ドは職業経験。 ○生涯を通じた様々な役割経験としてのキャリア: この意味づけからは、職業経験の有無に関わらず、全ての人は固有のキャリアをもつこ とになる。キーワードは役割経験。 これらを踏まえた上で、当事業におけるキャリア意識とは、前述の「中高年転職者の能 力スキル調査」で抽出した要素をベースとしている。即ち、学習指向性(仕事を通じた学 び、仕事と学びの一貫性、学び直し)とそのためのモチベーション、キャリア戦略(自分 の強み・弱み、今後どうありたいか、どんな価値を提供したいかなどといったキャリアの 棚卸しとそのギャップを埋めるための在り方としての自己理解、そして職業理解)などと 定義した。 ②実施方法 -1 ポータブルスキル向上研修(Indigo Blue 社) こうしたポータブルスキルの認知やその向上にあたっては、Indigo Blue 社の協力のもと 研修プログラムを実施した。同社の研修は、4 週間を 4 つのクルーに分けて行われた。まず、 第1クルーでは、思考力の強化をテーマに置き、4 泊 5 日の宿泊型研修を通してロジカルシ ンキング等を高めるための研修プログラムが実施された。第2クルーではコミュニケーシ ョン力の強化をテーマとし、200 字作文やディベート等に取り組んだ。続く第3クルーでは マネジメント力の強化をテーマに掲げ、コーチングを学ぶとともに実際に学生のビジネス コンテストのメンターを行った。最後に第4クルーではテーマは、事業企画力の強化を主 なテーマとし、実際の企業に対するビジネスプレゼンテーションを行った。 同社の特徴は、体験型のプログラムが織り交ぜられていることにある。例えば、第1ク ルーでは擬似設定されたシナリオを実際のプロの役者たちが演じるプログラム(オーガニ ゼーションシアター)が実施され、課題解決のための時間的プレッシャーや感情的なプレ ッシャーを体験できる内容となっている。また、第2クルーの「ダイアログ・イン・ザ・ 9 ダーク」では視覚を遮断された暗闇の中に身を置くことでコミュニケーションの重要性を 身をもって体験するプログラムとなっている。 ※ポータブルスキル研修概要 【第 1 クルー】日々の業務で固定化された思考(視野)を柔軟にさせる 研修のテーマ 向上する ポータブルスキル ・開講式、アシュミレーション、問題解決思考法など 仕事とは「Input」「Throughput」「Output」の組み合わせ Input(知識・経験) :マネジメント手法を知る。自分を知り、自分を客観視する。 Throughput(自分のモノにする) :本質を追及する。仮説を組み⽴てる。 Output(発言・文章) :自分を含めたメンバーの総⼒を発揮する。 現状把握 状況対応 プレッシャーがかかる状況でも自然体で対応する。 ・イシューウィング実践(Throughputの実践) 知識、経験、情報をいかに整理、組み合わせてアウトプットにつなげるか。 課題を中心に置き、個⼈作業とグループワークのもと「Why so?」と「What happen?」を繰り返す。 講師:株式会社コラビー 代表取締役社⻑ 瀧谷 知之氏 ・体験型ケーススタディ① 絶対解のない状況下で発⽣する⼤問題、不測事態への対応演習。 「理と情」のバランス、情報収集、整理が求められる。 想定外にいかに対処できるか、修羅場の経験により 「出来ない」 を 「出来る」 にする。 現状把握 状況対応 現状把握 状況対応 社内外対応 実⾏ 部下マネジメント 【第 2 クルー】徹底的にコミュニケーション技術を上達させる 研修のテーマ 向上する ポータブルスキル ・DID体験(ダイアログ・イン・ザ・ダーク) 参加者は完全に光を遮断した空間の中を探検し、様々なシーンを体験する。 その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、そして コミュニケーションの⼤切さ、⼈のあたたかさを思い出す。 ・⾃⼰認識他 DID体験後、自⾝が他者にどのように⾒られているか、何を期待されているか等を、 相互カウンセリングを通じ、自⼰認識とのギャップを知り、意識改善を⾏う。 ・1分間スピーチ、200字論⽂、ディベート特訓 自分の考えを1分間でまとめる言語技術。 ⻑文を200字にまとめる文章術。 利害関係者が多い中でのコミュニケーション術。 などOutput特訓 講師:有限会社N&Sラーニング 代表取締役 ⻄部 直樹氏 取締役 左口 絹英氏 ・キャリア面談 現状把握 現状把握 状況対応 計画⽴案 実⾏ 現状把握 実⾏ 所定のシートを活用した個⼈面談(1⼈45分) 10 【第 3 クルー】人を動かすためのマネジメント力を上達させる 研修のテーマ 向上する ポータブルスキル ・コーチング 部下マネジメント 社内対応 社外対応 ・チームビルディング実践 部下マネジメント 現状把握 状況対応 ・体験型ケーススタディ② 現状把握 状況対応 社内外対応 部下マネジメント 実⾏ ⼈を育成したり、動かすためのスキルセット・マインドセットをコーチング。 講師:株式会社働きごこち研究所 アソシエイト 倉橋 和世氏 研修⽣2名に対し、4名の学⽣を配置し、学⽣によるプレゼンテーションをリード し、Discoが開催する実際のビジネスコンテストに対象の学⽣を参加させる。 学⽣たちをいかに成⻑させるか、彼らとの信頼関係をどう築くか。 講師:株式会社Disco/株式会社イノセンティブ 代表取締役 辻井 慎泰氏 絶対解のない状況下で発⽣する⼤問題、不測事態への対応演習。 「理と情」のバランス、情報収集、整理が求められる。 ②では英語を使わざるを得ない状況下に置かれる。 【第 4 クルー】全てのポータブルスキルを結集させ 「事業企画」 を立案・プレゼンテーションする 研修のテーマ 向上する ポータブルスキル ・Global work 現状把握 状況対応 社外対応 ・「成熟小売産業の未来像」を描く 現状把握 計画⽴案 状況対応 社内外対応 部下マネジメント グローバルな舞台で活躍するためのビジネスパーソンを育てるためのビジネス スキルトレーニング。 講師:株式会社Indigo Blueシニア・パートナー Roderick Porter氏 3組に分かれて課題提示からプレゼン準備まで3日間のグループワーク。 実際の成熟⼩売業・店舗をリサーチ、実地⾒聞し、その成⻑シナリオを描き、 プレゼンテーションする。 この20日間の仕上げのセッション。 ・プレゼンテーション「成熟小売産業の未来像」 実⾏ 3日間のグループワークを各組毎に発表。 講評。 ・未来に向けた個人別宣言、閉講式 20日間の研修を終え、成⻑を実感した各個⼈が、将来に向け自分自⾝の⽅向性を 熱く宣言する。 11 実⾏ -2.成長分野実践研修(エコリンクス社) ポータブルスキルの認識・向上に続き、成長分野で活躍するための知識取得や実践力向 上のために実施したのが成長分野実践研修である。当事業では、エコリンクス社の協力の もと環境エネルギー分野における知識習得研修が 10 日間にわたり実施した。まず基礎編と して既存エネルギー、新エネルギー、補助制度等を学び、その後、応用編として太陽光発 電システムについて体系的に学ぶ機会を設けた。希望者に対しては資格取得における研修 も設けるとともに、単なる知識習得のみならず異分野との接触による知的好奇心の刺激も 狙いとした。実際参加者の中には、元はエネルギー分野とは異なる分野(機械設計)での 経験を有していたにも関わらず、エネルギー分野に強く興味を持ち、自ら関連資格を取得 するとともにエネルギー分野へ出向した参加者もいた。尚、マッチングの際には資格取得 や学習行動が、出向先企業側からのプラス評価に大いに影響した。 研修のテーマ ・太陽光発電の基礎理解 (住宅⽤太陽光発電システム) 太陽光システム概要理解 電気に関する基礎理論の理解や、電気制度に関する知識吸収 太陽電池・パワーコンディショナに関する構造や種類・種類・特性等の理解 屋根の知識、設置/電気⼯事、システム設計の概要理解など ・HEMS・BEMS 再⽣可能エネルギーに関する概要理解 省エネ・創エネルギーに関する概要理解 蓄電池(バッテリー)・スマートメーターに対する理解など ・産業⽤太陽光発電システム 産業・公共用太陽光発電システム関する概要理解 太陽電池モジュール・パワーコンディショナ等に関する理解 システム設計/レイアウト設計等に関する理解 太陽光発電システムの故障・不具合等にかんする理解など ・実践研修 ロールプレイを用いた営業研修 -3.専門知識を補完する自主学習(ネットラーニング社) 上記研修に加え、参加者本人の自主学習用ツールとして、ネットラーニング社が提供す る e ラーニングを導入した。下記のようなテーマを中心に262講座用意し、専門性の向 上や知識補完のために自由に活用できる形式を取った。 Eラーニングにおける主なメニュー ・マネジメントスキル ・ビジネススキル ・語学 ・情報技術 ・Officeシリーズ ・スキル診断 12 ・資格試験対策 ・組込み技術 など ③結果 上記研修に対する満足度は非常に高く、4点満点中 3.8 という結果となった。自身のポー タブルスキルに対する認識向上とともに、仕事に対する価値観等を見直す契機となった結 果が見られている。当社では効果検証のために参加者にインタビューを行っているが、開 始当初は自身が持つ能力や価値ある経験について、ヒアリングを行っても明確には答えら れない参加者がほとんどであった。しかし研修後にインタビューを行うと、多くの参加者 がポータブルスキルについて自信を持って答えることができるようになっている。 他方で、新たな課題も見られた。研修等で気付いた自己の強みについて、 「それを企業先 でいかに活かすか?」という視点が不足していたり、「労働市場全体からみるとその強みは どの程度のものか?」という観点が不足していることから、自己の強みを押し通してしま う参加者も見られた。次年度においては自身の市場価値を適切に認識できるプログラムや 労働移動先での活かし方をイメージできるプログラムなどが求められる。 (※効果に対する 結果は第3章、新たな課題は第4章で詳しく記しているので参照されたい) 。 また、保有する職業経験やポータブルスキルについて参加者の間に差があったため、一 部には物足りない印象を受けた参加者もいた。レベル別研修を用意するなど、参加者のレ ベルに応じた対応が必要である。 (4)マッチングにおける支援実施とその結果 ①キャリアコンサルティング・ ①キャリアコンサルティング・求人開拓( 求人開拓(当社) 当社) 上記研修と並行し、キャリアカウンセリングや求人の案件紹介等マッチングのサービス を行った。キャリアカウンセリングでは、自己のキャリアや興味関心の棚卸を促すととも に、履歴書の書き方指導やビデオ撮影等も用いたロールプレイなども行っている。これら により、面接等で参加者が適切に自己アピールが出来るように注力した。こうしたキャリ アの棚卸しやそのアピール方法については再就職のノウハウが活かされる結果となった。 しかしながら、転職・転籍が余儀なくされている再就職支援とは異なり、帰任という選 択肢があり在籍したままの研修参加も認められる当事業では、マインドセットに難しい点 もあった。そこで、マッチングに際してキャリアコンサルタントが特に重視した点は本人 の自律性を喚起することであった。進路の決定が本人の意思決定に委ねられていることか ら、キャリアコンサルタントは、在籍(帰任)・出向・転籍等のメリット・デメリットなど を含め客観的な立場から本人に伝える工夫を行った。マッチングが決まるか否かの大きな 要因についても本人の自発的なジョブサーチ活動や期待値調整行動が大きな要因であった ことから、ジョブサーチ活動の仕方を教えるなどキャリアコンサルタントには自発性を適 切に活かすような工夫を行った。 13 ②結果 -1 マッチングの事例 上記事業を通して、下記のように11件のマッチングが実現している。 元企業業種 元職種 不動産・物品賃貸業 マンション管理営業、マンション管 理担当 決定先企業業種 決定先職種 ⇒ 不動産・物品賃貸業 マンション管理フロント営業 ⇒ 出版・印刷業 ⽣産管理 ⇒ 情報通信業 システム開発業務 建設業 建設コンサルタント 運輸・物流・郵便業 事務 ⇒ 学術研究・専門/技術サービス 業(コンサルティング業含む) 技術(電気・電子・機械) ⇒ 卸売・⼩売業 営業 ⇒ 製造業 技術(電気・電子・機械) 不動産・物品賃貸業 会計事務 運輸・物流・郵便業 輸送・機械運転 専門商社 研究開発 転籍 製造業 営業 出向 情報通信業 システム開発作業 アウトソーシング作業 出向 情報通信業 事務 ⇒ 転籍 情報通信業 事務 ⇒ 転籍 運輸・物流・郵便業 3D CADを用いた筐体設計 転籍 製造業 営業 出向 製造業 CAD設計者 出向 不動産・物品賃貸業 不動産賃貸仲介事務 ⇒ 転籍 不動産・物品賃貸業 営業 ⇒ 転籍 製造業 研究開発 ⇒ 転籍 -2.満足度 キャリアコンサルタントおよび案件紹介等における満足度については、4 点満点キャリア コンサルタントが 2.0。法人営業については 2.8 という結果となった。民間人材サービスに おけるノウハウが活用された一方で、教育・マッチングの一体化やサービスに対する新た な課題も明確になった(※新たな課題は第4章を参照されたい) 。 -3.就業時の声および企業からの声 研修およびマッチングの成否を判断するには、本来的には出向・転籍後の満足度や活躍 ぶりをもって判断するのが望ましい。しかし、本報告書提出時点では移動先での就業期間 が短いため参加者の主な声を紹介するに留めたい。就業者の声には、出向・転籍後の活躍 14 やキャリアの発展を見据え、主体的に学び続けたいなど意欲的な声が多くみられた。 こうした効果にとくに寄与した要因として2つ挙げられる。1点目は「オーガニゼーシ ョンシアター」などの体験型学習や、背景の異なる多様な同期による刺激を通し、参加者 が身をもってポータブルスキルや自己の強みを実感できたことである。2点目は、キャリ アコンサルタントおよび求人開拓担当により、自身の立ち位置を客観視しながらキャリア を発展させる有力な選択肢として外の機会に目を向けたことである。 【参加者の声】 ○(就業は開始しているが)自分にとってはプログラムは終了しておらず、これからが本 番という認識で結果を出せるように更に努力していきたい。 ○研修においてコーチングを学び、逆に自らを振り返ることで、傾聴することの意義を再 認識できた。 ○研修はあくまで入口であると感じている。研修で得たものを、新しい会社でもさらに深 め、学び続けていきたい。 15 【第3章 事業を通した 事業を通した成果】 成果】 前章では、当事業の実施概要およびその結果を紹介した。本章ではそれらによる効果の 評価・検証を提示したい。 1.再教育に 再教育における効果 再教育における効果 (1)効果の概要 (1)効果の概要 ・ポータブルスキルについて 前述したように当事業における研修は、ポータブルスキルに対する認識の向上やキャリ ア意識の認識向上に焦点を当てている。その効果を検証するにあたり、研修前・研修中・ 研修後の3回にわたって参加者へのインタビューを実施した。 結論から述べると、研修によってポータブルスキル認識向上や、それに伴う自己効力感・ 自信の向上につながった点が効果として挙げられる。研修前に実施したインタビューでは、 「現在どういった能力を持っているか」等をヒアリングしても、ほとんどの参加者がすぐ には答えられず、回答に窮することが多かった。全く答えられなかったり、数分考えてよ うやく口に出るといった感じであった。また、答えられた人に対して具体的なエピソード を尋ねても、エピソードがなかったり根拠とは言い難い内容であるケースが多かった。こ れらから研修前には「ポータブルスキル認識」がなかったと言えよう。ところが、研修後 にインタビューを行うと、多くの参加者がポータブルスキルについて答えることができる ようになった。 (※具体的な変化については次頁以降に記載している) また、ポータブルスキル認識の向上は自己の経験・強みを相手に魅力的に伝える際にも 大きな効果をもたらした。例えば、自分が作った制作物を見せながらプレゼンする、自分 が企画したマーケティングプランを提示するといった例が挙げられる。一般的に中途採用 の現場においては、 (専門知識・専門技能は可視化が容易なことから)専門性が能力評価の 判断尺度として多用される傾向にある。しかし、専門性に過度に偏った能力評価は、評価 の幅を狭めるとともに、業種・職種をまたいだ労働移動を大きく阻む障壁となっている。 そうした背景を鑑みると、ポータブルスキル認識の向上により、自己の職業能力を見える 化・言語化して適切に伝える効果があったことはマッチングの観点からも大きな収穫と言 えるのではないだろうか。即ち、通常の転職であれば、自身の専門性や経験に過度に固執 することで異業種・異職種には目を向けないことも多い。しかし、当事業はポータブルス キル認識の向上を目的としたことで、未経験の業界や業種にも目を向けて考える参加者が 多数みられた。ただし、こうした効果がマッチング時点のみならず就業後も発揮されるか については、継続的に確認することが今後の課題として挙げられる。初年度ということも あり今年度はマッチングに注力したが、次年度以降はマッチング後の定着・活躍も踏まえ た事業運営が求められる。 ※ポータブルスキル認識の向上がネガティブに作用したケースもある。ポータブルスキ 16 ルの認識向上はあくまで参加者本人にとっての強みを浮き彫りにするものである。従って、 参加者の中には自己の強みを過度に押し通してしまうケースもみられた。次年度において は自身の市場価値を適切に認識しながらポータブルスキル認識の向上を目指すプログラム やその労働移動先での活かし方をイメージできるようなプログラムなどが求められる。 (※ 新たな課題は第4章で詳しく記しているので参照されたい) 。 ・キャリア意識について キャリア意識について キャリア意識に関しては、キャリア面談において自己の強み・弱み等に関する棚卸し、 やりたかったこと、今後の方向性(組織内の自身の立ち位置)等をヒアリングしている。 また、研修プログラム内においては、研修の節目で「自分はどういう人間なのか?」とい うテーマについて制限時間内に発表し、その発表を通じて(絶対に否定しない)周囲から ポジティブなフィードバックをし合うといった研修も行われた。最初は話す内容もほとん どなく、参加者は苦戦したと一応に語っていた。ところが回数に応じて(発表時間が長く なったにも関わらず)自分のことについて話すことが苦ではなくなった、話すことが楽し みになったという参加者もいた。ここでも自己効力感や自信の向上、学ぶことの楽しさへ の気付き、やりたいことの明確化、今まで囚われていたことへの気づきなどが特徴的な効 果として挙げられる。 (2)効果 (2)効果に対する具体的なコメントなど 効果に対する具体的なコメントなど また、各々のインタビューから、次のような具体的な声が聞かれた。 ■体験型ケーススタディに対する声 ○今までの研修は頭で理解するだけであったが、実践してみることで、体でも理解できた。 ○普段経験することのない、経営層の立場から見ることで新たな視点が得られた。 ○臨場感あふれるケーススタディの中で、早い決断力の必要性を痛感した。 ○これまでの自分の仕事の仕方を客観視することで、改めてさらにやるべき課題が明らか になった。 ○普段はあまり意識せずコミュニケーションを行っていたが、相手に分かるように伝えな ければ伝わらないことの重要性を身をもって体験できた。 ○自然発生的にリーダーになることが多いが、自分自身を振り返ることで、自分にはリー ダーの資質があることを再認識できた。 ■研修同期から受けた影響に対する声 ○周囲に対する自身の立場を客観視できた。また、そうした客観的な視点を踏まえてコミ ュニケーションを図っていきたい。 17 ■その他 ○研修個別のプログラムというよりは、 研修全体を通して、人の良い所を探すようになった。 ○実際に転職を行った方から転職の体験談を聞けたので、外の機会に踏み出す心構えができ た。 変化の有無および変化の内容、変化をもたらした要因をまとめると下図の通りである。 No. 変化に影響を与えている要因 変化の内容 仕事のし⽅ ⼈との関わり⽅ 自⼰への気づき A 自分の⾏動を振り返る理論やロジックに対する理 ⼈に分かりやすく物事を伝えるためのツールに対す 解 る理解 オーガニゼーションシアター ビジネスプランコンテスト B 経営視点とそれに基づく考え・⾏動に対する理解 オーガニゼーションシアター C 素早く決断する能⼒に対する重要性の理解 コミュニケーション手法に対する重要性の理解 ⼈から⾒られている自分に対する客観的な理解 3対1のワーク オーガニゼーションシアター D 相手のよいところに目を向ける意識・⾏動への変 化 面接対策(ビデオ撮影) 各種グループワーク E コミュニケーション能⼒が不⾜していることへの自覚 重い鎧を背負ってきたという発⾒ オーガニゼーションシアター 面接対策(自⼰分析・ビデオ撮影) ロジカルシンキング研修 プレゼンテーション研修 F 構造化 オーガニゼーションシアター 面接対策研修 これまでの仕事経験や仕事のし⽅を客観的に振 り返るフレームワークの理解 これから新たなキャリアを踏み出すマインドセットへ の変化 G スタッフ自⾝の転職経験談 H 相手の⽴場に応じて情報を可視化・言語化し、 言葉を選んでコミュニケーションを図ることの重要性 に対する理解 ダイアログ・イン・ザ・ダーク I コミュニケーションの重要性に対する理解 特に傾聴スキル ビジネスプレゼンテーション オーガニゼーションシアター ダイアログ・イン・ザ・ダーク 面接対策(履歴書の書き⽅) J 自⼰満⾜な文章の書き⽅に対する自⼰認知 18 リーダー特性に対する自⼰理解 各種グループワーク 構造化・ロジカルシンキング ダイアログ・イン・ザ・ダーク 2.マッチング支援における効果 マッチング支援における効果 マッチング支援の効果を評価するにあたり、参加者およびキャリアコンサルタント、求 人開拓担当等へインタビューを行った。そのインタビュー結果をもとにマッチング実現に 寄与した要因として下記3点を挙げたい。 (1)求人 (1)求人数 求人数の豊富さ 他の事業者と比較して当事業のマッチングが量・率ともに相対的に高かった要因の 1 つ には豊富な求人数の存在が挙げられる。当社は人材紹介および求人広告の「DODA」サービ スや、事務系およびエンジニアを中心とした人材派遣サービス、新エネルギー産業専門の 人材ソリューションサービス等を展開している。そうした求人開拓のノウハウおよび蓄積 された求人数が大きなアドバンテージとなった。 (2)求人の個別開拓 (2)求人の個別開拓や参加者本人のサーチ活動等 求人の個別開拓や参加者本人のサーチ活動等による求人の質 や参加者本人のサーチ活動等による求人の質向上 による求人の質向上 ただし(1)で示したような求人数だけが揃えばマッチングが実現するわけではない。 例えば失業率が(求人が足りない)需要不足要因と、(求人数はあるものの企業-個人双方 の希望が合致しない)構造的・摩擦的要因に二分されるように、当事業においても質的な ミスマッチが課題となった。 その克服に有効に働いたのは、 (参加者の希望・スキル等に沿った)個別の求人開拓と参 加者本人による自発的・積極的なジョブサーチ活動である。個別の求人開拓とは、求人開 拓担当者が参加者自身と相対しながら個別の求人開拓を行い、中高年層ならではの価値を 企業側に伝えるといった行動である。これにより企業の潜在的な求人ニーズの顕在化や、 業種経験・年齢等の要件緩和といった効果がもたらされた。また、参加者本人の活動につ いては、積極的に外の機会に目を向け(労働市場における自身の価値と向き合いながら) 主体的にジョブサーチ活動を行ったことがマッチング実現をもたらす要因となった。例え ば、前述したような自らの制作物等をプレゼンしたような行動は、たとえ異なる業職種で あっても提案力・企画力といった要素に目を向ける契機になったことが考えられる。 (3)キャリア (3)キャリアコンサルタントによる側面支援 キャリアコンサルタントによる側面支援 ポータブルスキル認識が向上した参加者が労働市場における自身の価値と向き合いなが ら主体的なジョブサーチ活動に至るまで、大きく分けて2つのパターンが存在した。1つ は、自己の希望と現実のギャップを「埋めるべき課題」として捉え自己成長を志向するパ ターン(自己調整) 。そしてもう1つは同様のギャップに直面した際、自己の現状に見合っ た環境を探索するパターン(環境調整)である。当事業における重要な発見は各々に有効 な対応が異なるという点である。まず前者に関しては、自己の成長を志向しているために、 現状のギャップや克服すべき課題を明確にすることでその成長を促進するような支援が有 効となろう。他方、後者については、より本人にマッチした求人案件の紹介や本人への期 19 待値調整などが求められる。また、キャリアコンサルタントと本人との関係構築および参 加者同士の関係構築など、信頼関係を築き上げることがその土台となることも発見できた。 当事業には、キャリアコンサルタントによる通常の転職支援・再就職支援のサービス(キ ャリアの棚卸、アピールポイント整理、面接対策等)のノウハウが活用できたのはもちろ んではあるが、参加者の”自発的なサーチ活動を促す”ための下記のような工夫がマッチング の実現に寄与した。 ・求人案件等そのもののサポートではなく就職活動のノウハウを伝えたこと。 ・(案件提示を通し)参加者の相対的な市場価値を知らせること。 ・進路選択に関する適切な判断をサポートするために客観的な視点から情報整理や情報提 示を行ったこと。 ※ただし、こうした対応に課題が無いわけではない。時間的な制約等により、なかなか コミュニケーションが取れないケースにおいては不満となって現れる場合もあった。前述 したように、当事業においては(より早い段階から外部労働市場から見た自身の価値を意 識するなど)通常の再就職と異なるキャリアカウンセリングの在り方が求められる。従っ て、例えば研修時の段階からマッチング支援を並行的に進め個人 1 人 1 人ごとのミーティ ング(本人、カウンセラー、出向先開拓担当の三者が望ましい)を実施するなど、再教育 とマッチングをより一体化した事業体制を敷く必要がある。 20 【第 4 章 事業を通して 事業を通して新たに明らかとなった課 新たに明らかとなった課題 明らかとなった課題と「人活」 人活」支援サービスにおけるプロ 支援サービスにおけるプロ グラムの取りまとめ】 グラムの取りまとめ】 1.事業を通して明らかとなった新たな課題 第 2 章・第 3 章では事業に関する概要や成果等について紹介してきたが、ここでは本取 り組みを通して見えてきた新たな課題を掲示したい。 樋口美雄 慶應義塾大学教授は、個人がそれほど時間をかけることなく適職を見つけられ る市場を形成するために「①良好な雇用機会がたくさん用意され、②求人企業や求職者に ついての正確で詳細な情報が伝達され、③再就職に必要となる能力開発を支援する機能が 用意され」ていることが必要だとしている。この3つの柱のフレームワークに則ると課題 は下記のように整理できる。 (1)「人活」 人活」支援サービスを利用した良好 支援サービスを利用した良好な雇用 良好な雇用機会 な雇用機会の 機会の創出 中高年層における労働移動が実現されるためには、受け入れ先の求人が豊富にあること が不可欠である。しかし、 (ポータブルスキルは可視化が難しいことから)中高年層が本来 持つ職業能力はなかなか注目されず、中高年層に対する求人ニーズは限定的なのが現状で ある。そうした中、当事業において個別開拓や研修・出向等により求人化できたことは大 きな収穫だと言える。まず、個別開拓においては、状況を把握した上での「対応力」や経 験に裏打ちされた「コミュニケーション力」など中高年層だからこそ発揮できるような価 値を求人開拓担当が企業に伝えることで潜在的な求人ニーズの顕在化に成功した。例えば、 若い社員が多い企業に対して、豊富な経験に裏打ちされた知見が活きることでマッチング が実現した事例があった。また、たとえ業種・職種が異なっていても様々な経験をした中 高年層だからこそ持つ柔軟な対応力を伝えマッチング実現に至った例も見られた。 また、出向という形態を活用することで企業側のミスマッチリスクを軽減したことや、 研修により企業の育成コストを低減したことが採用可能性の拡大に寄与したことが考えら れる。 「人活」支援サービスのスキームをさらに発展・拡大させていくことでより多くの雇 用機会を創出できることが期待される。 さらに、そうした兆しをさらに広めて行くためには、「人活」支援サービスにおける成功 事例を啓発し、採用のパラダイムを転換していくことが求められる。ここでいうパラダイ ムの転換には2つの意味がある。1点目は専門性等に過度に固執した採用からポータブル スキルに着目した採用である。前述したように中途採用においては可視化しやすい専門性 に過度に依存した能力評価を行う例も珍しくない。 「人活」支援サービスにおける成功事例 をさらに広めていくことはこうしたポータブルスキルに着目した採用の在り方を広める契 機になるのではないだろうか。2点目は即戦力採用からの脱却し、長い目で見た採用への 転換である。現行の中途採用においては、とくに中高年層は即戦力として期待される傾向 にある。しかし、職業能力が十分に発揮されるためには、企業固有の課題把握や人脈構築 などが必要となるため、中高年層であっても長い目で見据えて採用を捉えることが望まし 21 い。例えば当社が開催したシンポジウムに登壇したサイゼリヤ社は、 「45 歳に入社したとし て 65 歳までサイゼリヤで働くのは 20 年間。最初の 6 カ月や 1 年間はどうでも良くて、残 りの期間にパフォーマンスを発揮してもらうことの方が大事」といった時間軸で中高年の 採用を捉えており、 「まずは慣れることを重視した配属やコミュニケーション」等を実施さ れていた。こうした時間軸で捉えるからこそ、業職種・年齢等にとらわれずにポータブル スキルを重視した採用が可能になるのではないだろうか。上記シンポジウムではサイゼリ ヤ社の事例をもとに発信を行ったが、今後も他の事例等を踏まえて発信を拡大していく必 要がある。 (2)マッチング機能で (2)マッチング機能で求められる )マッチング機能で求められるキャリア 求められるキャリア・インテグレーション( キャリア・インテグレーション(統合 ・インテグレーション(統合化) 統合化) 前述したように、当事業ではポータブルスキル認識の向上では効果がみられた。しかし、 そうしたスキルを効果的に移動先で発揮するためには、 「相手先(受け入れ先企業)の課題 解決に対してその強み等をどう活かすか?」という発想が強く求められる。ここで参考に なるのが「キャリア・インテグレーション(キャリアの統合化) 」という概念である。キャ リア・インテグレーションとは世の中や周囲の文脈と自己のキャリアとを統合化する、と いった意味を指す。諏訪康雄 法政大学名誉教授は、美術館を例にこの概念を説明している。 例えば美術館は多くの収蔵品を保有しているがそれを全て展示することはしない。”絆”や” 江戸の桜”などその時々の展示テーマに合わせ、収蔵品の中から選んで展示されることで、 見る者を楽しませてくれる。キャリアもそれと同じで、 (自己の強みを押し出すのではなく) その文脈に合わせて自分の引き出しから見繕って”展示”することが良い結果につながると いうことである。 今回行った当事業参加者へのインタビューでは、研修を通して自己の強みを知ることが できたという実感を持つ一方で、「それを新たな就業先でどう活かすか?」と尋ねると返答 に窮する参加者も複数みられた。せっかく認識したポータブルスキルをより効果的に活か す意味では、プログラム内で相手企業先の課題を取得し、それに合わせて自分の”引き出し” から見繕うことがキャリアの発展可能性を高めるのではないだろうか。換言すれば、 「自分 を知る」だけではなく、 「自分を知り・相手を知り・そして統合する」ことが必要だと言え る。 22 「ヒト」軸から「コト」軸に転換 「ヒト」軸から「コト」軸に転換した 転換したマッチングの実現 したマッチングの実現 こうしたキャリア・インテグレーションを支援し企業-個人間の情報の非対称性を低減す るために、求人開拓担当者の更なるヒアリング能力の向上が求められる。 「認識したポータ ブルスキルを相手企業の課題解決のためにどう活かすか?」を考えるためには、企業側の より適切な事業課題を求人開拓担当者が把握し、参加者およびキャリアコンサルタントに 伝える必要があるためである。その際、参考になる視点は、「ヒト軸からコト軸への転換」 である。これはインテリジェンス HITO 総合研究所も参画する JHR(人材サービス産業協 議会)で詳しく説明されているもので、「どういう人が欲しいか(ヒト軸)」という人材要件 のみで採用ニーズを語るのではなく、その背景にある「どのような課題を解決したいか(コ ト軸)」という組織課題・事業課題を適切に把握し言語化することを指す。例えば、カスタ マーサービス部門の採用において、ヒト軸であれば「ヘビークレーマーへの対応が出来る 経験者」等の採用要件になり、同職種経験にばかり目がいきがちである。しかし、これを 「顧客満足度を高められるような組織力の向上」といったようにコト軸で課題を捉え直す と、企業側にとっては「状況への対応」・「社外対応」・「部下マネジメント」などに優れた 人材への採用可能性が拡がるとともに、個人にとってもキャリア・インテグレーションを より円滑に実践するための支援となろう。 こうした潜在的なニーズは企業・個人双方自身も気付いていないケースが多い。そのた め、求人開拓担当者・キャリアコンサルタント双方ともにコンサルティング機能を強化す ることが求められる。即ち、求人開拓担当者側にとっては、時には企業自身も言語化でき ていないような事業課題を明確化するとともに、その課題解決のため必要な要素を「コト」 軸で細分化することが必要になる。キャリアコンサルタント側については、ポータブルス キルを認識した参加者に対し、そのスキルを活用することでどういった「コト」が解決で きるのかガイドすることが必要である。また、前述したように再就職支援とは異なるノウ ハウが必要になることから、早い段階から自律性を高めるような意識で伴走することが求 23 められる。 (3) (3)出し手企業において求められる個人の能力開発機会 出し手企業において求められる個人の能力開発機会・キャリア開発機会 個人の能力開発機会・キャリア開発機会 研修という限られた場においては、ポータブルスキル認識の向上等に一定の効果を得ら れた。しかし、より鮮明に浮き彫りになった課題は、普段からいかに自己のキャリアを棚 卸したり、自身の能力に向き合う機会がないかという点である。例えばインタビューでは 「キャリアについて初めて考えた」という回答が続出した。キャリアは日々の仕事の中で 主体的に自己や出来事に向き合うような姿勢から紡ぎ出される側面を持っていることから、 マッチングに至る前段階(即ち、送り出し企業における日々の仕事の中)でキャリア自律 を促すことが求められる。そうした意味では、「人活」支援サービスが出向元企業の既存の キャリア支援制度等と適切に連携できれば、企業・個人双方の成長に大きく寄与すること が見込まれる。 ※中高年に対するキャリア支援の在り方については、専門家をお招きしシンポジウムを 開催したので是非参照されたい。(※別紙;シンポジウム『これからの時代に求められる中 高年の学びとキャリアとは』実施報告書)そこでは、 ・ モチベーション開発につながる①成長実感、②キャリアチャンスの拡大、③相互啓発 のメカニズム作り ・企業は体系的なスキルや知識教育を提供し、従業員のレベルアップやスキルアップだ けでなく、予期せぬ出来事に対して個人が主体的に向き合い行動・行為するための支援 作り ・25 歳、35 歳、45 歳など 10 年に 1 回キャリア振り返りの場を設けること などについて提言や議論がなされた。 2.事業の自立化の可能性およびその課題 当事業の目的は再教育およびマッチングの一体化にあった。とくに初年度の平成 25 年度 では、学び直しや労働移動の実証やそれによる課題抽出に重きを置いた。そうした意味で は学び直し研修によるポータブルスキル認識の向上、自己効力感の向上、それに伴う(自 発的な進路選択による)マッチングの実現などの点で効果は実証できた。また、個別開拓 の必要性、キャリア・インテグレーションの必要性などの新たな課題も発見できた。ただ し、将来的な事業の自立化を見据えると、収支構造の点から下記課題を克服すべきである。 まず収入面の可能性については出向元企業・出向先企業・個人からの課金が考えられる。 ただし、出向元企業の場合は、 (ともすれば再就職と変わらないリスクを抱えていることか ら)いかに通常業務におけるOFFJTやOJTの中に組み込むかが課題となろう。その ためには、例えば出向元企業内におけるキャリア研修の一貫として「人活」支援サービス を導入いただくことや、外の機会を見て成長機会を体験できる”場”として、サービスを 利用頂くことが求められる。参加者募集のアプローチをする際にも、企業側に対してそう 24 した長期的な観点からアプローチすることが求められる。また、個人の参加意欲を高める ためには、当事業の成功事例を踏まえながら啓発活動を行うことで、ブランド認知を高め ることが求められる。まずは公募制等にして、より成長意欲の高い人材を集めることで、 成功実績を積み上げていくことが求められよう。他方、コスト面においては、当事業では その半分近くが研修に費やされた。効果をより高めながらも研修費を圧縮することが求め られる。 ※参考文献 ・大久保 幸夫(2006)「キャリアデザイン入門〈1〉基礎力編 」日経文庫 ・JHR(人材サービス産業協議会)(2013)『ミドルのチカラ』 ・JHR(人材サービス産業協議会) 「キャリアチェンジプロジェクト専用サイト」 <http://www.j-hr.or.jp/middle-match.html>(2014/03/17 アクセス) ・樋口美雄・阿部 正浩・児玉 俊洋(2005)『労働市場設計の経済分析-マッチング機能の強 化に向けて』東洋経済新報社 ・益田勉(2011)「キャリアの探索と形成-キャリアデザインの心理学-」文教大学出版事業部 25