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「小売業態の発展に関する比較研究 −スーパーマーケット業態を中心に−」

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「小売業態の発展に関する比較研究 −スーパーマーケット業態を中心に−」
「小売業態の発展に関する比較研究
−スーパーマーケット業態を中心に−」
愛知大学非常勤講師
柯
麗華
近代小売業の歴史における最大の特徴は、小売業態の多様化である。そして、この業態
の多様化は、中国でも同じように起こっている。中国では、政府の流通開放政策の実施に
より、かつてアメリカ・日本で経験した小売業態の多様化が急速に進んだ。ただ中国では、
アメリカや日本などの国々とは異なって、「同時業態多様化」という特徴がある。ところ
が、中国における小売業態多様化の歴史はまだ浅いため、その発展過程や変化のメカニズ
ムに関する研究は少なく、しかも現状分析が中心であり、理論的な構築はほとんど見られ
ないのが現状である。そこで、中国独自の業態多様化の特徴は、アメリカで議論された既
存の理論を用いて、その生成・発展のメカニズムを解明することができるのかどうかを検
討してみたい。中国における小売業態のダイナミズムを理解するにあたっては、消費者と
密接な関わりをもつスーパーマーケット業態の分析が不可欠だと考えられる。この報告は、
中国の小売業で急速に成長しているスーパーマーケット業態に焦点を当てて、この業態の
展開パターンについて明らかにすることを目的とする。
かつて、アメリカで 19 世紀後半以後、百貨店やスーパーマーケットなどの新しい小売
業態が登場した。マクネア(McNair, M. P.)が、それらの小売業態の展開に関して「小売
の輪」(the wheel of retail)という理論を主張した。この仮説によれば、新しい小売業態
は通常、低コスト、低マージンによって可能な低価格を武器に登場する。しかしその後、
より多くの消費者を獲得するために、費用のかかる小売業態に変貌する。その結果、新た
な新業態が、低コスト、低マージン、低価格を武器に登場する。すなわち、
「輪」が一回転
する度に、新しい革新者(ディスカウンター)が登場してくる。このマクネアの小売の輪
という理論は、小売業の動態、特にアメリカのそれに関しては極めて巧みに説明したもの
といえる。しかし、この理論にはいくつかの問題点も提示されている。例えば、発展途上
国においては、スーパーマーケット業態の場合は、小売の輪のパターンとはまったく逆の
進展をみせているといわれる。また、ホランダー(Hollander, S. C.)は、「発展途上国で
は、中流以下の社会階層に属する消費者は、既存の小売店を主に利用するので、食品スー
パーなどの近代的業態は、小売の輪とは対照的に高価格で上流を対象として導入されてき
た」と述べた。果たして、中国におけるスーパーマーケット業態は、小売の輪が主張して
いるように低価格、低マージン、高回転率をもって登場したのかどうか。あるいはその逆
に、発展途上国の中国では、韓国や台湾と同様、小売の輪のパターンとまったく逆の進展
をみせているのかどうか。
中国のスーパーマーケットは、1981 年に初めて登場してから、単独店の経営を特徴とし
た前期導入期、チェーン・ストアの経営方式を特徴とした後期導入期を経て、外資主導の
大型総合スーパーマーケットに特徴づけられる成長期に入った。全体的にはこの業態は、
中国経済の発展とともに大きく発展している。しかし、スーパーマーケット業態の発展の
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サイクルを見てみると、前期導入期から成長期までの期間が非常に長かったことが窺える。
この新業態が初めて市場に導入され次第に受容されてゆく段階が長かった原因は、中国の
消費者に特有の購買慣習にあると考えられる。よく知られているように、中国人の国民性
として、食に対するこだわりが非常に強いことがよく指摘されている。中国統計年鑑のデ
ータを見ると、中国人のエンゲル係数は一貫して高い推移を示しており、近年は基本的に
は減少の方向に進んでいるが,それでも依然として高いことが窺える。また、冷蔵庫の保
有率の低さも、消費者の購買行動に直接的な影響を与えている。中国におけるスーパーマ
ーケット業態の導入期には、冷蔵庫の普及率が非常に低かった。都市家庭の百世帯当たり
の冷蔵庫の保有率を見ると、この業態の前期導入期にあたる 1980 年には、その保有率は
わずか 0.22%であった。そして、1995 年には 66.22%に増えたが、その保有率はまだ低い
状態であった。したがって、スーパーマーケット業態の導入期における冷蔵庫の保有率の
低さにより、家庭の冷蔵庫代わりとなる近隣の小売市場が、高頻度・少数量の生鮮食品を
購入するもっとも重要な場所であった。さらに、小売市場が頻繁に利用される理由は、交
通手段と密接な関わりがあると考えられる。中国では、もともと自家用車の保有率が一貫
して極めて低い。例えば、1997 年の時点では、都市家庭におけるバイクと自家用車の保有
率は、それぞれ 11.60%と 0.19%で格段に低く、低頻度・多数量によるまとめ買いは消費者
にとってかなり困難であった。したがって、交通手段の制約という面からも、都市住民は
多頻度かつ少数量の生鮮食品の購入先として、小売市場を選択せざるを得ないと考えられ
る。
このように,業態の導入期は,エンゲル係数の高さ,冷蔵庫の普及率の低さ,自家用車
の保有率が極めて低いといったことによって,スーパーマーケットよりも,小売市場こそ
が消費者の生鮮食品購入の主要な場所となった。さらに,業態の発展期に入った後も,こ
の傾向は依然として続いている。上海市商業信息中心がまとめた『上海市購物者購買心理
和行為研究報告』により,そのことが一層明らかである。この報告によると,上海市民の
買物の交通手段に関しては,バス,歩行,自転車が上海市民の買物の主要な交通手段とな
っている。そして、バスと自転車の利用者は主にスーパーマーケットで商品を購入してお
り,歩行の人々は,ほぼ毎日のように小売市場に通い,多頻度で少数量の生鮮食品を購入
している。また,同報告によると,上海市民は,加工食品・冷凍食品,日用品などの商品を
購入する場合には,スーパーマーケットを選び,生鮮食品では小売市場を選ぶ傾向がある。
小売市場は,いまだに生鮮食品購入の最大の場所であり,都市住民にとっては欠かせない
存在となっていることが窺える。こうしたことから,中国におけるスーパーマーケット業
態発展の大きな制約要因は,主に消費者の購買慣習にあると考えられる。食生活は地域や
伝統と結びついた文化であり,その販売方法や購買慣習とも密接な関連性をもち,それら
の変化にはかなりの時間を要するものと考えられる。
一方、伝統的な小売市場に依存している消費者の購買行動は、中国におけるスーパーマ
ーケット業態の展開パターンと密接な関係があると思われる。都市部の消費者は,小売市
場での買物環境に不満をもちながらも,立地,利便性,価格,生鮮食品の品目や鮮度とい
った面で高い満足感が得られるため,伝統的な小売市場を支持し続けていると考えられる。
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スーパーマーケット業態の導入期には,この新業態は既存の小売市場と比べると,決して
低価格とはいえなかった。もともとスーパーマーケットは,生鮮食品と惣菜を主体として,
加工食品,日用雑貨を品揃えする業態である。しかし,中国では、スーパーマーケットの
導入期には,商品の品揃えは加工食品・日用品・雑貨類が中心で,そのうち日用品・雑貨類の
比率が非常に高く,生鮮食品はほとんど扱わず,しかも価格は伝統的な小売市場よりはる
かに高かった。
なぜ,中国では、主力商品となるべき生鮮食品がスーパーマーケットによって敬遠され
たのか。もともと生鮮食品は、その安さ,鮮度の良さ,豊富な品揃えが,顧客ニーズ対応
の3要素といわれている。そして、生鮮食品の仕入れ値,手入れ,ロス処理に関しては,
高レベルのノウハウが必要である。しかし,中国のスーパーマーケット業態の導入期には,
多くの企業が資金不足に悩まされ,冷蔵設備の欠如により鮮度の管理が困難であり,また
小規模経営のため仕入れの価格が高いといった背景があった。そのため,商品の価格は高
く,それを購入する消費者はほんのわずかであった。また,スーパーマーケット業態は,
最初から都市部の中・高収入の顧客層を対象とし,「高価格→高マージン」を狙って導入さ
れた。しかし、その中・高収入の顧客も,スーパーマーケットではなく、小売市場で低価格,
高鮮度で食品を購入した。そして、結局スーパーマーケットによる食品の比率は,さらに
減少するという悪循環となった。要するに,スーパーマーケット業態が中国に導入された
時点では,消費者購買力の低さ,チェーン・ストア方式の採用率の低さ,生鮮食品の占める
比率の低さにより,スーパーマーケットの魅力は少なかった。それ故に,中国における既
存の伝統的な小売市場が,依然として食品流通の中心となっている。
以上述べたように、中国では、消費者の購買慣習がスーパーマーケット業態の発展の阻
害要因となったことは明らかである。また,この業態の展開パターンを見てみると,中国に
おけるスーパーマーケット業態の展開パターンは、アメリカのそれとはかなり異なってい
たことが明らかである。すなわち,先進国のアメリカにおけるスーパーマーケットの展開
パターンは,低価格→低マージン→高回転率であった。しかし,これに対して中国では,
高価格→高マージン→低回転率のパターンとなった。こうしたことから、小売業態論の嚆
矢である小売の輪理論も,中国におけるスーパーマーケット業態の展開パターンには適合
しえないと考えられる。
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