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バルデナフィル塩酸塩として販売されていた市販試薬について(PDF

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バルデナフィル塩酸塩として販売されていた市販試薬について(PDF
千葉衛研年報 第 60 号 2011 年
資料
バルデナフィル塩酸塩として販売されていた市販試薬について
吹譯友秀,長谷川貴志,髙橋和長,西條雅明,元木裕二
Result of Analysis of the Commercial Reagent Sold as Vardenafil Chloride Salt
Tomohide FUKIWAKE, Takashi HASEGAWA, Kazunaga TAKAHASHI, Masaaki SAIJO and Yuji MOTOKI
要旨
バルデナフィル塩酸塩として購入した市販試薬について、内容成分がバルデナフィルとは異なっていた事例が見出された。UPLC/PDA 及
び LC/MS 分析により、市販試薬の内容成分はホモシルデナフィルであると同定された。
キーワード:バルデナフィル、ホモシルデナフィル、メチソシルデナフィル、UPLC/PDA、LC/MS、標準品
Keywords: vardenafil, homosildenafil, methisosildenafil, UPLC/PDA, LC/MS, reference standard
はじめに
今 回 、 分 析 法 の 構 築 に 際 し て 使 用 し た 「 Vardenafil
近年、人々の健康に対する意識や関心が変化し、
Hydrochloride Salt」 と 記 載 さ れ て い た 市 販 試 薬 に つ
健康の維持、増進のほかに痩身、強壮効果等を期待
いて、内容成分がバルデナフィルとは異なっていた
していわゆる健康食品が広く用いられるようになっ
事例があったので報告する。
ている。しかし、これら健康食品の中には、効果を
実験方法
高めるために医薬品成分を含有した製品がみられ、
それらを摂取することにより健康被害を受けるとい
った事例が数多く報告されている
1) 4)
1.試薬及び標準品
1 ) 標 準 品 : バ ル デ ナ フ ィ ル は 「 Vardenafil
。
千葉県では、健康食品によるこれらの健康被害を
Hydrochloride Salt」 と 記 載 さ れ 、 販 売 さ れ て い た も
未然に防止するために、無承認無許可医薬品取締事
の(以下、市販試薬)及び国立医薬品食品衛生研究
業による試買検査を行っている。
所 か ら の 分 与 品( 以 下 、分 与 品 )を 使 用 し た 。ま た 、
我 々 は 、 平 成 18 年 度 に フ ォ ト ダ イ オ ー ド ア レ イ
ホモシルデナフィルは国立医薬品食品衛生研究所か
検 出 器 付 き 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ( HPLC/PDA)
らの分与品、メチソシルデナフィルは強壮成分が検
スクリーニング分析法を構築した
対象成分を追加し
6)
5)
。その後、分析
出 さ れ た 製 品 か ら 精 製 し た も の を 用 い た 。な お 、各 々
、検査を実施していたが、対象
の構造式は図1に示した通りである。
成分の増加に従い、他成分と十分な分離が得られな
2 ) 標 準 溶 液 : 各 標 準 品 を 1000
い事例や測定に時間を要するなど、いくつかの問題
各々メタノールで調製し、水・メタノール混合液
g/mL と な る よ う
点があった。
( 1:1) で 100
g/mL に 適 宜 調 製 し た 。
そ の 問 題 点 を 解 決 す べ く 平 成 23 年 度 に フ ォ ト ダ
3 ) そ の 他 の 試 薬 : ア セ ト ニ ト リ ル は HPLC 用
イオードアレイ検出器付き超高速液体クロマトグラ
( SIGMA 製 )及 び 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ 質 量 分 析
7)
( LC/MS) 用 ( 和 光 純 薬 工 業 製 ) を 用 い た 。 水 は ミ
フ(UPLC/PDA)スクリーニング分析法を構築した 。
O
O
N
H3C
HN
O
S
N
N
O
リ ポ ア 製 MILLI-Q Labo に よ り 精 製 し て 用 い た 。 そ
CH3
の他試薬は市販特級品を用いた。
N
N
O
CH3
CH3
O
バルデナフィル
O
O
H3C
N
HN
O
H3C
CH3
N
HN
S
N
N
O
CH3
N
HN
S
N
N
O
CH3
ホモシルデナフィル
N
N
O
CH3
CH3
CH3
メチソシルデナフィル
図1.バルデナフィル、ホモシルデナフィル及びメチソシルデナフィルの構造式
- 65 -
CH3
千葉衛研年報 第 60 号
2011 年
資料
2 . UPLC 装 置 及 び UPLC 条 件
ま た 、 市 販 試 薬 の マ ス ス ペ ク ト ル は m/z 489 の 相 対
装 置 : Waters 製 ACQUITY Ultra Performance LC
強 度 は 60%程 度 で あ っ た が 、分 与 品 に つ い て は 、m/z
カ ラ ム : ACQUITY UPLC BEH C18( 2.1 mm i.d. × 50
489 の 相 対 強 度 は 5%程 度 で あ っ た 。両 物 質 に お い て
mm, 1.7
保持時間及びスペクトルパターンが一致しないこと
m)
流 速:0.6 mL/min、注 入 量:2 L、カ ラ ム 温 度:40℃ 、
から、本法においても市販試薬と分与品の内容成分
測 定 波 長 210-400 nm、 移 動相 A 液:0.1%リン酸溶液、
は異なっていた。
B 液:0.1%リン酸含有アセトニトリル、グラジエント条
( A)市 販 試 薬
件:0-2 分(A:B=98:2)→ 8-10 分(A:B=20:80)
Relat iv e abu nd an ce
3 . LC/MS 装 置 及 び LC/MS 条 件
装 置 : Waters 製 2695 型セパレーションモジュール及び
ZQ4000 型 質 量 分 析 計
カ ラ ム : Atlantis dC18
(2.1 mm i.d. × 150 mm, 3 m)
流 速:0.2 mL/min、注 入 量:10 L、カ ラ ム 温 度:40℃ 、
イ オ ン 化 法:ESI ポ ジ テ ィ ブ 、コ ー ン 電 圧:20V、測
Retenti on t i me ( mi n)
定 質 量 電 荷 比 範 囲:m/z 100-800、移 動 相 A 液:0.1%
( B) 分 与 品
ジエント条件:0 分(A:B=95:5)→ 15 分(A:B=80:
20)→ 30-35 分(A:B=20:80)
結果及び考察
1 . UPLC/PDA 分 析
Relat ive abu nd an ce
ギ 酸溶液、B 液:0.1%ギ酸含有アセトニトリル、グラ
市販試薬及び分与品について、試験方法で示した
Retenti on t i me ( mi n)
条 件 で UPLC/PDA 分 析 を 行 っ た 際 の ク ロ マ ト グ ラ ム
図3.市販試薬(A)及び分与品(B)の TIC クロマトグラム
及 び UV ス ペ ク ト ル を 図 2 に 示 し た 。 保 持 時 間 は 市
及びマススペクトル
販 試 薬 で 4.76 分 、分 与 品 で 4.05 分 で あ っ た 。ま た 、
市 販 試 薬 の UV ス ペ ク ト ル の 極 大 吸 収 波 長 は 224 nm
3 . 市 販 試 薬 の 内 容 成 分 の LC/MS 及 び UPLC/PDA
及 び 294 nm、分 与 品 で は 215 nm 及 び 246 nm で あ っ
による同定
LC/MS 分 析 に よ り 、市 販 試 薬 は 保 持 時 間 26.15 分 、
たことから、市販試薬と分与品の内容成分は異なっ
ていた。
m/z 489 に [M+H] +イオンと思われるピークが確認さ
2 . LC/MS 分 析
れたことから、分子量は 488 と思われる。このことから、
分子量 488 を示すホモシルデナフィル及びメチソシルデ
市販試薬及び分与品について、試験方法で示した
条件で LC/MS 分析を 行っ た 際の TIC クロマ トグ ラム
ナフィルについて LC/MS 分析を実施した(図4)。
及びマススペクトルを図3に示した。保持時間は、
( A) ホ モ シ ル デ ナ フ ィ ル
AU
224
4.76
0.60
Relat iv e abu nd an ce
市 販 試 薬 で 26.15 分 、 分 与 品 で 24.60 分 で あ っ た 。
市販試薬
0.50
294
AU
0.40
0.00
220.00
0.20
380.00
nm
Retenti on t i me ( mi n)
2.00
4.00
6.00
4.05
1.00
AU
1.00
0.50
( B) メ チ ソ シ ル デ ナ フ ィ ル
246
0.00
220.00
0.00
0.00
10.00
215
分与品
AU
8.00
Relat iv e abu nd an ce
0.00
0.00
380.00
nm
2.00
4.00
6.00
Retention time(min)
8.00
10.00
Retenti on t i me ( mi n)
図4.ホモシルデナフィル(A)及びメチソシルデナフィル(B)
図 2 . 市 販 試 薬 及 び 分 与 品 の UPLC/PDA
の TIC クロマトグラム及びマススペクトル
ク ロ マ ト グ ラ ム 及 び UV ス ペ ク ト ル
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千葉衛研年報 第 60 号 2011 年
資料
ホモシルデナフィルは保持時間 26.08 分であり、m/z
ホ モ シ ル デ ナ フ ィ ル の 保 持 時 間 は 4.76 分 、メ チ ソ シ
+
489 に [M+H] イオンと思われるピークが確認され、
ル デ ナ フ ィ ル の 保 持 時 間 は 4.84 分 で UV ス ペ ク ト ル
メチソシルデナフィルは保持時間 26.32 分であり、m/z
の 極 大 吸 収 波 長 は い ず れ も 224 nm 及 び 294 nm で あ
489 に[M+H]+イオンと思われるピークが確認された。
った。
両物質は m/z 245 及 び m/z 489 の 強 度 が 高 く 、 ホ モ シ
市 販 試 薬 の 保 持 時 間 は 4.76 分( 図 2 )な の で 、内
ル デ ナ フ ィ ル の m/z 489 の 相 対 強 度 は 60%程 度 で あ
容 成 分 は ホ モ シ ル デ ナ フ ィ ル と 推 測 さ れ た 。そ こ で 、
り 、 メ チ ソ シ ル デ ナ フ ィ ル の 相 対 強 度 は 、 70%程 度
市 販 試 薬 と メ チ ソ シ ル デ ナ フ ィ ル の 濃 度 が 50
g/mL に な る よ う に 混 合 試 料 を 調 製 し UPLC/PDA 分
であった。
析 を 行 っ た と こ ろ 、ピ ー ク は 分 離( 4.77 及 び 4.85 分 )
市販試薬のマススペクトルはホモシルデナフィル
及びメチソシルデナフィルのスペクトルパターンと
し た ( 図 6 )。
酷似していることから、内容成分はいずれかの可能
同じように市販試薬とホモシルデナフィルの濃度
が 50
性が高いと判断した。
次にホモシルデナフィル及びメチソシルデナフィ
g/mL に な る よ う に 混 合 試 料 を 調 製 し 分 析 を
行 っ た と こ ろ 、 ピ ー ク は 分 離 し な か っ た ( 図 7 )。
ル の UPLC/PDA 分 析 を 行 っ た ( 図 5 )。
このことより、市販試薬の内容成分はメチソシル
デナフィルではなく、ホモシルデナフィルであると
AU
ホモシルデナフィル
AU
0 .6 0
同定した。
224
4.76
0. 50
294
まとめ
0 .4 0
0. 00
220.0 0
0 .2 0
バルデナフィル塩酸塩として購入した試薬につ
380 .00
nm
いて、内容成分がバルデナフィルとは異なっていた
0 .0 0
0.00
4 .0 0
6.00
8 .0 0
4.84
1 0 .0 0
ことが確認された。
今回のように、試験検査成績書が添付されていな
224
メチソシルデナフィル
0. 50
294
AU
AU
0 .4 0
0 .2 0
い市販試薬を標準品として無承認無許可医薬品取締
0. 00
220.0 0
事業の検査に使用した場合、誤同定する可能性があ
る。また。鈴木ら
380 .00
nm
0 .0 0
0.00
2 .0 0
4 .0 0
6.00
8 .0 0
1 0 .0 0
試薬においては当該事例のような誤りの可能性があ
図5.ホモシルデナフィル及びメチソシルデナフィルの
ることから、標準品として使用するにあたっては事
UPLC/PDA クロマトグラム及び UV スペクトル
AU
AU
0.30
0 .2 0
も市販試薬の内容成分が異なっ
品が正しいものであることが前提条件である。市販
Retention time(min)
224
8)
ていた事例を報告している。分析においては、標準
前の確認が重要であると考える。
224
4.77 4.85
294
AU
0 .6 0
2 .0 0
0 .2 0
294
0.20
0 .0 0
0 .0 0
0.10
2 2 0 .0 0
2 2 0 .0 0
3 8 0 .0 0
3 8 0 .0 0
nm
nm
0.00
4.00
4.20
4.40
4.60
4.80
5.00
5.20
5.40
5.60
5.80
6.00
Retention time(min)
図 6 . 市 販 試 薬 及 び メ チ ソ シ ル デ ナ フ ィ ル の 混 合 試 料 の UPLC/PDA ク ロ マ ト グ ラ ム 及 び UV ス ペ ク ト ル
224
4.76
0.60
AU
AU
0.60
0.40
0.40
294
0.20
0.00
0.20
220 .00
380 .00
nm
0.00
4.00
4.20
4.40
4.60
4.80
5.00
5.20
5.40
5.60
5.80
6.00
Retention time(min)
図 7 . 市 販 試 薬 及 び ホ モ シ ル デ ナ フ ィ ル の 混 合 試 料 の UPLC/PDA ク ロ マ ト グ ラ ム 及 び UV ス ペ ク ト ル
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千葉衛研年報 第 60 号
2011 年
文
1)
資料
献
健康被害情報・無承認無許可医薬品情報,
厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課
( http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet.html)
2)
守安 貴子, 岸本 清子, 中嶋 順一, 重岡 捨身,
蓑輪 佳子, 上村 尚, 他:健康被害を起こした
中国製ダイエット健康食品における検査結果,
東 京 都 健 康 安 全 研 究 セ ン タ ー 研 究 年 報 , 54 ,
69 73 (2003)
3)
長 谷 川 貴 志 ,石 井 俊 靖 ,宮 本 文 夫 ,伊 藤 浩
三:健 康 被 害 を 起 こ し た 中 国 製 ダ イ エ ッ ト 用 健
康 食 品 か ら 検 出 さ れ た 医 薬 品 成 分 に つ い て ,千
葉 県 衛 生 研 究 所 研 究 報 告 , 29, 37 40 (2005)
4)
伊 達 英 代 ,寺 内 正 裕 ,杉 村 光 永 ,豊 田 安 基
江 ,松 尾 健:健 康 食 品 中 に 含 ま れ る 経 口 血 糖 降
下薬の系統的分析法,薬学雑誌,129,163 172 (2009)
5)
西 條 雅 明 ,石 井 俊 靖 ,長 谷 川 貴 志 ,髙 橋 市
長 ,永 田 知 子 :「 い わ ゆ る 健 康 食 品 」中 の 医 薬
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6)
西 條 雅 明 ,石 井 俊 靖 ,長 谷 川 貴 志 ,髙 橋 市
長 ,永 田 知 子 :「 い わ ゆ る 健 康 食 品 」中 の 医 薬
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7)
吹 譯 友 秀 ,長 谷 川 貴 志 ,芦 澤
髙橋
英 一 ,小 倉
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和 長 , 西 條 雅 明 , 他 : UPLC/PDA に よ
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ニ ン グ 分 析 法 に つ い て ,千 葉 県 衛 生 研 究 所 年 報 ,
59, 79 83 (2010)
8)
鈴 木 仁 ,髙 橋 美 佐 子 ,長 嶋 真 知 子 ,瀬 戸 隆
子,安田 一郎:指定薬物の同定に用いる市販
試 薬 の 品 質 検 査 の 重 要 性 , 医 薬 品 研 究 , 40 ,
253 258 (2009)
- 68 -
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