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健康食品中の医薬品成分分析に使用する標準品として購入した試薬

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健康食品中の医薬品成分分析に使用する標準品として購入した試薬
短報
千葉県衛研年報 第 62 号
2013 年
健康食品中の医薬品成分分析に使用する標準品として購入した試薬について
長谷川貴志,吹譯友秀,髙橋和長,西條雅明,浜名正徳
Quality of Commercial Reagent Used for Identification of Pharmaceutical Adulterants in Dietary Supplements
Takashi HASEGAWA, Tomohide FUKIWAKE, Kazunaga TAKAHASHI, Masaaki SAIJO and Masanori HAMANA
要旨
分析法構築の際に標準品として使用した市販試薬の内容物が、表示されている成分(オルリスタット)とは異なっていた。UPLC/PDA、
GC/MS 及び LC/MS 分析の結果、表示されていた成分の含有は無く、フェノールフタレイン及びシブトラミンが含有されていることが
判明した。
キーワード:標準品、オルリスタット、UPLC/PDA、LC/MS
Key words: standard, orlistat, UPLC/PDA, LC/MS
はじ めに
製 を 、 シ ブ ト ラ ミ ン 塩 酸 塩 一 水 和 物 は LKT
近年、消費者の健康意識の向上から、いわゆる健
Laboratories 製 を 使 用 し た 。
康食品が広く利用されている。いわゆる健康食品は
2.試験溶液
様々な製品が販売されており、その品質も様々であ
各 試 薬 を 1000
る。これらの製品の中にはより効果を高めようと、
医薬品成分が添加された健康食品があり
1)
、医薬品
g/mL) は 試 験 溶 液 ( 1000
成分を含有した製品による健康被害も報告されてい
る
2-4)
g/mL と な る よ う メ タ ノ ー ル で 調
製 し 試 験 溶 液( 1000 g/mL)と し た 。試 験 溶 液( 500
g/mL) に 水 を 加 え 調 製
し た 。試 験 溶 液( 100 g/mL)は 、試 験 溶 液( 500 g/mL)
。
に 水 /メ タ ノ ー ル( 1:1)を 加 え 調 製 し た 。な お 、GC/MS
いわゆる健康食品による健康被害を未然に防止す
に 供 し た シ ブ ト ラ ミ ン( 100 g/mL,メ タ ノ ー ル )は 、
る た め 、 千 葉 県 で は 年 間 100 製 品 程 度 試 買 し 、 医 薬
シ ブ ト ラ ミ ン ( 1000 g/mL) を メ タ ノ ー ル で 希 釈 し
品成分の含有の有無について検査を実施している。
調製した。
検 査 は UPLC/PDA に よ る ス ク リ ー ニ ン グ 分 析 法
5)
に
UPLC 分 析 に は 、 分 与 品 は 試 験 溶 液 ( 500
g/mL)
より行っているが、分析法構築の際に標準品として
を 用 い 、 そ の 他 は 試 験 溶 液 ( 100 g/mL) を 用 い た 。
使用した市販試薬の内容物が表示されていた成分と
GC/MS 分 析 に は 、市 販 品 及 び フ ェ ノ ー ル フ タ レ イ ン
は異なる成分であることが判明したので報告する。
は 試 験 溶 液 ( 1000 g/mL) を 用 い 、 シ ブ ト ラ ミ ン は
試 験 溶 液( 100 g/mL,メ タ ノ ー ル )を 用 い た 。LC/MS
実験 方法
分 析 に は 、 試 験 溶 液 ( 100 g/mL) を 用 い た 。
1.試薬
3 . UPLC 分 析
オ ル リ ス タ ッ ト( 図 -1)は orlistat と 表 示 さ れ 市 販
装 置:Waters 製 ACQUITY UPLC; カ ラ ム:ACQUITY
されていた試薬(以下、市販品)及び国立医薬品食
UPLC BEH C18( 2.1 mm i.d. × 50 mm, 1.7
品衛生研究所からの分与品(以下、分与品)を使用
製 ); 移 動 相 A 液 : 0.1%リ ン 酸 水 溶 液 ; 移 動 相 B
した。また、フェノールフタレインは和光純薬工業
液 : 0.1%リ ン 酸 含 有 ア セ ト ニ ト リ ル ; グ ラ ジ エ ン
m, Waters
ト 条 件:0–2 分( A:B = 95:5)→ 8–10 分( A:B =
5: 95); 流 速: 0.6 mL/min; 注 入 量 :2 L; 測 定
O
波 長 : 210–400 nm; カ ラ ム 温 度 : 40℃
O
4 . GC/MS 分 析
O
装 置:Agilent 製 6890N GC 及 び 5975 MSD; カ ラ ム:
(CH2)5CH3
HP-5ms ( 0.25 mm i.d. × 30 m, 0.25 m, Agilent 製 );
H3C
O
CH3
HN
キ ャ リ ア ガ ス : ヘ リ ウ ム ; キ ャ リ ア ガ ス 流 量 : 1.0
(CH2)10CH3
mL/min; 注 入 法:ス プ リ ッ ト レ ス; 注 入 量:1 L;
H
注 入 口 温 度 : 200℃ ; カ ラ ム 温 度 : 80℃ ( 1 分 間 保
持 ) → 5℃ /分 → 190℃ → 10℃ /分 → 310℃ ( 10 分
O
間保持)
;ト ラ ン ス フ ァ ー ラ イ ン 温 度:280℃; イ オ
図 -1 オルリスタットの構 造 式
ン 化 法 : EI 法 ; 測 定 質 量 範 囲 : m/z 40–600
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千葉県衛研年報 第 62 号 2013 年
短報
5 . LC/MS 分 析
ま た 、 そ れ ぞ れ の ピ ー ク の UV ス ペ ク ト ル を 比 較 し
装 置 : Waters 製 2695 及 び ZQ 4000 MSD; カ ラ ム :
た と こ ろ 、 市 販 品 の 2 つ の ピ ー ク の UV ス ペ ク ト ル
Atlantis dC18( 2.1 mm i.d. × 150 mm, 3
は 分 与 品 の UV ス ペ ク ト ル と は 一 致 し な か っ た 。
m, Waters
製)
; 移 動 相 A 液:0.1% ギ 酸 水 溶 液; 移 動 相 B 液:
次 に 、 市 販 品 の 各 ピ ー ク の UV ス ペ ク ト ル に つ い
0.1 % ギ 酸 含 有 ア セ ト ニ ト リ ル ; グ ラ ジ エ ン ト 条
て 、当 研 究 所 で 作 成 し た ラ イ ブ ラ リ で 検 索 を 行 っ た 。
件:0 分( A:B = 95:5)→ 25–35 分( A:B = 5: 95);
そ の 結 果 、ピ ー ク 1 は フ ェ ノ ー ル フ タ レ イ ン と 、ピ ー
カ ラ ム 温 度 : 40℃ ; 流 速 : 0.2 mL/min; 注 入 量 :
ク 2 はシブトラミンと推定された。そこで、和光純
10 L; イ オ ン 化 法:ESI ポ ジ テ ィ ブ; キ ャ ピ ラ リ ー
薬工業から購入したフェノールフタレインについて
電 圧:3.0 kV; ソ ー ス 温 度:120℃; デ ソ ル ベ ー シ ョ
UPLC で 分 析 し た 結 果 、 保 持 時 間 は 4.57 分 で あ り 、
ン 温 度:350℃; デ ソ ル ベ ー シ ョ ン ガ ス フ ロ ー:600
保 持 時 間 及 び UV ス ペ ク ト ル は 市 販 品 の ピ ー ク 1 と
L/hr; コ ー ン ガ ス フ ロ ー : 50 L/hr; コ ー ン 電 圧 :
一 致 し た 。同 様 に LKT Laboratories か ら 購 入 し た シ
20 V; 測 定 質 量 範 囲 : m/z 100–900
ブ ト ラ ミ ン に つ い て UPLC で 分 析 し た 結 果 、 保 持 時
間 は 5.23 分 で あ り 、保 持 時 間 及 び UV ス ペ ク ト ル は
結果 及び考察
市販品のピーク 2 と一致した。なお、全てのクロマ
1 . UPLC 分 析
ト グ ラ ム に お い て 観 察 さ れ た 6.66 分 の ピ ー ク は シ
図 -2 に UPLC ク ロ マ ト グ ラ ム 及 び UV ス ペ ク ト ル
ステムピークであった。
を 示 し た 。市 販 品 は 保 持 時 間 4.57 分 ( ピ ー ク 1) 及
2 . GC/MS 分 析
び 5.27 分 ( ピ ー ク 2) に ピ ー ク が 観 察 さ れ た 。分 与
市 販 品 に つ い て GC/MS 分 析 を 行 っ た 結 果 、 保 持
品 は 保 持 時 間 ( 8.18 分 ) に ピ ー ク が 観 察 さ れ た が 、
時 間 23.55 分 ( ピ ー ク A) 及 び 36.18 分 ( ピ ー ク B)
市 販 品 の ピ ー ク と は 保 持 時 間 が 一 致 し な か っ た。
に ピ ー ク が 観 察 さ れ た( 図 -3)。各 ピ ー ク の マ ス ス ペ
クトルについてライブラリ検索を行ったところ、
(A)
ピ ー ク A は シ ブ ト ラ ミ ン と 、ピ ー ク B は フ ェ ノ ー ル
ピ ーク 1
フタレインと推定された。
ピ ーク 2
波 長 (nm)
波 長 (nm)
(A)
ピークA
(B)
ピークB
波 長 (nm)
(B)
(C)
波 長 (nm)
(C)
(D)
波 長 (nm)
保 持 時間 (分)
保 持 時間 (分)
図 -2 UPLC クロマトグラム及 び UV スペクトル
(A) オルリスタット (市 販 品 , 100 g/mL)
(B) オルリスタット (分 与 品 , 500 g/mL)
(C) フェノールフタレイン (100 g/mL)
(D) シブトラミン (100 g/mL)
図 -3 GC/MS TIC クロマトグラム
(A) オルリスタット (市 販 品 , 1000 g/mL)
(B) シブトラミン (100 g/mL,メタノール)
(C) フェノールフタレイン (1000 g/mL)
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短報
千葉県衛研年報 第 62 号
(A)
(B)
(C)
(D)
m/z
m/z
図 -4 GC/MS スペクトル
(A) オルリスタット (市 販 品 ) ピーク A
(B) オルリスタット (市 販 品 ) ピーク B
(C) シブトラミン
(D) フェノールフタレイン
ピーク2
(A)
ピーク1
(B)
(C)
保 持 時間 (分)
図 -5 LC/MS TIC クロマトグラム
(A) オルリスタット (市 販 品 , 100 g/mL)
(B) フェノールフタレイン (100 g/mL)
(C) シブトラミン (100 g/mL)
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千葉県衛研年報 第 62 号 2013 年
短報
(A)
(B)
(C)
(D)
図 -6 LC/MS スペクトル
(A) オルリスタット (市 販 品 ) ピーク 1
(B) オルリスタット (市 販 品 ) ピーク 2
(C) フェノールフタレイン
(D) シブトラミン
HO
OH
CH3
O
N
Cl
H3C
CH3
CH3
O
図 -7 フェノールフタレイン及 びシブトラミンの構 造 式
まと め
そこで、シブトラミン及びフェノールフタレイン
に つ い て GC/MS で 分 析 し た 結 果 、保 持 時 間 は 23.54
以上の結果より、市販品には製品ラベルに表示さ
分 及 び 36.23 分 で あ り 、 そ れ ぞ れ の 保 持 時 間 及 び マ
れていたオルリスタットは含有されておらず、フェ
ススペクトルは、シブトラミンは市販品のピーク A
ノ ー ル フ タ レ イ ン 及 び シ ブ ト ラ ミ ン ( 図 -7) が 含 有
と 、フ ェ ノ ー ル フ タ レ イ ン は 市 販 品 の ピ ー ク B と 一
されていること判明した。
致 し た ( 図 -4)。
オルリスタットはリパーゼ阻害作用を有し、海外
3 . LC/MS 分 析
では抗肥満薬として用いられているが、日本では医
LC/MS 分 析 の 結 果 、 市 販 品 で は 保 持 時 間 17.8 分
薬品として承認されていない成分である。フェノー
( ピ ー ク 1) 及 び 18.5 分 ( ピ ー ク 2) に ピ ー ク が 観
ル フ タ レ イ ン は 瀉 下 作 用 を 有 し 昭 和 45 年 ま で 下 剤
察 さ れ た( 図 -5)。そ れ ぞ れ の マ ス ス ペ ク ト ル は 、ピ ー
として使用されていた医薬品であるが、発がん性が
ク 1 で は m/z 319 に [M+H] + イ オ ン が 観 察 さ れ 、 ピ ー
あるとして現在では医薬品としては使用されていな
+
ク 2 で は m/z 280 に [M+H] イ オ ン が 観 察 さ れ た 。
い。シブトラミンは食欲抑制作用を有し、海外で肥
フ ェ ノ ー ル フ タ レ イ ン に つ い て LC/MS で 分 析 し
満症治療薬として用いられていたが、副作用による
た 結 果 、保 持 時 間 は 17.7 分 で あ り 、そ の マ ス ス ペ ク
死亡例があることから現在では使用されていない。
+
ト ル は m/z 319 に [M+H] イ オ ン が 観 察 さ れ 、 市 販 品
オルリスタット、フェノールフタレイン及びシブ
のピーク 1 と一致した。同様にシブトラミンについ
トラミンはいずれも痩身作用を有しているが構造的
て LC/MS で 分 析 し た 結 果 、 保 持 時 間 は 18.4 分 で あ
な類似性はなく、なぜオルリスタットの代わりに
り、そのマススペクトルは市販品のピーク 2 と一致
フェノールフタレイン及びシブトラミンが含有され
した。
ていたかについては不明であった。
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短報
千葉県衛研年報 第 62 号
過去にも市販試薬の内容成分が表示成分と一致し
なかった事例が報告されているが
6,7)
、い ず れ の 事 例
でも単一の成分が入っており、ラベルの張り間違い
等の単純なミスが原因と推定される。しかし、今回
ように全く構造の異なる複数成分が検出された事例
は報告されていない。
いわゆる健康食品中の医薬品成分の検査に用いる
標準品には、試薬メーカーから購入した市販試薬を
使用することが一般的である。しかし、市販試薬は
今回の事例のように表示とは異なる成分が含有され
ている可能性があり、それらの市販試薬を標準品と
して使用することにより誤同定を引き起こす可能性
が否定できない。市販試薬を無承認無許可医薬品の
検 査 の 標 準 品 と し て 使 用 す る 場 合 、LC/MS 等 の 分 析
機器で事前に確認するなど、十分な注意が必要と思
われる。
文
献
1) 健 康 被 害 情 報・無 承 認 無 許 可 医 薬 品 情 報 ,厚 生 労
働 省 医 薬 食 品 局 監 視 指 導 ・ 麻 薬 対 策 課 (URL:
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/musyounin.html)
2) 長 谷 川 貴 志 ,石 井 俊 靖 ,宮 本 文 夫 ,伊 藤 浩 三:健
康被害を起こした中国製ダイエット用健康食品
か ら 検 出 さ れ た 医 薬 品 成 分 に つ い て ,千 葉 県 衛 生
研 究 所 研 究 報 告 , 29, 37–40 (2005)
3) 守 安 貴 子 ,岸 本 清 子 ,中 嶋 順 一 ,重 岡 捨 身 ,蓑 輪
佳 子 ,上 村 尚 ,他:健 康 被 害 を 起 こ し た 中 国 製 ダ
イ エ ッ ト 健 康 食 品 に お け る 検 査 結 果 ,東 京 都 健 康
安 全 研 究 セ ン タ ー 研 究 年 報 , 54, 69–73 (2003)
4) 土 井 崇 広 ,梶 村 計 志 ,高 取 聡 ,田 口 修 三 ,岩 上 正
蔵:グ リ ベ ン ク ラ ミ ド と シ ル デ ナ フ ィ ル が 検 出 さ
れ た 健 康 食 品 に つ い て ,大 阪 府 公 衆 衛 生 研 究 所 研
究 報 告 , 46, 55–60 (2008)
5) 吹 譯 友 秀 ,長 谷 川 貴 志 ,芦 澤 英 一 ,小 倉 誠 ,髙 橋
和 長 ,西 條 雅 明 ,他:UPLC/PDA に よ る い わ ゆ る
健康食品中の医薬品成分スクリーニング分析法
に つ い て , 千 葉 県 衛 生 研 究 所 年 報 , 59 , 79–83
(2010)
6) 鈴 木 仁 ,髙 橋 美 佐 子 ,永 嶋 真 知 子 ,瀬 戸 隆 子 ,安
田 一 郎 : 医 薬 品 研 究 , 40, 253–258 (2008)
7) 吹 譯 友 秀 ,長 谷 川 貴 志 ,髙 橋 和 長 ,西 條 雅 明 ,元
木 裕 二:バ ル デ ナ フ ィ ル 塩 酸 塩 と し て 販 売 さ れ て
いた市販使用について,千葉県衛生研究所年報,
60, 65–68 (2011)
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2013 年
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