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ニューズレターNo.21

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ニューズレターNo.21
ユニベール財団 ニューズレター August Issue 2014 NO.
21
2013.4-2014.3 事業報告
国際交流
“日韓こころの交流” プログラム
ソウルで“シンポジウムと研修セミナー”開催
(第 11 回)
シンポジウム
日韓の社会福祉の専門家によるシンポジウムが行われた
シンポジウム会場の崇實大学校(韓国ソウル市)
施設の利用者との交流(研修セミナー)
(第 6 回)
専門職育成・
国際交流セミナー
就労支援学校を見学(研修セミナー)
Contents
国際交流
“日韓こころの交流”プログラム --- 1
ハワイ ・ ソーシャルワーク ・ セミナー --- 7
1
ボランティア
助成
心のケア・フォーラム
--- 9
研究助成
--- 21
ユニベールボランティア
--- 20
特定活動助成
--- 22
(第 11 回)“日韓こころの交流”シンポジウム — 高齢者福祉と地方政府の役割 —
(第 11 回)
“日韓こころの交流”
シンポジウムを 「高
齢者福祉と地方政府の役割」をテーマに 2013 年 9
スンシル
ハンギョンチク
月 13 日に開催しました。会場の崇實大学校・韓景職
記念館には 200 名程の福祉従事者等が来場しました。
日本・韓国では急速に少子高齢化が進み、介護の社
会化を目的に介護保険制度を実施。地域の高齢者の
多様なニーズに対応するため、地方自治体の財源や
福祉人材の確保、ネットワーク作り等の課題を有し
ています。少子高齢化に伴う高齢者福祉の問題解決
は両国にとって最大の懸案事項です。
日韓の専門家によるパネルディスカッション
基調講演
高齢化社会の福祉政策の行方
~社会的合意を引き出すために力を合わせる~
ソン ゴン イク
孫 建 翼 氏
国民大学客員教授
前保健福祉部次官
新しい社会福祉政策を模索する中に、社会的構造
医療支援、③関連サービスの提供の三本柱からなっ
の変動、推移を見逃してはならない。90 年代から、
ている。①所得保障では、基礎老齢年金、国民年
韓国は 2 次産業国家から 3 次産業、すなわちサービ
金などを除き、関心を向けるべきは高齢者雇用、
ス業を中心とする国家にシステムが移行している。
社会参加ではないか。②療養・医療保障では、ベビー
長期にわたって影を落としている青年失業問題も社
ブーマーが高齢者となる 2026 年の前に健康保険制
会構造の問題であり、高齢者福祉の財源は若い世代
度の大々的な補完が必要であるが、まず保険料賦
と高齢者の間の深刻な葛藤をもたらす恐れがある。
課、給付方法など現在の枠組みを変えること。③
韓国は 2026 年に超高齢社会に突入するが、歳出
社会福祉サービスでは、認知症治療・管理の問題
的にみると 2018 年までに労働生産性を 2 倍に拡大
や高齢者の犯罪、自殺・孤独死、虐待予防など。
しないと名目賃金だけが上がってしまうだろう。
最後に取り組みの体制について。果たして福祉政
高齢者福祉政策のアプローチは妥当であるか。
策をどのように推進するのが望ましいか。韓国は
高齢者福祉政策を推進する上で、単に財源問題の
2018 年に高齢社会に入る。国家システムもそれに
みを捉えて討議するだけでなく、どのようにして
あわせて変化していかなければならない。これらを
高齢者福祉のレベルを引き上げ、そのために何を
推進するためには、国会やマスコミが絶えず指摘し
すべきか、具体的なプロセスが必要である。すな
続けなければならず、生産的な議論が望まれる。
わち社会的な合意のプロセスで、官民学一つになっ
我々が幸運なのは、福祉の後発走者であること。
ての議論をする必要がある。
政策の目標や方向をターニングする余地がまだまだ
ある。韓国社会の問題点の大きな枠組みの中で、社
韓国の社会保障政策は、①社会保障、②療養・
2
会的合意を引き出すために力を合わせるべきである。
●主 催:“日韓こころの交流”プログラム実行委員会、
公益財団法人ユニベール財団、崇實共生福祉財団 ●共 催:社会福祉法人こころの家族、ハンギョレ新聞社社会政策研究所
●後 援:韓国保健福祉部、韓国社会福祉士協会、韓国社会福祉学会、崇實大学校、ハンギョレ新聞
一般社団法人日本社会福祉学会 社団法人日本社会福祉士会
セッションⅠ『高齢者福祉サービスと地方政府の役割』
ジョン ヨン ホ
ゆうき
やすひろ
田 容 昊 氏
結城 康博 氏
南ソウル大学校教授
淑徳大学教授
地方政府の役割とその方策を模索する
ソーシャルワーカーの役割
韓国は転換期を迎え、地方政府の役割遂行が非
2000 年にスタートした日本の介護保険制度は、
常に重要な時期になっている。地方政府の役割の
基礎的自治体としての市町村が地域の介護ニーズ
根本的な再定立が必要と考えるので、広域地方自
に応じた運用ができるように設計されている。
治体(道)と基礎自治体(市町村)の役割や構造
市町村では財源に左右される一方、ソーシャル
的な問題点を挙げる。2007 年に老人介護総合サー
ワーカーや介護士、現場従事者にとっては、サー
ビスを実施、2008 年からはドイツと日本をモデル
ビスを拡充したいという意向が強くなるが、市や
に老人長期療養保険制度を導入したが、地方政府
国に働きかけても実現が困難である。また介護保
の動きはいまだに受動的である。役割を見直し、
険法や老人福祉法、政省令によって物事が決まっ
積極的な姿勢に転換することが望まれる。
ていく仕組みになっている。国からの通知行政に
1 点目、地方政府の役割について。
「道」は傘下
よって運用されるため、市などが全権的にそのルー
の福祉サービスの全体的な把握、ニーズ調査に基づ
ルを変えることが難しい。ソーシャルワーカーや
く問題点、改善点を洗い出し企画すると同時に、傘
現場従事者が法的な面を意識して進めることに矛
下の市町村に対して管理監督する体制が重要であ
盾点を感じる。
る。
「市町村」は、サービスの利用支援と相談業務
高齢者施策は地方政府に権限を移譲していく傾
の強化、モニタリングサービス、地域社会の自己診
向にあるが、実は、すべてその財源が市に降りる
断と計画査定が肝要である。孤立した高齢者が多い
ということはなく、骨格は国のルールに基づきな
ため、アウトリーチの機能が非常に大切で、積極的
がら動いている。もし地方政府に権限が移譲され
にサービスを利用できるように繋ぐことが重要であ
ていった場合、①市役所のマンパワーに疑問を持
る。また地方のサービス対象者に対して供給者側が
つ。②マイノリティの人たちの声が政策に反映し
不足しているため、新しい供給者が参入できるイン
にくくなるのではないかと懸念する。地域のこと
センティブや方策作りが課題である。
は地域で考えていくという考えもあって当然だが、
2 点目、韓国における社会福祉サービスは政策実
一定の中央集権を維持しながら法律や弾力的な運
施後のモニタリング機構が欠如している。
用の仕方で地方分権を考えていくべきではないか。
3 点目、道と市町村の事業に対して、計画・策定
ソーシャルワーカーの役割は、現場の疑問点を
したものを自主的に点検しアセスメントを行うこ
政策に反映していくこと。また財源問題と中央集
とを提起したい。最後に、地方政府への各種協力
権、地方分権という問題も大事。マネジメント、
は惜しまない。
非営利性、中立性、公正性を守ることが重要だ。
3
セッションⅡ『介護保険制度と社会福祉士の役割』
イ ウン ヨン
李 恩 英 氏
社会福祉法人啓明福祉財団
常任理事
しらさわ まさかず
白澤 政和 氏
桜美林大学大学院教授
ソーシャルワーカーの
専門性確保と社会的信頼
地域包括ケアの推進が
ソーシャルワークそのもの
老人長期療養保険制度が施行され、施設も在宅サー
介護保険制度のもとで、社会福祉士は二つの形態で仕事
ビスもインフラが量的に拡大、営利企業が供給に参
をしている。一つは、介護支援専門員としてケアマネジメ
加する市場化政策が実施された。しかし量的変化と
ントを実施する個人支援。
二つ目は、
地域包括支援センター
ともに、賃金の下落、人材やサービスの質の格差な
の 3 職種(社会福祉士、保健師、ケアマネジャー)の職
ど新たな問題が台頭している。本制度下でのソーシャ
員として、高齢者の介護予防、総合相談や権利擁護、ケア
ルワーカーの役割を模索することが重要だ。
マネジャーをサポート、
地域のネットワークづくりである。
マクロ指標がどのように変わってきたか。まず
2006 年に「地域包括ケア」の概念が導入された。介護、
①受給者の推移。認定率は小幅減少。逆にサービ
住宅、医療、予防、生活サービスなどを生活圏域内で提供
ス利用者は急激に増加。特に在宅サービスが 2 倍
できる仕組み作りが特徴。必要なのはケアマネジャーによ
に上昇。中でも訪問療養、訪問入浴が増加。法人
る個人支援(ミクロ・ソーシャルワーク)と、地域包括支援
施設 2 倍、個人施設は 5 倍に増加。②次に人材。
センターによる地域支援(マクロ・ソーシャルワーク)を結
人材はサービスと質を左右する。長期療養従事者
びつけることである。
これこそがソーシャルワークであり、
30 万人のうちソーシャルワーカーは 2%。他はケ
社会福祉士はソーシャルワークを推進できる環境にある。
アワーカー。ソーシャルワーカーは施設長、事務
ケアマネジメントを行う中で支援困難事例に遭遇す
局長、療養保護士の役割も担っている。③賃金。
ることになる。そこから地域のニーズが明らかになる。
特にケアワーカーの賃金が下落している。従事者
地域の代表者会議でアセスメント、計画作成、実施、
は、大卒のソーシャルワーカーから高卒のケアワー
モニタリングの過程での PDCA サイクルにより、地域
カーに替わってきている。問題は、業務が量的に
支援計画を作成・実施する。これらの計画が連続性を
拡大する一方、重要業務を担う中核の人材として
もつことで、地域の社会資源が豊富になり、支援困難
認められているかどうかである。
事例が減少し、在宅生活者がより可能になる。これこ
この変化を確認するため長期療養機関のソーシャ
そがコミュニティ・オーガニゼーション(コミュニティ
ルワーカー 7 人にインタビューした。その結果、当
ワーク)である。これを実施していけば地域は変わり、
機関に従事するソーシャルワーカーは増えている
まちづくりができる。ここに、個人支援と地域支援を
が、役割は弱化していた。原因は、①利用者に重度
一体化したソーシャルワークが実施されることになる。
の高齢者が多くなり、生活サービスより医療的ニー
韓国の長期療養保険でケアプランを利用者に送付す
ズがある。②反面、相談や入所者、管理監督者など
るのと異なるのは、ケアマネジャーと利用者がフェー
ソーシャルワーカーの業務領域が小さくなった。③
ス・ツ・フェースの関係で、ケアプランに合意をする
ケアマネジメントが制度化されておらず、ソーシャ
ことであり、作ったプランはそのまま実施されること。
ルワーカーの固有の業務領域が弱化している。結論
ケアマネジャーのうち社会福祉士は 10% もいないが、
として、ソーシャルワーカーの専門性確保、信頼性
4,500 箇所の地域包括支援センターに最低限 1 名の社会福
を得ているのかのチェックが求められる。
祉士が配置されている。そこで地域包括ケアの推進に力
を発揮できる。大学の教育のあり方も見直していきたい。
4
パネルディスカッション
ジョ フン シク
曺 興 植 氏
ソウル大学校教授
パネラーによる討論が白熱
介護保険制度の展望を議論
コーディネーターに曺氏を迎え、セッション発表者
― 高齢者総合福祉館の役割について
を交えてのパネルディスカッションをおこないました。
李氏 韓国の地域福祉は、民間と公共が役割分担
をして進められている。これまで療養施設、福祉
曺氏 介護保険制度の保険者は、韓国は中央政府の
館や地域社会協議会、公共領域などがそれぞれ行っ
委託により国民健康保険公団が担い、日本は市が管
ていたケアマネジメントをいかに一つにまとめる
理している。両国では、中央政府と地方政府の位置
かが急務課題である。長期療養保険制度下では社
づけが違う。日本では、地域包括支援センターによ
会福祉分野と医療分野との衝突が深刻である。
り、生活圏レベルで福祉サービスが展開されている。
一方韓国は、依然として医療サービスに傾いている。
― 社会福祉士の専門性について
地域包括支援センターの機能を韓国の高齢者総合福
白澤氏 両国の社会福祉士の状況は似ている。介
祉館が担えるか今後の協議がポイントとなる。
護保険は医療ニーズが高く、社会福祉士、特に介
護福祉士は医学的な知識が浅いので十分な支援が
― 中央政府と地方政府の役割について
できていないという意見がある。しかし、介護保
田氏 韓国の地方政府の役割はサービスの向上、
険制度では、認知症などの疾病を抱えている利用
ケアワーカーの資格付与、教育等さまざまだが、
者の質の高い生活を支えることが社会福祉士の仕
公務員の人手不足により、その役割を果たせてい
事だ。生活の質を高めるためには、医療面だけで
ないのが現状。特に利用者のサービス利用状況を
なく、心理社会面を支援することが必要である。
正確に把握できていない。同じことが中央政府に
医療に対するニーズだけであれば、治療をして医
も言えるが、全自治体の状況を把握することは限
療保険で解決すればよい。医療保険と同じような
界があり地方政府が役割を確立し、サービスのデー
長期療養保険や介護保険をつくってはならないの
タを一元化し、個人がどのようなサービスを利用
ではないか。そこに、介護保険や長期療養保険で
しているのか把握することが急務。アウトリーチ
はソーシャルワーカーの頑張る余地があると思う。
が特に重要。
― まとめ
結城氏 介護保険制度で市場の競争原理が高齢者業
曺氏 両国ともにサービスを提供する人の専門性
務に導入されたことから、市町村が専門職の視点
が必要で、その人の待遇改善、社会的に専門家と
で介護保険事業所へ指導監査を行えるかどうかが
して認められることが重要である。そのためには
重要である。また、契約制度のため認知症高齢者
教育、ソーシャルアクション、市民に対しての代
等の契約能力に問題のある人、独居高齢者等の人
弁擁護も忘れてはならない。地方分権化について
たちをどのようにサービスにつなげるか、地域包
考慮すべきは、福祉サービスの一定水準の確保で
括支援センターのネットワークをマネジメントで
あり、中央政府に対してのソーシャルアクション
きるかが大事だ。
である。
5
(第 6 回)専門職育成・国際交流セミナー
当セミナーは次代を担う日本・韓国の福祉専門職
の育成を目指しています。両国で交互に開催し、今
回は日本の大学院生及びソーシャルワーカー 8 人を
韓国ソウルに派遣しました
(2013 年 9 月 8 ~ 15 日)
。
セミナーでは、現場視察や大学院授業への参加だけ
ではなく、これらで得た知識を整理するための中間・
最終総括を行います(スケジュールは下記参照)
。
本稿では、参加者の視点からセミナーを紹介します。
韓国民族衣装等を常設し認知症高齢者への回想法を行う部屋を見学
(ソウル市西部老人専門療養センター)
セミナーを振り返って(参加者感想)
韓国の高齢者の孤独感にヒントを得る
ステムが崩壊してきていました。高齢者は自分自身
さいとう
斉藤 リカ 氏
の親を扶養してきたのにもかかわらず、子供たちか
筑波大学大学院 人間総合
科学研究科 3 年時に参加
らは満足な支援がないことに対して孤独感を感じ、
孤立しています。それが現代高齢者の自殺に結びつ
高齢者の自殺率は WHO の発表によると韓国が
くのではないかという考察を聞きました。
世界一位であり、なぜ高齢者が天寿を全うするこ
つまり高齢者の孤独感は、脈々と受け継がれて
とができないのか、なぜ韓国社会は高齢者の自殺
きた老親扶養の精神が途絶えた絶望と、心の通っ
を許容しているのか関心がありました。
た交流がない現実に対して孤独を感じる要因があ
ソウル大学校でのディスカッションのなかで、大
るように捉えられました。今回の訪問によって大
きなヒントがありました。韓国では高齢者扶養のシ
きな収穫が得られたと感じています。
第 1 日: 第 4 日:
たまざと え み こ
■オリエンテーション;玉 里恵 美子氏(高知大学准
■視察④『中浪区健康家庭支援センター』;家族を
教授)、前回(日本開催)の韓国人参加者との交流
対象とした支援、多文化家族支援センター併設
第 2 日: ■視察⑤『鐘路老人福祉館』;高齢者を対象とした
■視察①『ソウル市西部老人専門療養センター』; 生きがいづくり施設
特別養護老人ホーム、デイケア、在宅介護支援センター等
第 5 日:
ジョフンシク
■授業①『ソウル大学校社会福祉大学院』;曺興植氏
■視察⑥『サダン総合福祉館』;地域社会への様々な
(同大学教授)
「韓国の障害者及び児童福祉政策の理解」
支援を行う総合施設
第 3 日:
■授業②『崇實大学校社会福祉大学院』;柳秀 鉉氏
リュスヒョン
■視察②『ソウル市中部教育技術院』;職業訓練学校
6
(同大学教授)「社会福祉とストレス」
■視察③『恩平天使園 Angel's Heaven』;児童、障害者、
第 6 日:
高齢者関連施設等
■最終総括;柳秀鉉氏
■中間総括;玉里恵美子氏(高知大学准教授)
■(第 11 回)“日韓こころの交流”
シンポジウム
国際交流
ハワイ ・ ソーシャルワーク ・ セミナー
心を開き、自分の道と専門職としての道を見つける 2 週間
ロン・マタヨシ ハワイ運営委員(右)
「聖フランシス・ホスピス」を見学
講義「障がいをもつ人」でのグループ発表
ソーシャルワーカー(福祉の専門職)をめざす大学院生・大学生を派遣し、米国ハワイ大学及び現地のさ
まざまな社会福祉機関において約 2 週間のセミナーを実施しました。セミナーでは、ハワイ大学マイロン B. ト
ンプソン(MBT)ソーシャルワーク学部の講師をはじめ、
現地の専門職による講義や現場見学等を通して多民族・
多文化社会であるハワイの社会福祉制度を学びます。さらに、メンターと呼ばれるハワイ大学大学院生及び
卒業生の日本人とのディスカッションを行い、これらの講義と現場で得た経験のフィードバックを行います。
今回(11 回目)の参加者は日本の学生に加え、台湾からの留学生、フィリピンからの学生も派遣しました。
●日 程:2014 年 2 月 15 日~ 3 月 2 日
●会 場:ハワイ大学マノア校、現地の福祉機関ほか
●対 象:ソーシャルワーカーをめざす大学院生・大学生
●主 催:公益財団法人ユニベール財団、ハワイ大学 MBT ソーシャルワーク学部、ナ・レイ・アロハ財団
●後 援:一般社団法人日本社会福祉学会、一般社団法人日本ケアマネジメント学会、
一般社団法人日本社会福祉教育学校連盟、一般社団法人日本社会福祉士養成校協会
公益社団法人日本社会福祉士会、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会、日本地域福祉学会
●運営委員:ノリーン・モクアウ氏 ( ハワイ大学 MBT ソーシャルワーク学部学部長 )
ロン・マタヨシ氏 ( ハワイ大学 MBT ソーシャルワーク学部国際プログラム・ディレクター )
ネイサン・チャン氏 ( ハワイ大学 MBT ソーシャルワーク学部学部長補佐 )
プログラム
2. 15 ( 土 ) 東京発/ホノルル着、オリエンテーション
16 ( 日 ) 講義『現代アメリカのソーシャルワーク』
講義『自己を知る』
見学『セント・フランシス・ホスピス』
22 ( 土 ) 講義『プレゼンテーション・スキル・ビルディング』
17 ( 月 ) プレゼンテーション方法の説明
23 ( 日 ) 自由時間、自習
18 ( 火 ) 講義『ハワイと日本の高齢者福祉』
24 ( 月 ) 講義『災害時のメンタルヘルス』
講義『障がいをもつ人』
19 ( 水 ) 見学『クラナマラマ小児施設』
実習『マラナ・アイナ(タロイモ体験学習)』
20 ( 木 ) 見学『ファミリープロミス(ホームレス支援)』
7
21 ( 金 ) 講義『ホスピスケアと死別体験のサポート』
見学『アメリカ赤十字社』
25 ( 火 ) 見学『女性コミュニティー更生センター』
見学『TJマホーニー(社会復帰の中間施設 )』
26 ( 水 ) 見学『コミュニティーズ・イン・スクール(地域支援)
』
見学『パシフィック・ゲートウェイ・センター(移民)』
27 ( 木 ) プレゼンテーション発表、セミナーの振り返り・評価
見学『ヒューマン ・ サービス協会(ホームレス施設)』
28 ( 金 ) 修了式
参加者の声
ソーシャルワーカーの社会的認知を実感
はなくら ゆ う り
花倉 由莉 氏
愛知教育大学教育学部現代学芸課程臨床福祉心理コース 4 年時に参加
今回のセミナーは私に 3 つの事を教えてくれま
ルワーカーが、被災者の精神的トラウマケアを行う
した。
「自己覚知」
の必要性、
災害時におけるワーカー
だけではなく、その他の専門職者のリーダーシップ
の役割、そしてソーシャルワークの専門性です。
をとって支援にあたることを伺い感銘をうけました。
「自己を知る」という講義から自己覚知の必要性を
そして、セミナー全体を通して感じたのが、ソーシャ
学びました。ワーカーは多くの場面で他者を理解する
ルワーカーがいかに専門職として認められているかで
ことが求められます。単に、その人の表層を見て問題
す。日本では、
「誰でもできる仕事」というイメージ
を決めつけるのではなく、その人の性格や生い立ち、
が未だ残っているのが現状ですが、ハワイでは、ワー
住んでいる環境、社会関係などを考慮してアセスメン
カーがあらゆる場面で指揮を執り、その専門性に誇り
トしていきます。多文化社会では、相談者の価値観や
をもって働かれています。先生方や、現職のワーカー
文化的背景を十分に理解することも必要であり、その
の方々から発せられる言葉の全てが、私にソーシャル
第一ステップがまず、自分の文化や価値観を理解し、
ワークの素晴らしさを感じさせて下さいました。
他者と共有することだと教えて頂きました。
このセミナーで得た学びを、今後の学習に十分
また、アメリカ赤十字社を訪問した際、ソーシャ
に役立てていきたいです。
ハワイからセミナーの学びを紹介
参加者の考えの広がりを感じます
おかだ みつはる
岡田 ヴィンス 光晴 氏
ハワイ大学カピオラニ コミュニティカレッジ ホンダ インターナショナル センター
メンター *1 としてセミナー参加者の学習面をフォローする
私は、ハワイ大学博士課程に所属していた 2009
セミナー期間中、常に論理的に物事を考えるよ
年から、このセミナーのメンターとして参加させ
う講義を受けているということで、数週間という
ていただいております。ハワイは、アメリカとい
短い期間の中でも、参加されている皆さんの考え
う国でありながらも、人種や文化的にとても多様
方の広がりを感じることがよくあります。日本や
であるため、セミナー参加の皆さんにとっては普
韓国、フィリピンからの参加者の皆さんの知識と
段できない発見や感じることが多くあると思いま
経験も聞かせていただくことが出来ますし、ソー
す。ハワイという場所柄、人とのつながりやその
シャルワークというフィールドへの期待や立ち向
温かさを感じてもらうことは、セミナーのテーマ
かっていかないといけない課題や挑戦を共有して
でもある「アロハスピリッツ」探求の助けになっ
もらうことで、私たちメンターにとってもたくさ
ているのではないでしょうか。メンターセッショ
んの学びとなっています。同じフィールドで将来
ンで皆さんとお話をするなかで、ハワイに住んで
羽ばたいていこうと活気のある皆さんと時間を過
いる私たちにとって当たり前だと思っていたこと
ごせることが、とてもいい刺激になっています。
が、新たな発見とつながることもあります。
8
*1 メンター:ソーシャルワークを専門とするハワイ大学大学院生
及び卒業生の日本人で、参加者の学習をサポートするスタッフ
ボランティア
心のケア ・ フォーラム
東日本大震災被災地(盛岡市・仙台市)でフォーラム開催
日米の専門家によるパネルフォーラム
仙台市でのフォーラム
会場(アイーナいわて県民情報交流センター)
「仙台市福祉プラザ」を会場に開催
盛岡市でのフォーラム
心のケアをテーマに講演と質疑応答が行われた
ユニベール財団は 2007 年から毎年、全国の心のケアに取り組むボランティアを対象に、米国ミシガン
大学医療センター附属ターナークリニックで一週間の「ボランティア・ミシガン研修」を開催しています。
2013 年は、一昨年(2011 年)と同様に、ミシガンから講師を招請し、過去の研修参加者の所属団体と共
催して日本国内で代替の企画を実施。東日本大震災被災地(盛岡市・ 仙台市)で「震災から 3 年目~支
援者も共に心のケアを~」をテーマに、心のケアを考えるフォーラムを開催しました。
●日 程:① 2013 年 8 月 1 日(木)*盛岡市
●後 援:①盛岡市、釜石市、大船渡市、遠野市、
宮古市、久慈市、葛巻町、
岩手県精神保健福祉センター
●テーマ:震災から 3 年目~支援者も共に心のケアを~
②宮城県、仙台市、名取市、岩沼市、
●会 場:①アイーナいわて県民情報交流センター
(福)宮城県社会福祉協議会、
②仙台市福祉プラザ ふれあいホール
(福)仙台市社会福祉協議会、
●共 催:①ボランティア・団体活動ネットワーク
(福)名取市社会福祉協議会、
『さん・Sun ねっと』
(福)岩沼市社会福祉協議会、宮城県医師会、
②仙台傾聴の会
仙台市医師会、
(公財)宮城県国際化協会、
●講 師:ルース・キャンベル 氏(ミシガン大学附属
(公財)仙台国際交流協会、
ターナークリニック元ソーシャルワーク部長)
NPO 法人せんだい・みやぎ NPO センター、
フォーク阿部まり子 氏(ミシガン大学
ヘルスシステム臨床ソーシャルワーカー)
NHK 仙台放送局、TBC 東北放送、仙台放送、
宮本 典子 氏(慶成会老年学研究所所長
ミヤギテレビ、KHB 東日本放送、河北新報社、
臨床心理士)
毎日新聞仙台支局、読売新聞東北総局
② 2013 年 8 月 3 日(土)*仙台市
9
講演(抜粋)
アメリカのピア・ボランティアに学ぶ
自立支援につながる「傾聴」
ルース・キャンベル 氏
ミシガン大学ターナークリニックでのピア・ボラ
で、私には非常に強力な絆ができあがっていると
ンティア活動
いうことが分かりました。
私がターナークリニックに勤め始めたのは 1978
年のことでした。その前年に研究のために来日して、
私は、ボランティアは専門家であると考えます。
日本の高齢者、高齢者サービスについて勉強し、全
災害直後のボランティアの役割は心のケアです。
国でインタビューを行いました。印象深かったのは
そのためにしっかりと傾聴していく、話を聴いて
多くのボランティアが活動していたことでした。そ
いく。けれどもその時に、相手の話を強制的に引
して地域で活動している民生委員にもたくさんお会
き出すのではありません。じっと耳を傾けて相手
いしました。地域で困っている世帯に対して支援を
のニーズを評価、アセスメントしていきます。そ
おこない、必要なサービスにつなげ、忍耐強くそれ
して基本的なニーズが充足されているかを確認し
ら家族の方々を傾聴していました。多くの民生委員
て、充足されるようにしていきます。被災者は大
自身が高齢者でした。この民生委員の活動が一つの
きな苦痛を抱えていますので、それ以上傷つくこ
アイデアとなって、ミシガンでピア・ボランティア
とが無いように、その人たちを守っていくのが役
のグループをつくることにつながりました。ピアと
割になります。
いう言葉は、
同じような年齢、
立場、
能力をもった人々
特に重要になるのが、被災者の必要なもの、足
であると定義されています。たとえば、
高校生もピア・
りないものについて配慮し、それを把握していく
ボランティアになれます。同じ高校生の中で、例え
ことです。それは決してボランティアのペースで
ば飲酒の問題を抱えている、いじめをはじめとした
はなく、相手のペースで把握していくことが重要
友だち関係の問題を抱えている他の高校生に対して
です。あるボランティアの経験で、避難所のリー
援助をしていく、これもまたピア・ボランティアです。
ダーから「あなた達は助けにきてくれているのか
もしれないけれども、あなた達がもう問題を起こ
災害時の心のケア・ボランティアについて
しているのだ」と言われました。けれども、その
まず共感することが大切です。被災者の個別の経
ボランティアは活動を継続して、最終的には避難
験に気づき配慮すること。被災者には個別の災害の
所のリーダーから「ありがとう」と言われたそう
体験がありますので、理解しようと努力しているこ
です。その時にそこにいた人はみんな泣いたと言
とを伝える、それを表していくことが必要です。個
います。
別の事例は、皆さんがご経験されている様々な要素
が入ってまいりますので複雑になります。
被災者は人の援助を受けることが難しいことがある
2011 年に宮城県で傾聴ボランティアの活動、高
アメリカのソーシャルワーカーでウェンディ・
齢者施設、そして地域のコミュニティセンターで
ラスベイダーという方は、
「人間というのは人の援
行われている傾聴ボランティアの活動を拝見しま
助を受けることが難しい」と言っています。彼女
した。そこで、ボランティアと相手の方々との触
はある人の話を引用しています。
れ合いを見て感動しました。多くのボランティア
車椅子を利用する高齢の女性です。自分のヘル
もまた東日本大震災で喪失を経験されていますの
パーが掃除機をかけてくれるのですが、椅子の下
10
はかけないで、椅子の前だけかけていました。彼女
も、きわめて重要です。もちろん長期の精神保健、
はびっくりしましたが、そのヘルパーに何も言え
カウンセリングも利用できるような状況でなけれ
なかったそうです。ヘルパーの世話が必要だった
ばなりません。命の電話、自殺予防のホットライ
ので、椅子の下まで掃除をしてほしいと、言うこ
ンの責任者は「亡くなった人たちと一緒に自分も
とができなかったのです。これを一つの例として、
流されてしまえばよかった」という電話が多いと
ボランティアの方に理解していただきたいのは、援
言っています。
助を受けることが難しい人もいるということです。
私たち専門家、そしてボランティアとしてはこ
ですから相手の価値観を重視してほしいのです。
ういった方々がケアを受けられるようにする、ど
ういったレベルでもいい、必要な段階でケアを受
石巻市の避難所にいらしたある日本のボラン
けられるようにするということが重要です。
ティアが、次のような記述をされています。「避難
活動グループのリーダーは、ボランティア、ソー
所で若い人にも高齢の人にも、共通することは『自
シャルワーカー、その他の専門スタッフが混合し
立しなければ』ということを言っていることだ」
。
た形でグループリーダーを務めていく、それが非
あるボランティアはちょうど子どもが倒れたので、
常に有効であることが分かっています。大地震、
その子を起こそうと思って手を出したのだけれど
津波で被災した地域からリーダーが出てきて、そ
も、
「その子に触らないで。その子は自分で起きる
の人たちが周囲のサポートグループを形成する推
ことができるのだから」と言われたそうです。こ
進力になっていると、私は確信しています。
れも一つの例ですが、傾聴の中に含まれる重要な
ことは、相手が何を話しているのか、しっかりと
高齢者の経験やスキルは地域のなかでの資源
注意していくことです。被災者が話していること、
高齢者皆が脆弱なわけではありませんが、共通
思っていることは、ボランティアが考えているこ
しているのは特別な問題があるということです。
とと違うかもしれません。しかし相手が何を話し
大阪大学の大谷順子先生が次のようなことを書い
ているのかを聴いていくことが重要になります。
ています。これは阪神淡路大震災の被災者のこと
ですけれども、高齢者で高層ビルに移り住んだ人
支援が必要な方を専門家につなげる
たちの方が、低層ビルの人たちよりも死亡率が高
震災当初のショックがなくなると、多くの喪失
く、また孤独率も高いということが分かっている
の影響で押しつぶされそうになっていきます。こ
ということです。
ういった状況では人々は希望を放棄してしまう恐
神戸ではユニベールボランティアのようなグ
れがあります。睡眠障害、不安、恐怖、食欲不振
ループが、たとえば定期的にお茶会を開いたり、
などの症状も出てきます。ですから、精神保健の
様々な活動をされて、その結果、人々とのつなが
専門家に、必要な人々をつなげていくという役割
り、また孤独感の回復ということをすすめられて
いると思います。
アメリカでの一つの例ですが、アメリカの住宅
では一つの階に一人の担当者を決めておき、毎日
その階にある高齢者住居者宅のドアをたたくとい
うことをします。元気かどうかの確認をするため
です。ここで申し上げたいのは、すべての高齢者
が、援助が必要なわけではありません。他者にた
いして支援ができる方々もいます。地域のなかで
建設的な資源になれる高齢者もいます。高齢の経
験やスキルは、他の方々の支援において重要にな
泥撤去のボランティアをするキャンベル氏ら(宮城県・石巻市)
11
ると思います。
まとめ
ています。苦労している方々に対して希望をもた
ボランティアによる傾聴活動、配食、お薬を配っ
らしていると思っています。日本中のみなさんが
たりする支援活動に心より感謝しています。私は
日本のボランティア精神を評価し、その繁栄を讃
日本のボランティアの将来は非常に明るいと思っ
えていただきたいと思います。
講演(抜粋)
ボランティアのセルフケアとしての
「マインドフルネス」
あ べ
フォーク 阿部まり子 氏
マインドフルネスとは「今この瞬間」に気づくこと
すので、そこから逃げるのではなく逆にそれに直
西洋のヘルスケアに導入されてまだ 30 年来で
面することです。リラックスするのが目的でもな
すが、最近はさまざまな科学的研究で、その効果
い。もともと仏教から伝わったといっても、仏教
が実証されてきています。実はこれは新しいアプ
や特定の宗教を信じる必要もない。何かをする方
ローチや考えでもなく、その根源は 2500 年前の仏
法ではなくて、自分の在り方、生き方、自分の体
教思想にあります。今この瞬間の体験に気づくこ
験への関わり方です。快適であれ、不快な体験で
と。どうやって気づくかと言いますと、
心を傾けて、
あれ、それに関係なく心の扉を開くもの。とって
批判することなく、優しさと受容の気持ちで、今、
も難しいので練習をする必要があります。
この瞬間の私の体験に気づくということです。今
子どもは好奇心一杯で、物事を見ています。大
この瞬間の体験とは、内的には、考え、思考、気
人になると先入観で忘れがちですけど、好奇心を
持ちが湧いたり、身体の感覚です。外的には、五
持って初心に戻って心の扉を開くということで
感を使って外から中に入ってくるもの、例えば私
す。普通、私たちは、自分の望まない体験をした
が今、目を通して映るもの、耳を通して紙をめくっ
場合は、それを変えたい、直したい、相手にもっ
ている音が聞こえ、クーラーの冷気が肌触りで感
とこうしてほしいとか、そういうニーズがありま
じます。食べているものの味覚等の五感を通して、
す。そういうニーズや傾向から自分を解放して、
体験すること。それら全て含めて、今この瞬間の
批判しないで受け入れるという関わり方がマイン
体験に気づく。先入観を持たず、心を傾けて批判
ドフルネスです。
することなく受容の気持ちで、気づくことです。
辛い気持ちにどうかかわるのか
マインドフルネスの誤った理解
例えば、私が何か失敗をして「私はだめな人間
マインドフルネスという言葉はお釈迦様が使わ
だ」と思うとします。普通の傾向としては、その
れていたパーリー語の「サティ」
(漢語:念、日本
考えをあたかも事実のように信じて、私はどうせ
語:気づき)の訳です。マインドフルネスは、
「気
ダメな人間なのだから、大事にされる価値もない
づく」ことですので頭を空っぽにする必要はあり
と思って、自分自身を粗末に扱ってしまうことが
ません。雑念が入ったらそれにも気づいたら良い
多々あります。
のです。ただじっと座っていたら良いということ
マインドフルネスのアプローチでは「私は役立
でもない。辛い気持ちや辛い考えからの逃避でも
たず、いつも失敗ばかり」という気持ちに気づか
ないです。逆に辛い気持ちや考えに気づく練習で
ないといけません。気づかないと無意識に感情に
12
反応してしまうので、まず「これは、頭の中で湧い
とができるようになります。
た考えだ」と気づくわけです。
「こんな気持ちを抱
困難な体験を受け止める器が深くなります。例え
いているのは辛いだろうな」と、辛い気持ちにも気
ば、①ひとさじの塩を小さいコップの水に入れて飲
づきます。そして、少しでも楽にしてあげたい「私
むと、
からくて飲めない。②それをもっと大きなコッ
にできることはなんでしょう」とセルフケアに向か
プの水に入れたら、同じ塩の分量ですけど、塩から
うのです。例えば「私は役立たず、いつも失敗ばか
さがずっと減ります。③同じ塩を池にいれたら、塩
り」という辛い気持ちの中にどっぷりつかってしま
気を感じられません。これは比喩ですけども、マイ
うと、他が見えない。その辛い思考に気づくと、一
ンドフルネスの実践はこの大きな器に例えることが
歩その感情から離れることができ、周りのことにも
できます。辛い出来事(塩)がまだあるわけです。
気づきます。例えば「そうだ、いつも失敗ばかりし
それを砂糖に変えようとしているのではありませ
ているわけではなかった。あの時は失敗をしなかっ
ん。マインドフルネスの練習、実践によって、私た
た」と、そして、まるで滝が流れるような強烈な感
ちの受容の器がより大きくなります。
情のときにも、その思考に気づくと、比喩ですが、
滝に流されてしまうのではなく、滝の一歩後ろから
どのようにマインドフルネスを養うか
それを見ることができるようになるわけです。
フォーマルな練習方法は色々な瞑想法がありま
す。インフォーマルな方法は、日々無意識に受動的
マインドフルネスの効用
にしている活動への気づきを促す練習です。
不安とかフラストレーション、怒り、悲しみなど
「マインドフルネスストレス低減法」というマニュ
の気持ちに耐える力が増えます。私たちそれぞれ人
アル化された 8 週間(一週間一回 2 時間)の養成講
生の体験も違うので、辛いことや困難への反応もそ
座があります。当初は疼痛への効果がある対処法と
れぞれ違います。例えば、何か嫌なことがあったと
して用いられましたが、今では色々なストレスの低
きに自分を責めて落ち込む人もいれば、他を責める
減法に使われています。
「マインドフルネス認知療
人、物を食べたり、お酒を飲んで忘れようとする人
法」
は、
これを応用した 8 週間
(一週間一回 2 時間半)
もいます。私たちみんな、自分の習慣、癖がありま
のグループ療法で、私はミシガン大学付属ターナー
す。必ずしも意識して行っているわけではないので、
クリニックで実践しています。これはうつ病、不安
そのような反応に気づくと「これは私の反応なんだ。
の方などを対象としたもので、再発予防に効果をあ
でもこのように反応する必要もない。ほかにも対応
げています。
の仕方がある」と選択肢が見えてきます。習慣的・
自動的、無意識的にやってしまう反応の度合いが減
日常のインフォーマルな練習
るということです。
五感を使って批判することなく、普段、無意識
辛い思いをしている人、自分も他人にも、より思
に受動的にやっているようなことに注意を傾けて
いやりを持って接することができるようになり、批
みる。先ほどは、実際に干しブドウを食べてみま
判が減ります。そして、生活・人生の中のほんのわ
した。ふつう何か考えながら食べたり、新聞を読
ずかな良さにも気づき、それを味わう容量がより大
みながら、しゃべりながら食べているので、味覚
きくなっていきます。例えば、道端の野の花に気
にそれほど気づいていない場合もあるかもしれま
づき「きれいだ」とか「今日は良い風だ」
「あの方
せん。シャワーや歯磨きも、この後何しようかと
のちょっとした親切が嬉しい」など、悩んでいると
かいって、あまりシャワーや歯ブラシ自体の感覚
きには気づけなかったようなことが一杯周りに散ら
に気づいていないのです。私も今朝シャワーを浴
ばっているのが見えてきます。
びましたが、今日どんなことしゃべろうかなと考
また、初心に帰って新鮮な目で喜び、驚嘆をもっ
えている自分に気づいて、その後、お湯の皮膚に
て物事をみる能力が養われます。自然に感謝の気持
あたる感覚だとか、シャンプーの匂いだとか、そ
ちも前よりも深まっていく。幸福な気持ちも増える
ういうのに気づく練習をしてみました。
ということです。より広い視野から、物事を見るこ
忙しくて練習する時間がないとおっしゃる方も
13
います。そんな時、私は「ここから駐車場の自分
の車まで歩く、その間だけでもいいから、歩いて
いる体験、足を踏んでる感覚、地面に当たって、
足が地面から離れて、そして呼吸をしている、そ
れらに気づいて自分の車まで歩いていかれたら、
十分良い練習になりますよ」と申し上げています。
お皿洗いでも、いっぱい皿を洗って嫌だと思いな
がら、皿洗いをする代わりに、皿の感触、皿とス
ポンジ、泡の感じとかに気づいて、一度お皿洗い
マインドフルネスでの気づきのフォーマルな練習
をしてみてください。
日常マインドフルネス練習の際のヒント
まず、可能な限り一時に一つのことをする。二つ
目に、していることに全力を注ぐ。三つ目は、注意
がそれたら戻す。脳のトレーニングのような感じで
す。注意がそれること自体は悪くないです。誰でも
注意がそれます。それに気づいて戻すというのが良
い練習になります。そして四つ目に、注意を戻すこ
とを必要なだけ何万回でも繰り返す。五番目に、同
じところに何回も注意がそれたら、今度はそれた方
に注意を向けて、批判することなく先入観なく、こ
れは何かしらって調べてみることも良いことです。
マインドフルネスの実践のために役に立つ 7 本の柱
一つ目は「批判しない」
。二つ目は「忍耐」
。我慢
の忍耐ではなく、物事にかかる必要な時間を与える
ということです。例えば、なかなか相手が自分の思
うように変わってくれない、でもその方に必要な時
間をお与えしますというのが忍耐です。その忍耐と
ローチをしているわけですけども、感情に関しては
この方法ではなかなかうまくいかない。落ち込んで
いるからもっと明るくなるように頑張りましょうと
いっても、明るくなるとは限らないわけです。目標
に突進するのではなくて、マインドフルネスの練習
は、がむしゃらに努力するのをやめて、今この瞬間
の体験を大切にするということ。だから問題解決思
考とは根本的に異なります。そして「ありのままを
受け入れる」
。気づくというのは何も素晴らしいこ
とばかりに気づくのではなく、自分の未熟な部分に
も気づく。気づいたときに批判することなく、受け
入れることです。
「解き放つ」のは、自分がもっと
こうありたい、こうあるべきだという考えが私たち
の中にはあるわけですけど、そういうものから解き
放してありのままを受け入れましょうという姿勢で
す。これらの姿勢がマインドフルネスの実践、練習
をするときに非常に役に立ちます。
いうのは自分に対してもです。
「なんで自分は分か
セルフケアのニーズに気づく
らない、できないのだろう」ではなくて、やはり自
自分を批判するとき、自己の安定への脅しになり
分も時間がかかります。それにかかる必要な時間を
ますので、ストレスホルモンが分泌されます。それ
かけてあげるのが忍耐です。そして、
三つ目には「初
により防衛体制をとり心が閉ざされてしまいます。
心に戻る」こと、あたかもはじめて見るように見て
マインドフルネスというのは、批判しないで、自
みることで色々気づきが豊かになります。四つ目の
分の辛さとか焦り、憤り、悲しさ、無力さに気づく
「信頼」はとても難しい。自分への信頼です。自分
わけです。
「同じ状況で、あの人はこんなに冷静で
の中に潜在している力、能力を信じることです。自
いるのに、なぜ私は」と他人と比較しないことです。
分には見えていない力かもしれないですけど、誰に
自分の至らない点も含めて現状を優しくみつめま
もあります。それを信頼する。自分の中に静かに横
す。人間は完璧ではありませんので、謙虚さも大切
たわっている力を信頼するというのはこのマインド
です。そして、自分にできることを問うわけです。
フルネスの練習のためにとても役に立ちます。
「目
辛い自分に気づいて、それを引き上げて自分のケ
標思考をやめる」というのは、学校でも職場でも問
アをするとき、オキシトシンという癒しのホルモン
題があると普通は問題解決するほうに向かってアプ
が分泌されます。マインドフルネスの土壌をふまえ
14
て、セルフケアのニーズに気づいていきます。自分
ンスをもう一回振り返ってみること。自分にある
に無理のない言動設定や、休息と再生、完璧でない
程度距離、空間を置くと、辛いことでも笑えたり
自分を温かく受け入れます。自分の価値あるものに
しますよね。非常にユーモアは大切です。
時間を注いでいるかどうか、もう一回見直してみる
こと。そして、自分らしさを生かせる仕事と遊びの
開拓をします。なぜこのボランティア(または仕事)
をしたいのか、自分のモチベーションをもう一回振
り返り、理解しようとするのも役に立つと思います。
それから健康づくりです。睡眠と食事と運動のバラ
「心の安らぎは、嵐から逃れることではなく
嵐の中で見つける穏やかさ」
「心の安らぎは、嵐からの避難所ではなく
雨の中でダンスするのを学ぶこと」
講演(抜粋)
孤立する人々の心に寄り添うには
~震災 3 年目の心の変化「うつ・自殺」~
みやもと の り こ
宮本 典子 氏
震災から 3 年目の課題
のにこんな違いがあるのだろう」と心を痛めてい
仮設住宅や新しい住宅地などが整備され、そこに
らっしゃる方もいると伺います。このように震災 3
入居、移転することによって、今まで住んでいた土
年目だからこそ気をつけていかなければいけない
地を離れて暮らす、新しい環境に馴染まなければい
心の変化があると思います。
けない方も多くいると思います。性格や年齢、身体
全ての人が心に問題を抱えているわけではあり
の状況によってはうまく新しい環境になじめない方
ません。被災の直後に感じている苦しみや不安は
もいて、住み慣れた地域を離れることによる孤独感
自然の感情であることが多く、ほとんどの人はそ
が出てくる問題があります。被災して家や家族、友
の状態から数ヶ月かけて自力で立ち直ると言われ
人を亡くされた方の悲しみが簡単に癒えないのは当
ています。多くの方は自分の力や周りのサポート
然ですが、少しずつでも癒されるどころか、悲嘆感
で、徐々に健康を取り戻していくけれど、一部の
が徐々に強まっていく方もいます。
住民は PTSD(心的外傷後ストレス障害)をはじ
家族を亡くし、一人で仮設住宅に住んでいて、最
めとする心理的な不調が長引く場合があります。
初は寂しさを癒すためにアルコールを飲んでいたの
多くの人は①自己回復群といって、個人の潜在
が、それをいさめる方が近くにいないので、自分で
能力やリソースを利用して回復していくことがで
も気がつかないうちにアルコール依存になっている
きます。②不安定群という、その後何も起こらな
ケースが増えているようです。震災直後はみんなが
ければ回復していくけども、その後また安全が脅
力を合わせて災害に乗り越えようという同じ立場
かされたり、心理的な混乱が生じることが起こっ
だったのが、時間が経つにつれて災害の及んだ地域
た場合に、PTSD を発症するリスクが高くなると
とそうでない地域、被災された方とそうでない方の
いわれています。③アルコール依存症やうつ病、
差がではじめる。家も財産も家族も亡くされた方の
不安障害などの病的な症状や PTSD が慢性化する
道を隔てた隣では、いつものように洗濯物をほして
高いリスクを抱えているという高リスク群には早
犬の散歩をしている方がいて「なんでこんな近くな
急に専門的な医療機関へつなげる必要があります。
15
PTSD 以外の様々な心の問題
せんが、いくつか該当するようだったら、心配しな
PTSD 以外にもさまざまな心の問題があります。
がらその方の様子を見るというのが大事です。
慢性的な集中力の低下、仕事や勉強をしていても
頭に入らない、記憶力が悪くなる。震災後、学校
協力体制を組む
に行けなくなったり、仕事がしにくくなる社会的
一人だけで関わらないようにする。まずは支援
な不適応。アルコール依存の増加。不定愁訴という、
している方の家族や友人、近所づきあいなど、普
頭が痛い、胃腸の調子が悪い、肩こりがとれない
段からの対人交流について様子を把握していれば
など、なんとなく身体の調子が悪いことが続く。
「ちょっと様子が変なので、一緒に気をつけてみて
調べても特に身体的には問題がないけども、そう
いてほしい」と協力を仰ぐことができます。とにか
いった状態が続くことがあります。
く一人で抱え込んだりしないようにする。ボラン
ティアの仲間がいれば支えあいながら、一緒に関
自殺を防ぐために大切なこと
わってもらう。その方の家族、友人を含めて協力を
普段からの何気ない、さりげないコミュニケー
しながら関わっていくことが大事だと思います。そ
ションが重要だと考えます。世間話や思い出話、気
して、医療機関と連携を取る。何か心配だなと思っ
軽に話ができる関係や場所が大事ではないでしょう
たらすぐに専門的な医療機関と連携を取りながら、
か。普段からのコミュニケーションがあれば、様子
関わっていくことが大事です。
が変だなと、気づくこともできますし、支援される
側も調子が悪いということを気軽に話されるのでは
うつ病の人に対してどのようにかかわるか
ないかと思います。
①よく話を聞く。相手がうつ病だということがわ
心の支援というと、どうしても相手は弱ってい
かっていたら、大きな決断をしないように助言をす
る、問題を抱えていると考えがちですが、その方の
る。②傾聴というのは相手に意見や助言をしないと
持っている力、知恵、経験をこちらが気づいて、そ
基本的に言われていますが、その方が離婚すると
のことを相手に伝えられる関係であると良いと思い
か、仕事をやめるということを打診された場合は
ます。困っているときは自分自身の持っている力に
「ちょっとこの時期は待ったほうが良い」
「あまりこ
なかなか気づけないものです。外から見ている、普
の時期、この病気のときに大きな決断はしないよう
段からコミュニケーションを取っている人から「あ
に」というような助言は必要だと思います。③うつ
なたにはこういう良いところがある」と言ってもら
病ということがわかったらまずは専門家につなげて
うと、自分の持っている力が気づけます。心の支援
治療につなげるということも大事です。
は弱っているところや問題にフォーカスするだけで
なく、その方の持っている力にフォーカスすること
うつ病の人に対してしてはいけないこと
も非常に重要なポイントです。
①相手の発言を否定するようなこと、例えば、
最近元気がないんですと言われたら、
「そんなこと
うつ病を見逃さない
ないですよ、元気にみえます」と言って、相手が
支援する立場でお話しに行く相手の様子が変だな
元気がないと言っているのに勇気づけるかのよう
と心配するときのうつ病のチェックポイントです。
に、相手の発言を否定したり、②頑張らせる。
「み
①最近友人や知人との付き合いが少なく、一人で
んなもがんばっているじゃないですか。だからあ
いることが多い。②テレビや新聞をみなくなってい
なたも一緒にがんばりましょう」と、無理にがん
る。③自分を責めたり、自信がなさそうな話しぶり
ばらせるような発言もしてはいけないことだと思
や態度をしたり、あるいは暗い内容の話をしたりす
います。③孤立させる。自分が困っている、悩ん
る。④仕事や家事がうまくいっていない。⑤時々感
でいるということを話した時に、それをきちんと
情的になっている、⑥表情がうつろ、⑦話の内容が
受け止めてもらえなかったり聞いてもらえなかっ
混乱している。これは、いくつ該当しているからい
たりすれば、誰に言ってもしょうがないと、気持
けないとか、1 つなら大丈夫というものではありま
ちは孤立していってしまうと思います。その方の
16
心に寄り添うことが大事だと思います。④死にた
家族が一緒に住んでいるかどうか、衝動的に何かし
い気持ちを軽視する。うつ病になって死にたいと
ようとしたときに止める人が傍にいるかどうか、自
いう気持ちが出てきて、そのことを打ち明けられ
殺の危険の程度をきちんとサポート側は把握してい
たときに、そのことを軽く考えずに、無視したり
ることが大事です。そして、⑥死にたいと言う人が
軽く受け流したりしないで、きちんとその気持ち
いたら、まずは専門家と連携をとることです。
を受け止めて伺っていくことが大事だと思います。
死にたいという人に対して、してはいけないこと
死にたいという人に、どのようにかかわるか
①その状況を無視する。
「死にたい」と言われて、
「死にたい」と言われたときに、こう答えれば大丈
それを無視する人はいないだろうと皆さん思うの
夫ですという正解はありません。①まずは冷静な態
ですが、あまりに自分が抱えきれないことを言われ
度を保つ。こちらがそのことを聞いて動揺してパニッ
ると、なかったこと、聞かなかったことにしてしま
クになってしまってはいけないと思います。②その
う否認という心の反応が人には時折あります。②パ
方の死にたい気持ちをしっかりと受け止める。どう
ニックになったり。③本人が死にたいくらい問題を
してそう思うんですかって伺うと、死にたいという
抱えているというのに、こちらで「大丈夫、そんな
言葉の裏側に寂しい、辛い、日常生活の不満、家族
に大した問題ではない」という返しをしてしまう。
関係の問題など心に抱えている問題が、聞くことに
④何も根拠がないのに、きっとよくなるから大丈夫
よって出てくる。それが誰にも聞いてもらえないと、
と間違った保障を与えるということも問題です。⑤
死にたいというショッキングな言葉になってしまう。
「死にたいと思っていることをあなたにしか言わな
きちんと丁寧にそれに向き合って誰かに聞いてもら
いから、
秘密にしてください」と言われたときに「秘
うと、裏側にあるその方の日常生活の不安や不満に
密にする」と約束してはいけないと思います。守秘
ついて語ることができるのではないかと思います。
義務は、カウンセリングをするときの大事な原則で
③相手の置かれた状況を真剣に受け止める。相手が
すけども、自傷他害のおそれが相手にある場合は、
何に困っているかという現実をきちんと聴くことが
守秘義務を破ってもよいと言われています。
「秘密
大事だと思います。④飲酒や薬への注意。どれぐら
にする」と言って一人で抱えるのは大変危険なこと
いお酒を飲んでいて、一人暮らしで、お家の中にど
だと思います。⑥その人を一人にしてしまわないよ
れくらいお酒があるか、普段使用する薬、それがど
うにする。自殺の危険がある場合は、なるべく誰か
ういう風に関与しているか、注意も必要です。⑤死
がその人の傍にいる、ずっと傍にいることができな
にたいと言っているけども、自殺の危険の程度はど
くても、町の人や友人や、時折そのお家を訪ねたり、
れくらいか、客観的に判断するのは難しいですが、
一人の時間が長くならないように気をつけていく
例えば自殺未遂の経験はその方にあるのかどうか、
ことが大事だと思います。
ボランティア自身のケア
・自己管理と活動のペースの調整
・自分の限界を認識する
人に任せる、できないという、一日にあまり
に多くの被災者と会わない
・仲間や家族、友人と連絡を取る
・一人で活動しない
・気分転換を定期的に行う
リラクセーション、身体的ケア、趣味活動
・すべてを変えることはできないことを受け入れる
17
講演には心のケアに取り組むボランティア等が参加(盛岡市)
質疑応答(抜粋)
死にたいという人に対して、つい言ってしまうこと
―死にたいという人、死をほのめかす人に対し
みんなで頭寄せ合って、どんなことが必要かを話
し合うことで、道が開けるかもしれません。
て、どのような関わりが大切かというお話を伺い、
私たちも死をほのめかす人に接したり、耳にしま
キャンベル氏:私が常にしていることは単純なこと
すと、つい「そんなこと言ってはだめよ」「いや
ですが、
頭の中で 10 数えます。10 数えることによっ
いやあなたは大丈夫」「今までここまで頑張って
て、そこで頭の中で自分の気持ちを落ち着ける。衝
きたのだから頑張れるよ」とか、受け止めがたく
動にまかせてぱっと行動をおこすことを避けられ
なって、ついそういうことを言ってしまう自分が
ます。例えば、92 歳の女性で会う度に「死にたい」
います。
と言う方がいました。その時にいろいろやってみて
うまくいった唯一の方法は「死にたい」と言われた
宮本氏:私も、すべきことやしてはいけないこと
ときに、私は手を取りゆっくり「わかっているわ、
が全てきちんとできている訳ではありませんし、
わかっているわ」とただ繰り返すだけなんです。92
皆さまと同じように相手がシリアスなことをおっ
歳の女性はだんだん気持ちが落ち着いていきまし
しゃったり、自殺をほのめかしたりすると動揺し
た。その時に例えば、反論するとか「そんなのいけ
たり、不安だったりします。ただ、大事なことは
ないわ」とか、そう言うと、状況がどんどん悪くなっ
自分が今すごく不安になっているな、動揺してい
ていきます。その時の気持ちを落ち着けていく、単
るなということをきちんと把握しないで、その気
純なやり方ですけどもそのようにしていました。
持ちを無視して発言しないようにしています。シ
リアスな発言を聞いてまず自分の気持ちがどう動
いているのかということを見るように心がけてい
弱さを見せない元気な人が突然亡くなってしまう
ます。それにより、少し自分の心の中にスペース
― 仮設住宅のなかで他人の世話をしたり、活動
を開けられます。
している人が突然に亡くなられることも起きていま
す。人に弱さを見せてしまうと、自分がもたなくな
フォーク氏:私たちがいるターナークリニックは
るので、毅然とした態度で元気にふるまっている方
臨床ソーシャルワーカーが数名います。ピアスー
もいると思うんです。そこにボランティアがどうい
パービジョンという、同僚の間のスーパービジョ
う気づきをしなくてはいけないのか、教えていただ
ンがありますので、本当に辛いことだから自分一
きたい。電話で相談できる 24 時間ホットラインサー
人で抱え込まないこと。スーパーバイザーでも良
ビスもあるのですが、仮設住宅のベニヤ一枚だけの
いし、仲間の間でそういう場があれば、お互いに
壁の環境下では、隣の人の声が聞こえてしまい、深
支えあうこと、それでもしんどいかもしれないけ
刻な話はできない、電話をかけたくても、かけられ
ど、それでも一人で抱え込むよりはずっと良い。
ないというお話も聞いています。
18
宮本氏:ちょっとした変化に気づけるように、普
のかどうかと思って帰ったのですが、あまり昔話
段からさりげないコミュニケーションをとること
を出してもいけないのかなと思ったりしたのです
が大事ですが、今回は、普段からコミュニケーショ
が、何かそのあたりのことでありますか。
ンをとっていても、まったく変化に気づかない元
気に活躍して悩んでいる様子を見せない方が突然
宮本氏:きっとそれは、涙が出るほどうれしい時
亡くなられたということ。自分から「助けて」と
間だったのだと思います。悲しい涙ではなく、大
言うのが非常に難しい、潜在的にいろいろな不安
事なふるさとの話を誰かと分かち合えたというこ
を抱えていても「助けてほしい」と言えない方も
とはその方にとってとても大切な時間だったのだ
いらっしゃいます。そういう方はまわりが「あな
と思います。写真を手掛かりにお話しをするのは
た心配だから相談に行きなさい」と言ってもなか
よく回想法でも使われている方法ですし、特に記
なか行くことはないのでしょう。
憶の障害があってなかなか記憶を想起出来ない方
自分で見られるインフォメーション、公共の広
には写真を出したり、実物の子ども時代のお手玉
報誌をみたり、仮設の集会所に週に何回は必ず誰
を持っていってお話をするということがありま
かがいるとか、何かあったときにそこに行けば、
す。一つ気をつけなければいけないことは、思い
この人に会えばいい、そういうものがあると無い
出だけ語って終わりにしないで、施設でしたら「今
とでは違うと思います。心のサポートの相談口な
日の夕食なんでしょうね」とか、一度現実に引き
どはインターネットではたくさん検索できますが、
戻してからお別れをすると良いと思います。
はたして皆さんが目にしているのか、多くの高齢
者は自分からインターネットで調べることはされ
ない。行政がサポートの場をつくったり、インター
セルフケアのニーズに気づくことができました
ネットに公開しているなら、もう少し皆さんがア
―セルフケアのニーズに気づくところで、話を
クセスしやすいように、地域やいろいろなところ
聞いていて自分で涙が出てきました。自分に気が
で目のふれるところに掲示するといいと思います。
ついたというのがすごく良かったと思いました。
キャンベル氏:毎日電話をかけるといっても、い
フォーク氏:ボランティアとか援助職、私もそう
つも違う人だと話ができない、同じ人が毎日その
ですけど、他の人にばかり目がいって、自分のケ
人に電話をかけることができるかどうか。少し前
アっていうのはあまり上手じゃない。だからそう
にアメリカでよく行われていたボランティア活動
いうところに気がつけたというのは素晴らしいと
で、電話での安心を与える方法があります。
思います。
様々なことを予防したい、私たちも専門家とし
て理解していますし、最善を尽くしたいが、すべ
てのことを抑え込むことはなかなか難しいことも
頭に入れておいたほうがよいと思います。限界を
知るということも大事なことです。
過去のお話しをして涙を流す高齢者に対して
―私は施設でボランティアをしていて、80 歳位
のおばあさんと話しておりました。その方は山形
出身の方で、新聞にその方の家の近くの風景が載っ
ていて、話が弾んで懐かしがり喜んで新聞を懐に
しまい、涙を流されました。それ見て、良かった
19
ボランティア
ユニベールボランティア
高齢者に寄り添い心の声を聴き、自立を見守る
個人宅への友愛訪問
復興住宅に住む高齢者の安否確認を兼ねた友愛訪問
阪神・淡路大震災をきっかけにスタートしたユニベールボランティア神戸(兵庫県神戸市を拠点に兵庫・
大阪で活動)と 2000 年に結成のユニベールボランティア東京(東京都立川市を中心に活動)は、
シニア年代(高
齢者及びこれから高齢期を迎える方)のボランティアが、主に高齢者を対象に友愛訪問を行っています。
友愛訪問レポート
ー ボランティアと、訪問先の方(訪問開始から 3 年)のお話を紹介 ー
相手の想いをあるがままに
何でも気兼ねなくお話しできます
60 代の女性の訪問を開始して半年あまりになりま
実は 9 月の台風 18 号がきた日、冷房を点けて
す。3 人の息子さんがおられ次男との二人暮らしで
いたのに汗がびっしょりで変だなと…。台風が過
す。引っ越ししてきたばかりで近くに友人もなく、
ぎ、お昼には落ち着いたので、散らかった庭を掃
話し相手をということで訪問が始まりました。当初
いたりもしたのですが、翌日の夜になって脈拍が
は下を向き目を合わすこともなく「はい。はい。
」と
上がり苦しくなってしまいました。ご近所に迷惑
しか応えてくれませんでした。心配や悩み事があっ
と思い救急車を呼ぶのも我慢して、翌朝、病院に
ても息子さんと会話もなく寂しい思いをしておられ
行きましたら、そこで、医師ではない人に「あな
たようです。訪問を重ねていく中で私たちに雑誌で
たはお独りですか。淋しいでしょう。不安症、淋
読んだことや生活のことをゆっくり言葉を選びなが
しいと身体にでるんですよ。私もそうです」と話
ら話されるようになりました。テレビや料理、幼少
しかけられたんです。
時の話などですが、訪問の 1 時間があっという間に
こうして皆さんと話していると大丈夫なのに、
過ぎるようになりました。
独りで淋しい夜になると具合が悪くなることがあ
友愛訪問するにあたり、どうすれば心を開いてくだ
るんです。ですから友愛訪問は助かりますし、ボ
さるだろうとか、どんな言葉使いがよいのだろうかと
ランティアさんには本当に感謝しています。私は
考えましたが、2 回、3 回と訪問を重ねていく中に「自
怒るのが嫌いで、他人の嫌な噂にも言い訳しませ
然体で気負わず相手の想いをあるがままに受け入れて
ん。いつも楽しく過ごしたいと思ってきました。
いくこと」だと思え、その大事さを学んだような気が
皆さんは、ここだけの話でプライバシーも守っ
します。私たちと彼女はたわいのない事でよく笑いま
てくださるから、いらっしゃるのが楽しみで、何
す。笑いのある訪問が出来ること、彼女の笑い顔を見
でも気兼ねなくお話しできます。遠くから来て
られることが幸せです。相手に安心してもらえる自然
くださるボランティアさんには、ありがたく思っ
な寄り添い方が出来る訪問を心がけていきたいと思い
ています。これからもよろしくお願いします。
ました。
(ユニベールボランティア神戸 メンバー)
20
(立川市での友愛訪問先 S さん・70 歳代・女性)
助成
研究助成
健やかでこころ豊かな社会をめざして
2013 年 助成採択者一覧
※所属は助成決定時
① 社会保障制度・政策
『高齢者福祉の新たな所得保障に関する学際研究―自助・互
助・共助・公助の再編を目指して』
村上 慎司(公益財団法人医療科学研究所リサーチフェロー)
『自閉症者のディーセント・ワークの実現に向けた効果的な
就労支援モデルの開発に関する研究』
『小児科医のいない過疎地における乳幼児健診および予防接
種の実態把握』
江原 朗(広島国際大学医療経営学部教授)
『
「生きる場所」をめぐる公法学的・実証的研究』
今川 奈緒(茨城大学人文学部准教授)
松田 光一郎(中部学院大学大学院人間福祉学研究科博士課程)
『インドネシアの医療制度改革の動向と課題―日本の「経験」
からの示唆―』
『マタニティー政策の日英比較―バースセンターの調査を中
心に』
松岡 悦子(奈良女子大学研究院生活環境科学系教授)
安留 孝子(帝塚山大学心理学部准教授)
『在日外国人介護労働者と日本人スタッフにおける協働文
化の創出と異文化間ケアの実践』
畠中 香織(岡山大学大学院社会文化科学研究科博士後期課程)
『障害者就業・生活支援センターにおける聴覚障害者支援体制
の実証的検証』
岩山 誠(鹿児島大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)
『介護職員の虐待認識に基づいた「実践上の高齢者虐待定義の再
構築」に関する研究』
任 貞 美(同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程)
『Stable Pension of Informal Workers』
Pratan Thavorn(Pathum Thani Social Security Province,
Labour Social Security Specialist)
② 家族の絆
『産後うつ病の発症脆弱性とレジリエンスを規定する因子の
解明』
中村 由嘉子(名古屋大学大学院医学系研究科研究員)
『信頼関係の形成が場面緘黙児のコミュニケーション行動の
促進に与える影響の検討』
『介護者が求める介護者支援―「介護者の会」による支援に
着目して―』
尹 一喜(東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科博士後期課程)
『中等度~重度認知症高齢者に対する“認知症ケアメソッド:
Humanitude”の導入効果』
伊東 美緒(( 独 ) 東京都健康長寿医療センター研究所研究員)
高木 潤野(長野大学社会福祉学部講師)
『認知症夫婦の QOL の向上と介護負担の軽減を目的とした
カップルライフストーリー』
『Family Ties and Its Impacts in Later Life in Thailand』
Dararatt ANANTANASUWONG(National Institute of
Development Administration, Director)
坪山 芳栄(慶成会老年学研究所研究員)
『学校における修復的アプローチ実践に関する研究』
入海 英里子( ( 特非 ) 日本スクールソーシャルワーク協会会員)
『聴力改善手術が高齢難聴患者の認知機能・意欲・社会性に
及ぼす影響』
太田 有美(大阪大学大学院医学系研究科助教)
③ コミュニティの役割
『被災地における出生障害母子相互ストレス耐性と福祉支援
による社会づくり』
有馬 隆博(東北大学大学院医学系研究科教授)
『リビングウィル作成とその意義に関する研究を目的とした
老い支度教室の開催』
藤本 啓子(特定医療法人神戸健康共和会東神戸病院 ホスピス
電話相談担当)
『被災高齢者の現状と課題に関する国際比較研究』
大谷 順子(大阪大学大学院人間科学研究科准教授)
『地域を超えて助け合う新しいコミュニティの創発―震災復
興支援の促進要因分析から―』
谷口 守(筑波大学システム情報系教授)
21
『遠隔地から被災地母子支援施設への継続した支援方法とし
て IT 活用による支援体制の構築』
大槻 優子(つくば国際大学医療保健学部教授)
『在日コリアン高齢者の人間関係構造が社会参加志向性に与
える影響に関する研究』
李 暻娥(横浜国立大学大学院環境情報学府博士後期課程)
『高齢視覚障害者の孤独とその適応過程―理論モデルの構築
と心理的支援の提案―』
豊島 彩(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)
『多様な社会背景における被災コミュニティの復興課題に関
する研究―バングラデシュを事例として―』
日下部 尚徳(文京学院大学人間学部助教)
August Issue 2014 NO.
21
助成
特定活動助成 「東日本大震災支援プログラム」
こころのケアのための“傾聴ボランティア”を応援します
2013 年 助成採択団体一覧
新規採択
『被災地における心の復興支援 ~継続はチカラなり~』
特定非営利活動法人 ほほえみの会
『気仙沼市鹿折地区における、孤立防止のための傾聴活動』
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター
『足湯・傾聴ボランティア』
継続採択(2 年目)
キャンドル
『あおばサポートお茶のみサロン
(みなし仮設入居者に対する傾聴活動・居場所作り)』
『東日本大震災被災者支援傾聴ボランティアの派遣事業』
特定非営利活動法人 仙台傾聴の会
地域生活支援 あおばサポート
『東日本大震災岩手県沿岸被災地傾聴ボランティア活動』
『亘理いちごっこお話聞き隊(傾聴)活動』
傾聴ボランティア もりおか
特定非営利活動法人 亘理いちごっこ
『傾聴ボランティア「すまいる」』
『福島県民避難者支援活動』
傾聴ボランティア「すまいる」
大分県生活学校運動推進協議会
『南三陸町平成の森および歌津館浜仮設住宅への傾聴ボラン
ティア活動』
『福島県民避難者支援活動』
特定非営利活動法人 鶴岡災害ボランティアネットワーク
那須塩原市生活学校
【特定活動助成要項】
【研究助成要項】
●助成期間:1 年間
●助成金額:原則として 100 万円を上限とする(内容およ
び規模により査定)
●申請資格:(1) 大学、研究機関、教育機関等において研究
教育活動に従事されている方
(2) 大学院修士課程または博士前期課程に在籍
される方、ならびに修了された方、またはそれ
と同等以上の資格もしくは能力を有する方
●選考方法:当財団の選考委員会および理事会により決定
年1回発行する研究助成報告書(CD-ROM)
公益財団法人ユニベール財団
●助成期間:最長 3 年間(継続助成は経過報告を重視して
決定)
●助成金額:原則として年 50 万円を上限とする(内容お
よび規模により査定)
●申請資格:(1) 被災地でこころのケアのための“傾聴
ボランティア”として活動をしている
団体
(2) 被災地から県外に避難を余儀なくされた
方々を対象に、こころのケアのための
“傾聴ボランティア”として活動をして
いる団体
(3) 上記の団体のうち次の条件を満たした団体
ⅰ)応募に際して、地元社会福祉協議会の
推薦を得ること。
ⅱ)団体として、既に一年以上の活動実績
があること。
●選考方法:当財団の選考委員会および理事会により決定
〒 160-0004 東京都新宿区四谷 2-14-8 YPC ビル Tel.03-3350-9002 Fax.03-3350-9008
E-mail:[email protected] http://www.univers.or.jp/
ユニベールボランティア東京事務所 上記 公益財団法人ユニベール財団事務局内(Tel.03-3350-9004)
22
ユニベールボランティア神戸事務所 〒 651-0056 兵庫県神戸市中央区熊内町 5-8-19 (Tel.078-221-5901)
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