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犬飼育者の滞留地環境に関する研究

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犬飼育者の滞留地環境に関する研究
犬飼育者の滞留地環境に関する研究
金、目的別に分類することで対象とする滞留地を表2の4種
類に分別した。本論文では、犬飼育者のための空地環境を考
察するため、特に徒歩圏内空地と徒歩圏外空地の2種類の空
地に着目した分析を行う。
<表2 対象とする滞留地>
対象とする滞留地の種類
対象とする場所
本研究での対象地
A study on dog keepers' haunts
田園調布せせらぎ公園
徒歩圏内空地
徒歩圏内にある公園、無料ドッグランなど
多摩川河川敷
その他の多摩川駅周辺の空地
05_10936 坂村圭 Kei Sakamura
指導教員 中井検裕 Advisor Norihiro Nakai
1
はじめに
近年犬飼育者数は増加傾向1)にあり、都市居住者にとって
犬をはじめとしたペットの存在が大きくなりはじめた。この
ため犬飼育は都市環境を創造する上で無視することのできな
い一要素となりつつある。現在、犬飼育者の滞留地は空地、
商業施設、公共広場など都市のいたるところに存在し、都市
と犬飼育者との主要な接点となっている。滞留地は地域交
流、休息、犬の運動などの様々な要求を満たす場所である一
方、非飼育者への影響も強い場となっている。よって、良好
な滞留地環境を考察することは、都市内における飼育環境を
向上させるだけでなく、不適切な犬飼育をなくし、近隣住民
とのトラブルの減少を促すものになると考えられる。
そこで、本研究では都市内における犬飼育者のための適切
な滞留地環境を明らかにすること、具体的には公園などの空
地における滞留環境に着目し、犬飼育者を考慮した環境整備
を考察することを目的とする。既往研究では、都立公園のド
ッグラン整備に関する分析2)があるものの、特定地区の空地
も含めた犬飼育者から形成される滞留地全般に着目した論文
は存在しない。
2 犬飼育率の推移と犬関連施設の分布状況
2-1 東京都内の犬飼育者数の推移
東京都によると、都内の犬の推定個体数は65万頭以上と
算出されている。また、2006年における非飼育者のうち
約67%が犬を飼育したいと考えており3)、今後も犬飼育者
は増加していくと考えられる。
2-2 東京都内の犬関連施設の分布
2008年までの東京都内の犬関連施設として、ドッグカ
フェは140ヵ所、ペットショップは1000ヵ所以上経営
されており4)、犬飼育率の増加が犬関連施設の設置数を上昇
させていることが伺える。一方、ドッグランは都立公園に9
ヵ所、海上公園に3ヵ所、市営、区営をあわせると19ヵ所、
民営をあわせても32ヵ所しか存在しない。また、公園内犬
散歩が禁止されている区は未だ10区存在しており、空地環
境は整っていないといえる。
3 犬飼育者が形成する滞留地の種別
3-1 滞留地に対する規制制度
現在国が定める犬飼育に関する法律としては動物愛護管理
法が挙げられ、犬の飼養及び保管に関する基準が定められて
いる。しかし、ドッグランなどの個別に制定されているもの
を除き、一般の公園を含めた空地内の犬の運動場所や集合場
所に関する規定はなされていないのが現状である。
3-2
滞留地の種類と対象滞留地
調査1として滞留地の種類を調査し、対象とする滞留地を
選定するため田園調布、自由が丘、洗足池において犬散歩者
に対して滞留地の有無と滞留理由に関するヒアリング調査を
実施した。調査1の概要は表1のようである。
<表1 調査1の概要>
日時
対象
多摩川、洗足など
調査1 2008年11月
の犬飼育者
方法
ヒアリング調査
実施数:46件
徒歩圏内犬有料施設
滞留行動の把握
駒沢公園ドッグラン
徒歩圏外空地
徒歩圏外にある公園、無料ドッグランなど
徒歩圏外犬有料施設
徒歩圏外にあるドッグカフェ、犬トリミング施設など
その他の多摩川駅周辺にない空地
-
3-3 多摩川駅周辺の犬飼育環境
3-3-1 対象地の選定
調査2として、多摩川駅周辺に居住する犬飼育者を対象に
アンケートを実施した。調査2の概要は表3のようである。
<表3
日時
調査2 2009年1月
対象
多摩川駅周辺
の犬飼育者
方法
アンケート調査
回収率:23%(39/168)
配布方法
手渡し配布、
動物病院等への留置
調査2の概要>
目的
滞留行動の把握
犬共生空間と犬飼育数に乖離が顕著にみられる都市部にお
いての事例を観察し、その特徴を解明することを目的として
いるため、図1のように一連の犬関連施設をそなえ、また東
京都市部において滞留地発生のための十分な空地を有し、自
然発生的な犬滞留地が複数存在する多摩川駅周辺を対象地域
とした。
3-3-2 多摩川駅周辺の徒歩圏内滞留地
調査1と調査2の結果か
ら多摩川駅周辺の徒歩圏内
滞留地としての利用が図1
に見られる場所において観
察された。滞留地の内訳とし
ては、公園が4ヵ所、ドッグ
カフェが1ヵ所、トリミング
施設やペットホテルが併設
されている動物病院が6ヵ
所、ペットショップが4ヵ所
であった。対象地からみた徒
歩圏外滞留地としては駒沢
公園、代々木公園などが挙げられる。
<図1
多摩川駅周辺の滞留地>
4 滞留地の利用実態
4-1 散歩行動と滞留地の関係
4-1-1 滞留地が散歩に与える影響
個々の飼育者が有する滞留 <表4 日常散歩と滞留地の関係(N=32)>
地が散歩コース決定にどのよ 滞留地を訪れるために散歩コースを変更 10
15
うな影響を与えているかをま 散歩コース上に滞留地をつくった
とめた結果が表4である。表4 そのような影響を全く受けていない
4
より8割近くの飼育者が滞留 その他
3
地に影響を受けていることが
分かる。また、飼育者一人当たりの日常散歩時の滞留時間を
算出してみると31分となった。飼育率の上昇を考慮すると
滞留地が非飼育者へ与える影響も大きいことが分かる。
4-1-2 散歩行動と利用滞留地の関係
犬散歩行動は日常的なものと、滞留者の有無や祝休日に行
う特別なコースを選択するものに大別される。調査2の結
果、特別な散歩では利用滞留地が表5にみられるように徒歩
圏外へと変化していた。散歩の種類により利用滞留地に変化
がみられるため、次節以降散歩の種類をこの2種類に分類し
た上で考察をしていく。
<表5
目的
調査1によって明らかになった滞留地を、地縁的なつなが
りの有無から徒歩圏内と徒歩圏外に大きく分け、さらに料
徒歩圏内にあるドッグカフェ、犬トリミング施設など
徒歩圏内大空地
散歩行動と利用滞留地の関係(N=39,複数回答可)>
徒歩圏外大空地 徒歩圏内犬有料施設 徒歩圏外犬有料施設
日常散歩
34
5
0
0
特別な散歩
15
21
9
5
4-2
日常散歩時の利用滞留地
滞留者の分類と利用滞留地について散歩行動別にまとめた
のが表6である。ここでは滞留行動を分析するにあたり、調
査2の日常的な散歩時の利用目的に着目して、知人との会話
を一つの目的としている会話型と、滞留地を散歩コースの通
過点とし、主に散歩時の犬の運動を兼ねた一時休息地として
利用している通過型の2種類に分類している。
日常散歩において会話型の滞留者は、田園調布せせらぎ公
園と多摩川河川敷にのみ滞留し、通過型の滞留者は、多摩川
近辺の空地に広い範囲で滞留していた。
<表6
滞留者の行動と利用滞留地の関係(N=39,複数回答可)>
会話型(N=16)
通過型(N=15)
滞留なし(N=8)
日常散歩 特別な散歩 日常散歩 特別な散歩 特別な散歩
多摩川
駅周辺
多摩川
駅周辺
以外
せせらぎ公園
7(41%)
2(8%)
5(25%)
3(20%)
0(0%)
多摩川河川敷
8(47%)
1(4%)
8(40%)
0(0%)
1(9%)
その他の空地
0(0%)
2(8%)
4(20%)
4(27%)
2(18%)
犬関連有料施設
0(0%)
6(25%)
0(0%)
2(13%)
1(9%)
駒沢ドッグラン
1(6%)
5(21%)
1(5%)
3(20%)
3(27%)
その他の空地
1(6%)
5(21%)
2(10%)
3(20%)
2(18%)
犬関連有料施設
0(0%)
3(13%)
0(0%)
0(0%)
2(18%)
者と会話型の滞留者の滞留地選択要因に差があまりみられ
ず、フェンスや複数人数で使える空間といった長期間滞留で
きる環境に加え、散歩時の路面環境や周辺設備を選択要因と
してあげていた。これは特別な散歩時には整備された環境に
おいて滞留をしている結果のあらわれだと考えられる。
<表8
水飲み場
トイレ
路面状況
管理人
フェンス有
フェンス無
広さ
日影
日向
会話型(N=14)
12
8
7
9
1
7
1
6
7
9
通過型(N=13)
4
5
4
4
4
5
0
5
5
6
滞留無(N=8)
5
7
2
8
2
2
2
3
5
6
4-3―2 滞留地選択要因と外部施設の関係
特別な散歩時には徒歩圏外への滞留の移動に加え、滞留に
伴う飲食店や犬関連施設の同時利用頻度も増加している。こ
の関連を考察するため、特に特別な散歩時に利用のあった駒
沢公園ドッグラン近辺と多摩川地区との地区レベルでの外部
施設の比較を行った。多摩川駅付近の犬関連施設は、空地と
は別に駅前と住居地区に点在していたが、駒沢近辺は駒沢ド
ッグランを中心に犬関連施設が連なっていた。犬飼育者の今
後の滞留地への要望として、外部利用施設の充実があげられ
ていることから、地区として滞留地環境が連携していること
が滞留地選択要因の一因となっていると考えられる。
5 施設管理者の滞留地に対する考えとの乖離
5-1 今後の滞留地環境への犬飼育者の要望
4-2-1 日常散歩時の滞留地選択要因
日常散歩の滞留地選択要因を滞留者の分類に従ってまとめ
た結果が表7である。回答は複数回答可とし、滞留地選択要
因は、ヒアリング調査と滞留行動に関する既存論文5)より、
犬散歩時の滞留に関係する要素を抽出することで形成した。
会話型の滞留者は、フェンスの設置や複数人数で使える空間
を滞留地選択要因としてあげていることが特徴的であった。
これは、仕切られた空間に複数の滞留者が犬と長期間滞留で
きる空地が必要なためだと思われる。
一方、通過型の滞留者は水飲み場などの周辺装置や日照状
況などを高い割合で滞留地選択要因としてあげていた。これ
は、散歩コース中の良好空間として滞留地を認識している事
が起因していると思われる。 <表7 日常散歩における滞留地選択要因>
ベンチ
水飲み場
トイレ
路面状況
管理人
フェンス有
フェンス無
広さ
日影
日向
会話型(N=16)
7
6
6
11
3
11
0
12
5
9
通過型(N=17)
3
8
3
7
2
5
2
6
2
6
4-2-2 滞留地選択要因と公園内設備の関係
会話型の滞留地の利用状況の違いと空地内設備に関連があ
るかを考察するため各空地内設備の比較をおこなった。図2
は滞留のみられたせせらぎ公園、図3は滞留のみられなかっ
た宝来公園の平面図である。会話型の滞留地の利用状況から
長期滞留ができる設備が備わっているかに着目した比較を行
ったところ、複数人数で使えるフェンスなどで区切られた広
場の存在に空地内設備の違いが顕著にみられた。また、同一
方向へ複数の動線が存在し、一般利用者の動線からはずれた
広場において滞留が行われる傾向にあった。
多摩地区の犬飼育者は現在の空地内での滞留の継続に加
え、公園内への新たな滞留地の <表9 今後の滞留地環境への要望(N=39)>
今のままでよい
11
設置を望んでいる。これは滞留
ドッグランのみの利用が良い
4
地への近接性と、無料化を望む
公園内に施設を設けるのが良い
16
結果からも伺える。また滞留行
動に対しては肯定的な意見が多 他の施設を新たに設置するのが良い 4
0
く、今後も滞留行為はなくなら このような施設はまったくいらない
その他
3
ないと考えられる。
5-2 公園内滞留地に対する空地管理者の考え
調査3として、今回対象とした空地を管理している各主体
に対してヒアリング調査を実施した。大田区まちづくり整備
局からは、多摩川地区の区立公園への滞留環境の整備は、他
の利用者との兼ね合いから考えていないということが分かっ
た。また東京都建設局からは、現在のドッグラン設置が住民
発意のもとで条件に照らし合わせるという経緯をたどり、他
の主体との連携を図るまでには至っていないということが分
かった。これより、現状のままでは広範にわたって都民の犬
滞留地環境を整備することは難しく、特に会話型のための長
期滞在できる空地環境は今後一層不足していくと推測され
る。
このような飼育者の要望と管理者の滞留に対する考えの乖
離をふまえると、今後は飼育者にとっての滞留地の重要性を
非飼育者へ伝え、近隣住民の理解を得ていくことが滞留環境
整備に欠かせないと思われた。また、滞留者の利用行動の特
徴を正確に把握し、ドッグラン以外に既存の空地へ簡易に併
設できる滞留環境を創造していかなければならないだろう。
6
<図2
4-3
せせらぎ公園平面図>
<図3
特別な散歩における滞留地選択要因>
ベンチ
宝来公園平面図>
特別な散歩時の利用滞留地
表6より特別な散歩時の滞留地は、日常散歩において滞留
しない飼育者も含め、多摩川近辺から離れ、また犬有料施設
を利用する割合が上昇したのが分かる。
4-3-1 特別な散歩時の滞留地選択要因
特別な散歩の滞留地選択要因を滞留者の分類に従ってまと
めた結果が表8である。特別な散歩においては通過型の滞留
結論と今後の課題
本研究の結論は以下の3点である。
1)散歩行動に着目すると、特別な散歩時と日常散歩において
滞留場所に変化があり、また望む設備も変化している。
2)滞留者の利用行動に着目した際、会話を目的とした滞留行
動が生まれやすい空地とそうではない空地が存在する。
3)犬飼育者の望む滞留地の条件と管理者の考えには乖離が存
在し、現在のままでは滞留環境の整備はなされない。
本研究では、多摩地区の犬飼育者のみの意向を調査した
が、他地域や近隣住民の意向調査も行っていく必要がある。
【参考文献】
1)東京都福祉保健局
動物取扱数の推移
する選択モデル分析」 日本都市計画学会
ト
全国のペットショップ
礎的研究」日本建築学会
2)吉田謙太郎 (2008) 「都市公園におけるドッグラン整備に関
3)ペットフード工業会
ペットに関する統計資料
4)goo ペッ
5)坂井猛(2006)「オープンスペースにおける着座滞留と空間構成に関する基
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