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感染症流行予測調査について
感染症流行予測調査について −インフルエンザ抗体保有状況調査から− 新潟県保健環境科学研究所 ウイルス科 主任研究員 田澤 崇 1 100% 抗体保有率 94% 93% 2009年 2010年 83% 80% 59% 60% 49% 47% 42% 40% 36% 36% 28% 20% 0% 0% 0% 0-4 20% 17% 14% 10% 3% 0% 5-9 10-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60- 年齢区分 A/H1 新型の抗体保有率 図1 の抗体保有率は全体で平均 11%と低い結果で したが、2009 年の新型インフルエンザの流行 後、2010 年では、すべての年齢群で保有率が 上昇し、平均 59%となりました。特に 0∼19 歳では平均 82%と上昇が目立ちました。新型 インフルエンザがこの年齢群で流行した結果、 抗体保有率が著しく上昇したと考えられます。 97% 100% 78%76% 80% 抗体保有率 はじめに 感染症流行予測調査事業は、厚生労働省 (以下、厚労省)が実施主体となり、都道府 県と地方衛生研究所ならびに国立感染症研究 所が協力して、定期予防接種対象疾患につい て各種疫学調査を行う事業です。 その中の対象疾患の一つであるインフルエ ンザは、初冬から春先にかけて流行し、毎年、 少しずつ変異しながら感染を繰り返す呼吸器 感染症で、罹患すると肺炎や脳症などの合併 症により、死亡例も散見されることがありま す。しかし、ワクチン接種により感染予防や 症状の軽減が期待できることから、65 歳以上 の高齢者、基礎疾患により重症化しやすい人、 医療従事者などは、特にワクチン接種が勧め られています。 このインフルエンザについては、毎年、本 格的な流行が始まる前に、国民の免疫状況を 把握する目的で、インフルエンザに対する抗 体保有状況調査が行われています。その結果 はワクチン接種等の注意喚起や、その年の流 行状況の推測に役立てられています。 2 抗体保有調査について 調査は毎年 6 月∼9 月に県内の小児科医療機 関と県職員の職場検診で協力を呼びかけ、本 人または保護者から同意を得て採取した血液 検体を用いています。2009 年は 420 検体、 2010 年は 456 検体を調査しました。検査方法 は厚労省感染症流行予測調査事業検査術式に 準じて、その年のインフルエンザワクチン株 と同じ株を測定用抗原として用い、赤血球凝 集抑制試験で行います。そして、血液中のイ ンフルエンザウイルスに対する抗体を測定し、 抗体価 40 倍以上を抗体保有とし、40 倍未満 の場合は抗体なしと評価します。そして年齢 を 0 歳から 60 歳以上の 9 つの群に分け、その 保有率を集計します。 3 調査結果について 今回は 2009 年と 2010 年の調査結果から A 型インフルエンザの抗体保有率について説明 します。 図 1 は新型インフルエンザに対する抗体保 有率を示したものです。2009 年では各年齢群 80% 2009年(ウルグアイ株) 85% 2010年(ビクトリア株) 76% 68% 65% 60% 56% 62% 60% 45% 40% 35% 30% 26% 23% 20% 25% 19% 0% 0-4 5-9 10-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60- 年齢区分 図2 A/H3 香港型の抗体保有率 図 2 は A 香港型に対する抗体保有率を示し たものです。2009 年はウルグアイ株、2010 年はビクトリアという、同じ A 香港型でも抗 原性の違う株を用いて測定を行っています。 ウルグアイ株を用いた 2009 年の結果よりも、 ビクトリア株を用いた 2010 年の結果の方が、 抗体保有率が高くなっており、この株の分離 状況を考え合わせると、流行株は、ウルグア イ株からビクトリア株に変わったと推測でき ます。このように、抗体保有率を調べること で、流行状況を推測でき感染の予防対策など に役立てることができます。 はじめに 感染症流行予測調査とは 実施主体:厚生労働省 感染症の流行予測調査について ・都道府県 都道府県 ・地方衛生研究所 ・国立感染症研究所 ‐ インフルエンザ抗体保有状況調査の結果から‐ 保健環境科学研究所 主任研究員 田澤 崇 定期予防接種対象疾患について 各種疫学調査を行う事業 調査の概要 定期予防接種対象疾患とは 予防接種法により接種が定められているもの ・ポリオ ・日本脳炎 ・風疹 ・インフルエンザ ・麻疹 ・百日咳 ・ジフテリア ・破傷風 計8疾患 調査結果 各地方衛生研究所 ・感受性調査 国民の免疫状態を把握するため 血液中の抗体を測定し、病原体に 対する抵抗力を調 る 対する抵抗力を調べる ・対 象:0歳以上の男女 ・年齢を9つの群に分け、抗体保有率を 分析 インフルエンザ抗体保有調査の流れ 非流行期 6月∼10月 国立感染症研究所 集計・分析 厚生労働省 予防接種の効果的な運用 疾病の流行を予測 調査期間 流行期 11月∼12月 12月下旬∼3月 注意喚起 ・その年のワクチンと同じタイプ のウイルスを抗原として用い 抗体価を測定 ・年齢群で抗体の保有状況を分析 感染拡大防止や 重症化の抑制 インフルエンザ ・初冬から春先にかけて流行する感染症 ・罹患すると、のどの痛みなどの上気道炎を起こす インフル ンザ インフルエンザ ・高熱や関節痛などの強い全身症状を起こす 高熱や関節痛などの強い全身症状を起こす ・高齢者では肺炎、小児では脳症などを 併発し死亡例もある ・毎年、国民の約5%(600万人)程度が かかると言われている インフルエンザウイルスの型 A型インフルエンザウイルス 亜 型 A型 A型 インフルエンザウイルス B型 インフルエンザの抗原性 H1 ソ連型 H1 新 型(2009年∼) H3 香港型 予防接種のしくみ NA (ノイラミニダーゼ) 抗原性が異なる 広島/05 ウルグアイ/07 ウルク アイ/07 株 株 HA (ヘマグルチニン) ウルグアイ/07 例) A/H3 香港型 ビクトリア/09 ビクトリア/09 株 抗 体 (ウルグアイ) 測定に用いたウイルス株(抗原) 亜型 型 インフルエンザ抗体保有調査 ソ連型 2009年 2010年 A/ブリスベン/07 株 − H1 A型 新 型 A/カリフォルニア/09 株 H3 香港型 A/ウルグアイ/07 株 A/ビクトリア/09 株 − B/ブリスベン/08 株 B/ブリスベン/08 株 B型 A/H1 新型の抗体保有率 (40倍以上) インフルエンザ抗体価の評価 100% 感染予防が期待できない 抗体なし 40倍以上 抗体あり 感染予防や症状の軽減 が期待できる。 感染を十分防御できる 抗体保有率 67% 平均40% 40% 34% 27% 34% 平均10% 13% 0% 2009年 2009年 2010年 2010年 8% 2010年 49% 47% 42% 36% 36% 40% 平均40% 20% 0% 0-4 0% 5-9 14% 28% 20% 17% 3% 0% 10-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60- 年齢区分 A/H1 新型の調査結果 0-4 5-9 10-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60歳以上 80% 20% 平均82% 10% 100% 40% 2009年 59% 60% A/H1 新型の抗体保有率 (160倍以上) 60% 94% 80% 0% 160倍以上 93% 83% 抗体保有率 40倍未満 A/カリフォルニア/09 株 ・新型に対する抗体保有率は、2009年 に比べ2010年は大幅に上昇 ・0∼19歳までの年齢群では、抗体保有率 は は82%と高く、20歳以上では40% と高く 歳以上では % ・抗体価160倍以上の抗体保有率は 0∼29歳の年齢群で約40% 3% ・30歳以上の年齢群では10%と低い A/H3 香港型について 100% 85% 78%76% 80% 80% 抗体保有率 2009年 ウルグアイ株:2008年∼2009年まで のワクチン株 A/H3 香港型の抗体保有率 (40倍以上) 97% 2009年(ウルグアイ株) 2010年(ビクトリア株) 76% 68% 65% 60% 抗原性が異なる 45% 40% 2010年 ビクトリア株:2010年のワクチン株 ワクチン接種は11月∼ 62% 60% 56% 35% 26% 23% 20% 0% 0-4 0‐4 5-9 5‐9 30% 25% 10-14 15‐19 15-19 20‐29 20-29 30‐39 30-39 40‐49 40-49 10‐14 19% 50-59 6050‐59 60‐ 年齢区分 県内のA/H3 香港型の分離状況 20 ウルグアイ株 ビクトリア株 15 分 離 10 数 ビクトリア株が流行 5 0 11 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2009年 A/ H3 香港型の調査結果 ・2010年のビクトリア株の抗体保有率 は高い ・県内では、2009年2月以降ヒ 県内では 2009年2月以降ビクトリア クトリア 株が分離され、流行株がウルグアイ株 からビクトリア株に変わった ・全国での流行もビクトリア株 2010年 県内の流行状況 ま と め ・抗体保有状況を調べることで 年齢群での感染状況を推察 ・ワクチン接種の推奨等に役立ち、 感染予防に貢献 ・定点報告数 35.47 ・ウイルスの分離状況 (2011年第1週∼2011年第5週:2月9日更新) ・A/H1新型 76 ・A/H3香港型 19 ・B型 2